魔法科高校の転生者   作:南津

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1.2 彩花の……才能?

 新入生代表の司波(しば)深雪(みゆき)の答辞が終わった。

 伊月が一応想定していた、転生者の主席入学等という展開はなかったようだ。

 実技において、鍛錬を怠っていなければ、転生者の才能は一般魔法師の数段上だと考えられる。実技試験で下手な数値を出すことのほうが難しい程に。

 流石に、筆記試験は勉強するしかないが、一科二科を分ける最大の要因は実技試験によるものだ。そして、一科の中で総合的に最優の者が、主席として選ばれる。

 伊月自身はこの一五年で、この世界の現状というものを知ってしまった。未だに簡単に戦争が起こり、中学時代には日本への侵攻もあった。

 アメリカも他国も、優秀な魔法師の情報は収集しており、身を守る術がなければ殺されたり、連れ去られて人体実験も行われる可能性がある世界だと知った。

 それに、転生者が他にいるという点でも、厄介事に発展する可能性がある。この手(転生)の話ではよく描かれる話だ。他の転生者の立場が分からない以上、伊月は主席入学という面倒なことは避けたかった。

 何も考えていないか、力を誇示したいような転生者がいなかった事に、伊月は一応の安堵をおぼえた。他の事を考えている可能性もあるが、厄介事に巻き込まれるのは願い下げだった。

 日本の十師族等ならともかく、会社を経営している程度の一般人では国家組織等に対抗することは出来ない。あくまで、魔法師としては超一流だが、特別な価値は無いと思われる事が最優となる。

 伊月が身を、家族を守るためには、他所の興味を惹く特異性を極力表に出さない事が大切である。

 彩花は転生特典として魔法師の才能を得ているが、魔法師で一般人に輿入れした母親の才能を引き継ぎ、特典で強化をされた程度。伊月を含めた残りの転生者は魔法師としての才能は格別だろう。

 中でも時間干渉魔法等といった才能を得た伊月や、固有魔法として自己修復術式を得た転生者は特に目立つ。

 母親の血統で過去、時間干渉魔法を扱ったという記録が残されており、調べるものが調べれば、彼女の血を引いている事に気づかれてしまう。伊月の誕生と同時に母親は死亡し、伊月がこの血統の最後の一人ということになっている。

 記録に残らない母親のもの程度なら興味を引く程度で済むが、今の伊月の魔法では何処かが手に入れようと考えてもおかしくはない。

 自身と周りの者を守る為には出し惜しみなどしないが、何時も一人で守れるものはたかが知れている。手の届かないものの方が多い。

 現状で、伊月の時間干渉魔法を知る者は居ない。伊月の実母も、時間干渉魔法を宿す血を引く者だということを父親にすら教えていなかった。彼女も、この魔法の特異性を危険と判断していたのだろう。

 特異なものは特異なものを引き寄せる。この世界の危険性を知りながら他国の引くのはどう考えても悪手でしかない。

 彩花以外の転生者は、原作すべてを読んだのなら、流石にこの世界の危険性を認識しているのだろうと思いながら、挨拶を終え、壇上から去る司波妹を見送る。

 周囲の男たちの視線に熱いものを感じ、さすがは原作ヒロインだな、等と考えていると、すぐ横から小さなつぶやきを感じた。

「……どうした?」

 となりには司波深雪を眺める彩花の姿があった。

「司波さん美人だね……天は二物を与えたって感じだよね」

「そうだな。彩花とは系統が違う美人だな。彩花も負けていないが」

 彩花も、(神様)に才能を与えられているので、字面通り正しく、天に二物を与えられている。

「そ、そうですか」

 実際伊月の目から贔屓目抜きにして見ても、彩花の容姿は司波妹にも引けを取らない。伊月自身の容姿も目が若干鋭い事以外比較的整っており(周囲から見れば非常に整っている)、これも転生者特典なのか等と考えたこともある。

 本当は、過去のアイデンティティを失ったため生前の姿は思い出せないため伊月自身は気づかないが、姿は違えども伊月は生前も似たような雰囲気を持った人間だった。

 伊月の父親は伊月に似た整った容姿の渋い中年で、将来の姿も容易に想像できる。彩花も彼女の母親によく似ている。

 精神の影響か、同年代の少女たちより遥かに落ち着いた雰囲気を持っている。落ち着いているのは雰囲気だけだったが、伊月も彼女の雰囲気を好んでいるし、性格にも好感を持っている。

 他の転生者も一人は銀髪のイケメンが確定しており、もう一人も整った容姿をしている可能性は高い。

(そういえば、銀髪を見かけてないな……)

 会場に入った時は見かけなかったので、後から来たのか第一高校に入学していないのかわからないが、伊月の見える範囲に銀髪の生徒は見当たらない。

 座席も講堂の中程より少し前あたりのため、一科生の多い前側の席に座っていないことから、後ろに座っているのか、とあたりを付ける。態々二科生として入学するとも思えないので、思考の隅から銀髪を追い出す。

 もうひとりの転生者の容姿は全く分かっていないのが、解析眼でサイオンを確認すればある程度特定は可能だろうと考え、こちらも思考から外す。

 入学式の終了と共に人垣の移動が始まる。

「次はIDカードの交付だよね」

 IDの交付を行う窓口には、直ぐに人の列が生まれた。彩花と共に比較的すいている窓口に向かうと、個人認証後にカードが渡された。

「伊月ちゃんは何組だった?」

「ん? D組だな」

「私はA組だった。残念……」

 彩花はA組、伊月はD組に配属された。この学校は一クラス二十五人の八クラス。一科二科がA組からD組と、E組からH組で分かれている。

 少し落ち込んだ表情を見せた彩花の頭に手を置く。艶やかな髪の感触が手のひらに伝わり心地良い。

「仕方ない。とりあえず今日はこれで終わりだが、どうする?」

「まだお昼には早いし、少し学校内を見てみたいかな」

「ホームルームに行くか?」

 A組とD組でホームも違うが、離れているというほどでもない。明日から通うのだから位置ぐらいは確認しておくのも良いだろう。

「そうだね。それから練習場や実験棟に部活の施設かな? 伊月ちゃんは弓道部に入るの?」

 伊月は中学校では弓道部に所属していた。伊月にとって精神統一という面で小学校の頃から道場に通っていたが、中学では弓道場が使えたので、弓道部に所属していた。

 並列思考と思考の高速化が出来る伊月は、弓道をしている間だけは思考を澄ませ、唯、弓を引くと言う行為を行っていた。更に、解析眼という大量の情報を取り入れる眼も持つため、精神統一を行うことは大変困難な事だった。

 中学の頃にようやく形になり、今では精神も思考も自由に整え、扱うことが出来る。

「弓道はたまに道場に通うから、部活としてはやらなくて良いかと思っているが」

「でも勧誘が来るんじゃないかな? 大会の優勝経験者だし」

(前世)からやっていたからな。魔法科高校だし、一般の部活に掛かり切りになるのも考えものだ。卒業までに学校の図書館の書籍を全部読む予定だし、端末内の資料も見てみたいからな」

「あ、私も図書館は興味あるね。今日は開いてないだろうけど」

 彩花は前世からよく本を読み、この世界に来てからも暇さえあれば本を読むか魔法の練習をするかに分かれている。伊月は読書が趣味というより、IT会社に勤めていたこともあり、情報技術関連、魔法技術関連、特にCAD等の魔法機器に対して、貪欲に知識を吸収する。この世界は、情報系の犯罪は重罪になることもあり、情報系の技術も発展し、そちらの分野についても広く知識を集めている。また、前世同様、入ってくる情報を整理して、株などで小遣いを稼いでいたりもする。

「ん?」

「どうかしたの?」

 ホームルームの位置を確認して、校舎内を移動していると、視界に銀色の何かが映った気がして目を向けるが、人垣の中で埋もれて確認することができなかった。

「なんでもない。ここからだと……次は実験棟か?」

 情報端末に保存している校舎の見取り図を確認しながら構内を歩く。

「実験棟はあそこらしいけど……今日は解放されてないかな。位置は確認したし練習場をいくつか確認したらお昼食べに行こっか」

「そうだな。このあたりはあまり来なかったし、気になる店を探してみるのも良いかもな」

「それなら既にいくつか見当をつけてるよ。ケーキ屋でしょ、喫茶店にレストラン、ファミレスにカフェテリアにケーキ屋」

「彩花、ケーキ好きだよな」

「女の子はみんな好きなはずだよ。それに、神様にもらった健康な身体のおかげか、全然太らないし」

「女の敵だな」

「いいんだよ。神様から授かった才能なんだからね。それにちゃんと運動もしてるよ。あと、伊月ちゃんも言ってるでしょ? 『あるものは全て使う。生まれつきの才能も神からの才能も変わらない。生まれつきの才能も、死んで神と会う事ができるのも、本人の運しだいだからな。それに賽子の目も本人の運だっただろ』って。才能を得る確率と神様に会う確率、検証はできないけど低いのは絶対神様の方だよね。そんな神様に会えたんだから、それも一つの才能。もらった才能もおんなじだよね」

「そうだな」

「ということで、この太らない体質は私の才能なのです。伊月ちゃんもそのほうが良いもんね?」

「……そうだな」

「?」

 さらりと答えにくいことを聞く彩花に、伊月の返答に間が空いた。確かに彩花の体型は伊月好みの体型なので特に問題はない。多少違っても彩花という女性を好いているので問題はないのだが、好みの体型というのも、男からすると好ましい事もまた事実である。

 聞いてきた本人は良くわからないといった表情で首を傾げているが。

「……とりあえず、さっさと見て回るか」

「うん!」

 

 ◇◆◇◆◇◆◇




少しづつ原作組に絡んでいくようにしたい。
主人公の活躍の場は出来るだけ達也から奪わないようにしたいけど、違和感なく継ぎ接ぎするのが難しいかも……取らぬ狸のなんたらで、先の心配をしている……

主人公はとりあえずD組へ。オリキャラなども出ますのでご了承を。

伊月の再現した自己修復はあくまで意識的。分解魔法も構造体への直接干渉からアプローチしています。達也のように“分解”に特化した固有魔法を再現しているわけではないです。
転生者の自己修復、分解は固有魔法。自己修復は無意識に発動します。


13/2/3 ルビふり修正

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