《ガールズトーク》
当初予定していた内容を相談し終えた後、伊月を追い出した早苗と彩花。伊月は紗月の相手をしながらリビングで寛いでいることだろう。
「それでは、彩花ちゃん。いえ、彩花さん。詳しく」
「ん、んんっ。えー、
「ということは二十歳でこっちに来たのね。私は二十二だったからほとんど同じってことね」
「うん、そうなるかな。……伊月ちゃんは知ってるんだけど、私ね、前は殆ど病室で過ごしてたんだ」
「そう、なんだ」
その発言を聞いて、早苗の表情が僅かに曇る。
「あ、別にもう昔のことは気にしてないから大丈夫。気にしないで」
「ん、了解」
「それでね、そういうことに興味はあったんだけど、相手もいないし体も余裕がないしで、結局経験もなしでそのままこっちに来ることになったの」
「うん」
「それで、小学校で出会ったのが伊月ちゃん。ていっても、特別何かがあったわけじゃないけど、やっぱり精神年齢が高かったこともあって自然に一緒に話すこととか多かったの」
最初に声を掛けたのは彩花からだった。
女子と男子では女子の方が、早く精神的に成長するらしい。子供らしく騒ぐ男子達の中で一人だけ魔法関連の本を読んでいたりと、子供らしく無い、というのが最初の印象だった。彩花の親も魔法師だったため、魔法について知識はあったが、本格的な練習はまだだった。一般人と魔法師の間の壁も影響していたかもしれない。
「それから、伊月ちゃんのご両親の結婚式、だったかな」
伊月の両親が再婚したのは彩花たちが小学一年生になった直後だった。その一年前くらいから子供を引き合わせたりと、再婚の準備を進めていたらしい。
彩花の母親と柚姫の母親は学生時代の友人だったが、互いに忙しいこともあり、結婚式を機会に会うまで滅多に連絡を取ることもなかった。彩花が柚姫と初めて会ったのもこの時だ。
「それからいろいろあって、付き合って。中学の時にちょっと大変なことがあって、やっぱり好きなんだって思って、将来というか、子供というか、……そういうことを意識しちゃって」
「前世でも体型のせいか、趣味のせいか、そういうことに縁がなかった私は一体……。で、それが卒業式の頃なの?」
早苗の質問に頭を振って否定する。
「ううん。一年生の頃かな。でも伊月ちゃんがまだ早いって」
早熟だった彩花も、流石に小学校を卒業したばかりでは体も出来上がってはいなかった。間近で成長を見てきた伊月も理性が危なかったが、過去に経験がある者としては余裕を出して時期を先送りにした。
それが崩されたのが、中学卒業の時期だった。
「うわ、ロリコンだ」
「その頃には体も出来上がってたから、ロリコンっていうのかな?」
二人の通う中学の若い教師が、歳不相応の色香を醸し出す彩花の魅力にやられたのだ。卒業直前に、卒業してから付き合うように迫った。伊月と付き合っていると断ったのだが、魔法まで使って逃げる羽目になった。
「流石に怖くて、次の日の卒業式は寝不足で。卒業式が終わって両家族でお祝いをしたあと、伊月ちゃんの家に私だけ泊まったの」
「リアルでロリコンはダメね! あれ、その時にコンドーさん用意してあったの?」
「ううん」
「ェ、じゃ、じゃあ、な、ナマ」
「う、うん。初めてはナシがよかったから。それに、伊月ちゃんの子供なら産んでも良いって」
伊月は渋ったが、最終的に時間干渉魔法で精子を処理することを内心で決めて彩花の誘いに乗った。伊月も男なので、本気で迫られれば断れるはずもなかった。
「魔法師は若いうちに子供を産むことが求められてるって言っても、中卒で子供は早すぎよ。学校に通うなら尚更。小鳥遊くんも避妊はちゃんとしないといけないのに……」
「あ、終わったあとで、魔法で何かしてたから、大丈夫だったみたい」
「魔法……。避妊用に魔法なんか組み立ててるの? 小鳥遊くんは」
何系統の魔法なのかしら、と避妊魔法について考える早苗だが、彩花も教えられていないようで答え合わせは出来なかった。
「それから、二人で避妊具を買いに行ったの」
「まって、その前にこの部屋でヤったのよね? 卒業式の夜に」
「え、うん。そうだけど?」
「声はどうしたの!? 隣りって確か柚姫ちゃんの部屋って聞いたんだけど」
「い、伊月ちゃんが移動・振動系統の複合魔法を制御して、声と音が洩れないようにしてくれたみたい」
「セックスしながら魔法制御、だと……」
早苗は伊月の魔法制御能力、構築能力に驚愕した。激しく体を動かすため、酸素を大量に消費する。空気の振動を止めながら、且つ酸素を室内に取り込んで空気の循環を阻害しない。
実際、伊月の魔法の起動式に入力する変数は少なくない。普段用途が決まっている起動式はそこまでではないが、どんな状況にもCADで対処できるよう、変数を設定しておらず、ほぼすべての変数を入力で対応する起動式が各系統、各組み合わせそれぞれに用意されている。
セックス用に魔法を用意している訳もなく、その場で性交時用対室外遮音魔法を組み立てていた。振動伝播率の異なる空気の層と空気の移動を促す層、一系統二種の魔法を幾層にも重ねては張り替えることで、空気の振動を完全には止めずに完全防音を実現した。従って、酸素なども完全には止まることなく確実に循環する。実はこの即席で作り出された性交用魔法、十文字家の代名詞と言われる防御魔法『ファランクス』に通じるものがあるのだが、この場においては些細なことだった。
持続時間の設定も、何時間続くかわからない上、魔法の性質上持続時間には限度がある。短ければ途中で忘れず更新しないと急に声や音が漏れて大変なことになる。
「私も振動系は得意だから何度か挑戦してみたけど、魔法制御から気がそれた瞬間に解けちゃって」
「何無駄に高度な訓練みたいなことやってるのよ……」
◇◆◇◆◇◆◇
《ガールズトーク2》
前世の話題を交えた会話を終えた彩花と早苗に、差し入れを持って上がってきた柚姫が加わり、内容はさらに生々しい話題に突入した。
「で、実際どんな感じなの?」
「ごくっ……」
姉のような幼馴染と、義理とは言えたった一つ違うだけである兄の話題に、柚姫は真剣に食いついていた。兄妹になったとは言え、彩花より先に伊月と出会い、意識し始めたのは柚姫だった。兄と付き合い始めた彩花とは一時期剣呑な空気となっていたが、二人の間で交わされた取り決めごとのおかげで、今では姉妹のような仲になっている。
「伊月ちゃんはね……絶倫っていうやつかもしれない」
「ま、まさか。リアルでそんなことあるわけ……」
彩加の発した感想に、早苗が異論の声を上げた。エロ漫画や小説等ではよくある設定だが、それは創作の話だからだ。小説の中で描かれていた世界にいるとは言え、今がリアルである早苗には到底信じられない事だった。
「だって、そうとしか考えられないんだよ。底が見えないというか、毎回私の負けっているか……」
「うわぁ」
彩花の告白に、柚姫が何故か嬉しそうな、驚いたような、そんな声を上げた。その顔は羞恥に染まっている。
「くそぉ、リア充め。うぅ、私のようなエセロリはコスプレ会場でチヤホヤされる位しか存在価値はないのですね」
「コスチュームプレイ?」
「あぁ、基本的に同じ意味だけどどう考えても違うのは確定的に明らかだわ」
リア充と非リア充の間には超えることのできない壁が存在しているようだった。
「あ、あの。彩花さん、義兄さんはコスプレがすきなのですか?」
と、此処で柚姫が気になったのか、義兄の趣向を聞き出すべく彩花に訪ねた。
「ん~、どうだろ。一度だけ届いたばかりで新品の魔法科高校の制服を二人で着てみて、そのままそういう流れになったけど、他は試してないからわからないや」
「し、新品でやっちゃったんだ」
「そうですか」
「……よし! 彩花ちゃん、コスプレしましょう! 衣装は私が作ってあげる!」
「早苗ちゃん衣装作れるんだ。すごいね!」
「ふふん。だてに三、……長いこと生きてないわ!」
「さん? (……ながい?)」
早苗は自称“軽い”オタクであり、レイヤーだった。発育が宜しくないこともあって、方向性は限定されていたが、毎年夏と冬に行われるイベントに参加していた。イベント参加歴は十年に届くかといったところだが、悲しいことに途中から衣装のサイズが変わることはなかった。
「但し! お願いがあるわ」
「えっと、なにかな?」
「小鳥遊くんにも色々と着せたいのよね……。こう、見てると色々と創作意欲が湧いてくるのよね~。目標は九校戦でコスプレね。小鳥遊くんなら選ばれるでしょうし。男子は殆ど衣装着ることは無いみたいだけど」
九校戦を何年か見てきたが、男子が衣装で着飾って参加していたのは片手で数えられる程だった。種目の関係もあるが、男子が着飾ることに対して、特に熱心なファンが発生しない事も大きい。対して、女子は毎年多くの選手が色とり取りの衣装で参加し、観客を魅了していた。元レイヤーとしては、衣装製作と参加、両方に惹かれる。
「九校戦かぁ。私も出られるかな」
「その時は私が衣装を用意してあげる。ただ、出場競技が決まってからだと間に合わないから、ある程度決め打ちになるけど」
流石にひと月前から用意して、二人分、三人分と完成させる余裕は無い。それに、早苗の成績から、九校戦の選手として選出される可能性も大きかった。少なくとも伊月に二着、彩花に二着、自分用に二着と用意するつもりでいる。競技毎に衣装の方向性が変わるので、種目の選出が一致しなければさらに多くなる可能性もある。
ただ着せることも楽しみの一つなので、無駄にはならないが、早苗としてはできれば大勢にお披露目したいものだ。
「あんまり肌の露出が多い衣装って売ってないから、自分で作らないといけないのよね」
寒冷化の影響等により、二十一世紀初頭よりも肌の露出が少なくなる傾向にあった。素肌は露出しない、という近年一般的となっているマナーの影響もある。
しかし、現状に慣れている女子はともかく早苗としては、肌の露出が少々多くなっても恥ずかしくはない。短いスカートなど本当に今更だ。
「小鳥遊くんも露出の少ない服は物足りないんじゃないかなぁ」
短いスカートやホットパンツなどで女子が足を晒していた時代にいた男としては、今の時代は物足りないんじゃないかと言う早苗。
「どうせ脱ぐんだから一緒じゃないかな?」
「そんなオカルトありえません! 脱がないからこそのエロスがイイのよ!」
「は、ハイっ!」
早苗の剣幕、というかあまりに真剣な顔に、思わず返事をしてしまった。
「って、エラい人は言いました。小鳥遊くんも同意してくれるはずです」
腕を組んで目を瞑り、納得するように首を振る早苗。彼女の中では同意する伊月の姿が見えていた。
「……未経験の私が言うなっていうね」
そして何故かダメージを受ける早苗。前世で凡そ二十二年、今世十五年で述べ三十七年。もうすぐ三十八年の彼氏いない歴を貫く少女(?)にとっては深刻な問題だった。
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次回は10月10日0時予約投稿。
新刊発売だね。やったね。