炎の使い魔   作:ポポンタン

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フーケ編に行きたかったのですが結局寄り道になってしまいました。しかも強引な詰め込みだし。
本当にすいません。
話を進めていきたいのですが…



第8話

「へえ~ってことは相棒の一族には炎の精霊の力が宿ってんのか。それで精霊魔法も使えるってわけかい」

「ああ、ピュルカ族という炎の精霊を守護してきた一族だ。と言ってももう俺しか残っていない滅びた一族さ」

 

買い物を終え魔法学院に戻り、広場でエルクはデルフリンガーに自らの素性とここに来るまでの経緯を教えていた。

 

「しっかしまあ、相棒も相当難儀な人生を送ってるもんだなぁ」

「……まあ、そうかもな。でも辛い人生を送ってんのは俺だけじゃねぇさ。みんな何かしらの経験を経て乗り越えて行かなきゃならねんだ。いちいち悲劇の主人公を気取って落ち込んでいても仕方ねぇよ」

「ハハハッまったくだ!相棒もいいことを言うねぇ!」

 

ケタケタとデルフリンガーが笑う。思えばこんなふうに気を使わずに話すのは久しぶりかも知れない。ただその相手が剣であるのが少しさみしいところではあるが…

 

「ていうかお前さ、なにか秘密があろうかと思って買ってもらったのに、忘れたってどういうことだよ……」

 

あれからエルクはデルフに『使い手』のことや能力について聞いてみたが全て忘れたとのことだった。

 

「ハハハッ悪いな相棒。長く生きてると色々忘れていくもんなのさ。おまけに世の中つまらねえ事だらけで外に興味も無くなっていくしよ。まあ、少なくともお前さんが伝説の使い魔だってのは本当のことさ」

「伝説…か」

 

これ以上話していても収穫はなさそうだとエルクは諦めた。

 

ふと、見渡すと見覚えのある人物がトボトボと歩いていた。

 

「ん、あれはシエスタか?」

 

魔法学院のメイドのシエスタであった。決闘騒ぎ以来、距離が出来てしまっていたがエルクは世話になった彼女や厨房の人達とまた普通に話せるようになりたいと思っていた。

今、彼女は見慣れたメイド服ではなく私服を着ていた。どことなく表情が暗い。

一瞬、目が合った。こちらを見て少し微笑むと何やら豪華そうな馬車に乗り込みそのまま出発してしまった。

(何処に行くんだ?旅行って雰囲気じゃなさそうだが……)

 

事情を尋ねようと厨房へ訪れると何やら厨房全体の空気が重く沈んでいた。

厨房には使用人達やマルトーを筆頭とする料理人たちが集まっているが全員表情が暗い。

 

「何かあったのか?シエスタはどこに行ったんだ?」

 

「っ!?あ、ああ、あんたか。……そ、そうだな、あんたもシエスタに世話になってな」

 

マルトーはエルクを恐れつつも事情を教えてくれた。

どうやらシエスタは先日来ていたモット伯に見初められて仕える事になったらしい。先ほどの馬車はその迎えのものだったようだ。

しかし、彼はあまり言い噂を聞かないという。そうやって次々と気に入った若い娘を召抱えているらしい。召抱えられた娘がどうなるかは聞くまでもないだろう。シエスタのことを不憫に思ってこうして沈んでしまっているわけである。

結局、平民は貴族には逆らえないのだ、と嘆いていた。

 

 

 

 

「まあ、ああいうことはいつの時代にもあるもんさ。相棒もさっき言ってただろ?誰もが辛い事を経験するものだってよ」

「……ったく、貴族が聞いて呆れるぜ」

「……エルク」

 

いつから居たのかルイズが話しかけてきた。

 

「ルイズか、何か用か」

「用というほどのことじゃないけど……そ、その、あのメイド、シエスタだったわね。まさか助けに行く気?」

「ああ」

「な、何で?あのメイドとそんなに仲良かった?あの子も厨房の人間も決闘騒ぎ以来冷たくなってたそうじゃない。あんたはメイドを助けるために戦ったのに…」

「まあな、自己満足だってわかってる。でもよ、世話になったシエスタがこのまま不幸な目にあうのは見過ごせねぇよ。まだ彼女に借りだって返していないしな」

「流石に拙いわよ!ギーシュの時とは違ってモット伯に手を挙げたら流石にことが大きくなるわ!」

「なに、何とか上手いことやってみるさ」

 

そう言うとエルクは歩き出してしまった。

 

「エルク!もう!本当にわけわかんない奴なんだから!!」

 

ルイズは自分がどうするかを考えた。おそらくもう彼を止めることはできないだろう。

本当のところはルイズも力なき平民の女を喰いものにするモット伯については憤りはあった。

このままエルクだけ行くことを見過ごす訳にはいかない。

何より真の貴族でありたい自分が許さない。

ルイズは決意を固め、動き出した。

 

夜、エルクが学院の正門前につくとデルフが話しかけて来た。

 

「相棒、やっぱり行くのかい?」

「ああ、出来る限りのことはするつもりだ」

「まって!」

 

振り返るとルイズがいた。何故かその隣にはキュルケやタバサ、その使い魔のシルフィールドもいる。

 

「私達も行くわ!貴族として女として、シエスタを助けるわよ!」

「ルイズ!?お前らもどうして」

 

赤い髪を揺らしてキュルケが微笑んで答える。

 

「フフッ、ルイズに必死に頼まれちゃってね~。まさかヴァリエール家の者が私に貸しを作ろうなんてね。それにしてもあなたが来てから暇つぶしに事欠かないわね」

 

あの後、ルイズは自分にとって宿敵?であるキュルケに頼み込んだのであった。一緒いくにしても自分だけでは力にはなれない。そう思いエルクに協力してくれそうな人物を考えてのことだった。

 

「そうか、ありがとう」

「……私も気になることがあるから」

 

タバサは本を読んだまま答えた。どうやらキュルケに頼まれたらしい。

 

「そうそうモット伯の好色の噂は前からあるけど、最近じゃ妙な噂を聞くのよ」

「妙な噂?」

「そう、得体の知れない連中が貴族や商人に裏で何かを売買しているってね。その取引している貴族の一人がモット伯だって噂よ」

「それ私も聞いたことあるわ。詳しい内容は不明だけど武器とか調教した魔獣とか、なにか戦力となるものを取引してるって話だったわ」

 

キュルケの話にルイズが答える。

 

「そう、だから最近の騒がしてる魔獣騒ぎもそいつらが原因じゃないかって噂が出てるのよ。モット伯も何かしら関わっているのかもね」

 

「…そうか」

 

話を聞いたエルクは改めて三人の顔を見て言った。

 

「それじゃますますシエスタをこのままにしておくわけには行かねえな。皆、力を貸してくれ!」

 

エルクの言葉に三人は頷き、一同はタバサの使い魔のシルイールドに乗りモット伯の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

モット伯の邸宅の庭へ着地するとエルクは違和感を感じた。

辺りに人の気配が感じられない。

静かすぎる。

 

「妙だな」

「どうしたの?」

 

同じく違和感に気付いていたタバサが答えた。

「…見張りがいない」

 

夜中とは言え貴族の屋敷の敷地内だ。見張りがいないということは考えにくい。

その時、何かが近づいてくる気配を感じた。

複数、それも人の気配ではない。

 

「っ!何かいるぞ!気をつけろ!」

 

グルルルルッ

 

それは来た。

明らかに獰猛な魔獣。

2メイル以上の虎を超える体躯に鷲のものだと思われる巨大な翼、獅子のような前半身、馬のような後半身をしている。

そんな魔獣が5匹、いつの間にかエルク達を包囲していた。

 

「な、なんなのアレ!?」

「……グリフォン、いや…マンティコア?違う、見たことがない」

「タバサも知らないの!?一体なんなのよ!」

 

見たことの無い魔獣にルイズ達は動揺している。しかし、エルクは見覚えがあった。

(たしかこいつらは……)

『ピポグリフォ:グリフォンみたいに風を操れるんだけど、あんまり強くないみたい。でも油断は禁物ね』

突然頭に大切な仲間の声が響いた。

 

「そうだ、ピポグリフォだ。気をつけろ!こいつらは風の魔法を使う!」

 

(ピポグリフォ?図鑑で見たものと違う。それに風の魔法…?)

タバサが以前、図鑑で読んだピポグリフォは前半身は鳥に近い魔獣だったと記憶しているが目の前の魔獣はそれとは明らかに異なる。だが、確かめている暇はない。

 

「くそっ!番犬の代わりにしちゃタチが悪いぜ!」

 

エルクは炎の壁を作り出し周囲のピポグリフォを牽制した。同時にタバサとキュルケが杖を構え素早く詠唱に入る。

二匹のピポグリフォが意を決して炎を掻い潜りメイジに喰らいかかるが二人のメイジは既に詠唱を完成させ魔法を放った。

四方八方から氷柱が形成されピポグリフォ達を串刺しにする。

だが凄まじい生命力でなお襲いかかろうとする二匹を止めとばかりにキュルケの巨大な炎球が襲う。

ようやく絶命したかと思ったがその巨大な爪は油断していたルイズに振りかかった。

 

「っひ!?」

 

しかし、その爪はルイズに届くことはなかった。エルクがピポグリフォの腕と首を切断したのである。

 

「バカ野郎!油断してんじゃねぇ!」

 

残りの三匹は、エルクがルイズを助けた時に出来た隙を見逃さなかった。

「「「グォオオオオオオ!」」」

耳を塞ぎたくなるような咆哮をあげると周囲から中規模の竜巻が起こった。

 

「先住魔法!?ルイズ!!」

 

ピポグリフォ達は一斉に風の魔法を放ったのである。エルクはその場にいたルイズを庇い魔法の直撃を食らった。風の刃がエルクの背を切り裂いた。

 

「エルク!!」

 

庇われたルイズが悲鳴のような声で名前を呼ぶ。背中に傷を負いながらも表情を変えることなく答えた。

 

「大丈夫だ。それより反撃行くぜ!」

 

見るとピポグリフォ達は一斉にエルクに向かっていた。魔法の直撃を受けたエルクを手負いとみたのだろう。だがそれが命取りとなった。

エルクはデルフリンガーを構え迎え撃った。右腕にはルーンが熱く輝いている。その後、タバサ達の魔法の援護も加わり一分と立たずかたがついた。

 

 

 

 

「何とか倒せたけど、なんなのコレ?エルク、あなたは知っているようだったけど」

 

キュルケが安堵の息をつきながら言った。

攻撃こそ受けなかったもののエルクがいなかったら危なかっただろう。いや、むしろ彼は三人を守りながら戦っているように見えた。

 

「質問を返すようで悪いけどよ。お前らこの魔獣を見たことはないんだな?」

「……ええ、私達が知っているピポグリフォとは姿が少し異なる。少なくとも先住魔法を使うことはないはず」

 

エルクの質問にタバサが答える。

(やはりこいつら俺がいた世界の魔獣か。しかも明らかに普通の魔物じゃない。まさかキメラか!?得体の知れない連中ってのは……)

 

「それにしても、こんなのを放し飼いにしてるなんてどうかしてるわよ!いよいよきな臭くなってきたわね」

「ああ、少し手間取ったが館に突入するぜ」

「ちょ、ちょっとエルク!傷は!?手当しないと」

 

ルイズが慌ててエルクに駆け寄る。彼の背には薄ら血がにじんでいる。

 

「大丈夫だ。俺の外套は特別性でな、多少の魔法なら防ぐことができるんだ。これくらいの傷なら大したことねぇよ」

「バカっ!何言ってるの!?タバサ、お願い。傷の手当てを」

 

タバサが頷き、水の魔法で応急手当をする。

 

「すまねぇな」

「大したことはできていない。あくまで応急手当」

 

ルイズはその様子を見て胸が痛んだ。自分は結局何もできなかった。

それどころか自分を守るためにエルクは傷を負ってしまったのだ。なんて無力で情けない姿なのだろう。

本当は自分も彼みたいに炎を扱えればと思っていた。だが自分が魔法を唱えれば起こるのは相変わらず爆発。傷の手当てすらすることもできない。

ルイズは途方もない劣等感を改めて感じていた。

 

そうしている内に手当は終え、一同は館の内部へ潜入した。




徐々にアークⅡ要素を混ぜていく予定です。それがゼロ魔的に不快に感じる方がいるかもしれませんがお許しください。
基本はゼロ魔展開に沿っては行くつもりなのですが……

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