はまる人にはとことんはまる作品ですからねw
4話です
「……あんた、何者なの?」
「ん? 何ちょっと丈夫なだけさ」
「丈夫って! そんなレベルじゃ……」
あの後、ルイズは慌ててエルクの手を確認したが、黒煙を上げるその手はかすり傷すら負っていなかった。周りは何が起こったのか分からないという雰囲気だったが一段落して生徒の一人がシュヴルーズにルイズの魔法の事情を伝えるとルイズを席に下がらせた。今は授業が終わり昼食に向かう途中である。
ルイズが問い詰めてもはぐらかすエルクだったが、結果的に自分の失敗を救ってくれたので強くは出れなかった。
「納得はしてないけどまあいいわ、聞いたでしょ。私が『ゼロのルイズ』って呼ばれている理由」
ルイズは顔を曇らせて語り始める。
「いつも魔法を使おうとすると爆発が起こるの。系統魔法どころか簡単なコモン・マジックまで」
ルイズは震えながら語る。
「勉強だって、練習だって、誰よりも…やっているのに」
どうしてと、涙を浮かべ自分事情を語り始めた。相当馬鹿にされ続け屈辱を受けてきたようである。エルクは頭を掻いてどうしたもんか考えた。
「あんただって馬鹿にしているんでしょ! 魔法が使えないくせに貴族を名乗って!」
このハルケギニアでは魔法を使えるものが貴族、使えないものはただの平民。その事実はエルクも届いていた。ルイズの叫びにエルクなりに言葉を選んで答えた。
「あのなぁ……、俺はまだお前のことを知らない。お前の事情の表面を知っただけだ」
「……?」
エルクが何を言いたいのか分からずルイズはただ言葉を待った。
「詳しくは言ってなかったな。俺はその……このハルケギニアよりずっと遠い場所から来たんだ。だから魔法が使える奴が偉いとかそんなことは知らねぇ。お前が頑張っているならその姿まで馬鹿にすることは絶対にしねぇよ」
「…そうよね、トリステインすら知らなかった辺境の人間だったものね」
「こら、話の腰を折るな! まあ、なんだ俺が召喚に成功した証なんだろ? だったらここにいる間ぐらいは使い魔として力を貸してやるよ」
「と、当然じゃない、この馬鹿! あんたは私の使い魔なの! 隠していることもそのうち話させるからね、覚悟しておきなさい!」
慰めになったのかはわからないが、とりあえず元気は出たようだ。
昼食
ルイズはエルクが厨房で食事をもらってくると言ったので一旦別れた。本当は一緒に食べさせても良かったのだが朝のことを思い出すと駄目とは言えなかった。
昼食を終えたエルクはこのまま、食事の世話になり続けるのは悪いと思いデザートの配膳を手伝った。シエスタにルイズが落ち込んでいることを話したら、ある物を渡され直接ルイズに配るように言われた。
エルクは食堂でルイズを見かけると声をかけた。
「ほら、ルイズ」
「あんた、何やってるの?」
「飯の礼に配膳を手伝ってんだよ。ほらコレ」
ルイズの前に皿を置いた。添えられているのはルイズの大好物のクックベリーパイである。
「大好物なんだろ、これ食って元気だしな」
「…あ、あんたに言われなくても食べるわよ!済んだのなら早く戻りなさい!」
へいへいとエルクは仕事に戻る。ルイズは聞こえないくらいの小さな声で
(ありがとう)
と背中に向けて言った。
デザートをあらかた配り終えた頃、突然怒声が響いた。
「ど、どうしてくれんだね!!」
怒声の方に向かってみると金髪の薔薇を持ったキザったらしい男が頭を下げるシエスタに何か文句をつけていた。そばにいたルイズに事情を聞いてみた。なんでもシエスタがギーシュというキザ男に落とした香水を届けたところ、それは女性からのプレゼントでそれが結果的に二股がバレてしまったというのだ。
(それをシエスタのせいにしようってのか……)
エルクはギーシュに近づいた。
「おい、二股野郎。どう考えてもお前が悪いだろ。他人にあたって誤魔化すんじゃねぇよ」
「な、なんだと。誰だ無礼な!」
ギーシュがエルクに向き直る。
「なんだ君は、ああ、ゼロのルイズが呼び出した平民か。君のような平民に貴族の名誉など語っても、わかりはしないか。しかも主人はあのルイズだしな…躾など出来る筈もないか。君と、君の主人の無知さ故の所行と思って許してあげるよ。さぁ、行きたまえ。」
エルクはギーシュを睨み吐き捨てるように行った。
「無知で馬鹿なのはお前の方だろ、お坊ちゃん。二股の事実を何かで誤魔化そうとしているのはみえみえなんだよ。落し物を届けたシエスタに当たりやがって。そんなお前がルイズを馬鹿にする? 笑わせてくれるぜ」
「……見逃してやろうと思えば。いいだろう、無能な君のご主人に変わって躾をしてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」
「身の程知らずは火傷するぜ、お坊ちゃん。ここでやんのか?」
「貴族の食卓を平民の血で汚せるか。ヴェストリの広場で待っている。さっさと来るんだな」
ギーシュと様子を見ていた生徒たちが次々と広場へ向かった。シエスタが慌てて駆け寄る。
「エルクさん! なんてことを、殺されちゃいます!」
「なに荒事には慣れてるって言っただろ。大丈夫だ。ルイズもいいだろ?」
ルイズが悩みながら答えた。本当は止めるべきなのだがどうしても気になった。この使い魔の実力を知る機会なのかもしれない。
「……勝算はあるの?」
「ミス・ヴァリエール!」
シエスタがルイズを非難するように声を荒げる。
しかし、エルクは優しくシエスタに声をかけた。
「大丈夫だ、シエスタ。さあ、そのヴェストリの広場とやらに向かうぞ」
場所は変わって本棟の最上階、学園長室。
トリステイン魔法学園の学園長、オールド・オスマンは白い口髭と髪を弄りながら、重厚な作りの木製のテーブルに肘をついて唸っていた。急に訪れた教師のコルベールが、スケッチしたという平民の使い魔のルーンが調べた結果、伝説の使い魔の一つ『ガンダールヴ』のものだと言うのだ。
「確かにルーンは同じじゃな。だが結論は急いではいかんよ。その青年とやらが伝説の使い魔と同じ能力を持っているとは限らんしの。もう少し様子を見てみたらどうかね?」
「ですが、オールド・オスマン。その青年についてまだ気がかりなことがあるのです。あの青年、嗅ぎなれた匂いがしました。生き物を生きたまま焼いた匂いが……」
「なんと。しかし、その青年は平民なのじゃろう? それとも火の魔法を使えるとでも言うのかね」
「それは……」
その時、部屋の扉が叩かれる。
オスマンの秘書、ミス・ロングビルが入る。
「失礼します。オールド・オスマン」
「何じゃ?」
「ヴェストリの広場で決闘を行おうとしている生徒がいるようです」
大きくため息をつくオスマンとコルベール。
「全く暇を持て余した貴族ほど厄介なもんは無いの。で、誰が暴れているのかね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人はミス・ヴァリエールの使い魔の平民だそうです」
それを聞いたオスマンとコルベールは目を合わせ頷いた。これは確かめるいい機会だと。
オスマンが遠見の鏡に向かって杖を振る。鏡にヴェストリの広場が映った。