とりあえず召喚したエルクと一緒に部屋に戻ったルイズは先のことに不安を感じながらもえるくに向き直り、
「改めて名乗るわ! 私はルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あの名高いヴァリエール家の三女よ! それであんたはこの春に行われた使い魔召喚の儀式でこの私に呼び出されたってわけ。つまり私があんたの一生のご主人様でことよ」
(こんな平民が私の使い魔だなんて……始祖様神様精霊様、私にはこれがふさわしいってことですか……)
えらく高圧的ではあったが一応名乗ったのでエルクも名乗った。
「俺はエルクコワラピュール、エルクでいい。あの場でも言ったがハンターだ…って! お前が俺のご主人様ってなんだよ!?」
「私が使い魔の召喚の儀であんたが現れたんだからしょうがないでしょ! ハンターだかなんだか知らないけど私だってもっとマシなのが来てほしかったわよ! それとご主人様とお呼びなさい、平民!」
ハンターという聞きなれない単語を聞いたがどうせ大した者ではないだろうとルイズは無視した。
「使い魔にも下僕にもなった覚えはねぇよ! お互い不満があるってんなら不成立だろ。俺は帰らせてもらうぜ、ていうか、今更だがここってどこなんだ?」
ルイズは目の前の使い魔の態度にさらに機嫌が悪くなった。名と教えても全く恐れや敬いが感じられないのである。
「さっきコルベール先生が言ってたでしょうが! ハルケギニアの中でも最も格式高いトリステインが誇る魔法学校よ! あんたどこの田舎者…よね、どう見ても。全くどんな辺境から来たのかしら。」
「お前らに言われたくねえよ! 俺は世界中回ったけどそんな国も地域も聞いたことないぜ。」
「はあ? 世界中?あんた何言ってるの?」
エルクはルイズがとぼけた様子がないのを見て考え、違和感に気付いた。明らかに自分が今までいた国々と異なる。そもそも外の風景……これがあの『大災害』後の風景とは思えなかった。
(あの大災害で世界中の人や国、自然は壊滅的な被害を受けたはず……あれから数年経つとは言えあそこまで回復している地域があるのか?)
エルクは窓から外の景色を見た。辺はすでに日が沈み月が見えていた。
(月が……二つ!?)
ここでエルクははっきりと気付いた。
今いる場所は自分いた世界とは根本的に異なるということを。ありえないとは思ったがそうでもなければ説明がつかない。
「ちょ、ちょっと、どうしたっていうのよ?」
いきなり様子が変わったエルクに対してルイズは恐る恐る話しかけた。エルクは少し唸ったあと
「お前、ルイズだっけか? その使い魔になるかっていうのはしばらく様子を見させてもらうぜ。」
「は? あんた何言ってるの?もうルーンが刻まれてるんだからあんたの意思なんか関係なく私の使い魔よ。」
「でも、現に俺はお前に完全に服従しようなんて意思はこれっぽっちもないぜ? どういうカラクリか知らねぇが完全には成功してねぇんじゃないのか? 様子を見てやるっていうのが最大限の譲歩だ。嫌だってんならアテはなくともこっから去るぜ。」
「……!!! っぐ、わかったわよ! でも行くあてはないんでしょ! どのみち私の使い魔になるしか道はないと思うけどね! とりあえず便宜上使い魔としていてもらうわよ。あんたがここにいられる理由はそれだけしかないんだからね。」
エルクは渋い顔をしながらも了承した。何しろ着の身着のままで召喚されてしまいおまけに使っていた武器もいつの間にか無くなっていた。下手な行動は死を意味する。この分だとタダ働きになりそうだが情報がない今、彼女の言うとおりにするしかないだろう。
「まあ、あんたはただの平民でしょ。本来使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。早い話、あんたが見てる物や聞いている事を私も見たり聞いたり出来るの。でも無理みたいね……しばらくは雑用してもらうわ。私が起きるまでに着替え洗濯しておいて。あんたはそこの藁で寝なさい」
それだけ言うとエルクに興味を失くしたのかさっさと着替えてベッドに潜り込んでしまった。別にエルクは何もできないわけではない。しかし、聞かれたわけでもなければわざわざ教える義理もないからエルクも明日のことを考えてさっさと寝ることにした。
(ったく、面倒なことになったな本当に。やっぱ迂闊に光に触れるべきじゃなかったか?……まあ後悔しても仕方ねぇし寝るか)
世界中を旅していたエルクは順応が早くすぐに寝入った。
夜寝静まった頃、ルイズはすすり泣くのを必死にこらえていた。エルクの完全には成功してないのではないかという言葉を必死に否定していた。
(違う、違う!上手くいってないのはあいつが人間で平民だから……私は召喚に成功した!)
そう自分に言い聞かせルイズは眠りに就いた。
次の日、エルクは目を覚ましたあと自分の状況を確認し、とりあえず言われたとおり脱ぎ散らかされたルイズの服を回収し洗濯に向かった。どうにか水くみ場を見つけたが先客がいた。黒髪のメイドさんである。
「なあ、ちょっといいか?」
「はい? どうかしました?」
振り返ったメイドは黒髪をカチューシャで纏め、そばかすが可愛らしい素朴な感じの少女だった。
「洗濯はここの水汲み場を使えばいいのか?」
「そうですが……あっ、あなたミス・ヴァリエールの使い魔の方ですか?」
「ああ、一応そうみたいだけど、もう知られてんだな。俺はエルク」
「私はここでメイドをしているシエスタです。既に有名ですよ。ミス・ヴァリエールが平民を使い魔として召喚したと、それに変わった服装ですからね。すぐにわかりましたよ。」
(そこまで珍しがられることか?)
あまり奇異の目で見られることは嬉しいことではない。少し顔に出てしまった。
「ええっと、あ、洗濯でしたね。私も洗濯中ですのでよろしければまとめて洗いましょうか?」
「え、いいのか?」
「もちろんです。平民同士助け合うのは当然のこと、これから大変でしょうが頑張ってくださいね。」
シエスタは屈託のない笑顔を浮かべた。
「ああ、ありがとう。俺は元の場所じゃハンターをやってたんだ。何だったらあんたからの依頼だったら一回だけただで請け負ってもいいぜ。」
「ハンター……ですか?」
聞きなれない言葉にシエスタは首をかしげる。
「ああ、法に触れることでなければなんでも請け負う仕事さ。ま、大抵が荒事だけどな。」
「そ、そうなんですか、ありがとうございます。でも、あまり無茶をなさってはいけませんよ?」
そうこうしている内に洗濯が終わった。
「ありがとな、シエスタ。そろそろルイズを起こしに行ってくるよ。」
「はい、お互い頑張りましょうね~。」
シエスタと別れエルクは部屋へと戻った。
話が進まない……(汗)
あまり原作をなぞりすぎるのも良くないみたいですね。
もうちょっとスピーディーの方がいいのでしょうか?w