炎の使い魔   作:ポポンタン

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話が進ませにくくなってきました……
最近忙しくなってきたし、なかなか……
と、とりあえずどうぞ~


第22話

翌朝、降伏勧告の時限が迫るニューカッスルの秘密港では『イーグル』号、『マリー・ガラント』号へ非戦闘員の脱出準備が進められていた。

しかし、当の『マリー・ガラント』号の本来の所持者である船員達の姿はそこにはなかった。それのことを心配していた者もいたが、一向に姿を見せなかったため、搭乗員の安全を優先し、時刻になると両船はは音をたて出港していった。

 

『イーグル』号、『マリー・ガラント』号の出港から暫くした後、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂ではささやかな結婚式の準備が進められていた。

ウェールズ皇太子は礼装に身を包み新郎と新婦の登場を待っている。扉が開き、ルイズとワルドが現れた。ルイズは心ここにあらずの様子であった。ワルドに促され、礼装に身を包んだ数名の衛士が作る花道を通り、ウェールズの前に歩み寄る。非戦闘員は既に脱出し、兵士達は最後の戦いの準備を始めている。

昨夜、寝室に入るところにワルドに突然呼び出され、結婚を申し込まれた。既にウェールズ皇太子殿下に婚姻の媒酌を頼み、快く了承してもらったらしい。正直、ルイズにとって寝耳に水であり、自分のいないところで勝手に話を進められて困惑していた。だが、死を覚悟した王軍とヂークの忠告に半ば自暴自棄な気持ちになっていたルイズは、深く考えずにここまでやってきてしまった。

 

(あれ…なんで私、ここにいるんだっけ? ワルドと結婚? いずれその話は来るかもと思っていたけど、どうして今? 私は何のためにここまで…)

「ラ・ヴァリエール嬢。どうしたのかね? せっかくの晴れ舞台だ。笑顔を忘れてはならないよ?」

「あ、はい…申し訳ございません殿下…」

「では、式を始めるとしよう」

 

 

 

その頃、ニューカッスル城地下、秘密港へと繋がる鍾乳洞の広場では30人程の男達が集まっていた。『マリー・ガランド』号の本来の所持者であるはずの船長以下、船乗り達であった。

 

「して、様子はどんなものだった?」

「はい、完全に外で包囲している我が軍にのみ警戒しています。我々に気づいている様子はありません」

 

船長が部下の報告を聞くと、笑いを堪えきれず吹き出した。

 

「あ~はっは!!! まさかこんなに上手く成功するとは思わなかったな!! まったく、とんだアホタレ共だ!」

「全くですな! たったあれっぽっちの硫黄の釣り餌でここまでバッチリ喰いつくとは!」

 

鍾乳洞に船乗り達の下卑た笑い声が響き渡った。それを聞きつけ、数人の兵士が駆けつけてきた。

 

「何者だ! そこで何をしている!」

 

兵士がまだにニヤけている船乗りたちを確認する。

 

「お、お前たちは…!? な、何をしているんだ! 脱出船は既に出航したぞ! ここはもう戦場になるというのに…何を考えているんだ!!」

 

怒鳴る兵隊に舌なめずりをして、船長が歩み寄る。そのあまりに不気味な様子に兵達は思わず後ずさる。

 

「な~に、アレですよ。硫黄の代金をいい加減支払っていただこうと思いましてねぇ」

「なんだと、お前らふざけるのも大概に……!?」

 

兵達はその後に続く言葉を呑んだ。近づいてくる船長の体がメキメキと音が鳴り、身体が肥大化し人間ではない何かに変身し始めた。船長だけではない。後ろに控えていた船乗りたちまでも何かに変身しつつあった。

 

「ば、馬鹿な…こんなことが……」

「さ~て、取り立ての時間と行くか。代金はてめぇらの命だ!! ありがたく受け取ってやらぁ!!!」

 

船員達は文字通りに化けの皮を剥がし、惨劇の決戦の幕が上がった。

 

 

 

「では、これから式を始める」

 

ウェールズの式の始めを告げる凛々しい声が、礼拝堂に響き渡る。だがルイズはその声も何処か遠くに感じていた。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓うか?」

「誓います」

 

ワルドの宣誓の言葉に、ウェールズは頷くと今度はルイズに視線を移した。ルイズはここでようやく、自分が何をしようとしているかはっきり思い至った。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール嬢公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」

 

ウェールズの言葉にルイズは答えれない。ルイズは自分の心に問いかけていた。

 

(私は一体何のため今まで……? エルクと出会ってから事件の連続だったけど、頼ってばっかりで、私、何も成し遂げてないじゃない! みんなの事も見捨てたまま…。私の覚悟は…本当にやるべきことは…?)

 

駄目だ、このままでは駄目だ。自分の覚悟を見届けて欲しい人のことを忘れ、自分はワルドと結婚して日常に逃げようなどと…そんなことを何より自分が許していいわけがない。自分は確かにゼロだけど自分の想いに嘘はつきたくない。

 

「新婦?」

 

心配そうなウェールズの声がかけられる。

ルイズは迷っている。この結婚が本当に正しいのかに戸惑っている。 しかしワルドは、落ち着かせるように諭す。

 

「緊張しているのかい? しかし、何も心配する事はないんだ。 僕のルイズ。君は僕が守ってあげるよ。永遠に。それをたった今、誓った。 ……殿下、続きをお願いいたします」

 

しかしルイズは、ワルドから距離をとった。

 

「新婦?」

「ルイズ?」

 

二人が怪訝な顔にルイズは首を振って答えた。理由はわからない。わからないけど、気付くと首を振っていた。そして今度は言葉ではっきりと答えた。

 

「ごめんなさい。子爵様、私はあなたと結婚出来ません!」

否定の言葉がはっきり出てきた。ルイズの答えは、この結婚を望んではいないという事だ。 望んでいたらこんな気持ちにはならないはずだ。

 

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

「そのとおりでございます! お二方には、大変失礼をいたす事になりますが、私は、望みません!」

ウェールズはルイズの顔をまっすぐ見つめた。その瞳には先程見えた迷いや戸惑いは一切感じられない。

「そうか…子爵。誠に残念だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬな」

 

ワルドのウェールズの言葉を素通りし、両手でルイズの手を握るしめる。ルイズはその握力に痛みを感じながらも、ワルドの狂気に満ちた雰囲気に飲まれそうになっていた。

「緊張しているんだろう!? そうだろうルイズ!? 君が、僕との結婚を拒む訳が……ないだろう!?」

「ワ、ワルド?」

「この期に及んで聞き分けのないことを言わないでくれ! この世界を変革させるために、そのために君が必要なんだ!」

豹変したワルドに戸惑うルイズ。しかし構わずワルドは興奮した口調で続ける。

 

「僕には…この世界には君が必要なんだよ! 君の『力』が! 君の『器』がなっ!」

 

ワルドの尋常ではない様子にルイズは怖気が走った。これが、あの優しかったワルドなのか? 違う。ルイズが憧れたワルドは目の前の『男』ではない。いや、その前に、この男はなんて言った。

『力』? 『器』? 馬鹿にするにも程がある。

 

「ルイズ、君は始祖ブリミルですら成し得なかった偉業を達成するだろう……。 今はまだその『役割』に気づいてないだけだ! 君の『才能』が必要なんだ!」

肩を握り潰されるほどの痛みに表情を歪めながら、ルイズははっきりと理解した。

ワルドは、私を愛していない…。それどころかワルドが放った言葉は、ある意味ルイズ自身は必要していないと言っているも同然だった。だから、ルイズは侮蔑するように言った。

 

「汚い手で触らないで……。貴方が求める『物』が何なのかは知らない。けど、貴方が欲しているのは私自身ではないわ。それで私と結婚……? こんな屈辱、生まれて初めてよ…」

 

ルイズはワルドの腕を振りほどこうとした。ただならぬ様子にウェールズはワルドを引き離そうとしたが、逆に突き飛ばされてしまう。 その瞬間ウェールズが腰に当てていた手で素早く杖を抜きワルドへ向けた。

「何たる無礼! 貴様ぁ! 今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば我が魔法の刃が貴様を切り裂くぞ!」

ワルドはようやくルイズから手を離し、再び訊ねる。

 

「やれやれ、こうまで僕が言ってもダメかい? 僕のルイズ」

「馴れ馴れしく呼ばないで。誰があなたと結婚なんか……!」

「そうか……この旅で君の気持ちを掴むために努力はしたが……仕方ない。こうなっては目的の一つはあきらめるとしよう」

「目的?」

 

ワルドの意図が掴めず、ルイズは怪訝な顔で呟いた。

「そう、この旅における僕の目的は『三つ』あったのだよ。まず一つは君だルイズ。だがもう果たせないようだね。二つ目の目的はアンリエッタ姫の手紙……ここまで言えばわかるかい?」

「ワルド、まさかあなた……」

「そして三つ目は……」

『手紙』という単語で今こそ確信を得ていたウェールズは魔法を詠唱した。だがワルドも同時に、二つ名の閃光のように杖を引き抜き呪文を詠唱した。互いに詠唱を完成させたが、ワルドが風のように素早く先に構え、ウェールズの胸を狙った。ウェールズは咄嗟に杖で逸らそうとしたが、無常にも刺し貫かれた…。

辛うじて即死は免れたようだったが、どう見ても致命傷だ。

 

「ウェールズ・テューダー、貴様の命だよ」

「き、貴様……まさか…『レコン・キスタ』……」

ウェールズの口から、ゴボリと大量に吐血すると、膝から崩れ落ちた。

ルイズは甲高い悲鳴をあげた。

 

「ふん、くたばり損ないが。まあいい、貴様も冥土の土産に見ているがいいさ。最後の目的はルイズ…君のその胸ポケットに入っているアンリエッタの手紙だ。」

 

死に体のウェールズを一瞥すると、ルイズに向き直った。

 

「貴族派…! ワルド、あなたアルビオンの貴族派だったのね!」

ワルドは喉の奥で笑うと、頷いた。

 

「いかにも。だが『アルビオンの』というのは正確ではないな。我々『レコン・キスタ』は国境を越えて繋がった勇士の連盟。この腐りきったハルケギニアの国々を打倒するためにな。我々に国境はない。それが異邦からであったとしてもな」

「!? やっぱり、キメラ研究所とも…」

「ほう、知っていたとは驚きだね。出来れば、あんな下衆共とは組みたくはなかったのだがな。しかし、そうも言ってられなくなったのだ」

 

そう言ってから、ワルドは再び杖を掲げた。

「残念だよ、ルイズ。君の才能が僕達には必要だったんだ。奴らを牽制するためにもな。今からでも考え直してはくれないかい?」

ルイズは力を失ってへなへなと床にへたりこみ、涙を飛ばしながら首を振った。

「死んでも、死んでもお断りよ!」

「残念だよ…では望み通り、君を殺して手紙を奪うとしよう。そこのくたばり損ないも一緒にな」

「ぎ、ぎざまぁ!」

 

ウェールズが憎悪を込めた目で睨む。その時、城内から爆発音が轟いた。

 

「な、何!?」

「始まったか…。そうそう言い忘れていた。実は任務はもう四つ目が追加されていたのだよ。新設の実験部隊、『キメラ特務部隊』の手引き。ルイズ、君も船で共にしていた船員さ。今頃、内部から王軍を襲撃しているだろう」

「そ、そんな……?」

「手負いのネズミどもに噛まれるのもつまらんからな。実戦による訓練を兼ねた殲滅作戦さ。内外攻められてはどうにもなるまい」

 

 

 

 

一方、城内ではアルビオン王ジェームズ一世以下の王党派の中核が、城のホールまで撤退を余儀なくされていた。

突然現れた魔獣の奇襲に王軍は対応できず、数の利を活かせず初手から大打撃を被ってしまった。

 

「くそっ! 奴ら一体どこから現れおった…戦況はどうなっておる!!」

「最初の魔獣の奇襲にて、既に兵の大半に死傷者が出ております。メイジ達も己の身を守ることが精一杯の様子です!」

「開戦の時刻も守らずに刺客を放つとは……あの恥知らずどもめ!」

 

バリーが怒りを顕に肩を震わせる。だが、そんな絶望的な状況に追い打ちをかけるように爆発音が響いた。

 

「今度は何事だ!!」

「じょ、城門が爆破されました! 我々が精製した火薬を使われたようです!」

「ど、同時に包囲していた反乱軍が進軍開始! このままでは…」

 

兵達の報告に流石の歴戦の王軍にも動揺が走る。ただでさえ打撃を受けた状態であったのに城門まで破壊されては、もはや戦争にもならない。反乱軍が蝗のごとく一歩的に蹂躙するのを待つだけだ。

 

「こ、ここまでやるというのか…『レコン・キスタ』。殿下、申し訳ありません。どうやら名誉ある敗北は得られそうもありませぬ…」

 

 

 

ワルドから真相を聞かされたルイズは、血の気が引くのを感じた。

 

「そんな……勝利が決まっているのも同然の、この状況で…」

「おのれ、おのれぇぇええ!!! 我等から祖国を奪うだけでは飽き足らず、名誉ある戦いすら奪おうとするのか…がはっ」

 

ウェールズが傷口を押さえ、吐血、血の涙を流して怨嗟の言葉を漏らす。だが、ワルドは

 

「所詮は敗軍の将の戯言。残りの兵もきっちり送ってやる。……死ね!」

 

そう冷たく言い捨て、青い光がウェールズを襲う。『ライトニング・クラウド』。直撃を受けたウェールズはとうとう力尽きた。その死に顔はルイズに見せた優しい顔の面影はなく、遺恨に満ちていた。

 

「ウェールズ殿下!!」

「さて、次は君だ。ルイズ。特別にもう一度チャンスをあげよう。僕の元へ来る気はないかい?」

 

ルイズは震える身体を押さえ、杖を向け毅然と言い放つ。

 

「何度だって言うわ。死んでもお断りよ! ワルド! 国を、ハルケギニアを、人間の心を裏切ったその罪、その命で償え!!」

 

その言葉を聞いたとき、ワルドは首を振って答えた。

 

「やれやれ、大きく出たなルイズ。気が変わった。何も同意を得る必要も無傷で連れ帰る必要もない。四肢を切り落とし、芋虫のようにして抵抗出来ぬように持ち帰るとしよう。その後は、ハルケギニアの暗部とは比べ物にならぬ程のえげつない連中が君の頭の中を素直にしてくれるだろうよ」

 

ルイズは蒼白になって後ずさった。ワルドの目は本気だ。禍々しい悪意を向けられたルイズは金縛りにあったように動けなくなった。

 

「助けて…」

「まずは左腕だ」

 

ワルドが残酷な笑みを浮かべ魔法を詠唱する。

 

「エルク! 助けて!」

 

力の限りルイズが絶叫した。同時に、礼拝堂の中が炎に包まれた。

呪文を詠唱していたワルドは突然の身の危険に詠唱を中断し、背後へと飛びさり、炎に巻き込まれるのを避けた。

間一髪飛び込んできたのは、ルイズの使い魔の青年、エルクだった。エルクはルイズをかばうようにワルドの前に立ちはだかった。

 

「いい加減にしとけよ! このクソったれ外道が!!」

 




ヒーローは遅れてやってくる……明らかに遅すぎますよねコレ。


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