…の割には話あまり進んでない(汗
やっとワルドとの手合わせです。
崖の上の襲撃者をさらなる上空から襲撃し壊滅させたのは、やはりキュルケ達であった。
タバサの使い魔のシルフィールドから降りて二人と一機が合流する。
「お前ら、どうしてここに?」
「ふふっ、朝方、窓を見たらあんたたちが馬に乗って出かけるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけてきたってのよ。水臭いじゃない、こんな面白そうなこと黙ってるだなんて」
「…で、コイツは?」
エルクはヂークの頭に手をのせて聞いた。キュルケが目を泳がせて答える。
「えぇ、その、シルフィールドに乗っていざ出発って時に、恨みがましい感じで私達を見つめてきてね…大体の事情は彼から聞いたわけ」
「マッタく、もぐらをツレてワシをおいてイクとは、けしかラン!」
ぐるぐる回転しながら体当たりをしてくるヂークをエルクは避けながら答える。
「悪かったって! でも仕方ねぇだろ。その体じゃ馬に乗れねぇんだからよ」
「そうそう! 拗ねるもんじゃねぇぜ。結果的に来れたんだからいいじゃねぇかよ」
デルフがカタカタと音を立てながら笑う。
「あははは、まあそれにしても貴方達を襲ったこの連中、なんだったのかしら? 使っていた銃にしても、こんな高性能なもの見たことも聞いたこともないわよ。正面からだったら危なかったわ。少なくともゲルマニア製ではないわね」
「……明らかにハルケギニアの技術じゃない」
キュルケとタバサが襲撃者の持っていた銃を珍しそうに見ていた。その様子を見てエルクが未だに腰を抜かしているギーシュに尋ねる。
「なぁ、お前らの知っている銃ってどんなもんなんだ?」
話を振られたギーシュは、ビクッと震えながらも答える。
「え、えぇっとだね、僕も詳しくは知らないが…弾をいちいちこめて火薬と、火打石で撃つ…だったかな?」
(そうか、そもそも技術というか文明自体に大きく差があるんだったな。この銃を持たせたのもキメラ研究所なのか?)
「少なくとも、そこいらの野盗が持てるものじゃないってことだな。この任務を知っているのはごく少数のはず。たぶん、貴族派だろうが、こんな早々に襲撃されるとはな……きな臭くなってきたな。早くルイズ達と合流したほうがよさそうだ」
その場にいた全員が頷くと一行はシルフィールドに乗って目的地のラ・ロシェールへ向かった。
(また増えた……韻竜使いが荒すぎなのね! キュイキュイ!!)
ラ・ロシェールに到着しルイズと合流した一行は、この港町一番の宿女神の杵亭に泊まる事となった。ルイズは何故か一緒にいたキュルケとタバサに不満そうな表情をしていたが、この二人にはなんだかんだで協力してもらってることもあって渋々ながらも了承してくれた。
目的地であるアルビオン大陸へ向かうには、ここから出航する船に乗船する必要があるらしいのだが、交渉に向かったワルドによると
「残念だがアルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」
「そんな、急ぎの任務なのに…」
ワルドの報告を聞いてルイズは落胆の表情を浮かべた。
「そう言えばここら辺は山岳地帯みたいだが、もしかして船って飛行船なのか?」
エルクが疑問を口にするとルイズが口を開いた。
「そうよ、エルクはまだ知らなかったわね。アルビオンは空に浮かんでいる大陸なのよ」
「そして明後日がアルビオンがこのラ・ロシェールに最も近づく『スヴェル』の月夜なのさ」
ルイズの返答にワルドが補足した。
エルクもさすがに驚いた。この世界にも飛行船が存在することもだが、大陸がさらに浮かんでいるとは『空中城』を経験したエルクも驚いた。
「割と常識的なことなんだがね。君は一体どこから来たんだい?」
ギーシュが呆れ半分に質問した。
「まあ、遠くからとしか言えないんだが、それはいいとして今日はもう寝ようぜ。部屋割りはどうなってるんだ?」
エルクの問いにワルドが鍵束を取り出し答えた。
「キュルケとタバサ、エルクとギーシュ……ガーゴイル君も同室で構わないね? そして僕とルイズが同室だ」
「だ、ダメよ、ワルド! 私達、まだ結婚してる訳じゃないじゃない!」
ルイズはエルクに助けを求めるように横目で見ながらも言ったが、ワルドは首を振った。
「大事な話があるんだ。二人だけで話したい」
ワルドの真剣な表情に、ルイズは言葉を詰まらせ黙った。
エルクはルイズに耳打ちで語りかけた。
「…ルイズ、本当に大丈夫か? 何かあったら大声で叫べよ。アイツ何だか胡散臭いぜ」
「えっ? う、うん、だ、大丈夫よ! 何も起こるわけないじゃない!」
(何が大丈夫なんだか…本当にわかってんのか? なんか不安だな……)
ルイズは顔を赤らめ、戸惑いの表情を浮かべたままであったが、その場にいた者たちは各々の部屋へ向かった。
「どうしたんでぇ、相棒? さっきから怖ぇ顔してよ。やっぱり娘っ子が心配かね」
部屋で就寝の準備をしているとデルフが話しかけてきた。
「心配といえば心配だな。まさか国境を超える前に襲撃されるなんて思わなかったぜ。情報がダダ漏れみたいだし、スパイでもいるんじゃねぇのか?」
「ん? まさかとは思うが君、子爵を疑っているのかね? まさかそんなことはないさ。魔法衛士隊と言えばメイジにとっては憧れの的だよ。そんなエリートが愚かな真似をするわけがないさ!」
ギーシュはそう言うが、エルクは最初に会った時のワルドの好戦的な目を忘れてはいなかった。ヴェルダンデに襲われていたルイズを助けるためと言っていたが、あのタイミングの一撃は明らかにエルクを狙っていた。
「…まあ確かに証拠もないのに疑うのは良くないかもな。一応ルイズの婚約者みたいだし。さ、今夜はもう寝ようぜ」
とりあえずそう結論づけ、明日以降に備え寝ることにした。
翌朝、エルクは目を覚ますと、隣でまだいびきをかいて寝ているギーシュと置物のように動かないヂークを横目にベッドから起き上がった。顔でも洗おうかと思っているとノックが響いた。
「空いてるぜ」
「失礼するよ。おはよう使い魔君」
「…何か用か?」
入ってきたのは早朝から爽やかな笑顔を浮かべているワルドだった。
「おや、寝起きが悪いようだね。戦士たるものは睡眠はしっかり取るべきものだよ。おっと、要件はだね、ただ君に少し付き合って欲しいのだよ」
笑顔を全く崩さぬままワルドがそう言うと、エルクは頷いて壁に立てかけてあったデルフリンガーを掴み部屋の外に出た。
「ありがとう。では、ついてきたまえ」
案内されるままついて行くと、やや広い物置の様な場所に着いた。樽や空き箱が積まれている石の段には苔が生えており、造られてから長い年月が立っているのを感じさせた。
「昔…といってもきみにはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでは貴族がよく決闘をしたものさ。古きよき時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従い、貴族が貴族らしった時代、名誉と誇りをかけ……」
などと得意気に話しているワルドを尻目にエルクはデルフにヒソヒソと語りかけていた。
「なあ、デルフ。姫様といいコイツいい王族や貴族っていちいち芝居かかるもんなのか?」
「言ってやるな相棒。貴族ってやつは何事も自分を尊く見せたいもんなのさ。だから大抵の会話は自分の口上がほとんどだ」
(要は見栄っ張りってことかよ…ルイズにしても言ってることをどこまで信用していいものかわからねぇな)
「……そして立ち合いには、って聞いているのかい? まあいい、来たようだね」
ワルドがそう言うと、物陰からルイズが現れた。その表情はどことなく複雑そうだ。
「ワルド…本気で手合わせなんかする気なの?」
「ルイズ、わかってくれないかい? 貴族、とりわけ男というヤツはやっかいでね、強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
「…そう、それとエルク」
「ん、なんだ?」
ルイズは覚悟を決めたように言った。
「あなた、伝説の使い魔『ガンダールヴ』なの?」
「…! どこでそれを?」
「ああ、僕が昨夜教えてあげたのさ。僕は歴史に興味があってね。フーケを尋問したときに、彼女が君の事について、随分と語ってくれたからね。僕自身も君のことを色々と調べた結果、『ガンダールヴ』にたどり着いたワケさ。しかし、知っていたのに教えてあげなかったとはね。主人に対して随分冷たいじゃないか」
「……やっぱり知ってたのね。どうして黙ってたの?」
エルクはしまったと思った。オスマンからエルク自身の炎の精霊魔法は仕方ないとしても、伝説の『虚無』が関わるガンダールヴのルーンに関しては、ルイズの覚悟を見るまで極力秘密にするように頼まれていたのだった。だが、結果的にルイズに意図的に黙っていた結果になってしまった。
「フフッ、まあそういう訳だ。主人に対してその力を改めて見せてあげてもいいのではないのかい?」
(コイツッ!)
こんな状況ではエルクに断るという選択肢はなかった。
そうこうしているうちに、今度はギーシュが、キュルケとタバサを連れてやって来た。
「あら、なにか面白そうなことになってるじゃない! へぇ、子爵とエルクが? 面白そうじゃない。同じ火の使い手として応援したげるわ、エルク!」
「興味ある」
「どっちが勝つか、賭けるかい?」
どうやら完全に観戦モードになっているようだった。
「ねぇギーシュ? エルクと戦った相手として、どっちが勝つと思う?」
「う~ん、複雑だね。僕に勝利した男としてエルクを応援したい気持ちとメイジの誇りとして先住魔法を使うエルクに対して、子爵に勝利して欲しい気持ちがぶつかっているのさ」
「なるほどね。その気持ちはわからなくもないわ」
外野がワイワイと騒いでる中、エルクはどうしたものかと悩んでいた。
「ハハッ、しょうがねぇさ。この際腹くくるしかねぇよ相棒。そうそう、今更だけどよ『ガンダールヴ』って単語を聞いて少し思い出したんだがな」
「なんだ?」
「俺っちにはな、ある能力がってだな、それは……」
デルフが何かをエルクに話すと、いよいよエルクとワルドの手合わせが始まった。
「さあ、かかって来い! お望み通り『ガンダールヴ』とやらの力で戦ってやる」
エルクがデルフリンガーを構え、ワルドは軍杖を構えた。両者とも黙ったままジリジリと距離を詰めていく。
(コイツ、強いな。ギーシュやモット伯と違って隙がねぇ。接近戦にも自信がありってとこか)
(なるほど。ただ先住魔法の使い手というわけだけではなさそうだな。さすがはガンダールヴと言ったところか。『エア・ハンマー』では効果が薄かったな。ならば!)
ワルドが僅かに詠唱を唱えた瞬間、エルクは右側方へ軽やかに跳ねた。その一拍前にエルクがいた場所に鋭い塊が通り過ぎた。その後方に生えていた幹の太い木が抉られたように穴が空いた。ワルドの『エア・ニードル』が通り過ぎたのだった。
「あっぶねぇ、殺す気かよ……」
「フフッ、謙遜を。『エア・ハンマー』を受けてもかすり傷だったのだから、これくらいどうということはあるまい」
(あの距離から、かわすとは!?)
ワルドは内心動揺していた。まさか今ので決まるとも思っていなかったが、詠唱が短く、スピードを誇る『エア・ニードル』を無傷で躱されるとは思わなかった。
ワルドは軍杖に『ブレイド』をかけ、距離を詰め接近戦に持ち込んだ。ワルドが突き、エルクが払い、互いが攻撃を受けることなく避け、互いの武器が接触することはなかった。
ここまでほんのわずかな時間であったが、それを見ていた4人には数刻経過しているようにも感じていた。
「やるなぁ、流石は魔法衛士隊ってやつか?」
(こっちも本気ではないにしろ速いな。シュウ程ではないにしても俺の攻撃を悉く避けてやがる)
「ふふふ。侮ってもらっては困るぞ使い魔君。杖を剣の如く使い! 詠唱を素早く行い! 如何なる間合いからでも攻撃が可能なのだよ」
(とはいえ、あの剣の払い、受けたらマズイな。とても受けていられん。化け物め)
「使い魔君、確かに君は強い! だが、僕もメイジとして魔法衛士隊の隊長として負けるわけにはいかん!」
ワルドは再び距離をとり詠唱を唱え、『エア・ハンマー』を放った。
(奴は大技の攻撃を避けるときは右側に避ける癖があるな…避けた瞬間に最速の突きをお見舞いしてやる!)
だが、エルクは放たれた魔法を避けること無くデルフリンガーで振り払った。
「なろぉっ!!」
「なにっ!?」
『エア・ハンマー』はエルクの一払いでかき消され、ワルドは動揺した。エルクははそのわずかな機微を見逃さなず、既に踏み込んでいたワルドにカウンターで軍杖を弾き飛ばした。そして目の前に向けられた剣。
「っぐ、流石だね…僕の負けのようだ。婚約者の前でみっともないところを見せてしまった」
ワルドは手首を押さえ負けを認めた。
ギーシュ達がわぁっと押し寄せた。
「ハハッ、勝っちゃったよ。魔法衛士隊の隊長を相手に…さすがは僕に勝利した男だよ!」
「さすがわだわエルク! 炎なしでもあそこまで強いなんて!」
「…最後の魔法を打ち消したあの力は?」
戦い終わったエルクは、その勢いに押される。
「そうまくし立てんなよ…このオンボロの力だそうだ。手合わせの直前になって思い出したんだとよ」
「へぇ、そんな力が。案外掘り出し物だったのかもね。この剣」
「ハハッ、おでれーたか! まだまだ俺っちの力はこんなもんじゃねーぜ」
勝利に沸く4人と一本、そして黙ったままその場を去るワルド。その様子をルイズは複雑そうに見ていた。
「ナンじゃ? あさっぱらカラたいそうカ? ゲンキじゃの オイッチニーサンシー」
「うっさい!!!」
「ンガッ!?」
手合わせが終わった練兵場にバンッと鈍い音が響いた。
結局噛ませっぽくなってしまいましたかな……
私もワルドは重要なキャラであるとわかってはいるのですが、私ではどうしても絡ませるとこのような展開になってしまいまして(汗
数話は原作沿いと言っときながら次回はオリ要素入れたいと思います。
……いや本当毎回すいません(汗汗