炎の使い魔   作:ポポンタン

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第17話

翌朝 魔法学院正門前

 

翌朝、霧深い早朝の中、早々にルイズ達はアルビオンへ向かう為の馬の用意を済ませ、出発前の最終確認を行っていた。そんな中、ギーシュが唐突に聞いてきた。

 

 

「ところで二人とも、アルビオンに僕の使い魔も連れて行きたいんだが構わないかな?」

「あんたの使い魔?」

 

ルイズが問う。 ギーシュがキザったらしく指を鳴らし合図をすると、地面から小熊の様な体躯をしたモグラが突き破り現れた。

 

「紹介しよう! 僕の使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデだ!」

「…これから馬でアルビオンまで向かうのよ? あんたその意味解ってて言ってるの?」

 

 

ルイズが呆れた様にギーシュに言うと、胸を張りドンと叩いた。

「心配ないさ、僕のヴェルダンデは馬並みのスピードで地面を掘り進める。それにこんなにも愛らしい姿の使い魔と離ればなれになるなんて僕には耐えられないよ!」

 

そう言うと、つぶらな瞳のモグラにギュッと抱擁した。こうなってはテコでも動かさなそうだ。

 

「まあ、いいんじゃないのか? これ以上粘られると出発が遅れそうだしよ」

 

エルクは苦笑しながら答えた。

と、突然そのヴェルダンデがギーシュの抱擁を振り払い、馬に跨ろうとしていたルイズに襲い掛かり、その小柄な躰にのしかかった。

 

「キャア!! ちょっと何よこのモグラ、放しな…さいっ!」

「あはははは、懐かれてるじゃないかルイズ。」

「成る程…ヴェルダンデは君が持っている水のルビーに反応しているんだ。彼は珍しい鉱物や宝石が大好きでね、まさに土のメイジである僕に相応しい使い魔だろう?」

「笑ってないで助けなさいよっ!! 姫様から預かった大切な指輪なのよ!」

 

エルクがやれやれと言いながら、のしかかっていたモグラを引っペがし抱え上げた。

 

「ほらほら、あまりおいたをするもんじゃ……!?」

 

そうエルクがヴェルダンデに軽く説教をしようとした時、殺気を感じた。

 

「相棒危ねぇ! 右側からだ!」

 

デルフの叫びに、エルクは咄嗟に抱えていたヴェルダンデをギーシュに投げ渡すと、霧を切り裂き大砲の様な空気の塊がエルクを吹き飛ばした。

 

「エルク!?」

「誰だっ!?」

 

ルイズが悲鳴を上げ、ギーシュは杖を抜いて風が放たれた方へ油断無く構えた。

程なくして、こちらにゆっくりと歩いて来ているのか朝霧の中に一人の人物のシルエットが浮かび上がってきた。

 

「すまない、婚約者を襲っていたモグラ君を狙ったつもりだったのだがね……どうやらタイミングが悪かったようだ。あぁ心配しなくても良い、私は君たちの任務の同行者…」

 

その人物は羽飾りの付いた帽子を外し、一礼をした。

 

「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ワルドだ。護衛として君達への随行を姫様から仰せつかった…よろしく頼む」

 

ワルドと名乗った魔法衛士隊の制服を纏ったメイジは流れる様な動きで一行へ向けて一礼する。

驚きに呆然としているルイズ…

 

「ルイズ! 久しぶりだね僕のルイズ。ハハッ、相変わらず君は羽の様に軽いな。」

ワルドはそんなルイズに駆け寄ると爽やかな笑顔でその身体を抱き上げて再会の喜びを表現する様にそのままクルリと一回転した。

「ワ、ワルド様? …そ、その」

 

ルイズは複雑な表情でワルドから目を逸らし、一方を心配そうに見つめていた。

その視線を追うと、先程吹き飛ばした赤いターバン巻いた男に向けられていた。

 

「だ、大丈夫かね!? すまない、僕のヴェルダンデのために……」

「いてて、大丈夫だって、これくらい舐めときゃ治るって」

 

吹き飛ばされたエルクをギーシュが介抱している。ヴェルダンデもピスピスと鼻を鳴らして心配そうにしていた。

 

「おっと、すまない。ルイズ彼らを紹介してくれないか? 先程の詫びもせねば」

「あ、はい。彼らは……」

 

未だに困惑した表情でルイズはワルドに二人を紹介した。

 

「そうか、君がルイズの使い魔だったのか。人とは思わなかったな…いや、すまなかった。主人を助けていた君を吹き飛ばしてしまうとは。ハハッ、それにしても僕の『エア・ハンマー』を直撃して平気だとは、いや大したものだ」

「…いや、大したことねぇよ。あれくらいならな」

 

ワルドの軽い詫びに対してエルクは軽い皮肉で返した。ワルドの顔がヒクっとつり上がる。

 

「さ、さて、お互い紹介も済んだようだね。そろそろ出発しないかい?」

 

不穏な空気を察したギーシュが強引に話題を変えた。

ワルドはゴホンッと咳を鳴らして気持ちを切り替え、口笛を吹いてグリフォンを呼んだ。 それにワルドはひらりと跨ると、ルイズを一緒に乗せて、向き直って言った。

 

「では諸君、出撃だ!!」

 

 

「行ってしまいましたね…どうか彼等に始祖の加護があらん事を…オールド・オスマン、あなたは祈らないのですか?」

 

学院長室の窓からその様子を見ていたアンリエッタが手を組み祈りを捧げる。

その隣で学院長オールド・オスマンはのんきに鼻毛を抜いていた。

「見ての通りこの老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな……それに既に杖は振られておりますでの。それに使い魔のエルク君には杖を持たずとも先住魔法の力がありますゆえ、始祖の加護など無くとも自らの力だけで必ずやあらゆる苦難を乗り越えるでしょうからな」

「ウむ、しんぱいイラんジャロウ」

「!? それは誠ですか? ただの平民にしか見えませんでしたが…」

「さらに土くれのフーケすら圧倒するガンダー…ゴッホゴホいや頼りになる勇者ですわい」

「ユウシャではないがノう」

 

そんなオスマンの言葉に思う所あってアンリエッタは再び強く祈りを捧げる…

 

「ところでヂークさん? あなたはどうされたのですか?」

「ケッキョクおいてけぼりにサレたワイ。もぐらはツレテいったノニ……」

 

無機質な声だが若干恨めしそうに聞こえた。

 

「もぐらはツレテいったノニ……」

「「…………」」

 

 

 

「ねえ、ちょっとペースが速くない?」

「へばったなら、置いていけばいい」

そんな様子を見かねたルイズだったが、ワルドの答えは淡々としたものだった。確かに急を要する任務ではあるが、仲間や自分の使い魔を置いていくなんて、出来る訳がない。

「それは駄目よ! エルクやギーシュだって任務を受けた仲間なのよ!」

ワルドは、そんなルイズの表情を見て、茶化すようにこう言った。

「やけに二人の肩を持つね。どちらかが君の恋人かい?」

「こ、恋人なんかじゃないわ!!」

「そりゃあ良かった。もし君に恋人なんていたら、ショックで死んでしまうからね! …エルクといったかな? 彼も相当な実力者のようだね。 良ければ彼のことを教えてくれないか」

「エルク? エルクは……その」

 

ルイズは話してもいいものかと迷った。

遥か異国から使い魔として召喚し、強力な先住魔法を使えることやハルケギニアでの一連の事件に関わりがあるらしいなどと説明していいものか。でも、エルクはいつだって自分を守ってくれていた、自分に自信をくれた。そんなことを思い、簡単に説明していいものかとはばかられた。

ワルドはその沈黙をどう取ったのか

 

「やれやれ、参ったな…もしかして本当に彼が?」

「ち、違うって言ったでしょう! あ、あんな…へ、平民に…」

「ハハッ、冗談だよ。まさか君が使い魔に心を奪われることはないだろう。信じているよ」

「……」

 

 

 

「あ~もうすっかり影も見えなくなっちまったな。何をそんなに急いでいるのやら」

「日が落ちるまでにラ・ロシェールに着きたいのは解るけど、流石にね。このままでは到着する頃には馬を潰しかねない」

 

先にグリフォンでどんどん飛んでいってしまったワルド達にエルクとギーシュは愚痴をこぼしていた。

 

「そう言えば、いつぞやはすまなかったな。決闘とは言え少しやりすぎた」

「お、なんだぇ? 貴族の兄ちゃん、相棒に喧嘩ふっかけたてのかい? なかなか命知らずだなぁ!」

「え? あ、ああ、いいさ。元はといえば僕が不当な理由で振っかけた決闘だ。自業自得だよ。あれから頭と腕を冷やして反省したよ。思い出すと今度は顔が燃えそうな気分だよ、ハハハッ」

「そ、そうかい。あの時、二股かけたって言う女の子とは?」

「ああ、モンモランシーとケティのことか。ケティの方はあれから口も聞いてくれなくなったよ…モンモランシーは決闘の後、腕を火傷して治癒しても痛みが引かず、腕が使えなくなった僕を看病してくれるようになってね、あんな仕打ちをした僕を…それから僕は真の愛に目覚め、モンモランシーと仲直りをしたのさ」

「そりゃよかった……伏せろ!!」

 

パァン! パァン!

 

エルクが叫ぶと辺りに銃声が鳴り響く。銃弾がギーシュの頬を掠めた。

 

「な、何だ、今のは? 銃? 賊か、己卑劣な!」

「いいから隠れろ馬鹿! こっちだ」

 

エルクが馬から降りて岩陰に隠れる。ギーシュも後に続いた。

再び銃声が鳴り響き、エルクは狙撃手の位置を確かめる。

 

「よく不意打ちを受ける日だぜ、まったく。あの崖の上にいるようだな。人数は六、七人といったところか?」

「あそこからか、よし! エルク、僕に任せておきたまえ」

 

そう言うと岩陰から立ち上がり、堂々と前に出て杖を構えた。

 

「卑劣な賊ども! 僕のワルキューレが…」

「本物の馬鹿かっ! 危ねぇ!」

 

エルクがギーシュのマントを引っ張り、間一髪、再び放たれた銃弾を避けることが出来た。後一歩遅ければ蜂の巣になっていただろう。

 

「な、なんだ今のは!? 本当に銃だったのか? 連続で撃ってきたぞ!? あんな位置から正確に狙いを…」

「単発なわけねぇだろ! それにしてもいい位置に陣取ってやがる、厄介な」 

 

また再び銃弾が放たれ、隠れている岩を削っていく。

 

「このままじゃ埒があかないぜ。相棒、どうする?」

(こうなったら特大の炎で強行突破するか。いやそれだと、ギーシュを巻き込みかねないか?)

 

そう考えている最中、崖の上の方から悲鳴が聞こえてきた。岩陰からそっと見てみるとその訳がわかった。

 

「あいつらか! まったく暇な奴らだな。」

 

風に吹き飛ばされ、火に焼かれて満身創痍の盗賊達、そして止めと言わんばかりに光の魔法が降り注いだ。その上空にはやはりと言うべきか見慣れた青い一匹の風龍とその背にはタバサとキュルケ、おまけに恨めしそうにこちらを見る一機がいた。




内容をよく見返すと最近、エルク活躍させているようでさせてないかも。
なんかいまいち盛り上げられないような……すいませぬ。

銃の強さについては原作のゲームシステムから考えるとややこしいけど、無防備なときに当たれば(当たり前だけど)やはりやばいということで。

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