炎の使い魔   作:ポポンタン

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GW中は惰眠を貪っていました…

それでは王女様襲来です。


第16話

トリステイン魔法学院 正門

 

アンリエッタ王女のお迎えパレードが催され、辺は盛大な完成で包まれていた。エルクはキュルケとタバサと共に塔の頂辺からその様子を観察していた。

学院の生徒達が整列して作っている花道を如何にも王女らしい余所行きの白いドレスを纏った美少女が臣下達を引き連れてそこを歩く。 キュルケが興味無さ気に呟いた。

 

「へえ~あれが噂のトリステインの王女? この国には悪いけど、あたしの方が美人でしょ? ねぇエルク?」

「ん~? 結構美人だと思うけど、見ただけじゃ人となりはわからねぇな~」

「ふ~ん……そうね、意外とああいうのこそ腹の中で何を考えているかわからないものよ」

 

王女を観察しているエルクに、キュルケが何か含みのあるような言い方をする。

 

「そういうものか……ん? あれはルイズか?」

 

遠目で見た桃髪の少女は何やら惚けた顔をしていた。その視線を追うと、そこには豪華な羽帽子を被り、長い口髭を生やした凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴を持つ見事な幻獣グリフォンに跨っている。

 

(どうしたんだあいつ? あの貴族と知り合いか?)

「どうしたのエルク? なにか気になることでもあった?」

「ん? いや、なにもねぇけどさ。まあ、お姫様の顔も見れたことだし戻ろうぜ」

 

 

 

パレードが終了し、夕食を終えた後も、ルイズはずっと黙ったまま少し顔を赤くし心ここにあらずといった感じにフラフラとベッドに倒れこんでしまった。それから立ちあがったりフラフラしたり、ヂークベックをバンバンと叩いたり落ち着きのない行動をとっていた。

何か悪いものでも食ったかとエルクが心配していると、何者かが忍び、近づいてくる気配を感じた。

明らかに素人のそれであったが、こんな夜更けに音を立てぬように近づいてくる相手である。警戒することに越したことはない。

そして、ルイズの部屋の前で何者かが止まる。

 

「おい、ルイズ、部屋の前に誰かいるぜ。明らかに忍んできている」

「へ? な、なに?」

 

奇行を重ねていたルイズは正気に戻り、ドアを見つめる。するとドアがノックされた。

ドアが規則正しく叩かれる。初めに長く二回、それから短く三回……。

その音にはっとルイズが反応し、止めようとするエルクを無視し、急い小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。

そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女であった。

キョロキョロと辺りを伺い、誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入り、扉を閉める。

ルイズが声を出す前に、少女がしっと口元に指を立てる。

それから、漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出し、軽く振りながら、ルーンを呟く。

光の粉が、部屋に漂う。

 

「……ディティクトマジック?」

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」

部屋のどこにも監視されている部分がないことを確認すると、少女は頭巾を取った。

「姫殿下!」

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

その人物こそ、昼間のパレードの主役であったアンリエッタ王女その人であった。

 

 

「姫殿下、何故このような下賎な場所へ――」

「ああ! ルイズ、ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな! あなたとわたくしはお友達じゃないの!」

「もったいないお言葉でございます。姫殿下…」

 

などと、やたら大げさな身振り手振りで抱き合ったり涙を流したりしている。

 

「………」

 

いきなり繰り広げられた謎の寸劇に唖然とする一人と一機と一本。

 

「なあ……一体何が始まったんだ? お芝居の練習?」

「さあてね? お嬢様たちの感動の再会ってやつじゃねえの?」

「ワカらん!」

 

ヒソヒソと話していると、あらかた再会の挨拶や思い出話を終えたアンリエッタが今になってエルクに気づいた。

 

「あら、ごめんなさい、お邪魔だったかしら?」

「お邪魔? どうして?」

「だって其処の彼、貴女の恋人なのでしょう? 嫌だわ、私ったら、懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」

どうやら姫様はたいそう思い込みが激しいようだ。 一人でどんどんと妄想の翼を広げていっている。

「ち、違います!」

「あら、では何でこんな時間に――?」

「その男―――エルクは私の使い魔なのです」

「使い魔? てっきり貴方の使い魔はそこの……」

 

よくわからないといった顔の姫様の視線を追うと円柱状の頭をフラフラさせているヂークベックを見ていた。

 

「???」

「その……これは、一種のオブジェといいますか居候というか。まあ、私の下に付いていることには変わりありません…」

 

ルイズはしどろもどろに答える。自分だって何故これが自分の部屋に置いておくことになったのかわからないのだから。

 

「ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔から変わっていたけれど、相変わらずなのね」

クスクスと笑うアンリエッタ。その笑顔からは嫌味を感じられない。

「好きでこうなった訳じゃありません! けど、実力は保障します。サラマンダーやウインドドラゴンよりも、『土くれ』のフーケのゴーレムよりも、いえあのエルフにだって劣らないでしょう!」

 

「あなたがそこまで褒めるだなんて……ルイズ、あなたは素晴らしい使い魔を呼び出せたようですね」

 

実力については流石に少々半信半疑であったが、アンリエッタはルイズを心から祝福した。

 

「それで、お姫様はなにか御用があったんじゃないのですか?」

 

エルクが若干刺のあるような言い方でアンリエッタに尋ねた。その態度から暗に『早く本題に入ってくれ』と言っている。

 

「エルク! 姫様、使い魔が失礼を……」

「いえ、よいのです。ルイズ、確かにあなたにしか話せない事があってきたのですから」

 

アンリエッタは決心したように語り始めた。

 

「アルビオンでの貴族派『レコン・キスタ』による反乱については存じていますね」

「はい、確か国力は二分され膠着状態にあると聞きましたが…」

 

単純な兵の数では貴族派が圧倒的に有利であったが、王党派も精鋭のメイジを多く抱え、決して遅れを取ってはいないという事だったはずだ。

しかし、アンリエッタは首を振った。

 

「それが、違うのですルイズ、ここ最近になって貴族派が謎の新勢力を投入し、急激に力を増した様なのです。いまや形勢は完全に傾き、王党派は追い詰められ王室は倒れる寸前と、先の遠征から知ったところなのです」

「まさかそんな!? ……そのようなことになっていたなんて」

 

涙をこらえ語るアンリエッタの話にルイズは絶句する。アンリエッタは再び語り始める。

反乱軍はアルビオンの次にこのトリステインに侵攻してくるであろうということ。

それに対抗するためのトリステイン、ゲルマニアの軍事同盟締結、そしてその政略結婚の障害になりうるアンリエッタのウェールズへ宛てた恋文の存在。

何とかして回収しようにも自分の周りにはそれを任せられる様な人物は居らず、近く王党派は壊滅するだろうということ。

そこまでを話し、アンリエッタは絶望に暮れる様に両手で顔を覆い泣き崩れた。

 

「姫様、私にお任せください! その件の手紙、わたくしがアルビオンに回収に赴きます。この国、姫様の為ならばこのルイズ・フランソワーズ、この命をかけましょう!」

熱のこもった口調でルイズは言ってアンリエッタの手を強く握る。

「ルイズ、私の為に…あぁ、これぞ真の忠誠と友情です」

 

話がどんどん進んでいる中、デルフリンガーがカタカタとエルクに話しかけた。

 

「あららら、いいのか、相棒? 何だかとんでもない話になってきているぜ」

「……」

「相棒?」

 

エルクは考え込んでいた。アンリエッタの言っていた貴族派側についた『謎の新勢力』という言葉が引っかかっていた。

 

(奴らは人間同士の争いにつけ込んで動いていた…まさか今回も?)

 

この世界でのキメラ研究所の所在は全く不明である。ではキメラのような戦力が最も必要とされる場所を考えると…やはり、戦争中の国だろう。その国が研究所のバックアップを行っているのか、単に取り引き先であるかは分からないが、一枚かんでいる可能性が高い。

 

「あの、使い魔さん」

「ん? あ、はい」

「どうか私の、大切なお友達を、よろしくお願いします。任務の達成の暁には使い魔さんにも私からできる限りのお礼をお約束しますわ」

 

と、報酬を約束するアンリエッタにルイズが慌てたように言った。

 

「姫様! 使い魔に対してそこまでは…」

「ルイズ、例え使い魔であったとしても、忠誠には報いなければなりません」

「まあ、どうしても行くってんなら仕方ねえけどよ。コイツはどうするよ?」

 

バンッ とエルクがドアを開けると

「ぶへぇ」と、いつぞやの決闘をふっかけてきたギーシュが倒れ込んできた。

 

「ギーシュ!? あんた、今までの話を盗み聞きしてたの!?」

「ま、まあいいじゃないか! 姫殿下! お話は聞かせていただきました! このギーシュ・ド・グラモンも、姫殿下のお力になりたく存じ上げます!」

 

ギーシュの名を聞いたアンリエッタが首を傾げた。

 

「グラモン? あの、グラモン元帥の?」

「息子でございます、姫殿下!」

 

アンリエッタの疑問にギーシュは恭しく頭を下げる。

 

「ありがとうございます。あなたもお父上と同じく素晴らしい貴族なのですね。宜しくお願いしますわ」

 

アンリエッタの優しい微笑みにギーシュは感動しバタンっと仰向けに倒れた。

 

「あっ、大丈夫か、おい!?」

「平気でしょ、それよりエルク! 姫様があんたにも頼んだのよ! しっかり私に付いて来なさいよ!」

「まあ、俺も気になる所があるからいいけどよ……ルイズ、お前は覚悟はできてるのか? 戦争中の国に行くんだろ? 危ないってんなら俺だけで行ったほうがいいんじゃないのか」

「駄目に決まってるでしょ!! 使い魔だったらご主人様を一人にしないで守りきるとか言いなさいよ!」

「いや、でも……」

「エルク! お願い!」

「…わかった、一緒に行こう。でも、無茶はよせよ、危ないと感じたら引くんだ。いいな」

「わ、わかったわよ。まったく使い魔のくせに……」

 

そんなルイズとエルクのやり取りを見ていたアンリエッタが微笑ましく笑う。

エルクが恥ずかしそうに頭をボリボリと掻く。

(そういえば昔似たようなやりとりをしたっけな)

 

「とても仲がよろしいのですね。これなら安心してルイズを任せられそうですね。使い魔さん、改めて宜しくお願いします」

 

ルイズは顔を赤らめてアンリエッタの顔を向き直った。

 

「で、では明日の朝、アルビオンに向かって出発します」

「ウェールズ皇太子はアルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞いてます」

「了解しました。以前、姉達とアルビオンへ旅行に行った事がありますので地理にはそれなりに明るいと存じます」

「旅は危険に満ちています。貴族派は貴女達を止めようと躍起になってくるでしょう」

 

アンリエッタは懐から、封蝋がなされ花押顔された手紙をルイズに手渡した。

 

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」

 

そしてアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜いてルイズに手渡す。その指輪にエルクが反応した。

 

(あの指輪から強い精霊の力を感じるな。あれってもしかして精霊石なのか?)

「母君から授かった水のルビーです。身の証明にもなりますが、もしもお金に困ったら売り払い、旅賃に当ててください」

 

ルイズは今一度跪き、深々と頭を下げた。

 

「この任務には、トリステインの未来がかかっています。この指輪が、アルビオンの猛き風から、貴女方を守ります様に」

 

 

 

 

 

「ワシはむしカ? るすばんナノカ?」




アンリエッタとのやり取りは感想でも色々意見をいただきましたが、ゲームでもエルク達は割と無茶な感じだったので(王道展開ともいう)特に強く反対はしない方向にしました。
多少大人になってもエルクはエルクじゃないかなと思いましてw

この先数話は原作沿いだと思います。

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