炎の使い魔   作:ポポンタン

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話は本編に戻ります。

リーザ編を希望していた方には申し訳ないですがあまり横道にそれすぎるのもアレかも知れないので~
リーザ編が『俺達の戦いはこれからだ』的なことにはならないよう頑張って再登場まで続けるのでご容赦ください~(汗汗


第15話

ルイズは夢を見ていた。まだ小さい頃、トリステイン魔法学院に行く前の頃の…

 

「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わっていませんよ!」

ルイズは、生まれた故郷、ラ・ヴァリエールの屋敷の中庭を逃げ回っていた。

騒いでいるのは母、追ってくるのは召使である。理由は簡単、デキのいい姉達と魔法の成績を比べられ、

物覚えが悪いと叱られていた最中逃げ出したからだ。

 

「ルイズお嬢様は難儀だねえ」

「まったくだ、上の2人のお嬢様は魔法があんなにおできになるというのに」

召使達の陰口が聞こえてくる、ギリッと歯噛みしルイズはいつもの場所に向かう。

そう、彼女の唯一安心出来る場所、『秘密の場所』と呼ぶ中庭の池へと。

あまり人が寄りつかない、うらぶれた中庭。池の周りには季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチ。

池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。

その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。船遊びを楽しむ為の小船も、今は使われていない

そんなわけで、この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのはルイズ以外誰もいない。

ルイズは叱られると、いつもこの中に隠れてやり過ごしていた。

予め用意してあった毛布に潜り込み、のんびり時間を過ごそうとしていると……

一人のマントを羽織った立派な青年の貴族が、ルイズの小さな視界に写りこむ。

年は大体十代後半、このルイズは六、七歳であるから、十ばかり年上だろうと感じる。

「泣いているのかい? ルイズ」

つばの広い帽子に顔が隠されても、ルイズは声でわかる。子爵様だ。最近、近所の領地を相続した年上の貴族。

 

「子爵様、いらしてたの?」

「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」

 

「まあ!」

それを聞いてルイズは頬を赤く染めうつむく。

「いけない人ですわ。子爵様は……」

「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」

おどけた調子で言う子爵の言葉にルイズは首を振る。

「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」

そんなルイズに子爵はにこりと笑い手を差し伸べる。

 

「子爵様…」

 

「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじきパーティが始まるよ」

 

「でも…」

「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」

ルイズはその子爵の手をとろうとする。

炎が燃え盛った。

 

(えっ?)

 

炎が舞い上がり、周りの懐かしい風景を全て焼き尽くした。辺りの風景が一変する。

ルイズはいつの間にか山の中に迷い込んでいた。周囲の木々は赤く燃えている……

ふと、足元を見ると何かが転がっていた。

人だった。服装から見て平民の村人だろう。血を流してして倒れている。ルイズが初めて見る死体だった。

 

(ひっ!)

 

辺りを見渡すとまさしく死屍累々と言ったものだった。女、子供、老若男女関係ない死体が横たわっていた。

 

(なに!? これは一体何なの?)

 

ドキュン! ドキュン!

 

突然後ろから大きな炸裂音がした。

ルイズは振り返ると、そこには見慣れぬ軍服を来た兵隊が銃と思われる物を構えていた。

その先にはまた新たな死体が横たわっていた。

 

(殺したの…? 何故? こいつらは一体?)

 

兵隊は村人を殺したのをを確認すると奥の広場の方向へ集まっていった。ルイズも後を追う。

集まった場所には大きな炎が燃え盛っていた。

よく見るとそれは厳めしい顔をした巨人だった。威厳のある佇まいをしており、微動だにしていない。

それを守るかのように村人たちが囲んでおり、謎の軍隊が彼らを包囲していた。

 

「お前たち、何者じゃ!?」

 

村人たちの中の老人が兵隊に問い、軍隊の隊長らしき男が答える。

 

「死にたくなければ邪魔をするな」

「っく、何人たりとも、炎の精霊様には近づけさせんぞ!」

(炎の精霊!? それってエルクの言ってた…じゃあ、ここはエルクの…)

 

ルイズはエルクの語った話を思い出した。炎の精霊を守護するピュルカ族の民。彼らがそうなのだろうか。

 

「ふっ、命を捨てて精霊の盾となるか。いいだろう」

 

そんな村人の覚悟に隊長は残酷な笑みを浮かべた。兵隊が銃を構える。

 

「やめろぉぉぉ!」

 

その時、子供の声がした。見るとルイズも見覚えのある赤いターバンを巻いた少年が走ってきた。年は先ほどの思い出の時のルイズと同じくらいだろうか。

 

「エルク! 来るんじゃない!」

(エルク!? あの子は子供の時のエルクなの)

 

「やれ」

 

そして、隊長のその一言、その一言で無慈悲な銃声が響きその場のエルクを除く村人たちが殺害された。

 

「とうちゃん、じいちゃん…」

(なんて、なんてことを…)

 

ルイズは初めて見た戦場、いや虐殺の風景をみて絶句した。

家族を殺された少年のエルクが隊長達を睨む。

 

「おまえら、なんで、なんでみんなをころすんだ!」

「クク、何だ小僧、お前も同じ所へ送って欲しいのか?」

 

そんなエルクを隊長は笑う。周りの兵隊も下卑た笑みを浮かべる。

 

「ゆるさない…おまえたちも、ひどいめにあわせてやる!!」

 

その時、怒りに燃えるエルクの手が赤く光った。

赤い光を放つ炎の爆発が兵隊を覆い、兵隊たちは悲鳴を上げるまもなく骨も残らず消し炭になった。

 

「ば、馬鹿な!?」

(す、すごい。これがエルクの炎……私の爆発とは全然違う…)

 

隊長は言葉を失った。当然だろう。こんな幼い子供がこのような魔法を放ったのだ。

ルイズも驚いた。自分の子供の頃とは違い、子供のエルクはこんな強力な炎の魔法を放った。明らかにギーシュの時の魔法より強力だ。

「こんどは、おまえだ!」

 

エルクは再び炎の魔法を放とうとしたが発動しなかった。

 

「力を使い果たしたか…しかし、凄いものだな。これが精霊の力か」

 

驚く隊長に後ろに控えていた白衣の男が答える。

 

「仲間を殺された怒りが、爆発的なエネルギーとして働いたのだと思われます。いや、それにしても凄い…この子供、詳しく調べる価値があると思われますが」

「それより、先に精霊を運ぶ準備だ。持ち場につけ。急げ!」

 

隊長が命令すると兵隊が続々と集まってきた。

 

「シルバーノアを呼べ」

 

そう指示されると兵隊は空に信号を送った。しばらくすると辺りに影が覆う。ルイズが見上げると見たことのない巨大な物体が浮かんでいた。

 

(あれは、船なの? あんな巨大な金属の船が浮かぶなんて…)

 

驚くルイズをよそに兵隊たちは炎の精霊をワイヤーでくくりつけシルバーノアと呼ばれた戦艦に格納した。

少年のエルクはそれを見て絶望する。

 

「ああ、ああ…」

「ふん、引き上げるぞ。子供はサンプルとして、施設へ連れていけ」

「はっ」

 

そんなエルクを白衣の男が乱暴に手を引く。

 

「はなせ! はなせ、このやろう!」

(待ちなさい! エルクを、エルクを放しなさい! この!)

 

連れて行かれるエルクをルイズは助けようとするも触れることすら叶わない。

 

(やめて! やめてーーーーー!)

 

 

 

 

 

「お、おい! 大丈夫か」

 

「え、ここは?」

 

ルイズは目を覚ますと、今度は見慣れた魔法学院の自分の部屋にいた。

目の前には大人のエルクがいる。

 

「すげぇうなされてたぜ、何か悪い夢でも見たか」

「え、その、まあそんなとこ…なのかな」

 

ルイズは嫌な汗でびっしょりとネグリジェを湿らせていた。

エルクは心配そうに手を差しだした。ルイズは今度こそ手をつかみ、ベッドから起き上がった。

 

「ほら、起きな。早くしねえと遅刻するぜ。……どうした?」

「へ?」

 

ルイズは間抜けな返事をすると手をつかんだまま手を離していなかった。

顔を赤らめすぐに離そうとするが、先ほどの夢の光景を思い出すと離すことができなかった。

エルクがどこかに連れて行かれてしまいそうで……

 

「……オジャまだったカ?」

 

びくっとルイズが反応すると変な物体がこちらを見ていた。

『ヂークベック』先日、フーケから取り戻した学院の秘宝であるが独立した自我を持っていたため、オールド・オスマンの恩人として学院に留まることになった。

そして何故かルイズの部屋で居候となっていた。

 

「そ、そんなんじゃないわよ! ジロジロ見ないで!」

 

ルイズはエルクの手を振り払うと、逃げるように顔を洗い始めた。

 

(あれが……エルクの過去なのかな?)

 

ルイズは、夢の中の出来事を思い返していた。

立ち上る血と燃え上がる炎。炎の精霊にピュルカの民。謎の軍隊に襲われた後、どこに連れて行かれたのか。

本当はエルクにそれらのことを聞きたかった。

だけど、それは聞いてはいけない過去だというのも分かっていた。あんな悲惨な過去を、嬉々として語る人など、まずいないだろう。だからこそ今まで話してくれなかったのだろうから。

だから、自分は何も見なかった。今は、そういうことにしておくべきだ。

あの夢は、早く忘れるべきだ。それが、自分とエルクにとっても良いことだろうとルイズは結論した。

「…で、ルイズ、いつまで顔を洗ってるんだ?」

そんなルイズの気を知らずに、呆れたような口調でエルクはそう言った。

 

 

そして、今日の授業が始まった。担当するのは、どこか根暗な雰囲気を漂わせる教師、ミスタ・ギトー。

フーケの騒動の時、やたら揉めては色んな教師を批判しては責任を押し付けていた男だ。自身の扱う風の系統をよく自慢しているが、フーケ捜索には名乗りを挙げなかった。

要は、その程度の器量の持ち主なのだ。当然、生徒からも人気はなかった。

 

「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」

教室中が、シーン…と白けた空気になる。

その様子を畏怖と感じたのか満足げに見回し、ギトーはキュルケを指した。

「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」

「『虚無』じゃないんですか?」

 

「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」

「『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー」

キュルケが髪をかき上げながら答える。さり気なくエルクと目を合わせパチッとウインクをする。

 

「ほう。どうしてそう思うね?」

「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」

「残念ながらそうではない」

ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。

「試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」

彼女を挑発するギトーの物言いに、キュルケの形のいい眉が吊り上がる。

「どうしたね? 君は確か『火』系統が得意なのではなかったのかな?」

 

「火傷じゃ…すみませんわよ」

 

「構わん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」

ギトーの挑発に乗ってキュルケが呪文を唱え始める。直径1メイルほどの火球をつくりあげた。

キュルケが手首を回転させ、ギトー目掛けて炎の球を押し出した。

ギトーは唸りを上げて自分目掛けて飛んでくる炎の球を避けるどころか、杖を横振りに薙ぎ払う。

烈風が舞い上がり、炎の球はかき消える。そして、舞い上がった烈風がキュルケに襲いかかった。

 

「あっ…!」

 

ドゥ!

 

吹き飛ばされるかと思われたキュルケの前に炎の障壁がギトーの風の魔法をかき消した。

 

「どうだ、火もなかなか侮れないだろ? おっさん」

「エルク! さっすがぁ!」

 

声の方を見るとエルクがやれやれといった表情で見ていた。そんなエルクをキュルケは抱擁する。

それを見ていた生徒たちは以前とは異なり賞賛の声を上げた。

 

「おっさん…!? 貴様は……図に乗るなよ。辺境の蛮族が! 先住魔法といえど風の真の力の前では抗えぬことを見せてやる!」

(……まんま小悪党のセリフだな。)

「ユビキタス・デル・ウインデ……」

 

そこまで唱えたとき、急にバァンと、大きな音を立てて扉が開いた。

「おっほん、今日の授業は全て中止であります!」

扉を開けた本人、ミスタ・コルベールは、いつもとは違う珍妙な格好をしていた。

金髪ロールのカツラを被せ、ゴテゴテとした派手な礼装をしている。普段の彼のある部分知るものから見れば、その姿は、滑稽な出で立ちだった。

 

「えー、皆さんにお知らせですぞ」

コルベールは、勿体つけた調子で口を開いて、その途中カツラが取れた挙句タバサに「滑りやすい」と指摘されて、大笑いされる生徒たちを普段の彼からは聞いたこともない怒鳴り声で黙らせた。

「やかましいぞ! 糞餓鬼共が! ……えー、皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。」

 

そう言うと、改めて生徒達の前に向き直り、声高で口を開いた。

「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます!」

 

途端に、周囲がざわめき出す。当然だ。アンリエッタ姫は、トリステインの間では知らないものはいない程の有名な王家の一人だ。

ギーシュなどを始めとした貴族が、皆彼女のために命と杖を捧げる者が後を絶たない高嶺の花であり、人気者だ。

その彼女が、ここトリステイン魔法学院へと訪れるのだから、この反応は当然といえた。

「姫さまが、来る……?」

エルクは、そう呟くルイズの横顔を見た。キョトンとした顔で、何とも夢を見ているような、そんな惚けた表情をしていた。

コルベールは、辺りを見回して、静まり返るところを見計らうと、最後にこう叫んで締めくくった。

「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!」

 

(……王族ね)

 

正直、エルクは王族というものにはあまりいいイメージを持っていなかった。

共に旅をしていたミルマーナ王国王女、サニアは祖国を奪われ放浪の身になっていたが 、その誇りを失っていなかった。

しかし、エルクのいた世界、最大の大国、ロマリア王ガイデル。彼は最後まで愚かで闇黒の支配者の傀儡であった。アークたちに追い詰められ封印を解いてしまい、用済みになると塵も残さず消されてしまった。

ロマリアに次ぐ大国、グレイシーヌ王リュウゲン。脆弱な男で凶悪なミルマーナ軍の侵攻に対して戦う前に全面降伏を決め、切り札であったラマダ僧兵を明け渡そうとした愚かな国王であった。

双方とも養殖ヘモジーよりも馬鹿で臆病、というのがエルクの印象だった。

世界最大の大国と言われた国王がその有様であったからその印象も無理もないだろう。

 

(さてこの国のお姫様はどんなもんかな?)




今回は少々原作セリフが多くなってしまった感じですが幼いルイズとエルクの対比みたいなのを書いてみたかったのでw
それとエルクは自分の過去の肝心なとこは話していないということです。

…もし、リーザ達の逃亡劇編が必要である感じならその内書こうかなw

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