炎の使い魔   作:ポポンタン

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第13話

学院長室

 

 

オールド・オスマンは困った表情でふ~っと溜息を吐き、その隣ではコルベールが困惑している。

 

「……まずどこから驚いていいのやら」

 

「まさか、こんなことになっていようとは……」

 

フーケ討伐を果たし、凱旋したルイズ達を出迎えたオスマン達は喜びの表情から一転、驚愕の表情に変わった。あのフーケの正体が秘書を務めていたミス・ロングビルであり、当の盗まれた秘宝はと言うと一行の後をひょこひょこと自律的に歩いて付いてきているのである。

 

「ナンのことジャろ?」

 

「……まあ、まずミス・ロングビルの正体がフーケであったことを驚くか。美人だったものでろくに素性を調べずに採用してしまったわい」

「いったい、どのような流れで採用されたんですか?」

 

「街の居酒屋で出会っての。儂は客で彼女は給仕をしておったのじゃが、……ついついこの手がお尻を撫でてしまってのう。それでも怒らんかったので、その心の広さに感動してつい……」

 

そこまで言った時、周りの視線が冷たくなったことに気づいたオスマンは咳払いをして真面目な表情で今回の討伐隊の四人を見る。

 

「お、おほんっ! さてと、君たちはフーケを捕まえ、秘宝も取り戻し……いや連れ帰り? まあ良い、とにかく解決したことには変わりはない。ミス・ヴァリエールとミス・キュルケにはシュヴァリエの爵位申請を、ミス・タバサは既にシュヴァリエであるので精霊勲章の受勲申請をしておいたぞ」

 

学院長の言葉に先ほどまで冷たい顔をしていた三人の顔がぱあっと明るくなる。

 

「本当ですか!?」

 

ルイズとキュルケが驚いた声でいった。

 

「本当だとも。君たちは、その位のことをしたんじゃからな。おお、そうそう使い魔のエルク君には約束通り賞金を渡そう。まだ受理はされておらんが、この場でワシが立て替えておこう」

「それはありがたいが……いいのか?」

「当然じゃ。本来君にも勲章を授与すべきじゃが、それは叶わんからの。せめてもの礼じゃよ」

 

エルクはオスマンの好意をありがたく受け取ることに決め、ずしりとした金貨の詰まった袋を受け取った。ルイズは複雑そうな声で言った。

 

「エルク、本当にそれだけでいいの?」

「それだけって、これも結構な大金だろ?」

「そうじゃなくて……」

 

貴族としての誇りを第一とするルイズには、名誉よりも金の方をありがたく受け取るエルクに複雑な思いを感じた。無論、エルクが金だけを信じるような人間ではないことはわかっていたが、何だかルイズは面白くなかった。

 

「さあさあ、今宵はフリッグの舞踏会じゃ。事件も一応無事に解決した。予定通り執り行うぞ!」

 

オスマンはポンッと手を叩き言うと、キュルケが嬉しそうに言った。

 

「そうでした!フーケの騒ぎで忘れていました! 急いで準備しなきゃ」

「うむ、今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。着飾るとええじゃろう」

 

嬉々として部屋を退室する三人についていこうとしたエルクと一体にオスマンが声をかけた。

 

「すまんが、エルク君とその……ガーゴイル君は残ってくれんか? まあ、理由はわかってくれるの?」

(やっぱ、誤魔化せないよな)

 

「??? ワシのことカ?」

「そうですね。知性を持つガーゴイル。インテリジェンス・ガーゴイルと言ったところでしょうか? 君は彼?のことを知っていたようですね。ぜひ教えてもらいたい!」

 

興奮気味に尋ねるコルベールにエルクは何から説明したらいいか悩みながら話した。

 

「まあ、なんていうか……ここまで来たら全部話すか。とりあえず、爺さん、あんたこの『ヂークベック』をどこから拾ってきたんだ」

 

「ほう、ヂークベックという名じゃったか。そうじゃのう、あれは数年前のガリア王国で開かれた研修会の帰り、凶悪なワイバーンの群れに襲われたのじゃ。あわやという時にそのヂークベック君がひょっこり現れての。強烈な光の魔法でワイバーンの群れを焼き払ってくれたのじゃよ。だがのう、その焼き払ったワイバーンの骸が落ちてきて彼に直撃したのじゃ。それ以来、ピクリとも動かなくなってしまっていたのう」

 

「ソンなこともアッタかの?」

 

「……まあよい! 自我があるというのなら恩人を秘宝として置いておく訳にはいかんじゃろう。もともと今回の件で一番の問題であったのはフーケに学院に侵入を許し、まんまと秘宝の強奪を許し逃亡させた事実にあった。しかし、その件は解決した。ヂークベック君にはワシの恩人として客人扱いということにしよう」

 

オスマンの言葉にコルベールは少し残念そうな顔をした。ヂークベックの構造を詳しく調べたいと思ったがこうなってはそれもかなわないだろう。

 

「ソウしてクれ、ワシのコトじゃったナ。ワシはユウシャをマモるために、ツクラれたのだ」

「勇者とな?」

 

オスマン達は怪訝そうな顔で言った。確かにいきなりそう説明されても信じられないだろう。

エルクがなんとか説明しようとする。

 

「あ~確か3000年前だったか? 七勇者と呼ばれた英雄を護衛するために作られたロボットだったよな。あんたらの言うガーゴイルとは少し違うかな。魔法による技術も入っているかもしれないが大部分は科学の力で動いているからな」

 

「3000年前!? かがく? むむぅ、これはまたにわかに信じがたい話だが、いやはや君のいた国々には驚かされることばかりだ。遠くとは言え今までハルケギニアに噂も届かなかったとは、世界は広いものですな」

「そのこともなんだが、どうやら俺達は別の世界からやってきたみたいなんだよ」

 

エルクはそう言うと、オスマンに自分の世界のことをぽつぽつと語り出した。

 

「うむむ、これだけ信じがたいことが続くとかえって信憑性があるの。確かにそれだけの技術がありながら今までハルケギニアと接触がなかったのも頷ける」

「ああ、キメラやヂークの事といいどうやら使い魔の召喚以外の方法でもこちらに渡ってきたものがあるみたいだな」

「……オールド・オスマン、彼もここまで話してくれたのです。我々もルーンのことを話すべきでは」

「うむ、確かにそのとおりじゃ」

 

二人で頷き合うコルベールと学院長にエルクが問う。

 

「このルーンを知っているのか?」

「……そのルーンはの伝説の使い魔に刻まれていた印じゃ」

「伝説の使い魔?」

「そうじゃ、ありとあらゆる武器を使いこなしたという使い魔ガンダールヴのルーン。そして我等の偉大なる始祖ブリミル、虚無の守り手の証でもある」

「待てよ、虚無って確か……」

「うむ、君も大まかには聞いておるじゃろう。今は失われた系譜。六千年前にこの地に降臨した始祖が使っていたとされるメイジの系統じゃな」

「なんだってまた俺に? 俺はルイズの使い魔として召喚されたんだよな? それって」

 

オスマンは首を振った。

 

「わからん。だが、この数年のハルケギニアでの異変には君の世界が関わっているようじゃ。魔法が使えんと言われたヴァリエール嬢が君を呼び出したというのも偶然ではないのかもしれん。彼女が虚無の担い手なのかはまだわからん。だが出来れば君にはしばらく彼女のそばについていて欲しい」

「ああ、ここまで来たらもう無関係とは言えそうにないしな。ずっと使い魔でいる事は約束できないがもうしばらく付き合うぜ」

 

オスマンの言葉にエルクは力強く答えた。

 

「うむ、今はそれで良い。さて、長く引き止めて悪かったの。君も舞踏会を楽しむといい」

 

今度こそ部屋から退室する。エルクは窓から空を見上げて思った。

 

(アーク、ククル。あんた達が守った世界に戻るのはしばらく後になりそうだ。必ず戻ってくるから待っててくれよな)

 

「ちょっとエルク、なにボケっとしてるの! あんたも私の使い魔として出席するのよ! 早く来なさい」

 

もはや聞き慣れた怒鳴り声が響く。こっちの気も知らずにと不満を感じつつ、エルクはルイズのもとへ向かった。

置いてきぼりにされるヂークベック。

その(本当に)無機質な表情からは何を考えているか読むことはできない。

誰もいない廊下で静かにつぶやいた。

 

 

 

 

「……私が再び目覚めたということはこの世界においても脅威が迫っているようだな。しかし、数千年に渡り交わることのなかった世界が、なぜ今になって関わりだしたのか……」

 

そう呟くとヂークベックもエルクたちのあとを追った。




ようやく一巻分終わりました……
設定の説明とか難しいですね(汗

次章は魔獣を操るあの娘も登場させたいと思います。エルクたちと関わるかは別にしまして

……あと個人的にここまで存在してなかったゼロ魔のキャラも登場させてあげたいかなと

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