炎の使い魔   作:ポポンタン

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いつもより少々長く、そして詰め込みました(汗


第12話

翌日、トリステイン学院は噂の盗賊『土くれのフーケ』襲撃という前代未聞の大事件に大騒ぎになっていた。

分厚い壁に厳重な『固定化』の魔法が掛けられており、壊れるはずのない宝物庫の破壊。

そこで守られていた秘宝『最強のガーゴイル』をまんまと盗まれた事実。

そして犯行現場である宝物庫に残された『最強のガーゴイル、確かに領収いたしました』という犯行の旨を記したカード。

まさに学院創設以来初の大事件であり、同時に、過去に例を見ない大失態でもあった。

学院長室では教師たちをはじめとする関係者が集まり、緊急の会議が開かれた。が、内容は、平民どものせいだ、当直の教師のせいだなどと不毛な責任の押し付け合いであった。

そんな空気をオスマンが一喝で黙らせ、口を開いた。

 

「生徒の前でみっともないところを見せてしまったの……さて、君たちに集まってもらったのは他でもない、『土くれのフーケ』による学院襲撃の件についてじゃ。昨日のうちに犯行の現場を目撃し報告したのは君たちだったわけだが、ここであらためて報告してくれんかの?」

 

オスマンはそう言うと学院長室に呼びつけた三人と一人の使い魔を見る。

そこには沈痛な表情のルイズにキュルケに、相変わらず無表情のタバサ。そして、現場に居合わせることができず気まずそうな使い魔のエルクの姿があった。

ルイズとキュルケが襲撃の件を詳しく説明する。

エルクはそんなルイズを心配そうに見ていた。

 

「ふむ、白昼堂々と現れたフーケのゴーレムに応戦しようとしたとな。して、宝物庫を破壊しようとしたゴーレムに魔法を放ったら宝物庫の壁を崩壊させてしまったと?」

 

「はい……」

 

ルイズが俯いて返事をした。

ルイズは処分を受ける覚悟をしていたが、そのことにコルベールが答える。

 

「それは考えすぎではありませんか? 宝物庫の『固定化』は生半可な魔法では通用しないはずです。ましてや学生の魔法、それも……」

 

と、フォローのつもりが余計な失言を出そうとしたところで口を塞いだ。

学生をかばうつもりで傷つけていたら世話はない。

そんなことを考えていると突然ドアから秘書のロングビルがなに食わぬ顔で現われた。

 

「ミス・ロングビル、どこ行ってたんですか! 大事件ですぞ!」

 

「申し訳ありません。昨晩から急いで調査しておりましたので。フーケの所在らしき場所が分かりました。」

 

ロングビルが言うには近くの森の廃屋がフーケの隠れ家ではないかということだ。

学院に起きた一大事、一人の教師が王宮への報告と王室衛士隊の手配を進言したが、その間にフーケに逃げられてしまう可能性と自身の問題は自分たちで解決するというオスマンの意向で却下された。

そのためすぐに捜索隊を結成することになったが誰も自ら行こうとしない。

重苦しい空気が流れるその中で静かにルイズが杖を掲げる。

 

「私が行きます!」

 

問われなかったとは言え宝物庫の壁を破壊したのは紛れもなく自分だ。その責任は必ず取る。

そしてフーケを捕まえて誰も彼も見返してやる! そう決心し凛々しく名乗りを上げた。

それを見て驚いたミセス・シュヴルーズが声を上げる。

 

「あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」

 

しかしその言葉を遮り、続けて杖を掲げたのはキュルケであった。

 

「ヴァリエールが行くというのなら負けられませんわ。」

 

さらに続けてタバサも杖を掲げる。

 

「タバサ。あなたも来てくれるの?」

 

「当然、友達」

 

そして、ルイズの使い魔であるエルクも力強く手を挙げた。

 

「俺も行くぜ。肝心な時に居合わせられなくて悪かったな」

 

エルクも名乗りを上げる。その言葉にルイズは嬉しく思ったが顔を背けて言った。

 

「と、当然よ! 使い魔についていくのは当たり前なんだから」

 

教師たちがどよめくも、その様子にオスマンも満足そうに頷いた。

 

「ふむ、では君たちに頼むとしよう。ミス・タバサ、エルク君、君たちも参加してくれるというのはありがたい。しかし、貴族ではないエルク君には報奨は約束できん。その代わりと言っては何じゃがフーケを捉えた暁には賞金を渡そう。それでいいかね?」

 

ありがたい、とオスマンの条件にエルクは快く応じた。

貴族に与えられる報奨などと言っても名誉だの勲章だのそんなところだろう。

ハンターである自分にとって、賞金の話はむしろ願ったりの条件だった。

こうして3人のメイジと精霊魔法を扱う使い魔の4人の討伐隊が結成された。

 

 

 

 

フーケの隠れ家のある森へは馬車を使い向かうことになり、御者はフーケの隠れ家を突き止めたロングビルが案内も兼ねて務めることとなった。

馬車に揺られながらエルクは手綱を握るロングビルに尋ねる 。

 

「ロングビルさん、だったけか? あの学院長の秘書なんだろ、あんたも貴族なのか?」

 

「メイジと言ってもいろいろですよ。わたくしは貴族の名をなくした者ですから」

 

その言葉にキュルケが反応した。

 

「あら初耳ですわ。秘書であるというのだからそれなりの出かと思いましたが」

 

「ええ本来はそうですね。でも、オスマン氏は貴族や平民だということにあまり拘らないお方です」

 

「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 

ロングビルは困ったような笑みを浮かべそれを返事とした

それを見たルイズが人の過去を根掘り葉掘り聞くものではないとキュルケを止めた。

 

「それもそうね。ごめんなさいね、ミス・ロングビル」

 

「いえ、いいのです、お気になさらないでください。まあ強いて言えば家族のためにここにいると言ったところですかね」

 

そう言うと優しい笑みを浮かべた。

 

 

森に入ると一行は馬車を降り徒歩で移動していた。

目的地の小山での道は整地されておらず馬車が通れなかった為だ。森は鬱蒼と茂る木々が日の光を遮り昼でも薄暗く感じられる。

一行がしばらく歩くと森の中が急に開け空地のような場所に出た。その真ん中に話に出ていた廃屋がたっていた。

しばらく使っていなかったのだろう廃屋の周辺は草が生い茂り、割れた窓枠にはクモの巣がはっていた。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいると言うことです」

 

ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。

まずエルクとタバサが廃屋に徐々に近づいていく。エルクは罠に注意しながら進み歩いていたが、よく見ると自分達のほかに、廃屋の周りには真新しい足跡が残されている。

 

「廃屋なのに人のいた形跡があるな。フーケとやらが使っていたに間違いないだろうな……」

 

そっと廃屋の外壁に張り付いて割れた窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。

タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。

慎重に中を覗き、人が居ない事を再度確認してエルクとタバサは中に侵入し後からルイズも続いた。

廃屋の中にも新しい足跡は残されていた。

 

「誰もいないようだが、その盗まれたお宝とやらはどこにあるんだ?」

 

エルクが中を見渡すがそれらしきものは見つからない。

するとタバサが比較的新しい布で覆われたオブジェを発見した。それを捲ると……

 

「……これが『最強のガーゴイル』?」

 

奇しくもフーケと同じ反応をしたタバサ。

無理もない、その外見は『最強』などとは程遠いものだった。

 

「お、見つけたのか?」

 

エルクとルイズが近づく。そして凍りついた。

 

「なによコレ? ただの趣味の悪い人形じゃない……」

 

「ハハハッこりゃ傑作だ。ひょっとしてフーケの奴、盗んだはいいがガラクタと判断して単にここで不法投棄していっただけじゃねぇの?」

 

いきなりデルフリンガーが笑い出す。

癪に障る笑い方だったが、むしろそっちの可能性が高いかもとすら思ってしまった。

その人形は錆色の寸胴鍋のようなずんぐりとした形で、申し訳ない程度の手足や顔?らしきデザインが施された物だった。とても『最強』を冠するとは思えない。

白けた空気の中、エルクだけが未だ呆然としていた。

 

(なんでコイツがここに……てか何やってんだこのポンコツ)

 

「ま、まあいいわ。ほかにフーケの手がかりは無さそうだし一応これも運び出しましょう」

 

仕方ないのでタバサがレビテーションでそれを浮かべエルクが支えて補助し運ぶことにした。

見かけによらず重量がある。

 

(っくそ、覚えてろよこのポンコツ)

 

エルクが心の中でそう毒づき小屋の外に出たところでエルクとタバサは殺気を感じ取った。

 

「どうやら捨てたわけではなさそうだな。フーケとやらのお出ましだ!」

 

目線の先には例の30メイル以上のゴーレムが近づいてきた。

 

「ルイズ! タバサ!」

 

同じく異変に気づいたキュルケがこちらに駆け寄り参戦した。

 

「ルイズ! お前はそのポンコツと一緒に待機していろ!  コイツは俺たちに任せろ」

 

デルフリンガーを抜いたエルクはルイズにそう言い残しゴーレムに突撃した。

 

「な、っちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 

ルイズの返答を聞く間もなく、3人はゴーレムに対し戦闘に入った。

 

(な、何よ。毎回毎回! わ、私だって出来ることが……)

 

そう考えたが何も思い浮かばなかった。唯一の爆発も前回の失敗で使うのは躊躇われた。

その間にも戦いは繰り広げられていた。

 

(何よ何よ何よ! どいつもこいつも馬鹿にして!)

 

そう憤慨するルイズは目的のガーゴイルが自分を見つめているような気がしてきた。

そのまぬけ面にさらに馬鹿にされているように感じたルイズは激高した。

 

「何見てんのよ! あんたまでこの私は馬鹿にする気!? どいつもこいつもいい加減にしろーーっ!!」

 

ボガンッ

 

そうブチ切れたルイズは腰の入った見事なミドルキックをガーゴイルにぶちかました。

 

「ンガッ!?」

 

ガガガガッピピピ

 

突然ガーゴイルが作動し、まぬけな声を上げるとわけのわからない動きを始めた。

 

「な、何? 私なにかした?」

 

どの口でそういうのかルイズが怯えていると、ガーゴイルから激しい閃光がゴーレムに向けて発射された。

 

 

 

「なろぉっ!!」

 

ザンッ!ザンッ!

 

エルクがゴーレムの攻撃を巧みに避けながら斬撃を繰り返す。

しかし、腕や足を斬り落としてもすぐに再生されてしまい決定打にかけていた。

タバサやキュルケも魔法で援護している。彼女らは決して弱くはないが術者のフーケは姿を見せず、攻めあぐねていた。

 

(さすがにギーシュとやらのゴーレムとは格が違うか)

 

「相棒、使ってくれているのはありがてぇけどよ、流石にジリ貧だぜ」

 

「だな、一気にケリをつけるか。キュルケ、タバサ! 離れていろ!」

 

炎の嵐よ、すべてを飲み込め!

エルクがそう唱えようとした時、背後から飛んできた鋭い光がゴーレムを貫いた。

 

次の瞬間

 

目を覆う発光と耳をつんざくような爆音が響き、ゴーレムの上半身がばらばらに飛び散った。

土の塊があたりに散らばる。残ったゴーレムの下半身は見る見るうちに崩れ、ただの土へと戻っていく。

 

(今のはまさか『スーパーノヴァ』!? 放ったのはやっぱり……)

 

キュルケとタバサがルイズに駆け寄る。

 

「ルイズ! 今のはあなたがやったの!? すごいじゃない!」

 

「わ、私じゃないわよ。このポンコツが……」

 

ルイズが指をさすとガーゴイルはもう動いていなかった。

 

「このガーゴイルが放ったわけ? さすが『最強』ね。でも今まで誰も動かせなかったガーゴイルを動かすってのもさすがじゃない」

 

少々含みのある言い方だったがルイズはまんざらでもなかった。

 

「……まだ終わっていない」

 

タバサが浮かれる二人にくぎを刺した。二人も頷く。

 

「そうね。結局フーケは何処?」

 

その時、ルイズの背後から声がかけられた。

 

「皆さん、ご無事ですか」

 

声の主は、いつの間にか姿をくらませていたミス・ロングビルであった。

 

「申し訳ございませんわ。先頭では役に立てないと思い、せめて術者のフーケを探そうと思っていたのですが、結局見つからず……あら、ミズ・ヴァリエール、そちらが例のガーゴイルですか?」

 

「ええ、フーケは取り逃がしたようですが、一応取り戻すことができましたわ」

 

「それは素晴らしい。では…」

 

ロングビルは微笑みながらルイズに近寄るとルイズの手を強引に引き、自分の元へと乱暴に引き寄せる。

 

 

『ルイズッ!!』

 

エルク、タバサ、キュルケの三人の声が重なる。

 

 

「全員杖と武器を捨てて腕を頭の上に乗せな!!」

 

 

ロングビルは今までの態度を一変させルイズの喉元に『ブレイド』で強化した杖を突きつけてみせるとエルク達を鋭く睨んで言い放った。

 

「ミス・ロングビル何故あなたが…」

 

杖を手放しながらキュルケがロングビルに問いかける。

 

「彼女がフーケ」

 

「フフフ……ご名答その通りだよ」

 

「なんでまたこんな回りくどいことを?」

 

エルクが尋ねるとフーケは得意そうに語った。

 

「なに、せっかく苦労して盗んだお宝がアレだったんでね。美的価値の欠片もありゃしない。使い方が分からなきゃただのゴミだったんでね、魔法学院の誰かなら使い方を知ってると思って討伐隊をおびき寄せたのさ」

 

そしてルイズを鋭く睨みつける。

 

「まさかヴァリエールのお嬢ちゃんが動かすとはね~。さあ、答えな! どうやって発動させたんだい!」

 

どうやってと言われてもルイズは答えられなかった。

まさか癇癪を起こして蹴りをかましたら魔法を放ちました。などとは言えないし信じてもらえるとも思えない。

そんな中、エルクがう~ンと唸りながら答えた。

 

「さぁてな、本人に聞いてみたらどうだ?」

 

本人? その場にいた全員が怪訝な顔を浮かべた瞬間、

 

「ワシにカ?」

 

突然発せられた男の声にエルクを除いた全員が戸惑う。

声のもとを見ると当のガーゴイルがぐわんぐわんと頭?を回していた。

 

『喋った!?』

 

今度はフーケ、ルイズ、タバサ、キュルケの四人の声が重なる。

その一瞬の隙を見逃さずエルクがフーケに詰め寄り、ルイズに突きつけられていた杖を奪った。

 

「しまった!?」

 

フーケがガーゴイルに目を奪われていたのは一瞬だったがそれで十分だった。鳩尾に一撃を加えそれだけでフーケは意識を失った。

その様子にガーゴイルは再び喋った。

 

「ナンじゃ? アイからわズ、メんどうごとカ、エルク」

 

「お前こそ相変わらずなポンコツぶりだな。ヂーク」

 

(し、知り合い?)

 

いきなり再会の挨拶を交わした一人と一体に3人は反応に困った。

このポンコツこそがエルクの世界で機神と呼ばれたヂークベックその人?であった。




ハイ、ヂークベックさんでした。
装備はPリバースとPゴットヘッドの方向で
ほかのパワーユニットはどうするか考え中です

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