※9話でフーケ編と言っときながら10話説明回になってしまったので11話と同時投稿とさせていただきました。
『土くれのフーケ』
そう呼ばれ、トリステイン中の貴族を混乱に陥れているメイジの盗賊がいる。
その手口は『錬金』を使い、頑強な扉や壁を粘土や砂に変えてしまう。そして誰にも気づかれずに密やかに忍び込み、お宝を盗み出す。
例え『固定化』をかけられていようが、その強力な『錬金』で打ち破り、ただの土くれへと変えてしまう。
故に名付けられた『土くれ』の二つ名。
時に身の丈およそ30メイルの巨大なるゴーレムを操り、貴族の屋敷を、別荘を粉々に破壊し粉砕し、大胆に盗み出す。
正体不明。わかっているのは高レベルの土のメイジであること、ターゲットは貴族のみであることぐらいである。
犯行現場に壁に己の犯行の旨であるサインを残していく事もあり、最もトリステインで有名な盗賊である。
その盗賊『土くれのフーケ』は現在、トリステイン魔法学院に潜り込んでいた。
(くそっ! なんて強力な『固定化』なんだい)
緑髪の女性が宝物庫の扉の前で唸っていた。
学院長の秘書ミス・ロングビル彼女こそが『土くれのフーケ』その人であった。
フーケは盗みを実行に移すために宝物庫の下見をしていた。
コルベールと接触して物理攻撃には脆いと言う情報を得たが、これではそれもあてになりそうにない。
リスクが高すぎることはわかっていたがフーケは決意した。
(これ以上探っていると流石に怪しまれるね……あのスケベじじィの秘書やってるのも限界だし、この際腹をくくるかね)
トリステイン魔法学院 広場
ルイズは今日も魔法の自主練習を行っていた。
集中して呪文を詠唱する。
「ファイヤーボール!」
ドガァァン!!
しかし、発動するのは自分が唱えた魔法ではなく例のごとく『爆発』の失敗だった。
(なぜなの、どうして成功しないのよ! なんで使い魔に出来て私にはできないの!?)
ルイズは心の中で憤慨した。
エルクの炎を見て以来、ルイズは火の魔法を中心に練習していた。
使い魔であるエルクが精霊魔法ではあるが炎の魔法を扱えるならば自分は火の系統ではないかと、そう思ったのだった。
しかし、結果は他の系統の魔法と変わらず『爆発』による失敗。成功する気配はまるでなかった。
エルクの話を完全に信じたわけではなかったが、ハルケギニアに異変が起こっていることは間違いない。
ならば、名誉あるヴァリエール家の貴族として見過ごすわけには行かない。だが、いざ実戦の場になるとエルクに任せきりで自分は傍観の体たらくだ。
本来、使い魔は、あくまでメイジに使え支える役目である。それがいつまでも役立たずなのはルイズのプライドが許さなかった。
(いつまでも……いつまでも無能でいられないのに!)
「あらあら派手な音がすると思ってたら…精が出ますこと」
そこへからかい半分な声がした。キュルケとタバサである。
ルイズは構わず練習を続ける。
エルクが召喚されて以来、彼を恐れてか露骨にルイズをからかう者はいなくなった。
その中でキュルケはルイズに対して態度は変えていなかった。
「はあ、全くいい加減にしなさいな。そんな無闇に魔法撃っても精神を削るだけよ」
「煩いわね。私のことは放っておいて!」
キュルケの忠告もルイズは聞く耳を持たない。
このコンプレックスの塊のような子にどうしたものかとキュルケは考えた。
「そういえばエルクは一緒じゃないの? いつも一緒なのに珍しいじゃない」
「……あいつは厨房よ。シエスタって子を助けて以来、すっかり英雄扱いよ。全く使い魔のくせに……」
この頃エルクはよく厨房に出入りするようになり、ルイズは面白くなかった。
そんな様子のルイズにキュルケは言う。
「困った子ね。使い魔さんを取られて悔しいのはわかるけどヤケにになって練習しても何も意味はないわよ?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
ルイズが顔を真っ赤にして反論しようとしたとき、それは起こった。
一番早く気づいたのは我関せずと木陰で本を読んでいたタバサであった。
「あら、どうしたのタバサ? 急に怖い顔をして」
「何か来る。気をつけて……」
突然辺りが影に覆われ、見上げると巨大なゴーレムがそそり立っていた。
「きゃあああ! な、なによあれ?」
「な、なにってゴーレムね。それも特大の」
ふたりが呆然と呟くと、ゴーレムは傍にある中央塔に歩き出し、その巨大な拳を壁に叩きつけた。
「……あそこは中央塔」
「中央塔? まさか宝物庫!?」
「あれってもしかして最近街で噂の『土くれのフーケ』のゴーレムじゃない?」
キュルケがそう呟くとルイズはまっさきに駆け出した。
「ちょっと待ちなさいよルイズ! どうするつもり!?」
「決まってるでしょ! 捕まえるのよ!」
あくまで立ち向かおうとするルイズにそっとタバサが言った。
「無謀。ゴーレムを操っているメイジを確認できない状況で戦うのは危険」
だが、ルイズはタバサの忠告を無視してゴーレムに呪文を詠唱した。
「学園に賊が侵入してるのよ。逃げるなんてあり得ないわ! 食らいなさいファイアーボール!!」
一心不乱に壁に拳を叩き付けるゴーレムに向かいルイズは勇ましく駆け寄ると呪文を唱えて杖を振る。
そして盛大に爆発した。
その威力は凄まじく、そのゴーレムの右腕を宝物庫の壁ごと粉砕してしまった。
「か、壁が!」
宝物庫の壁が崩れたことで、あらかじめ中央塔に侵入し窓から覗いていたフーケが予期せぬ事態に驚いた。
(壁を粉砕した!? 私の錬金でも通用しなかったのになんて威力だい。まあいい、この際感謝するよお嬢ちゃん)
そして、素早く目的のお宝を見つけゴーレムに運ばせようとした。
(こ、これが噂の『最強のガーゴイル』? ただのガラクタにしか見えないけど……)
そこにあったのは想像していたものとは違う錆色の寸胴鍋のような金属製の人形だった。
(こんな物のために……まあいい、急ぐか)
『最強のガーゴイル、確かに領収いたしました、土くれのフーケ』
フーケはお決まりのメッセージを残し、ゴーレムとともにその場を去った。
その様子をルイズたちはただ見ていることしか出来なかった。
「そ、そんな……私のせいで」
「落ち着いてルイズ、あなただけのせいじゃないわよ。自分のせいだなんて自惚れるのはおよしなさい」
キュルケは周りを見渡して言った。
学園内に堂々と押し入られ、さらに即座に対応できなかったことはどう考えても学生である自分たちのせいではないだろう。
「とりあえず見てきたことを報告しに行くわよ。ほらっ」
キュルケは呆然としたルイズの手を引っ張るが、ルイズは動かない。
「全くしっかりしなさいな! しょうがない子ね。タバサ、あなたはエルクを呼んできてくれる?」
タバサを頷くと厨房へ向かい、キュルケはルイズを引きずるように学院長のもとへ向かった。
主人公不在……
この場でエルクがいるとそこで解決してしまいそうだったので(汗
適当ですいません!