咲-Saki- 天元の雀士   作:古葉鍵

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東場 第一局 七本場

井戸端会議ならぬ踊り場会議とでも言えばいいのか、旧校舎階段の狭い踊り場に5人もの人間が集まっていた。

トラブルの当事者である俺と天使ちゃんと小柄な女生徒、そして後から来た麻雀部員らしき男女の二人を追加しての計5人である。

 

「……と、いうわけでして……」

「善意と誤解による不幸な事故だったんですよ」

 

天使ちゃんの事情説明が一通り終わり、最後に俺が結論を述べて話が終わった。

俺と天使ちゃんの過去の関係は今説明するとややこしくなるのでそこは省いている。

説明したのは天使ちゃんだけど、彼女も俺と同じことを考えたのだろう、説明は階段を落ちそうになったところを助けてもらった、のくだりからだった。

俺としては隠すような後ろめたい事実は何もないんだが、冷静になって思い出してみると部室での天使ちゃんとのやりとりはまるで痴話喧嘩みたいな感じだったしなぁ。それを他人に説明するのは流石に恥ずかしい。

 

「なるほど、おんしが部長の言っていたお客様じゃったか。しょっぱなから部員が世話になったのぅ」

 

天使ちゃんの理路整然とした説明に納得したのか、後から来た二人のうち片方、ショートボブの髪型で眼鏡をかけている2年生の女生徒が礼の言葉をかけてくれる。

そこまで美人だとか可愛いってほどじゃないけど、愛嬌のある顔をした先輩だ。

話のわかる人のようで、可愛くても人の話も聞かずに襲いかかって来る雌豹のような女の子よりは好感が持てる。

いや、根に持っているわけじゃないんだけどね。罪はなくても誤解を招く原因を作ったのは俺のわけだしさ。

 

「ううう……自分が悪いとわかっていても、あんな辱めを受けた後では素直に感謝できないじぇ……」

「それは同情できますし、私にも原因があるので優希には申し訳ないですけれど、短絡的なのはよくないですよ」

 

パンツをばっちり見られたことが原因で未だにショボーンと凹んでいる小柄な少女と、慰めるような、それでいてやんわりと注意するような論調で彼女に語りかける天使ちゃん。

なんだか二人の関係がかいま見えるような微笑ましい光景だ。

 

「とゆーか、いきなりラッキースケベとか羨ましすぎるんですけど!?」

「注目するとこそこかよ!」

 

名も知らぬ男子部員の全く空気を読まない台詞に、俺は思わず突っ込んでしまった。

アホな感想を口にしたのは後から来た二人のうちもう片方、竹井先輩の話と、麻雀部員という俺の推測が正しければ恐らく1年生の男子生徒。

身長は平均より高めで、180cm近くはあるだろうか。正直羨ましい。

顔は醜男でも美男でもない。今のお馬鹿な発言による印象もあるが、なんだか能天気そうな顔をしている。良く言えば裏表のなさそうな感じの男だ。

同じ男として彼の発言に同意はできるが、女子が側にいるのに堂々とそれを言えるのはある意味勇者である。

案の定、女生徒3人の彼を見る目が生ゴミを見るようなそれになる。あーあ……

 

「須賀君……最低です」

「うわ……その発言は流石に引くじぇ……」

「われはそういうことしか頭にないんか」

 

やはりというかなんというか、女子組からふるぼっこである。それでようやく彼も己の失敗に気付いたらしく、引きつった顔で女子組の重圧に押されたかのように後ずさると、

 

「顔か! やはり美少年だから許されるのかー!? 顔差別反対! 全ての男子に平等な愛を!」

 

などと喚き散らした。

同性から妬み嫉みを受けるのは慣れてるが、この男子生徒の発言にはそうした暗に篭った険がそれほど感じられない。

あけっぴろげな性格だからだろうか、少なくとも悪い男じゃなさそうだ。

 

「単なる自爆だろ……」

 

俺の指摘に女子組の全員がうんうんと頷いた。

 




主人公と対比するという意味でも須賀君は三枚目に甘んじています。まぁ煩悩過剰なのは原作どおりだと思いますが(笑)

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