咲-Saki- 天元の雀士   作:古葉鍵

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割とありがち設定&展開かもしれません。
悩みを捨て去るあんイズムを信仰しています・w・


東場 第一局 一本場

俺には前世の記憶がある。

なんてことを真顔で言われたら、普通の人は無視するか「疲れてるのか?」とでも言うだろう。

親切な人だったらきっと良い精神病院を紹介してくれるはずだ。

さて、画面の向こう、顔も知らない雀士たちの反応はどうだろう。

ディスプレイの画面に映し出されている、とあるネット麻雀のプレイヤーチャット欄。

そこには。

 

 

From:のどっち [貴方はどうしてそんなに強いんですか?もしかしてプロですか?]

 

To:しろっこ [俺の前世がプロ雀士だったからだ。俺には前世の記憶がある(キリッ]

 

From:のどっち [ふざけてるんですか? そんなオカルトありえません]

 

To:しろっこ [お堅いなーのどちゃんは。ジョークは社会の潤滑油だよん]

 

From:アナゴ [いやー良い勝負見せてもらったわぁ。ネット麻雀界最強を謳われる伝説のプレイヤー同士の頂上決戦。今回もしろっこさんの完勝やなぁ]

 

From:Touka [今回は最下位に甘んじてしまいましたが、次は私こそがトップに立って、お二人の伝説に終止符を打って差し上げますわ!]

 

To:しろっこ [いいねーそういう覇気のあるコ、おじさん大好きよ(はぁと]

 

From:アナゴ [きんもー☆ 最近、モバイルやPCのネットゲームでの出会い系行為の監視と取り締まりが強化されてるゆーから、冗談でも迂闊なこと言うとIDバンされるで]

 

From:Touka [私は殿方になんて全く、これっぽっちもきょーみありませんわっ! ちょっと麻雀が強いからって調子に乗らないでくださいまし!]

 

From:アナゴ [フリかもしれんけど、性別が特定されるような発言をネット上でするのは自重した方がええよー。まぁアバターでわかりやすいってプレイヤーもいるんやし今更かもしれんけど(チラッ]

 

From:のどっち [しろっこさんとの戦歴は今回で私の3連敗ですか…… しろっこさん、次はいつ打てますか? そちらのご都合に合わせます]

 

To:しろっこ [会話の流れをぶった切るのどちゃんにタンヤオの称号をあげよう]

 

From:アナゴ [OYAJIギャグキター (♯`・ω・) 全然おもろないわ……]

 

To:しろっこ [ヤダカワイイ まじすんませんでした……]

 

From:のどっち [真面目に答えてください]

 

To:しろっこ [ごめんごめん、悪気はないのよ。えーと、予定だっけ。ごめん、俺明日からしばらくINできないかも。ほら、4月だから色々あってさ。新しい環境に慣れるまで夜更かしは控えたいのよ]

 

From:Touka [それは残念ですわね。しろっこさんの麻雀は私と同じデジタル打ちの見本としてとても参考になるものですから、今後は私もお相手して願きたいと思っておりましたのに]

 

From:アナゴ [しろっこさんって新社会人とかなん?なんかもっと歳食ってるイメージやけど]

 

To:しろっこ [おじさんはぴっちぴちの十代だお]

 

From:アナゴ [はいダウト。そんなんどう考えてもありえへんわぁ]

 

From:のどっち [しろっこさんって学生なんですか?]

 

To:しろっこ [ひみちゅ☆ さて、時間も遅いしそろそろ乙るー。今日は一緒に打ってくれてありがとう。おやすみ再見!]

 

 

しろっこ さんがログアウトしました。

 

 

今日のネット麻雀はなかなか有意義だった。

レートでは俺にやや劣るが(←ココ重要)、俺とほぼ同等の高い評価を得ているネット麻雀界の強豪プレイヤー「のどっち」と打つことができた。

他の参加者も相当なやり手だったし、ほんと楽しかった。

ああいう相手と気軽に対戦できるのがネット麻雀のいいところだ。

それにしても打った相手とチャットすると、高確率で身元詮索されるんだよな。

年齢とか特によく聞かれる。名前や住所はともかく、年齢を隠すつもりはないので割と正直に十代って答えてるのにどうして誰も信用してくれないのか理解に苦しむ。

やっぱ「おじさんは~」とか、たまに寒いジョークを飛ばすことが原因なんだろうか。

まぁ実際精神年齢が前世との単純合算で40歳超えてるのも事実だけどね。

そーゆー加齢臭が言動にも出てるのかしら。ヤダ、ちょっと自重しなきゃ。

 

「……寝るか」

 

他人のせいにするのはアレだが、さっき対戦したアナゴさんのおかげでテンションがおかしくなってる。

なんつーか、稀有な人材だったなぁ。主に俺の相方が勤まる的意味で。

偏見かもしれんが、やっぱ関西人は面白い人が多そうだな。ヤーさんとか、怖い人も多いって聞くけど。

スジモンな人には関わりたくないよなぁ、前世でさくっ☆と殺されただけにトラウマだぜ。くわばらくわばら。

 

そんなわけで布団の中からこんばんわ。

最強(←ココ重要)のネット雀士”しろっこ”こと発中白兎(はつなかはくと)、15歳♂です。

ただいま2回目の人生を絶賛謳歌中。嘘か真か、前世の記憶もちだったりします。

もちろんリアルでそんなこと誰にも話さない。ただ、ネット上だと匿名なもんでつい口が軽くなる。

むやみやたらに喋ってるわけじゃないけど、まぁネット上限定の持ちネタみたいなものだから、痛い子扱いしないでほしい。

だけど、俺が前世の記憶をもってて、その前世が日本有数のプロ雀士だったってのは本当のことだ。少なくとも俺にとっては。

 

生まれ変わった俺は、6歳までは多少利発な程度の、割とどこにでもいる少年だった。

だけど、ひょんなことから生まれて初めて麻雀牌に触れたとき……怒涛の如く前世の記憶が蘇ってきたのだ。

いやー、あのときはほんとびびった。というか超混乱した。

だって想像してほしい。未熟な精神性しかもたない幼児の頭に30年近い人生の記憶が流れ込んできたんだぜ。

散々泣き叫んだ挙句に思考回路のブレーカーが落ちて気絶したよ。

その後すげー長い前世の記憶を夢で見て、起きたときには最適化完了☆って感じで前世の自分を受け入れられてた。

人格ベースは生まれ変わった俺のつもりだけど、1/3くらいは前世の自分が混じってると思う。

そのせいか、「白兎君ってふざけてるときと真面目なときのギャップが酷いよね。二重人格みたい」とか親しかった同級生の女の子に指摘されたりもした。

基本おちゃらけた性格の俺だが、状況次第では前世のように冷静かつ真面目な性格で振舞うこともできる。

まぁその状況ってのが結構限定されてて、ぶっちゃけると麻雀してるときと女の子と二人きりな状況のときのどちらかで性格が切り替わる。

とはいえ必ずしもそうなる、というわけではなく、ケースバイケースとも言える。

前世では弁護士でプロ雀士、なんてステータスもあって女性には割ともてたし、おかげで豊富といえないまでもそれなりの女性経験は積んだと思う。

女の子って言っても、精神年齢40歳超な自分からすれば同年代の女性はずっと年下のお子様なわけで、恋愛対象にならない……とまでは断言できないが、他の同年代の男の子みたいに女子と二人きりだと緊張する、なんて初々しさは持ち合わせていないはずなんだが。

ま、今のところさして弊害があるわけでもなく、気に病むことでもないんだけどね。

話を戻そう。

そんなわけで見事輪廻転生に成功した俺は、その瞬間からチートライフならぬ神童っぷりを遺憾なく発揮しましたとも。主に学業と麻雀で。

前世で東大法学部を優秀な成績で卒業した俺が小学生中学生レベルの学問に煩わされることなど無論なく、勉学に費やすべき時間を全て麻雀の研鑽と体力作りに費やすことができた。

幸い、発中家は裕福な家庭なうえに両親もいい人たちで、幼子が熱中するには少々異様な麻雀三昧と体力作りのトレーニング漬けの日々を鷹揚な笑顔でバックアップしてくれた。

今生ではとても良い両親に巡り合えたと我が身の幸運に感謝してる。

ちなみに麻雀は言わずもがなだが、体力作り(格闘技をいくつか習いました)に励んだのはひとえに前世の後悔ゆえだ。

理不尽な暴力や殺意が、いつ自分を襲ってくるかわからない。

平和な日本だからと油断してると、ちょっと人気のない裏路地に入り込んだだけで命が脅かされる場合もあることを文字どおり命を懸けて学んだのだ。

おかげさまで前世までひ弱だった俺が今ではすっかりムキムキのマッチョに!

……なってないけど。

いやね、そのね、俺さ、自慢だけど頭もいいし運動能力高いしおまけに麻雀プロ級だしで、欠点らしい欠点なんてないんだけどさ、唯一コンプレックスがあってね?

体が小柄なのよ。身長は169cmとそこそこあるんだけど。

問題は、見た目の筋肉がつきにくいタイプみたいでさ、いくら鍛えても腕とか足とか首とかが細いまんま。

実質的な身体能力はちゃんと向上してるんだけどね。

んで、顔も小さくて線の細い女顔なものだから、服装次第では未だに女の子に間違われることがあったりする。

まぁ俺の性格的にはそれすら会話のネタにできるからいいやーって思ってる程度なんだけど、さすがに去年の秋、中学生最後の文化祭で披露したネタは洒落になってなかったって反省してる。

何をやらかしたかというと、クラスの出し物が「女装メイド喫茶」という流行とお約束を取り入れてみました的な感じだったんだけど、胸パッド付きのメイド服とウィッグを装備した俺の見た目が完全無欠の美少女様になっちゃってね。

よせばいいのに調子こいてその姿でレスリング部の出し物であるベンチプレス大会に出場して120kgのバーベルを軽々と持ち上げて(錘がそれ以上なかった)優勝をさらい、「怪力美少女メイド」などと名誉だか不名誉だかわからん評判を得たことで学校中のマッチョ体育会系男子どもから熱い視線で視姦されたこととか、陸上部の出し物である校内トライアスロン大会に飛び入りで参加してぶっちぎりのトップでゴールを駆け抜け、「鉄人美少女メイド」などとありがたくもない称号を贈られて文化祭参加者の話題を独占したこととか、なんか話題になってるからミスコンでも出てみればって友人の冗談を真に受けて出場したら、他の参加者の女の子にぶっちぎりの大差をつけて優勝したせいで「(生まれる性別を)ミス(した)美少女メイド」という、余計なお世話だと心から叫びたくなる肩書きをいただいてしまい、おまけにそのときの写真が本人に無断でWEBコスプレコンテストに応募された挙句、女性部門最優秀コスプレ美少女大賞に輝いてしまってワールドワイドに恥をかいたりと、散々な目にあった。

いや当時は愉快犯的に楽しんでやってたし、120%自業自得なんだけどね。

ま、若気の至りってやつさ。精神年齢40歳超えてるけど。

そういえばそのときの文化祭で、胸が大きくてスタイルの良い、すごい美少女に出会っちゃったんだよね。

地元の子じゃなかったみたいだけど、文化祭に来てた他校の性質の悪い連中に校舎裏で絡まれてたところを白馬の王子様よろしく颯爽と助けてあげた。

軽いノリで言ってるけど、そのときの様子は絡まれるというか暴行二歩手前って感じだったから、俺が見つけなかったら深刻な事件になっていたかもしれない。

俺は前述の女装(メイド)姿だったから「正義の鉄人美少女メイドここに見参!」って名乗りを上げたよ。

「この美少女(のふりをしている変態)、ノリノリである」ってアナゴさんがいたら突っ込んでくれそうなくらいに堂々とね。

んで、チンピラどもはみっくみく……じゃなくてぼっこぼこにしてやんよ! で叩きのめした。

女の子ならぬ女装姿なら過剰防衛許されるだろって思って割と手加減しなかったからなー、確か4人いたけど全員文化祭が終わるまで校舎裏で気絶してた。暴力万歳。

その後、調子に乗った俺は同性のフリを続けてその美少女と一緒に楽しく文化祭を回ったわけだが、麻雀部の出し物(単なる雀卓一般開放・部員が面子に加わるというだけの学園雀荘だが)で足を止めた彼女に「麻雀する?」って冗談半分で聞いてみたらあらびっくり、「やります」のお返事。

俺にとっては嬉しいことに、前世の世界と違ってこの世界は麻雀という競技の社会的地位が高く、若い女性にも麻雀が結構普及している。

ちなみに前世の世界と今生の世界は細かいところで結構差異があるようだ。

麻雀のこともその一つ。それ以外にも気付いた差異はいくつかあるけど、俺にとってはどうでもいい。転生における世界観的科学考証もどうでもいい。

一種のパラレルワールドに転生したんだろ、くらいの認識でしかないし、それで十分だと思ってる。

それはともあれ、美少女と打ったら意外と強くてさらに吃驚。

とはいえ、さすがにプロ並である俺ほどではなく、半荘2回やったがどちらも俺がトップ、その子が2位だったけど。

文化祭のお客様だし接待麻雀してもいいかなーなんて最初は考えたんだが、あまりにも真剣な表情で彼女が打つもんだからつい大人気なく本気を1/4くらい出しちゃった。

まぁ1/4とかテキトーに言ってるだけだけどねっ☆

あれだよ、万が一負けたら「俺はまだ全然本気を出しちゃいないんだZE!」って言い訳するためにそうしてる。

俺は言い訳にすら妥協を許さない、用意周到な男の娘(へんたい)なのだ(キリッ

唯一あれがそのときの文化祭での良い想い出だなー、うん。

今にして思えば名前とか住所をきいとくべきだった。

そのときはイケナイ俺のおじさん魂こと悪魔のお告げがあって、「この胸のでかい美少女はお前のことを完全無欠の女の子って思ってるから多少セクハラっぽい愛称で呼んでもスイーツ()トークってことで許されるはずだ」なんて心の耳元に囁くもんだからつい誘惑に負けてしまい「おっぱいちゃん」って呼んでしまった。

思惑どおりと言うべきか、同性と認識されてたためか怒られたりはしなかった。

だっておっぱいちゃんって呼びたかったんだもん。

俺の中の天使が「だめだこいつ早くなんとかしないと……」とため息をついたのは言うまでもない。

そのせいってわけじゃないけど結局最後まで名前を聞く機会が訪れなかったんだよね。

文化祭終わった後も名前知らないし湿っぽい別れになるよりはって思って、「またね、おっぱいちゃん」って挨拶をして別れた。

別れ際の彼女の潤んだ瞳が今でも忘れられない。

話を戻すけどおっぱいちゃんってさ、可愛くてスタイル抜群で性格良さそうで麻雀も強くて、俺的に超優良物件なんだよね。いや女の子をそういうふうに言うのは失礼なんだけども。

あれほど俺にとっての理想を満たした女性なんて今後の人生でも出会えないに決まってる。まじ惜しいことした。

まだちょっと若いからってそういう検討を全くしなかったのが痛かったなー。

性別偽んなきゃよかた。不良から単身助け出すなんてコテコテのシチュエーションな出会い、今時少女漫画からすら絶滅してるほどのテンプレなだけに、女装の誤解だけきちんと解けば絶対ねんごろになれたに違いない。

うぅ、思い出せば思い出すほどまたあの子に会いたくなってきた。

だがそんな奇跡がまた起きるとは……まてよ、俺は輪廻転生などという超奇跡的体験をした存在だ。言うなれば神の子。

生まれたときにはきっと赤ちゃん語で「天上天下唯我独尊」とかいって生まれてきたに違いないほどの尊者だ。

そのような奇跡的神様パワーを持つかもしれない俺なら願えば実現できるはずだ! できるに違いない! 信じる者は救われる!

俺は明日の入学式でおっぱいちゃんと再会して甘酸っぱい麻雀を打つ、じゃなかった、青春を送るんだ!

 

「…………寝るか」

 

明日は早いからな。




序盤のハンドルネームでの会話、主人公以外の3人は全員原作キャラです。誰がどのキャラなのか、安易でわかりやすい名前だと思います。主人公の姓が安易だなーというかダサい(汗)。

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