紺色の風来坊   作:蒼海空河

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娘と母と兵士たち

 世界樹に居着いたドラゴンと騎乗しているらしい鳥人間を退治する。

 だが今日は日が暮れているため宿屋で泊まることとなった。

 ソフィちゃんは幼いながら、母親と一緒に料理を作り、サラダを御馳走してくれた。

 裏庭に育てた野菜は不格好ながらも優しい味がした。

 そうして食事も終わり、疲れたのだろう――ソフィちゃんはテーブルで突っ伏して寝てしまった。

 

「……むにゃぁ……おとーさん…………たかいたかい……」

「あらあらこんなところで寝て。娘を部屋に連れていきますので……」

「ええ、お構いなく」

「きゅー」

 

 玄関に併設された小さな食堂。

 私は出されたお茶を飲みながら、作戦を立てていた。

 

 ドラゴンは強敵だ。しかも空を飛んでいる。

 翼のない私が勝利を収めるには、工夫が必要なのだが……。

 

「駄目だ……地上で戦うところまではもっていける。しかし肝心の武器がな……」

 

 呪文があればもう少し事情は違った。

 極大呪文のイオナズンやベギラゴンなどで一気に皮膚を貫けばまだ勝敗は判らなくなったのだが。

 

 仲間も集めるべきだったかもしれない。

 モンスターの邪念を払う力は少しづつ強くなっている。

 キングス以降もモンスターに何度か好かれた場合があったのだ。

 ただ心の底から申し訳ないと思いつつ彼らの願いを聞きとどけることができなかった。

 くさったしたい、さまようよろい、ろうそくこぞう……種類も種類だが、それ以上に馬車がないこと、そしてモンスター爺さんのように預ける場所がないのが問題であった。

 街に入れないし、ゴールドも心もとない。

 せめて、どこか適度に広く、食糧も豊富でかつ人の手が入っていない無人島があれば話は別なのだが…………贅沢が過ぎるな。

 今後はそういう場所を探すのもいいかもしれない。

 

 最大の懸念材料は武器の脆弱さだ。

 愛用の品となったかしの杖はしょせん木製の杖に過ぎない。ドラゴンキラーや伝説の杖であるドラゴンの杖などと贅沢は言わない。

 最低でもはがねの剣…………いや破邪の剣クラスは欲しい。

 かつてメダル王から小さなメダルと交換で手に入れた奇跡の剣があれば尚いい。

 私は頭を振り、いまの妄想を払う。

 

「ないものねだりをしても意味がないな……。明日、兵士の方から鉄の剣だけでも貸していただこう」

「きゅ~?」

「ああ、すまないなキングス。難しい戦いになりそうだが私について来てくれるか?」

「きゅきゅ~? きゅー!」

 

 任せて、と言わんばかりにテーブルの上を跳ねまわるキングス(小)。

 少し顔の緊張がほぐれた気がする。

 キングスには申し訳ないが彼が明日の戦いで重要な役目を果たすことになるだろう

 非常に厳しい戦いとなるだろう。だが負けるわけにはいかない。

 少女と約束したのだ。父を助けると。

 

「どんなに不利であっても倒す。そして助けなくては――」

「やはり……難しいのですか?」

 

 暗がりからやってきたのはシャーリーさんだった。

 

「……シャーリーさん聞いていたんですか?」

「ええ、少し前からですが」

 

 考えすぎで彼女の接近に気付けなかったようだ。

 不安を抱いたのであろう、ランプで照らされる表情はかたくじっとこちらを見つめている。

 私はできるだけ明るい口調で話した。

 

「大丈夫ですよ。相手はドラゴンですからね。多少の不利は承知の上です。シャーリーさんは安心して待っていてください」

 

 だが彼女の顔は晴れない。

 信じてもらえないのは仕方ない。

 彼女もいっぱいいっぱいなのだ。

 藁にもすがる気持ちで頼んでいても怪我で苦しむダンカンさんを見れば心は揺らいでしまう。

 だから明日、証明するしかない。世界樹の葉を採ってくる。それだけだ。

 

 ランプの灯りはゆらゆらと揺れる。

 お互い気まずい空気が流れていた。

 数分が経過したあと、シャーリーさんは言った。

 

「少し、ついてきていただいてもよろしいですか?」

 

 

 

 

 

 コツコツ

 静かに鳴りひびくのは足音だ。

 私はシャーリーさんの後ろを歩く。現在向かっているのは宿屋の地下。

 どうも見せたいものがあるらしい。

 ぼんやりと夜を照らす灯り。

 彼女が口を開く。

 

「本当にありがとうございます。夫が必死に店を守ろうとして……ドラゴンが夫を焼きつくして……絶望しかありませんでした。ですがリィスさんのおかげで希望が持てそうです」

「私は当然のことをしたまでです」

「それでもです。娘が引き合わせてくれた希望。それを信じたいのは私も一緒なんです。だから――」

 

 立ちどまり、彼女は古めかしい鍵で扉を開いた。

 室内の淀んだ空気が吐きだされていく。

 私は軽く咳をしつつ、中へと入る。

 

「ここは……倉庫、ですか?」

「ええ。先祖代々受け継がれてきたものでいろんな道具が置いてあるんです」

 

 宿の二部屋分くらいの広さだ。

 壁の棚には錆ついた剣から、良く判らない地図らしきもの、壊れたおもちゃなど雑多に並べられていた。

 

「ここの宿屋は昔から経営しているものでして、記録ではもう二百年はするそうです」

「二百年!? それはとても長い歴史ですね……」

 

 下手な国より長い歴史を持つ老舗宿。

 そのことに驚いていると、シャーリーさんは苦笑していた。

 

「そうですね。まあ私たちにとっては倉庫以上の意味合いはないんですけどね。でも使えそうなものもあるんです。ほらこれなどどうでしょう?」

「これは毛皮のマントですか。……ベアー系の毛皮ですね。頑丈でそれでいて弾力性に富んだ良質の毛皮だ。これなら多少の攻撃なら防げるかもしれない」

「うちには常連客が多いですから、たまにこんな贈り物もあるんです。役立ててください」

「ありがとうございます! これで戦いが楽になります」

「ですが、重要なのはもう一つの方です。我が家の家宝として代々保管していました」

「家宝……?」

 

 私の疑問は彼女の行動によって解決する。

 奥へいった彼女は細やかない装飾が施された木箱を持ってくる。細長い。

 パカッと抵抗なく開けられた中には――

 

「いかずちの杖と言うそうです。これをリィスさんに託します」

 

 深緑の杖は独特の光沢を放っていた。

 赤と青の魔法玉を金版も付けて埋めこみ、最上部には竜が翼を広げている不思議なデザイン。

 手渡された杖には確かな魔力を感じ、これがまだ生きているのだと私に伝えていた。

 

「いかずちの杖だって!? これは……非常に高価な杖です。売れば一万ゴールド、オークションに出せば二万三万はくだらないはず。いくらなんでも」

 

 私の想像が間違っていなければ振るえば、ベギラマを放つことのできる希少な杖だ。

 一本で数年間は食事に困らなくなる高級な杖。

 魔法使いでなくとも魔法が使えるという垂涎の一品だ。

 思わず断ろうとしたが彼女は頑として認めなかった。

 

「夫の命は百万ゴールドを積んだって帰ってこないんです! ですから……お願いします……ッ! 夫を……たすけて、ください! 娘のためにも……」

「シャーリーさん……」

 

 私の服を掴みながら悲痛な表情で訴えかける。

 ……心得違いをしていたのかもしれない。これは断るべきものじゃない。

 自分はどうなったっていい、どんな手段を使っても愛する人を助けたい……そんな純粋な想いが彼女を行動させたのだ。

 最善を尽くしたい彼女の願いを受け入れる。

 

「判りました。この杖で、夫の命を助けます」 

「お願い、します」

 

 このあと刃のブーメランという武器も渡された。

 それはキングスに渡すことにした。

 スライム系は手がないから使えないように見えるが、普段はあの摩訶不思議な体内に保存し、使うときは口から発射することができる。

 準備は整った。

 一人の女性と一人の少女の願いを託された。

 

 次の日。

 夜が明け、ニアキスの街を照らす。

 闇が払われた街はまた痛々しい姿を晒していた。

 朝食を済ませた私は、裏庭で身体を動かしていた。

 

「はぁっ! せいゃッ! ほぅっ!」

 

 突き、薙ぎ、振りおろし――長旅で培われてきた我流の杖術。

 杖は魔法使いや僧侶などの力の弱い者が使いがちで、杖=弱いという印象はある。

 だが戦士でもキチンと扱えば、頼りになる武器なのだ。

 深緑の杖を振るう。独自の製法で作られた杖は、鉄より遥かに硬く鋭い存在感を放っている。

 軽く汗を流し、ほどよく暖まった身体。

 全身の血液が滞りなく巡っていくのを感じる。

 装備を整え、出口ではシャーリーさんとソフィが見送ってくれた。

 

「どうか無事をお祈りしています」

「おにーたん、スライムちゃーん! がんばってー!」

「ああ! …………往くぞキングス!」

「きゅー!」

 

 目指すは世界樹。目的はドラゴンライダー(仮)を倒し、世界樹の葉を手に入れること。

 私たちは南門へと向かう。

 

 門のところには十人前後の兵士たちが警備を行っていた。

 鉄の胸当てなど装備している。兵士としては守備兵としては軽装だ。

 おそらくドラゴンがきたら街へ駆けこみ、危険を周知するのが目的なのだろう。

 彼らは私の存在を認め、槍を交差させて道を塞いだ。

 

「旅人か? 悪いがこれ以上先は通せない」

「ドラゴンがこの先にいるからですか?」

「そうだ。この惨事も奴が起こしたものだ。本来なら薬効の高い世界樹の葉は必要なのだが……いまも世界樹の根元にいるらしい。悔しいがいなくなるのを待つしかない……ッ」

 

 兵士は門の柱を拳で叩く。

 声こそ抑えているが滲みでる表情からは悔しさの念が強く出ていた。

 同僚や家族、友人たちにも被害者がいたのだろう。

 本来は引き下がるべきだ。気まぐれなドラゴンなら居なくなる可能性も高い。

 だが命がかかっている。無理をしても押し通る!

 

「そうですか……ですが、それでも通らせてください。私にも救わなければいけない命がある」

「駄目だ駄目だ! 若いから無茶をしたいのは判るが行かせるわけにはいかん。最悪、機嫌を損ねたドラゴンがやってくるかもしれないんだからな!」

「どうしても、駄目だと?」

「そうだ」

「……なら、仕方ないですね……ダンカンさんの命を救うためにも、多少の無茶もいたしましょう!」

 

 交差した二本の槍を掴む。

 

「お、おいお前――」

「こ、こいつ力が、凄くっ!?」

 

 伊達に山奥で鍛えたわけではない。

 日夜、モンスターと命のやり取りをしていたわけではないのだ。

 深呼吸をしたあと一息に、

 

「はぁっ!!」

 

 バギン!

 青銅製の槍を根元から握り潰す。

 私のいきなり行動に兵士たちは驚いたままだ。

 

「……弁償は、ドラゴンを倒し、武器が必要にならなくすることでお願いします。では――」

 

 気迫に押されたのか、兵士たちが道を開けた。

 そのまま通り過ぎようとしたとき、後ろから呼びとめられた。

 

「おい、アンタ!」

「なんですか?」

「これ、もってけ」

 

 広く、平べったいものが宙を飛び、私の胸元に収まる。

 

「これは……鉄の盾。いいんですか?」

「……俺たちだってあのドラゴンは倒したい。アンタは俺らと違って腕に自信があるんだろ。……頼めるか?」

「……お任せください。朗報をお伝えしますよ」

「頼む……」

 

 少し焼け焦げた盾には彼らの願いが込められているように感じた。

 私はキングスと共に、森の中へ入っていったのだった。

 

 

   《りぃす》

  さすらいの魔物使い

  せいべつ:おとこ

   レベル:16

 

   《つよさ》

   ちから:75

  すばやさ:50

 たいりょく:54

  かしこさ:91

 うんのよさ:10

さいだいHP:108

さいだいMP:64

 こうげき力:104

  しゅび力:58

 

   《そうび》

 E いかずちのつえ(効果:ベギラマ)

 E けがわのまんと

 E てつのたて(効果:炎&吹雪ダメージ微減)

 E ぬののたーばん

 

   《じゅもん》

   ホイミ

   ベホイミ

   キアリー

   インパス

   ザオラル

   メガザル

   バギ

   バギマ

   バギクロス

   ルーラ

   パルプンテ

 

 

――――――――――

 

 

   《キングス》

  キングスライム

  せいべつ:ふめい

   レベル:10

 

   《つよさ》

   ちから:70

  すばやさ:60

 たいりょく:78

  かしこさ:34

 うんのよさ:61

さいだいHP:159

さいだいMP:55

 こうげき力:95

  しゅび力:74

 

   《そうび》

 E やいばのブーメラン

 E スライムのおうかん

 

   《じゅもん》

   ザオラル

   スクルト

   フバーハ

 

 

 

 ■  ■  ■  ■

 

 

 

 街の崩壊とは一転して、森の中は清浄な空気に満たされていた。

 三、四階分はあろう高さの大樹がアーチを作り、邪悪な気配を感じさせない。

 だが一点――森の奥だけは違う。

 ここからでも伝わっている。

 肌に粘りつくようなドロッとした“悪意”。

 歩いて十数分。広場に出たところにそいつはいた。

 世界樹の根元でドラゴン……蛇のように細長い奴はおそらくスカイドラゴン。

 その隣でニヤニヤと笑みを浮かべた男がいた。

 全身に鳥類特有の羽を生やし、くちばし、足はかぎづめもある。。

 背中には翼――鳥人間とは言い得て妙だ。鳥人族かなにかだろう。

 相手から声をかけてきた。

 

「次の獲物は、テメェかあ。待ちくたびれたぜ。脆い人間どものことだから、腰が抜けて動けないかと思ったぜ~おい」

「……なぜ街を襲った。誰かがドラゴンの卵でも盗んだのか? それとも貴方を仲間を見世物などにでもしていたのか?」

 

 見下したような目で私を見ている男。

 あのような蛮行を行ったのだ。

 人間側でなにかしらの非があった可能性もある。

 それならばまだ話しができると思ったのだが……。

 

「く、クッククククククククッ…………」

「なにがおかしい?」

「こうつぁ~~~傑作だあ! ここまで馬鹿な人間も初めてだぜぇッ。卵? 見世物? 俺らがそんなヘマをするわけがねえだろう、虫けら!! 気まぐれだよ気まぐれ!」

 

 かーかっかっか! と高嗤いする男。

 気まぐれ、だと?

 ぎりっと歯に力が入った。

 空気が、冷たい。身体が、熱い。

 

「なぜ、街を襲った……」

「テメエは踏みつぶす虫の数を覚えているのかぁ? 空を飛んでたら見つけたから襲ったまでよぉ!」

「赤い屋根の宿屋を襲ったのも、気まぐれだと?」

「赤い屋根ぇ~? さぁ~てな~。人間の巣に興味はねえが。……だが、ククク、面白いのはあったな」

「………………」

 

 思いだし笑いをしたのか、腹を抑えて傑作だったと笑みを浮かべている。

 全身の血液が沸騰したように燃えていた。

 

「兵士どもを切り刻んでいたら、全身に鎧を付けた男が居てなぁ~、剣は早かったから空の上から嬲ってやったぜぇ。近くの家を壊したらぎゃーぎゃ喚いてうるさかったからルードの炎で燃やしたら静かになってすっきりしたぜ! でも、あれはもっと面白くできたなぁ~、近くにいた餓鬼と女が泣いて縋りついてたし片方をじっくり刻んだらもっといい声で鳴いてたろうし、今日あたり――――」

「………………いいたいことは、それだけか……?」

「あん?」

 

 ああ…………怒りだ。

 頂点に達してた怒りは逆に頭を冷えさせた。

 私はこれ以上なく、激怒している。

 決して奴の凶行を見逃してはならないと、猛烈に憤激している!

 

「殴られる準備はできたかと言っているッッッ!! お前が傷付けた人の痛みがどれほどのものか…………私が教えてやるッッッ!! 往くぞキングス!!」

「ぎゅあぁ~~~~!!」

「へっ! スライムを連れているようだが……脆弱な人間と貧弱なスライムになにができる。このガルダンディー様とルードが遊んでやるよ!」

「ギャオォンッ!」

 

 太陽が頂点にさしかかるころ、決戦は始まった――

 

 

 




ダイ大でもかなりクズな敵のガルダンディーさんご登場。
原作では出身とかは不明だったので出させていただきました。

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