モンスターは人ならざる存在だ。鋭い牙、強靭な肉体、驚異的な再生力……そして邪悪な心。
ならば決して相容れない存在なのかといえばそうでもない。あくまで私が住んでいた世界ではだが。
私はモンスターの邪気を払う特殊な能力があるがそれは置いておこう。
そうでなくとも彼らは自ら歩み寄りたいと願う者も少なからずいるのだ。
有名なのは『王宮の戦士』と題されたある戦士の手記を元にした物語だ。伝説の勇者とともに世界に平和をもたらした御仁で有名である。
ある一文を要約すると、
『井戸の奥で私は運命的な出会いを果たす。それは面妖なモンスターであった。ホイミスライムが人間になりたいのだという。敵だ――そう断言し、切り伏せたいのにできない。彼の目はとても純真で世の中を知らぬ童のようであった。そして悩んだ末彼とともに行くことを決意する。その後、幾多の窮地を協力しあい、私達は無二の親友となった』
モンスターとともに戦い親友となったという。
諸説ある。
戦士とともに戦ったのは彼の未来を見抜いた占い師や僧侶であるとか、同じく勇者と戦う神官がその場にいたとか、そもそも話を盛り上げるための狂言であるとか。
だが私がいた世界では防具や武器屋には明らかに人間では扱えない装備も並べてあった。
モンスター爺さんや人間と寄りそう魔物もいた。
おそらく魔王による侵攻が長期間なかったからかもしれない。
秘密裏に彼らは地上への侵攻を果たしてはいたものの、表向きは人間として振舞い暗躍した。
私は多くの事件に巻き込まれたが、逆にそれ以外で事件らしい事件もない。
良くも悪くもそれが人々の魔物に対する心象を薄れさせたままだったのだろう。
私が治めるグランパニアの地では、ミニデーモンとイオナズンを唱えあう子供や、力自慢のギカンテスと腕相撲をする兵士たちなど、日常の風景に溶け込んでいた。
身体中に擦り傷ができたものの、キングスという新たな友を得た。
アバンという不思議な御仁にも出会え、今日という日はとても良いであったと思う。
魔王ハドラーがすでに
バーンという別の魔王が存在する可能性はあるし、油断は禁物だ。だが今この一時だけは良いだろう。
敵の幹部ゲマに連れさられ、幼少期の大半は奴隷として働かされた。十年、だったか。思えば灰色の青春という奴なのかもしれない。十人以上が一か所で生活し、毎日鞭を打たれる生活。
親友のヘンリーと、心優しいあの家族がいなければ、どうなっていたことやら。
岩を運び、土を掘る毎日。埃くさくジメっとしていた。
だがこの森の土は良い香りがする。鼻をいまもくすぐり、心がほっこりする。
生命力が溢れ、まさに生きた森といえよう。
「少しだけ、この世界の片隅で羽を休めてもバチはあたるまい……」
「ぎゅー?」
「ああ、すまないなキングス。村はもうすぐだぞ」
「ぎゅ~♪」
「こらこらはしゃぐな。お前はデカイんだから」
びよんびよんと全身で喜びを表現するキングス。可愛いものだ。
思わず顔を緩めてしまう。
優しく撫でていると、馴染みの声が聞こえてきた。
「こらー! リィスーっ! もうお昼ごはん、が冷……め……て」
「すみません母上、少々たてこんでおりまして」
「き――」
「き?」
「きゅああああああああああああ!? あなたっ、モンスターが、モンスターがっ!!」
「え、ちょっと母上!?」
脱兎のごとく走り去っていく母上。
他の村人も何事かと家の中から現れる。村の男たちはクワやスキを持ち、女性や子供は薬草などを準備していた。魔物が入り込んだときの対処方法だ。
失敗した……大事になってしまった。私は仲間と知っていても他の人からはそうは見えない。説明から入るべきだった……。
今更悔やんでも仕方がない。
キングスライムの存在を認め、ぞろぞろと集まってくる。
う……私を見る目も険呑だ。
急いで説明する。
「みなさん大丈夫です! このキングスライムは敵ではありません!」
「何言ってるんだ! モンスターは敵だ!」
「早く殺せ!」
まずい。殺気だっている。キングスは危害など加える気はないのに。
キングスライムは強敵だ。村人が総出で戦っても勝てるかどうか。その焦りが彼らの心に余裕を無くさせているのかもしれない。
どうにか落ちつけたいと思っていると、村長がやってきた。
「……リィスか。お主、なぜモンスターを連れている?」
「森で遭遇したらとても友好的で、友達になったのです」
「……ほう」
村長の声色が硬い。とはいえ本当のことを話しても信じて貰えないだろう。
邪気を払えるなど私とて最初は驚いたのだから。
話合えば大丈夫――そう思っていた私は次の言葉に驚愕する。
「ならばそいつは殺しなさい」
「……え?」
「離しても報復にきたら厄介だ。今ここで殺すに限る」
「そうだそうだ! リィスそこをどけ!」
「待ってください! この子は危害を加えるようなことはしませんっ。私が保障します!」
「信じられるものか! 他の村では魔王の進軍で全滅したところもあるっ。魔物と相容れられるわけがないっ!!」
「そんな……」
村人の多くが血走った目で私とキングスをにらみ付ける。
キングスは「ぎゅ~……」と怯えたように私の後ろに隠れる。
「ちょっとどいてくれっ!」
「父上!」
村人の間を縫ってやってきたのは父上だ。
父上は元は王宮の兵士をやっていて村でも一目置かれている。きっと判ってくれるはず!
「リィス」
「父上、実は――」
「出てけ」
「………………え?」
……今、なんといったのですか?
「冗談、ですよね?」
「お前にはほとほと愛想が尽きた。村から出ていけ……」
「なっ!? どうしてですか! 説明してくださいッ」
お前など知らぬとばかりに私を拒絶する父。
判らない……キングスを連れてきたからですか!?
すると母上もやってきた。
最後の望みを託し、見つめたが、
「変な口調に、子供らしくない真面目さ……昔っから気味が悪いって思ってたのよ。もう嫌嫌嫌ぁ! 金輪際私たちの家に来ないでこの…………化け物!!!!」
「ばけ、もの……」
「魔物を手なずけるなんて悪魔の子に違いない! 石を投げろ! 投げられるだけ投げるんだ!」
返ってきた言葉はとても冷たい……拒絶の意思であった。
特に実の母から化け物呼ばわりされ、私の心は張り裂けんばかりに痛みを発していた。
みな来るなと言わんばかりに石を投げつける始末。
とても、話しあえる空気ではなかった。
一人の投げた石が私の額をしたたかに打ちつける。
「いつっ!?」
「ぎゅ!? ……ぎゅわ~~~~~!!」
「ひぃ! キングスライムが怒ったぞ!?」
私が傷つけられたと思い、キングスが怒りの声を上げた。
今にも村人に飛びかかりそうだ。
「キングスやめろ!」
「ぎゅぅ?」
どーして? 悪い奴らだよ? と言わんばかりに見つめてくる。
違う……違うのだよ。悪いのは、私なのだ。
自らの行いを改めない私の落ち度だったのだ……!
母上と父上の気持ちを顧みなかった私が愚かだったのだ!
化け物と罵られ、もうこの場から去りたかった。
歩く。
向かうのは自宅だ。
「と、止まれ! それ以上来ると――」
「……言われた通り、村を出ていきます。ですが旅支度くらいさせてもらってもいいでしょう?」
「ぐ、だが……」
「止めるのでしたら、大暴れするかもしれません。後ろの彼と……戦いますか?」
「……う」
本当はこういう脅しはしたくない。
だが旅は甘くない。食糧はおろか、布の服一枚で出た日には、夜には凍えてしまう。
村人たちの拒絶するような視線を受けながら、家に入る。キングスはでかすぎてい入れないので入り口で待って貰っている。
私は密かに準備していた旅装に着替える。
父に頼んで旅の商人から買っていただいた品だ。
「……思えば、これを着て旅をするのは何年ぶりだろう」
今生では一度も無い。
前世でも仇敵ミルドラースを倒したあとはグランパニアの国王として政務に勤しむ日々であった。
紺色のローブとターバンを身に付ける。
愛用していた品に良く似たローブだ。前世ではこれで大冒険をしたものだ。
こんな形で旅に出るとは思わなかったが……。
鞄を背負い、最後に自作の杖を手に取り家を出る。
友人のでろりんが私を見ていた。
他の村人と違い、彼は心配そうな表情だった。そのことに少しだけ心が晴れる。
「なあ、お前……」
「村を頼むよ。大丈夫、でろりんは才能がある。きっと立派な戦士になれるよ。じゃあな」
「あ――」
厳しい視線に晒されながらキングスとともに村を出た。
森の中を静かに歩く。
キングスはすぐ後ろについて来ている。何も言わないのは私を気遣っているのだろう。
森とはいえ、行商人や旅人が頻繁に使っているので地面は土がむき出しとなり、一歩一歩確かな感触を返してくる。
天気は曇っていた。
雲行きが怪しいこともあって、すれ違う人は皆無だ。
一時間ほど経ったころ森が開ける。
「あそこで休憩しようか」
「ぎゅー!」
よーし休むぞー! と気持ち明るめの鳴き声を発したキングスが私を追いこし森の出口に向かう。
苦笑しながら後を追う。
「ぎゅ~♪」
「おお、これはなかなか壮観な景色だな!」
森を抜けた先は眼下に広がる草原が風を受け、うねりを上げている。遠くには街らしきものも見える。
一陣の風が私とキングスに吹き付ける。はためくローブ。
冷たく、身体が冷えそうになる。
ちょうどいい高さの岩に腰をかけ、空を見上げる。
寒々しい曇天の雲。かかり始めなのか、遠くはまだ晴れ渡っている。
「……風が冷たいな……」
「ぎゅ?」
「ああ、そういえば風とは冷たいものだったな……」
長い王宮生活で、そよ風にしか当たっていなかった。
身を切るような冷たい空気。
心か身体か、判らない。
自嘲げに呟く。
「……なに旅は慣れているさ。少し早いだけのこと……」
ただ願わくば、父上に母上、そして村人たちが平穏であることを。
何故なら平和をもたらすために私はやってきたのだから――
《りぃす》
むらびと
せいべつ:おとこ
レベル:5
《つよさ》
ちから:35
すばやさ:20
たいりょく:18
かしこさ:38
うんのよさ:4
さいだいHP:37
さいだいMP:12
こうげき力:39
しゅび力:15
《そうび》
E かしのつえ
E たびびとのふく
E ぬののたーばん
《じゅもん》
ホイミ
ザオラル
メガザル
バギ
バギマ
バギクロス
ルーラ
パルプンテ
■ ■ ■ ■
あれから四年の歳月が経った。
私は山で修業をしつつ、たまに街に降りては、採ってきた薬草を売ったり、肉体労働、魔物退治などを行って日銭を稼ぎ、平和を守るために当ての無い放浪の旅をしている。
当初はカール王国へ向かい、アバン殿を訪ねようとしたのだが国を訪問するに留まった。
なぜならフローラという女性……名前からして高貴な身分の方かと思っていたら王女であったのだ。しかもアバン殿は魔王ハドラーを打倒した勇者。
助けを貰うならこれ以上ない人選なのだが、魔物を連れて歩く私ではいけないと思った。
ただでさえ数年前の戦いで国内はまだ不安定。
そこに魔物を連れた男が勇者アバンの知り合いだと言って、やってくるとどうなるか?
余計な混乱を招きかねない。
これでも王族として他国を渡り歩いた経験上、そこら辺の微妙な立場は大いに理解できる。
悩んだ末、他の国へ旅立つことにしたのだった。
さて、もうひとつの問題としてキングスの件がある。
キングスがいると街に入れないかと思ったのだが、これについては意外な方法で解決した。
なんと小さくなれるのだ。
キングスのサイズについて悩んでいたところ、スライムと同じくらいまで縮んで見せた。
ついでにある程度のサイズなら体内で保存できるらしい。
スライムとはこの世でもっとも不思議な生物かもしれない。
これを先に知っていれば村を追い出せれなかったかもしれないと思ったが……迂闊な自分ではそのときに気付けないだろう。
王冠を被るスライムという珍妙な生き物が生まれたが、可愛らしいし、他の人にも警戒心を抱かれない。
そして私が今向かっているのがアルキード王国にある世界樹だ。
世界樹の葉は万病を祓うとされ、万能薬として珍重されている。
効能があるかは不明だが一度、どのようなものか興味を持ったのだ。
街道は整備されているので山奥の村にいくより容易い。
途中の山でリンゴなどの果実を取り、
そうして世界樹がある山のふもとの街にやってきたのだが……。
「これは一体どうしたというのだ!」
私の聞いた話では、観光名所としても有名で街としても栄えてる。
遠くには南の海が広がり、それを覆うように淡い緑の木々を旅人たちを迎えるという。
そして天を突く雄大な世界樹が彼らを見守り、笑顔が絶えない街だと。
だが今は緑より黒、であった。
木造の家屋は多くが半壊し、住民達は生気のない顔で地べたに座っている。
まるで戦場の野戦病院の様相だ。
ただ事じゃない。
近くにいた街の住人に話を聞いてみよう。
タダでは申し訳ないので、薬草と干し肉にパンを二、三渡すと一言二言話し始めた。
「魔物が……魔物が……」
「魔物? 群れをなしてきたのか?」
「一匹……いや二匹」
「それだけでここまでやったのか? 街の兵士もいるのだろう」
被害は前日に起こったものらしい。
最低でも一〇〇軒以上は被害にあっている。
街には城壁はないが、魔物避けの鉄柵もある。
観光名所として有名なこのニアキスの街は資金も豊富で大砲などの防御設備も充実している。
それを破るなど……。いや心当たりがあるか?
「待て……もしやドラゴンか?」
「あ、ああ……ドラゴンと、翼の生えた鳥人間が滅茶苦茶にしていったんだ……」
「ドラゴンは判るが……鳥人間か……。ドラゴンライダーだろうか?」
ドラゴンの皮膚は鉄より硬いとされる強敵中の強敵。モンスターの中でも上位に位置する難敵だ。
それを貫くにはかなりの業物を使わねばならない。
具体的にはドラゴンの皮膚を紙のように裂くというドラゴンキラーなどだ。
そこに別の魔物が騎乗しているのがドラゴンライダー。
お互いに攻撃してくるので厄介さは二倍。
街の兵士たちでは太刀打ちできない。
「放ってはおけないな。だが私のつえでは到底ダメージを与えられん。むむむ……」
「ぎゅ~ぎゅ~?」
ねーねーどうするの? と肩に座っているキングス。
私は住人に別れを告げながら、
「うむ。まずは街を見回ろう。怪我人の手当てをしなくては」
「ぎゅー」
とりあえず救助を優先することにした。
怪我人が収容されている広場へと向かい、教会の神父に協力を申し出る。
「おお若いのにベホイミまで使えるのですか! この出会いを神に感謝いたします」
「怪我人が多くて手が足りないようですね……」
「ええ、私たちも人数も魔法力も足りず……。前日の戦いで天へ召された方々もいらっしゃいます。圧倒的に人が足りていないのです。ですから貴方には申し訳ないのですが早速お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。私の魔法力がある限り、やらせていただきます」
怪我を負った人々にホイミ、酷い場合にはベホイミを掛けて癒す。
「癒し手よ……ホイミ! ……少ないですがパンです。家族と一緒に食べてください」
「怪我を治して貰えるだけでもいいのに……ありがたち。街が焼かれて食糧も少なかったんだ。軍は一体なにをしてるんだか……」
比較的軽傷で薬草を貰えなかった兵士を回復させる。
感謝の言葉を貰いつつ、重傷者の方もいく。
切り傷と火傷が酷い。敵はやはりライダー系なのだろう。
「大いなる神の癒しをここに……ベホイミ! お辛いでしょうが水を飲んでください。少しは楽になるはずです」
「ぐ……ぐぅ……あり、がとう。んくんく……。これなら、安心して、眠れそうだ…………」
「ゆっくりお休みください」
回復魔法だけでは体力までは回復できない。
山でとったリンゴをすり潰し、水に溶かした果実水で少しでも栄養を取らせる。
「さすがに疲れてきたな……少し休むか……」
魔力が尽きたのを感じる。
少し頭がふらつき、近くの椅子に腰かけた。
クイクイッ。
「ん……?」
服をひっぱられる感触。
視線を下げると四、五歳くらいの童女が私の裾を引っ張っていた。
「あ、あの……おにいたん……かいふく、できゆってきいた」
「ああ、そうだよ」
金髪に三つ編みにした少女。どこかの誰かを彷彿させる。
まああの子ならちょっとアンタ! と強気な口調で言いそうだが。
不安げな表情で私を見上げる女の子は頭を下げながら、
「おとーさんが大けがしてゆの! ……おねがい……たすけて」
うるうると涙を溜めてお願いする少女。
縋るようなお願いに、私が断るなどあるわけない。
誰でも親は大切だろうからな……。
「そうか……お父さんが怪我したのか。うん判った。お兄さんが助けよう」
「ホントに! こっち。こっちに来て!」
「神父さんすみません、席を外しても……」
「大丈夫ですよ。もう夕方ですしね。あと泊まるところがなければ教会に来てくだされば部屋を用意いたしましょう。御礼にしてはささやかで申し訳ないですが……」
「いえいえその気持ちだけでも助かります。宿屋が見つからなければ訪ねましょう」
「申し訳ありません。それと魔力は大丈夫ですか? さきほど尽きたと仰っていましたが……」
心配そうに問いかけてくる神父。
私は懐からある品を取り出す。
「常日頃から旅をしていますもので。こういうものも用意してあります」
「魔法の聖水ですか! お高いでしょうに……」
「彼女の苦しみ比べたらこんなの安いものです」
魔法の聖水は魔力を回復させるアイテムだ。
だが数が少なく品薄で値段も高い。
いざというときのために手に入れた品だが……あの少女の不安の種を少しでも早く取り除きたい。
惜しむべきではないと思った。
「……神父の私がこのような体たらくなのに……」
「貴方は住人たちのために教会を開放してますし、治療も行っています。何も恥ずべきことはしていないじゃないですか」
「はは、若いのに本当にしっかりした御仁だ。せめてこれを持って行ってください」
「これは……命の石?」
「知っておられましたか。自爆呪文メガンテの身代わりに砕けるという希少な聖石です。お布施の代わりにと祖父が頂いた代物らしいですが、私より貴方の方が持っていたほうがよろしいでしょう。よろしければ持っていってください」
「判りました。ありがたく頂戴いたします」
私は神父に御礼を言ったあと病院を後にする。
少女に連れられやってきたのは一軒の赤い屋根の宿屋だった。
ここもまた半壊している。
壊れたドアをくぐり中に入ると、女性が少女を抱きしめていた。
「ああ、ソフィ! どこに行っていたの!? 外は危ないから出ちゃいけないってあれほど――」
「ママ! かいふくのおにいさんつれてきたの! おとーさんなおしてもらえるよ!」
「え、あの、あなたは……」
母親が私に目を向ける。
軽く頭を下げた。
「リィスと言います。お嬢さんにお父さんのことをお願いされまして」
「シャーリーと言います。主人と一緒に宿屋を経営しています。……すみません、娘が我ままを言って」
「そんなことありません。それより旦那さんの容体の方はどうですか?」
「丁度医者の方に見せているのですが……」
そう言いながら私を案内する。
やつれた顔から察するにあまり良い状態じゃなさそうだ。
魔法の聖水を飲み干しつつ、私は奥の一室へと足を踏み入れた。
医者が私たちに目をやると、目を伏せる。
「奥さん、ダンカンさんだがね」
「ダンカン!?」
「どうしたね?」
「あ……失礼しました。知り合いの名前と一緒だったもので」
まさか幼馴染の父親と同名とは不思議な縁だ。
ベットに横になった男性は酷い有様だった。
「う……ぁ……ソフィ……シャー……リー…………」
全身がまっ黒で無事な顔だけがぽっかり浮かんでいるように見える。
「あなた!」
「おとーさんッ! しなないで……だいじょうぶ、だからぁ……」
意識がないから妻と子の名を呟く。
すがりつく親子の痛々しい姿。
医者の説明を聞く。
「全身の火傷が酷い……これではもう……」
「すみません私は回復呪文が使えます。治療を試みてもいいですか?」
「いやそれはおススメできない」
「……どういうことですか?」
「彼は襲ってきたドラゴンに単身で戦い、酷いケガを負っていて体力が残り少ない。回復呪文を掛けても効果は薄いだろう。むしろ身体の残された力を余計に消費し、容体が悪化しかねない。しかも全身の火傷だ。皮膚も呼吸をしているのだ。……危篤状態と言っていい」
医者のその言葉に妻のシャーリーが涙を流して縋りつく。
「そんな!? 夫は……夫はもう駄目なんですか!?」
「おにいたん…………おとーさんだめ、なの? えぐ……もう、おきて……かたぐるま、して……くれないのぉ……?」
「大丈夫……大丈夫だから」
「きゅ~……」
キングスが私の肩を降りて、少女の頬の涙をぬぐおうとする。
ソフィの目から洪水のように溢れる涙が私の胸を強く打つ。
父パパスは、私の目の前で……全身を焼かれて死んだ。
横で呻くダンカンという名の宿屋の主人。火傷。子供。
他人事とは思えない。
絶対に、助けたい。
なにか、手はないのか?
医者は俯きながら、話す。
「一つだけ……方法がなくはないのですが……」
「……それはなんですか?」
「世界樹の葉です。それも根元じゃない。最上部の最高級の葉です。死者さえも癒すといわれるそれなら、ダンカンさんの治せることも容易でしょう。ただ……」
「ただ?」
「世界樹は幹をくり抜いて最上部までいけるようになっています。ですが街を襲ったドラゴンはその入り口を通せんぼしているようなのです。大量の兵士たちや僧侶が怪我しているのも返り討ちにあっているようなのです。とてもじゃないが……」
「ダンカンさんはあと何日持ちますか?」
私の言葉に医者は手持ちを薬を確認して答える。
「手持ちの薬草を投与してあと三日が限界ですが……」
「なら私がそのドラゴンを退治しましょう」
「無茶だ! もう一〇〇人以上やられている! 仲間がいようとそんなの――」
「やるやらないじゃないです。……やらなければ失われる。大切な人が目の前で死ぬのは、とても、辛いことなんですよ。可能性があるなら、私はそれに全てを賭ける! 命を賭しても!」
口をパクパクさせた医者を尻目に私は少女の頭を撫でる。
真っ赤にはらした瞳が痛々しかった。
「おにいたん……?」
「大丈夫。お兄さんがお父さんを治せる薬を取ってくるからね」
「いい、の?」
「ああ! 任せないさいっ。絶対に、助けて見せるから」
「う、うんっ!」
「あの……」
精いっぱい頷いた少女を笑顔に答える。
奥さんがおずおずと後ろから声をかけてきた。
「本当にお願いしてもよろしいのでしょうか?」
「ええ。任せてください。これでも腕には自身があるんですよ」
力コブを作ってアピールする。
ちょっと滑稽だったのか、やつれた彼女は少しだけ笑みを浮かべていた。
「なら今日は泊まってください。お代は頂きません」
「それは助かります。あ、ついでもこの子もいいですか? 大丈夫、人懐っこい子ですから」
キングスを指差した。
モンスターを嫌がるかと思ったが、彼女の見る目は優しい。
キングスはソフィにほっぺたを引っ張られていた。
「きゅ~♪」
「あはは、このぷにぷにしてるおっかしー」
「ええもちろん。娘も喜んでいますしね」
「ではお世話になります。……絶対に助けますからねダンカンさん」
ベットで横になっている男性にそう声をかけた。
その姿をかつての父と重ねながら――
《りぃす》
さすらいの魔物使い
せいべつ:おとこ
レベル:16
《つよさ》
ちから:75
すばやさ:50
たいりょく:54
かしこさ:91
うんのよさ:10
さいだいHP:108
さいだいMP:50
こうげき力:80
しゅび力:37
《そうび》
E かしのつえ
E たびびとのふく
E ぬののたーばん
《じゅもん》
ホイミ
ベホイミ
キアリー
インパス
ザオラル
メガザル
バギ
バギマ
バギクロス
ルーラ
パルプンテ
アルキード王国滅亡の時期がいまいち判らない……。
ミスってたらすいません。