ご了承ください。
2014.3.30 修正
なのはが風呂に入ってる間に、俺は晩御飯を用意しておく。
先ほどの誤解によるささいな行き違いは、じっくりと桃子との会話内容を説明したので解決した。
解決したというのに、なのはは風呂に入る前にまだ赤いままの顔をこちらに向け恥ずかしそうに
「い、一緒に入る?」
などと、戯言を抜かした。
壊れているのかと思い、斜め45°からのチョップをお見舞いして脱衣場に放り込んでおいた。
これで一安心、湯船で身体をしっかり暖めればそのうち冷静になるだろう。
頭は冷やすべきだが。
いろいろありすぎて、体力も気力も残っていないので晩御飯はすこし手を抜いてしまおう。
料理を作りながら、なぜか頭に乗っかっているユーノとお喋りする。
「そういえば、俺の魔法の色って何色なんだ?」
魔法について説明されている時にも、感じた疑問をユーノにぶつけてみる。
「魔法色というのはその個人の色というだけなので、魔法の性能には左右されませんよ?」
「いや、気になるじゃん? そういうの」
魔法の効果に代わりはないとは思っていたが、気になってしまったのだから仕方がない。
ちなみになのはは前述したように桜色、ユーノはさっき見たが薄い緑っぽい色だった。
「そういうものですか? それじゃ、簡単な障壁でも張って見てみましょう」
そう言って、ユーノが防御魔法の術式を教えてくれた。
なるほど、魔法ってのはプログラムみたいなのがあって、そのプログラムに魔力を注ぐことで魔法という結果を生み出すのか。
なんか、魔法っつっても科学のような匂いがするな。
それよりも、仕組みは理解したがこの術式もっと効率化できそうな感じがするぞ。
こういうのいじるの好きなんだよなぁ、自分の好みに合わせてパソコンとか自分で作ったこともある。
とりあえず今はその知的好奇心は我慢して、ユーノが教えてくれた術式を構築し、魔力を流して発動させる。
「デバイスがあれば、こういう面倒な手間が省けるんですけどね」
ふむ、たしかに戦闘中にこんな演算をするのは大変だな。
魔法の構築ばかりに気を取られていては命取りになる。
その負担を軽減するために、デバイスがあるというわけか、ん?
「ユーノ、お前今デバイス持ってねぇよな?」
そうなのだ、ユーノはデバイスであるレイジングハートをなのはに譲ったので、今持ってないはずなんだが。
もう一つ持ってたのか?
「僕はデバイスなしでやってます。この位ならすぐ出せる程度には慣れてますので」
ユーノが短い手を伸ばすと同時に、目の前の空間に薄緑の障壁が出現した。
「おお、デバイス無しで発動できるなんてユーノは優秀なんだな」
俺が褒めるとユーノは少し照れくさそうに謙遜する。
「別にそうでもないですよ。ずっとやってればこの位は誰でも出来るんです。僕は小さい頃から発掘とか研究で魔法に携わっていたので、出来ないとダメなくらいです」
慎ましいのはユーノの美点だが、こいつはあまりにも自分を過小評価するきらいがあるな。
「それを身に付けたのがどういう経緯であっても、使いこなせるようになったのはユーノが努力したからだろ。がんばった自分を貶すようなことするな、むしろお前は誇れ。それでちょうどいいくらいだ」
ユーノは今のままでは少し遠慮深すぎる。
なのはと足して、二で割ったら良い具合になるんじゃなかろうか。
ユーノの頭を人差し指でなでる、なんかこれお決まりみたいになってきてるな。
「あ、ありがとうっございます…、そっ、それよりも魔法の方はどうですか? できました?」
この小動物可愛いなー、なのはとのやりとりで疲れた心が癒されるわ。
魔法? とっくに構築もしたし魔力も送り込んだよ。
俺の心配は、術式の構築なんてチープなもんじゃない。
「俺の魔法……どこに出てるんだろうなぁ……」
おかしいな、発動してるという感覚はあるのに。
初めて魔法を行使するが、この程度のプログラムの演算は造作もない。
俺にとって、魔法という物自体は完全に未知なものであるが、それがどういう仕組みで成り立っていて、どういう原理で発動するかという事が理解できるのであればやってできないことはない。
直近の問題としては、発動しているという感触はしっかりとつかんでいるのに、少なくとも俺の視界には生み出したはずの障壁が見えないということだ。
術式には、魔力もしっかりと行き渡っているはずなんだが……
もしかして……なに、そんなに俺の防御魔法の適性が低いってこと?
俺の障壁の大きさ、微粒子レベル?
愕然と同時に呆然とする、俺これじゃ戦えないんじゃね?
しばしの間、言葉がなかったユーノが口を開いた。
「待って、大丈夫です落ち着いてください。しっかり発動しています、ほら」
小さい手で、ある空間をぴこぴこと指差す。
そこは、俺がショックを受けながらも調理を続けている所の、少し上のあたり。
よく見れば、煙の動きがおかしい。
フライパンから上に、煙が流れるが途中で、なにかにぶつかるように左右に分かれていく。
もしかして、と思い左手を伸ばす。
「あった……俺の、魔法……」
そこに、確かにあった。
これならば、気付けなかったのも仕方が無いと言えるだろう。
「まさか……透明……?」
ユーノが代弁してくれた。
俺が発動し防御魔法の障壁の色は無色透明だった。
よく見れば、少しもやもやっとしてる気がしないでもない。
これは、戦う時相手にバレずに使えるのはいいかもしれないが、自分にも見えにくいってのは困ったもんだな。
「透明……? 魔力色彩異常症? でもさっき診た時にはそんな反応は……なら、元から無色透明ということ?」
ユーノがなにやらえらく考え込んでいる。
「ユーノどうした? もしかしてこれって、魔法に支障きたすようなヤバイものだったか?」
そうだとしたら、大変困ることになる。
魔力の容量は少なく、適性も低い上に、さらに足を引っ張るようなことになってしまうとさすがに心が折れそうだ。
俺の不安を拭うように、ユーノは首を横に振る。
「これは凄いことですよ! 徹兄さ、徹さん。魔法色が色彩異常の症状でもなんでもなく、無色透明というのは僕は聞いたことがありません!」
よくわからないが、いいことなのだろうか?
それよりユーノ、今お前、徹兄さんって呼ぼうとしてなかった?
「それに気を配ってなかったとはいえ、この距離で僕が魔法の発動に気が付かなかった程の隠密性を有しています。これは、戦う上できっと役に立つと思いますよ」
ある意味
レアスキルというのがどういうものか具体的にはよくわからないが、ユーノのリアクションから察するに良いものなのだろう。
まさかこんなところで魔法に関しては貧弱な俺に、武器ができるとは思わなかった。
勉強することや努力することが倍増しそうではあるが、俺にできることも増えるかもしれない。
突然降ってわいた一筋の光のお陰で、未だに影で覆われていた俺の心は、幾分か持ち直した。
頑張ろう、心の底からそう思えるくらいには、砕けかけた俺のメンタルも回復した。
心なし軽快な手つきになって、完成した料理を皿に盛る。
ユーノと話し込んでいる内に、晩御飯がずいぶんと豪勢になってしまったがそんなこと気にならない。
今日の晩御飯はユーノと、あと今は気分がいいので無礼千万なレイジングハートも入れてやろう、その一人と一つに出会った記念ということにしよう、うん、それがいい。
かちゃかちゃっ、と、扉の開く音が聞こえた。
「徹お兄ちゃーん、あがったよー!」
なのはが風呂からあがったようだ、タイミングのいい子だな。
料理が盛られた皿を持ち、キッチンからリビングへ移動する。
「ちょうど料理も出来たところだ。冷めないうちに食ふぅッ……」
最後の方で言葉が途切れたのは、
風呂上がりでちゃんと乾かしていないのか、髪は水気を帯びてしっとりしていて、いつものツインテールを下ろしているため、普段とは違う雰囲気を醸し出している。
体格が違いすぎるせいもあるが、風呂上がりで暑かったのだろうか、ボタンをいくつか外しているせいで、あまり成長の見られない胸元が危ういことになっている。
袖は当然のように余りまくっていて、なのはの白魚のような細くて白いおててが見えていないが、それがまた随分と可愛らしい。
丈は十分足りているはずなのに、ボタンを掛け違えているのか、ツヤがあり柔らかそうな内ももがチラリズムしている。
「お、おま、なんて格好してんだよ!」
俺の抗議を受けて、なのはが頬をぷくっと膨らまして反論する。
「だって着てた服洗濯機に入れちゃったもん。それに汚れちゃってたから、もう一回着るなんてありえないもん。なのに着替えは用意されてないから仕方なくこれ着てるのにっ!」
むむ、たしかに俺にも不備があった。
だが、それでもやりようはあっただろう。
「そ、それなら呼べばよかっただけだろ、とびら、扉越しでもここまで聞こえるだろうし!」
何を緊張してんだ、何をテンパってんだ俺!
いくらなのはが生まれついての天使だとしても、その天使がこんな誘ってるような、いや訂正。
可憐な、そう可憐で扇情的な姿、扇情的は余計だ。
可憐な姿で、俺の前に現れたとしても、こいつは小学生だ。
そうなんだ、小学三年生なんだから手を出す訳にはいかない。
手を出したが最後、問答無用で警察のお世話になってしまう。
せめて六年生なら、ってバカか! 六年生だろうと変わらねぇよ!
中学生だったらセーフだったのに、中学生なら。
俺、本当余裕ないな。
「よ、呼んだもん! なのになんか……そう! ユーノ君としゃべってるみたいで、返事してこなかったんだもん!」
なんか嘘っぽい感じはするがその証拠はない、実際俺がユーノと話し込んでいたのは事実なのだから否定できない。
くそう、なのはの声なら3km先からでも聞き取る自信があったというのに!
「わ、わかった、俺が悪かったよ。ごめんな、気が利かなかった」
なのは相手に言い負ける日が来るなんて……屈辱だ。
なのはは、ふふん、と腰に手を当てて無い胸を張る。
だがそれは、今の俺にとって最大限に危険な行為であった。
「ちょ、ちょっと待ってろ。なんか着れそうなもん探してくっから」
この状況は危険と判断し、この一件をすぐに終わらそうと動く。
それに、あのレイジングハートが黙ったままというのがとても気味が悪い。
こんな状況であいつが俺をばかにもしないなんて、何を考えているんだ。
かすかにあの赤い宝石が光ってる気がするが光の加減か?
なお、ユーノはちっこい手で顔を覆ってなのはの姿をみないようにしていた。
真面目だね、ユーノ。
ワイシャツの代わりに寝間着に使えそうな服を探しに行くため、リビングを出ようとした俺をなのはが服の端をちょこん、と掴んで引き止めた。
「私はこの服で大丈夫だよ? いい匂いするし。それよりご飯冷めちゃうの、早くご飯食べよ?」
なのはが服を掴みながら上目遣いで、首を微かに傾けた。
身長差で、上から見下ろす形になっている俺の視界に入ったのは、綺麗なラインを描く鎖骨と、上から見ているせいで更に見えやすくなってしまった胸元だった。
半端ではない衝撃が熱を生み、俺の身体の真芯を襲った。
なのはは、本気で、晩御飯が冷める前に早く食べようと提案してきているようで、この格好のまま俺をいじるつもりなんて、微塵も考えていないようだ。
悪戯でそんなことを言ってきていたら、振りほどいて服を探しに行くが、そんなことわずかにも考えていないようだ。
純粋に、俺が作った晩飯を温かいうちに、みんなで一緒に食べたいという気持ちで言っているため無下にできない。
「そ、そう、か。それなら飯食ってから取りに行くか」
結局俺が折れた、これは仕方がない。
よくよく考えれば、どんなシチュエーションであろうと俺がなのはの手を振り払うなど想像もつかないな。
レイジングハートをテーブルに乗せる。
ユーノには小さい皿を用意してそれに盛りつけた。
「わぁ、すごいですね徹兄さ、徹さん! 料理こんなに上手いんですね!」
ユーノが並べられた料理の数々を見て褒めてくれた。
もう俺のこと兄さんって言うの、隠そうともしてなくない?
俺が座り、なのはが俺の膝の上に座り、準備完了いただきます。
「おかしくない? なのはさん」
いつから俺の膝の上は、あなたの指定席になったのでしょう。
ていうか本当にそろそろやばい、劣情スイッチ入りそう……
同じシャンプーのはずなのに、なぜかふくいくとした香りがなのはの髪から上がってくる。
もしかしなくてもワイシャツの下何も身につけてないんじゃねぇの、と思えるほど柔らかい感触が俺の足に届く。
ツインテールにしてたから気付かなかったが、予想以上に長い髪が俺の手をなぶる。
俺の葛藤を知らずに、にゃはは、と心の底から嬉しそうになのはが笑う。
「こうやって一緒にご飯食べるのも久しぶりなの。最近、徹お兄ちゃん忙しかったみたいで一緒に遊ぶこともできなかったもん。このくらいは許してほしいにゃあ」
紛れもない笑顔の奥に、一抹の寂しさを見たような気がして、何も言えなくなってしまった。
ここ最近は、高校の受験勉強とかバイトや家事とかで、なかなか時間が取れなかった。
それを言い訳にするつもりはない、なのはをないがしろにしたのは事実なのだから。
だから弁解はしない、言い逃れの口上など、述べるつもりは一切ない。
「心配すんな、俺はずっとお前の傍にいるんだから。それにこれからしばらくは、否が応でも一緒に行動することになるんだからな。今さら後悔しても遅ぇぜ、覚悟しろよ」
せっかくの食事の場を暗い雰囲気にするのは本意ではないだろうから、少し茶化すような言い方をしておく。
なのはは、いつも明るく振る舞っているが、その実、結構な寂しがりやさんである。
昔、翠屋の経営者で、なのはのお父さんである高町士郎さんが倒れたことがあった。
その頃はまだ、翠屋は今ほど知れ渡っておらず、これからという時に士郎さんが倒れた為、桃子さんも翠屋を守るのに必死で、恭也もなのはの姉である高町美由希も店の手伝いに入り、幼かったなのは一人が家に残った。
それを見兼ねて、なにか俺にも手伝うことができないかと考えたが、当時の俺に料理の技術はなく、昔から愛想もなかったため、手伝いに行くことはできなかった。
そこで恭也に頼まれたのが、″なのはが寂しがっているようだから一緒にいてあげてくれ″というものだった。
それからは学校等の時間を除けば、四六時中一緒に遊んでいたこともあり、なのはは俺にすごく懐くようになったし、よく笑うようにもなった。
だが、やはり憶えているんだろう。
一人で、独りぼっちで、家に取り残されていた時のことを。
賢い子だから、あの頃のあの状況では、仕方がなかったというのをなのはも理解はしていると思う。
でも理解したからといって、心に刻まれた孤独感が消えてなくなるわけではない。
いつかまた独りぼっちになるのを、なのははどこかで恐れて、怯えているだろう。
俺に必要以上に甘えてくるのも、そういった理由があるのかもしれない。
だから俺は、言葉ではなく行動で、この儚くて脆い可憐な女の子に示すのだ。
不安なら安心させてやればいい。
体温を分け合って一緒にいれば、寂しくて凍えた心もいつかは融けるってもんだろう。
なのはを抱き締めて、頭の中がふわふわしそうな香りを今は楽しみながら、頭のてっぺんに軽くキスをする。
「約束だ。俺は、お前がちゃんと一人で立てるまで、お前の隣にいてやるよ」
なのはが後ろからでも分かるくらいに、耳まで赤くして俯いた。
「うんっ……約束……っ……」
何故だか結局、湿っぽくなってしまった、気を取り直そう。
「本当に飯冷めちまうわ、さっさと食うぞ!」
いただきまーすっ、と手を合わすと、今まで会話に入れずにいたユーノが喋り出した。
「二人は本当に仲良いですね……兄妹にしては、危険なくらいに仲が良すぎる気もしますけど」
ん? なんか、ユーノは誤解しているようだな。
「俺となのはは兄妹じゃねぇぞ? なのはにとって俺はあれだろう、近所の仲の良いお兄さん的な立ち位置だろう」
「えぇぇっ! 兄妹じゃなかったんですか!? じゃあなんでなのはは徹兄、さんのこと徹お兄ちゃんって」
兄妹じゃないことに、大変驚いた様子のユーノ。
ちなみに俺は、お前のお兄さんでもないけどな、もう訂正すんの諦めちゃってんじゃん。
「昔から一緒にいたからな、もう一人の兄貴みたいなもんなんだろう」
ユーノに俺となのはの関係を教えてやっていると、いつの間にか復活していたなのはがむくれてる。
「そんな風に言うんだ……ふん! いいもん、徹お兄ちゃんはこれからいっぱい後悔すればいいもん!」
そう宣言したなのははあろうことか、俺の膝と、奇跡のような柔らかさと美しい曲線をもつお尻とを隔てていたワイシャツの裾の部分を、上にワイシャツを手繰り寄せることで取っ払ってしまった。
つまり俺の膝には天使の生尻が……
くっ……あんないい話をした後なのにっ……!
押し倒すこともできないため、必死に我慢するしかなかった。
当然ながら、俺が腕によりをかけて作った晩御飯の味は記憶にない。
R15タグつけるべきでしょうか?
イマイチそのあたりの境界線がわかりません。