そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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更新遅れてすいません。
(友達の)田舎の城崎に遊びに行っていて更新する時間がありませんでした。
温泉楽しんできました。


「提案があります」

「ここどこなのかな?」

 

「艦がどうとか言ってたから船の中だとは思うんだけどな」

 

「この艦はL級次元巡航船・アースラだ。これから艦長のもとまで案内する」

 

 かすかに光沢を放つ廊下を歩きながらクロノ少年の説明を受ける。

 

時空管理局の仕事内容などもついでに説明してくれたが、大体の部分はユーノに聞いていた通りだったので半分以上聞き流した。

 

 一通り話し終わるとクロノ少年がいきなり足を止めたので、後ろについて歩いていた俺となのはも立ち止まる。

 

忘れていた、と呟いてこちらへ振り返る。

 

「二人とも、バリアジャケットは解除してくれ。あとそこのちっこいのも。それが本来の姿ではないんだろう?」

 

 前文は俺となのはに視線を送りながら、後文は俺の肩に乗るユーノに向けて言われたものだ。

 

「そういえばなのははずっとバリアジャケットのままだったな」

 

「もとの服に着替えるタイミングなかったもん。レイジングハート、お願い」

 

『はい、マスター。……徹、マスターを舐めまわすようにじろじろ見ないでください。マスターが(けが)れます』

 

「絶好調だなレイハ。相変わらず罵詈雑言(ばりぞうごん)にキレがある」

 

 なのはは、瑞々しく肌触りの良さそうな頬を若干膨らませながらレイハに指示を出す。

 

バリアジャケットの着脱時にはいつも光で包まれるのだが、今回は通常時の倍くらいの光量でなのはが覆われた。

 

お着替えシーンを見せないようにするためか……くっ、主人想いのデバイスめ。

 

まぶたを閉じていても突き刺すような光が眼球を襲う。

 

やっとのことで目を開くと、そこにはもうなのはが私服姿で立っていた。

 

レイハも杖の状態から待機モード、赤い球状のネックレスになってなのはの首にかかっていた。

 

 嘆息しつつ、クロノ少年の言葉を思い出して疑問を抱く。

 

『ちっこいのも。それが本来の姿ではないんだろう?』というセリフは、ユーノにあてられたもののはずだ。

 

いまいち要領を得ないので肩に乗るユーノを見やれば、そうだった元の姿に戻るの忘れてた、と苦笑しながら言う。

 

 さらに混乱が頭の中を埋め尽くすが、俺の疑問を口に出す前に、ユーノが自ら解答を提示した。

 

俺の肩から小さい身体を精一杯伸ばして前方にジャンプし、光に包まれる。

 

白い光の中のシルエットがフェレットもどきから徐々に大きくなり、人型になったところで光が収束した。

 

「二人にこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」

 

 そこには黄土色の髪を持つ可愛らしい顔をした少年がいた。

 

華奢な体躯を若草色のパーカーとカーキ色の半ズボンで包んでいる。

 

なのはより数センチほど背が高いだけなのでそれなりの格好をしたら女の子に間違えられそうな容姿だ。

 

「ゆ、ユーノくんって……普通の男の子……だったんだ」

 

「遺跡の発掘とか調査が仕事って言ってたんだからフェレット状態は仮の姿だとは思っていたが、こうまで普通に人間だとさすがにちょっと驚くな」

 

「あ、あれ? なのはにも兄さんにも見せてませんでしたっけ?」

 

「初めて見たよぉっ!」

 

「初めて会った時からフェレットだったじゃねぇか」

 

「そ、そうでしたっけ? すいません」

 

 俺となのはに問い詰められたユーノは頭の後ろをさすりながら、少し首を傾けて困ったように苦笑した。

 

その姿がまた愛らしく、そっちの気がある人間なら一発で落とされそうな仕草だった。

 

「ほら、君も武装解除してくれ。君が一番危険な人物なんだからバリアジャケットどころかデバイスも取り上げたいくらいだがな」

 

 ユーノとの歓談にクロノ少年が水を差すように割って入ってきた。

 

腕を組み斜に構えて俺を見る少年はどことなく大人ぶって見えて、素っ気ない態度のなかに可愛げがあった。

 

 普段であれば一言二言からかう言葉が口から飛び出る所だが、ここは時空管理局の旗を掲げる船の中。

 

敵ではないようだが、味方であるとも断言できない。

 

これ以上印象を下げるようなことをしては俺たちにとってマイナスになるかもしれない、そう考えて口をつぐみ、茶目っ気は抑えてクロノ少年に返答する。

 

「俺バリアジャケット着てねぇよ? デバイスも持ってねぇし」

 

「……は?」

 

 俺がそう答えるとクロノ少年は三秒ほど黙り込んで、目を見開いてまっすぐに身体ごとこちらを向いた。

 

「たしかに兄さんはデバイス持ってませんね。僕はレイジングハートしか持っていませんでしたし、兄さんに渡すぶんがありませんでした」

 

「徹お兄ちゃんはどうやって魔法使ってるの?」

 

「デバイスってのは術者の代わりに術式の演算をするものだそうだ。その演算処理を自分の頭でやってるってだけで、そんなに難しいことをしているわけじゃないぞ? ユーノもデバイス使ってないし」

 

「僕は兄さんほどに同時に複数を展開、かつ即座に構築することはできませんよ」

 

「また謙遜して……やろうと思えばお前もできるだろうに。というか、俺の場合はいくつも張っておかないと使い物にならないからそうしてるだけだ」

 

『徹の場合は展開しつつさらに動き回って近距離で打ち合いますからね、紛れもない人外です。ヒトモドキです』

 

「せめて人類という枠組みからは外さないでくれよ」

 

「やっぱり徹お兄ちゃんはすごいなぁっ」

 

「ま、待ってくれ、デバイスを使わずに僕と戦っていたっていうのか? バリアジャケットも装着せずに? 本当に?」

 

 驚愕に口を開いて思考停止に陥っていたクロノ少年が再度質問する。

 

その勢いに頬を引き攣らせながら答える。

 

「あ、あぁ……そうだけど。べつにそれで問題はないし、やっていけてるし」

 

「き、危険すぎる……滅茶苦茶だ。生身の状態で、しかもそれで射撃魔法を殴り飛ばしたなんて……」

 

「一応魔力付与は使ってるから生身じゃないぞ」

 

「クロノ執務官、でしたか? 兄さんはこういう人なんであんまり気にしないほうがいいですよ」

 

「……そうだな。聞きたいことは山のようにあるが、今は置いておこう。艦長のもとへ案内するのが先だ」

 

 クロノ少年は額に指を添えながら疲れたように頭を振る。

 

 どうやら俺の戦い方はセオリーから外れているようだ。

 

俺は使える魔法をすべて使って、自分に合った戦法で相手に立ち向かっているだけなのだが。

 

 心労がたたっているのか、若いのに眉間にしわを刻みながらクロノ少年は続ける。

 

「あと僕のことはクロノでいい。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。ちゃんと自己紹介できていなかったから改めて言っておく」

 

 俺へ睨みつけるような視線を送りながら、再度名前と肩書きを述べる。

 

 いきなり殴りかかったのは悪かったとは思うが、謝ろうとは思わない。

 

俺も悪かったがクロノ少年にも非はあるのだ。

 

「高町なのはですっ。よろしくね、クロノくん」

 

「ユーノ・スクライアです。よろしく、クロノ」

 

「逢坂

「君の名前は知っているし心に刻み込んでいる。名乗る必要はない」

 

「そうかい、クロちゃん(・・・・・)

 

「き、貴様っ……」

 

 なのはもユーノも自己紹介したのになぜか俺の時だけクロノ少年が被せるように邪魔してきたので、つい大人げなくやり返してしまった。

 

 クロノ少年、もといクロノの杖を握る手がぷるぷると震えだして、あーやっちまったかなぁ、なんて後悔し始めた時、救いの声が艦内に響いた。

 

『クロノ執務官、客人を早くご案内するように。繰り返します……』

 

「……………………」

 

 まるでこの場をどこかから見ていたかのような狙いすましたタイミングで鳴った艦内アナウンスに出鼻をくじかれ、クロノは俯いて黙り込んでしまった。

 

なにも艦内放送を使わずとも念話で事足りるだろうに……。

 

 恥辱から顔を真っ赤に染め上げて、それでも職務を全うすべく歩き始めたクロノの背中にさすがの俺も同情してしまい一言だけ、ごめんね、と投げかける。

 

するとクロノは小さく、うるさいっ、と突っぱねた。

 

機嫌を損ねていてもちゃんと言葉を返すあたり、真面目な性格が滲み出ていて俺は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「この艦の艦長を務めています、リンディ・ハラオウンです。よろしくね」

 

 俺たちが通された応接室は、一般でいう応接室とは一味違った趣向だった。

 

畳敷きに茶道の道具一式。

 

なぜか和傘が後ろにオブジェのように飾られており、リンディ・ハラオウンと名乗った女性の背後では鹿威(ししおど)しが一定の間隔で小気味いい音を鳴らしていた。

 

 いろいろ部屋の(おもむき)について尋ねたいところではあったが、先に入るよう指示されたので今は口を(つぐ)む。

 

 こういう場は苦手だが、俺たちの勢力(総勢三人)の中では俺が一番年上なので、一応年長者として正客席(正面)に座った。

 

俺の隣になのは、その隣にユーノが着く。

 

クロノはリンディさんの斜め後ろに控えた。

 

「俺は逢坂徹です。こっちの可愛い女の子が高町なのは、その隣の可愛い男の子がユーノ・スクライア。よろしくです」

 

 先に相手が自己紹介をしていたので座って早々に俺も名乗り、隣に並ぶなのはとユーノも紹介しておく。

 

俺が軽く頭を下げ、なのはとユーノもそれに続く。

 

 時空管理局がどれほど信用に値するかはまだ計りかねているが、この()に及んで相手を騙すような真似を俺はしなかった。

 

すでにポイントオブノーリターンの境界線を俺たちは飛び越えているのだ。

 

今さら時空管理局に敵対するような行為にさしたる意味はない。

 

協力的な態度を取るほうが結果として実りがあるだろうと俺は踏んでいる。

 

もちろん、足元を見られるようなことがないよう注意して、である。

 

「徹君に、なのはさんに、ユーノ君。ええ、よろしくね」

 

 リンディさんは人の気持ちを問答無用に融和させるような笑顔で名前を呼びながら、俺たちの顔を順にじっくりと眺める。

 

穏やかな声に裏を感じるのは俺の性格が捻じ曲がっているからか、それとも説明できないいつもの勘か。

 

 リンディさんは続ける。

 

「さっきはクロノが行き過ぎた行動を取ってしまったみたいで……ごめんなさいね?」

 

 申し訳なさそうに眉を寄せて端整な顔に苦笑いを浮かべるリンディさん。

 

 話題に上ったクロノは彼女の後ろで見るからに()(たま)れないという表情をしていたので、少しフォローをしておくことにする。

 

原因を作ったのは俺なのだし、このせいでクロノが叱られるというのも後で罪悪感に(さいな)まれそうだ。

 

「いえ、その件は俺のほうが悪かったんです。大事な仲間とライバルをいきなり拘束されて、ついカッとなってしまって」

 

「クロノが名乗りきる前に兄さんが殴り込んでしまったのが勘違いの発端でしたね」

 

「でも徹お兄ちゃんもクロノくんもケガがなくてよかったよね。見てて心配だったんだよ?」

 

「そうだ。僕だって戦闘行為をするつもりなどなかったんだ」

 

 ユーノとなのはが管理局よりで話したせいか、クロノが水を得た魚のように勢いを取り戻して釈明しだした。

 

このままの展開で事を運ばれるのは(しゃく)なので、こちらも正当性を説かしてもらおう。

 

「仕方ねぇだろ。害を()す相手かそうじゃないかなんてすぐには判断できなかったんだ。ならまずは危険因子を排除しようとするのは妥当だろ」

 

「殴り飛ばして距離を取ったまでならその理屈でわかります。そのあとに距離を置いたにも(かかわ)らず、僕とクロノの話を一蹴して戦いに入ったじゃないですか。そのせいで事態が悪化したとも言えます」

 

「ゆ、ユーノくん。徹お兄ちゃんはわたしたちを守るために戦ってくれてたんだから……それくらいで……」

 

「クロノ執務官。戦う意思がなかったというのであればわざわざバインドで、しかも女の子二人を縛り上げる必要はありませんでしたよね。記録されていた映像を見ましたが、なのはさんともう一人の少女はあの時点では戦闘行動を中断していました。あの状況であればバインドを使わずともよかったはずです。話し合いに応じてもらえず、攻撃されたのであればまだわかりますが、無抵抗であった今回であれば魔法を使うまでもありませんでした。もっと考え方に柔軟性を持たせなさい」

 

 俺の抗議はユーノの正論で封じられ、クロノの弁明はリンディさんの理論的なお説教で綺麗に撃墜。

 

俺もクロノも『……すいませんでした』という言葉しか見つけられなかった。

 

なのはの助け舟がなければ、俺のガラスのハートは話し合いが始まって数分で砕け散っていたところだ。

 

ばつが悪い思いで頭の後ろをかく。

 

 クロノも俺と同じで……いや俺より幾分重傷なようで、元いた位置からさらに一歩下がって肩を落としてしょんぼりしていた。

 

反応がいちいち可愛い少年である。

 

「そろそろ本題に移りましょうか。もうお分かりかと思いますが……ジュエルシードについて、です」

 

 茶筅で点てられたお茶を俺の正面に置きながらリンディさんは言う。

 

 茶道の作法はずいぶんと簡略化されているのでそう(かしこ)まらずに、いただきます、と言いつつ置かれた茶碗を持つ。

 

作法は茶道の流派ごとに大きく違ってくるし、第一に茶道自体に明るくないので正直助かった。

 

 時計回りに回して(わん)の正面を避けてから口にする。

 

リンディさんの外見と部屋の仕様から日本かぶれの俄仕込(にわかじこ)みかという先入観を抱いていたが、味は中々に良いので本格的に学んでいるようだ。

 

三回ほどにわけて飲み、口をつけた部分を右手の指先で拭い、飲む前とは逆に反時計回りに回して正面に置く。

 

懐紙の持ち合わせは当然ないので、格好はつかないがハンカチで代用した。

 

 久しぶりにちゃんとしたお茶を味わって集中力が多少戻った気がする、気持ちが落ち着いたのだろう。

 

 回転率が上がってきた頭でアースラ艦長、リンディ・ハラオウン提督と対峙する。

 

正念場はここからだ。

 

この手の話し合いは得意分野とは言い難いが、なのはとユーノに任せるわけにもいかない。

 

これでも俺は、二人の兄貴役を自任しているのだから。

 

「えぇ、そりゃあこのタイミングで来たんだからジュエルシード以外にはないですよね」

 

「ジュエルシードの危険性については?」

 

「よくわかっています。ユーノからも聞きましたし、実際に体感もしています」

 

 『実際に体感』というところで胸元のエリーがぷるぷると震えた。

 

それはいつぞやに燐光色の魔力素を迸らせたことに対する罪の意識か、はたまた懺悔か贖罪か。

 

「それなら危険性については省略しますね。私たちはジュエルシードから発された次元震を探知してこの世界へやってきました。遠く離れた世界にいた私たちでも受け取ることができたほどの莫大なエネルギー量です。次元断層が発生するのでは、と危惧したほどでした」

 

 莫大なエネルギーを放出したジュエルシード。

 

そう言われて連想されるのは、俺の服の内側で先ほどから小刻みに震えているエリーだ。

 

 これまで俺たちが回収してきた中でジュエルシードが暴走したのは一度しかない。

 

市街地でフェイトが直接魔力流をあてて場所を特定し、なのはとフェイトの二人で封印しようとしたために暴走状態に陥ったその一例のみだ。

 

それと比べれば他の回収はわりと穏やかに済んでいる。

 

 エリーを押さえ込むときに漏れ出た幾筋の魔力光……あれらが時空管理局側のレーダーかなにかに捕捉されたのだろう。

 

「この話もすでに聞き及んでいるかもしれませんが、ジュエルシードほどのロストロギアともなると世界の一つや二つ消滅させるのは簡単です。過去にもいくつもの世界が次元断層に呑まれるように消えています。それほどに危険な代物なのです。……なので、これからのジュエルシードの収集は時空管理局が担います。あなたたちはそれぞれ、元の平和な日常に戻ってください」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。わたしはフェイトちゃんと……」

 

 早速ぶっこんできやがった、と俺は奥歯を噛む。

 

 『ああ、忘れていました』と、リンディさんがなのはのセリフに被せた。

 

「本来は魔法の存在を知らない世界の人に魔法を見せるような、魔法を知られるような行為は禁じられています。ましてや教えるようなことなど論外です。ですが今回は、速やかにロストロギアを回収しなくては当世界に甚大な被害が出る、という火急の事態であったのでやむなく現地のかたに助力を乞うた、というかたちで処理しておきます」

 

 人の良さそうな笑顔で、心配しなくていいですよ、と付け加えるリンディさんになのはは何か言いたそうにしながらもゆっくりと口を閉じてスカートをきゅっ、と握り込む。

 

 さっきの言葉は言外に、ある一つの事柄を暗に示していたのだ。

 

逆らわなければ罪にはしないが、逆らった場合は魔法を教えたという件について追及するぞ、と。

 

 なのははまだ幼いが、小学生とは思えないほどに(さと)い。

 

その賢さのおかげで――あるいはその賢さのせいで――駆け引きを理解できてしまった。

 

自分が駄々をこねればユーノに迷惑がかかると、理解できてしまったのだ。

 

だからこそ言葉が続かず、黙らされてしまった。

 

「そんな……急すぎます! 今までなのはと兄さんの尽力でなんとか誰にも被害を出さずに(・・・・・・・・・・)済んだんですよ?! 街への損害だって最小限に抑えられていると思います! その二人に向かってそんな扱いは……っ!」

 

「『誰にも被害を出さずに』ですか。たしかに徹君やなのはさん、もちろんユーノ君も含めてですが、あなたたちの奮戦でこの世界の人に死傷者は出なかったかもしれません。ですが……徹君やなのはさんは多少なり負傷はしたのではないですか? 魔法を知らなければ怖い思いや痛い目に合わなくて済んだ二人は、魔法に関わってから少なくない数の怪我を負ったのではないですか? 元はと言えば我々の事情とは無関係の方々です。ジュエルシードの回収なんていう危ない役目も、この世界を守るなんていう重たい責任も背負わせるのは心苦しいでしょう。だからこそ、ここでその重荷を下ろしていただいて専門である私たちに任せてもらうのです。ユーノ君も、手伝ってくれている二人が平和で幸せな暮らしに戻れるのは嬉しいでしょう?」

 

「それは、そうですが……。でもっ……」

 

 目の前の女性はずいぶんと若く見えるのになぜ提督なんていう重要なポストについているのだろうか、と自己紹介してもらった時に俺は思っていた。

 

その時は、魔法世界と俺たちが生きている地球とでは採用の仕方が違うのだろう、と深く考えずに流していたが……俺のその考察はあまりにも見当違いで甘いものであった。

 

実力――時空管理局提督、L級次元巡航船・アースラ艦長のリンディ・ハラオウンという女性は、実力ゆえに、その役職に任命されている。

 

それを俺は今、痛いほど身に沁みて感じていた。

 

 おそらく魔法の腕も想像を絶するのだろうが、交渉においても俺たちでは手も足も出ない。

 

個人個人の性格を読み切り、関係性についても大体のあたりをつけ、弱いところを的確に突く。

 

その上で理路整然と正論をならべ、断りづらいよう話の流れを作り、善意で勧めているような雰囲気まで漂わせているのだからもう手に負えない。

 

一枚二枚上手(うわて)なんて可愛いものではない、十や二十も格が違う。

 

 なのはには、今まで助けてくれていたユーノに負担がかかるかも、と迂遠な言い回しで匂わせた。

 

優しく、そして誰かに迷惑をかけることをなによりも嫌うなのはには効果覿面(てきめん)だろう。

 

これが海千山千の技術、ついさっき会ったばかりだというのに……人間性をここまで把握できるものなのか。

 

 ユーノに対してもそうだ。

 

攻撃的な魔法がなく、戦闘に参加できずにいて俺たちに任せっきりだという弱みにつけ込まれた。

 

実際のところユーノがいるからなのはは思う存分砲撃が放てるし、俺も安心して相手に突っ込んで怪我できるってものなのだが本人はそう捉えておらず、後ろめたさを抱えていた。

 

その脆い部分を狙われて、発言の矛盾を問い詰められ、反論しづらくさせる。

 

こういった場に慣れていなければ到底できない芸当だ。

 

そのあたりの技術はもう全面的に認めるほかない。

 

 でも……それでも俺は、俺のできることをするだけだ。

 

ガキの言い分だとしても、なのはとユーノの望むようにしてやりたい。

 

そのためならいくら恥をかいたっていい、屁理屈だってなんだっていい。

 

道理を無理で(とお)すのが俺のやり方だ。

 

ここで退いてしまったら、これから先二人に合わせる顔がない。

 

「ユーノ、お前はどうしたい? 俺やなのはに気を使うことはねぇ。お前の意思でいい」

 

 顔を横に向けて、仲間の偽りのない率直な気持ちを確認する。

 

「僕は……最初は管理局が来るまで持たせることができればそれでいいと思っていました。でも今は、ここで投げ出してすべて任せてしまうことは……できません。この一件は自分で決着をつけたい、解決するまで携わりたいです。それが僕の――責任ですから」

 

「そうか。なのはは?」

 

「わたしも……こんなところでお終いなんて納得できないの。中途半端なところで管理局の人たちに丸投げっていうのは、なんだか気持ち悪い。それに、まだフェイトちゃんと面と向かってお話できてないもん……ここでは終われないよ」

 

「そうだよな、それでいいんだ」

 

 立場を(わきま)えない身勝手な俺たちの会話を、リンディさんもクロノも黙って聞いていた。

 

クロノは眉間に(しわ)を寄せ、リンディさんは微笑みを(たた)えているのが視界に入る。

 

 一つ深呼吸を挟んで左手を膝に乗せ、右手を強く握って拳を畳につけ、リンディさんを正面から見据えて口を開く。

 

「提案があります」




クロノくんはドヤってしてるところで叱られてしょぼんってなるのが可愛いと思うんです。
つまりは僕の趣味。

リンディさんのイメージはとてもとても仕事のできる女性。
キャリアウーマン的な女性って惹かれます。
これについての妄想は次回に持ち越します。

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