それほど長くないのになぜか時間がかかりました。
ギターやってたせいですね、すいません。
今回はネタに走ってしまいました。
思いついてしまったのでどうしようもありませんでした。
話が全然進まなくて苛立つ方もいるかもしれませんが、これだけは謝罪のしようもありません。
このだらだら感が持ち味なのです、ご容赦ください。
車が大きな門扉の前で少し止まり、門が開いたのでまた進む。
リムジンに乗ったまま敷地へ入るんですか、そうですか。
庭といっていいんだろうか、広々とした敷地。
聖祥大付属の学校に通う生徒は総じてみんな裕福な家庭なんだろうか、俺の家とは比べるべくもないな。
ま、こんなに家が大きいと掃除とか大変そうだから今の家で十分だ。
「あれ? おかしいなぁ……」
「どうした?」
「いつもなら飼ってる犬たちが出迎えるみたいに寄ってくるんだけど……」
「そうですね、番犬も兼ねていますのでこれでは問題かと」
「ご、ごめん。俺のせいかも」
俺の動物に嫌われる特性のせいかもしれない。
いや……さすがに、姿も見せないほどまでに動物から嫌われているとは思いたくない、偶然だろう、偶然。
玄関近くで車から降りて扉をくぐる。
敷地内へ入り数分、やっとバニングス家へ到着したって感じだな。
ホールを通り無駄に長い廊下を経てアリサちゃんの部屋へと通される。
「お昼ご飯まだ少し時間かかるみたいだから、わたしの部屋で時間つぶしましょ」
アリサちゃんは扉を開いて、先にどうぞ、と手を向ける。
「お邪魔します」
広い部屋、高級そうな絨毯、もはやインチで表現していいかどうか悩む程大きなディスプレイ、あれでテレビとか見んの? 逆に見づらくね?
ふと眺めまわして思った、ベッドがない……もしかして。
「アリサちゃん? もしかして寝室は別に部屋があったりすんの?」
「そうよ? ……なに、見たいの?」
「違う、子供の寝室に興味ねぇよ。ただ気になっただけ……痛いな、なにすんの」
アリサちゃんは自分の部屋だけで何部屋貰ってるんだろうか、もしかしたらゲーム用の部屋とかあるかもしれない。
プレステ部屋とかWii部屋とかドリキャス部屋とか、いろんな書籍がある市立図書館みたいな部屋もあるかもしれない、いや、イメージだけど。
セリフの途中でアリサちゃんに蹴られた。
ひどいぜ、親友だったら何してもいいってわけじゃないんだぞ。
「……見に行く? どうせお昼ご飯までそんなに時間があるわけじゃないから、ゲームするわけにもいかないし……」
「そうだな、おもしろい物とかいっぱいありそうだ」
そんなに変わったものはないわよ、と苦笑しながらアリサちゃんは自分の部屋を案内してくれる。
案内するほど部屋があるっていうのも、それはそれですごい。
ちらほらと外国のお土産みたいなものが点在するなか、奇妙なものを見つけた。
およそこの部屋には相応しくないであろう品。
「アリサちゃん……なんで木刀置いてんの?」
「どこかに遊びに行ったときに売ってたからなんとなく買っちゃったの。ほんとなんでだろ? 直感で買うべきだっ、って思ったの」
おしゃれなシルバーの傘立てに、なぜか木刀が立てかけられていた。
木刀買うって男の子かよ、とか思ったが口にしない、また蹴られそうだったからな……ん? 木刀の裏になにか……。
近寄り手を伸ばして引っ張り上げるとそれは…………日本刀。
「あ、ああアリサちゃん?! こ……これはなんでしょうかっ?!」
「大丈夫、本物じゃないわよ。模造刀だから。これもなんでか直感で、欲しいなぁって思ったの」
なにその直感……怖いよ、物騒だなぁ。
本当に男の子みたいな感性、だが口には出さない。
人間とは学習する生き物だからな、いらんことを言って理不尽な暴力を受けた経験からこういう時は黙っていた方がいいと勉強している。
模造刀を傘立てに戻して、アリサちゃんについていく。
「なぁ、アリサちゃん。メロンパン好き?」
「え? いきなりなに? まぁ好きだけど……?」
「オレンジジュースは?」
「だ、だからなんなの……? うん、わりと好き……かな?」
なにを突拍子もないこと訊いてるんだろう、俺。
なんかこう……世界の意志みたいなものを感じた。
一度廊下に出て隣の部屋へと向かう、そこがアリサちゃんの寝室だそうだ。
清潔感を出しつつも病院のような印象を与えないような乳白色の壁紙、さっきまでいた部屋……アリサちゃん曰く『遊び部屋』よりも子供らしさが残る部屋だが、ちらほら見える高価そうな調度品が子供部屋というイメージを軽減させてしまっていた。
部屋に入って思う、やっぱり広いな……ここで一人とか俺なら絶対落ち着かない、俺はもっとせせこましいくらいの方が性に合う。
「なんと……天蓋付のベッドじゃないのか……」
「最初は天蓋付だったんだけど、邪魔だから取っ払ったの。ふりふりしてて鬱陶しかったし」
少年のような物言いだな、部屋の中にサッカーボールとか掛かってるかもしれない。
学習机発見、教科書類がきれいに整頓されているところを見ると、きっぱりさっぱりした性格ながらも綺麗好きなんだな。
本棚に並んでいる書籍を一瞥して驚く、小学生が学ぶ範囲を大きく逸脱した本が数多くある。
もしかしてこの子、実は……。
「かなり優秀なのか……?」
「バカだとでも思ってたの? 失礼ね、学校のテストなんかじゃ毎回百点なんだからっ!」
失礼ながらバカな子だと思っていました、オーラとか信じるような子ですもの。
アリサちゃんは無に等しい胸を張って、ふふんっ、とふんぞり返っている。
「偉いなー、アリサちゃん超偉いなー」
「ふふっ、もっと褒めるがよいっ!」
アリサちゃんの頭を撫でながら褒め称える、ふわふわさらさらの黄金色の髪は触り心地がすごくいい。
撫でられてこんな反応を返す子は珍しいな、おもしろい。
褒められ撫でられ気分がいいのか、アリサちゃんの口調が少々変化している。
気を良くしたアリサちゃんが、テンションのギアを何段階か引き上げた様子で俺の手を引っ張って、跳ねるように歩きながら部屋の奥へと案内をする。
先ほどもちらりと見た、小学生の女の子が寝るには大きすぎるほどのベッド――少なくともダブルサイズはある――の上に、ウサギの白いぬいぐるみが寝ていた。
はぁー……やっと女の子然としたアイテムが出てきたぜ、安心した。
アリサちゃんが右腕で抱きながらぬいぐるみの紹介をしてくれたのだが、内容を憶えられなかった。
ぬいぐるみの名前が妙に長ったらしかったというのもあるが、満面の笑みで話す彼女がとても輝いていて……そこらのアイドルよりよっぽど光り輝いていて、見惚れて話が頭に入ってこなかった。
そんな彼女が微笑ましくて和んでしまって、また彼女の頭を撫でまわしたのだった。
そこで終われば、少しボーイッシュなところもある元気で見目麗しい利発なお嬢様のお部屋に訪問した、という嬉しいイベントで収まったのだが……ちらりと俺の視界に黒と白銀の剣呑な品が映り込んだ。
プラモデルやフィギュアを入れるためのアクリルでできた立方体のショーケース、その中に黒と白銀のハンドガン――自信はないが恐らくコルト・ガバメント――が互いの銃身を交差させるように入っていた。
信じてる……俺はモデルガンだって信じてる、傘立てに入っていた日本刀も模造刀とは思えないほどの質量があったけど、さすがにこれだけはモデルガンだって信じてるぜ……。
ショーケースの上に指を滑らせてみると埃が積もっていない、日頃から丁寧に掃除されているようだ。
「ほんと男の子みたいな趣味だなー……」
「だれが男の子よぉっ!」
今まで我慢してきたが最後の最後で耐えられず、ぼそりとこぼしてしまった。
いやいや、ここまでお口チャックして踏ん張っただけよくやった方だと思うぜ。
なのはと違い、足で攻撃するところにアリサちゃんの潜在的なサディズムを垣間見た。
*******
「何人分の料理なんだろうか……」
食事の用意ができました、といつの間にかいなくなっていた鮫島さんに呼ばれて随分開けた部屋――なんだっけ、グレート・ホールって言うんだっけか――へ移動。
世界的に有名な魔法使いの映画の中に出てくる城で見たことあるような長いテーブル、さすがに映画で見たほどの長大さはないが、それでも十分に長い。
こんなテーブルが現実で存在するんだな、フィクションだけかと思ってた。
そんな縦長のテーブルを
俺とアリサちゃんは部屋の端に用意された、丸いテーブルの席へついている。
およそ二人分とは思えない量の料理の数々、そこそこの大きさがあるテーブルに敷き詰めるように並べられた皿、テレビの番組でしか見たことがないような食材、すごく美味しそうではあるが……さすがに食べ盛りとはいえこの量は……自信がありません。
「無理しなくていいわよ? 事情を説明して料理人に頼んだらえらく張り切っちゃってね、作りすぎちゃったんだって」
「あ、あぁ。できるだけいただくことにする」
和洋中はもはや当然、イタリア料理やフランス料理まで並んでいるのだが料理人何人いんの? 一人じゃねぇよな?
どれから食べるべきか悩んだのでまずは目の前の料理からいただく。
正直一品目からなんという名前の料理か自信がない、姉ちゃんの期待に応えるため勉強したのに。
これは、薄く切られた……仔牛の肉? と、新玉ねぎにパプリカ。
もしかしてカルパッチョ? もともとは仔牛の肉を使ってたとか本に書いてた気がする。
口に運ぼうとして、手が止まる。
「いただきま……そういや俺、作法とか全く知らないんだけどいいんだろうか」
「作法とかマナーとか気にしてたらこんな料理の出し方しないし、こんなテーブル使わないわよ。どうせ徹はマナーとか知らないと思ってたし、そんなの気にしてたら楽しくないでしょ? だからいつも通りでいいの」
「おぉう、俺のこと考えてくれてたのか。ありがとう、ちょっと驚いたけど」
「なんで驚くのよ、当然でしょ。親友なんだからね」
アリサちゃんほんと良い子だなぁ、俺が女なら確実に惚れている。
「そ、そうか。それじゃ改めていただきます」
途中で止まっていた手を動かして口へ運ぶ、ちょーんまい。
昔ながらの作り方と現代の作り方を組み合わせたみたいな料理。
レモンの酸味と黒胡椒のアクセント、素晴らしきはプロの技。
「どう? 口に合う?」
「めちゃくちゃ美味い。料理人によろしく言っておいてくれ」
「よかったっ、北山も喜ぶわ」
北山さんという方が作っているのか、すごい技術だな……他の人は?
「えっ……料理作ってんの一人じゃないよな?」
「えっ? 北山が一人でやってるわよ? 料理だけはすごいの、他はからっきしだけど」
化け物かよ、テーブルの上に並んでいるのは合計十品を超えてんだぞ。
アリサちゃんが路地裏で電話をして、俺がこの部屋まで連れてこられたのが大体一時間半かそれくらい。
その間でこれだけの数の料理を作るとか……北山さん分身でも使えるのか?
驚きのあまり手が止まっていた俺にアリサちゃんが声をかける。
「ほら、食べないの?」
「いや食べる、冷めちまったらあれだしな」
俺はアリサちゃんに誘導されるままに、また料理にがっつき始めた。
*******
「最近この辺、治安が悪いと思わない?」
恐ろしく美味い料理が並ぶテーブル、そのテーブルに掛けられているテーブルクロスの繊細で上品な模様が半分程見えたころ、アリサちゃんが突如話題を振ってきた。
ここ海鳴市はそれほど事件の多い地域ではないと思うんだが……。
「んぐっ。そうか? 言うほど治安が悪いとは思わ…………そうかも」
途中で意見が変わってしまったのは思い出してしまったからだ。
ジュエルシードの思念体が起こした世間では爆発事故と思われているアレと、彩葉ちゃんも狙われたロリコン三人組を。
た、確かに治安悪いかもしれない……少なくとも最近は。
「徹もなにか心当たりあるのね。わたしもちょっと前にあったわ。すずかと二人でいた時に高校生くらいの男三人に囲まれたの。それで……怖くて二人して俯いてたらいなくなってた。あのままだったら危なかったかもしれないわ」
「そんなことがあったのか、それは確かに危険だな。そういえば俺も前に似たようなことがあった。女子小学生二人を男子高校生三人が囲んでたから、そのロリコン三人組をゴミ箱にシュートしたわ。バイト前で急いでたからそのまま声もかけずに行っちまったけど」
……ん? 状況があまりにも酷似しているような。
「ねぇ徹? その時の小学生って制服着てた?」
「ああ、聖祥小学校の制服だったな」
ちなみに海鳴市に存在する小学校の制服は全て把握しているっ! ……何の自慢にもならないどころか非難の対象にすらなりかねないな、黙っていよう。
「それわたしとすずかね。学校からそのまま塾に行ってその帰り、車待ってる時に襲われたから。あははっ、徹は常日頃から人助けしてるの? 小学生を助けるのが趣味なの? 危ない趣味ね、捕まらないようにしなさいよヒーロー」
アリサちゃんはベーコンが入ったパイのような料理を切り分けながら笑う。
「極端すぎる勘違いをするな。小学生の女の子を三人でよってたかって囲んでる高校生に腹が立ったから殴り飛ばしただけだ。助けようと思って助けたわけじゃねぇの」
骨付きのすね肉をトマトとかと煮込んだ料理をフォークでぷすぷす刺しながら弁解する。
最近俺を誤解する人間が多すぎる、俺はただ……助けられるのに助けなかったら、家に帰って一息ついた時にそのことを思い出して後悔するから動いているだけだ。
高町家の人間――なのはや恭也や士郎さんは特に顕著であるが――のように心の底から湧出するような善意からではない。
結局のところ、後になって自分が嫌な気持ちにならないようにするために行っているだけなのだ。
やらない善よりやる偽善という言葉は聞くが、俺の場合は偽善にすらなりえない。
言うならば独善か? 助けを求める相手を見ずに、相手を助ける自分のことを考えている。
独り
あと俺をロリコンかなにかだと誤解する人間も多すぎる、やれやれ困ったものだ。
「あははっ、照れてるの? 顔は怖いけど、そうやって恥ずかしそうにする顔はなかなか可愛いじゃない」
「年上からかってんじゃねぇよ、あほ。そういうアリサちゃんはいつでもどこでも助けられてんじゃねぇか。どこぞのお姫様かよ、生粋のヒロイン属性か」
「ふふんっ、べつにいーもん。わたしが『ヒロイン』なら
アリサちゃんはバニラとキャラメルのアイスクリームをスプーンで口に運び、余裕なのか期待なのかよくわからない笑みを整った顔に浮かばせながら、俺へ視線を向ける。
なぜか反論の一言も出てこない口に、柑橘系がよく香るソルベを放り込む。
俺は、気が強かったり自分に自信を持った女に弱いんだろうか。
だがしかし、仮に気の強い女が俺の弱点だったとして、ここでアリサちゃんに負けるわけにはいかない。
これからの付き合いでの力関係、会話の趨勢がかかっているのだ……イニシアチブを取られるわけにはいかないっ!
アリサちゃんの顔を見て閃く、口で勝つことはできなかったがもはや構わない。
結果として負けなければどうってことはないのだっ。
テーブルクロスが見えなくなるほどに埋め尽くしていた皿、それが残り三割ほどまで片付いたテーブルに左手をついて身を乗り出し、アリサちゃんへ手を伸ばす。
「な、なに? ……気に障った、の?」
真剣な表情をした俺を見て、戸惑っておろおろしだしたアリサちゃんの口元へ親指を添える。
目を固く瞑ってぷるぷる震えるアリサちゃんへ、王手を打つ。
もう既に主導権は握ったも同然だがケリをつけてあげよう、そろそろ笑いが我慢できない。
「くくっ、希望通り、食いしんぼのヒロインが困ったときは助けてやるよ。お姫様曰く、ヒーローらしいからな俺は」
アリサちゃんは、へっ? と間の抜けた声を出しながら目をぱちくりさせる。
親指についたバニラとキャラメルのクリームを舌でぺろりと舐めながら、彼女へ視線を送る。
アリサちゃんはデザートで出されている苺のムースよりも頬を染めながら、俺に触られた口元を手で押さえた。
やっと自分の口元に食べていたアイスクリームがついていたことに気付いたのだろう、恥ずかしそうに顔を赤くして口をへの字にしながらも、じとぉ、っと睨むような目を向けてくる。
これがなのはやすずかなら絶対耳まで赤くして俯くだろうな、さすがアリサちゃん、気が強い。
「いっ、言いなさいよっ! 口についてるならついてるって言えばそれで済んだじゃない!」
「この顔、この表情が見たかったんだ。ありがとう、ごちそうさまです」
手を合わせて頭を下げる。
実においしい思いができました、いろんな意味で。
いろいろ中の人ネタいれてもうた、でも反省も後悔もしやしません。
機会あったらまたやりたいです。
料理に関しては俺の記憶頼みやからおかしいとこもあるかもです。