そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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この回からセリフが長くなるときは一行空けることにしました。
これは読みにくそうだなぁと思ったものだけ空けています。
何回も書き方が変わって申し訳ありません。


今回は独自解釈が多分に含まれています。
ついていけねぇや、と思った方は速やかに避難してください。


19

 午後の授業でも当てられまくったものの、午前の授業程の苛烈さはなく問題なく乗り切った。

 

午前最後の授業、日本史の先生が異常なほどの意地悪さ――俺の予想の斜め上、まさかの刑法――だっただけで、他の先生は割と常識的な範囲で問題を出してくるのだ。

 

 放課後、恭也と忍に別れの挨拶して早々に教室を出ようとしたところで鷹島さんに、一昨日のお礼ということでまたお茶に誘われたが、今日は忙しいため心を痛めながらもお断りした。

 

誘いを断ったことで、鷹島さんの傍らに侍る二振りの刀――長谷部と太刀峰――が刀身が光を反射させるかのように目をぎらぎらと光らせて、言外に俺を責める。

 

……どうせ鷹島さんのお誘いを受けても、俺を責めるような視線を送るだろう。

 

結果は変わらないから気にする必要はないな。

 

 鷹島さんにまず謝罪し、また誘ってくれと次の機会に期待で胸を膨らませつつ、さようならと別れの挨拶をして教室を出る。

 

 ユーノとレイハには訊きたいことがたくさんある。

 

時間がどれくらいかかるか見当もつかないので、なるべく早くに向かうとしよう。

 

 まず携帯でなのはに連絡する。

 

さすがにいくら親しい仲とはいえ、住人がいないのに勝手に家に入るわけにはいかないからな。

 

 校門をくぐり学校の敷地から出て、高町家へ向かいながら携帯を操作してなのはをコール。

 

身体にかすかに違和感は残っているとはいえ、走っても大丈夫なくらいには復調している。

 

念話が使えれば楽だったんだが……ユーノの忠告通り、リンカーコアの回復を優先すべきだろうと判断した。

 

 何度か呼び出し音が鳴り、繋がった。

 

「もしもし、なのは。もう家についてるか?」

 

《う、ううん……。まだ……でももうすぐ帰れるよ……》

 

 ん? なのはの話す声がとても小さい。

 

まるで囁くような声のボリュームだ、声に艶を感じるような気がしてすごく耳元がくすぐったい。

 

まだ学校の中なのだろうか?

 

「悪い、電話かけるタイミング悪かったか?」

 

《あの……違うの。ちょっと近くに友達がいて……。アリサちゃんっ、違うよっ。遊びたくないとか、そういうことじゃなくて……》

 

 後半の言葉は、近くにいるという友達に向けられていると思われる。

 

ずいぶん困惑しているような声音だな。

 

セリフから考えると、アリサという友達が最近なのはの付き合いが悪くていじけている、とかそんなところか。

 

 俺が一人でジュエルシードの回収ができれば、なのはの負担も少なくなるんだけどな。

 

 ジュエルシードの収集は大事だが、それは何もかもを犠牲にしていいというわけではない。

 

友人との仲を険悪なものにしてまで集めることはないと、俺は思う。

 

「なのは。一度家に帰って着替えてから、友達と遊びに行けばいい。その時にユーノとレイハを俺に預けてくれればそれでいいから、お前は友達と遊びに行って来い」

 

《え? でも……私もっ……徹さんに頼りっきりになるわけには……》

 

「いいんだっての。頼って頼られんのが仲間だ、たまには遊ぶことも大事だろ。これまで頑張ってきた分だ、気ぃ抜いてゆっくりすりゃあいい」

 

《……わかった。家の前で待ってるね》

 

 おう、と一言返事をして通話を切る。

 

 ユーノとレイハとの話になのはがついてこれるとも思えなかったし、まぁ渡りに船ってとこだな。

 

 今日までなのははあの小さな身体で、戦いなんていう慣れないことをしてきたんだ。

 

一日くらい、面倒なことを考えずにゆっくり友達と遊んだってばちは当たらねぇだろうよ。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 昨日なにがあったか、というのはユーノに伝えておくので心配せずに遊んで来い、となのはの背中を押してユーノとレイハを受け取った。

 

 今のなのははデバイスも持ってない、普通の女の子も同然なので少し安全性に不安が残るが、訊けば友達の家で遊ぶとのことなので危険はないだろう。

 

後ろ髪を引かれるように何度もこちらを振り向きながらも、なのはは友達の家へと足を向けた。

 

 一匹と一つを受け取ったはいいが、屋外で男子高校生がフェレットもどきや赤い宝石に熱心に話しかけているところを見られたら、不審なんて通り越して救急車を呼ばれかねない。

 

なので多少の文句を受けながらも、弁当以外に何も入っていない俺の鞄にユーノとレイハを入れて、我が家で話すこととなり――。

 

「色々な意味で危ないところだったんですね、昨日も一昨日も」

 

『もうスパイも同然ではありませんか。二重スパイです。いつ向こう側へ寝返るか分かったものではありませんね』

 

「レイハ、少しは心配してくれてもいいんじゃない? 俺、一生懸命戦ったんだぜ?」

 

 ――今は俺の部屋で、一昨日の夜から昨日の午前中についての説明をし終わり、一息ついているところ。

 

 相変わらずレイハは俺の扱いがきつい、手厳しいにもほどがある。

 

それこそ命を賭けて――実際に賭けたのはジュエルシードだったが――死闘を繰り広げたというのにこの仕打ちとは。

 

『それでも結局、ジュエルシードを相手に奪われたというのは変わりません。守り切ったというなら私も褒めましたが、この体たらくでは言葉がありませんね』

 

 うぅ……言い返せねぇ。

 

ジュエルシードを相手に奪われた……奪われたというかほとんど渡したような形だったが、これは言わないでおこう。

 

頑張ったとはいえ、結果として持って帰ることができなかったのは変わらねぇもんなぁ……。

 

 しょぼん、としているとレイハが『ですが』と続けた。

 

『心配は……しています。あなたが怪我をすると、あなたが痛い思いをすると、悲しむ人がいるということを……心に刻んでおいてください』

 

 マスターのことですよ? マスターのことですからね! と勝手にツンデるレイハ。

 

普段のギャップもあいまって、きゅん、と同時に、ぐっ、ときた。

 

なにこの子、かわいすぎるっ! ただの丸っこい宝石だけどっ。

 

「あはは……もうレイジングハートが全部言ってくれたので、僕から言う必要はなさそうですね」

 

「なのはには、ところどころぼかしながら話してやってくれ。そのまま伝えるといらん心配しそうだからな」

 

『マスターも心配しているんですからね。たまには甘ーく優しーくして悦ばせてあげてください』

 

 最近周りの人たちに心配掛けすぎだな、俺。

 

一人でやろうにも力が追いつかねぇからな、みんなの手を借りなきゃなんもできねぇ。

 

卓越した能力も群を抜いて優秀な適性があるわけでもない、せめて周りに迷惑かけねぇようにくらいはしたいところだ。

 

 レイハはこう言うが……なのはにこれ以上甘くしたら、そろそろ割とガチでお巡りさんのお世話になっちまう。

 

それに『よろこばせる』の意味が俺の想像と違う気がするのだが。

 

「なのはへの対応は要検討ということで。次は俺の疑問について、分かる範囲でいいから答えてほしい」

 

『話しながらでもいいのでお手入れの方お願いします。この機会を逃すと次いつになるかわかりませんので』

 

「はい。僕が知っていることならいいんですが」

 

 レイハのお願いを聞き入れて、精密機械整備用の道具を引っ張り出す。

 

いつもなのはを守ってくれているお礼もかねて、今日は心を込めてやってやろう。

 

「リンカーコアについてだ」

 

「リンカーコア……ですか。前に説明したように『魔力を生成するもの』、というだけでは足りないんですよね?」

 

「あぁ、そうだな。不可解、というか腑に落ちないところがある」

 

 綺麗な布でレイハの表面をきれいに拭きながら答える。

 

『ふぅ……んっ、はぁっ。ど、どんな疑問があるというのですか?』

 

「なぜ魔導師はリンカーコアからの魔力供給が必要なのか、だ」

 

「え? それは魔法を使うのに魔力が必要だからですが……」

 

 ユーノが今さらなぜ? と言いたげに俺のベッドの上で首を傾げる。

 

その反応は当然だ、魔力を使うことで魔法を行使できる、という説明はすでにされていたんだから。

 

 だが俺が聞きたいことは、そことは少し逸れる。

 

「そういう意味じゃない。魔法を使いすぎてリンカーコアの魔力生成量を追い抜き、蓄えている分も使い切っちまった場合、気を失うこともあるんだろ? それは魔導師が常に一定量の魔力の供給を必要としている、ということじゃねぇの? 魔法を使っていなくても、な」

 

「そう……いうことになりますね。あまり深く考えたことはありませんでしたが……」

 

 レイハの表面の汚れを拭き取ったら、布にオイルを含ませ丁寧に塗布していく。

 

やけにいろっぽい声をもらしているが気にせずに話を進める。

 

 俺の推測はつまりこういうことだ。

 

個人によってある程度の差は出ると思うが、今は魔導師が持っている魔力の総量を十として例える。

 

魔導師は常に十の内、一程度――もしかしたらそれ以下かもしれないが、便宜上一とする――の魔力を身体を動かすのに消費していると考えた。

 

魔導師が総量の九程度を使っても体調に変化はないが、残りの一、これに手をつけると身体に支障をきたしてくるのではないか、と。

 

 実際に経験し、そこで初めて考え始めたことではあるが。

 

「一昨日の夜にフェイトの仲間、アルフと戦った時に身をもって感じた。戦いの終盤、日頃のトレーニングもあって体力にはまだ余裕があったが、魔力の枯渇ですごく苦しくなった」

 

 ユーノは居住まいを正して固唾を呑み、レイハは一瞬だが強く光った。

 

 俺の家に着いてユーノとレイハに説明したのは一昨日と昨日の大筋だけだ。

 

戦っていた時のことを詳細に話していなかったので、『魔力の枯渇』という俺の言葉からアルフ戦での激しさ、苛烈さを悟ったのかもしれない。

 

 前回やった時より丁寧にレイハをお手入れしながら、話を続ける。

 

「心臓はばくばくとテンポをあげるし、呼吸は、肺が酸素を取り入れてないみたいに荒くなった。頭痛がするほどに頭が熱を持った……頭は高速思考とマルチタスクを使いすぎたせいかもしれないが。なによりも焦ったのは、咄嗟に足が動かなかったことだな」

 

 天井を見ながらアルフとの戦いを思い出す。

 

 死に物狂いで戦って、自分の力の全てを出し切った死闘。

 

苦しかったし、自分の弱さが情けなくて泣きたくもなったし、めちゃくちゃ怪我もしたが、それでもあの戦闘は楽しかったと胸を張ってそう言える。

 

負けはしたが、魔法という世界において俺の可能性を押し広げることができた、重要で貴重な戦いだった。

 

得たものは大きい、いい経験ができたと思える。

 

「そんなに……なってまで……っ」

 

『んっ、はぅっ……こほん。必死で頑張っていたんですね、先ほどの失礼な発言は取り消します。すいませんでした』

 

「別に心配してもらおうとか、褒めてもらおうとか思って言ったんじゃねぇんだ。気にしないでくれ。あとレイハ、そう言ってくれるのは確かに嬉しいんだが、喘ぎながら言われても今一つ説得力に欠けるぞ」

 

 具体的に戦闘時の話をしすぎてユーノが必要以上に心配してしまった。

 

今は全然大丈夫だからな、とユーノの頭を撫でて安心させる。 

 

 注意を受けたレイハは、俺の手元で何度も抗議するかのように強く眩く輝いた。

 

夜だったら家の中にいても、ご近所様の迷惑になりそうなくらいに光り輝いている。

 

 こんな反応をするということはどうやらこいつにとって、お手入れは気持ちいいことみたいだな。

 

くくくっ、いい情報を手に入れたぜ。

 

「まぁ、俺のことは大して重要じゃないんだ。重要なのは魔力を過剰に消費すると、身体機能にも影響がある、ということだ」

 

「そうなりますね、兄さんが実際に体験したんですから」

 

『他に何か理由があるにしても、魔力の消耗に関係していることは紛れもにゃふぅっ! 徹っ! 喋ってる途中にやらないでくださいっ!』

 

 レイハが喋ってる最中に布で優しくこすってあげたら、良い反応を返してくれた。

 

楽しいなぁ、なんだか温かい気持ちが湧いてくるし。

 

「あははっ、ごめんなレイハ。……さて、魔力を底まで使い切ると身体に悪影響を及ぼす、これを踏まえて次の質問だ。魔法が使えない、と判断する基準ってなんなんだ?」

 

「また変わった質問ですね。えぇと、一般的には身体を調べて、少しの魔力反応も出なければ一切魔法が使えない、ということになります」

 

『そっ、それがっあっ……はぁっ、だめぇ……っっ。どのようなっ……り、理由でそんな質問をするのですか……?』

 

 俺にいじられ息を荒げながらもレイハは尋ねる。

 

ごめんね、あまりに敏感に反応するもんだから、つい楽しくなっちゃってさ。

 

 オイルを含ませた布をテーブルに置いて、綺麗な布を手に持ちながら話を再開する。

 

「魔力反応が出ない……それはリンカーコアがないということ、でいいのか?」

 

「今の学説では『魔法を使えない者にはリンカーコアが存在しない』という説が主流ですが……?」

 

『あぁ、なるほど……。ふふ、徹は魔導師ではなく学者を目指した方が大成するのではないですか?』

 

 よくわかっていなさそうなユーノとは対照的に、レイハは俺の言いたいことを理解しているようだ。

 

レイハと俺の、お互い分かり合っているみたいな雰囲気が嫌だったのか、ユーノにしては珍しく少し憎々しげな表情をしながら考え、首を振った。

 

「僕にはわかりません……。どういうことですか?」

 

「ユーノはわからなくても無理はないかもしれねぇな。固定された常識が思考の邪魔をするんだろう」

 

『さっき徹が言っていた[魔力は身体機能に影響を及ぼす]という説を念頭に置いて考えると、リンカーコアがないと人間は体調に支障をきたすはずなんです』

 

 レイハの説明を受けて、ユーノが目を開いて顔を上げる。

 

 俺の推論においては、魔導師はリンカーコアからの最低限の魔力供給がなければ、なにかしらの不調を及ぼす。

 

実験が足りないとはいえ、この推論は恐らく正しいだろう。

 

一度だが俺が実際に体験したし、ユーノも、魔力を使いすぎて命を落とした人もいると言っていた。

 

百%と言い切ることは今は出来ないが、一応筋は通っている。

 

「もう気付いたか。そう、魔法を使えない人はリンカーコアがない、しかしリンカーコアからの魔力供給がないのに普通に生活している。この事実をどう見るべきだろうな」

 

「たしかに……今まで深く考えもしませんでした。学説でもそれ以上に踏み込んではいません。なぜ魔法を使えないかより、魔法の有用性を追求する方が有意義とされているので……」

 

『魔法に関して無知で素人だからこそ、そういう考えに辿り着いたと言えるでしょう。ユーノ、徹がおかしいだけなので気にしなくていいですよ』

 

 褒められて然るべきだと思うのだが……なぜか貶されている。

 

世の中の理不尽を垣間見つつ、続ける。

 

「学説を尊重しながらで考えられる可能性は、今は一先ず二つある。

 

一つは、魔導師になるとそこで初めてリンカーコアが生まれ、身体へ魔力供給が必要になる、という第一の可能性。

 

もう一つは、魔法を使えない人間にもリンカーコアはあるが、覚醒していない……いわばリンカーコアが眠っているような状態により、身体に巡らせる魔力を生成するのが精一杯のせいで、検査時に魔力の反応がない、という第二の可能性だ」

 

 ユーノは黙って頷き、先を促す。

 

 綺麗な布で余剰分のオイルを拭き取られているレイハから、声を押し殺したようなくぐもった音が聞こえる。

 

真面目な雰囲気なので、きっと喘ぎ声を出さないようにしているのだろう。

 

抑えきれてない部分が光となって俺の手と顔を燦々と照らしているが、声はかろうじて出していない。

 

頑張って耐えてるねレイハ、俺すごい眩しいけど。

 

「だが後者には疑問が残る。前者にもないわけではないが」

 

「なぜですか? どちらもあり得そうな可能性ですけど」

 

 否定材料とするのが俺の実体験ですまないんだが、と言い訳じみた前置きをしてから口を開く。

 

「昨日今日とリンカーコアが疲弊して、働きが弱まっているせいで気付いたんだが、魔法を知ってからは身体能力が上がっていたようだ。

 

この二日、リンカーコアからの魔力供給量が少ないせいで、微かに身体が重たく感じる。

 

最初はアルフと戦った時に、無理に身体を動かしたことによる筋肉痛かと思ったが……どうもそれだけじゃないみたいだ」

 

「はぁ……ですが、なぜそれが否定の材料になるんですか?」

 

「間接的な証拠だがな。

 

魔法を知らない状態でも身体に魔力が流れているのなら、魔法を知らない状態でも身体能力が上がってないとおかしいじゃねぇか。

 

魔法を知ってから身体能力が上がるのは矛盾するだろ」

 

 ユーノの頭上に疑問符が浮かんでいる。

 

俺が説明下手なせいでユーノが理解できていないようだ。

 

『わ、わたしゅ……んぁっ。わ、たしからっ、せちゅめいしま……す』

 

首を傾げるユーノに、息も絶え絶えなレイハが解説する。

 

俺の役目を肩代わりしてくれるんだ、さすがに今はお手入れの手を止めてレイハに任せる。

 

『はぁ、ふぅ……。

 

それではまず、魔法を使えない人にも元からリンカーコアがあり、最低限身体への魔力供給が行われている、という第二の可能性を前提とします。

 

そして次に、徹が示した情報です。

 

魔力供給がなされている時はある程度、身体能力が向上する。

 

逆説、魔力供給がない場合は身体能力は向上しない。

 

ここで思い出して欲しいのは、徹は[魔法を知らない状態]から、[魔法を知った状態]を経て、[魔力供給がない状態]という三つの状態を経験したことです。

 

[魔法を知った状態]では身体能力が向上した。

 

[魔力供給がない状態]と[魔法を知らない状態]の身体能力は同じだった。

 

ということは、[魔力供給がない状態]と[魔法を知らない状態]はイコールで結ばれます。

 

よって[魔法を知らない状態]は[魔力供給がない状態]ということであり、魔法を使えない人にもリンカーコアから最低限の魔力供給がある、という第二の可能性は消えることになります。

 

想像以上に長文になりましたが以上です』

 

 ……俺の説明より難解じゃね? 絶対俺の方が分かりやすかったって。

 

「なるほど、やっと理解できました」

 

 理解できたんだ、あれで理解できちゃったんだ。

 

分かってくれたんなら、俺からは言うことは何もないけどさ。

 

「もういいか? 魔力過剰消費について仮説を立てたから意見が欲しいんだが」

 

「す、すいません。どうぞ」

 

『リンカーコアについての仮説ではないんですね』

 

 レイハが細かいことを突っ込んでくるがスルー。

 

 こほん、と一つ咳払いして俺の仮説を述べる。

 

「俺は、リンカーコアを持つ魔導師は多かれ少なかれ、身体の細胞や筋肉や内臓、果ては脳に至るまで、まるで血管を通る血液のように魔力が全身を巡っていると考える。

 

だから魔力を過剰に消費しリンカーコアからの魔力供給量が少なくなると、身体の各部へ送られる魔力も少なくなり、腕や足を動かしづらくなったり肺といった内臓機能が低下するんじゃないだろうか。

 

それなら魔力の使い過ぎで死者が出るということにも納得できる」

 

 どうだ? と二人に投げかける。

 

「そうですね、兄さんは学者を目指すべきだと思います」

 

『異議ありません』

 

 俺が求めた言葉と違うが、言葉から察するにどうやらおかしいところはなかったようだ。

 

はぁー、やっと抱えていた疑問の着地点を見つけることができた。

 

疑問に気付いてからずっともやもやしていたんだ、すっきりした。

 

「兄さんが言っていた第一の可能性、魔導師になるとリンカーコアが生まれるという仮説ですが……これが事実であると仮定して進めるんですけど、魔導師になりリンカーコアが生まれるそのきっかけとはなんなんでしょうか?」

 

 ユーノの問いかけ。

 

「俺も考えたが、答えは出なかった。そのきっかけさえわかれば、今まで一般人として生活していた人も魔導師になれるかもしれないんだが……」

 

 魔導師になるきっかけ。

 

俺はたぶんジュエルシードの思念体と戦ったから、なのははレイハを持ったからか?

 

俺もなのはも自分以外から発せられた魔法に触れて、魔法を使えるようになった。

 

他者からの魔力を浴びることでリンカーコアが生まれるのか? 

 

そもそも魔導師になったからリンカーコアが生まれるのか、リンカーコアが生まれたから魔導師になるのか……鶏が先か卵が先か、みたいな話だが。

 

「おそらく自分以外の魔力がトリガーになるんじゃないかと考えたが、あまりに判断材料がなさすぎる。今答えを出すのは早計だろう、とりあえず保留にする」

 

「魔導師になる方法……これを発見することが出来たら歴史が変わるかもしれません! あぁ……学者魂がくすぐられます」

 

『お二人の会話を聞いているともはや、学者同士の議論ですね。よかったですね徹。思いもよらぬところに才能がありましたよ』

 

 俺は別に学者を目指しているわけではないんだけど。

 

浮かんだ疑問をそのままにしておくのが気持ち悪いから、原因を追究しているというだけであって。

 

「話が広がりすぎた感があるな、そろそろまとめるか。

 

俺がさっき言った、身体の上から下隅から隅まで魔力が巡っている、という説は実証実験もしていない、ただの仮説だ。

 

現状に矛盾していないというだけのものだからな。

 

恐らくは正しいだろうというただの仮説、結論として挙げれるものではないな」

 

「それなら、魔導師になって初めてリンカーコアが生まれる、という考え方も今のところは仮説ですね」

 

『確定した事実として結論で挙げられるものは……。

 

魔導師にはリンカーコアが必要であるということ。

 

魔力を大量に消費するとリンカーコアの働きが著しく低下するということ。

 

限界を超えれば倒れ、最悪死に至る可能性もあるということ。

 

……という常識的なものですね』

 

 全員で今回リンカーコアについてわかったことをまとめる。

 

結論は大して、というか一切変わっていないが別にかまわない。

 

今日は俺の中に蟠っていた疑問を解消してもらうというのが課題だったのだから、十分に目標は達成された。

 

「リンカーコアは研究が進んでいない、いまだに未知の部分が多い分野なんですよ? これだけの可能性が出ただけでも進歩です。僕と一緒に働いてほしいくらいですよ、僕の専門は考古学ですが」

 

「その路線に進む気はねぇっての。何はともあれ、リンカーコアについての疑問は解消された。ありがとう。最後に……俺の素質の可能性についてだ。成功するかどうかはわからんが協力してくれ」

 

『可能性? なにをするんですか?』

 

 実戦を経験して感じたこと。

 

武器に、力になるかもしれない可能性を秘めたあの感覚……それを試してみたい。

 

俺はまだ、上にいけるかもしれない。

 

「実験だ。フェイトやアルフと戦った時に思いついた術式はまた今度、なのはと練習試合でもした時に見せる。今回は俺の可能性への挑戦だ。ユーノ、障壁を張ってくれないか?」

 

「え? はい、いいですけど」

 

 戸惑いながらもユーノは小さい手を前に突き出して、薄緑色の防御術式を展開した。

 

 手が塞がるので、テーブルの上にハンカチを折り重ねてその上にレイハを置いておく。

 

 障壁へ近づき、右の手の平全体で触れる。

 

何をしているのかと尋ねてくる二人を今は無視して目をつぶり、集中。

 

 アルフと戦った時の感覚、あれを思い出せ。

 

ユーノには使わないようにと注意されているが、少しくらいなら魔力を使ってもいいだろう。

 

胸の奥……リンカーコアから生み出された魔力、それが身体を巡る。

 

胸、右肩、肘、手首、手の平、そしてその先へ。

 

「視えた……」

 

 アルフの障壁へ拳を叩きつけた時と似たような光景。

 

だがあの時とは少し違う、アルフの時と同じ防御術式ではあるが、脳内へ流れてくる術式の構成がところどころ違うんだ。

 

これは、ユーノの防御術式を初めて教えられたときのプログラムの配列。

 

『徹、いい加減に教えていただけませんか? いったい何をしているのです?』

 

「すまんな。すぐにわかりやすい結果を見せることができると思うから、少し待ってくれ。ユーノ、魔法の展開に違和感はないか?」

 

「いえ、なにも。普段通りです」

 

「そうか、それならいいんだ。これから俺が行動を起こす、違和感を感じ取ったら言ってくれ」

 

 理解できなくて不思議そうにしながらも、『はい』と返事をしてくれた。

 

 正念場はここからだ、ここからの行動の成否で俺の可能性が広がるかどうかがかかっている。

 

まず手の平から脳内に送られてくる防御術式の構成情報、これを自分の術式を改造するように変化させる。

 

だがここで重要なのは改良ではなく、改悪。

 

障壁の術式に勝手に手を加えて脆くする、今の状態ならば可能のはず。

 

「ん? あれ?」

 

 ユーノが微かに違和感を感じ取ったようだ。

 

さすがに術式に手を加えると、魔法を展開している時の感覚が変わるのだろう。

 

今は試しでやっているだけなのでこのまま続ける。

 

 術式の情報、密度や厚みを変更。

 

障壁の大きさまで変えてしまうと絶対に気付かれるだろうから、そこには手を付けない。

 

情報を書き換えて、最後に障壁を維持するために送られている魔力を断ち切る。

 

これでどうだ、障壁なんて障子紙みたいなものになる。

 

 右手に力を入れ、ユーノの薄緑色の障壁を素手で握り、割る。

 

ぱきぃ、と甲高い音を奏でて紙吹雪のように薄緑色の破片が宙を舞った。

 

 よし、今はまだ時間がかかるが……使えるぞ、これは。

 

「な、なにをしたんですか?! 障壁を素手で壊すなんて!」

 

『とうとう人間やめましたか』

 

 一瞬呆気にとられた顔をしたユーノだが、すぐに気を取り戻して問い詰めてくる。

 

レイハの発言は無視する。

 

なんだよとうとうって、ずっと人間だぜ俺は。

 

「なに言ってんだよ、レイハが前言ってたじゃねぇか。そこから着想を得たんだぜ? 魔力によるハッキングって発想をな」

 

『た、たしかに以前言いましたが……あれは冗談というか、嫌味だったんですが……。まさか実現しようとするとは……』

 

 やっぱりレイハも本気で言ってたわけじゃないんだな、そりゃそうか、まさか人間ができるとも思ってなかったんだろう。

 

 それよりも、唖然としているユーノにさっきの手応えを訊いておかなければ。

 

戦闘中に使えるレベルにまで持っていきたいからな。

 

「ユーノ、どうだった? やっぱり、何かされていることに気付く程度には違和感はあったか?」

 

「い、いえ、割られる直前に魔力が通らない感覚には気付きましたが……その前では恐らく気付けません。どこか歯車がズレているような、そんなかすかな違和感しか感じませんでした。戦闘中ではそこまで集中して術式に気を配らないので、割られる寸前でしか気付かれないかと……」

 

 やったぜ、ユーノから太鼓判を押してもらった。

 

あとは触れるような距離まで近付かないといけない、という点をどうにかしたいな。

 

また策を練らなければ……くくっ、一つ一つ組み上げて築き上げていくのは楽しいなぁ。

 

「いや、でも……あ、ありえませんよ……。魔力で他人の魔法術式に干渉するなんて……普通は大なり小なり拒絶反応が出るはずですから」

 

 んむ? 拒絶反応? ……最近どこかで聞いたような。

 

そうだ、リニスさんが言ってたんだ。

 

『魔力は自分のものではなかったらある程度、拒絶するような反応がある』とかそんな感じのこと。

 

そしてこうも言っていた、『徹の場合はほぼ無反応だった』と。

 

俺ではそういった拒絶反応が出ない、ということはなにか俺に原因があるんだろうな。

 

ん~、………………魔力色?

 

「俺の魔力色が透明だから、っていうのは理由になったりしないか?」

 

「兄さんの魔力色、透明、ステルス性……。あ、あはは……もしかするとそうかもしれません。他人の魔法にハッキングし干渉する……そんなことはまさしく前代未聞のことですが、目の前で見せられてしまった以上疑う余地もありません。本当に兄さんは僕の常識を次から次へと壊してくれますね」

 

 学者として、兄さんの頭の中はとても興味がそそられます、と締めくくった。

 

どこかマッドサイエンティストのような鈍く輝く目をしていたのは……気のせいだよな?

 

だってユーノの専門は考古学だもんな?

 

 背筋に寒いものを感じるが……一応、ハッキングができる理由の最有力候補はわかった。

 

これでフェイト達と釣り合いが取れる、なんて甘い考えはしていないが、少なくとも前回よりはまともに戦えるはずだ。

 

『気を付けてください、徹。あなたはもう片足分くらいは人外です』

 

「さすがに人外はやめてくれよ」

 

 俺より凄いやつは他にもごろごろいるんだから、そいつらにその称号を与えてやってくれ。




いろいろ理論に無理があるかもしれませんが、どうか大目に見てください。

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