そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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2014/03/29 修正


prologue02

「はぁ、乗り切った…」

 

一番店が混む時間帯を乗り越え、落ち着いてきたので一息ついた。

 

桃子さんの料理の腕を盗んだり、常連さんと少しだけどお喋りしたりして、忙しかったけど充実感のある疲労を感じていた時、桃子さんがやってきた。

 

「お疲れさま徹くん。今日はありがとう、もうあがってもいいわよ」

 

「え、いいの?別に最後まででも構わないけど」

 

「もともと本当は休みだったんだから、少し早めにあがるくらいはさせてあげたいなーってね」

 

なんか怪しい。

付き合いが長い俺には分かる、どこか違和感がある。

 

「本音は?」

 

「なのはがダウンしちゃったから、送ってもらおうと思ってね」

 

あぁ、なるほど。

今日はえらく頑張ってたからな、厨房にも声が届いて(轟いて、とも言える)いたし、張り切っていたのだろう。

 

「最初からそう言ってくれよ、快く了承したってのに」

 

「あら、今日は悪い事したなぁって思っていたのも、本当なのよ?」

 

疑わしいけどここまで言うのなら本当なんだろう。

気にしなくていいってのに。

 

「構わないっての。どうせ今日の混雑は、忍の所為だろ?」

 

「忍ちゃんの『おかげ』ね。彼女今日、お手伝いに行っていいですかってわざわざ聞くものだから、是非きて頂戴って返事したのはいいんだけど…」

 

「俺が休みだったのを忘れていた、と。そんな所だとは思ったよ、いつも程度の客の数なら、俺がいなくても桃子さんの本気の50%…いや30%位で十分に回せるだろうしな」

 

忍は習い事や、家の予定などが無い時は、(恭也と一緒にいる為)翠屋にお手伝いに来ている。

 

テキパキとよく動くし、気が利くし、声もハッキリして聞き取りやすいし、実際助かる所も多いのだが、そもそも忍が手伝いに来ていなかったら、そこまで忙しくなる事はなかったという事も多々ある。

 

外面は本当に美人で、働いている時は常ににこにこと笑顔を振りまき、愛想よく、物腰は丁寧でおだやか。

 

こんな女の子が、ひらひらのウェイトレスの制服を着て(ぱっと見)かいがいしく接客しているのだから、リピーターがつくのも当然と言うべきか。

 

俺だって、強化外装に包まれた悪魔染みた中身を知らなかったら、もしかすると惚れてるかも知れん。

 

「あら、その言い方だと私がいつもは、手を抜いてるみたいじゃないの」

 

「手を抜いてるわけじゃないけど全力じゃないだろ?」

 

「料理は常に100%よ」

 

ふふん、と自信に満ちた表情で豊満な胸を張る。

 

「料理は、って言っちゃってるよ…。接客はどうしたの、接客は」

 

矛盾点を指摘すると、胸を張った姿勢のまま、顔を赤らめた。

 

「もうっ!ほら後は大丈夫だから、なのはを家に送りなさい!はいっお疲れ様!」

 

赤くなった顔を見せないようにする為か、ただ単に早く行かせる為か、背中を押して俺を厨房から追い出した。

 

本当に、三人の子供がいるとは思えない、男なら全員落ちてしまうような可愛さである。

 

スイーツなどの美味しさもそうだが、やっぱり翠屋の人気の一番の理由は、桃子さんがいるからだろうな。

 

「お疲れ様でしたー」

 

厨房の扉越しに挨拶をして、更衣室へ向かった。

 

 

 

 

バイトの制服を着替え終わり、帰る準備も完了したのでなのはを探すが……見当たらない。

 

どこにいるのかと探し回ると、奇怪な現場に遭遇した。

ホールの端の方を客も店員()も微笑ましそうに眺める、という光景。

原因判明、なのはが寝ちゃっているようだ。

 

「ってか忍、お前は眺めてちゃ駄目だろ!」

 

「うるさいわね、起きたらどうすんのよ!」

 

なぜか俺が怒られ返されるという理不尽。

これだけ大声を出しても、騒ぎの中心人物は目覚めない。

 

仕方がないので、可哀想だが起こすことにする。

 

周りの人間は、殺意を添付した視線を送ってくるが、耐える。

ここで寝かせておいて、風邪を引きでもしたらその方が俺は耐えられない。

 

「なのは起きてくれ、一緒に帰るぞー」

 

うぅん、と短くうなる。

 

長いまつげに縁取られた綺麗な瞳がうっすら見えたと思ったら、また閉じられてしまった。

睡魔には勝てなかったか、と思っていたら半分寝ているのか、目を閉じたまま両手を伸ばしてきた。

 

「抱っこ」

 

甘えるような声だった。

後ろの客の半分と店員()が、かふっ、と息を吐いていい笑顔で倒れた。

 

なるほどこれが悶死か。

危うく俺も落ちるところだった、修羅(ロリコン)の道に。

 

本人の注文通り、なのはを抱っこした。

これ以上面倒事が起きる前に退散するとしよう。

 

倒れている忍と、末妹のあまりの愛らしさに身悶えている恭也に、お疲れと一言告げて店を出た。

 

春とはいえ夜は少し肌寒かったのか、なのはが、きゅっ、と胸元のシャツを掴んで、身体を俺にくっつけてきた。

 

その天使のような仕草に足を折らず、倒れず、腕の中の天使を傷つけずに、踏ん張った俺は今日一番のMVPだという自信がある。

 

 

 

 

 




話がなかなか進みません。
一応今の予定では次で魔法に関わるはずです。
あくまで予定ですが。

この小説では高町さん家の末妹は少し甘えん坊スキルが高いです。

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