忍と武が歩む道   作:バーローの助手

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第八話

 

百代がファミリーの皆と約束を取り付けて一日

イタチが異国の淑女と交流をした次の日

 

川神院の一室にて、彼らは集合し出会った。

 

「初めまして、イタチと言います。本日は自分の勉強の為に態々お越し頂いて、皆さんありがとうございます」

 

そう言って、イタチは挨拶の後に姿勢正しく頭を下げて一礼する。

そこに居る面々、特に今までイタチと会った事の無かったキャップや大和達はそんなイタチを興味深い視線で見て

 

「おー!アンタが噂のイタチさんか! モモ先輩やワン子から話は聞いてるぜ、何でも色々とスゲーんだってな!

俺は風間翔一、この風間ファミリーのリーダーだ、気軽にキャップと呼んでくれ!」

「いや、流石に初対面の人にはハードル高いだろキャップ。俺は直江大和、姉さん(百代)の弟分みたいな者です、よろしく」

「椎名京、大和の妻です」

「――と簡単な冗談を言えるくらい仲の良いお友達です」

「…いけずー」

 

と、いつもの調子でキャップと大和と京がイタチに自己紹介をする

三人のやり取りを見て、イタチが百代と一子に視線を移すと二人は小さく笑って頷く

どうやらこれが、ファミリーの平常な様だ。

 

「んじゃ、次は俺様だな。俺は島津岳人、まぁよろしく」

「何か素っ気ないねガクト」

「…男で、しかも『あれ?よく見るとこいつちょっとイケメンなんじゃね?』な野郎に語る事などこれ以上ない!」

「あはは…僕は師岡卓也、皆からはモロとかモロロとかで呼ばれてます。あんまり出来る事はないですけど、よろしく」

 

「はい、皆さんよろしくお願いします」

 

最後に残った二人、モロとガクトが自己紹介を終えた所でイタチは改めて一礼する

その個性溢れる「風間ファミリー」の面々とその自己紹介で、イタチも大凡のキャラクターというのが分かってきた様だ。

 

「それじゃ、早速本題の方にいくとしますか」

「はい、よろしくお願いします」

 

大和がそう言って、持っている鞄から本を取り出して机の上に置いていく

大和が取り出したのは各教科の参考書、今まで大和が使ってきた参考書やファミリーの仲間内で、使い易い解り易いと評判が良かった物だ

 

「事前の話だと確か社会…もっと言えば、歴史・地理・公民か。そこら辺の参考書と、残りの教科も参考書を幾つかピックアップして持ってきた」

 

目の前に展開されていく参考書の数々

イタチはその中の一つを手にとって、パラパラとページをめくっていく

そんなイタチの横で、百代達は会話を進めていく。

 

「やっぱアレか、歴史とかなら最初の方…アウストラロなんちゃらの方からやった方がいいか?」

「んー、受験とか試験とかならそうだけど、別に今回は時間的制限とかはないからな」

「年代順の要点とかをざっと教えて、その後細かい所を補足で教えていけば?」

「そうだね、歴史とかの勉強もある程度テンポよく進めた方が、覚えが良いと思うしね」

 

と、百代や比較的この面子で勉学ができる大和・京・モロがそれぞれ意見を言っていく

そしてその矛先は当事者のイタチへと向けられる。

 

「イタチさんはどう思う?」

「フム…そうですね」

 

幾つかの参考書に目を通しながら、イタチは応える。

 

「正直な話、知らない単語ばかりですね」

 

視線を参考書から大和達に向けながらそう言う

しかしそんなイタチの返答も予想の範囲内だったのか、大和は次いで尋ねる。

 

「それじゃあ逆に、ここは分るって所はありますかね? それならそれでこっちも組み立てがし易くなるので」

「いえ、正直さっぱりです」

「でも全くゼロって訳でもないんでしょ?」

「そだね。ワン子やガクトじゃあるまいし」

 

「むー!ちょっと京、それどういう意味よ!」

 

京の言葉を聞いて、腹を立てた様に一子とガクトが唸るが

そんな二人を尻目に、イタチが静かに呟く。

 

 

「いえ、正直な話…全くのゼロです」

 

 

その言葉が響いて、周囲から声と音が消える。

そんな状況が数秒、我を取り戻したかの様に大和が再び尋ねる。

 

「…縄文時代とか江戸時代、明治時代とかは分かりますか?」

「時代を表わす名称…という位には」

「卑弥呼や聖徳太子、源義経、織田信長、豊臣秀吉や徳川家康…ここら辺はどうですか?」

「昔の偉人・武将…という程度には」

「それは記憶を失う前からの知識ですか?」

「いえ、先日鉄心様と一緒に『時代劇』というモノを一緒に見たときに」

 

「……ちょっと失礼します」

 

幾つかの問答を終えて、大和は視線をイタチからファミリーの面々に移す

一同が浮かべる表情はやはり似たようなモノ、驚きと呆けが入り混じったかの様な表情だ。

 

「…姉さんはこの事知ってた?」

「学がないみたいだから一から勉強したい…としか聞いてなかったからな」

 

百代も、今日の事を頼まれた時の事を思い出す

やはり百代も流石にコレは想定外だったのか、少々驚きが大きい様だ

 

(……これは、ちょっと難しいかな?……)

 

百代の言葉を聞きながら大和は考える

今の単語は別にコレと言った勉強をしていなくとも、日常的に耳にする機会が多い単語だ。

 

(……流石にソレすらも知らないってのは、不自然だな……)

 

もしかしたら只の記憶喪失…という訳でないかもしれない

この問題は歴史や地理だけじゃなく、国語や数学…他の教科にも影響が出ているかもしれないからだ

だったら、最初はその辺から見極めた方が良いかもしれない。

 

「プラン変更だ、一回五教科を全部テストしてみよう」

 

大和は皆にそう告げて、次いでイタチに告げる

一応話し合いでは百代主導で勉強を進めていく予定ではあったのだが

 

(……ま、ケース・バイ・ケースって事で納得してもらうか……)

 

これは少々姉の手では対処しきれないかもしれない

そう意見を纏めて、大和は各参考書から問題を抜粋した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……コレは、もしかしたらチャンスか?……)

 

頭を悩ませている大和とは対照的に

目の前で小テストを受けているイタチを見て、百代は考える

イタチが目を覚ました時から今日まで至るその日まで、百代はこの男に連戦連敗だった。

 

自分の全力をぶつけられる相手

自分が超えたい相手

自分が心から尊敬できる相手

 

それがこの、『イタチ』という男だった。

 

だが百代とて、負けっぱなしで何も感じない訳がない

当然そこには悔しさはあった、だからこそこの男よりも強くなりたいと思った。

 

この人を心から認めている

だからこそ、この人にも自分を認めて貰いたいと思っている。

 

この男を心から尊敬している

だからこそ、自分もまたこの男と肩をならべられる様になりたいと思っている。

 

そんな百代の元に、偶然にも訪れたこの好機

現状、武術の腕や実力ではまだまだこの人には敵わない。

 

――なら、それ以外の部分だったら?

逆に言えば、この人には出来ないが自分には出来る事は一つくらいあるんじゃないか?

 

「………」

 

百代は、先程イタチが全く出来ないと言っていた歴史の参考書を手に取る

 

正直な所、百代も勉強は不得手である

予習復習なんて言葉には縁なんてないし、授業中の居眠りは当たり前

テスト前は友人にノートを借りたり一夜漬け等でなんとか赤点を回避

それが百代の現状である。

 

だが

 

(……それでも、ゼロじゃない……)

 

勉学に身が入っていた訳ではないが、これでも10年以上学校に通っていたのだ

同年代には及ばないが、『多少』の知識は百代にもある。

 

それに、まるっきりダメでもない

 

昔の武人や武将に関する逸話等も、百代は嫌いではなかった

 

例えば、北辰一刀流の坂本龍馬

例えば、天狗から教えを受けたと言われる源義経

例えば、無刀取りの石舟斎

例えば、某人気漫画に出てくる斎藤一

 

流石に大河ドラマや小説シリーズを見る程でもないが、それなりに興味を持って話を読んだ事がある

それに昨今では「漫画で分かる」シリーズや、史実を元にした人気漫画もあり、そこら辺からの知識も多少ある。

 

故に、現時点では幾分か自分の方がリードしている

それに歴史は大部分が暗記による知識が物をいう教科だ

ならば条件で言えば互角、最初のリードがある自分が優勢

 

(……という事は、上手くやれば……)

 

百代は考える、そして想像する

もしも上手くこの人に勉強を教える事が出来た時の事を

 

 

『ありがとうございます、お蔭様で本当に助かりました』

 

『もし宜しければ、これからもご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いします”先生”』

 

 

(……イイな……)

 

その時の事を妄想…ならぬ想像をして、百代は思わず頬が緩む

普段、師の様に尊敬している人が自分の事を師の様に見てくれる。

 

(……いいな良いな、凄くイイぞこれ……)

 

それは百代にとってあまりに魅力的な、あまりにも甘美な誘いだった

武術でないのが少々残念だが、それはまあ後々のお楽しみというヤツだ

 

正直自分は、勉強というものはどうあっても好きにはなれない

だがしかし、こういう事になってくれれば話は別だ。

 

(……よーし、お姉さん頑張っちゃうぞー!……)

 

その気持ちと表情を隠しきれず、百代は改めて目の前の参考書と向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……どういう事だ、コレ?……)

 

大和は少し前に、イタチが終えたテストの採点をしながら考えた

現在、イタチが終えた科目は三科目

歴史や地理を含めた「社会」、物理や化学・生物を含めた「理科」、そして小説文や文法を含めた「国語」だ。

 

社会の方は概ね予想通り、ほぼ全滅と言ってもいい

やはり歴史だけでなく、地理の方も知識ゼロと言っても過言ではない。

 

だが、他の二教科は少々話が違った

 

(……マジかよ、これSクラス並の難関高校でも使われる問題だぞ?……)

 

採点が終わった国語と理科の答案を見ながら、大和は驚き混じりに考える。

先の話から、読み書き計算はある程度はできるというイタチの情報を入手していたため

幾つか高校レベルでも使われている問題も取り揃えておいたのだ。

 

『この位できるのなら問題なし』

 

そう判断するために用意しておいた物だ

別にこれだけなら問題ない、それなら指導する科目が一つが減るだけの話だ。

 

だがそうじゃない

 

(……その一方で、小学生でも解る問題すら解らない……)

 

国語でいえば諺や熟語等にその特徴が見られる

先の社会の一見でもそうだが、「知識」の分野においてこの人は極端に弱くなってくる。

 

そしてそれは、国語に限った話ではない

理科…物理・化学・生物にも似たような傾向が見られた「理解」や「計算」を使う物はよく出来ている

 

だがしかし「知識」を必要とする物、生物の部位や名称等は問題ないのだが……例えば実験器具やその他名称の語句問題になるとやはり弱くなってくる。

そしてその差はあまりにも激しく、アンバランスだ

 

(……問題としては広く浅くでやったにしても、科目関係なくここまで共通点が出てくると…流石に無視できないな……)

 

「大和ー、数学の採点おわったよ」

「…どうだった?」

「まあ、普通なんじゃないかな」

 

採点が終わり答案を差し出す京とそんなやり取りをして、大和は数学の答案を受け取る

 

「………」

 

数学の結果は、一言で言えば普通だった

普通に…よく出来ていた。

 

「……フム」

 

やはり、ここまで来ると確定的だろう

 

(……多分、記憶と一緒に知識もどっかに落っことしちゃったのか…それとも余程暗記系が苦手だったのか……)

 

或いは

 

(……もしくは、常識がまるで違う環境で今まで教育を受けてきたのか……)

 

恐らく、可能性としては前者二つのどちらかだろう

大和はそんな風に結論づける。

 

そして一つ、このテストで良く分かった事がある

このイタチという人は馬鹿という訳ではない、寧ろ逆だ。

 

先天的か後天的かは解らないが勉強自体は良くできるし理解もしている、ただ知識が不足しているだけだ

そしてそれを補うだけなら、勉強不足の姉貴分でも対処できるだろう。

 

(……となると、やっぱり一番は社会全般だな……)

 

大まかなプランを纏めて、大和は授業の組み立てを考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、もうこんな時間か」

 

時計を見て、少し驚いた様に大和は呟く

時刻はもう夕飯時、テストやら採点やらで結構な時間を使ってしまったようだ。

 

「流石にもう、今日はこの辺でいいんじゃないか。あんまり初日からとばしても良くないしな」

「って事は、もう今日はお開きかな?」

「イタチさんもそれで良いかな?」

「ええ、問題ありません。皆さん、今日は態々ありがとうございました」

 

と、大和と百代がイタチと話をつけて、今日の勉強会は終わりを告げる

そしてその言葉を待ってたかの様に、勢いよく声があがった。

 

「じゃあさ、折角みんなで集まったんだから一緒にゴハン食べようよ!」

「おー!いいなソレ!メシメシ!」

 

弾けるような勢いで挙手し、ワン子とキャップがその意見を言って

京がポツリと呟く。

 

「…ほぼ戦力外だった二人が、真っ先に食事に飛びついた件について」

「もー!別にいいじゃない」

「腹が減ってはなんとやらって言うだろ?」

「ま、あの二人だからな」

「いや、そういうガクトもあんまし役に立ってなかった様な…」

 

初対面の人間との勉強会、というのもあって

今までどこか張り詰めていた空気が、次第に緩んでいつもの風間ファミリーの空気になっていく

そしてその空気を読み取って、イタチが言葉を掛ける。

 

「実は食事についてなんですが、皆さんはこの後どうされますか?」

 

勉強道具を片付けながら、イタチが言葉を掛ける

 

「んー、特には決めてないかな?」

「麗子さんの方には、今日はいらないって予め言っておいたからなー」

「外に食べに行くなら、やっぱいつものファミレスかな?」

 

と、ファミリーの間でそれぞれが夕飯についての意見を出し合い

そして

 

「まだ決まっていないのでしたら、食べていきませんか?」

 

イタチがその意見を提言する

その提案が予想外だったのか、僅かに場が沈黙し少しの間を置いて百代が言う。

 

「…う~む、でもこの時間でこの人数分だと…少し厳しくないか?」

「そうだよねー、確かにもう夕飯の時間だけど…流石にいきなりこの人数分を追加で用意して貰うのは」

「そこは大丈夫です、仕込みなら昨日の内に澄ましておいたので」

 

そんなに時間はかからないですよ、と

イタチは最後に付け加えて、皆の返答を待つ

そして

 

「んじゃ、ゴチになりまーす!」

 

キャップが勢いよくそう言って、皆に視線を置き

 

「なんやらかんやらで、今日アンタとはあまり話せなかったからな。

今の口振りだと、まだ用意は終わってないんだろ? だったら手伝いも兼ねて、もう少しアンタと話してみたいと思ってな!」

 

カラカラと愉快気に笑ってキャップが応える

そんなキャップを見てイタチも「では、お願いします」と一礼し、キャップもまた「応!」と勢い良く返す

 

そしてそんな二人のやり取りを見て、大和達が小さく手を振って一子と百代を呼んで

 

「…イタチさんて、料理の方はどうなの?」

「多分、皆が心配している事はないと思うわよ? ここにきて毎日厨房の手伝いしているし」

「ウチの料理長の話だと、結構ヤるらしいぞ?今ではおかず一品任されている位だ」

 

「…成程」

 

二人の話を聞いて、大和は考える…と言っても考える程でもない事なのだが

 

(……確かに折角できた繋がりを、勉強会だけで終わらすのは少し勿体ないかな……

 ……元々食事くらいには付き合うつもりだったし、二人の話なら変な物を出される事もなさそうだな……)

 

もしもの時は、ゲンさんに夜食を作って貰おう――

最後に心の中でそう付け加えて、大和達もまた相伴する事にした。

 

 

 

 

「美ン味めええええええぇぇぇ!!」

「美味い!美味え!まじ美味え!本当に美味えぇ!」

「本当に美味しい! 料理できるのは知ってたけど、ここまでイタチさんが料理できるなんて知らなかった!」

 

もごもごと口の中の物を咀嚼しながら、キャップとガクトとワン子の三人は感想を述べる

我先にと、素早く箸を動かして目の前の料理を自分の茶碗に運んでいき、再び口の中に放り込んでいく。

 

「ちょっと三人とも、少し行儀が悪いよ…まあ、美味しいけど」

「うん、確かに美味しい…更にコレに一味唐辛子を掛けると、よりグッド」

「うわ…唐揚げが真っ赤。でも本当に美味しいですよ」

「流石にこうも芸が多彩だと、お姉さんも少し嫉妬しちゃうなー」

 

「ありがとうございます、気に行って貰えた様で何よりです。

まだまだ沢山ありますので、どうぞ遠慮なく食べてください」

 

そんな皆の感想を聞いて、イタチもまた自身の食事を始める

豆腐と油揚げの味噌汁を一口啜って、メインディッシュの唐揚げを一口

 

パリっと薄い歯応えを感じるとともに、熱と旨みに溢れた肉汁が口腔内を一瞬で満たしていく

滑らかな脂と肉汁が舌を潤し、旨みに溢れた肉と衣を咀嚼して飲み込む。

 

――うん、我ながらよく出来た――

 

そう心の中で呟いて、自身の料理の出来に満足する。

 

「しっかし、本当に美味えなー。前に調理実習で唐揚げ作ったけど、ここまで美味くならなかったぞ?」

 

キャップがもごもごと唐揚げを咀嚼しながら感想を呟く

そのキャップの言葉を聞いて、イタチが応える。

 

「実は唐揚げというのは、揚げ粉をあまり付けない方がパリっと上がるんですよ

鶏肉につけた揚げ粉は、揚げる前に軽くはたいて余分な粉を落とす…これがパリっと揚げるコツらしいです

味付けの方も大した事はしていません、ニンニク醤油ベースの漬けダレに鶏肉を一晩つけておいただけですよ」

「へー、そうなんだ。アレってたくさん漬けた方が良いのかと思ってたぜ」

 

そう言ってキャップはもう一つの唐揚げを箸で摘み

 

「こっちの、やたら歯応えが良いのは?」

「それは、茶菓子の『柿の種』を使ったおかき揚げです」

「柿の種!? ってあのお菓子の!?」

「ええ、そうです」

 

イタチの答えに一子が驚いた様に声を上げる

周りの面々もイタチの答えが意外だったのが、その真偽を確かめるべくおかき揚げに箸を伸ばして

『バリっ』と、一口噛み

 

「…本当だ、確かに柿の種だ」

「料理漫画とかで、こういうのを見た事はあったけど…実物を食うのは初めてだな」

 

百代と大和が咀嚼しながら、唐揚げの断面を見て答える

皆がその意外な事実を確認したのを見て、イタチは更に続ける。

 

「柿の種をやや小さめに砕いて衣代わりにして揚げると、下味等を付けずとも十分に美味しく、更にはこの様に通常の唐揚げにはない歯応えをつける事ができるんです

さらにおかき揚げの良い所は、鶏肉だけではなく…例えば魚に使っても美味しく揚げる事ができるんですよ」

「成程、揚げ方一つ見ても色々なやり方がある訳か」

「そうですね。揚げ方以外で言えば…例えばこんな方法があります」

 

『?』

 

大和の言葉にイタチが返す

そしてそのイタチの言葉を聴いて、一同の視線は再びイタチに集中する。

 

「揚げ物である以上、やはり多く食べると徐々に胃がもたれますし、油を多く摂取しすぎるのも良くありません」

 

イタチはその皿を手に取る

それはイタチが付け合せで用意しておいた、千切りキャベツだ

今まで唐揚げに皆の箸が集中していたために、こちらは減り具合が今一つだった

 

そしてその千切りキャベツの上に、イタチは追加用に用意しておいた唐揚げを乗せて

 

「という訳で、今回はこの様な物も用意しました」

 

次いでイタチはソレを取り出して、一同の視線はそこに集中する。

 

「大根下ろし?」

「それと…ポン酢ですか?」

 

一子と百代が呟く

二人の言った通り、イタチが取り出したのは大根おろしとポン酢だった。

 

「…ん?…って事は」

 

この組み合わせを見て、大和は何かに気づいた様に声を上げる

その大和の言葉を裏付けるかの様に、イタチは小さく頷いて

 

 

「今回は、さっぱりとした和風でいきたいと思います」

 

 

そう言って、イタチは唐揚げの上に大根下ろしをかける

適量を掛け終わった後に、ポン酢を円を描くように皿全体に掛けて

 

「これでよし、それではどうぞ」

 

和風下ろしポン酢で味付けした唐揚げの皿

それの完成を見てイタチは満足げに頷く。

 

次いで、少しの間を置いて皆も新たな唐揚げに箸を伸ばして一口食べる

そして

 

「うお!すげえサッパリしてる!」

「ジューシーなのは変わらないのに、こっちは凄く食べやすくて何個でもいけそう!」

「ポン酢と大根下ろしのお蔭だな。焼き魚とかもそうだけど、肉の旨みはそのままで油のしつこさがなくなるからグっと食べ易くなってる」

「千切りキャベツとの相性もいいし、野菜不足も解消できる…よく出来てる」

 

「そういや、豚カツとかにも千切りキャベツがついているけど、アレってどうしてなんだろうな?」

「キャベツには油の分解を促進する働きがあるんですよ。ですので揚げ物を食卓に出す時は、千切りキャベツもセットにするらしいですよ」

「へー、そうだったんか。つーか、アンタ色々な事知ってるんだな!」

「いえいえ、さっきの事もこの唐揚げのレシピも、全部ここの料理長である幸平さんの受け売りですよ

料理できる品数も両手の指で数えられる程度ですしね」

 

皆は思い思いに感想を述べて、箸を伸ばして舌鼓を打つ

イタチも皆の感想に満足しつつ、キャップの質問に答えて会話を交えながらも食事を進めていき

 

一時間も経つ頃には、食卓の上にある皿には殆ど食べ物は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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「いやー、まじ美味かったな!」

「そうだな、少し食べすぎたな」

 

 

夜の闇にキャップと大和の声が軽く響く、街灯が照らすその道を五人は歩いていた。

キャップと大和と京、それにガクトとモロ

川神院には住んでいない五人は、それぞれの帰路についていた

 

やはり帰りの話題に上がるのは、今日知り合った人物についての事だろう。

 

「しかしイタチさんかー。実際会ってみて思ったけど、中々面白い人だな」

「確かに、ワン子の言ってた様に真面目な感じだけど、堅いってのとは少し違うな

話してみれば物腰も柔らかいし、程よく砕けてるし…どっちかと言えば、落ち着いているとか余裕とかに近いな」

「あ、それ何か分かるかも。不愛想って訳でもないし、かと言って馴れ馴れしい感じもない…程よく距離感を保ってくれてる感じだよね」

 

今日会ったイタチの印象を皆が口々に語る

多少の違いはあれど、皆にとっても悪い印象はあまりなかったようだ。

 

そんな空気の中、その声が小さく響く。

 

「…認めん」

「ん? どうしたのガクト?」

「顔が良くて、真面目で、性格よくて、料理も美味い、しかも極め付けはモモ先輩と一つ屋根の下だあぁ!

そんな野郎を認められるかあぁ!」

 

「…清々しい程に嫉妬だね」

「というか、性格良いのは認めてるんだな…」

 

ガクトの魂の咆哮を耳にして、モロと大和が苦笑しながら答える

どうやらガクトはガクトで、そこまではイタチの事は嫌っていないらしい

と、そこまでイタチに関しての意見が出揃った所で

 

一人だけ、イタチに関する意見を口にしていない人物がいた。

 

「そういえば、さっきから黙ってるけど」

「京はどう思った?イタチさんの事」

 

その事に、モロと大和が気づく

二人の発言を切っ掛けに、キャップとガクトの視線も自然と京に向けられる。

そして

 

 

「……正直に言うと、あまり関わらない方が良いと思う」

 

 

その意見を、京は皆に言う

決して大きくない声だが、確実に皆の耳に響く様にその言葉を放つ。

 

故に、皆も疑問に抱く

この椎名京という人物は、ファミリーや一部の人間以外には基本無関心であり

余程の事がない限り、こんな強い物言いをする事は滅多にないからだ。

 

「…何か思う所があるのか?」

 

皆の意見を代表してか、大和が京に尋ねる

この椎名京は大和に関しては嘘をつく事がない、それを見越しての質問だろう。

 

「…確かに良い人だと思う、ワン子の言ってた通り真面目な人みたいだし

モロの言ってた様に、私達に対して丁度良い距離感で接してくれた…中々貴重なタイプだと思う」

「…へー意外だな。京にしては随分評価が高いんだな」

「なのに、関わらない方がいいの?」

「うん」

 

京の意外な高評価と先の言葉に対して、キャップとモロがそれぞれ問う

京の先の言葉と後の言葉が噛み合わないからだ。

 

「別にあの人が川神院にいる事や、皆があの人と付き合う事にどうこう言うつもりはないよ

…それでも、あの人にはあまり関わらない方が良いと思う」

「でも、根拠とかはないんだよな?」

「うん、ただの勘。だから話半分程度に考えて貰っていいよ…実際、私自身も良く分からないしね」

 

思わぬ京の意見を聴いて、一同は僅かに黙る

しかしそんな空気が少しだけ続いた後に、再び意見が飛び出た。

 

「ま、良いんじゃねえの? それでさ」

 

「要は皆が皆、それぞれ違う印象を受けるってだけの話だからな

それに怪しい奴、得体の知れない奴…川神にしてみたら、今更だと思うしな」

 

まるで何でも無い様な調子でキャップが呟いて、大和がその意見を補足する

二人のそんな言葉を聴いて、他の面々も何処か納得した様に呟いて

 

「…あー、凄い納得。確かに今更だよね」

「確かに、すっげえ今更だな」

「うん、今更だった。流石は大和、的確な意見…そんな所も好き」

 

「ごめんなさい、お友達で」

「…つれないなー」

 

そんなやり取りをして、皆は再びいつもの「風間ファミリー」の空気に戻る

確かに、考えてみれば今更の事だった

様々な変わり種な人間が集い、入り乱れている、それが自分達の住む川神という街だった

 

だから、ある意味コレが普通なのかもしれない

怪しいヤツもいれば、得体の知れない人間もいる

記憶喪失の者もいれば、関わりたくないと思う相手もいる。

 

恐らく、これは川神に限った話ではないだろう

どこにでもある、それこそありふれた事だろう

 

ならばこちらは受け入れよう

あるべき日常として、ソレを受け入れよう

 

そんな風に各々は意見を纏めて、帰路を歩いた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 







後書き
……やばい、最遅記録を更新してしまった…(汗)
どうも作者です。ちょっとこの一ヶ月間、シャレにならない位に忙しい状況が続いて更新できませんでした
できれば報告だけでも…とも思ったのですが、本文が出来ていた訳でもないから
本文ができたらその時に報告しようと思って、ズルズルと引き摺った所…


――気が付けば、一ヶ月以上経ってしまっていました――


いや、もう、本当に言い訳も出来ない状況です
今の所は少し作者の状況も落ち着いてきましたので、こうして何とか話を投稿できました
ですけどやはり、まだ少しの間はかなり投稿ペースが不安定になりそうです。

それでも宜しければ、何卒作者の書く物語にお付き合い願います
次回の投稿の目標としては、とりあえず七月中に投稿できる様に頑張ります!

それでは、また次回に会いましょう!




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