忍と武が歩む道   作:バーローの助手

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第三話

最初は、唯の称賛だった。

 

「いやいや、この年でもうここまで見事な技をできるとは…流石は鉄心様の孫ですな!」

「これなら、川神院の将来も安泰ですね」

「いや、素晴らしい。実に素晴らしい」

 

私が技を出せば、型を見せれば、手合わせを行えば

彼らは口々にこう語った。

 

称賛を受けて悪い気はしなかったし、何より私は武術が…戦いが大好きだった。

 

強いヤツと戦うのは楽しかった

より強いヤツと戦うのはもっと楽しかった

 

強いヤツと戦うには、私も強くなる必要があった。

 

私は世間で言う処の、「天才」というヤツだった

無論、ただ自分の才能に胡坐をかいていた訳じゃない。

 

師範のジジイは、そりゃあもう私には厳しかった

修業はきつかったし、血反吐を吐く様な思いだって何度だってした

そんな修行の日々を、私は幼少の頃から続けてきた。

 

そして、そんな修行の合間に行われる…他流派の武人との手合わせ

これが私の何よりの楽しみだった。

 

自分とは違う「誰か」と戦う事で相手の強さを、そして自分の強さを実感できる

そしてそんな強い相手との戦いは、私にとって何事にも代え難い宝玉の様な時間だった。

 

色々なヤツと戦った

色々な流派と戦った

 

楽勝だった時もあったし、苦戦した時もあった

本当に強い相手と戦った事も何度もあるし、本当に負けるんじゃないかと思った時もあった。

 

とても楽しかった

戦いは楽しかった

もっと強い相手と戦いたかった

だからもっと強くなる必要があった

 

だからもっと修行した

だから私はもっともっと強くなった

そんな事を、私はずっと繰り返して

 

 

――私は、退屈になってしまった――

 

 

結論から言えば、私は強くなりすぎた

相手よりも強くなりすぎてしまい、力の差が有りすぎて

 

私は、戦う事が楽しめなくなった。

 

勿論、私だって考えて行動した

ジジイに頼み込んで、より強者との手合わせを頼み込んだ

 

でも、ダメだった

ジジイは「心の修行が足りない」と私に新たな修行を課すだけで

その先にある「戦い」からは、私を遠ざけた。

 

私の心情に理解をしてくれた師範代も、川神院から去ってしまった。

 

後に残ったのはストレス、欲求不満、鬱憤、飢え、渇き、疼き

そして…「退屈」

 

心の何処かで、自分の中の「何か」が冷めていくのを感じていた

時には自分よりも格下の者を本気で羨んだ時もあった

あれほど打ち込んでいた武術の修行も、「気休め」や「暇つぶし」になりつつもあった。

 

偶発的な果し状、決闘

私に報復、お礼参りにやってきた下種共

 

そんな日常の「ささやかなイベント」で、私は申し訳程度に自分を慰めていた。

 

だけど私は求めていた、欲していた

飢えていた、渇いていた、疼いていた、望んでいた、求めていた。

 

 

――私は、戦いたかった――

――これ以上ない強者と、これ以上ない程に戦ってみたかった――

 

 

――だから――

 

 

――お前が私を満たしてくれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄まじいな……」

 

全力を出す

そう宣言した瞬間、目の前の少女が変わった

彼女の放つ迫力・威圧感、一個としての生命が纏わせる『力』

それら全てが、先の彼女とは桁違いに違っていた。

 

台風や嵐、雷や豪雨

ある種そんな天災を思わせるような存在感が、目の前に顕現していく

それは正に、「武神」というに相応しい存在だった。

 

「コオオオォォォ…」

 

次いで変化が現れる

爆発する様に猛り狂っていた百代の力は、徐々に収縮していく

圧縮するように、凝縮するように、それは百代の体に収束いき

 

 

「――行くぞ――」

 

 

武神が、動く。

 

(……速い!……)

 

それは領域の違う速度

高速を抜き去る速度で、風すら置き去りにする超速で

百代は一呼吸に男に間合いに迫り、攻撃のモーションに入る。

 

(……確かに早いが、これなら――)

 

対処できる、そう思った瞬間だった

百代の拳は、防御を抜いた。

 

「…っ!」

 

一瞬の驚愕

次いで眼前に迫る拳を強引に体ごと逸らして避けるが、勿論百代はまだ止まらない。

 

結論から言えば

男は百代の拳を受け切れなかった、防ぎきれなかった、捌き切れなかった。

先のやり取りにおいて

百代の攻撃は、男の防御の上を行ったのだ。

 

(……速度だけじゃなく、力もか……)

 

守りにいった腕が未だにビリビリと痛んでいる。

 

閃光の様な速度に鉄槌の様な重さ

桁違いに上がったのは速さに加えて力

更に言えば瞬発力や反応や反射…戦闘における『勘』の様なモノが上昇している。

 

速く鋭く、硬く重く、激しく強く

爆発的に攻撃力を増した四肢が、爆発する様に襲いかかる。

 

「ハハハ!あははははは!ここまで対応するかァ!最高だ!

 やっぱりお前は最高だあああああああああああぁぁぁ!」

 

心の底から楽しそうな笑みと声を上げて

それに比例する様に、更に百代の速度と力は上がる。

 

「…っ!…く、ぅ…ぐっ!…」

 

台風の様な攻防の合間に、そんな小さな声が響く

発信源は百代の攻撃に対処する男からだ。

 

そしてその顔には先程までの余裕はない

明らかに追い詰められている者の表情だ。

 

「…っ!…く、病み上がりの人間に、少し大人気ないのでは?」

「ハハハ!そういう割には余裕じゃないかァ!それに安心しろぉ!私は子供だあぁ!」

「…ゥ…!…そう、ですか…っ!」

 

男の言葉に答えながらも、百代の攻撃は更に苛烈に激しいものになっていく

そして徐々に、戦闘の均衡が崩れ始めてきた。

 

(……これは、マズいな……)

 

男の髪や服に、徐々に攻撃が擦れ初めてきた

男の四肢が、徐々に百代に追いつかなくなってきた。

 

力の増した攻撃の対応には、その分体力を消耗する

速さの増した攻撃の対応には、その分集中力と精神力が必要になる。

 

攻撃の速度が上がるだけで、こちらの対応は遅れる

攻撃の威力が上がるだけで、こちらの防御は圧される。

 

ならばその二つが同時に上がれば?

更にはそれに伴って相手の技も変化していれば?

答えは明白、こちらは為す術もない。

 

力も速度も、完全に相手が上を行っている

状況は悪化の一途、ジリ貧とも言える状況

 

しかし、それでも男はまだ可能性を残していた。

 

(……やはり、速度と力が跳ね上がったが…戦い方そのものが変わった訳ではない……)

 

男とて、今まで百代に好い様にされていた訳ではない

百代の攻防を受けて、考えを纏めていた。

 

(……ならば、有る程度の行動の予想と予測はできる……

 あちらの一撃を受け止めて、そのまま関節を封じて拘束する……)

 

あちらは完全にヒートアップしている

最早強引にでも戦闘を終わらせなければ、自分とてタダでは済まないだろう

あちらも十分楽しめたようだし、ここで戦闘を終わりにしても問題ない。

 

そう結論づけて、男は百代の動きを更に注視して構える

今までの攻防で分かった百代のパターンや癖、技の組み立て、流れから

次の行動を予想する。

 

そして、その時が来る。

 

(……今だ!……)

 

歯車が噛み合った様な間隔

百代の右拳に力が集中していくのを感じ、重心や間合いの取り方を見て

男は百代の次の一撃を見極める。

 

(……右の一撃を受け止め、そこから腕と関節を取る……)

 

次の瞬間、右の一撃が男に向けて放たれる

まるで砲弾の様な威力と速度を持った一撃、男の狙いは的中だった。

 

「ここだ!」

「っ!!!」

 

右の掌で百代の一撃を受けて、更に手前に引きながら勢いを殺す

次いで左手で百代の肘関節を取り拘束する

 

その直前だった。

 

 

 

「――川神流奥義・炙り肉――」

 

 

 

その瞬間、男はその異変を感じ取る

百代の拳を受けていた右手が、その異変を察知する

 

「っ!!」

 

感じるのは、熱

触れるものを全て焼き、炙り、焦がす、そんな熱

その異変を男の右手は即座に感じ取って

 

 

――反射的に、その手を離してしまった――

 

 

「しまっ――!」

「――残念だったな」

 

最早、手遅れ

拘束を逃れた拳に、再度百代は力と速度を装填する

大地を砕くほどに踏み込んで、力と速度を装填した拳に体重と勢いを乗せる。

 

 

「――川神流奥義――」

 

 

その瞬間、ゾワっと男の全身が総毛立つ

 

 

「無双…正拳突き!」

 

 

暴虐の一撃が、音を立てて放たれる。

 

(……ま、ずいっ!……)

 

今の百代に、先刻決めたルールは期待できない

寸止めや手加減を行う可能性は、ほぼ0に等しい

このタイミングでは、もはや避ける事は叶わない

 

(……狙いは、腹か!?……)

 

観察眼と動物的な勘で、百代の狙う位置を特定する

その瞬間、男は全力・全速で力を練り上げてに全身に巡らせる。

 

(……来る……)

 

男はこれ以上ない程に瞼をこじ開けて、眼球に力を込める

 

(……よく見ろ……)

 

百代の一挙手一投足を見極めるため、全神経を両の瞳に集中させて

 

 

(……そして見切ろ!……)

 

 

――その瞬間――

 

男は自分の奥底で、何かが噛み合った音を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に感じたのは、必殺の手応えだった

次いで相手が弾かれるように後方に飛んでいった。

 

拳に感じた確かな感触は自分の攻撃が相手に直撃した事を意味し

その威力と衝撃は正に必殺というに相応しいモノだった

 

今まで幾多の相手を叩き伏せてきた、あの感覚

今まで数多の勝利をもぎ取って来た、あの感触

 

「…フぅ…」

 

軽く息を吐いて残心をとる。

 

この感覚、この感触、この手応え

この満足感、この充実感、この幸福感

最後に感じたのはもうどれ程前になるのか、もう分からないくらい

 

だが、そんな事はもうどうでもいい

それ程までに、私は満たされていたからだ

 

乱れた呼吸を整えて、体の力の流れを整える

 

流石に熱くなり過ぎてしまった

流石に暴れすぎてしまった

流石にやりすぎてしまった

頭の奥でそんな事を考えながら

 

 

 

――私は、全く警戒心を解いていなかった――

 

 

 

「…………」

 

普通に考えれば、これでもう勝負アリだ

手応えから察するに、相手には「ダメージ」と言うには生温い程のダメージを負わせてしまっただろう

増してや相手は病み上がりだ

普通に考えれば即座に駆け寄って、病院に連れ戻さないとならないだろう。

 

それに何といっても、久方ぶりに私にここまで「戦い」を楽しませてくれた武人だ

それ相応に敬意と感謝をもって接しなければ、私の武人としてのプライドに関わる。

 

そこまで考えているのに

私は未だ戦闘態勢を解いていなかったのだ。

 

 

「…今のは、かなり本気だったんだがなー」

 

 

思わず呟いてしまう。

 

立っていた

あの男は立っていた。

 

腹部を手で押さえて呼吸を荒げながらも

必殺の一撃を受けて、未だその男は両の足で立っていた。

 

(……そういえば、腹を叩いたにしては妙に感触が固い…いや、硬かったな……)

 

以前手合せした事のある中国拳法でいう所の「気功」「硬気功」の感触に近い

それが今の一撃を耐えた秘密かと考えを進めて

 

 

 

――私の背後に、その男がいた。

 

 

 

 

「――っ‼‼」

 

心臓が跳ね上がった

鳥肌が立った

思わず飛びのいた

その異常事態に、私は動揺し混乱した。

 

「え?…ぇ?…な…!」

 

何だ?今のは何だ?今の動きは何だ?

動きは見えていた、決して速い動きではなかった

さっきの動きに比べたら、止まっているに等しい速度だった。

 

なのに、動けなかった

それなのに、反応できなかった

 

まるで意識と意識の間をすり抜けられた様な、そんな感覚

 

そして更に私は、その男を見る。

 

――違う――

――さっきまでとは違う、まるで違う――

 

男から発せられる力に、さほど大きな変化はない

量も質も、対して変わっていない。

 

だが違う、決定的に違う

 

例えるのなら、粘土と陶芸品

同じ量の土でも、同じ質の土でも、その存在は全く異なるように

男から感じ取れる力は、先程とは存在レベルで違う。

 

「……っ」

 

息を呑む、汗が噴き出る

武人としての勘が、警笛の様に私に告げている。

 

観察する様に私は目の前の男に視線を走らせて

目と目が合う、その赤い瞳と視線が交わる

そして不意に、男は口を開いた。

 

 

 

「―――やめておくか?―――」

 

 

 

その短い一言を聞いて

 

「…本当に、お前は…」

 

まるでこちらの身を案じ、労り、譲るような響きを纏った一言を聞いて

 

「……本当に、貴方は…どこまでっ!」

 

私の中の、何かに火が付いた

 

 

「どこまで私を楽しませてくれるんだあぁ!!!」

 

 

その瞬間、戦いの終幕が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはどこか懐かしい感触だった

それはどこか慣れ親しんだ感触だった

一言で言えば、一体感

まるで忘れていた自分の欠片が、ピタリと収まった様な感覚だった。

 

次い訪れる知識の来訪

自分の中に訪れる、洪水の様な知識の来訪者達

 

――チャクラ――

――肉体活性――

――形態変化・性質変化――

――忍術・幻術・体術――

――火遁・水遁・土遁・風遁・雷遁――

――瞬身・影分身・口寄せ――

――秘術・禁術・血継限界――

 

膨大な知識と絶大な技術

見る者が見れば驚愕し卒倒する類のものもある。

 

だが戸惑いはない、驚くこともない

なぜならそれらは、紛れもない自分のものであるから

 

耳から雑音が消える

脳から雑念が消える

全ての感覚が研ぎ澄まされて鮮明になっていく。

 

その瞬間、自ずと理解する

未知の自分を思い出す

自分の力の使い方を、技の扱い方を、戦術の組み立てを

 

先程までの自分は無駄が多かった、多すぎた

ただ何となく力を練り、ただ何となく力を使っていただけだ

 

そうではない

それではいけない

 

行うのは、最小の手間で最大の効果を

成すべきは、最弱の力で最強の力を

 

 

(……感謝する、川神百代……)

 

 

そして

目の前の少女に、心からの感謝を

 

 

(……少しだけ、自分の事が解かった……)

 

 

自分の記憶は結局分からなかった

だが、自分を形作っている「確かな何か」は取り戻せた。

 

恐らく、生半可の事ではここまで解からなかっただろう

恐らく、極限に追い込まれ追い詰められなければ解からなかっただろう。

 

 

(……せめてもの礼だ……)

 

 

時間が許す限り付き合ってやろう

そう心の中で考えを纏めて、こちらも応戦に撃って出た。

 

 

 

 

 

 

それから

数えきれない位に拳を交えた

数えきれない位に脚を走らせた

 

沢山の攻防と駆け引きがあった

幾つもの反撃と迎撃があった

 

どれだけ打撃音が響いただろう?

どれだけ衝撃の波が流れただろう?

 

ある時は地面が抉れ、ある時は川が割れた

ある時は風が切り裂かれ、ある時は突風が吹いた

 

大地が砕けた、砂塵が舞い上がった

水面が揺れた、波紋が咲き乱れた

空気が震えた、空が啼いた

 

周囲の状況は一秒一秒で姿を変えて

その一瞬一瞬に、幾つもの攻防があった

 

 

だがそんな中で、一つだけ変わらないものがあった

最初から最後まで、変わらないものがあった

 

 

それは一人の少女を満たしていく、確かな満足感と充実感…

 

そして、幸福感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……化物か、貴方は……」

 

川原の草の上で、大の字になって仰向けに寝ている百代が尋ねる

その視線の先にいるのは、隣で腰を下ろしている先程まで自分と戦っていた男だ。

 

「…まあ、結局お互い有効打は無かった訳ですし…今回は痛み分け、引き分けですね」

「はっ、白々しい…途中から反撃と迎撃だけで、『攻撃』は一切してこなかっただろう?」

「防御で手一杯だっただけです」

「どうだか」

 

ふん、と小さく音を立てて、百代は不貞腐れた様に視線を逸らせる

どうやら途中から相手が全力を出さなかった事に、腹を立てている様だ。

 

無双正拳突きを当てた後の戦闘において

結局百代は、この男に一度も攻撃を入れる事はできなかった

 

全ての攻撃は避けられ、防がれ、捌かれ、その全てに対応された

 

そして相手の攻撃は、一度も百代に当たらなかった

いや、そもそも相手は百代に攻撃すらしなかった。

 

行ったのは百代が言った様に、反撃と迎撃の二つだけ

自分から進んで百代を攻撃する事は一度もなかった。

 

「下手に攻めてカウンターでも貰うのは、正直ゴメンでしたので

 今回は守りに徹させて頂きました」

「素直に白状しろ、攻撃する程でもない…そう判断したんだろ?」

「石橋は叩いて渡るタイプなだけです」

「…ま、所詮は敗者の弁か……」

 

そう言って、百代は視線を夜空に移す

そのまま目を瞑り、夜の風と空気を僅かに吸い込んで

 

 

「…そうか…私が、『敗者』か……」

 

 

小さく静かに、そう呟く

そこにどんな感情が込められているのかは、百代以外には分からない

だがそこには、確かな想いと感情が込められていた

 

「正直言って、最高に悔しい…」

「…そうですか…」

 

 

 

 

 

「――だが、最高に楽しかった――」

 

 

 

 

 

 

その言葉が夜の川原に響く

彼女が胸の内と心の内にどんな感情を隠して持っていようとも

それだけは紛れも無い事実だろう

 

それ程までに、彼女の表情には曇りや陰りが一切なく穏やかなものだったからだ。

 

「…よしっ!」

 

その一言で自分の中で吹っ切れたのか

百代は跳ねる様に飛び起きて

 

「それじゃあ、休憩終わり!」

「は?」

「これから、第二回戦と行こうじゃないか!」

 

呆然とする男を尻目に、百代はそう勢いよく断言する

次いで起した体で準備運動を始めるが

 

「…折角の空気に水を差すようで申し訳ないが、流石にもう病院に戻らなければ…」

「いーやーだ!」

「今日はもう十分楽しんだじゃないですか?」

「勝ち逃げなんて許さん!じゃあ後1ラウンドで良いから!ウルトラマン一回分で良いから!」

「何ですか、うるとらまんって…」

 

「とにかくやるんだー!絶対もう一度やるんだー!」

 

「…駄々っ子ですか、貴方は…」

 

思わず男は呟く

さっきとは打って変わって、子供の様に駄々をこねる百代を見て

小さな子供の様な振る舞いをする彼女を見て

 

 

 

―― 一瞬、百代の姿と「誰か」の姿が重なる

 

 

 

そして男の体は自然と動く

体に染み付いた仕草をするように、男の意思や意識する間もなく

 

ごく当たり前の様な流れで「ソレ」を行う

 

「…少し、良いですか?」

「お!ついにやる気になったか!?」

「いや、そうじゃない」

 

男の言葉を聴いて百代は表情を輝かせるが、男がそれを否定する

次いで男は、右手を百代に向けて小さく上下させる

いわゆる「こっちに来い」のサインだ。

 

「?」

 

そのサインを見て、百代は不思議に思いながら男に歩みを進める

そして十分に百代が近づいた所で

 

 

 

 

 

 

「許せ百代、また今度だ」

 

 

 

 

 

 

そう言って

ちょこんと百代の額を軽く指で小突いた。

 

「…むぅー…」

 

額を小突かれた百代は、僅かに頬を膨らせて小さく唸る

子ども扱いされたのが気に入らなかったのか

はたまた子供の様な真似をしていた自分に、今更ながら羞恥心が湧いてきたのか

 

そんなやり取りをして、百代は次第に落ち着いていき

 

「…勝ち逃げは、させんぞ?」

「生憎と、逃げる宛もありませんので」

 

「…それもそうか……」

 

目の前の男の身の上を思い出して、納得した様に百代は言う

現状、この男の知り合いと呼べるのは自分だけなのだ

この男は自分の事を恩人だと言っているし、自分の前から何も言わずに消える…なんて事はしないだろう。

 

「じゃあ、今はそれで納得しておく」

「ありがとうございます」

「ああ、それと」

 

そして男はもう病院に戻ろうと、足を進めようとして

百代の声が、男の耳に届く

 

 

 

 

 

「――次は、あんな『イタチごっこ』にはならないからな――」

 

 

 

 

 

その一言を聞いて、男の足は止まる。

 

「…イタ、チ、ごっこ…」

「ん?どうした?」

「いた、ち…いたち…イタチ、か…」

 

その一言が、男の中で引っ掛かる

男の中にある、決定的な「何か」に引っ掛かる

その「イタチ」という単語を、男は小さく繰り返し呟いて

 

「……流石に、名無しのままでは不便だろうしな…」

「?…どういう事だ?」

「俺の名前についてです」

 

それは、今の男が最も欲していた物の一つ

己を示す、自分を示す、決定的な物の一つ

 

――イタチ――

 

「とりあえず、それを俺の名前にしておこうと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****情報を更新します*****

 

 

 

川神百代…好感度40. NEW!

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あとがき
…やべえ、めっちゃ長くなった…
どうも作者です。今回の話は自分で書きたい部分が多くそれに比例して時間の方も少し掛かってしまいました…申し訳ないです

ですがそのお陰で、やっと本作のプロローグ的な話は終わりです
とりあえず主人公の名前は「イタチ」です!…イッタイダレナンダー(笑)
次回からしばらくの間は日常パートがメインの話になるかと思います!

それでは次回に続きます!


追伸

好感度の基準は
0~10…無関心
11~20…知り合い
21~50…友人
51~70…少し気になる
71~80…明確な好意あり
81~90…告白したら断らない
91~99…告白秒読み段階

100~…言わせんなよ恥ずかしい!





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