【黒子のバスケ】に転生しただけの簡単な二次創作です   作:騎士貴紫綺子規

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 なんか違う感が半端じゃない。私はあまり恋愛話に向いていないのだろうか……?

 後半BL注意だょ! 苦手な方はバックプリーズ。



IF√ 七色が浮かぶ曇空

 ――アメリカ、某州、某所にて。

 

『――と、このように、クレアチンは、グリシン、アルギニン、S-アデノシルメチオニンから合成されることがわかる。さらにここから――』

 

 広大な教室に並ぶ数多もの学生と前に立つ教師。客観的に見れば、何ら不思議に思うことはないだろう。しかしよくよく見てみると、明らかにおかしいところがある。

 教師と生徒、本来ならば年齢的には教師の方が上のはず、しかしこの教室、ひいては大学内において、前に立っている生徒が十六歳だということに誰も疑問を抱いていない。

 

『――アミノ基を2個以上もつ直鎖の脂肪族炭化水素のことをポリアミンという。p.178の図18-6を見てくれ。そこに、クレアチン及びクレアチニンの生合成について描かれている――』

 

 と、ここで授業終了を示すチャイムが鳴った。その音に反応して、生徒の多くが筆記用具を片づけたり首を回したりする。

 

『おっと、もう時間か。君たちが静かに聞いていてくれたおかげで、予定より早く進むことができた。ありがとう、感謝するよ』

 

 笑顔で生徒に向かって挨拶する教師――本来ならば、まだ少年と呼ぶべき年齢であろう人物。しかし生徒の方は苦笑いである。その理由とは――

 

『その親切心に答えて宿題だ。教科書p.175-183 の内容を、レポート用紙に纏めてくること。いつも通りボールペン書きで頼むよ。提出は一週間後に。それでは、授業は終了だ。お疲れ様』

 

 ――笑顔で鬼畜な量のレポート提出を命じるからだ。期限はギリギリ、他の教科から出る宿題も考えると、今から手を付けないと間に合わないかもしれない。

 しかし、アルバイトをしている生徒でもギリギリ間に合う量を出してくるあたり、青年も人の子といえるだろう。彼はそのあたりの裁量がとてもうまいのだ。

 See you again. と流暢な英語で締めくくった彼のもとに、質問を抱えた生徒たちが殺到する。これもいつものことだ、大学内において、彼が教授をしている科目ほど人気なものはない。

 艶やかな銀髪に逞しく堂々たる体躯、しかし若々しい外見に似合わず詰め込まれた膨大な知識量に、教授陣も唸るほどの思考力、そして極めつけはその実績である。

 

『教授! あの、この図のグリコシアミンについて質問が!』

『教授。前回のレポートについて少々疑問があるのですが』

『教授ー! 板書のことなんだけどよ』

 

 あちこちから教授(プロフェッサー)と呼ばれて、あっという間に囲まれてしまった青年。そのすべてに丁寧な断りを入れながらも、今日は用事があることを言い聞かせる。

 

『すまないね。今日はマサツーセッチュ医科大学の方で会合があるんだ。質問はまた、後日で頼むよ。もしくは、いつも通り、メールでね』

 

 軽やかにウインクを残して去っていく青年に、生徒たちは顔を赤らめてほうっ、と溜息をついていた。

 

『やっぱり、教授はカッコいいわねえ』

ウインク(ああいうこと)をサラリとやってのける男性って、尊敬するわ』

『やっぱ教授スゲーなあ』

『会合ってなんのだったっけ? 誰か聞いた?』

『あ、オレ知ってる。確か、ノーベル――』

 

 

 

 

 ――会合を終えた青年は、そのあとの食事会の誘いを「すみません、今日は先約が」と断り、まだ日が沈んで間もない時間に帰ってきた。

 扉を開けると薄暗い室内が目に入る。同居人はまだ帰っていないようだ。携帯電話を取り出してみると、メールが受信を告げていた。

 

《悪イ。今日は8時頃になりそう。出来れば、晩飯作ってくれ》

 

 今から考えると、およそ一時間半。買い物に行ってからでも造る時間は十分にあるだろう。そう考えた青年は、室内に入って自室で着替えると、ラフな格好で再び玄関から外に出る。

 

 今日のメニューは何にしようかを考えながら。

 

 

 

 

「ただいまー」

「お帰り、虹村サン」

「おう、灰崎。悪いな、今日は……おっ! 炒飯か!?」

「いいって、別に。……まあな、ちょうど卵が安かったし、この間届いた米もそろそろ使い切りたかったし」

「っしゃあ! 頑張ってきたかいがあったぜ」

「もうすぐできるから、とっとと着替えてこい」

「おう!」

 

 同居人、もとい青年――灰崎祥吾の中学時代の先輩である虹村修造がマッハで着替えようと自室に走るのを見て灰崎は苦笑を禁じ得ない。まったく、中学時代はあんなに凶暴な暴君だったのに、なぜ今ではあのような子供っぽさが窺えるのか。数分後、着替えや手洗いを済ませて椅子に座った修造は、目を輝かせながら、目の前の料理をかきこみ始めた。その様子にまた笑いながらも、灰崎も食事の手を再開する。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 灰崎が帝光中を卒業してからおよそ一年と半年後の現在、彼はアメリカのマサツーセッチュ医科大学に留学していた。それというのも、帝光中を卒業した二日後に全世界に緊急速報として発表された――正確にはされてしまった(・・・・・・・)のだが――ある一つの論文が世界を震撼させたことに始まる。

 

 

『正しい超人の造り方』

 

 そんなふざけたとしか思えないタイトルで発表された論文だが、少しでもその分野に携わったものならば、読んだだけで目を見開くだろう。今まで理論上、空想上、机上でしかなかった形のないモノを実践、証明して見せたのだ。数多ものスポーツ選手、医者を始めとした誰も歓喜したのも無理はないといえる。

 

 筋肉量増加、骨密度上昇、脳内伝達物質の意識操作、脂肪燃焼の促進、骨盤改善などなど。既存の理論改善から臨床医学の応用までをわかりやすくまとめ、また、まだ可能性段階の仮説の実証実験(・・・・・・・・・・・・・・・)、およびその結果(・・・・・・・)未発見物質の確認・証明(・・・・・・・・・・・)なども記載されていた――羅列された内容だけで時代が変わるとまで言われた論文である。

 

 それだけならまだしも、その――現在では『悪魔の論文』とも言われている――作成者。

 

 ――――それが、まだ中学校を卒業したばかりの、十五歳の少年だということが話題と問題を同時に呼び寄せた。

 

 もう分かるだろう、『悪魔の論文』を書いた少年、それこそが、帝光中時代、『強奪の悪魔』とも呼ばれた――灰崎祥吾なのである。

 

 書いていた人間がまだ少年ということもあり、また、少年と共同発表者の名前として「AIDA Kagetora」の文字もあったことから、表向きは彼の成果ということになっている。しかし、相田影虎本人にインタビューを仕掛けたところ、

 

『あの論文は灰崎(アイツ)のモンだ! 俺なんかが名前を並べていい存在じゃねえ!』

 

と豪語したことから、一気に灰崎祥吾()の名前が広がってしまった。マスコミも世間の目も、「わずか十五・六歳の日本の少年が名誉ある賞を受け取る」ということに、一気に注目した――それも、『全中三連覇』が霞むほどに。

 

 日本のとある高校を受験した灰崎だが、その願書を送った高校が狂乱するほどに名が売れてしまった灰崎は、「授業および授業料免除」に始まり、様々(あからさま)な『依怙贔屓』を受けてしまった。……無論、権利であって義務ではないそれは、学生生活を楽しもうとしていた灰崎にとってなんら意味をなさなかったのだが。

 

 ――それでも、やはり。ノーベル賞を獲った天才少年なんか(・・・)たかが(・・・)一般高校に通うのをよく思わない輩も多く。入学式からおよそ一週間後、下駄箱に入っていた手紙には一文が添えられていた。

 

 《放課後 校舎裏》

「…………よし、」

 

 それを読んだ灰崎は、すぐに制服に入れていた携帯を取り出して、どこかに連絡する。その口調と表情から察するに、随分と親しい相手と推測できる。

 

「……ああ。まあ、元々長居するつもりはなかったし。ちょうど言いんじゃねえ?」

『――! …… ……?』

「そう。ついでにもう高校(ガッコウ)やめるし。もういいかなって」

『………―― ―……?』

「いいんだよ。もう決めたんだ」

 

「俺は――アメリカに行く」

 

 

 そう言って電話を切った灰崎はその足で職員室に向かう。担任にその旨を告げると案の定ポカンとアホ面を晒したが、「お世話になりました」と頭を下げると慌てて引き留めてくる。

 

「ま、まて、灰崎! 考え直せ!」

「もう決めたんで。お世話になりました」

「いや、待て! ……と、とりあえず、校長室に来い!」

 

 そうして連れていかれた校長室だが、やっぱり同じ言葉の応酬である。やめます。いや、考え直せ。いやいや、のループ。いや、もう、いい加減にしてくれ。

 

「何度言われても、もう決めたことです」

「……そこまで言うなら、仕方がない」

 

 溜息をついた校長は、引出しから紙を一枚取り出した。そこには、「留学届」の文字が。そこから意味することは一つである。

 

「灰崎くん――君には留学という形をとってもらう」

 

 

 そんなこんなで入学からわずか一カ月でアメリカに留学してきた灰崎は、下宿先に悩んでいるところをとある人物に発見された。

 

『……Oh()? What are you doing(アンタ、何やってんだ)?』

Ah(あー、と)……,あれ、どっかで……」

「何だ、日本人か?」

 

 そこにいたのは、眼鏡をかけた金髪ロングの巨乳美女ことアレクサンドラ=ガルシアであった。

 

 氷室辰也と火神大我、二人と同じ日本人ということもあり、またバスケをするのに向き過ぎている体格からもすぐに仲良くなった彼女は、下宿先のことを話すと「だったら、私のところに来いよ!」なんて言ってくれた。が、考えても見てほしい。

 

 見た目高校生以上にしか見えない中学生(中身は三十代後半)と、見た目も中身も極上のキス魔の気がある巨乳美女。……R-18的展開しか考えられない。年頃の男子とまだうら若き乙女が一つ屋根の元で一緒に暮らす……だめだ、絶対にダメだ。

 

 そう考えた灰崎が断ろうと口を開きかけた――瞬間、頭を強く叩かれた。

 

「――ダアッ!?」

「何やってんだ、ゴラ。灰崎!」

「……虹村さん?」

 

 …………最低最悪な再会であった。

 

 

 

   *   *   *

 

 

「――、つーわけで、最近なんとか回復に向かってきたって感じかな」

「良かった。虹村サンのお父さんにも応用できたんだな、あの方法」

「ああ。――本当、お前には感謝しかねえよ。ありがとうな、灰崎」

 

 灰崎がアメリカに来た、今から一年前のことである。虹村修造の父がアメリカ(コチラ)の病院に移されて経つが、あまり回復に向かっていなかった。手術は成功したのだが、如何せん体への負荷が大きすぎたせいか、以前にも増して寝たきりの生活を強いられていた。

 そんなときに発表されたあの論文。在学時代からその悪名を轟かせていた灰崎の名前を見つけた時、虹村修造は一抹の不安はあったものの、内容を四苦八苦しながら読み解いた。国際的に発表されているせいか原文は英語だ。英語が苦手な虹村にとっては鬼門であったが、少しでも可能性があるなら、と頑張って翻訳した。そうして書かれている病名の中には、まさに彼の父親が罹っている病気と同じものがあったのだ。――そして、その最善の回復方法も。

 

 まさか、と思った。確かに、父の病気のことを灰崎には話したような覚えがある――というか、溢した記憶はある気がする。しかしまさか、その症状から病名を当てるようなことをできるのだろうか。いくらあの鬼才の灰崎であっても……と、そこまで考えて、虹村は頭を振った。そうだ、誰でもいいのだ。今は、この状況さえ打破できるのならば。

 

 ――まさか、その数か月後にその後輩がやってくるとは思いもしなかったが。後ろ姿を見た瞬間に、思わず蹴り飛ばした自分は悪くない。

 

「……にしても、灰崎がノーベル賞ねえ……。あの灰崎がねえ……」

「どのことを言っているのかは知らねえけどよ、俺は変わらず俺だぜ」

「それは分かってる。その減らず口も相変わらずだ」

 

 ははは……、と笑いあう二人。しかし、その後は全く会話がなく、二人とも黙々と食事を再開する。話すことがないのではなく、お互いに言いたいことがあるのに、言えない、そんな状況である。

 

「「……あー、……」」

 

 同時に話そうとしたかと思えば、再び落ちる沈黙。何回か口を開いて、閉じるを繰り返していたが、意を決したのか膝を叩いた虹村がキッ、と灰崎の目を見る。

 

「……なあ、灰崎」

「……何ですか、虹村サン」

「……俺たちさあ、…………結構一緒に居る、よ、な?」

「……まあ、そうですね」

「……だったらさ……、ああ、もう!」

 

 激昂して机を叩いたかと思うと、次に自分の頬を両手で叩いた。そして、灰崎に人差し指を突きつけたかと思うと、

 

「灰崎! お前、俺のこと、名前で呼べ!」

 

そう宣った。

 

「…………」

 

 さて、どうしようか。普通に呼んでも構わないのだが、若干顔を赤らめている様子を見ると、自分でも相当に恥ずかしいのだろうということがわかる。かくいう自分も、若干顔が熱いのがわかる。

 

「……シュウちゃん?」

「……殺されてえのか、テメエ」

「修造?」

「……まあ、それでいいか――祥吾」

 

 からかってみると修羅が見えたので慌てて言い直すと、ニヒルな笑みとともに返された。全く、この先輩には敵わない。

 

 

 ――それから数年後、お互いの左手薬指に揃いのペアリングが嵌まることになろうとは――この時は二人とも知らなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数か月後のこと。

 

「祥吾」

「ん」

 

 ある昼のとあるレストランにて。修造がミネストローネを飲んでいると、ふと灰崎を呼んだ。それに対して灰崎は、自分の手の届く範囲にあったドレッシングを取り渡すことで答える。

 

 少し後。

 

「修造」

「ホラ」

 

 今度は灰崎が虹村を呼ぶ。それを聞いた虹村は、自分の横にあった紙ナフキンを手に取り、灰崎の方に寄せる。

 

 それを見ていたウェイトレスが口を引き攣らせた。お互いの名前しか口に出していないにもかかわらず、それぞれの望みを正確に読み取る図のせいであろう。

 同性愛にはそれなりに寛容で、数年前に同性結婚法が施行され始めた、比較的スキンシップが過激なアメリカでもあまり見ない。いくら寛容になったとはいえ、大衆の面前でする行為ではない。

 

 にもかかわらず、目の前の二人は仲睦まじい夫婦を演じている。しかし彼らの指を確認しても指輪が見られないことから、まだ二人はその関係にまでいっていないのだろうと考える。

 

「……で? 久しぶりに帰ろうって?」

「ああ。この間、ストバスであった二人に言われたんだ」

 

 

『ッハ、どーせお前みたいなバスケできるサルがうじゃうじゃいンだろォ? ちょーどいいや。全員遊んでヤるよ』

『面白そうだな。どこまで足掻くのか見てみたい』

 

 

「…………とても面白そうなセリフじゃねえか。バスケできるサルだァ? ふざけてんじゃねェぞ!」

「……まあ、俺には勝てないんだろうけどな。でも、それなりにはやると思うよ」

 

 数日前、いきなり夢枕に立ったとあるチャラ男が、自分の脳内に勝手にインストールしていったデータを思い出しながら灰崎は答える。

 ジェイソン・シルバーとナッシュ・ゴールド・Jr 。元WC決勝出場校の選手を軽々と叩き潰し、キセキの世代である彼らと互角に渡り合える存在――――海外の、キセキの世代(クラス)の化け物。

 もしかしたら(・・・・・・)、チート保持者の俺ともいい勝負ができるかもしれない。そんな気持ちを胸に隠し、上等だゴラア! と吠えている虹村を笑いながら眺める。

 

「じゃあ、行く方向で決めていいんだよな」

「当ったり前だ! ンな事いわれて黙ってる方がおかしいだろうが!」

 

 うがー、と怒り心頭に発している様子を見て苦笑しつつレタスを食べる。記憶の会話からして、夏のIHは終了しているだろう。ついでに見てもいい気もするが、久しぶりだし家でもゆっくりしたい。

 

 とりあえずは、まあ。二人っきりの今の時間を楽しもうか。彼らに会うのはそれからでいい。どうせ、向こうでは嫌というほど会話をするのだから。

 

 まだ見ぬ彼らに向かって怒りをあらわにしている虹村を温かい目で見つつ、灰崎をレタスにフォークを突き刺した。

 

 

 ――金と銀、そしてイレギュラーな灰と虹。彼らが邂逅するまで、あと――――

 

 

 




 ナチュラルな夫夫を書こうとしたら、ありきたりな「こそあど言葉で通じ合える」しか出てこなかった私。語彙力少なくて救えねえ……。虹灰か灰虹かは不明。どちらにも取れるように。
 虹村さんが行ったのはLA(ロサンゼルス)だけど、二人は同棲してると萌える。灰崎が白衣姿とか燃える。できれば後ろで紙を無造作にくくっているとなお良し。……いいじゃないか、灰崎に夢見たって。

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