リリカルハート~群青の紫苑~ (リテイク版有り)   作:不落閣下

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お知らせ

皆様お久しぶりでございます。不落です。

突然な作品の更新停止及び音信不通申し訳ありません。
きっかけは「あれ、これ設定ごちゃ混ぜ過ぎてね?」と作品を見返して思い当たり、創作意欲をリアル多忙により削られてしまったからです。
なので、要らん要素を削ったリスタート版を投稿し直す予定です。勿論ながらヒロインは我らが天使たるすずか一択ですのでご安心ください。

題名は

リリカルハートR〜群青色の紫苑〜

となります。
再投稿の際には此方にお知らせ2と題して告知致します。
尚、リスタート版シロノの性格がガラリと変わりますので、コレジャナイ感を感じるかもしれませんが転生要素を削るため何卒ご理解ください。


お知らせ2

此度リリカルハートRを投稿致しました。読んでくれる方が居れば幸いです。


A’s50 「狂気の科学者たち、です?」お知らせ2追加

 第一管理世界ミッドチルダに存在する首都クラナガンは、あらゆる技術の聖地とも称される程に日々邁進を続ける大都市である。多種多様の頂点に君臨するは時空管理局。その管理局でさえ暗く、深過ぎて目が届かぬような廃棄都市郡の奥底から通じる魔の森にその施設は存在した。オリジナルであるジェイル・スカリエッティを模倣し、クラナガン付近に居を構えたジェスは久し振りにその施設へと赴いていた。

 彼女と彼の背格好及び外見は一部を除いてほぼ酷似している。しかしながら、男女の差異というものと、育つ環境によって精神の違いが生じ、もはやオリジナルとクローンと呼べる間柄であると忘れてしまうような明確な違いとなっていた。

 

「やぁ、オリジナル。少しばかりお邪魔しているよ」

「……君がどうしてこの施設を発見できたかは何となく察するがね、クアットロを椅子にするのは勘弁して欲しいのだが。というかどうしてそうなっているんだい」

「いやほら、ボクを侵入者だなんて襲ってきたからその報復だよ、オリジナル。素体には傷一つ存在しないだろう」

「……嗚咽を噛み締めているように見えるのだけれども?」

「別に? 彼女のファイヤーウォールを片手間で突破して、埒が明かないとシルバーカーテンで索敵しにきた所を鹵獲、そして少し精神的に嬲っただけさ。ほら、この泣き顔そそるだろう?」

「……君が本当に私が造ったクローンなのか疑問を浮かべてしまうな」

「くくくっ、解体は勘弁願いたいね。そんな事をしたらこの子の妹たちがクラッシュしてしまうよ」

「……はぁ」

 

 そう、このジェスはジェイルからすれば問題児であった。それも、特大の、だ。

 ジェイルが自身の研究を進める一環として行なったクローン計画によって、各分野のスペシャリストと化したクローンは有意義なものとなった。だが、一番優秀であるジェスがこれである。他のクローンたちもまたジェイルからすれば手に負えない問題児と化す一歩手前の前兆ではないかと危惧している。クローン培養している際に唯一女性個体と化したジェスだからと諦めてしまうのも手かなと思ってしまうぐらいにジェイルは彼女には手を焼いていた。

 そして、ジェイルの生体工学を駆使して造り上げられた後日ナンバーズと称される彼の娘たちもまた、ジェスは突然吹き荒れる嵐であると認識している。何せ、初対面の際にジェイルと歓談するジェスを蔑ろにしたクアットロが目の前で泣き出すまでの過程を見てしまっている。ジェスが真性のドSであり、ヒューマンバイオゲノムに特化した研究を行なっているのもあって半身半機な彼女たちにとって天敵とも呼べる存在であると認識するには十分な代物であった。そのため、何故かウーノ、ドゥーエ、トーレだけには味方シグナルを出し、クアットロだけには侵入者シグナルを偽装してこの施設へと赴くジェスは厄介極まる人物でしかなかった。

 今回もまた、末妹であるクアットロを犠牲にして自身に掛かる火の粉を払った三人は、せめてもの慰めとしてこの場には居ない。いや、別室でジェスとジェイルへお茶を用意しているウーノが居るが、彼女はジェイルの秘書役であるからと尊い犠牲であると割り切ったようであったが、その顔には少々の罪悪感が見えていた。

 何食わぬ顔をして施設を正面突破して彼のラボの椅子ではなく、クアットロに座っていたジェスと対面したジェイルは、日々の研究の疲れとは違う別の疲れによってぐったりし掛けていた。対面の椅子へと座った彼の前にそっと置かれたウーノ特性ハーブティーによって少々の安寧を得たジェイルは再びジェスへと問い掛けた。

 

「で、今日は何しに来たんだい、ジェイラ」

「少しばかり資料が欲しくてね。先天固有技能の付与。それに応じた特殊デバイスを構築するデバイス技術が学びたくてね。ちょいと、出不精な足に鞭を打った訳さ」

「何処でそれを、だなんて言うのは不毛か。一体いくつのスパイボットを仕込んでいるんだか……。まぁ、構わない、と言うには代金が過ぎるね」

「何が欲しい? 例えば、優秀な遺伝子かな?」

「……はぁ。そうだね、私の遺伝子を使うのは十分なデータが取れたからもう不要だ。新たな遺伝子によって研究を進めたいのだよ」

「優秀な遺伝子から事に応じたクローンを作り出す、ね。……まぁ、いいや。幾つか見繕っておくよ」

「この点においては助かるよ。何せ、私もまた出不精でね。優秀である人物を探す手間も惜しい程に研究内容が残っているのだよ。外界の人間観察が趣味な君が推すんだ。期待させて貰うよ」

「くくくっ、構わないさ。何せ、ほら、ある意味ボクたちは兄妹だ。家族同士馴れ合うのもまた一興だろう?」

「……は? すまない、君らしからぬ幻聴が聞こえた気がするんだが」

「なぁに、彼にオリジナルを、いや、兄さんとでも呼び名を変えようか。兄さんを紹介する日が来るかも知れないからね」

「……彼と言うのはシロノ・ハーヴェイ、管理局唯一の陸の固定執務官だろう? もしや、彼の出世の出汁に私を売る気かい?」

「いやいや、彼は出世に飢えてはいるが、そこらのハイエナとは違うから安心しなよ。と、いうよりも案外兄さんと仲良くなれるかもしれないよ。何せ、彼はボクに答えを得させた人物なのだからね」

 

 その不敵な笑みを見せたジェスの言葉にジェイルは暫し固まった。彼女の答えと言うのは今も尚自分の命題である無限の探求への理解である。ある意味それは解釈と呼べる概念的意味合いでもあり、また自身の存在を肯定するための求道でもある。それをまさか、クローンに先に達せられるとは思ってもいなかったのだろう。嗚咽から啜り泣きに変わったクアットロもまたごちゃごちゃな思考の中でも驚きを感じていた程だ。

 一転してジェイルは口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。似ている顔で似ている性格である彼と彼女だ、こう言った際に馬が合わない訳が無かった。そもそも、彼らは実は仲が良い。他のクローンとは違い、クローンである事を肯定し、尚且つそれを含めて自身であると自己完結している。更には、オリジナルである彼を兄と言ってのける程の達観と自己完結を為しているのだ。ジェイルにとっては彼女は問題児でありながら、面白い素体としても興味を抱くに値する人物であった。

 

「へぇ、それは……愉快な事になりそうだね。そうか、彼が君に答えを……。ふむ、成る程。君は新たなステップへと足を向けているようだね。そのお祝いとしてもう少し色を付けよう。古代ベルカに存在していたと言われる人格型デバイスの資料を足してあげようじゃないか。まぁ、私もまだ実物に会った事は無いが資料としては存在していたからね」

「ありがたい、大いに助かるよ。実はだね、彼から面白い思案を貰っているんだ。ほら、これだ」

 

 指を鳴らしてジェスの背後に参列したシロノが考案した新しいデバイス案、リンカーコアシステムを元にジェスによって構築された次世代型デバイスの草案が浮かび上がる。チラリと視線を動かして概要を見たジェイルはその新しさと斬新さ、そして、危険過ぎる内容に目に喜悦を浮かべていた。それはいつぞやのジェスの興奮した際の表情と瓜二つであった。

 

「ほぅ、持ち主から作り出した人工リンカーコアをデバイスに内蔵し、その親和性及び相互性から性能を高めるのか。更にはバッテリーシステムなるもので、バックアップ及び性能の充実と長期稼動率を補完する、か。これは現代の人格型デバイスと呼んで申し分無いものだね。融合型ではなく、秘書型か。上手く考えたものだね」

「だが、その一方で自我を発露させた人工リンカーAIは人とあまり変わらぬ概観を持つ。それを一方的に使役するのはまるで奴隷ではないかというモラル的且つ社会的な問題も存在する。けれど、これを為した場合の効率アップは従来の比ではないね。技術屋でないからこその発想とこの選民主義的な世界から離れた場所での価値観の差異から生まれた新たな技術さ。まぁ、兄さんはこのデバイスはあまり好まないと思うがね」

「……それは私の因子を埋め込んだあの子たちを造った私への皮肉かい? まぁ、君の言う事も一利あるさ。デバイスかクローンかという違いでしか無いからね。好みはしないが、評価はしよう」

「くくくっ、やはりね」

 

 まるで兄妹の団欒のように見えるがお互いの腹の内は真っ黒に染まっている。科学者として、オリジナルとクローンとして、研究のためにお互いを使い潰そうとするその姿は獣の喰らい合いのようだった。お互いの首に喰らい付き、相手の首を噛み砕かんとするその笑みは肉食獣の舌なめずりに感じられた。

 尚、その二人の肌寒い遣り取りをジェスの椅子として聞かざるを得ないクアットロは、身の覚えは無い筈の寒気に襲われていた。それは向かい合う二人が生み出す冷気。そう、こいつらは拙いという生存本能からくる忌避感にして警鐘の表れである。

 

「ふふふっ、ふははははは!」

「くくくっ、あははははは!」

 

 非人道まっしぐらで尚且つ外道の二文字が似合う二人の高笑いが、耐熱及び様々な防壁によって密封されたラボ内を木霊するかのように響き渡る。魔女の窯と形容してもなんら問題為さそうな暗黒空間の雰囲気は、一つ隣の部屋にてお茶菓子を探していたウーノの背を凍らせ、ジェスのせいで狂気な一面すらもお腹一杯状態のクアットロは色々と抜け落ちた表情で諦めの悟りを開き始め、遠くで談笑をしていたドゥーエとトーレは狂気の合唱に聞かざるの体勢を取る始末だった。

 二人は満足するまで笑ったのか、笑い疲れた子供のように息を整え始めて混ざり合った混沌の空気が霧散して、静寂を取り戻してゆく。それに連れてクアットロの瞳に生気が宿り始め、待機していたウーノが颯爽とお茶菓子のクッキーと珈琲を机へと並べる。

 

「さて、ジェイラ。私もそろそろ研究を煮詰めようと思っていてね。君の思い人が追っている事件が終わるのを待ち遠しく思っているのだよ。あの騒ぎは老人たちも痛く騒がしくしていてね、困ったものだよ」

「ほぅ? それは、どういった意味で関わりが? もしやと思うが……」

「いやいや、確かに私とて古代ベルカの夜天の書の構造やデータを取りたいと思うがね、あのような面倒な手間はしないさ。私は関わってはいないよ」

「……夜天の書。確か、古代ベルカ初期に製造された王の戯れを満たす魔道書型デバイス……。あらゆる地を得た王に、あらゆる知恵を此処に、あらゆる知識を纏めた書を此処に、だったかな。兄さんの記憶の断片でしかないけども、興味深い代物だった。……まさか、夜天の書は記憶までも収集する魔道書だとは思わなかったけどね」

「ふふふ、それは間違いだよジェイラ。こんな単語を聞いた事はないかな」

 

 ――転生者、と言うのだけれどもね。

 ジェスの耳に入ったそれは常人であれば鼻で笑うようなものではあるが、ジェイルから御伽噺のように語られる旋律の言葉たちは非現実を現実に置き換えてしまいそうな響きを齎していた。信憑性は低く、前世の記憶を持つ者という不可思議極まり無い内容であったが、ジェスは何処か引っ掛かるものを感じた。そのため、話に熱を入れ始めたジェスの姿に笑みを深く浮かべたジェイルは淡々とけれども取捨選択によって内容を煮詰められた持論を熱く語り始めるのだった。




えー、大変遅れながらの更新申し訳ありません。
また、近々更新すると返信した方やこの作品を楽しみにしていただいていた方への言い訳ですが……。

予約投稿をミスってましたorz

投稿予定日が十月一日になっているのを発見し、「ふぁっ!?」と今先程手作業で更新致しました。
予約投稿は自分には合わないようですね……。
これからは手作業でやりたいと思う所存です、ええ。


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