IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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う~ん。今回は投稿する度に『ネタが多すぎる』と指摘されてきた問題作だったので修正に時間がかかりましたわ。まあ、何とかいい感じに仕上がったと思います。ではどうぞ。


PHASE-05:水と油の二人の関係

「あ、織斑君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 一夏のクラス代表就任パーティーの翌日、いつも通りに一夏は教室に登校して席に着くと、クラスの女子が話しかけてきた。

 

「転校生? 今の時期に?」

「そう、なんでも中国の代表候補生だって」

「ふーん」

 

 転校生という言葉に一夏は不思議そうな声を上げるが、続く女子の説明でなるほどと納得する。

 IS学園はその性質上、転入はかなり条件が厳しい。無論転入試験はあるがこれには国からの推薦が必要なため、基本的に代表候補生ぐらいでないと転入はできないのである。

 

「この時期にですか? どうしてわざわざこの時期に来るのでしょうね?」

「このクラスに転入してくる訳ではないのだろう? なら騒ぐほどのことでもあるまい」

 

 代表候補生と聞こえたからか、同じく代表候補生であるセシリアが話に混ざり出す。そこにいつの間に一夏の近くに現れたか箒も入っていた。

 しかし、と一夏がふいに呟く。中国と聞くとどうしても彼の脳裏には幼馴染である『彼女』を思い出す。

 

「どんな奴なんだろうな」

「む……気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「……ふん」

 

 嫉妬心からかそれを聞いて箒は機嫌が悪くなるが、生憎鈍感を絵に書いた様な男である一夏は機嫌が悪くなったことには気付いたがその原因が自分にあることに気づいていない様子であった。箒は軽く咳払いをするなり話を来月に控えているあるイベントに切り替える。

 

「今のお前に女子を気にする余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

「そうですわね。でしたら、織斑さん。クラス対抗戦に向けてより実戦的な訓練をしましょう。相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせて頂きますわ。なにせ、専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと一夏さん、それにアスカさんだけなのですから」

 

 箒の話に便乗する形でセシリアもそれに加えて今後の訓練について話す。確かに、訓練をするのなら専用機を持つセシリアかシンと一緒に行うのが一番効率がいい。専用機を持っていない他の生徒では、訓練機の貸出に申請と許可、整備などの手間がかかってしまう。

 最もシンに関しては例のクラス代表決定戦のこともあり、協力を仰げない状態であるがここでは省くことにする。

 

「織斑君、頑張ってね!」

「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せだよ!」

「フリーパスの為にも!」

「トトカルチョで織斑君に今月のお小遣い全部賭けたんだから絶対勝って!」

 

 いつの間にか一夏の周りに集まっていたクラスメイトが応援の言葉をかける。約一名おかしいのがいたが気にしないでおこう。決して作者が『魔○機神』やって思いついたネタではない。ちなみにフリーパスとは学食デザートの半年フリーパスのことである。全員が一夏に熱い声援を送るのもこれが絡んでる。

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから余裕だよ」

 

 クラスメイトの一人がそう言って他の女子もそうだよねー、と同意の言葉を述べる。確かに一夏の技量は低いが、それは他のクラスの代表も同じこと、専用機である分一夏が優勢であることは間違いないだろう。

 

「その情報、古いよ」

 

 その様なクラスの中に別の声が割り込んできる。それに気付いた生徒が声の聞こえた方向――教室の入り口に目を向ける。そこには見かけない顔の女子がいた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できないから」

 

 小柄な体格にツインテール、どことなく猫の様な雰囲気を漂わせているその少女が腕を組み立っている。その姿に多くの生徒が誰なのかと疑問に思う中、一夏だけその少女を見て驚きの声を出す。その少女はちょうど先ほど一夏が思い出していた『彼女』であった。

 

「…….鈴? お前、鈴か!?」

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 一夏の反応を見てか、その少女――凰鈴音がふっと笑い、同時に頭のツインテールが軽く揺れる。その姿は様になっている。

 

「何カッコ付けてんだ? すげえ似合わねえぞ」

「んな!? な、なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 しかしそれは一夏の一言で途端に崩れ去り、鈴は思いきり怒りを露わにする。どうやらこれが素なのだろう。全くあんたは、といきり立ちながら鈴は一夏の元に足を進めようとする。

 

「おい」

「何よ!」

 

 そんな状況の中教室にシンが入ってくる。シンの姿を見て昨日の出来事を思い出した生徒が黙り、教室の空気が変わる。シンはそれを何となく感じつつも入り口を塞いでいる鈴にどく様に言おうとしたが、鈴を見た瞬間その言葉が途切れる。

 

「そこ邪魔だからどいてく、れ……」

「いいとこなんだから邪魔しない、で……」

 

 それに鈴もイライラしたかの様に返そうとするが、シンの顔を見た瞬間同じく言葉が途切れる。そのままお互いの顔を凝視すること数秒。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 直後に教室に響く絶叫。二人共昨日のことを思い出してか驚きの声を出す。

 

「おま、昨日の!」

「あんた、昨日の!」

 

 

 

 

「ミジンコ女!」

 

「男女!」

 

そしてまた数秒の間静かになったと思いきや、今度は二人とも相手の発言にブチ切れる。

 

「「って誰がだよ(よ)!!」」

 

 そのままお互いにらめつけあい、「誰がミジンコよ! どこの錬金術師よアタシは!!」だの「そっちこそ、いい加減そのネタ引っ張ってくんじゃねえよ!!」だのと色々マズイ発言を加えながらギャーギャーケンカを始めてしまう。一方の一夏達は自分達を置いてケンカを始めだしたシンと鈴に呆気を取られてか、只二人の口喧嘩を見届ける結果となっている。特にシンに至っては昨日の夕食の時とのギャップがあり過ぎる為に尚更である。

 

「おい」

 

 とここで、シンと鈴の後ろからまた声がかかる。このクラスを収める最強の存在、その声が。

 

「何だよ!?」

「何よ!?」

 

 それに気づかない二人が同時に噛みつく。途端に、一組にとってもはや馴染みの出席簿が頭に直撃する音が響き渡る。

 

「おぐぉぉぉぉぉぉ……」

「痛ぁぁぁぁぁぁぁ……」

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

 あまりの痛さにうずくまる二人に後ろに立っていた千冬が慈悲も感じさせない冷たい言葉を容赦なく浴びせかける。

 

「ち、千冬さん……」

「お、織斑先生……」

「織斑先生だ、凰。さっさと戻れ。そして二人共、入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「「す、すいません……」」

 

 先ほどあれだけギャーギャー騒いでいた二人も千冬の前では引き下がるしかなかった。そして教室を去る間際、一夏とシンに捨て台詞を吐く。

 

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏! それからあんた! 後で覚えときなさい!」

「さっさと戻れ」

「は、はい!」

 

 千冬に急かされ、慌てて二組に戻っていく鈴。その後ろ姿に向け、シンは『べーー』 と舌を出し挑発する。昨日と比べると確実にギャップに差というものが出ている。

 

「いつまでやる気だ、お前は」

 

が、直後に千冬の出席簿が再び唸りを上げてシンの後頭部に直撃する。

 

「おぉぉぉぉぉぉ……ひ、ひはは……(し、舌が……)」

 

 呂律の回らない状態のシン。どうやら思いっきり舌を噛んだようだ。しつこい様だが、全く昨日と比べると雲泥の差がある。

 

「馬鹿なことやっていないでお前もさっさと席に着け」

「は、はひ……」

 

 千冬に言われてシンは後頭部と舌のダブルインパクトを喰らったせいか、ヨロヨロとした足取りで自身の席に着く。

 

「お前達もだ。さっさと席に着け。SHRを始めるぞ」

『は、はい!!』

 

 千冬の言葉で流石にシンと鈴の二の舞はご免なのだろう――慌てて生徒が席に着きだす。それからいつもの様にSHRが始まり、そしていつもの様に授業が始まりのであった。

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「なんでだよ……」

 

 午前の授業が終わり昼休みに入った途端、箒にいきなり文句を言われ一夏は思わず辟易した。どうも鈴のことを気になってか午前の授業をまともに聞かず真耶に五回程注意され、千冬には三回も出席簿で叩かれていた。いくら鈴の存在が気になっていたとはいえ千冬の前でそんな真似をするのは東宝不敗に喧嘩を売る様なものである。

 

「まあ、話なら飯食いながら聞くから。とりあえず食堂に行こうぜ」

「む……ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」

 

 一夏の提案に箒は何やらブツブツ言いながらも了承する。他の女子にも声をかけ、そして一夏はシンにも声をかけようとする。一瞬女子が固まるも一夏は構わずシンに声をかける。一夏としてはシンが何とかクラスの皆と仲良くなってほしいと思っているのだが。現状では難しい。しかし、一夏はそれでも諦めない様である。

 

「シン、飯食いに行こうぜ」

「……いや、俺は……」 

 

 普段ならここで「いや、いい」と返事をするところであるが、今日は少し違った。

 

「ねーねー、アッスーも行こうよー」

「ほ、本音?」

 

 いきなり本音に後ろから抱きつかれシンも思わず驚いてしまう。前に抱きつかれた時は意外と豊満な胸に不覚にも顔を赤くしてしまったが、今はそれよりも微妙に首に決まっている腕が問題だ。

 

「お、おい、本音? 腕が首に……」

「んー? 昨日見てたプロレスの技だよー。食らえー、スカイダルトンマキバオーラインバッハ三世トンファーアタック!」

「名前長い上に意味分かんね(グキッ)グフェッ!」

 

 誰がそんな長ったらしい名前考えたのか、といった感じの技に突っ込もうとするシンだが、その前に完全に決まってしまい泡を吹きながら気絶する。

 

「オリムー、アッスー捕まえたよー、行こー」

「お、おう……」

 

 それは捕まえてるのか? と言いたい一同であるが、脇にシンを抱えた状態の本音(抱えたシンの首から何か嫌な音が聞こえてる)を見て黙り込む。布仏本音、ある意味このIS学園一年生の中でかなりの危険人物だと皆が思った瞬間である。

 何はともあれ、とりあえず一夏達は食堂に向かって歩き出す(一名途中まで引きずられていたが)。券売機で食券を買い、引換口に行ったところで件の少女――凰鈴音が立っていた。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

 出会い頭にそう言う鈴であったが、一夏の側に立ってるシンを見て途端に嫌そうな表情になる。対するシンも鈴に対して不機嫌な表情になる。

 

「おい、そこ邪魔だ。さっさとどけよ、このチビ!」

「何よ! 人のことでチビチビしつこいわよ! 大体アンタ何よその頭? 寝癖つけた方がカッコイいとか思ってる訳? ダッサ! うわダッサ!」

「うるせえな! そう言うお前こそ頭にぶら下がってるそりゃなんだ? 馬の手綱か? 引っ張ってやろうか? 頭皮ちぎれるまで引っ張ってやろうか!?」

「お、おい、落ち着けってお前ら!」

「「お前(アンタ)は黙ってろ(なさい)!!」」

「は、はい……」

 

 段々収拾が着かなくなりそうなので一夏が止めに入る、シンと鈴に同時に切り返されマ○オばりに縮んでしまう。とりあえずは二人共落ち着いたものの未だお互いをにらめつけあってるような感じである。

 何はともあれ食事を受け取った後、テーブルを見つけて全員がそこにつく。

 

「それにしても久しぶりだな、鈴。いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ何IS動かしてるのよ? ニュース見た時ビックリしたじゃない」

 

 久しぶりの再会と言うこともあってか、二人共質問に質問を重ねる。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが……ま、まさかお前、その女と、つ、付き合っているのか!?」

 

 ここで一夏との関係が気になってか、箒が一夏と鈴の会話の間に口をはさみだす。他の女子も同じく気になってか耳を傾ける。そうでないのは鈴が視界に入らぬ様顔を逸らして食事をしているシンだけである。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」

「…………」

 

 付き合ってる、という部分に反応してか鈴が赤らめるが、一夏の相変わらずの発言に途端に不機嫌になる。

 

「? 何睨んでるんだ?」

「何でもないわよ!」

 

 そんなこともつゆ知らずと言った感じの一夏が疑問の声を出し、それに鈴が噛みつく。

 

「幼なじみ……?」

 

 幼なじみと聞いてか、一夏の幼なじみである箒が怪訝そうな声で聞き返す。それに気づいて一夏が補足の説明をする。

 

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのは小四の終わりだっただろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」

 

 ちょうど入れ替わりだったな、と言い一夏は締めくくる。それから一夏は鈴に箒のことを紹介する。

 

「こっちが箒。ほら、前に話しただろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふうん、そう……」

 

 一夏の話を聞きながら、鈴は敵意の混ざった眼差しでにらめつける。対する箒も同じ目つきで鈴を見返す。どうやら二人共お互いを恋敵と認識した様である。

 

「初めまして。これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 

 そう言い合い二人は握手する。しかし、爽やかな笑顔なのに背後で『ゴゴゴゴゴゴゴ』というエフェクトが見えるのは恐らく気のせいなのだろう。

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

 ここで急にセシリアが話に割り込みだす。恐らくイギリス代表候補生であることをアピールしようとしているのだろう。

 

「……誰?」

 

 しかし鈴の反応は素っ気ないものであった。

 

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存知ないの?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「な、なんですって!?」

 

 鈴の台詞に言葉を詰まらせながらも、代表候補生としてのプライドに触ったか怒りを露わにするセシリア。気のせいか縦ロールがバーサーカーシステムを発動したかの様になってる。

 

「い、言ってくれますわね。イギリス代表候補生を舐めないでいただけませんこと!?」

「あ、そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

 一体その小柄な体のどこからその自信が沸いてくるのかといった調子で自信満々に言う鈴。

 

「まあまあ、セシリアもあんま熱くなるなよ。鈴もそんなに人を挑発するなって」

 

 そんな二人の間に一夏が割って入る。相変わらずおせっかいな奴、とシンは一夏を見ながらそう思った。

 入学式から今までの間、シンは一夏という人間が人の頼みを断れず、むしろ自分から突っ込む様な人間だと知った。普通なら誰もやりたくない様なことも何だかんだでやってしまう、しかしそういうところが皆に好かれる原因なのだろう。元にあんなに仲の悪かったセシリアとも今では仲の良い女友達の様な仲となっている。一方でそういうところが箒や鈴等彼に想いを寄せる人間にとって歯がゆい気持ちとなるのだろう。

 

「おい、シン。こっち来いよ」

「あ?」

 

そうしていると突然シンは一夏に呼ばれる。多分鈴にシンのことを紹介するのだろう。

 

「えっと、二人共どこかで会ったの、か……」

 

 始めにそう切り出す一夏であったが、段々と表情が不機嫌そのものになる二人を見てどうしても途中で言葉が萎んでしまう。

 

「…………」

「…………」

 

 そのまま二人共、お互いをにらめつけあう。先の箒等比ではない完全にお互い敵視している状態である。

 

「え、えっと、ほら鈴、こいつはシン・アスカ。俺と同じ男のIS操縦者だ。シン、こいつは鈴、さっき説明した通りだけどよろしく頼むな」

 

 この殺伐とした空気をどうにかしようと一夏は向かい側に座るシンを鈴の所まで引っ張ってくる。顔面冷や汗だらけになりながらも必死に二人の仲を取り持とうとするその精神にはつくづく感嘆してしまうところである。

 

「……宜しくな、ファン・ヒーター」

「……こっちこそ宜しくね、人間ミラージュコロイド」

 

 お前ら、もうわざとやってんだろう、と周りが思う中、シンと鈴が挨拶と握手を交わす。しかしこいつらがやると、挨拶というより宣戦布告に見えてしまう。というか二人共、笑顔が怖い。箒のときの爽やかな笑顔ではなく、所々青筋が立ってるため余計に怖い。ちなみに鈴の謎のネーミングに突っ込める人物は残念ながらこの場にはいなかった。

 

「あー、えっと、ほら、早く飯食わねえと千冬姉が怒るぞ」

 

 殺伐した空気をどうにかしようとした筈が余計に酷いことになってしまった。とりあえず二人は引き離した方が良いと思った一夏はそう締めくくりシンを席に戻す。今度は先程よりマシになったようだ。

 

「そういえば一夏、アンタ、クラス代表だって?」

「お、おう。成り行きでな」

 

 と、そこで突然話を振られ、一夏は反応が遅れるも返事をする。それに鈴はふーんと相槌を打ちながらラーメンのスープを飲む。

 

「あ、あのさぁ……ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 どこたなく歯切れの悪い様子で鈴は言う。

 

「そりゃ助か……」

 

 そりゃ助かると言いかけた所で箒がテーブルを叩く音が重なる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

 

 そこにセシリアも話に入ってくる。

 

「大体あなたは二組でしょう? 敵の施しは受けませんわ。デタラメなことをうちのクラス代表殿に教えられても困りますし」

 

 これ以上鈴(こいつ)にリードされては溜まらないのか箒は語意を強くして言う。しかし箒に関しては果たして教えていると言うのか、その練習の模様を見ると誰もが思ってしまう。例の擬音だらけの説明は段々酷くなって、一番最初に箒のIS指導を見学したシンに関しては「なんで声でタンホイザーの音が出せるんだよ……」等と言われる始末である。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「関係ありますわ。一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ」

「うるさいわね。一夏のこと対して知らない奴が教える、昔から一夏のことを知っている人が教えた方がよっぽど効率がいいと思うけど」

「そ、それを言うなら私の方がずっと昔からだぞ! それに一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いは深い」

「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」

『な、なんだって!?』

 

 それを聞いた箒やセシリア、そして席に座って話を聞いていた生徒がどこかで聞いたことのある台詞を口にする。

 

「い、一夏! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」

 

 鈴の話を聞いて落ち着いても居られないのか、必死の形相で一夏に詰め寄る箒。

 

「いや、説明も何も……幼なじみでよく鈴の実家の中華料理屋に行ってたってだけだぞ」

 

 そんな箒に対して平然とした表情で一夏は説明する。その説明に鈴が途端に膨れ面になるが、いつもの如く一夏はなんで不機嫌になったのか理解できていないようで、鈴を不思議そうに見る。

 

「な、何? 店なのか?」

 

 店だということが分かってかホッとした女子一同。正直見てて馬鹿馬鹿しい。そう思いシンは残りのカレーを胃に流し込む。

 

「ごっそさん」

「え? お、おい、シン……」

「別に俺がいなくてもいいだろ」

 

 そう言うなり席を立つシン。その瞳は鈴に向けられていた

 

「……何よ」

「……別に」

 

 そう言うシンだが、その目は完全に鈴に対する敵意に溢れていた。それを既に感じながら鈴は余計な一言を口にする。

 

「言いたいことがあるなら言いなさいよ。意気地なし」

「ああっ!?」

 

 途端に怒りをむき出しにして鈴を睨めつけるシン。鈴も負けずにシンをにらめ返す。一夏は少し心配そうな表情でシンと鈴を見るが、二人共そんな一夏に気づくこともなくメンチを切り合う。

 

「お前……昨日から散々突っかかってきやがって!」

「それはこっちの台詞よ! しかも中身は全部同じ、バッカじゃないの?」

「てめっ! 誰がバカだ!? このバカ!」

「バカをバカにして何が悪いのよ! バーカ!」

「バカバカうるせえよ! バカ!」

「バーカ!」

「バカバカバーカ!」

「バカバカバカバカバーカ!」

「バーカバーカ!」

 

「もう勝手にやってろよお前ら……」

『うんうん』

 

 シンと鈴によるバカをバカにするバカをさらにバカにするバカというあまりにレベルの低い言い争いを見て、流石の一夏も呆れて投げやりの言葉を漏らす始末である。箒とセシリア、他の女子達も同意の言葉を漏らす。

 そうしてる間にシンと鈴のしょうもない口喧嘩をBGMに昼の時間は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 放課後、第二アリーナのピットにてデスティニーを展開したシンは機体コンディションを確認するも、その手の動きはいつもと違いどこか荒々しい。原因は言うまでもなく、例の転入生――鈴である。

 

「ったく、あの中国の笹女! 事あるごとに突っかかって来やがって!」

 

 小声でつぶやくシン。苛立ちが手元を狂わせ中空ディスプレイの数値が規定値を超えてしまう。シンはその普段なら行わない様な些細なミスに思わず舌打ちをしながら、数値を修正する。作業を続けながらシンの意識は鈴の事に向かってしまう。

 

「ったくどいつもこいつも……なんだって俺に構うんだよ」

 

 シンには何故一夏達がシンにつきまとうのか分からなかった。セシリアとの試合であれほどの事があったのにも関わらずシンと接しようとする一夏、ズガズガと人の内側に入り込む鈴。そんな二人の存在が鬱陶しく思う一方、どうしてかアカデミー時代の記憶を思い出してしまうのはあの二人――無口だがシンのことを気遣ってくれた少年、赤髪でシン達のムードメーカーであった少女のことが重なるからだろうか。

 

「……馬鹿馬鹿しい」

 

 そこまで思考がいったところでシンは思考を止める。所詮あいつらは赤の他人だ。あの二人ではない。いつの間にか感傷に浸っていたとシンは思いながら、残りの調整を終わらせる。

シンはピットからデスティニーを発進させ、アリーナにその姿を晒す。しかしそこには既に先客がいた。

 

「「あっ」」

 

 その先客――鈴の姿を見るなりシンは露骨に嫌そうな顔をする。無論、向こうも同じ反応である。二人はそのまま互いに相手を睨めつける。どうにもこの二人、仲良くする気はお互いさらさらないようである。

 

「……なんでお前がここにいるんだよ」

 

 暫く続いたその状態、それを先に破ったのはシンであった。鈴はシンの質問に少々間を空けながらぶっきらぼうに答える。

 

「他に空いてるアリーナが空いてなかったのよ。文句ある?」

「なんだよ。一夏なら第三アリーナにいるぜ。そっち行けば良いだろ?」

「っ! うるさいわね! アンタに関係ないでしょ!」

「なんだ? あいつが他の女とイチャついててムカついたりでもしたか?」

「っ!? う、うっさい! 関係ないって言ってんでしょ!」

 

 シンの発言は図星だった様で鈴は顔を赤く染めながらシンをキッと睨めつける。しかしシンはそのような威嚇を意も介さず意地の悪い顔で鈴を見返す。

 

「アンタぁ、いい加減に――」

「『いい加減に』なんだ? 闘ろうって言うなら闘ってやるぜ」

 

 鈴がどんなISを使うかは知らないが頭に血が上ってる状態なら楽勝だろう、そう思っていたシンだが、次に鈴が放った台詞によって自身も血が上がる結果となってしまった。

 

「ふん! そんなポンコツでアタシの『甲龍』とマトモに戦えると思ってるの?」

「……言ってくれるじゃないか」

 

 その身に纏う度に過去の辛い戦いの記憶を思い出させてしまう、今のシンにとって忌々しくもあるこの機体(デスティニー)だが、赤の他人に馬鹿にされて無視できる程安くはない。シンは全身の血が熱く駆け巡るのを感じながら、デスティニーのアロンダイトを展開し握り締める。一方の鈴も巨大な刃が特徴的な二振りの青龍刀――双天牙月を構える。互いに隙を見せることなく硬直した状態が続く。

 しかし、その時は訪れ、シンと鈴は互いの得物をぶつけ合った。

 

「でやぁっ!」

「はぁっ!」

 

 互いに肉迫するなり、それぞれの得物を振り下ろし、シンと鈴の雄叫び、同時にアロンダイトと双天牙月が衝突することで発せられた甲高い金属音がアリーナを支配する。ぶつかると同時に反発作用で両者の剣が弾かれるが、すぐに返す刀で再びシンと鈴は切り結ぶ。続く連撃、しかし状況は鈴に優勢の模様を見せていた。

 

「ちぃっ!」

「さっきの威勢は、どうしたの、よ!」

 

 途切れ途切れになりながらも、形勢が有利になっていることに笑みをこぼした鈴がシンに連続で双天牙月の斬撃を加える。威力の面でいえばシンのデスティニーのパワーとアロンダイトの威力に勝るものはないが、小回りの効く鈴の双天牙月が相手では分が悪い。

 

「大口叩いた割には大した事ないじゃない!」

「調子に……乗るな!」

 

 しかしシンも只で押されてばかりではない。デスティニーのパワーで強引に押し切ると、アロンダイトの代わりに今度は両肩のフラッシュエッジを握り締める。投擲形態にすると本来投擲させる筈のその武装を逆手にナイフの様に持ち、鈴に斬りかかる。ザフトのアカデミー時代で散々鍛えられたナイフ捌きは遺憾無く発揮され、鈴のシールドエネルギーを徐々に削り取っていった。

 

「っ! やるじゃない!」

「そいつはどうも!」

 

 シンはそう返事をしながらも攻撃の手を休めない。そしてフラッシュエッジで双天牙月を弾き無防備になった胴に蹴りを加え、それをサッカーで言うところのオーバーヘッドシュート宜しくシンの後方に向けて蹴り飛ばす。シンはPICを巧みに制御し鈴を蹴り飛ばした方向に体を向けると、ヴォアチュール・リュミエールを稼働、その巨大な紅き翼から虹色に似た光の翼を広げ、無防備な鈴に迫りゆく。その右手はパルマ・フィオキーナの発動を示す光で満たされていた。

 

「喰らえ!」

「っ! まだよ!」

 

 このままパルマ・フィオキーナの一撃を喰らわせ畳み掛けようとするシン。しかし鈴は蹴り飛ばされた中、体の捻りだけで器用に体勢を立て直す。そして甲龍の拡張領域(イコライザ)から展開した武装を右腕に装備する。

 それは巨大な拳であった。鈴の右腕に装備されたのは先端部に四本のマニピュレーターとレンズパーツがついた甲龍の全長の半分程の大きさの巨大な格闘アームユニットであった。そのユニットを装備した鈴は甲龍のスラスターを全開にすると、シンの突撃を回避するのではなく逆にシンに向かって加速していくのであった。それを認めたシンは鈴の意図――デスティニーのパルマ・フィオキーナと同じ特殊格闘武装による突貫攻撃――に気づく。

(だったら先に叩きつける!)

一瞬で判断するや否や、右腕を突き出すシン。シンと鈴、どちらも避けることなく一直線に突き進む。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 二人が同時に叫ぶのと、二人の得物がぶつかり合ったのは同時であった。パルマ・フィオキーナのゼロ距離ビームとレンズパーツから放たれるエネルギー波が干渉し、その余波によってデスティニーと甲龍のシールドエネルギーを徐々に削っていく。

 

「ぐぅぅぅぅ!」

「ぐぁぁぁぁ!」

 

その余波は操縦者にも少なからずのダメージを与え、シンと鈴は苦悶の呻きを上げる。しかし二人の瞳から闘志の炎が消えることはなく、そのまま膠着状態が続いていく。デスティニーと甲龍、どちらかのシールドエネルギーが尽きるのが先か、それともシンと鈴、どちらかの体力が尽きるのが先か。両者の間の衝撃によって生じた光の輝きがいよいよ強くなろうとした

 

 

 

その時、デスティニーの胸部クリスタルが一瞬強い光を放った。

 

 

 

 それにシンと鈴が気づいた時、二人は突然生じた衝撃によって弾かれる様に引き離され、シンはアリーナの強固な隔壁に、鈴は地面に叩きつけられた。

 一瞬意識が消えかける。脳が衝撃によって頭蓋の中でシェイクされる。薄れゆく意識を掴み取ったシンは悲鳴を上げる体を強靭な意志で抑え付ける。視線を鈴に向けハイパーセンサーをどうにか機能させると、鈴の方は完全に気絶してしまった様である。一応はシンの勝利であるこの戦い、しかし今のシンにその様なことを考える余裕は無かった。

 

「……今のは一体……」

 

 それを言うのが精一杯であった。次の瞬間シンはうつ伏せに倒れ、意識を手放してしまう。消えゆく意識の中、シンはエネルギー切れによって待機状態に戻ったデスティニーを目に入れる。

 

「くそ……」

 

 それが何に対してなのか、それは誰にもわからず、事切れたシンの口から何も聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 その後二人は事態に気づいた教師達によって保健室に連れて行かれ、事情徴収と精密検査を受けた後部屋に戻された。デスティニーと甲龍は先の謎の衝撃波によって内部ダメージが大きく数日の間使用が出来ない状態となってしまった。

 それから数日後、その間にも様々な出来事があった中、生徒玄関前廊下にはクラス対抗戦の日程を記した紙が張ってあった。そこにはこう書かれていた。

 

一回戦、一年一組織斑一夏 対 一年二組鳳鈴音

 

と。

 

 

 

 

 その頃、とある国にあるそう大きくもない軍事工廠、そこの一角にある倉庫で明らかにこんな田舎の軍事工廠に必要とは思えない程の人数の整備士達がそこにあったとある兵器を組み上げていた。

 その兵器は一見するとISに見えなくもないが、確実に違うカテゴリーに入る機体だ。その全身に取り付けられた装甲から全身装甲型のISに見えるが、ISなら本来存在するはずの操縦者が搭乗するスペースが存在しない。

この謎の機体は一体なんなのか。その答えは、直に分かることである。

 

「おーい、今日はもう終わりだ。早いとこ引き上げて帰るぞー」

 

 その整備士の一団に近づく年配の整備士が声をかけ、それを聞いた整備士達は一旦手を止め、汗を拭きながら一度ソレから離れる。ソレの作業を始めてからかれこれ数時間、ちょうど彼らもそろそろ体を休めたいところであった。

 

「そっちの調子はどうだ?」

「おう。このペースなら予定より早く出来上がりそうだ」

「そうかー。ま、今日は雨だ。早くしねえと店が閉まって呑みっぱぐれちまうわ」

 

 そのままお互いに今日あったことやこれから行く飲み屋の話をしながら整備士達はその倉庫を出ていき、倉庫の中は静かになる。その中、倉庫内に置かれた機体の一機――他の機体と比べて大分すっきりしたフォルムの機体――がその光を灯していない黄色いツインアイを一瞬禍々しく赤く光らすのであった。

 

 

 

 

 クラス対抗戦。そこで物語は動き出す。狂狂(くるくる)、狂狂(くるくる)と。




どうも。パクロスです。今日第二次スパロボOGの発売日だなぁ、思うこのごろのパクロスです。

やっと発売ですね。延期になって一年後の発売です。その分限定版のボリュームは凄まじいの一言ですね。『ジ・インスペクター(TI)』のBD付属(イエーイ)、電撃スパロボ付属(イエーイ)と至れつくせり、最高です。『TI』はスタッフによる修正が相当細かいですからね、もう『TI』は恵まれた作品ですよね~。

今回はメインヒロインの鈴ちゃん本格登場、そして開始そうそうシンとのバカ喧嘩……一気に今までの欝展開が崩れたなぁ、と思いました。ここから段々明るいムードにしておこうと思います。

今回最大の修正点のシン対鈴、当初は一夏と箒とセシリアのタッグ戦だったのですが、今思うと今のシンでタッグ戦とかまずやりたがらないなぁ、と思い鈴戦にしました。最後にデスティニーが発動した謎に力、それはこの作品の重要なキーワードと言っても過言ではないですね。詳細はまだ出せませんがお楽しみに。

最後に登場した謎の兵器、その正体は初めて読む人なら多分予想外な組み合わせだと思います。それは次回に早くも登場、そしてえらい超✩展✩開(遊戯王風にしてみた)になるのでお楽しみに。

何か修正しとくべき点とかありましたら是非宜しくお願いします。ではまた次回。そんなに時間はかからないと思いますよ~。

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