IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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昨日はダラダラ過ごしていた。

けどこの体の奥からの飢えと乾きは一体なんなのだろうか。

神は俺に一体何を求めているのだろうか。

まあ要はやることがないなら勉強しろって感じだよねぇ。

そんな感じでダラッと行きます。


PHASE-02:クラス代表決定戦前日談

「う~、まるで意味が分からん......。何でこんなにややこしいんだ?」

「ややこしいんじゃなくてお前の頭がどうしようもないだけだろう」

「む~」

 

 シンに反撃の言葉を入れられ、一夏は思わずうなだれる。

 時刻は放課後、多くの生徒が寮に戻る中シンは一夏と共に教室に残り、ISのことを一夏に教えていた。しかし成果は今の所まだ表れていないようだ。そんなこんなで時間が流れていくと二人だけしかいなかった教室に真耶が入ってきた。手には何かの書類を持っている。

 

「あ、織斑君。まだ教室にいたんですね」

「ん? 山田先生。何か用ですか?」

「ああ、はい。織斑君の寮の部屋が決まりましたので」

 

 真耶はそういって書類の中から一枚の紙、服のポケットから鍵を取り出して一夏に渡す。紙の方には部屋番号が書かれていた。

 IS学園は貴重なIS操縦者になりうる生徒を育成する為の教育機関である。その為、IS学園は生徒の保護の為に全寮制を取っている。さらにシンと一夏の場合世界で二人だけの男性IS操縦者のため保護の他に監視の意味も加わってくる。

 

「夕食は6時から7時まで、寮にある一年生用食堂でとって下さい。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年毎に使える時間が違いますけど......えっと、その、織斑君とアスカ君は今の所使えません」

「え、なんでですか?」

 

 真耶の説明を聞いて最後の所で風呂大好き一夏が文句を言う。少し考えれば分かる話なのだが、一夏は全く理解できていない様である。

 

「バーカ。同年代の女子と風呂に入りたいのか?」

「あっ......」

 

 シンの思っていたことを代弁するかの様に千冬が言う。そしてやっと気づく一夏。姉弟と言っても似ないものだとシンはついつい思った。

 

「お、織斑君、女子とお風呂に入りたいですか!? だ、ダメですよ! あ、アスカ君もですよ!」

 

 とそこで真に受けた真耶が頬を赤らめながら言い始め、段々話が変な方向に行き始めだした。

 

「いや、流石に入りたくないですから」

「てか俺、そんなこと一言も言ってませんから」

 

 一夏とシンが同時に否定するが、何を勘違いしたか、真耶がブツブツと色々危ない発言を始め出す。

 

「ええ!? 女の子に興味ないんですか!? もしやアスカ君と......」

「いや、何でそこでそうなるですか!?」

 

 問題発言をぶちかます真耶にシンは思わずツッコミを入れてしまう。ふと周囲に注意を払うと休み時間の時にも聞こえた色々腐った発言が聞こえてくる。とりあえずこの混沌とした(カオスな)空間に誰か修正を入れてくれと折に願うシンだった。なんだったら鉄拳つきでもいい。でも精神崩壊とかカンベンな。

 

「えっと、それじゃあ私達はこれから会議があるので、これで。織斑君、アスカ君、道草喰わないでちゃんと寮に帰るんですよ」

 

 場の空気も落ち着き真耶もいつもの状態に戻り、最後にその言葉を残して千冬と共に教室を出て行った。

 

「じゃあ俺達も帰るか」

「ああ。所でシン......」

「ん?」

 

 教室を出てさっさと寮に行こうとしたシンは急に一夏に呼び止められた。

 

「? 何だ?」

「......さっきの三時間目のことだけど」

「っ!!」

「その......大丈夫か、お前?」

 

 おそらく一夏は先程のシンを見て心配だったのだろう。シンの過去に何があったか一夏は知らない。しかし家族のことを馬鹿にされてあそこまで怒ったのだ。余程辛い過去があるのは明らかだ。自身も似たような境遇である一夏は余計にそんなシンが心配であった。

 

「......いや、大丈夫だ」

「そうか......でも何かあったら言ってくれよ。俺達、もう友達だろ?」

「っ!」

 

 一夏のその言葉にシンの心は一瞬揺さぶられる。友達、なんと甘く思わず受け入れてしまいたくなる言葉だろうか。今の、未知なる世界に跳ばされ孤独の中に生きるシンにとっては特に、である。

 

「……じゃあな」

 

 しかしその様な心情と裏腹にシンはぶっきらぼうに返し拒絶すると、そのまま教室を出る。友達、その言葉はシンには、全てを失ったシンには、受け入れたい言葉である反面、失うことの恐怖からか、拒絶したい言葉でもあった。

 

 

 

 

 その後一夏と別れ、シンは自分の部屋である個室の1067号室に入っていった。IS学園はその立場上多国籍の生徒を無条件で入れなければいけない義務がある。そして国柄によって生活習慣の違う生徒もいるため、学生寮にはこのようにいくらか一人用の個室が存在するのである。

 鍵を開け、部屋に入ると職員寮から引っ越した二日前とあまり変わってない部屋が目に入った。最も二日前と変わらないと言っても、荷解が終わって空になった段ボールや微妙にシワのよったシーツなどの違いはあるが。

 部屋に入ったシンは上着を脱いで、ひとまずベッドに倒れ込む。

 

「ふう……」

 

 ベッドに倒れ一息つき、しばらくそのままの状態で体を休める。その間シンは今日一日の間に起きたことを振り返る。その中には三時間目の騒ぎも含まれる。

 

「............」

 

 そのことを思い出し、シンは物思いに耽る。あの時、俺は何をやっていたんだろうか。俺はアイツ――セシリアに父さん、母さん、マユのことを馬鹿にされて、そして

 ふと、シンは自分の手を眺め、握り締める。すぐにそれはザフトに入って鍛え上げた力強い拳になった。それを見て、シンは自分に問いかける。

 

――俺は......何のために力を手にしたんだろうな――

 

 その時シンの脳裏にレクイエムでの戦いのときのアスランとの会話が流れる。

 

――お前が欲しかったのは 本当にそんな『力』か!?――

 

――できるようになったのはこんなことばかりだ……――

 

「......ホント、できるようになったのはこんなことばかりだな」

 

 シンはポツンとそう呟き、胸元にあるデスティニーの待機形態――ひび割れたフェイスバッジに手を伸ばす。初めてこの待機形態のデスティニーを見た時、思わず何の当てつけかと思ってしまった。そのひび割れた姿はまるで信念を砕かれた自分をやじっているようにも感じられる。この世界に来て、初めてISになったデスティニーに触れた時、シンはこの世界に自分が守りたいものがあるなら、と言った。しかし早1ヶ月が過ぎ、未だそんなものを見つけられていない。たった一か月で、と思うだろうがそれでも見つけられないことにシンは僅かばかりの焦燥を抱き始めていた。

 

「もう......俺には......守るものなんて無いのかな......」

 

 それは諦めの言葉であった。そう言いたくなるには十分過ぎるほど、シンは世界に、現実に裏切られ続けてきた。

 懐からシンはC.E.の世界から持ってきたもう一つの向こうの世界をつなぐもの――マユの携帯に手を伸ばした。携帯を開き、手慣れた動作でボタンを押し、いつものあの声を聞く。

 

『はい、マユでーす! でもごめんなさい、今マユははお話しできませーん。あとで連絡しますので......』

 

「マユ......おれはここで何をすればいいのかなあ......何のためにこの力を使えばいいのかなあ......」

 

 シンはマユの携帯に問いかけるも当然物言わぬ携帯から何も聞こえてこない。しばらくしてこの沈んだ気分を紛らわそうとシャワーを浴びにシャワー室に入る。1日の疲れとわずかな汗を温水で流れ落とし、シャワー室から出て体を拭いていく時、胸のある一点に目がいった。

 

「痣......まだ消えないな......」

 

 シンの目線の先――ちょうど心臓がある場所には緑色の奇妙な痣があった。この痣はこの世界に来た時の衝撃で他の傷と一緒についたものだろうと医者は言ったが、1ヶ月経って他の傷は完治したのにこのあざだけは未だはっきりと残っているのである。

 

「気にしても仕方ないか」

 

 考えた所で消える訳ではない。そう割り切り、下はジャージ、上はタンクトップに着替え、部屋に戻る。これから何をしようかとしばらく考えていると、以前日用品を買いに行ったときに一緒に買った携帯電話から着信音が流れる。

 

「? 誰だ?」

 

 シンはそう呟き相手の名前を確認すると、先日知り合った向こうの世界では友人だった人間の名前が出ていた。無視するのも何なので取りあえず電話に出る。

 

「もしも『おうおうおう! 何だその返事は!? 女に囲まれたハーレム生活で調子に乗ってんのかシン!? チクショオオオオオオオオ!!!!』......ヨウラン、うるさい」

 

 ......訂正。やはり無視すれば良かった。向こうの世界では友人だった少年、ヨウラン・ケントの心の叫びのようなものを聞いてシンは後悔した。

 

『うるさいとは何だ!! うるさいとは!! うるさいとは何だ!! 大事なことなので二回言いました!!(キリッ)』

「......切るぞー」

『ああ、ちょっ、切らないで! お願いだから切らないで!』

「何しに電話かけてきたんだよ、お前......」

 

 向こうの世界とは性格が大分酷い方向にグレードアップしているこの世界のヨウランにシンは思わず脱力しかけた。というか世界が違うとこうも違うものだとしみじみ思ってしまう。

 

「で、何の用なんだ? それだけだけで電話かけてきたんじゃないだろ」

『まあな。お前の機体のことでな。所でシン......』

「......何だ?」

 

 正直嫌な予感しかしてこない。

 

『女湯はもう覗きま「死ね。地獄に堕ちろ」あふん』

 

 予感的中。そんなアホなやり取りに見かねたか、受話器から別の声が割り込んできた。

 

『(ガンッ)もしもし、シン? 元気してる?』

「ん? ヴィーノか。所で今の音何だ?」

『え? ああ、スパナでヨウランをブッ叩いた音』

「......さいですか」

 

 相変わらず容赦ないな、とシンは思ったが口にしない。口にしたら今度はこちらがスパナ餌食になるのは確実だ。この世界におけるヴィーノ・デュプレというのは向こうの世界のヴィーノより大人しめな少年だが、何かしらあるとスパナやら何やらで『ブッ叩いてくる』ので千冬に次いでシンが言動に気をつけている少年である。

 ヨウラン・ケント、ヴィーノ・デュプレ、向こう側の世界ではミネルバの整備スタッフであった二人だが、この世界では国際IS委員会のIS整備スタッフをしていて、デスティニー開発チームが結成された時にスタッフの一員として組み込まれた。デスティニー開発チームのスタッフと顔合わせした時、この二人を見てシンは驚いたものである。何せ向こうの世界でもシンの機体の整備をしていた彼らが、よもやこの世界でもシンのISの整備をしているのだから。

 

「で、どうしたんだ? そこのヨウラン(バカ)が言おうとしてたけど。俺のデスティニーがどうしたんだ?」

『うん。マッドの大将が言ってたんだけど、デスティニーの後付武装(イコライザ)どうするかって? いるんだったらコートニーさんと一緒に話がしたいって』

「後付武装か......」

 

 マッド・エイプスとコートニー・ヒエロニムスという向こうの世界では世話になった人物の名前を聞きながら、シンはどうするか少し考える。デスティニーは基本全領域に対応可能な機体で、現状でも十分問題ない戦闘力を持つが、攻撃のバリエーションは多い方がいい。それに搭載量によって機動性が変化するMSと違いISは拡張領域(バスロット)の存在によって機動力の妨げにはならない。それに先日デスティニーを解析した際に発覚したMSデスティニーとISデスティニーの最大の違いであり問題点を鑑みれば、自然と必要なものは絞られる。

 

「実弾系の武装が欲しいな」

『実弾系?』

「ああ。コートニーさんとマッドのおっさんに頼めるか?」

『うん、問題ないよ。時間の空いてる時に向こうから連絡くれると思うから』

 

 取りあえずこちらの要望は通りそうだ。シンは頭の中で今後のデスティニーの運用について考える傍ら、ヴィーノの返事に満足する。

 

「ああ、分かった。用はそれだけか?」

『うん、それだけだよ』

「そっか......じゃあそっちも頑張れよ」

『シンこそ頑張りなよ。ISの訓練って大変そうだし』

「そうだ『今度こっち来た時お土産で女子の下着をあ、ちょっと、ごめんなさいごめんなさアーーーッ!!』............」

 

  ............妙な声と音が聞こえたが聞かなかったことにしよう。そのまま二つ三つ雑談をしてシンは電話を切った。再び静かになった自室で何をしようか考えた。

 

「......寝るか」

 

 しかし、段々と押し寄せる眠気に勝てそうにないので寝ることにした。眠気を無理やり追い払って食堂で夕食を食べても良かったが、またあの女子の視線に晒されるのは勘弁願いたい。寝る前に以前買ったインスタントラーメンを食べ小腹を満たし、疲れたからかベッドに入るなり深い眠りに入っていくシンであった。

 

............どこからか木刀で頭を叩く音ともう一人の男子の悲鳴が聞こえたが気にしないでおこう。

 

 

 

 

 目覚ましのアラーム音が耳に入り、シンは意識が覚醒してきたのを自覚する。まだ眠いと言わんばかりに重たげな瞼を何とかこじ開け起き上がる。時刻をみれば、6:12であった。朦朧とする意識の中、マグカップにインスタントのコーヒー粉末を入れ、電気ケトルで沸かしたお湯を入れる。少し時間が経って飲める温度にまで冷えたコーヒーを口に流し込む。喉に伝わる熱いコーヒーとカフェインでシンは意識がはっきりとしてきた。そのあと顔を洗い、ボサボサの髪を溶かし――それでも大分跳ねているが――制服に着替える頃にはシンは完全に目が覚めていた。

 そして部屋から出て、朝食を食べに食堂に行く。やはりインスタントラーメンでは腹は満たせなかったか、シンの胃袋は食べ物をよこせと抗議の音を出している。食堂に着いて、シンは洋食セットを注文。席を探そうと周りを見渡すと、一夏と何やら不機嫌そうな表情の篠ノ之箒が見える。

 

「ん? シンか。おはよう」

「ああ、おはよう」

「............」

 

 遅れて一夏もシンの姿を見つけ挨拶し、シンは返事を返す。箒は相変わらず不機嫌そうで返事をしない。取りあえず席が空いてる様なので一夏の向かい側の席に座る。

 

「なあ、箒「名前で呼ぶな」......篠ノ之さん」

「............」

 

 その二人の妙にぎくしゃくした会話を見てシンは少し疑問に思う。取りあえず何があったか聞こうと向かい側の席の一夏の顔を引き寄せる。

 

「なあ、昨日何かあったのか?」

「いやぁ、それがな......ってイテテテテテテッ!!!!」

「......余計なこと言っていないでさっさと食え」

 

 一夏は昨日何があったか話そうとするがその前に箒が一夏の頭を掴むとものすごい力で締め付けだす。手の握力だけで一夏の後頭部からもの凄い音を立てながら箒が静かに言う。静かに言ってるが、内心では噴火寸前の火山のごとく煮えたぎっていることだろう。

 その箒を見て触らぬ神に祟りなしと思いながらシンは朝食にありつく。腹に食べ物が溜まる感じがして、人心地ついた気分になる。

 

「おーい、オリムー、隣いいかいー?」

「お、オリムー?」

 

 突然変な名前で呼ばれた一夏は素っ頓狂な声を出す。声の元を辿るとそこには三人の女子が立っていた。そして一夏に話しかけた人物はというと昨日シンに謎の渾名をつけた布仏本音だ。

 

「そーだよー。織斑だからオリムー。ねー、オリムー、隣いいー?」

「あ、ああ、別にいいけど。シンも箒もいいか?」

「別にいいよ」

「私は構わん」

 

 一夏とシン、箒から了承の言葉を貰い、本音はやったーと喜びながら早々席に着く。しかし後の二人はためらうかの様に席に着こうとしない。

 

「? 座らないのか?」

「え、えっと……」

「私達は……」

 

座ろうとしない二人を見て一夏が不思議そうに尋ねるが、各々曖昧な返事を返す。その視線はシンに向いていた。それに気付いたシンはああ、と心の中で納得の言葉を漏らす。昨日あのようなことがあったのだ。そんな反応をしても仕方がないだろう。

 

「……ごちそう様」

「え? シン? まだ全然食べてないだろう?」

「食欲がないんだよ」

 

 適当に一夏をあしらいながらシンは席を立つ。実際トレイの中の食事は半分も食べきれていなかったが、あんな目で見られたら食欲も失せるものである。そのままシンはトレイを下げに一夏達の座るテーブルを後にした。

 

 

……シンが席を去った時の二人のほっとした表情が何となく心にぽっかりと穴をあけられた気分であった。

 

 

 

 

 

「織斑、お前のISだが準備に時間がかかる」

「へ?」

 

 時刻は四時間目の始め、未だに授業についてこれずにチンプンカンプンな様子の一夏に千冬が唐突に告げた。

 

「予備機がない。だから少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

「?」

 

 千冬が続けて説明し周囲の女子たちがざめきだすが、話の中心の一夏は理解できていないようだ。

 

「はあ......教科書6ページ、音読しろ」

「は、はい! えーと......」

 

 そんな一夏に見かねて、千冬が教科書の音読を指示する。

 ここでISに関する細かい説明をすると、ISにはコアと呼ばれるパーツが存在し、これがISの中枢を担っている。このコアは現在ISの生みの親である篠ノ之束が作ったものしかなく、またコア内部は完全なブラックボックス化している為複製も不可能。世界でISは全部で467機しかないという状態である。数が限られていることもあり各国家・企業・組織・機関が保有するコアの数を規定したアラスカ条約があり、またそのアラスカ条約に乗っ取って国家のIS保有数や動きを監視する為の機関、国際IS委員会が設立されたのである。

 

「本来ならIS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられていない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

「い、一応......」

 

 早い話がモルモットである。まあ、政府やら何やらが事実をもみ消して非人道的な人体実験をするよりはマシな方である。ちなみにシンの場合、異世界から来たとはいえ身元不明の不振人物に変わりはないので危うく人体実験の被験体になりかけたが、現在のシンの所属する国際IS委員会開発課の最高責任者が擁護してくれたので何とかその危険は免れたのである。最も「未知の技術の塊であるデスティニーの解析」が理由だということらしいが、何にしてもありがたいことに変わりはない。

 

「あれ? じゃあシンも専用機あるのか?」

「ああ」

 

 シンはそう答え、胸元の待機形態のデスティニーを見せる。

 

「へ? ISってそんなちっこいのが?」

「これは待機形態ってやつ。専用機はこんな感じで持ち運びしやすいようになってんだ」

「へー」

 

 一夏の疑問にシンが説明し、それに納得する。

 

「あの、織斑先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんですか......?」

 

 篠ノ之の名を聞いてクラスの女子が千冬に質問する。確かにIS業界では有名人と同じ名字なのだ。疑問に感じない訳がない。

 

「そうだ。篠ノ之はアイツの妹だ」

 

 それに千冬はアッサリと答えてしまう。個人情報などどこ吹く風だ。まあそんなことを言っても「それがどうした?」で切り捨てられるのは確実だろう。このクラスにIS業界の有名人の身内がいることに一同は大いにざわめきだす。しかし......

 

「あの人は関係ない!」

 

 突然箒が大声で遮り一瞬クラスが静かになる。

 

「......大声を出してすまない。だが私はあの人じゃない。教えられることは何もない」

 

 そう言って箒は顔を窓の外へ背けてしまう。

(だから名前で呼んでほしいって言ったんだ)

その中でシンは昨日感じた疑問と妙な違和感の理由が分かり納得した。有名人の身内を持つことがどういうことかシンはよく分からないが、少なくともそれで良い目を見たというのはなさそうである。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」

「は、はい!」

 

 何ともいえない空気を千冬が消し去り、真耶に号令を促す。それにはっとなって慌てて準備を始める一組一同であった。

 

 

 

 

「なあ、シン。飯食いにいこうぜ」

「……いい」

 

 午前の授業が終わり今は昼の時間。一夏はシンと昼食を食べようと声をかける。しかし当のシンはあまり乗り気でない様な表情で断る。

 午前中の間でもクラスの間には奇妙な緊張感が漂っていた。それは昨日のシンとセシリアのやりとり――特にシンのあの行動が原因なのは明らかである。これが只の少年と少女のどこでもある様な喧嘩なら特に何もないだろう。しかし、あの時のシンから発せられたのは一度も感じたことのない彼女たちでも分かるぐらいの強烈な殺気。それが彼女達に緊張、そしてシンに対する警戒心を持たせているのだろう。

 

「えぇ? 別にいいだろ? 飯ぐらい」

「……はあ」

 

 しかしそのことに気付いていないのか、一夏は不思議そうな顔をする。それを見てシンは思わずため息をつく。つくづくこの男、鈍いものである。

 

「いいって言ってんだろ。じゃあな」

「あ、おい! シン!」

 

 一夏が止めようとするもの席を立ち教室を出るシン。そのままシンは姿をくらましたのであった。

 

 

 

 

 教室を出てから数分後、購買で買ったパンを持ったシンは屋上に来ていた。ドアを開けた途端屋上からの風がシンの顔を優しく撫でる。辺りを見渡すとどうやら誰も来ていないようだ。シンは手すりの所まで行くとそこに腕を乗せ、快晴な青空に目を向ける。雲1つない綺麗な青空にクラスの女子からの微妙な視線でやや滅入り気味だったシンの気分はいくら良くなる。誰もいない今の内に食事を済まそうとシンは思い、パンの入った袋に手をかける。

 

「お、ここにいたか。シン」

「……何でピンポイントでここにくるんだよ」

 

 しかし、同じく購買で買った弁当を持って屋上に来た一夏と箒が現れるのを見て、シンは思わずげんなりする。どうやら神様はシンに安息の時間を与える気はない様である。

 

「まあまあ、そう嫌な顔するなよ」

「……ふん」

 

 そのままシンの向かい側に遠慮なく座る一夏を見て、鼻息を荒くして返すシン。

 

「おい、一夏! さっきも言ったが私は……」

「私は何だよ? 箒? 放ってたらお前いつも一人の癖に」

「む……」

 

 箒はここに来るまでに何かあったのか一夏に文句を言おうとするが、先に一夏に言い返され何も言えずじまいになる。と、一夏は今度はシンにも言い出してくる。

 

「大体シンもだぞ。お前ら、少しは皆と仲良くしようとかそういう努力をしろよ。一人ぼっちなんてつまらないだけだぞ」

「……あ、そ」

「……余計なお世話だ」

 

 一夏の強情な台詞にシンと箒もひねた返事で返す。それに一夏は「全く……」と言葉を漏らす。

 何はともあれ食事に入るが、食べ始めてすぐにシンが箒に声をかける。

 

「……箒。頼みたいことがあるんだけど」

「……なんだ?」

 

 この『……』が多い会話、どうにかならないか、と一夏が思う中、シンが箒に突然変わった提案をしてくる。

 

「俺の代わりに一夏にISのこと教えてやってくれない?」

「何!?」

「へ? シン?」

 

 シンのその突然の提案に箒が食いつき、一夏が困惑の声を出す。

 

「お前ら部屋が同じみたいだし、幼なじみだし教えやすいだろ」

「そ、それはそうだが......」

「それに俺はISの訓練したいし。あの縦巻きロールには負けたくないし」

 

 それに今はあまり誰とも関わりたくないし、と心の中でシンは呟くが、流石にこれは口に出さない。今のシンとしては人とあまり関わりたくない気持ちであるが、人として生きている以上人との関わりが必要となる、またそのようなことを口にして人を不快にしてしまうことぐらい理解している。

 

「いや、でも千冬姉にバレたら......」

「............」

 

 千冬の名前を聞いて急に黙り込むシン。微妙に脂汗が流れる。千冬と出会って約一か月。これだけの時間が経てば、千冬の言うことに逆らうことの恐ろしさというものが分かるものである。

 

「......箒、ちょっと」

「?」

 

 いくばくかの沈黙の後シンが箒を手招きする。何かと思い、箒は顔を近づける。

 

「なんだシ「いいのか? せっかくの一夏ともっと仲良くなれるチャンス逃して?」!?」

「ここは女でいっぱいだからな~、他の女に一夏を取られるかもしれないぞ~?」

「..................」

 

 シンの言葉に真剣な顔で考え出す箒。今彼女の脳内で一夏と二人だけの時間と千冬にばれた時のリスクが天秤にかけられているのだろう。最も一夏と二人だけの時間という誘惑に勝てる箒ではなかった。

 

「よし、いいだろう!! 私が一夏の面倒をみてやろう!!」

「はいはい。ありがとな、箒」

「え? いいの? それでいいの?」

「本人がやりたいんだ。別にいいだろう。と言うわけで箒、後は頼む」

 

 若干面倒事を箒に押し付けた気もしなくはないが、箒自身それで満足してるから問題ないだろう。

 かくして一夏のISに関することは箒が教えることになった。

 

 

 

 

  夕日が今にも沈もうとする時刻、剣道場から出る人影が二つあった。

 

「全く、よくあそこまで腕が落ちたものだな」

「............返す言葉が有りません」

 

 一夏と箒は各々言いながら自室に戻ろうとしていた。 昼食時に何だかんだでシンに一夏にISを教える役を押しつけられた箒は内心嬉しい ながらも気を引きしめ、とりあえず、一夏に剣道の稽古をしていたのだが結果は一夏の表情を見る限りは一目瞭然である。

 

「まさか三年も剣を握っていないとはな。お前の剣に対する想いはその程度だったのか?」

「そう言う訳では......」

「言い訳をするな」

「............」

 

 箒の一言で黙殺される一夏。これで何故かISを教えてもらう筈が剣道の稽古になったのだからたまったものではない。

 そうしてる内に来週のクラス代表決定戦を行う第二ISアリーナの近くを歩いていた。

 

「あ、箒。ISアリーナ見に行かないか?」

「......」

「いや、ほらな、一応対戦する場所がどんな所か見ておきたいしな」

「......いいだろう」

 

 静かに箒が答え、一夏はそれにほっとする。完全に尻にしかれてる亭主の様である。

 そして二人共第二ISアリーナに入ったが、何やら激しい音が聞こえてくる。

 

「む、あれは............」

「シンか?」

 

 そこにはすでに先客――デスティニーを展開したシンがいた。

 

 

 

 

(これで三機目......)

そう呟き、シンは更にターゲットドローンを落とそうとハイパーセンサーを使って身近にいるドローンを探す。

 

――警告、6時方向にドローン2、攻撃体制に移行中――

 

 デスティニーのハイパーセンサーが背後のドローンの存在を知らせる。ならば、撃たれる前に撃つ!

一瞬の間にシンは判断し、後ろに振り返ると同時にフラッシュエッジを投擲する。投げ出されたフラッシュエッジが一機を切り裂き、そこからシンの操作で軌道が変わり、残りの一機も続けて切り裂く。さらフラッシュエッジを投げ飛ばしたと同時にシンも動き、ビームライフル、肩部CIWSを連射し別方向から来たドローン数機を蜂の巣にする。ここまでで倒したドローンは9機、掛かった時間は45秒。

(まだだ、もっといける筈だ。もっと速く、もっと多くの敵を......)

そうシンが思うと同時にドローンが7機、横並びに現れる。それにシンは高エネルギー長射程ビーム砲を展開。リアアーマーに現れたサブジェネレーター、そこから伸びたアームと身の丈に匹敵する大きさのビーム砲が目を引く。エネルギーの充填が完了すると同時にトリガーを引き、高出力のビームが空間を走る。それをもろに浴びたドローンが瞬く間に消え去り、残ったドローンがビームから逃れようとするが、シンが強引に砲身を横に動かしドローンが巻き込まれる。

 これで16機。所要時間は1分9秒。

 

「まだだ......!」

 

 シンの声が段々はっきりと聞こえてくる。

 

――前方にドローン6機、突撃体制に移行――

 

デスティニーが状況を知らせ、その通りにドローン6機がシンに向けて突っ込んでくる。

 

「もっと速く......!」

 

 シンは高エネルギー長射程ビーム砲を収納すると同時にアロンダイトを展開、さらに非固定浮遊部位のウィングを広げ、 ヴォワチュール・リュミエー ルを始動、ウィングスラスターから光の翼が放たれる。

 

「もっと強く!」

 

そしてそのままドローンへ突っ込む。デスティニーを纏ったシンとドローンが一瞬交錯し、次の瞬間ドローンが一斉に切り裂かれた。

 そのドローンが最後だったか、アリーナに電子音が響き渡る。そしてスコアを見てみれば、

 

――撃墜ドローン22機、タイムスコア1:34――

 

と表示された。

(まだだな。もっと短い時間でやらないと。この程度の相手............フリーダムなら......)

シンは向こうの世界の仇敵、フリーダムを頭に思い浮かべる。宇宙でフリーダムはこんな訓練ドローンよりも強いザフトのザクやグフ22機とナスカ級三隻を相手にたった2分で倒したのだ。フリーダムならこの程度のドローン、30秒もかからずに倒してしまうだろう。

 

「もっと強くならなくちゃ......」

 

 シンはそう呟き、今回の反省をしようと更衣室に戻っていった。

 

 

 

 

 そのシンの戦いぶりを一夏と箒は驚きの眼差しで見ていた。あんなに淀みなく敵を撃ち、敵を斬る。力任せにも見えるその動作の一つ一つが洗練されてるように見えた。そう、まるで実際に戦場を駆け、そこで鍛え上げてきたかの様に。

 

「す、すげえ......」

 

 それを見て、一夏が言えた言葉はそれだけだった。しかし同時にそれがシンの強さを物語っていた。

 しかし、シンの戦い方には何か大切なものが抜けてるように一夏達は感じた。そしてそれが無いため、シンはただがむしゃらに敵を倒している様にも。

 しばらくして一夏は箒に問いかける。

 

「......なあ、箒」

「なんだ?」

「俺......強くなれるかな?」

「......」

「強くなって......箒や千冬姉を......皆を守れる様になれるかな?」

「......なれるさ、お前なら」

 

 

 

 

 そして数日後、クラス代表決定戦の日がやってきた。

 

 

 同時に資格の因子を持つ者は怒れ

 

 逆鱗に触れた者は厄災を受け

 

 人はそれに恐れを抱く。




どうも。パクロスです。プリンタの調子が悪くて困ってるパクロスです。

何が悪いかっていうと印刷するとき紙の真ん中に謎の皺が出来るんですよね。これどうしよ……。

今回はクラス代表決定戦……の前日談です。ストレートに決定戦やれって?すいません。でもこういうの書きたかったんで。次回は決定戦ですので。

で、感想としましては……あれ?特にないな?う~ん、困った。……次回に続く!(←逃げる男パクロス)

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