IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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最近メカの設定で悩んでる時、こんな囁きが頭に響いとります。
『メカの設定が思いつかない?だったらリリなのからもってくりゃいいじゃない』
魔法少女と銘打っときながらそんじょそこらのロボットものよりメカメカしいとこれいかに。
PHASE-13:友の叫びは世界を貫きし時、始まるぜよ。


軽いネタバレ
盟主王と変態仮面がログインしました。



PHASE-13:友の叫びが世界を貫きし時

 中華人民共和国、世界一の人口と広大な大地、そして三千年という古い歴史を持つ巨大なこの国にある広大な砂の世界、ゴビ砂漠。灼熱の大地であるその砂漠の砂山の一つに反IS組織『龍の尾(ドラゴン・テール)』の本拠地はあった。

旧大戦の折劣勢に立たされた中国軍が隠れ家として建設した強固なシュルターを再利用、各支部との連絡のための通信設備や武器弾薬庫を備えたこの地下施設は『龍の尾(ドラゴン・テール)』の司令部として機能し、いかなる軍・組織も地下にある彼らの本拠地を探すことが出来ず、彼らの勢力を着々と強大なものにしていった。今やこの地下施設には数十機ものMGが隠されており、要塞と化していた。

 その数年に渡ってその位置を知られる事のなかった『龍の尾』の本部地下施設は今、戦闘の炎に包まれていた。否、これはもう戦闘ではない。一方的な殺戮である。

 

「くそっ! 何だってこんなことに……」

「出せるMG全部持って来い!」

 

筋骨隆々の男達が砂にならずに残った岩塊を遮蔽物にライフルを一斉に撃ち、砂に隠された幅10m、高さ5mはあるメインゲートが開き、そこからMGが数十機脚部ローターを回転させながら飛び出し、MGが握る大型ライフルからアサルトライフルのふた回りはあるだろう大口径弾を目標に向け一斉に連射する。まともに喰らえば一個中隊は殲滅できるだろう過剰な弾幕をしかし、目の前の敵――日本の戦国武将の様な意匠のISは驚くべき機動性ですり抜けていく。偶然弾が当たることがあれど、それは装甲に着弾する前にエネルギーシールドに阻まれる。

 

「ヒャァハハッ!! トロいぜぇ、てめえらっ!!」

 

下卑た笑いと共にあっという間に距離を詰めたISは両腕部装甲内に収納されていた固定式ガトリングガンを引き出し、左右に展開したMGに向け斉射。マズルフラッシュと共に特殊成形されたフルメタルジャケット弾がMGの装甲を中のパイロットごと撃ち貫き、たちまち数十機ものMGの編隊は総崩れになり殆どが行動不能、あるいは爆散する。

 

『てめえっ!!』

 

 着弾によって生じた砂塵と爆煙が混じり合う中から難を逃れた――それでもかろうじて動く程度のものだが――MGが数機腕部に収納されていたチェーンブレードを抜き、トンファーに似た構えで近接戦闘を仕掛ける。

 

『遅いんだよ! おらっ!!』

 

 ガトリングガンを収納したISが無手のままチェーンブレードを構えるMGに飛びかかる。MGとIS、相反する二機が交錯し離れた時MGは胴部を境に両断されていた。そして対するISは傷一つ無く、肉食獣の爪の様に鋭く、また通常のISより肉厚なマニピュレーターはMGを引き裂いた時に生じたオイルとパイロットの血で汚れていた。

 

『ヌオオオオオッ!!!!』

『ハハハハハハハハッ!!!!』

 

 爆煙の中から無傷の状態のISが飛び出す。両肩非固定浮遊部位、両脚部に搭載されたミサイル、そして両腕部に展開された荷電粒子砲が一斉に放たれる。大出力の荷電粒子が堅牢な筈の地下シェルターを溶解し、大量のミサイルが岩陰に隠れていた男達を、地下施設を潰し、燃やし、焦がしていく。

 戦闘開始から僅か5分足らず、それだけの時間で、アジア最大の反IS勢力『龍の尾』の地下司令部は壊滅してしまった。

 燃え盛る炎の中、ISの操縦者はその光景を楽しむかの様に悠然と凱旋する。その時一発の銃弾はISに。無論銃弾はシールドエネルギーによって無意味に帰してしまう。操縦者が銃弾が放たれた先を見ると、ミサイルの嵐の中息絶え絶えながらも生き残った男が銃口を向けていた。

 

「何なんだ……一体何なんだっ!! お前らはっ!!」

 

 その言葉を耳に入れたISの操縦者は男を鋼鉄の脚で抑えつけると、その口元を愉悦に満ちた表情に歪める。

 

「がっ!? ……ガハッ!!」

「クククッ……知りたいんなら冥土の土産に教えてやる……

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業(ファントム・タスク)のオータムの名をよぉっ!!!!」

 

 そのIS――第一世代改修機『和泉守兼定』の操縦者、オータムは自身の名を名乗り、男の首を突き出したマニピュレーターの一突で胴から切り離した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

照明が絞られた、暗い部屋、モニターの明かりに照らされた一人の女性が脚の無い宙に浮いた椅子に魅惑的な肢体を沈めながら、流れる様に指先を動かし空間投影モニターを操作する。

その最中、新たなモニターが女性の前に現れる。モニターに映った『From:Auturn』の字を認めて女性はふふ、と全ての男を魅了させる様な笑みを浮かべる。そして軽く指でそのモニターに触れると『OPEN』という文字が現れるのと同時に粗雑な口調の女の声が出てくる。

 

『こちらオータム! スコール、聞こえっか!?』

 

「ええ、よく聞こえてるわよ。オータム」

 

 オータムからの通信に返しながらその女性――スコールは『SOUND ONLY』と出ているモニターに微笑む。

 スコールと呼ばれたその女性は、世界中の美女と呼ばれる女をあざ笑うかの様な美しさを持った女性であった。絹の様に滑らかな肌、細くしなやかな指、その暗く赤い瞳は全ての男を惹きつけ、素晴らしい隆起のあるボディラインを持ったその肢体は全ての男の視線を釘付けにする。そして見た目だけで無く、全身から発せられる妖艶な香り、指先の動き一つ見ても美しさと妖艶さを併せ持ち、その身に纏う黒いドレス、そして肩までかけずに腕に通し剥き出しを肩を晒す様に羽織るガウンにも見える透き通る様な薄い生地の紫のコートは彼女の美しさの一つとなっている。正に彼女の全てが究極の美を持っていると言っても良いものであった。

 スコールは細長い煙管(キセル)をその形の良い唇に加え、紫煙(ヤニ)の味を堪能し、肺に溜まった紫煙を吐き出す。その姿にも妖しげな、一つの美を感じさせる。

 

「どう?無事に終わったの?」

『たった今終わらしてきたぜ! まあ、このオータム様にかかりゃあんな雑魚共相手にもならねえなっ!!』

「頼もしい限りね。兎に角ご苦労様。この後あなたには別の任務をお願いしたいから一旦此方に戻ってきて頂戴」

『了解! 土産話を楽しみにしてな!』

 

 最後に彼女らしい粗雑な笑いを残してオータムは通信を切る。再び煙管を吸い込みスコールは椅子を部屋の一面鏡貼りの壁面に立つ男に向ける。

 男の容姿は女の魅力に溢れているスコールと見比べるとぱっとしない印象である。青いシャツの上から白衣を羽織り、髪はボサボサ、顔立ちは整っているが男が外見を気にしない人間だというのは見て分かる。しかしその目は全く異なっていた。光を感じさせず、感情というものが欠如した瞳、見る者に恐怖を感じさせる異質な瞳であった。

 

「彼女から運用データ届いたけど見る?」

「後で見る。それより君から見た感想が聞きたい」

「そうねぇ・・・・・・データ見る限りじゃ上々そうよ。レスポンスも元のより上がっているし、フレーム剛性も十分な感じ。固定装備増やしたせいか機体重量が重いのが気になるけど」

「機体限界値超えていないのなら問題ない。彼女の方は?」

「能力的には十分ね。若干気性が激しいけど、あなたが話してた人形ちゃんと比べたら騒ぐ程のものでもないわね」

 

 男はスコールの座る椅子の背もたれに手をつけると空いた方の手で空間投影モニターを動かし、現れたデータを覗く。その速度は恐ろしく、僅か数秒で何千もの複雑なデータの配列を読み終わり記憶し終わっていた。

 

「そういえば……本当にあなたもついてくるの? 私だけで良いのに」

「場所はIS学園なのだろう。最新鋭機を一通り見ておきたいし、上手くいけば学園内に残っている彼女達が回収した例のデータが手にはいるかもしれん」

「ふ~ん……まあいいけど、それにしてもあの人、よくあんな所指定したものよね。只でさえIS嫌いなのに」

「彼が見たがっているのはISではなく、例のあの二人だ。僕もあの二人には興味がある」

 

 淡々と答える男をスコールは面白がる様に見つめ、悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべる。

 

「それは亡国機業(ファントム・タスク)首領として? それとも――」

「亡国機業として、だよ。それ以外のものは無いよ」

「ふふっ、そう言えばそうね。Mr.ファントム」

 

スコールは微笑みながら立ち上がると男――ファントムの肩に自身の顎を乗せるとファントムの身体に密着する様にそのグラマラスな肢体を絡み付かせる。その淫靡な姿は男を欲情させるものであったが、ファントムは何も感じないかの様に、その暗い瞳を虚空に向けていた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 ISアリーナで起きた代表候補生達の乱闘騒ぎから数日後、学年別トーナメントの日が訪れた。アリーナの観客席は既に生徒達で溢れており、また学園敷地内にある駐車場にはこのトーナメントを見に来た各国、各企業のVIP達を乗せた高級車が何十台と並び、VIP席の半分は既に埋まっていた。

 

「はぁ……満員御礼だな、これ」

「随分派手なイベントなんだな」

「そうだね。三年生はこのトーナメントの成績でスカウト、二年生は一年間の成果の確認で各国、企業から人が来てるからね」

「おまけに今年は異例の男が三人、それを拝みに、てか?」

「ははっ……そうかもね」

 

 シャルロットの説明に理解しながら、軽口を叩くシンを余所に一夏の表情は強ばっていた。

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの試合だけが本命だね」

「ん。あんなことされたんだ。アイツだけは俺が・・・・・・っ!!」

 

 先日の乱闘騒ぎを思い出したのか奥歯を噛み締める様な表情を見せる一夏にシャルロットが固く握られた拳を優しく包み込む。

 

「しゃ、シャル?」

「熱くならないで。ボーデヴィッヒさんは多分一年の中で最強だから冷静にしなくちゃ」

「……そうだな。ありがとな、シャル」

 

 そのシャルロットの言葉で一夏は心が落ち着いていくのを感じた。それを見てヤレヤレ、と思いつつ、シンは二人の肩に腕を廻す。

 

「おいおい、シャルル。一年で最強は俺じゃないのか?」

「そうだね。すっかりシンのこと忘れてたよ」

 

 からかう様なシンの口調にシャルロットは小さく笑いながら返しの言葉を言う。

 

「安心しな! お前達が当たる前に俺が倒してやるよ!!」

「ははっ!! そいつは心強いぜ!!」

 

 張り詰めた空気が和らぎ、三人の間に心地よい空気が流れていく。その中、シャルロットはそういえば、と以前から気になっていたことを口にする。

 

「シンってペア、一体誰と組んだの? もしかして組んでなかったりして――」

 

 シャルロットのその言葉の続きは、一瞬で石化したシンの反応で途切れたが、その反応自体が最早答えの様なものだ。部屋の空気が数度は下がった様な気がする。

 

「あ~……ひょっとしてシン――」

「五月蠅いよ! あんなおっかないのに追っかけられてペア組みたいと思うか!?」

「うぅん、まあ……」

「あ、あはは……」

 

 一夏が聞こうとするがそれを遮りシンが必死で弁明し始める。涙目気味のシンの表情に今日までのシンを思い出した一夏とシャルロットは何も言えず苦笑いするしかなかった。一応説明しておくと一夏とシャルロットがペアを組んだせいで最後に余ったシンと組もうと女子達があまりに凄惨かつ壮絶な取り争いをしていたので巻き込まれては堪らんと結局誰とも組まず逃げまくっていたのである。

 

「じゃあ、結局シンはペア抽選待ちって訳か?」

「そういうことだ。組めりゃ何でも良いけど」

 

 憮然とした表情で言いつつも、特に自分を狙ってた危なかっしい連中とペアにならんように、と戦々恐々の思いで祈ったこともない神様に祈るシンだったりする。

 そうしている内にモニターに第一回戦の対戦表が現れる。生憎シンが心の中で祈っていたペアにはならなかったが、代わりにもっと別なこと祈ればよかった、と心の中でつぶやかずにはいられなかった。

 

「これって……」

「シン……」

 

 一夏とシャルロットがそれぞれの困惑を露わにし、シンの方を向く。シンは何も言えず、只胸に渦巻く思いに悩まされながら、モニターに映る対戦表を見続ける。

 

織斑一夏・シャルル・デュプレ

 

VS

 

シン・アスカ・ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 シンは自分とペアを組む少女のことを思い出し、表情を曇らせていった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 ISアリーナピット内、学生達が専用機を持たない一般生徒が使う学園のISの整備を入念に行い熱気と雑多な音で充満する広大な空間の一角、そこにラウラ・ボーデヴィッヒは一人静かに佇んでいた。大会開始前の熱気ラウラのいる空間だけが静かで冷たさを感じさせていた。ラウラの後ろにあるISの整備用ハンガーには彼女の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』が静かに主の搭乗を待っていた。

 眼帯に隠されていない方の瞳が開かれる。その紅い瞳はドス黒い憎悪の炎に燃えていた。その鋭い視線は目の前のモニターに映された『織斑一夏・シャルル・デュプレVSシン・アスカ・ラウラ・ボーデヴィッヒ』に注がれた。

 

「織斑一夏……シン・アスカ……っ!!」

 

 ラウラが静かに、それでいて抑えきれない憎しみが伝わるかのような言葉を漏らす。一人は自身が慕う者を妨げる存在、もう一人は自分という『影』を生み出した『光』ともいえる存在。どう言う訳か内一人がラウラのペアになってしまっているが関係ない。先に敵である方を潰してから残りを潰すだけである。

 

「待っていろ……貴様らに味あわせてやる……私が今まで受けてきた絶望をっ!!」

 

 ラウラがそう言った瞬間だった。突然ラウラの目の前に黒いスライム状の何かが現れると、それは瞬く間に人の形となりその口元を歪に歪めた。

 

「っ!? 貴様は……」

「ふっ……久しいな、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 驚きを隠しきれないラウラを余所に目の前の男は感慨深そうに言う。

 ウェーブがかった金色の髪と整っているだろうその顔立ちを隠す銀色の仮面、体に巻きつく白いマントに僅かに覗く四肢に絡みつく様に巻かれている黒いベルト、男はラウラが初めて目にした時と変わらぬ姿でそこにいた。

 ラウラは反射的に周りを見る。何故ここに来るまで誰もこの男のことに気づかなかったのか、そう疑問に思うラウラの思考を読んだかの様に男が告げる。

 

「安心したまえ。彼女達に私の姿は見えないよ」

「っ!?  ……相変わらず薄気味悪い奴め」

「おやおや、随分冷たい扱いだ。私と君の仲ではないか」

 

 ラウラは内心毒づく。思えば初めて会ったときにも

 

「私は今忙しい。さっさとここから――」

「……シン・アスカ」

「っ!!」

「君のパートナーになったというではないか。何という因縁めいた組み合わせだろうか……」

「ふんっ!! そんなこと等関係ない!! 今日こそ……私達『影』を生んだあの忌まわしき『光』を滅ぼしてやるっ!!」

 

 憎しみに顔を歪め、拳に力を込める。男はその姿に笑みを浮かべ、その言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

「それは楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

君が憎むあの二人(・・・・・)を亡き者にするその姿を楽しみにしているよ」

 

 

 

 

 

 

 その言葉の意味を理解するのにラウラは数秒の時間を必要としてしまった。そしてその言葉が示す先にある事実が信じられなかった。しかし男はラウラのその心を知って知らずかその言葉の先を告げる。

 

「君はどうやらシン・アスカが君を生んだと思っているが、真実は違うのだよ」

「う、嘘だ……そんな……真逆……っ!!」

「いいや……

 

 

 

 

 

 

それが真実であり

 

 

 

 

 

 

君が抗うべき本当の『運命』なのだよ」

 

 

 

 

 

 

 呆然とするラウラを前に、男はその白い唇を歪に歪めた。

 

 

 

 

 

 

それは正に

 

 

 

 

 

 

人という概念から解き放たれた

 

 

 

 

 

 

『異形』であった。

 

 

 

 

 

 

 男が再びその姿を変え、薄暗い影の中に消えた時もラウラは動けず、その場に釘付けとなっていた。どれだけそうなっていたのか、試合開始直前になってまだカタパルトに現れないペアを探す様真耶に言われたシンがラウラに駆け寄る。

 

「おい。何呆けているんだ? もう時間だぞ」

 

 ラウラに対して色々と含む所があるせいかシンは以前よりも敵対心が緩んだ声色でラウラに声をかける。しかし無反応のラウラに流石のシンも訝しげにラウラを見る。目の前に手をかざして反応を伺ってみると、突然跳ね上がるように驚き、いつの間にか自分の近くに現れたシンに驚きを露わにする。

 

「っ!?」

「……もう時間だぞ。いつまでそこに立ってるんだ?」

「っ!! ……ふんっ!!」

「? どうしたんだ……ん?」

 

 普段といささか様子の違うラウラを怪訝そうに見るシンだが、ふいに何か違和感を感じ周りを見渡す。試合開始直前で雑多な印象を与えるピット内、その中にそれらと異なる気配が紛れ込んでいた。しかしシンの直感はその気配が自分の知るものだと告げていた。かつてシンと共にC.E.の戦いをくぐり抜けた友のものだと告げていた。

 

「……レイ……?」

 

 そのシンの僅かな戸惑いはしかし、カタパルトに待機する様促す真耶からの通信によって思考の片隅に追いやられた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 ISのアリーナ中央に位置するフィールド、そこに戦いの(ゴング)を待つ四人の戦士がその時を待っていた。

 

「一回戦で当たるなんてな……けど、絶対俺はお前を倒すっ!!」

 

 ラウラに向け威勢良く宣言するのは一夏だ。しかしラウラはそれに応じず、只普段の冷酷な表情は無く、憎しみと怒りに支配されていた。そして犬歯を剥き出しにし一夏に吠える。

 

「織斑一夏……っ!! 貴様だけはこの私の手で八つ裂きにしてやるぅっ!!!!」

「「っ!?」」

 

 殺気すら感じさせるラウラのそれに一夏、そしてシャルロットも思わず後ずさりしてしまいそうになる。その時一夏とシャルロットに対して通信が入る。シンからだ。

 

『一夏、シャルル』

『シン……ラウラの奴一体どうしたんだ……?』

『うん。なんだかいつもと様子が……』

 

 一夏とシャルロットが不安げにラウラを見返す。ラウラはその視線すら気にならない様子で一夏のみを睨めつける。

 

『俺にも分からん。何があったか……まあ最悪俺が止めるから心配するな』

『でもっ!!』

『お前はそれより試合に集中しろよ。お前がぼさっとして俺が出張る事態になったらたまらんぞ』

『……分かった』

 

 そう答えるものの一抹の不安を隠しきれない様子の一夏に獰猛な笑みを向ける。

 

『ま、それまでは俺はお前らの試合相手だからな。手加減はしないぜぇ?』

 

 張り詰めた緊張感の中、シンが戯ける様な口調で二人に宣言する。一瞬顔を合わせた一夏とシャルロットの二人はお返しとばかりにシンに向けにやり、と笑みを浮かべる。

 

『ふっ……お前こそあまり舐めない方がいいぜ?』

『僕達を相手にしたことを後悔するかもね』

『ククク……そうでなきゃなっ!』

 

 三人の中に緊張ではなく試合に対する高揚感が灯し始める。そして四人のハイパーセンサーに『試合開始10秒前』という警告(アラート)が現れ、刻一刻とカウントダウンを始める。

 

『5』

 

 四人がそれぞれの得物を展開する。

 

『4』

 

 そして即座に対応出来る様得意の構えに構える。

 

『3』

 

一夏とラウラ、二人が互いを睨めつける。

 

『2』

 

 シャルロットは両手に持つ大型ライフルを握り直し、シンは斬機刀を構えながらデスティニーのパワーを上げ、獰猛な唸りを上げさせる。

 

『1』

 

 緊迫した空気。それを観客席から誰にも気配を悟られることなく眺めている仮面の男が不気味な笑みを共に意味深な言葉を呟く。

 

 

 

 

 

 

「さて、果たして資格者(クオリファイア)たる資格を持ち得るか、見極めさせてもらおう……

 

 

 

 

 

 

シン・アスカ

 

 

 

 

 

 

織斑一夏」

 

 

 

 

 

 

『試合開始』

 

 その単語が浮かび、コンマ数秒遅れてブザーが鳴り渡るが、その時点で既に一夏とラウラ、因縁の二人はフィールド中央で切り結んでいた。

 

「おおおおおおおおおおっ!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 両者が雄叫びを上げながら、雪片弐型とプラズマブレードが切り結ぶ。取り回しに優れたプラズマブレードでラウラは猛烈な速度で斬りかかるが一夏はそれら全て雪片弐型一つで捌ききる。剣術を学んでいたとは言えISを使い始めて僅か二ヶ月でラウラとここまで拮抗しているのは相当なものである。

 

「ちぃっ!!」

「このまま押し切るっ!!」

「このぉ……舐めるなぁっ!!」

 

 その言葉と共にこれまで激しかった両者の動きが止まる。ラウラのAICによる慣性停止能力である。一夏は雪片を振り下ろそうとするが、身体はピクリとも動くことができずにいた。

 

「これで――」

「まだだ! シャル!」

「っ!?」

 

 一夏の言葉にラウラは一夏の意図に気がつくが、その瞬間ラウラの身体を横から殴りつけられたかの様な衝撃に襲われる。それはシンと向き合いつつ、一夏の言葉を合図にアサルトカノン『ガルム』を撃ち出したシャルロットからの一撃だった。

 

「き、貴様ぁ……っ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「っ!? しまった……っ!!」

 

 時代遅れと称した機体の操縦者にしてやられたことにラウラは怒りをシャルロットに向けるが、一夏の雄叫びにAICが解除されていたことに気がつく。再度AICを発動させようとする、それは数瞬遅く一夏の一撃がラウラに入る。瞬間後ろに体を逸した為機体ダメージは少ないが、それでも白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『零落白夜』によってシールドエネルギーが四分の一近く削られてしまう。

 ラウラは舌打ちしたくなる気持ちを抑え、目の前に集中する。今自分が戦っている相手はこの二週間で驚くべき成長を遂げていた。互角に戦っているばかりか、僚機との間で相当な連携をこなしている。

 今も後退するラウラを一夏は横薙に追撃の一撃を加えようとしていた。

 

「ちぃっ!!」

「もう一撃――」

「おぉりゃぁっ!!!!」

『っ!?』

 

 その荒々しい叫びに一夏もラウラも反射的にその場から飛び跳ねる様に回避運動を取った。次の瞬間一夏とラウラの間に割り込む様に巨大な大剣――斬機刀が槍投げの様に投擲され地に突き刺さったそして一夏とシャルロットに向けてビームと実弾の弾幕が襲いかかる。弾幕がやんだ時、片方にアサルトライフルを、もう片方に斬機刀を担ぐシンの姿があった。

 

「おいおい、俺がいるのを忘れんなよ」

 

 シンの不敵な笑みに一夏は改めて今自分達が戦っている相手の厄介さを思い知らされる。ラウラもシンも一年の中では間違いなく一、二を争う強さである。それがペアなのだ。恐らく一年生の間で優勝はシンとラウラのペアだろう、とほとんどが考えているだろう。

 しかしその逆境の中一夏の瞳に諦めの色は無く、よりいっそう闘志の炎を燃やしていた。シャルロットの方も見ると、それに気づいたシャルロットが笑みを浮かべる。

 

「行こう、シャル!」

「うん、一夏!」

 

 そして一夏が大地を蹴るのと同時に全員が一斉に動き、戦いの様相は新たな局面へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 シン達が激戦を繰り広げている第一アリーナの管制室では真耶がISフィールドを監視を行い、その後ろでは千冬が通信機を片手に学園及び各アリーナで警備を行っている教員及び国連から派遣された警備員からの報告を統括、指示していた。トーナメントによって外の人間が多数入り乱れている為、予断は許されない状況である。

 

『織斑先生、観客席、貴賓席共に異常ありません」

『ピット内も異常なしです』

「うむ。学園周辺空域は?」

『レーダーに反応無し。問題ありません』

「了解。以後も監視を怠るなよ」

『了解』

 

 各々から寄せられる報告を確認した千冬は意識をモニターに映る第一戦に向けなおす。その中ISフィールドの状況を確認していた真耶がふいに千冬に問いかける。

 

「それにしても先週の特別会議でも気になったのですが、トーナメント期間中の警備体制が例年より厳しいのは、やはり先日の対抗戦の影響ですか?」

 

 真耶からの質問に千冬は手にしたコーヒーをすすり、視線をモニターに外さずに答える。

 

「うむ。どこの誰が仕向けたかまだ判明していない以上、各国重鎮が集まるこのトーナメントは格好の餌食だ。最も、そうでなくても今年は異例の男子生徒が三人いる訳だが」

 

 千冬の解答に真耶ははあ、と感嘆の言葉を漏らし、改めて目の前の女性の凄さを再認識する。しかしそこで千冬のものと異なる声が管制室に割り込んでくる。

 

「他には、ここ数ヶ月で反IS勢力ゲリラの活動が忙しいのもある」

「む? ……お前は?」

「え、えぇっ!?」

 

 黒いスーツの上にコートを着た女性――西條葵の姿に千冬と真耶はそれぞれ異なる反応を示す。葵はそれを楽しむ様な笑みを浮かべながら千冬の元に歩み寄る。

 

「久しぶりだな、千冬。元気そうでなによりだ」

「そっちこそ、葵。相変わらず神出鬼没な奴め。確か今中東の内偵任務に就いているのではなかったのか?」

「ああ、それは延期になって時間が空いたのでな。それより彼女はいいのか?」

「ん? ……おい」

 

 葵と千冬が互いに挨拶と憎まれ口を叩きながら親しげに話す。一方の真耶は突然の葵の登場に放心状態で、パネルの上の指が完全に止まっている。葵に指摘されて気づいた千冬は半ば呆れ気味で真耶を見つめ、軽く(といっても真耶からすれば強烈な)手刀を真耶の頭に落とす。

 

「~~~~~~!? お、織斑先生!?」

「何を驚いているんだ、山田先生。仕事に戻れ」

「だ、だって織斑先生! 西條少佐ですよ! 西條葵少佐! 元日本代表候補生にしてあのナイト・オブ・ラウンズの一人と名高いあの西條少佐ですよ!」

「私は元日本代表で『世界最強』なんて言われているが随分反応が違うな? ん?」

「そ、それは~、え~と……」

「アハハハハハっ!! 相変わらず面白いな、お前は!」

 

 真耶と千冬の漫才の様な会話に思わず葵は爆笑し始める。今までの千冬と異なる凛とした佇まい――千冬が武人とすれば葵は西洋紳士になるだろう――と異なる表情に真耶は思わず唖然としてしまう。

 尚、ナイト・オブ・ラウンズとは第一世代IS操縦者の中でも高い技量を持つ12人のことを示す言葉であり、千冬、そして葵はその内の一人である。この称号は入れ替え等はなく、世界中のIS乗りの間では伝説となっている。

 千冬は真耶に仕事に戻れと言い、そして葵に顔を寄せ小さな声で耳元で囁く。

 

「本当の所はどうなんだ? どうせまた面倒事を持ち込みに来たのだろう?」

「失礼な。私がいつお前にその様なことを――」

「じゃあ左手のケースはなんだ?」

 

 千冬に指摘され、葵は顔をしかめる。そして千冬に対し小さく囁く。

 

「実はお前に知らせなければならない事項があってな」

「結局そうか……」

「今夜地下区画で説明するが、どうにも各国の動向が怪しい……」

「ふむ……そのことはこちらでも聞いているが、それ程なのか……?」

「ああ……実は先日――」

 

 しかし葵の言葉は管制室にも伝わる程の観客席からの歓声によって中断される。一瞬虚を突かれた様な表情をするが、その後は先程の笑みを浮かべる。

 

「まあ……積もる話は後にするか?」

「まあ、そうだな」

 

 それを最後に葵を試合を楽しむ様に観戦し始め、千冬はそれを呆れ気味に見つめながら、厳しい表情でモニターを見つめた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

ISアリーナの地下に存在するVIPが試合を観戦するためのゲストルール、落ち着いた空気を醸し出す部屋の中でテーブルを挟んで二人の男女が革張りのソファに座り互いの腹の探り合いをしていた。

 一人は亡国機業のスコール。その妖艶な肢体をカジュアルなスーツに包みながらも、白いシャツから僅かに覗く胸の谷間や怪しげな笑みを浮かべるその身から女の香りが漂っている。

 そしてスコールとテーブルを挟んだ向かい側のソファに座る男は一見すると爽やかな印象を与える青年であった。しかしその瞳には獲物を狩る爬虫類の様な湿ったものを感じさせる。

 青年の名はムルタ・アズラエル。アズラエル財閥の御曹司にして30代という若さで世界的軍需産業の経営、国防産業連合理事を務める男である。

 

「以上でご理解頂けたかしら、理事? 今回の騒動は私達にとっても予想外の出来事でした」

「成る程ネ……よく分かりました……という訳にはいきませんネ、Ms.スコール」

 

 どこか気取った様な口調でアズラエルから返ってきた返事にスコールは眉を潜ませる。

 

「それはどういうことかしら? 私達の説明と証拠資料だけでは不十分でして?」

「いやいや、そう言う訳ではありませんよ。あなた方から送られた資料にはちゃんと目を通しましたしこちらでも調査を行いました。先日の学園でのMS騒ぎにあなた方が関与していないことは認めましょう」

「ではどういうことかしら? 教えてくださらない?」

 

 本当の所アズラエルが何を言っているのか、スコールは大体予測していたが、自分を言うのもつまらないのでアズラエルの口から出てくるのをスコールは待った。

 組んだ腕に押し潰された豊満な胸がより強調される形に歪む。アズラエルはチラリとその絶景を覗きながら口を開く。

 

「ボクが気にしているのはもっと別のことですヨ。ここ十数年で急速に規模を増大させた貴方方亡国機業(ファントム・タスク)、いくら内部で首替えがあったとしてもこれほどまでの成長速度は異常だ……貴方方に資金とMS生産プラント(・・・・・・・・・・)を提供しているこちらとしては訳の分からない爆弾抱えるのはゴメンなのですよ。最悪、今後のそちらとの協力関係を考え直さなければいけませんヨ」

 

 一通り言い切り、アズラエルは相手がどのような答えを返すのか、その反応を楽しむかの様にスコールを見つめた。スコールは答えず時折煙管を吸い込むだけである。しかしアズラエルが望んでいた答えは思わぬ所から返ってきた。

 

「流石はムルタ・アズラエル、その若さで政財界に相当な権力を持つだけのことはある。いい読みだ」

「っ!? 君は……?」

 

 スコールの後ろ――照明が当たらない薄暗い部屋の隅から届く声にアズラエルは一瞬驚きを露わにするが、すぐにそこにいるであろう男に問いかける。

 そこから現れたのはあの男――先程ラウラに衝撃の事実を与えたあの仮面の男であった。スコールは一瞬アズラエルが見せた唖然とした表情を逃さず、薄く妖しげな笑みを浮かべると立ち上がる。

 

「紹介しますわ、理事。彼はラウ・ル・クルーゼ。私達の良き盟友でございます」

 

 スコールがそう言い、仮面の男――ラウ・ル・クルーゼは酷く不気味な笑みをその口元に浮かばせた。

 

 

 

 

 

 

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スコールがいるゲストルームと異なる、アリーナの外来様に割けられた観客席、何十人という各国、各企業エージェントや報道記者が一つも見逃すまいと目の前の試合を見ている中、亡国機業(ファントム・タスク)首領であるファントムは慣れぬスーツに首元のネクタイをいじりながら、試合を静かに観戦していた。かけている視覚データ解析機能が搭載されたサングラスにそれぞれの機体のデータが映し出され、ファントムをそれを見ながらそれぞれの機体の動きを注視していた。中でもファントムが見続けているのは織斑一夏の白式、そしてシン・アスカのデスティニーであった。

(倉持技研が開発元なだけに素地はいいな……それに束がいじっただけに全体のバランスと出力が大幅に上昇している……)

 白式の機体性能を外見からそこまで把握したファントムはそれを扱う操縦者――一夏の方を見つめる。その暗く濁った瞳は少しも変わらないが、心中では僅かな戸惑いがあった。

(僅か二ヶ月でこの練度……普通の人間ならここまでいかない筈だ……真逆、束がかけたプロテクトと暗示が解けかけているのか……?)

 それが何を意味するのか、その先をファントムは結論づけず、そして彼が気にかけるもう一つの機体――デスティニー、そしてシンを見る。

(武装が大分異なる……実体系武装は『こちら側』で追加したそうだが、全体の仕様が僕の知っているタイプβと違うタイプα……そしてあの『髪』……覚醒していないということは彼は『同位体』……)

 そこまで思考が走り、そして一瞬ファントムの瞳に僅かばかりの悲しみが浮かぶ。

(何故……この地で再び出会うこととなるんだ……シン……)

 何故ファントムがシンのことを知っているのか、そして一夏に対する謎の単語の数々、それが解き明かされるのは、まだ先のことである。

 そして、戦いの様相は再び大きく動き出す。

 

 

 

 

 

 

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 一夏が振り下ろした雪片の一撃をラウラはアクストスピアーの柄で防ぐ。アクストスピアーの耐久値では鍔迫り合いは不利だと判断したラウラが横に受け流し、返す刀でカウンターをかける。

 既に数え切れない程の剣擊を二人は重ね合い、二人の周囲にはあまりにも早すぎて生じた剣擊の軌跡が残像を残し、スパークがはぜていた。

 ここまでラウラと互角に戦ってきた一夏だが、如何せん矢張りラウラとの技量の差は二週間の訓練で補い切れぬもので、徐々に機体への損傷は蓄積していった。肩部装甲はボルト数本で辛うじて繋ぎ止められている状態であり、脚部は内部フレーム及びサーボモーターが露出、純白のその装甲は砂塵と爆煙、飛び散るオイルや各可動部で散らす火花で薄汚れていた。

(まだだ……っ!!)

 しかし一夏は止まらない。ラウラが無事な方のプラズマブレードで繰り出す刺突を無手の方の腕で弾き返す。雪片を握り直し横に払うがシュヴァルツェア・レーゲンの脚部スラスターとPICを組み合わせた複雑な回避運動で一夏の頭を抑え、上空から両手に持ったアクストスピアーを叩き落とす。体勢をわざと崩し回避運動を取るがそれでも避けきれず肩部装甲がもぎ取られる。

(まだだ……)

ハイパーセンサーから『警告(WARNING)』の文字がいくつも浮かぶが一夏はそれら全てを丁寧に無視しラウラに向け突きを繰り出す。規定値を超えた負荷をかけられた腕部から悲鳴がなりだす。

(もっと……もっと前へ……)

 二週間前の私闘からこの試合までの間、一夏はシャルロットと共に連携訓練、対ラウラ戦略と並行して過去のデータ――姉である千冬の戦闘データを調べていた。

 武装が近接戦闘用装備一つで凄まじい威力と引換にエネルギー消費の激しい白式が取れる戦術は極めて限定されている。そのためこのトーナメントにおいて一夏はそれを補う為のシャルロットとの連携パターンを数十通り編み出していた。しかしそれでは根本的な解決にはなり得ない。そのため一夏は過去の千冬の戦闘映像を研究していた。

 千冬が現役時代に使用していた第一世代IS『暮桜』は一夏の白式同様武装が近接用一つのみや単一仕様能力が同一のものである等極めて類似点が多い。なので千冬の過去の戦いを見れば何かわかるのでは、と考えた一夏過去のデータを調べ研究し、そして研鑽を積み、今ようやくその糸口が見えはじめようとしていた。

 

「あああああっ!!!!」

 

 叫び声と共にラウラがアクストスピアーを振り回す。鋭く、そして迅速な一撃、それが一夏の脳天を叩き潰そうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 一夏の内で何かが弾けた。

 

 

 

 

 

 

 瞬間、一夏の目には全てがはっきりと、そして鮮明に映し出された。シュヴァルツェア・レーゲンの装甲の細かい傷一つ一つがはっきりと見分けられた。今この場に聞こえるあらゆる音――ファルコンショットからが撃ち出される音、動く度に響くモーターの音、その全てが聞き分けられた。その感覚はあの時――クラス対抗戦で異形に一矢報いた時の感覚と同じであった。

 何故それが分かったのか、そして何故そうしたのか、一夏には分からなかった。只、気がつけば一秒が数十秒も長く感じられる時の中で雪片を振るったとしか言いようがなかった。しかし一夏が全意識を宿して撃ち込んだその研ぎ澄まされた一撃はラウラの手からアクストスピアーをもぎ取り、胸部装甲、右肩部大型レールガンを削り取った。

 

「何だとっ!?」

 

 その一瞬の間に起きた出来事が信じられず、ラウラは呆然としてしまう。一夏はそれに喜びを感じることなく、自身の半身に向け呟く。

 

「こう、なのか……白式っ」

 

 理屈でも何でも無い。あの一瞬の間に理解した感覚が一夏に教えてくれた。

 意識をラウラに引き戻す。先の一撃が機体制御に支障を来したのか動きが鈍くなっていた。仕留めるなら今である。

 

「しかけるぞ! シャル!」

「っ! 了解!」

 

 一夏の掛け声にシンと銃弾の応酬を繰り広げていたシャルロットが応じる。

 

「っ!? 逃がすか――」

「暫くそこにいてもらうよっ!」

 

 何か仕掛けようとしていることに気付いたシンがシャルロットに追いかけようとするが、ラファール・リヴァイヴの背面パイロンに増設されたスプレットミサイルが発射、一発のミサイルから放たれた小型ミサイル群がシンの動きを封じ込める。さらにシャルロットは新たに展開したランチャーを数発撃ち込む。

 

「面倒な……っ!? これは……っ!?」

 

 出鼻を挫かれたシンが悪態をつくが、デスティニーに纏わりつくスライム状の物体――空気に触れることで化学反応を引き起こす特殊樹脂が硬化しシンの動きを封じ込める。対IS用に改良されたそれはデスティニーのパワーを以てしても容易に解けるものではない。

 シンがデスティニーにへばりつく特殊樹脂に動きを止められている隙にシャルロットは瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラとの距離を詰めていた。その左腕部シールドはパージされ、そこから現れたのは第二世代最強と言われる69口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。

 

「っ!! 『盾殺し(シールド・ピアース)』かっ!!」

「これでっ!!」

 

 ラウラはバンカーを撃ちつけようとするシャルロットを残ったAICで受け止めようとする。単純な直線軌道からの一撃、威力はあろうとラウラにとって止めること容易い。そのラウラの余裕はしかしシャルロットのラファール・リヴァイヴの右脚部から飛び出した細長いアーム――隠し腕がAICを発動させようとする左腕部を抑えたことで崩れ落ちた。

 

「隠し腕だとっ!?」

「忘れてた? このラファール・リヴァイヴカスタムⅢにも第三世代兵装が搭載されているんだよ!」

 

 人間の腕が二本しかない以上それ以上の腕を扱うことはできない。機械で擬似的な第三の腕を増やしても同様である。

 しかしISのインターフェイスを追加腕部操作の補助に用いることでデュノア社は人に三本目の腕を持たせることに成功したのである。最もインターフェイスを用いても操縦者の負担は大きいので、優れた思考能力を持った人間でないと扱えない欠点があるのだが。

 シャルロットの左腕部パイルバンカーがラウラの胴に突き刺さり、ラウラが苦悶の声を上げる。しかしまだそれで終わりでない。六連装式回転倉(シリンダー)に込められた弾薬が火を噴き、ラウラのシールドエネルギーを一気に削り取る。

 

「この、調子に、乗るなっ!」

「うぁ」

 

 朦朧としかける意識を引き戻し、隠し腕による拘束を強引に振り解く。そのままシャルロットを引き剥がすと腕部ワイアーブレードを絡ませ、高圧電流を浴びせかける。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「これで――」

「おおおおおおおおおおおっ!!!!」

「っ!?」

 

 体中に走る電流に悲鳴を上げるシャルロットにラウラがとどめを刺そうとするが、それは横から割り込んできた一夏の雄叫びと、ワイアーブレードが雪片によって切断されたことで潰える結果となる。

 白式の雪片弐型の刀身が前後で展開し、二つに割れた刀身の内から眩い光ーー零落白夜の輝きが放たれる。ラウラもまたアクストスピアーを引き抜き、一夏に向け構える。どちらももはや満身創痍であった。

 

「織斑一夏……これが貴様の最後だっ!!!!」

「……往くぞっ、白式っ!!」

 

 そして両者が一斉に駆ける。残ったAICを一夏に向け、片方にアクストスピアーを槍形態(スピアー・フォーム)にしラウラは突き出す。対する一夏は八相構えでラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに斬り込む。差し違えればAICに捉えられ、アクストスピアーが一夏の胴に突き刺さるだろう、しかし一夏にはその心配は無かった。

 考えずとも、自身のこの一撃は通るという絶対的な確信があった。そこに戦術や読みはなく、あるのは直感だけであった。

 

 

 

 

 

 

「俺達に

 

 

 

 

 

 

撃ち込めぬものなし!!!!」

 

 

 

 

 

 

 撃ち込まれたその一撃はAICの拘束を抜け、ラウラを、シュヴァルツェア・レーゲンを切り裂いた。一瞬の交錯の後、フィールドを踏みしめていたのは一夏であり、ラウラはうつ伏せに倒れ伏していた。

 

「はぁ……」

 

 張り詰めた息を吐き出し一夏は自身が握る愛刀に目を向ける。あれだけ斬り合ったというのに雪片には刃こぼれも汚れも無く、純白の輝きを見せていた。

(シャルとの連携がなかったら多分勝てなかった……でも、確かに掴んだぞ、白式)

 一区切りついた戦いに一息つきたくなる一夏だが、横から叩き込まれたライフル弾の嵐に意識を戻し慌てて回避運動を取る。見れば漸く拘束が解けたシンが一夏とシャルロットにライフルを向けていた。

 

「けっ! アイツを倒すとは、中々やるな……」

「それはどうも……」

「最もシン、まだ君が残っているけどね」

「ああ! 第二ラウンドの、始まりだ!」

 

 獰猛な笑みと共に威勢良く言い放ち斬機刀を握ったシンが大きく振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 意識が沈み、

(私は・・・・・・負けたのか)

 よりによってあの男――織斑一夏によって・・・・・・っ!!)

体が何かに触れ、その中にラウラは沈んでいく。それは彼女が生まれた場所、『闇』である。闇の中に還元されていく中、ラウラの脳裏に過去の記憶が甦っていく。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、スーパーコーディネイター(・・・・・・・・・・・・)テストモデルC-0038。それが彼女を示すものであった。

 遺伝子操作によって優れた肉体、知能を持った存在、コーディネイター。数十年前に提唱されたその理論は、所詮は夢物語だとされていた。

 しかし、十数年前にある学者によって提唱されたコーディネイターの究極体、スーパーコーディネイター理論、そしてその理論によって夢の子供が生まれたという事実が現実に変えた。それは正に新たな可能性を秘めた『光』であった。

 ラウラを造った研究者達もまたその『光』を追い求めた。只出来る、それだけの理由で。200もの培養基に遺伝子操作が行われた。

 しかし現実はあまりにも残酷であり、汚れを知らない子供を『影』に変えた。

 幾十もの検証も行わず進められた実験は不完全な遺伝子操作をラウラに与えた。200もの培養基の内、無事成長した個体は50近く。残りは培養基の中で生を受けることなく死滅した。そして残った個体もその全てが理論値より遥かに低い身体能力値しか持たぬ『欠陥品』であった。この世に生を受けたラウラに与えられたもの、それは『出来損ない』というレッテルであった。

 こうして計画は凍結、残されたラウラ達はドイツ軍に拾われ、兵士としての運命を強いられた。

 しかし運命はどこまでも残酷であり、彼女達に施された遺伝子操作はどこまでも不完全であった。生まれて数年程して体の不調を訴える者が現れ、彼女らはやがて遺伝子に組み込まれたバグによってこの世を去った。

 50近くいたラウラの姉妹達も今やたったの数名、そして残った彼女達にもいつ体の自由が効かなくなるかも分からない爆弾を遺伝子に抱え込んでいた。

 何故、自分達がこうも過酷な運命を背負わされなければいけないのか、次第に減りゆく姉妹達の姿見る度ラウラは自問し、この責を負う者は誰か、その答えを探していた。そしてその答えは見つかった。彼女達『影』を生みだした『光』たる者。

(そうだ・・・・・・私は・・・・・・私は・・・・・・っ!! こんなところで・・・・・・っ!!)

 沈みゆく意識の中、ラウラはその内に炎を――憎しみの炎を燃やす。『闇』という泥沼の中で懸命にあがく。

(いつ死ぬかも分からないこの身……いつ死んだって構わない! けど! せめて死んでいった姉妹達の為にも・・・・・・そして私自身の為にも・・・・・・っ!! こんな惨めな『運命』等あってたまるかっ!!!!)

 その時、闇の中ラウラに差し伸べる手があった。その先にあるのは、あの仮面の男。男は薄く笑うと口元を動かす。それが示す言葉は只一つ。そして……

 

 

 

 

 

 

 ラウラは躊躇なくその手を取った。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 それは突然目の目で起こった。ラウラの周囲を囲む様に三角の紋様と三つの円から出来た陣が現れる。そしてそこからラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに幾何学的な光の線が走っていく。

 

「何だっ!?」

 

 その通常では考えられない異常な現象にシンが驚きの声を上げる。一夏もシャルロットも同様である。しかしシャルロットは二人よりも早く冷静さを取り戻すと、ハイパーセンサーでの分析を行う。

 

「膨大なエネルギーが送られている・・・・・・足元のアレから?」

「エネルギーがっ!? 一体どこからっ!?」

「そんなこと後回しだっ!! 今はアイツを止めるぞっ!!」

 

 そう言うな否や、シンは高エネルギー長射程ビーム砲を展開し、腰溜めにビームをラウラの足元に向けて撃ち放つ。高出力のビームの奔流はしかし、ラウラの前面に見えない障壁の様なものによって阻まれる。爆煙が薙ぎ払われ、中からラウラが姿を現す。その全身を細く紅いラインが輝きながら体中を走り、眼帯が外れ、開かれた左右の瞳には金色の光が不気味な程強い光を放っていた。

 

『フフフ……君達の存在は危険だ。君達の体に刻まれた因子はやがて世界を滅ぼす。よってこの私が断罪しようっ!!』

 

 瞬間、『ラウラ』を、シュヴァルツェア・レーゲンを薄暗い光が包み込み、その姿を変えていく。黒い装甲は禍々しいマゼンダの生物的な形に、背には六対の黒く細長い光波翼が顕現する。サイズも一回りは大きく、胴部にその身を委ねる『ラウラ』の顔に銀色の仮面が装着される。

 僅か数秒、その間に『ラウラ』とシュヴァルツェア・レーゲンは『異形』の存在に変異した。

 

「この姿・・・・・・まさかあの時のっ!!」

「いや、何かが違う・・・・・・」

 

 一夏が姿を大きく変貌させたラウラを見てクラス対抗戦時に現れた『異形』を彷彿してしまうが、それを即座にシンが否定する。上手く説明出来ないが、あの時と何かが違うとシンの内で何かが断言していた。

 

『この機体の名は黒影の復讐者(シュヴァルツェア・アヴェンジャー)。さあ、君達の犯した罪を今! この『私』が裁こう!』

「っ!!」

 

 『ラウラ』の姿が揺らぎ、咄嗟に構えたシンを全体が刃に覆われている大剣の強烈な一撃が襲いかかる。シンは斬機刀の刀身で受け止めるが、その重く、速い一撃はシンを弾き飛ばし隔壁に叩きつけた

(なんだコイツ!? 動きがさっきと別物・・・・・・一体どうなっている!?)

 しかしそれ以上先を考える余裕はなかった。その巨体に合わぬ俊敏さで飛び込んでくる『ラウラ』が右腕の先にある猛禽類の爪の様に鋭利なマニピュレーターをシンに向ける。突き出された右腕を寸での所で避けるが、強固な合金製隔壁が簡単に砕ける様を見て思わずぞっとしてしまう。しかしそれだけで終わりにはならなかった。腕が突き刺さった状態で強化壁を引き裂き追撃の一撃を加えようとする。

 

『アーッハッハッハッハッ!! 他愛もない! これで――』

「シンっ!」

『む?』

「シャルル……っ!!」

 

 黒影の復讐者(シュヴァルツェア・アヴェンジャー)の鋭利なマニピュレーターの先がシンとデスティニーの装甲と肉を抉る寸前、シャルロットが両手に握るライフルを『ラウラ』に向けて連射する。シャルロットが放つライフル弾は黒影の復讐者(シュヴァルツェア・アヴェンジャー)に対しさほどダメージを与えられていないが、それでもわずかに生じた隙をついてシンはその場から離脱する。シャルロットは尚もトリガーから指を離さず、両脚部側面の装甲がせり出し、そこから小型のミサイルが放たれる。銃弾の嵐の中に『ラウラ』を封じ込めようというシャルロットの意図にシンの気づきイーグルストライクに持ち替え弾幕を張る。

 

「シン 無事か!」

「ああ! けどあれは何だ!?」

 

 シンの疑問に答える者など当然いないが、タイミング良く三人に管制室で待機している千冬から通信が入った。

 

『織斑、アスカ、デュプレ。聞こえるか?』

「「「織斑先生(千冬姉)!」」」

『状況はどうなっている?』

「今説明している暇なんてないですよ!」

「それよりも応援を早く!」

『いや、現在外部からのハッキングで全隔壁が閉鎖されてしまっている。現在システム復旧中だが応援は回せられそうにない……』

 

 千冬からの現状報告に三人は愕然としてしまう。それはつまり三人だけであの異常なパワーを持つ『ラウラ』を相手にしなければいいけないのである。

 

「何だってっ!?」

「くそっ!! 俺達だけで相手しなきゃいかないかっ!」

『話し合いは終わったのかね?』

「「「っ!!」」」

 

 シン達が意識を『ラウラ』に戻した時、『ラウラ』は既に三人の懐にその巨体を割り込ませていた。大きく広がる六枚のそれぞれの光波翼の間には禍々しい光を放つ光球が帯電し、三方向に三人が散開した時、三人それぞれに光球が襲いかかる。

 

『君達の存在はこの世界にとってあまりにも強大だ・・・・・・再びかの地を繰り返さぬ為にもここで駆逐する』

「何だ、一体何を言っているんだ!」

 

 あまりにも意味の通じない言葉の数々に一夏は思わずそう言わずにはいられなかった。その言葉で『ラウラ』は標的を一夏に絞り、次々と大剣による一撃を繰り出す。

 

『無知とは恐ろしいな……特に君という存在がこの世にもたらした厄災はあまりにも大きいのだよ、織斑一夏』

「ど、どういうことだ! それは」

『その言葉の通りだよ、織斑一夏。故に私には、それを裁く権利がある!』

 

 ラウラは大剣を一夏に振り下ろす。その剣撃の重さと早さに一夏は思わずまずい、と判断する。

 

「ラウラ、お前は一体――」

「頭下げろ、一夏!」

 

 一夏がその言葉に反応した時、一夏と『ラウラ』の間を斬機刀が投げ飛ばされる。『ラウラ』が回避したその瞬間、シンはアロンダイトを握り『ラウラ』に斬りかかる。しかし『ラウラ』はそれに応えた様子もなく、逆にシンが『ラウラ』に押し出される。

 

『君なら知っている筈だ、シン・アスカ! 『ラウラ・ボーデヴィッヒ』がどの様な運命を歩まされたのか、そしてその運命を背負わせたのは誰かを! 『君達』にそれを資格などありはせん!』

 

 『ラウラ』の勢いはさらに烈を増し、デスティニーに傷を加えていく。そして撃ちだされた大剣の一撃が負荷に耐え切れずパワーダウンしていく腕部からアロンダイトを撃ち落とす。そのまま無防備なシンに向け、『ラウラ』はその大剣を振り上げる。

 

「……確かに『俺達』がお前をそんな風にしたのかもしれない……『俺達』の存在が『お前達』を……けどっ!」

 

 今まさに大剣が振り下ろされようとした瞬間、シンが顔を上げる。その紅い瞳は燃え上がっていた。

 

「けど俺は知ってる! アイツは……レイは! 限られた命の中で生きていた! 俺と一緒に戦い、笑い、生きようと足掻いてたっ!!」

『っ!? その名は……!?』

 

 初めて『ラウラ』に動揺の表情が現れ、剣先が僅かに鈍った。それを逃さずシンはアロンダイトを振るい、『ラウラ』の大剣をもぎ取る。大剣はフィールド上に突き刺さり、無防備になった胴部に向けシンは渾身の蹴りを叩き込み『ラウラ』はフィールド端にまで吹き飛ばされる。

 

「シンっ!!」

「大丈夫っ!?」

「ああ……」

 

 両脇を守るように駆け寄る一夏とシャルロットにシンは短く答え、粗い息を整えると静かに言った。

 

「……一夏、シャルル、お前達は下がってろ。アイツは……ラウラは俺が止める」

「シンっ!?」

「無理だよ!! 三人掛かりでも足止めすら出来ないのに――」

 

 二人からの反論をシンは右腕を挙げて制し、瞳を閉じると静かに語り始める。シンの脳裏にはあの時、ステラを連合に返した時にその手助けをしてくれたレイの言葉が蘇る。

 

「本当に死にたい奴なんて何処にもいない……『どんな命だって生きられるなら生きたい』から……明日が欲しいから皆今を生きようとするんだ! だからっ! ……レイが望んだ明日をラウラに見せてやる!」

 

 次第に力強くなる言葉、そしてシンの毅然とした決意の現れに一夏もシャルロットも何も言えなくなる。そして次に口を開いたのは一夏であった。そこに迷いはなく、友の強い思いを信じるものを感じさせる。

 

「……分かった! お前の『思い』、ぶつけてやれ! シン!」

「ああ! 当然だ!」

「でもどうするの? エネルギーの残りも少ないのに……」

 

 シャルロットの懸念は最もである。長時間の戦闘でデスティニーのエネルギーは底を尽きかけている。今のラウラを相手にするにはあまりにも心許ない。

 しかしその点はシンにとって、そしてデスティニーにとって問題ではなかった。C.E.で造られたデスティニー――正確にはザフト製MSセカンドシリーズ機体に分類される本機は特定条件を満たせばエネルギーという問題から解放される。そして現在、このISアリーナはその条件を十分満たしていた。その為にシンは管制室にいる真耶に通信を繋いだ。

 

「山田先生! デュートリオンビームをっ!」

『えぇっ!? あ、アスカ君っ!?』

 

 突然のことに真耶は戸惑う様な返事を返すが、その時点でシンは既にフィールドを飛び立ち、セッティングを済ましていた。

 

「早く! やれますか!」

『は、はい! デュートリオンチェンバースタンバイ! コアネットワーク式追尾システム、デスティニーを補足しました!』

 

 半ば怒鳴る様な声で急かされ、真耶は慣れぬ動作で先日アリーナに試験的に増設されたデュートリオンビーム送電器を立ち上げる。アリーナ上空を飛ぶデスティニーをコアネットワークを通じて赤色レーザーがデスティニーに狙いを定める。

 

『デュートリオンビーム、照射!』

 

 IS射出口側面に新たに増設されたデュートリオン加速器から高指向性ビームに変換されたエネルギーが空を走り、空高く飛翔したデスティニーの胸部クリスタルパーツに照射される。これこそC.E.という戦乱の中、ザフト技術陣が作り上げた全く新しいエネルギー供給システム『デュートリオンシステム』である。そのシステムはハイパーデュートリオンという核エンジンとデュートリオンシステムのハイブリッド機体であるデスティニーにも使用可能である。

 パワーがみなぎり、デスティニーが再び獰猛な唸りを上げる。それはまるでシンの思いを、折れない意志を具現化している様であった。シンは目を閉じ、過去に思いを馳せる。そこで現れるのはシンを支え、助け、そしてシンの守りたいと願う心を誰よりも理解してくれた友の姿。

(レイ……俺に力を貸してくれっ!!)

 そして再び瞳を開いたとき、その瞳には菱形の紋様が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

――クオリファイア因子の増大を確認――

 

――クオリファイア因子、一定値を突破――

 

――クオリファイア因子増幅炉、始動――

 

 

 

 

 

 

 瞬間、デスティニーの胸部クリスタルが眩いばかりの緑色の光を放ち、その光は各部クリアパーツへと広がっていく。同時にこれまでの激戦で傷ついたデスティニーの装甲の損傷部分が輝き、修復されていく。シンはそれにわずかばかり驚くも、どこかその現象を理解しているかの様な表情で見つめる。

 全ての準備が整った。

 不安もない。

 只、己の思いをラウラにぶつけ、撃ち貫くのみ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 シンが吠え、デスティニーがその紅き翼から虹色の光を放ちながら高速で迫る。迫り来るシンにラウラは黒影の復讐者(シュヴァルツェア・アヴェンジャー)は回避しようとするが、その動きは先程と比べ物にならない程緩慢であった。

 

『くっ!? 『身体』が重い……真逆『彼女』が……っ!?』

「はぁっ!!」

 

 シンがアロンダイトを振るい、右背部から伸びる赤紫色に鈍く光る光波翼を切り裂く。『ラウラ』は小さく舌打ちしながら後退し、残った光波翼、そして両手から光球を生み出しシンに向け撃ちだす。しかしその全てがシンを包む薄い燐光によって弾かれる。

 

「逃げるなっ!! ラウラ!! 運命とか、そんな言葉で自分を偽るな! お前の本当の思いを吐き出せ!」

『何を言うか! どれだけ足掻こうが、結局は何も変わりはしない! 『世界』は何も変わろうとしない!』

「違う! お前の『意志』がお前の全てを変える!」

 

 シンは更に一歩踏み込み、残った光波翼全てを切り裂く。『ラウラ』が放つ抜き手の一撃をシンは紙一重で避け切り、返す刀で両腕部マニピュレーターを断ち切る。

 

「お前が望めば、世界はっ!!」

『それは何不自由の無い者達の戯言だっ!! 世界はいつでも『私達』という存在を――』

 

 

 

 

 

「・・・・・・きたい・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

『っ!? 君は』

 

 突如ラウラの口から漏れるか細い言葉に『ラウラ』は驚愕する。見ればラウラの右の瞳は金色から元のルビーの様に紅い瞳に戻っていた。『ラウラ』の驚愕と裏腹にラウラの口から言葉は更に漏れる。それはラウラの偽らざる『願い』だった。

 

「わ・・・・・・たし・・・・・・は・・・・・・私は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

生きたい・・・・・・」

 

 『ラウラ』ではなくラウラの口から掠れる様な、心からそれを――生きたいと望む『願い』が零れ、紅い右目から涙が流れる。

 それを認めたシンは静かに言う。

 

「安心しろ

 

 

 

 

 

 

必ず助け出す」

 

 その言葉が届いたのか、ラウラの紅い瞳が優しく笑う。一方の『ラウラ』の混沌に渦巻く金色の瞳は深い憎悪によって歪む。

 

『ええいっ!! 所詮は『君』も『人』枷から逃れられぬ存在・・・・・・おごぉっ!!』

 

 『ラウラ』の言葉は半ばにシンが放つ一撃によって途切れる。その勢いは止まらず、シンの右腕がラウラの顔を、『仮面』を掴む。その掌から輝くのはパルマ・フィオキーナの輝き、闇を撃ち貫く光の輝きである。

 

「生き方が見つけられないなら俺が一緒に探してやる! そんな仮面も、お前にまとわりついているのも全部俺がぶっ壊してやる! だから、生きろ! ラウラぁっ!!!!」

 

 シンの魂の叫びが光となり、パルマ・フィオキーナ――全てを撃ち貫く力がラウラの仮面を、そして闇を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 そして、シンとラウラの視界を光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 光が満ちた空間の中、シンとラウラはそこにいた。ラウラは意識を失っており、力なく倒れている身体をシンがその腕の中に抱える。静かに眠るラウラをレイと被らせながら、シンは自分達の目の前にいるソレに目を向ける。

 ソレ――光の中でも尚存在し続ける『闇』は人の形となり、シンに問いかける。

 

『いいのかね? いくら綺麗事を言ったところで『彼女』という存在はあまりにも儚い。今、君が彼女を救った所で結局は同じ……『闇』から生まれた彼女は『闇』へと還る……』

 

 『闇』は静かにシンに語る。シンはそれを言い返そうとしない。彼の心の奥に芽生え、根を張りつつあるナニカがそれが真実だと告げていた。シンは自身の、C.E.で見て、感じ、そして知ったことを思い、だけど、と願う。

 

「そうかもしれない。結局は俺の言っていることは只の甘い理想かもしれない……でも理想があるから、願いや希望があるから人は人でいられるんだ」

 

 シンは『闇』をにらみ返す。その瞳には何があろうと覆されない、確固たる『意志』が込められていた。

 

「レイは僅かな生命の中で生きたいと願った……ラウラもそれを望むのなら、俺はそれを支えてやる……支えられてばかりで支えてやることの出来なかったレイの分まで支えてやる! だから、消えろ!」

 

 最後のシンの叫びと共に『闇』は光の中でその居場所を失い、消えてゆく。そして、シンの視界もまた、光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 気がつけばシンの意識は、再びISアリーナへと戻っていた。

 

「シンっ! 大丈夫か!?」

「一夏……ああ、大丈夫だ」

「ボーデヴィッヒさんはっ!?」

「眠っているけど、怪我はないぜ」

 

 心配そうに駆け寄る一夏とシャルロットにシンは適当に返しつつ、視線を自身の腕の中に眠るラウラに向ける。黒影の復讐者(シュヴァルツェア・アヴェンジャー)へと姿を変えたシュヴァルツェア・レーゲンは機体体積の増加分を石化させ、ボロボロの状態ながら元の姿へと戻っていた。そしてラウラもまたあの異様な姿と気配を失い、その瞳を閉じていた。

 その表情は、普段の猛々しいそれからかけ離れ、まるで怖い夢を見る子供のようであった。それを見てシンはまるで昔のマユだな、と思わずにはいられなかった。

 

「全く、手間のかかる奴だよ。お前は」

 

 妹を持つ兄の様な目でシンはラウラを優しく見つめ、その頬を優しく撫でた。そんなシンに、ラウラは甘える様な仕草で硬く、しかし温もりを感じさせるデスティニーの腕の中で小さなその身体を擦り寄らせるのだった。

 




どうも。パクロスです。昔懐かしいゲームキューブソフト『ポケモンコロシアム』の主人公って今思うと遊戯王の遊星と雰囲気諸まんまだな、と最近思うパクロスです。

やっと完成でございます、PHASE-13。文字数見たらとうとう超えちゃったよ2万字……時間もかかるわ考えるもしんどいわでございます。

今回は学年別トーナメント+ちょこちょこ色んな重要なキャラ登場な回です。特に目立つのは変態仮面ことラウさん。あのキャラ、表現が難しいだけに書くのがホント大変でしたよ。
続いて亡国機業の皆さん。こいつらは原作でも特に謎めいたキャラばっかで内面表現とか無いのでいっそ完全オリジナルの方向でいっちゃえ!って感じで原作の亡国機業と完全に別物化しております。特にスコール姐さん! 色気ムンムンの良い女を意識して書いたんですがどうですかね?官能小説的な言い回しで書いたのですがこれがまた難しい。多分姐さんの部分で執筆時間の四分の一使ったんじゃねえか、って気がしますよ・・・・・・
亡国機業で書くことと言えば謎の総帥ファントム。胡散臭さ満タンで登場したオリキャラですが、一夏とシンに相当関わってきますからね。

他にメンドイは盟主王なんですよ。あいつの喋り方どう表現しようか相当難しいですからね、小説版読んでも語尾に規則性が感じられないものですしね。

とりあえず簡単に締め括ると全体的にキャラの表現に気を遣った回でした。

バトル方面ではシンとラウラという組み合わせでやらせていただきました。まあ、後半からもう無茶苦茶になってますけど。
戦闘は前半は一夏に焦点当てて、後半はシンをメインに、と別々にスポットを当てて見ました。理由としては一夏の成長速度ですかね。この作品では一夏が大分強くなっているんでそれが一番分かる様にしようと書いてました。というか当初はもう完全に一夏が主人公な感じになっちゃってまして(代わりにシンが背後霊レベル)流石に駄目だろうな、とコチャコチャ変更して今の形になった訳でございます。結果次回の最後のオチが凄まじいことになるんですけど・・・・・・。

ラウラのキャラは原作の時点で既にレイと同じ感じだったんですけど、ラウラをコーディネイターの出来損ないにしたりと設定変更した結果最終的にはレイの話が離せなくなったんですよね。お陰でシンの喋り方とか一番しっくりするのはどういうのとかしんどかったっす・・・・・・

で、途中から何かどこぞの変態仮面に体乗っ取られて機体まで魔改造されたラウラ・・・・・最初は真逆の『リリなの』の闇の書の防衛プログラムの劣化コピーが変態仮面によって憑依させられるとか相当とんでもない感じだったんですけど、最終的にはこういう形になりました。え?『アクエリオン』でそういうキャラいなかったっけ?し、知らないなぁ!別にゼシカに乗り移ったミカゲが元ネタとかそういうの全然ないなあ!(←おい)
黒影の復讐者ですけど、モチーフはスパロボOGのR-GUNリウ゛ァーレ(八房版)です。RoA読めば分かると思いますけど諸アレです。いやぁ、書いてて楽しかったぁ(おい)

では最後に重要な告知をさせていただけます、これ初めてなんですけど、皆さんからアイデア募集したいと思います。テーマは白式第二形態です。
原作じゃ三巻で第二形態移行する一夏の白式ですけど、この作品では完全オリジナルの機体に魔改造するつもりです。が、まずいことにネタがまるでおもいつかないんです。正確には思いつくことは思いつくんですけど、正直到底出すに出せない駄作しか思いつかないもです。何で他のメカのネタはポンポン出てこれだけ全く出ないんだ・・・・・・。
一応大まかな方向性は定まっていて
・名前は白+肉食獣を思わせる一文字
・機体コンセプトは第一形態よりもワイルドな戦い方をする機体(素手でぶん殴ったりとか)
・ノリ的にはサテライト壊れて改造されたGXディバイダーみたいな感じ
といった感じなんですよ。ここぞ!といいアイデアを持っている方がいらっしゃいましたら是非感想の方で一つ宜しくお願いします。あ!っという様な機体を楽しみにしています!

という訳で二週間以上かかりましたよ今回。次回は第二章のシメなんで何とか短く(でも相変わらず突拍子もない設定の嵐で)終わらせたいと思います。そして次回が終わったら奴ことゼロの登場です。どうぞお楽しみに。では。

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