IS×GUNDAM~シン・アスカ覚醒伝~   作:パクロス

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書き溜めの分はこれでおしまいで、次から新規執筆となります。
後前回説明し忘れたのですが、シャルルの苗字はこの作品ではデュプレになっております。何も説明しておらず申し訳ありませんでした。


PHASE-10:フランスからの来りし貴公子

「シャルル・デュプレです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さん宜しくお願いします」

 

 目の前の転校生――シャルル・デュプレは笑顔でそう言い一礼した。しかし転校生が男という事実にクラスの生徒全員が驚き、それに答える者は誰もいない。一泊遅れてやっと生徒の一人がゆっくりとつぶやく。

 

「お、男……?」

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を……」

 

 一人生徒の漏らした言葉にシャルルがそう答える。その瞬間シンと一夏は教室内の空気が変わったのを感じた。

(あー、これはまさか……)

(来るなこりゃ……)

 この後に来るものを何となく察知してか、シンはすぐさま以前使用した耳栓で、一夏は両手で耳を塞ぐ。そして案の定それは来た。

 

「きゃ……」

「はい?」

「きゃああああああああああああ!!!!」

 

 次の瞬間、教室は女子の歓喜の声で埋め尽くされた。その威力、耳栓や手で塞いだ程度じゃ到底防ぎきれない。

 

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かったーーーー!」

 

 よほど転校生が男子だというのが嬉しいのかさらに女子達が騒ぎ出す。一方、当のシャルルは何が起きたのか分からず狼狽えている始末である。

(男……か)

 シンはそんな中、シャルルをじっと見る。礼儀正しそうな振る舞いに中性的に整った顔立ち。髪は綺麗な金髪で長く伸びたそれを後ろで丁寧に束ねている。体格は同年齢の男の中では小柄な方で華奢な体格だ。そんな外見から第一印象は正に貴公子といった感じだ。

ただ、どうにもどこかおかしい。具体的にどこが、と聞かれると上手く説明できないのだが、何かがおかしいとシンは感じた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 千冬がそう言ってやっと騒ぎが収まる。と言っても皆未だに興奮が収まらない様である。恐らく千冬が去ったらまた騒ぎ出すだろう、とシンは内心そう思った。

 

「ではHRを終わる。各人は直ぐにに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 そう千冬が締めくくりHRは終わった。シンと一夏は直ぐに着替えに更衣室に向かう。何せここは二人を除けば全員が女子。早く更衣室に向かわなければ変態扱いされるのは確実だ。

 

「おい織斑、アスカ。デュプレの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

「あ、はい」

「分かりました」

 

 教室から出るところで千冬にそう言われ二人は直ぐに返事をする。それを聞いた千冬は授業の準備の為に真耶と共に教室を出ていいった。

 

「君が織斑君? 初めまして。僕は……」

「ああ、いいから。それより早く行くぞ。シン」

「応」

 

 シャルルが挨拶をしようとするが、今は更衣室に向かうのが先だ。一夏はシャルルと手を取り、シンと急いで教室を出る。今日は第二アリーナ更衣室が空いてるのでそこで着替えることになっている。更衣室に向かう途中、一夏はシャルルに説明する。

 

「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替えだ。これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん……」

 

 シャルルはそう答えるがどうも歯切れの悪いものである。顔を見ると若干赤くなっている。

 

「どうした? トイレか?」

「トイ……!? ち、違うよ!」

「? ……! おい一夏! 前!」

「え? ……って、げっ……」

 

 そのシャルルの反応に先程感じる違和感がより強く感じたシンだったが、地響きと勘違いしそうなぐらいの大量足音が耳に飛び込んだ瞬間それは吹き飛んだ。

 

「ああ! 転校生発見!」

「しかも織斑君とアスカ君も一緒!」

 

 HRが終わり噂の転校生を見るべく廊下に出てきた生徒で溢れ出していた。今ここで捕まったら質問攻めになり遅刻するのは間違いない。おまけに次の授業は千冬が担当なので遅刻したらただで済む筈がない。

 

「織斑君とアスカ君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

「しかも瞳はエメラルド!」

「きゃあ! 見て見て! 二人! 手! 手繋いでる!」

「転校生は受け? それとも……ぐへへへへ!」

「日本に生まれて良かった! ありがとうお母さん! 今日の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 転校生を目の当たりにして女子生徒が騒ぐ騒ぐ。腐った女子やら罰当たりな女子もいるが気にしないでおこう。こうしている間にも時間は迫り、廊下は女子であふれていく。

 

「面倒だな。一夏、逃げるぞ!」

「応!」

 

 シンの呼びかけに一夏が答えると二人はシャルルを連れて全速力で廊下を走る。反応の遅れた女子達が慌てて追いかけるもその前に角を曲がったりして上手く撒いた。それから数分してやっと更衣室に到着した三人だが流石花真っ盛りの時期というべきか、男子を追いかける女子の底力は侮れず三人共肩で息をしてしまう。

 

「はあ……はあ……」

「ぜえ………だ、大丈夫か? シャルル?」

 

 息の切らしているシャルルに一夏がそう気遣う。それにシャルルは大丈夫だと答えるが、次にそれにしても、と続ける。

 

「でも何で皆あんなに騒いでたの?」

「へ?」

「いや、この学園って男は俺たちしかいないんだから皆珍しがるだろ?」

 

 そう不思議そうに聞いてくるシャルルに一夏は間抜けな声を出し、シンはシャルルに分かりやすく説明する。

 

「あ! う、うん! そうだね!」

 

 今気づいたような反応を見せたシャルルが慌てて答える。それがシンにはより違和感を感じてしまう。一方の一夏は何も感じてない様で、ともかく、と続ける。

 

「何にしてもこれから宜しくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

「うん。宜しくね、一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

「応! ……ってシンも挨拶しろよ。ほら」

「ん……シン・アスカ。シンでいいぞ」

「うん。シンも宜しくね」

 

一夏に急かされシンもシャルルに挨拶するが、どうも違和感を感じてるせいかやや固い挨拶になる。段々強くなってくる違和感。しかし考えるのは後のしておこう、とシンは今胸に抱く違和感を隅に追いやる。見れば時間がもうそんなに無い。

 

「? どうしたんだ、シン?」

「……なんでもない。それより一夏、早く着替えるぞ」

「あ、そうだ! 急げ急げ!」

 

 残りの時間がないことを思い出した一夏は慌てて着替え始める。制服の上着を脱ぎ上半身裸の状態になる。

 

「う、うわぁっ!!」

「? どうした?」

 

 と、そこでシャルルが素っ頓狂な声を出す。気になったシンと一夏はシャルルの顔を見るが、何故かシャルルは両手で顔を覆ってしまっている。

 

「シャルル、早く着替えろよ。少しでも遅れると後が怖いぞ」

「う、うん! き、着替えるよ! でも、えっと、二人共あっち向いてて……ね?」

「? まあ人の着替えじろじろ見る気はないが……」

「……」

 

 そのシャルルの反応に疑問を感じる二人だが時間もないので今は着替えることに集中する。ISスーツを着かけたところで一夏はそういえば、と言いシャルルに声をかける。

 

「なあ。シャルル」

「え!? な、なに!? ど、どうしたの!?」

「いや、そこまで驚かれても……」

 

 そう言いながら視線をシャルルに向けるが、既にシャルルは着替え終わっており一夏はその早さに僅かに驚いてしまう。

 

「もう着替えたのか? 早いな」

「そ、そうかな? って一夏まだ着てないの?」

 

 今の一夏の恰好だが、ちょうど腰にスーツを通しているところである。シンはというともう下を履き終え上を着ようとしている。

 

「これ、着るときに引っかかって着づらいんだよなあ」

「まあ確かになあ。男なんだしもうちょっと着やすさを考えて欲しいよ」

「ひ、引っかかって……」

 

 引っかかって、というところでまたしても顔を赤くするシャルル。幸い今度はシンと一夏は首にスーツを通しているところなので怪訝に思われることはなかった。

 着替え終わり、第二グラウンドへ向かう途中、一夏はシャルルにさっきの続きだけど、と言う。

 

「シャルルのスーツ、なんか着やすそうだな? どこの?」

「ああ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけどほとんどフルオーダー品だよ」

 

 一夏の質問にシャルルがスラスラと答える。ISの世界に入ってまだ二ヶ月程の一夏とシンから見て、同じ男でありながら流れる様に答えられるシャルルが正直羨ましく感じるところである。

 

「デュノア社って言うと確か量産機の『ラファール・リヴァイヴ』造った会社だっけ?」

「そう、元々はフランスの民間軍事会社だったんだけど、ISが出てすぐにそれまでの武器開発を子会社に移譲させてデュノア社はIS専門企業としてISの開発から各種武装の製造まで行っているの」

「へぇ、随分詳しいんだな」

「ま、まあ、元々はデュノア社のIS開発スタッフだったから、これぐらいは……」

「開発スタッフ!? 俺らと同い年で!?」

「へぇ、大したもんだな」

 

 シャルルが元々は技術者だったということに一夏は驚き、シンもシャルルを見返してしまう。ISにしろMSにしろ、その開発を行うには様々な分野に秀でた知識と経験が必要である。それをシンとそう歳の変わらないシャルルがその職についているのだ。将来開発者を目指しているヴィーノが聞いたら羨ましがることだろう。

 

「う、うん。一夏が初の男性IS操縦者になってから世界中で男対象のIS適正検査が行われてね。それで僕にもIS適正があることが分かったんだ」

「それでそんなにISのこと詳しいのか……シャルルってすごいんだな!」

「そ、それ程でもないよ、アハハ……」

「……」

 

 ISの知識に詳しく、さらにはデュノア社の開発スタッフでもあったシャルルを一夏は尊敬と感動の眼差しで見つめる。謙遜しながらも気恥ずかしさから頬を染めながら照れ隠しに笑うシャルル。しかしどこかその笑いにはどこか乾いた感じがあり、シンは再度この少年に対し違和感を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

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「遅い!」

 

 第二グラウンドに到着して最初に飛んできたのは千冬のきつい一言であった。一応時間内に到着したのだが…………と文句を言えばたちまち出席簿が飛んでくるので何も言うまい。シン、一夏、シャルルの三人は一組の列の端に加わる。

 

「随分と時間がかかったわね」

「スーツを着るのに、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」

 

 列に入ったシンと一夏にそう言ってくるのは一夏の隣の列のセシリアと、後ろの二組の列に並んでいる鈴である。

 

「道が混んでたんだよ」

「嘘おっしゃい。いつもは間に合うのに」

「今日はシャルルがいたんだからしょうがないだろ」

「どうせまた何かやらかしたんでしょ。相変わらずワンパターンね」

「あ?」

 

  鈴の言いようにむっと来たのか、シンは眉間にしわをよせる。そして間髪入れずに鈴に言い返す。

 

「人のラーメンに大量の胡椒叩き込む奴に言われたくねえよ」

「何よそれ。先にあたしの麻婆豆腐にラー油瓶ごと入れたのがいけないんでしょ!」

「そもそも最初にお前が俺の缶コーヒーに塩入れたのが悪いんだろ!」

「何よ!」

「んだよ!」

 

 それから先は毎度恒例の口喧嘩に入る二人。しかし二人共思い出すべきである。今は授業中。そしてこの授業の担当は世界最強(ブリュンヒルデ)である。

 

「ほう? 私の授業だというのに……いい度胸してるじゃないか。ん?」

 

 その悪魔にも劣らない威圧感あふれる声が後ろから聞こえ、シンと鈴がビクっとするも既に遅し。次の瞬間大空の下、千冬の出席簿が振るわれる音が響き渡るのであった。一夏達は千冬の出席簿の餌食になった生贄二人に合掌し、普段の千冬の授業の様子を知らないシャルルだけが頭から黒煙を出しながら地に倒れるシンと鈴を不思議そうに見るのであった。

 

 

 

 

 

 

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 授業開始前に少々あったが、晴天下の元授業は通常通りに行われる。

 

「本日より格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「はい!」

 

 千冬の言葉に一組と二組の生徒が元気よく返事をする。合同実習で数が倍程に増えているので、返事もいつもより気合いが入っている様に感じる。

 

「くそー。こいつが吹っかけてきたのが悪いってのに…………」

「このバカのせいこのバカのせいこのバカのせい…………」

 

 その中先程千冬の折檻を受けたシンと鈴、この二人は頭でバカでかいタンコブを作りながら小声で互いを罵り合っていた。ここでまた喧嘩をしたらエンドレスになりかねないので二人とも睨めつけあうだけで手を出したりはしない。

 

「今日は戦闘を実演してもらう。ちょうど活力に満ちている馬鹿共がいることだしな。アスカ! 凰!」

「「は、はい!」」

 

 千冬に呼ばれて慌てて前に出る二人。それを確認した千冬が再び口を開く。

 

「まず手本を見せてやる。二人とも、ISを機動しろ」

「……よりによってこいつとかよ」

「あら? ひょっとしてあたしに負けるのが怖い?」

「あ? 誰がだよ? 返り討ちにしてやろうか?」

 

 相変わらずの二人はそのまま二人共互いを睨めつけあう。千冬はその様子を見て溜息をつきそんな二人に一言加える。

 

「あわてるな馬鹿共。お前達の対戦相手は…………」

 

 しかし千冬の言葉は上空から聞こえる空を切り裂く独特の音に遮られる。そこから一拍置いて聞き覚えのある声――IS『ラファール・リヴァイヴ』を展開した真耶が同方向からシン達のいるグラウンドに向けて真っ直ぐ飛び降りようとする。

 

「あああああああ! ど、どいて下さぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 否、飛び降りるのでは墜落している、と言わんばかりの様子である。どうやらスラスターの制御に失敗した様である。あれで本当にIS学園(ここ)の教師なのか、シンはたまに本気で疑問に思ってしまう。ともあれこのままでは落下の衝撃で怪我は間違いないので全員即座にその場から蜘蛛の子を散らすかのように逃げる。

しかしその中、逃げ遅れた馬鹿が一人、一夏である。

 

「えっ!? あ、ちょっ!? って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

  遅れて気づくも既に遅く、一夏は真耶と激突しそのまま砂塵を撒き散らす。直前に白式を展開したらしく暫くしてうう、と一夏の声が聞こえ無事であることをシン達に知らせる。それに胸をなでおろす一同だが暫くしてようやく砂塵が晴れると、そこにあった光景に思わずシンは頭を抱える。

 

「……またあいつは……」

 

 思わずシンはそう漏らす。その頬は若干赤い。他の生徒を見れば皆似たような反応だ。

 現在一夏は真耶の上に乗っている状態で、さらにその手は真耶の豊満は胸を鷲掴みにしてしまっている。そこ、「おい一夏、今すぐ代われ」とか言わない。

 

「お、織斑君……ちょ、ちょっと離してもらえると先生、嬉しいんですけど……」

「え? ……って、うおっ!?」

 

 真耶が恥ずかし気に言い、そこで今の状況を把握した一夏が慌てて手を離し真耶から離れる。そしてその状況を見てあの連中が黙っている訳がない。

 後ろから何か空を切り裂く音が聞こえ、思わず一夏が振り返ると、上段からいつの間に用意したのかIS用近接ブレードを振り下ろす箒の姿が。

 

「おわぁ!」

 

直前で気づいた一夏はどうにかその一撃を逃れ、慌てて距離を取る。しかし箒はそれだけで終わらせる様子はなく再度上段に構える。

 

「ふ、ふふふ……外してしまったか、ふふふ……」

「怖えよ箒! マジでやめてくれ!」

 

 笑ってはいるものの目が全く笑っていない箒。狙われた人間からすれば怖いどころの話ではない。しかし一夏の受難はまだ続く。

 

「いいいいいいいちかああああああああああ!!!!」

「え? っておい! 鈴!」

 

 何か連結音が聞こえるな、と思いながらシンが音のした方向を見ると、シンの隣に鬼も形無しの形相の鈴がいた。先の連結音は鈴のIS『甲龍』の近接武装『双天牙月』の連結音のようであった。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 鈴はそう叫びながら連結状態の双天牙月を一夏に投擲する。一夏は慌てて避けるも、連結された双天牙月はその形状からブーメランの様に戻り、一夏の後ろに直撃しようとしていた。流石にこれはよけられない。そうシンが思ったときだ。

 

「はっ!!」

 

 突然真耶のその掛け声が聞こえると同時にアサルトライフルの発射音、そして放たれた弾丸が鈴の双天牙月を弾き落とす音が響く。シン達が慌てて音の聞こえた方向を見れば、倒れた状態から僅かに上体を起こしただけの体勢で両手にマウントしたアサルトライフル『ヴェント』を構えている真耶の姿があった。

 (あの体勢で撃ったのか?)

 そう思ったのはシンだけでなく千冬を除いたその場にいた全員がそうであろう。それなりの射撃能力を持ちISのハイパーセンサーを用いればあれぐらいの精密射撃は造作もない。しかしあの体勢で、となると話は別になる。これは真耶の実力を示している。

 

「ふう……織斑君、怪我はありませんか?」

「は、はい。大丈夫です」

「そうですか。良かったあ。篠ノ之さん、凰さん。いくらISが展開されてるからといっていきなり攻撃してはいけませんよ」

「は、はあ……」

「すいません……」

 

 そんな空気の中、真耶は一息ついてから一夏、箒、鈴、それぞれに声をかける。先程の離れ業の件もあってその声はいつもよりしっかりしている様に聞こえる。先程の真耶の動きに驚いたままの三人は真の抜けた返事をしてしまう。

 

「山田先生はこう見えて元代表候補生だ。今くらいの射撃は造作もない」

「む、昔の話ですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

 そう千冬が説明すると共に真耶が千冬の側まで飛んできながら恥ずかしげに言う。その表情も先程のしっかりしたものからいつものそれに戻っている。

 

「お前ら、いつまで惚けている? さっさと始めるぞ」

「え? 二対一、ですか?」

「いや、流石にそれは……」

 

 いくら教師でもキツイのでは、そう言いかけたところで、千冬がふっと挑発するような笑みを浮かべる。

 

「安心しろ。今のお前達なら負ける。特にアスカ、以前勝ったからといって甘く見ていると瞬殺だぞ」

「「む…………」」

 

 そう言われて二人共眉間に皺を寄せる。シンの方は以前真耶に勝利したことがあるだけにカチンと来たようだ。すぐさま二人はデスティニーと甲龍を展開し飛翔する。真耶も同様に空中へ飛び立つ。

 

「では試合開始!」

 

 三人の準備が完了したのを認めた千冬の掛け声と同時に三人が一斉に動き出す。最初にシンがビームライフルを立て続けに撃ち放ち、それに鈴の衝撃砲が加わる。真耶はその弾幕を巧みに回避し、逆にアサルトライフルを連射する。

 空中で三人の戦いが繰り広げられている中、地上では全員がその様子を見ていた。

 

「さて、今の内に………デュプレ。山田先生が使用しているISの解説をしてみせろ」

「あ、はい」

 

 千冬に言われて空中の戦闘を見つつ、シャルルが説明を開始する。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。同じくデュノア社の第一世代IS『ラファール』をベースに開発された機体で、第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装」が特徴的な機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありがら世界第三位のシェアを持ち、七か国でライセンス生産、十二か国で正式採用されています。特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないこと、多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。装備によっては……」

「ああ、もう良い。そこまででいい。終わるぞ」

 

 シャルルの説明を千冬が途中で中断させた直後、空中で派手な爆発が起こり、そこからシンと鈴が地面に思い切り激突した。どうやらうまい具合に誘導されたシンと鈴が空中で衝突、その隙を逃さずに真耶が二人にミサイルの斉射を浴びせた様である。

 

「くそ~……鈴! よく見て動けよ! 空中でぶつかるとかどういうことだよ!」

「う、うるさいわね! あんたこそよく見てうご……っ!? ちょ、どこに手つけてんのよ!?」

「え? ってうわ!?」

 

 鈴の台詞にシンは自分の手を見ると、うまい具合に鈴の胸に乗っかっていたようである。一夏に続きお前もか、と言いたくなる状況である。

 

「あんたどういうつもりよ! 人の胸揉むなんて!」

「揉んでねえよ! ってか誰が好き好んでお前の胸なんて揉みたがるんだよ!」

「なんですって!」

「やんのかオラァ!」

 

再び喧嘩勃発。もうこれは二人のデフォルトみたいなものなのだろう。しかしそこは授業中。千冬が二人の近くまで寄ってから出席簿を振り上げる。

 

「「うごぉぉぉぉぉぉぉぉ……」」

「お前ら、喧嘩ならよそでやれ」

 

 若干呆れ気味に言う千冬。何度も同じことの繰り返しだがこいつらに学習能力はあるのだろうか、はたはた疑問である。周りの生徒も毎度の事であるがやや苦笑いである。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

 千冬はそう言いひとまず場の空気を整える。そして全員の意識が切り替わったのを確認すると再び口を開く。

 

「専用機持ちはアスカ、織斑、オルコット、デュプレ、凰だな。ではグループになって実習を行う。各グループのリーダーは専用機持ちが行うこと。では始めろ」

 

 千冬の言葉に従い生徒達が一斉に別れる……といきなり女子のほとんどがシン、一夏、シャルルの三人に集まりだす。セシリアと鈴には一人も集まっていない。完全に判断ミスであったことに気づいた千冬は溜息をつき怒鳴り声をあげる。

 

「貴様ら! さっさと出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 次にもたつくようならIS背負ってグラウンド100周させるぞ!」

『は、はいー!』

 

 千冬の剣幕に恐れをなしたか、もしくはグラウンド100周が効いたのか、女子達は蜘蛛の子を散らすように移動し、すぐさま五組のグループに別れた。

 

「はあ……初めからそうしろ馬鹿者共」

 

 千冬が疲れた様に溜息をつきながらそう言う。その後は順調に授業が開始されるのであった。

 

 

 

 

 

 

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「あー…………重かった…………」

「たくよ……日本人は思いやりの心が大事じゃないのか?」

「いやいや、シン。半分ぐらい外国人だから」

 

 午前の実習が終わり、シンと一夏は更衣室に戻ろうとしていた。なお終了時に授業で使用していたISは格納庫に戻すのだが、およそ数百kgはあるそれを専用カートに乗せて人力で行うので中々ハードだ。特にシンと一夏のグループは「そういうのは男の仕事でしょ」と言われてほとんど一人で運んでいたので尚更だ。ちなみにシャルルのグループは「デュプレ君にそんなことさせられない!」といって体育会系の数人の女子が運んでいた。その扱いの差が何とも腑に落ちない感じのシンと一夏だったりする。

 

「まあ、いいや。シン、シャルル。着替えに行こうぜ。俺達はまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしな」

「ああ、分かった」

「えっとぉ…………僕はちょっと機体の微調整をしてから行くから、先に行って着替えといて。時間がかかるかもしれないから、待たなくていいよ」

「あ、じゃあ待とうか? 俺は別に…………」

「シャルルがいいって言ってんだから行こうぜ、一夏。早いとこ飯にするぞ」

 

 一夏が言い終える前にシンが一夏を引っ張りながら更衣室に向かう。腹が減ってしょうがない様子である。一夏がまだ何か言ってるが無視する。

 シンと一夏がいなくなり辺り一帯が静かになる。その中、シャルルはポツリと呟いた。

 

「ごめんね、一夏、シン……」

 

 その言葉は何に対してなのか、それはシャルル本人にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

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「……どういうことだ?」

「ん?」

 

 昼休みの屋上、唐突に箒が口を開き、一夏がそれに不思議そうな声を出す。この状況でそんな真の抜けた声をよく出せるなとシンは半ば呆れ気味に思った。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」

「そうではなくてだな……!」

 

 そんな一夏に箒が声を荒げる。完全に意味を取り間違えている。箒がチラリと隣を見ると、「抜け駆けするな」と言わんばかりに睨めつける鈴、それと大分居心地悪そうに一夏を睨めつけるシンとセシリア、それと縮こまっているシャルルがいる。

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食べた方がいいだろ。それにシャルルは転校してきたばかりで右も左も分からないんだしさ」

「そ、それはそうだが……」

 

 本当は一夏と二人きりで食べたかった箒だが、到底この鈍感男が理解できるとは思えない。チラリとシャルルの方を見ると、シャルルは申し訳なさそうな表情をする。

 

「はい一夏、アンタの分」

 

 そう言って一夏にタッパーを投げる鈴。手に取った一夏がタッパーの蓋を取る。

 

「へー、酢豚か」

「美味そうだな」

「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

 

 タッパーの中を覗き見たシンがそう漏らし、鈴が自慢げに言う。

 ちなみにIS学園は全寮制で、学食以外に弁当持参にしたい生徒の為に朝限定でキッチンが使えるようになっているのでこうして朝少数だが弁当を自分で作ったりする生徒もいる。

 そして鈴の酢豚をチラっと見てセシリアが大きなバスケットを一夏の前に出す。

 

「一夏さん、実はわたくしも今朝は早く目が覚めたものでして、こういうものを用意してみましたの。よければ一つどうぞ。皆さんも、さあ」

 

 そう言い終えたセシリアはバスケットを開く。中には美味そうなサンドイッチが綺麗に並んでいた。そう、見た感じは綺麗に。しかしそれを見たシャルルを除く一同がゲゲッと言った表情に変わりだす。セシリア・オルコット、彼女の作る料理はひどく不味い。どうも見た目が綺麗ならそれで大丈夫だと思っている節があるようである。

 

「……なあ、セシリア。この間一夏が食べた時死にかけのゴキブリみたいなリアクション起こしたの忘れたのか?」

「あ、あのときは少し調味料の配分を間違えただけですわ! 今度は大丈夫でしてよ!」

「ドクペの味のするシチュー作った奴が言っても説得力ないわ!」

 

 ちなみにその時シンも一緒に食べたのだが、あまりの酷さに「ああ、ステラ…………時がいえるよ……」と危うく変な世界に飛びかけたので若干トラウマになっている。

 

「あ、あんまりですわ……! そうですわ! 日本に古くから伝わる栄養ドリンクというのを作ってみましたの! そちらは本をちゃんと読んで作りましたの」

「それ、普段は本読んで作ってないってことじゃ……」

 

 シャルルがセシリアの発言に突っ込むもセシリアは華麗に無視する。そしてバスケットと一緒に持ってきた魔法瓶の蓋を開けると……何やら紫の煙を上げながら泡立っている紫色の何かが見えている……

 

「汁・アンド・ヘヴン!?」

「何かボコボコ言ってる!?」

「な、なんだ? この飲み物は? 形容しがたい色……さわやかな喉ごしが全く期待できないとろみ……あと、爬虫類っぽいものも見え隠れしてるような……」

 

 あまりに衝撃的なドリンクにシン、シャルル、一夏が一斉に突っ込みをいれだすもセシリアは聖母のごとき迷いの無い爽やかな笑みでそれらを返す。

 

「よく分かりませんが、これを飲むと気力が150になるそうですわ」

「その代わり確実にHPが10まで減るだろ!」

「ま、まあ、それはまた後で貰うから、な?」

 

 セシリアはそのク○ハ汁もどきを手に取り天使の微笑みを浮かべながらそう答えるが、持っているものが持っているものだけに中々シュールな光景になっている。とりあえず一夏の一言で何とか事態は収まった。先延ばしにしただけの様にも感じるが気にしないでおこう。

 

「それにしても、僕が同席しても良かったのかな?」

 

 ここでシャルルが遠慮がちに言う。今日IS学園に転入してきたばかりのシャルルからするとこの仲の良い面子の中に入るのは気が引けるのだろう。しかしそのことに気づいてか一夏が何言ってんだよ、と言う。

 

「せっかくの男子同士なんだし仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうけど、まあ協力してやってこう。――IS以外で」

「あんたはもうちょっと勉強しなさいよ」

「してるって。多すぎるんだよ。覚えることが」

「確かに多いよな。大体お前らは入学前から予習しているから理解できてるだけだろ」

 

 一夏の若干文句混じりの発言にシンも同意する。入学前に何とか一通り頭に叩き込んだシンだが、元々時間がそれほどあった訳でもないので所々抜けていたりしている。実際始まってみるとよく分からないところも色々あり苦労している。一夏程でもないが、授業についていくのは中々キツイ。

 

「ええまあ、適正検査を受けた時期にもよりますが、遅くても皆ジュニアスクールの内に専門の学習を始めますわね」

 

 つまりシンと一夏は一年の中で大分遅れている様だ。特に一夏は参考書を捨てるというポカをやらかしたばかりに余計そうだ。

 

「ふふ。ありがとう。一夏って優しいね」

「っ! ま、まあ気にするなよ」

 

 シャルルが笑みを浮かべながらそう言うと、何故か一夏は顔を赤らめながら恥ずかしげに返す。それが変に感じたのはシンだけではなかった。

 

「なに顔赤くしてんのよ」

「まさか一夏、お前そっちの気が…….」

「な、なんでそうなるんだよ!」

 

 疑わしげな目で見る鈴とシンに一夏は慌てて言い返す。とはいえいつものあの鈍感さを考えると逆に納得できてしまうのがなんとも言えない。見れば箒とセシリアも白けた視線を送ってきている。何とか話題を変えようとする一夏。と、そこで箒が後ろに隠してあるものに気付く。

 

「そ、そうだ! 箒、そろそろ俺の分の弁当を貰えるとありがたいんだが……」

「っ!? あ、そ、そうだな! よし、ありがたく受け取るがいい!」

 

 一夏に急かされた箒は慌てて弁当を差し出す。それを見た一同は逃げたな、と一瞬思った。弁当を受け取った一夏は早速弁当を開ける。

 

「おお! こいつは美味そうだな!」

「どれどれ……へえ、確かに美味そうだ」

 

 開けた瞬間、一つ一つ手の込んだ弁当の中身に思わず一夏は感嘆の声を上げる。気になったシンが覗くが、同様の反応を見せる。

 

「どうだ。中々なものだろう」

「ああ。これはすごいぜ、箒……て、あれ? お前の弁当に唐揚げ入ってないけど?」

「わ、私はその……だ、ダイエットだ! だから一品減らしたのだ!」

「え? 箒、別に太ってないだろ?」

 

 箒の言葉に疑問を感じた一夏が箒の体をそれとなく見るが、途端にセシリアと鈴がかみついてくる。

 

「あんたはどこ見てるのよ!」

「え? いや、俺は……」

「もう! これですから殿方はデリカシーが欠けてるのですわ!」

 

 まだ噛みつく二人に一夏は悪い悪い、と必死に謝り続ける。こういうのを見ていると別にISがなくても男は女より弱いんだな、とシンは思ってしまう。

 

「しかし、お前らの弁当、美味そうだな」

「何? あんた欲しいの?」

「そういえばシンって自分で飯作ったりしないのか?」

 

 シンのぼやきに似た一言に気が付いた鈴と一夏がシンにそう聞き出す。

 

「まあ、親の仕事柄家にあんまいなかったし妹がいたから料理はしてたけど……途中で色々あって(・・・・・・・)14の頃には寮生活だったから今は全然だな」

 

 一瞬昔の出来事を思い出し少し悲しい気持ちになる。最初の頃は黒焦げにしたりしてマユに嫌な顔をされて、次こそは、と次の日に作ったチャーハンはマユに「美味しい!」と目を輝かせて言われて嬉しかった。

 思えば昔の俺ってマユがいたから頑張れたんだな。マユが嬉しいそうな顔をしてくれるから何でも頑張れたんだな。

 昔の思い出を夢想し、少し俯き気味になるシン。シンの事情を僅かながら知る鈴は何とも言えない気分になる。

 

「…………あたしの酢豚、少しなら食べてもいいわよ」

 

 そしてそんなシンのことを思ってか、突然鈴がそう言いだす。鈴のその申し出に一瞬シンは驚いてしまう。

 

「いや、別にいいけど。一夏の分もらえばいい話なあ、一夏?」

「ああ、俺は構わないけ「あたしがいいって言ってんだから食べなさいよ!」どうしたんだ?」

 

 何故そうも自分の酢豚を食べさせようとするのか疑問に思うシン。暫く黙考してハッと気が付く様子を見せる。

 

「お前、まさか毒を『ジャキッ!』…………すいません。ありがたくいただきます」

 

 言いかけたところで鈴が双天牙月を構えだしたので即座に前言撤回する。そして鈴から酢豚の入ったタッパーを受け取る。

 

「えっと、じゃあ、いただきます」

 

 そう言ってまずは一口。

 

パクッ

 

「…………お?」

 

パクッ

 

「お?」

「あ」

 

パクパクパクッ

 

「おお!」

 

パクパクパクパクパクパクパクガツ…………

 

「っていつまで食べてんのよ!」

「うごっ!?」

 

 段々音が『パクパク』から『ガツガツ』に変わりだしたところで鈴が怒りの飛び蹴りをぶちかまし、シンは諸に喰らってしまう。

 

「いててててて………」

「いつまで食べてんのよ!? もう全然ないじゃないの!」

 

 痛そうにシンが背中をさする中、鈴がそう怒鳴りタッパーに指差す。見ればタッパーにあった酢豚はほとんど無くなってしまっている。

 

「……あー、悪い」

「嘘付け! 全然思ってないでしょ!」

 

 そのままいつもの喧嘩に移るのかと思われたが、よく見るとシンの方は若干どうしようか迷っている様子である。すると、気恥かしげに頬を掻きながらポツリと呟く。

 

「いや、その……あんまり美味いもんだから、つい……」

「え!? う、嘘つかないでよ!」

 

 シンのその一言に鈴の逆鱗は一気に潜み、頬を若干赤くしながら言う。

 

「いや、本当に美味い。久しぶりに美味いモン喰った気分だよ」

「そ、そう! 美味しいっていうなら別にいいわよ!」

 

 シンがますます褒め、鈴がそれに恥ずかしそうな表情ながら嬉しそうに答える。普段の二人には全然無いその光景に一同は思わず目を見張ってしまう。それを見た普段の二人を知らないシャルルが次の一言を漏らす。

 

「二人ともなんだかんだで仲がいいね。ひょっとして付き合ってるの?」

「「ぶふーー!!」」

 

 そのシャルルの爆弾発言の直後、シンと鈴は全く同じタイミングで思い切り吹き出す。そして二人共顔を真っ赤にしながら一斉に騒ぎ立てる。

 

「何言ってんのよ! なんでこいつなんかと付き合ってることになるのよ!」

「お前の目は節穴か!? 午前の授業見ただろ! どこが仲がいいんだよ!」

「え? いや、でも日本には「喧嘩するほど仲がいい」って諺があるって聞いたけど」

 

 シャルルの発言に再び抗議する二人。

 

「どこがよ! 誰がこいつと!」

「そりゃこっちの台詞だ! こんな色気もへったくれもない女のどこがいいんだか…………」

 

 そこでそんなことを言ったのがいけなかったか、鈴の怒りの矛先は再びシンに向かう。そこに先程の仲良さげな雰囲気はどこにもない。

 

「どういうことよ、それ!」

「どうもこうもそういうことだよ!」

「キーーーー! あったま来たーー! さっき食べた酢豚返しなさい!」

「もう俺の胃袋の中だよバーーカ!」

「じゃ吐きなさい! 今すぐ!」

 

 鈴がそう言ってシンの後ろに回ると首を絞め、吐き出させようとする。これには応えたのか段々とシンの顔が青ざめていく。

 

「ちょ……これはまずい……ギブギブ……」

「うるさい! さっさと落ちなさい! このこの!」

 

シンが降参の手を上げるも鈴は手を緩めず絞め続ける。このやり取りはもういつものことなので誰もシンの助けに入ろうとしない。それにしても、と皆が思い、一斉に言う。

 

『やっぱ仲いいじゃんお前ら』

「「だからどこがだよ!!」」

 

 シンと鈴の息の合った返答に思わず笑ってしまう一同。そうしている内に平和な昼の一時は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 夕食も済ました夜、シンは自室でダラダラと過ごしていたが、途中で一夏にCDを借りていたことを思い出し、暇なこともあり返し行こうと一夏の部屋まで行くことにした。歩くこと数分、一夏の部屋の前に到着したシンは軽くノックをする。

 

「一夏、シャルル。シンだ。入るぞ」

「ああ、いいぞ」

 

一夏とシャルルに一声かけてからシンは二人の部屋に入る。シャルルの部屋はちょうど箒が抜けた一夏と同室ということになったようである。

 

「一夏ぁ、この間借りてたCD返しに来たぞ」

「ああ、サンキュー。今お茶入れるところだけど飲むか?」

「ああ、じゃせっかくなんで飲むわ」

 

 それを聞いた一夏は早速急須に茶葉を入れ準備する。シンはとりあえず手前のベッドに腰を下ろしお茶ができるのを待つ。

 

「はい。できたぞ」

「おお。ありがとさん」

「ありがとう、一夏」

 

 一夏が出来上がった日本茶をシンとシャルルに渡す。そして全員一口飲んで、全員一息つく。

 

「紅茶とは随分違うんだね。不思議な感じ。でも美味しいよ」

「気に言って貰えて何よりだよ。 シンはどうだ?」

 

 シャルルの感想に満足した一夏がシンに聞いてみる。それに対するシンの感想は微妙なもんであった。

 

「まあ、美味い、かな? あんま味を気にしない方だからよく分からないなあ」

「そうか?」

「まあ、コーヒーもいつもは缶とかインスタントだからな。正直豆から入れる奴の感性がよく分からんなあ」

 

 

 

 

 

 

<その頃のC.E.>

 

「ぶえくしょん!」

ダコスタ

「隊長、ホントに大丈夫ですか?」

「うーん、今度は何か僕の趣味を馬鹿にされたような…….」

ダコスタ

「いや、人の趣味にケチつけるつもりはないですけど、隊長は仕事より趣味を優先するのが問題です」

「厳しいねえ、ダコスタ君は……さてと、出来たぞ! 今日のは自信作だ!」

ダコスタ

「……ダメだこりゃ」

 

 

 

 

 

 

「シン、どうした? 変な顔して」

「いや、何か変な映像(ヴィジョン)が……」

 

 何やら今朝の夢でも似たようなものを見た気がするがどういうことだろうか。まあ深く考えないでおこう。

 

「そういえば一夏達はいつも放課後にISの特訓をしているって聞いたけど、そうなの?」

「ああ。俺は他の皆から遅れているからな、地道に訓練時間を重ねるしかないんだ」

 

 ちなみに今日は一夏がシャルルの引っ越しの手伝いの為、一夏抜きで行ったが、一夏狙いの三人は完全にやる気のない状態だったのは記憶に新しい。

 

「まあ今月は学年別トーナメントがあるから一層気を引き締めないといけないしな」

「そういえば学年別トーナメントがあったな。出来れば優勝目指したいところだな」

 

 一夏がそう付け加え、シンがそれに同意する。学年別トーナメントとは学年別に行われるIS対決トーナメント戦のことである。これは生徒全員が強制参加なので一週間もかけて行う大規模なイベントである。このトーナメントで一年は初期訓練段階での先天的才能評価、二年はそこから訓練した状態での成長能力評価、三年はより具体的な実戦能力評価とそれぞれ目的が異なる。特に三年の試合はIS関連企業や各国の重役が人材引き抜きの為に観戦に来るので大分大がかりになるようである。

 

「あ、じゃあ、僕も加わっていいかな? 何かお礼がしたいし、専用機もあるから少しくらいは約に立てると思うよ」

「おお、それはありがたいな。宜しく頼む」

「うん。任せてね」

 

 シャルルはそう答えていつもの優しげな笑みを浮かべ、それに再び一夏が顔を赤くする。そんな一夏にシンがからかいながらも、シャルルに対する違和感を感じざるを得なかった。

 そうして新たな仲間が増えてこの日は過ぎていくのであった。

 




どうも。パクロスです。『TRIGUN』に出てくるキャラとか設定を『覚醒伝』に入れられないか考えてるパクロスです。

今回は基本原作通りの流れですが、所々にネタがちょろちょろと……前回もありましたけど、虎とダコスタ君の会話、あれ面白かったですかね? ちょっと気になるところですが。あとセシリア作成ク○ハ汁、あれはセシリアの料理ベタから思いついたネタです。ちなみにシンがその時言った「汁・アンド・ヘブン!?」ですが、気になる方はニコニコで『スーパーロボット大戦OGクロニコル』で検索してみてください。色々ネタそこから引っ張っています。

という訳で今回は特に書くこともなくあとがき終了です。次回は黒兎登場第二章で一番書きたい部分でございます。お楽しみに。

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