真祖の眷族   作:賢者神

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 私事ですが、アンケートしております。活動報告にて。時間がある人は協力してもらえるとそれだけ完結が早くなると思います(すぐに終わるとは言ってない)

 地獄の釜が開く――!






奮い立つ

 

 

 

 

 

 必要のない殺生はするな――というのがシンプルな願いかつ指示。

 アラルブラと合流する事に成功したボク等は以前から計画していたアリカのクーデター騒ぎに協力する事になり、アラルブラと共同戦線を張る事になった。

 ラカン(バカ)も見つかり、ネタ帳も取り返せた。ガチムチ♂の写真集でも作って社会的に殺してやろうかと考えたが戦争が終わるまで辛抱しろとテオドラの一声があり、大人しくする事にした。テオドラの言う事を聞く理由はないが新しい契約でレア物のアーティファクトを貰う代わりにクーデターの間だけはある程度の命令は聞くようにしている。

 クソ。このレア物が悪いんだ。テオドラのワガママに付き合うのはただの地獄だ。

 

 

「このネタ帳なんですが、少々お聞きしたい事がありまして」

 

「ワシも聞きたい」

 

「オイコラ。どこで手に入れたそれ」

 

「ジャックの持ってきた手帳を写しての。興味深いものもあるが理解ができんものが多い。故に研究しがいがあるというものじゃ」

 

「燃やせ。人の物を勝手に写してるんじゃねーよ」

 

 

 が。更なる不幸が訪れた。ラカンに奪われていた手帳の中身を余す事なく別の手帳に写していたのだ。それも完璧にやってるので誤魔化す部分も誤魔化せない。

 マジかー。よくよく考えたらネタとはいえ魔法の宝庫とも表現できるこれを見たら魔法使いなら誰でも見たがるわな。寧ろこの二人で助かったと考えるべきなのだろうか。

 

 グダグダと余計な事を考えながらウェスペルタティアの首都、オスティアにある王城を見上げる。アラルブラの連中と駄弁りつつ、別働隊のアリカの合図を待つ。あっちにはナギ君やラカンに退魔師の青山がいるからどうとでもなる。頼むから前みたいなヘマだけはしないでくれよと思わずにはいられない。

 こっちの陽動兼制圧部隊はボクを含めて暴れない常識人(?)組。もう少し付け加えれば手加減上手の手段を持つ武闘派が選ばれたわけだ。青山クンは残念ながらバカ二人のストッパーのようです。

 アルビレオだのゼクト君はやらないのかと問えば至極簡単で簡潔な答えをもらった。

 

 

「ワシ、前の当番終わっとるし」

 

「買収して詠春に任せました」

 

 

 お前は相変わらずだなとアルビレオに言う。それほどでも、の反応が腹立つ。

 今回は当番はアルビレオだったが、アルビレオの策略によって青山君が生贄になったのだろう。南無南無ご愁傷様。後でお酒でもあげれば喜ぶかね?

 殺さずに生かす。魔法を使うのも手段の一つに数えられるが今回はオーソドックスにこれで眠らせよう。クーデターが終わればアリカが手配した兵隊が完全鎮圧する予定なので目覚めた頃にはもう終わっている。仕事なしでゴメンネー。

 こちらは第二次世界大戦を生き抜いた兵士の一人だ。一回死んだのはノーカン。暗殺術やら尋問術に拷問術までマスターしてる。殺さずに生かして無力化するのは某諜報機関の方々に教わった身としては今回のミッションはうってつけであろう。

 できるなら偉大なボス蛇さんに教わりたかったがあの人は仮想上の存在なので欲張りはしないよ。

 

 

「あのアホは他の誰かにもそれを見せたの?」

 

「いや、わからんわからんと言いながら読んでおったのをワシが見つけて没収したから多分見ておらんだろ。コッチは狙いすましたように向かってきおったわ」

 

「どうも」

 

 

 そんな照れた様子をしても誤魔化されんぞ。絶対面白そうな気配がしたから来ました的なニュアンスだろ。敏感なのはよくわかっているぞボクは。

 

 

「じゃあ君等を黙らせればあれが世に出る事はないって解釈でいいかね?」

 

 

 ザワザワと空気が一変するのが肌でわかる。にこやかだがにこやかに込められた感情は真反対の物騒なものではあるが。

 殺気が張り詰めた空気に変わると、アルビレオとゼクト君はすぐに反撃できるように態勢を整える。しかし、この一瞬があればもう十分なレベルにいるのがこの場にいるアラルブラだからこその単純な作業。

 

 

「これは渡してもらう」

 

「! いつの間に!」

 

「伊達に世界最強は謳われていないからね……うーわ。ここまでよく見事に写したもんだよ君等は。けど人の物を無断で写すのはよくないと思わない? というわけで焼却」

 

 

 人間、平常から臨戦態勢に移る瞬間に意識をスイッチする。つまりは別の所に意識を移すとか何とやらの人間の脳のどうたらこうたらである。エヴァンジェリンはミスディレクションに近いものであると言っていた。

 僅かな隙を狙い、自分に向いた意識を利用して影の魔法で素早く後ろから模写したであろう手帳やら巻物を奪ったわけだ。中身を流し読みをすればそれはもう、完璧に手帳の中身を書き写している。殴り書きの自分と違って彼等の考察もいくつか書き込まれてある。

 非道なボクは無常にもこれを燃やしてしまいます。魔法で起こした火が跡形もなく焼き尽くして綺麗に消え去る。

 

 

「何という事をしたんじゃお主は」

 

「いやいや。中身を勝手に見た挙句に書き写すのよかはマシだと思うけど? どうせ君等の事だから予備はあるんでしょ? アルビレオはそこまで残念がってないだろ」

 

「わかりますか?」

 

「わからないなら目が腐ってるかお人好しかだ」

 

 

 もーやだ。よりにもよってこの二人なんだから苦労も増えるものだ。クソ筋肉ダルマをもっと嬲ればよかったか。

 心底腹立つ笑みを浮かべるアルビレオ。こういった人種は予備の準備を怠らない。人をおちょくる態度に裏付けされた人を騙せるアルビレオが性悪たる所以、先を読む策士の考えは凡人程度は簡単に欺けるだろう。

 ちょっと思い付いた事を言えば案の定、当たりだったようである。あの長い裾に入れている手で握っているんだろうなと考えられる。

 

 

「フフフ。実はここ以外にも予備は取ってありまして。これを奪って燃やしてもまだまだ蘇ります」

 

「……こいつが敵じゃなくてよかったと思わない?」

 

「それは同感じゃ。よくよくあのバカ弟子に付いて行ったものだと感心する」

 

 

 敵だと容赦なくネタに走って世界を滅ぼす事をしそうだもんな。この野郎は。

 

 始まる前から疲れきった。後日、少しずつ焼却処分をして闇に葬ろう。ボクなき世界にあの技術は必要ない。

 というかそれが原因で混沌化した世界を救えって呼び出されるのも勘弁願いたいしね。憂いはない事が一番良いもんだ。エヴァンジェリンは別として記憶にあっても記録は残さないようにするのが目的。今は脱線しているけど戦争が終結したら本腰を入れて存在を残さないようにせねば。割とマジで。

 

 

「お?」

 

「おや?」

 

「むっ? どうやら合図が来たようじゃぞ」

 

「どうやらプランBのようです」

 

「合流は城内の謁見の間。ほいじゃま、気合を入れてやりますか」

 

 

 ノリの良い二人は差し出した握り拳を軽く握り拳でぶつけてきた。作戦、開始である……しまった。プランBと聞けばあの名言を言うべきだったか……ま、いいか。

 ローブの内側から小道具を取り出し、アルビレオとゼクト君と共にオスティアの王城に突撃するのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。ボク等のチームは潜入チームの存在に気を取られないように暴れる事である。陽動とも言える働きをする為に派手な音を出しながら進撃するように、大爆進をしている。

 

 

「ほらほら邪魔邪魔ァッ!!」

 

 

 ま さ に 無 双 。

 

 殺さないように手加減をしつつ、飛び蹴りで城の中にいる兵士を蹴り飛ばしながら前へ進んで後退する。気を引くように大声を出しながら、出させながら。

 アリカからも少しくらいなら破壊してもいいとの許可があるのでサギタ・マギカで柱を削ったり壁を抉ったり。甲冑を纏う者同士をぶつけると大きな音が響くので魔法を使わない肉弾戦ではこちらを使う事が多い。

 フルに古武術を活用し、投げ飛ばし投げ飛ばし投げ飛ばす。殺すよりも生かすのが難しいと誰かが言っていた気がするが生かす方が楽だと感じるのはボクの本質を表しているからだろうか。悪になりきれない優しい悪さんみたいな。まるで猫を助ける不良のようだ。

 

 

「ワシ等、出番ないのぉ」

 

「まあまあ。仕事がないのが一番ですよ。それよりももう少し引き付けましょう。まだ時間が掛かるそうですし」

 

 

 働け貴様等! と叫びたいが文句を言うよりも手が出た。重甲冑の手頃な兵士を二人確保して傍観する二人に投げ付けていた。非難の声が上がるが無視無視。主導せねばならん奴等が働かんとはどういう事か。

 

 

「ぬ。良い機会だ。ショックウェーブとやらの魔法を実践してくれんかの。そうすればワシはもう二度とあの手帳には触れんと約束しよう」

 

 

 惚れ惚れするようなソバットで意識を刈り取るゼクト君が隣に降り立ってそんな事を言ってきた。小さな体でよくぞまあ、と思ったがこのレベルの魔法使いともなれば強化魔法の一つや二つはお手の物かと納得する。

 無力化するのに小道具を用意していたが、甲冑のせいで肌を傷付けられないのでもう仕舞ってある。第二次世界大戦の時は大いに役立ったのにとファンタジーの理不尽な部分にガッカリする。これなら木刀とかを持って来ればよかったか。

 

 

「嘘くさいんだが」

 

「ふむ。悪いがあれを見れば理解できたのもあればできなかったのもある。ショックウェーブはどういった原理で発動するのかよくわからんでの。ってのは建前で作った本人ならばどのように使うのか知りたいんじゃ」

 

「殴り書きしたのによくわかったね」

 

 

 にしてもショックウェーブか。確かにあれなら黙らせる方法の中では最も有効だろう。

 忘れてた。そんなのも作ってたな、と思い出す。広範囲で攻撃する魔法のイメージの中で最もイメージしやすかったので殴り書きをしたのもついでに思い出す。

 今では広範囲に攻撃するよりも自分で広範囲に動いて攻撃するのが主だからすっかり頭から抜け落ちていた。

 

 向かってくる兵士のの頭の部分、日本の鎧の兜のような曲線を描いた飾りをへし折りつつフルフェイスのそれを手で握り潰すように持ち上げる。悲鳴が聞こえ、兵士が攻め倦ねるのが視界全体に見える。

 殺すのはノーなのでヘルメットだけを奪って兵士は投げ返してやった。ナイスキャッチ。

 

 

「うーん。流石はウェスペルタティアの技術。魔法耐性だけはしっかりとしてんな」

 

 

 コンコンとヘルメットを叩いてゼクト君に渡す。迷惑そうに受け取ればすぐに床に投げ捨てる音がした。それはないだろう。

 触れてわかった事は“魔法の耐性力がどれほどあるのか”という事だ。この感じる力を考慮し、ゼクト君希望のショックウェーブの使用方法(・・・・)を決める。ただ作るだけなら凡人の魔法使いでもできる。一流と呼ばれるのはそれを如何に応用させるのか発展ができる者だけである。

 悪い魔法使い代表のボクはそれは容易い。どのように使うかも選択できる。

 パチパチと鳴り始める手に腕。隣のゼクト君が何をするのか、とワクワクしているような顔をしているのがよくわかる。

 

 

「ゼクト君のレベルなら属性付加はできるよね?」

 

「む。概念付加か。ものによるが一通りの属性は使える」

 

「吹き飛ばすだけであれば属性付加は必要ないけどあれば手っ取り早い無効化と戦略の幅が広がるから覚えていても損はないよ。あ。兵士の諸君。下手に抵抗すると死ねるから抵抗しない事をオススメするよ」

 

 

 腕を纏う雷。徐々に手に集中するように動くと色も少しずつ変化していく。兵士の顔がヘルメットで隠れていてもわかる脅えに何故だか顔が微笑みの形になる。フフフ……楽しくなってきた。

 

 

「これがショックウェーブの基本形」

 

 

 バンと雷の纏う手を床に押し付ける。イメージを構築、解放する。

 

 

「ギャアア!」

「ひぎぃ!」

「あばばば!」

 

「どう? これがショックウェーブの初歩。電気ショックと同じイメージでやると面白いようにできるから」

 

「エグい。まさに外道たる所以ぞ」

 

「敵味方関係なく攻撃するのはいただけませんが」

 

「え? 味方? いるの?」

 

 

 ゼクト君には余波は行かないようにしていたがこの性悪は当たらないように床から十分な距離を離して浮いてる。チッ、当たれば儲けモンだったのに。

 手に残っている雷の魔力を霧散させると追い出すように手をプラプラさせる。取り敢えず感想としては覚えていて良かった。失敗したら自分も感電していたであろうから。

 ショックウェーブの結果、生まれたのは死屍累々という言葉。痺れた兵士があちらこちらそこらに転がっている。聞こえた悲鳴の中に期待した言葉があって満足である。

 

 

「言っとくけど雷が一番安全だから。出力を弱めれば電気ショックになるけど強すぎると灰になる可能性もなしにあらずだから。後は戦闘能力を奪うだけなら氷もいいかも。氷の柩に閉じ込めるのをイメージすると大丈夫。言っとくが炎は使うな? 火もノー。あんだけエグい結果になるのは予想も出来んかった」

 

「心に留めておこう」

 

「約束だからな。もう二度と話題に出すな。絶対に中身を二度と見るな。二度と聞くな」

 

「善処しよう」

 

 

 このショタジジイは政治家か何かか。逃げ道だけは残しおって。だがそこは無言であるべきだったな。アーティファクトコレクターのエヴァンジェリンを知らないお前はたった一つの間違いを犯した。

 適当にあしらうゼクト君に見えぬようにこっそりと発動させたアーティファクトが動いているのを確認した。これでゼクト君は二度と手帳には触れられぬ……フーフフフ。

 

 

「これは……」

 

「おや。詠春。そちらは終わりましたか?」

 

「アリカ様が迎えに行けと言うのでな。来てみれば、殺したのか?」

 

「感電して動けないだけ。時間が経てば動けるようになる。アリカは少しでも戦力が欲しいと言うから生かしてあるだけさ。こうして会話するのは初めてかね?」

 

「お噂は予々。まさかあのご老体があなたであったのは予測できなかった。青山詠春、好きに呼んでください」

 

「彼、ミーハーですよ。それもあなたの」

 

 

 前も聞いた。あのまほら武道大会で。

 握手を求められたので何となく握ったが手の表面に感じるタコの存在に気付いた。タコができるほど剣を握っているのかと感心する。退魔師が剣を使うのかと前にエヴァンジェリンから聞いた時に突っ込んだがそんな退魔師もいるのだろうと納得しておく。

 挨拶もそこそこに、潜入チームは王城の謁見の間を既に制圧したらしい。遊び過ぎたかと思いながら青山詠春こと詠春に案内してもらう事になった。行く先に死屍累々の兵士がいるのかと思ったが意外とすんなりと行けた。あのフロアに殆どが集まっていたのかとボク等の仕事は満足に達成できたようでほっこりする。

 

 謁見の間の大きな扉を潜るとその先には別働隊の潜入チームが待っていた。アリカ、ナギ君、ラカン。あれだけボコボコにしたのに何でピンピンしてるんだラカンは。

 動けないようにやけに装飾の為された刀剣類を王様の周りに配置するのは圧巻だが器用に牢獄ができたのな。

 

 

「おーう。そっちも終わったもげぇ!?」

 

 

 ほぼ反射的に体が動いていた。反省も後悔もせん。

 意味のわからない叫びを上げながら吹き飛ぶラカン。自分でも綺麗なドロップキックができたと満足した。

 周りがポカーンとする中、アリカだけは何をしている的な目で見てきた。軽く背中を殴られてしまった。

 

 

「何をしておる」

 

「ボクは悪くない。盗んで拡散したアレが悪い」

 

「全く……さて。父上。いえ、先代国王よ。我等が何を行うかは理解できておられますな」

 

「……フン。稀代の悪の魔法使いと手を組むとは、我が血を継ぐ者としては恥曝しである」

 

「恥曝しだろうと何だろうと誰かの庇護に入って甘い汁を啜る王様なんざ悪でも何でも手を借りて王であろうとするアリカの方が十分に王様らしいさ。アンタは誰かを上に立たせた時点でもう王である資格は失ってるんだよクズ」

 

 

 神様であろうと。数多の世界の中には神に抗う人間もいれば王様もいる。そういった王に比べれば凡人以下だな。

 というか小物王様ってどうしてこう、縛られているのに自分が優位に立っていると思えるのだろうか。わざわざ威厳を持たせようとしていうのを見ると余計に滑稽に思えるのだが。

 何故だか感動した様子のアリカ。彼女の背中を押してやれば王様以上の王様らしい女王様の威風を纏う。まるで決別を宣言するように、父の栄光を打ち砕くかのように彼女は高らかに彼女の愛剣を大理石の床に叩き付けて鳴らす。

 

 

「――父、先代ウェスペルタティア国王の時代は終わりを告げる! 悪しき者と共謀した罪は何人たりとも許せぬものであり、父が娘、王女であるアリカ・アナルキア・エンテオフュシアが宣言する! 次代ウェスペルタティア国王となり、女王となり、この不毛な戦争を終わらせる事を誓おう!」

 

 

 いや、誰も聞いてませんが。と言いたいがよくよく見れば拡声アーティファクトを使ってる。子供らしい雑用をこなす子供二人に和んだ。

 

 

「立ち上がれ、民よ! 我が兵士よ! 敵は亜人にあらず! ヘラスにあらず! 戦争を扇動する裏で暗躍する者こそが我等の真の敵! 打ち砕け! ウェスペルタティア王国の刃よ! 我等はヘラスの刃と交わす事で折れぬ鋭き刃となろう! 今こそ反撃の時である!!」

 

 

 こういった演説は後の世に残るものなのだろうと思う。何だか安っぽい言葉を並べただけな気がするのは気の迷いのはずだ。覇気とかでゴリ押しすれば幾万の真言になるんじゃないだろうかと王族の宣言を聞いて思う。

 何はともあれ、ウェスペルタティアへのクーデターはここで終わりを告げた。新しいアリカ女王を筆頭に悪の根源たるコズモ・エンテレケイアを討伐する作戦が本格的に行われようとしている。

 同時に、ボクがこの世界に留まる時間のカウントダウンも始まる。

 

 そう思った瞬間、鼻が異物の臭いを捉える。誰か他にこの場にいると気付いた時には既に事は終えていた。

 先王の首が舞っていた。真っ赤な血を撒き散らしながらゴトンゴトンと床を転がる。首を斬られた胴体の首の断面から血が噴き出す。宣言を終えたアリカを避難させるように捕まえて後ろへ飛んだ。

 

 

「全員警戒!」

 

 

 ボクの言葉であっても先王の首が飛ぶ異常事態に警戒してるアラルブラは非力な子供二人とテオドラを守るように動いた。何故か一番安全なアリカの側にナギ君が来たわけだが。

 

 

「オイオイ。まさかコズモなんちゃらが攻めてきたのか?」

 

「いえ、この場合は口封じも考えられます。気配も魔力も悟らせない事を考えるとかなりの手練です。皆さん、警戒は怠らないように」

 

 

 警戒するアラルブラに動く。指をパチンと鳴らして音を響かせる。聴覚で捉えた音の波でいてはならない存在を炙り出す。

 ――いや、待て待て。この音と臭い。記憶を漁ると覚えがあるぞ。

 

 

「お久し振りでございます。マスター」

 

「チャチャシリーズ……うげぇ、エヴァンジェリンのか」

 

「はい。我等に命令をされ、マスターにこの文をと」

 

 

 侵入者は懐かしのチャチャシリーズの面々だった。先王を殺したのはこの中の……あれだ。血の滴る剣を持ってるもの。

 その中の一人から手紙を貰う。達筆な字で書かれた文章の内容に思わず顔が引き攣る。これは何とも由々しき事態だ。下手すればノーマルの難易度がノーホープとかいう鬼畜仕様に変更されてまう。

 

 

「貴様等……! 何故父上を殺した!」

 

「グランドマスターの契約に含まれていましたので」

 

「契約だと? ふざけるな。まだ聞く事は山程あったのに。奴等の本拠地の位置にどこまで王国を腐らせたのかを!」

 

「? マスターは本拠地をご存知ですが、知らないので?」

 

「!?」

 

 

 丁寧に手紙を畳んでいるとアリカに親の敵を睨むかのように見てきた。睨んでいると言ってもいい眼光だがちょっと泣いているので怖くとも何ともない。

 

 

「ほう。グランドマスターはエンテオフュシアの新女王を危惧しておられたようですが体も心も許されていないようで……フッ」

 

「こらこら煽るな煽るな」

 

「マスター。文の内容はご理解いただけましたか?」

 

「今まで逃げてきたツケが回ってきたんだ。お別れも近付いているし、面と向かって話すよ。君等はこれからどうするの?」

 

「グランドマスターの交わした契約はウェスペルタティア国王の殺害と幾人かの殺害で達成されました。これより、マスターのお世話をさせていただきます」

 

 

 膝を付いて頭を下げるチャチャシリーズ。周りは置いてけぼりになっているがそろそろ呼び戻そう。

 

 

「アリカ女王。約束は果たしたからボクは一旦用事を済ませてくる。ああ、奴等の本拠地だけど多分、あそこ。今まで虱潰しに候補を消してきたけど残ったのはあそこだけだ」

 

「……色々聞きたいがまず本拠地だけは聞こう」

 

 

 まさに灯台下暗し。アリカ、ウェスペルタティアの一部である彼女の盲点を突いたとも言える場所。

 チャチャシリーズが転移魔法を準備している最中、アラルブラにも目を配りながらアリカを指差して指をそのまま別の場所を指し示す。

 

 

「――墓守の宮殿。アスナ姫もそこにいるはずだ。だが恐らくタイムリミットは残り少ないはずだ。最短で、二日。明後日が魔法世界の運命を決める瞬間となる」

 

「墓守の――墓守り人の宮殿か! まさかあそこがコズモ・エンテレケイアの本拠地とは!」

 

「間に合わせる。ボクは今から造物主と戦えるだけの装備を整えてくる。明後日まで全ての準備をするんだ、君ならできるだろう? アリカ様」

 

 

 まだ聞きたそうなアリカを挑戦的に挑発しつつ問うた。負けず嫌いの部分もある彼女ならほら、簡単に乗って教えてくれる。嘗めるな、やり遂げてみせる、と。

 フッと笑いを零してチャチャシリーズの転移魔法に身を委ねる。如何にも格好良い別れ方をするが、内心こう思っていた。

 

 ――エヴァンジェリンと会うの、マジ気が重い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 クーデター完了。アリカの演説が安っぽいのは作者のパワーが足りないから。スマン。何気にハブられるガトウェ。

 次回は遂に後回しにしていた浮気騒動に終止符。期待せぬ方がよろしい。






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