真祖の眷族   作:賢者神

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 副題 「 や っ ち ま っ た 。 」

 もしもアリカがこいつを誘わなければ……クッ。



 進む度に投げやりになる文章。あるある。






邂逅す

 

 

 

 

 

 変わっていないなとまず感想を抱く。メガロメセンブリア、メセンブリーナ連合の支配領域内でも最も美しく儚いと自分の中で思うこのウェスペルタティアの王都オスティア。滅びに少しずつ向かっているこの国に来るつもりはなかったのに。

 王女様を口説き落とすために来たと言っても過言ではない目的を持ってアルビレオとゼクト君と共に訪れているわけだが。

 

 

「あー、やっぱ変わんないね。少し位デザインは変わってもいいだろうに」

 

「一気に変わる光景はそれはそれであれじゃろ。変わらぬ景色にこそ美しさはあると思わんか?」

 

「一理あるけど変化を一番恐れているって見方もあるんじゃないかな? いくら王国だからって今時王政なんか流行らんだろ」

 

 

 王国はこのウェスペルタティアだけだ。知る限りでは。小さいのもいくつかあるようだけど今、大きな王国といえばウェスペルタティア王国だけだと思う。

 

 

「いつまでも王様が支配できるわけではない。滅びた王国も知ってるしローマ帝国みたいにすぐに滅びる事もある。魔法があるからウェスペルタティア王国は長続きしているんだと思う。初代国王、女王のアマテルが有名だからこそ続いてる」

 

仮契約(パクティオー)システムも生み出しましたしね。様々な伝説を持っておられるアマテル様ならあながち嘘ではないかもしれません」

 

「一説だとそのアマテルは不老不死を成し遂げてると噂がある。もしかしたらボク等、正確にはエヴァンジェリンを吸血鬼にした秘法も彼女が考案したものかもしれない」

 

 

 研究の過程、エヴァンジェリンを元に戻す研究をする最中にそのアマテル様とやらが影をひょっこり出しては消えてる。

 ウェスペルタティア初代女王アマテル。様々な魔法の原点を生み出した偉大なる魔法使いというのが世間での印象だ。更に今の最先端の魔法でもアマテルはその上を行くとも言われている。

 不老不死の秘法も彼女が知っているとも仮定している。もしかするとエヴァンジェリンを吸血鬼にしたのもアマテルじゃないだろうかとちょっと怖い。

 

 断言する。今のボクとエヴァンジェリンが本気を出してもそのアマテルには勝てないだろう。まるで次元が違う。調べれば調べるほどにその事実を叩き込まれるようだ。

 

 

「誰でも悪を持つ。それがボクの持論、アマテルの中にも魔法を悪用する悪い心を持っているんじゃないかって思っているんだ」

 

「無意識な悪意ほど厄介なモンはないからのぉ」

 

 

 おお。これだけの台詞でよくわかってくれたな。やっぱりゼクト君は人間の感情を経験で分かっているようだ。

 無意識な悪意は過信する正義と同意義だと考えている。自分にとっては正義でも他人にとっては悪意。そんなパターンはエヴァンジェリンと共に何度も見てきた。正義の魔法使いと名乗るアホ共が良い例だ。

 

 ウェスペルタティアの街並みを久々に堪能しながらアルビレオに案内をされ、ゼクト君と話す。同じ経験をしているとこうも話は弾むのかと少し嬉しく思う。

 中世時代の王城の景色のそれと同じウェスペルタティアの王都、オスティア。幻想的な景色ではあるが戦争で立場は危うくなっている上にメガロメセンブリアとヘラス帝国の戦争のど真ん中だからピリピリした空気が張り詰めている感じもする。

 エヴァンジェリンなら百年戦争かと呆れそうだ。似たり寄ったりな雰囲気だから見てない自分でもそう思える。

 

 

「それで、どこまで行くの?」

 

「あそこです……おや。もうお待ちのようですよ」

 

「……!?」

 

 

 ウホッ。いいオトコ。いやいや。なんつーガチムチだよあの褐色大男。身長どれだけあるんだ。

 

 アルビレオが示した場所には異様な光景とも言える集団が待っている。特に目立つのは褐色肌の大男。他に立っている者と比べても背が高いってレベルじゃない。

 そして、だ。見覚えがある赤い髪の子供も見えるのは幻覚ではないだろうかと淡い期待を持つ。多分、顔が凄い顰めてるかもしれない。

 

 

「オイ。王女様だけじゃねーのか」

 

「護衛は必要でしょう?」

 

「アレが護衛に向いてると思うのなら脳みそ腐ってると思う」

 

 

 逆に考えるんだ。護るんじゃなくて向かってくる奴を殲滅すればいい、と……って単純思考の猪系男子だよ。あの子。護衛に向いていると言うのなら人を見る目があるかってレベルじゃない。

 見方を広げれば護衛にはうってつけだけど危害は少しあるんじゃないかな? かすり傷とか負いそう。

 

 

「何でナギ君がいるんだよ……!」

 

「主がいると知ったら仕事を全部放り投げて来ておる。悪いが構ってやってくれ」

 

「野郎のかまってちゃんはノーサンキュー。何でボクの事を知ってるん……」

 

 

 そういえばとアルビレオを見る。こいつが全部バラしたのかと思い出してげんなりした。エヴァンジェリン伝手で情報が行き渡っていたとしても何故ここまで広げる必要があるのだろうか。

 まあ、自分の愉悦感を満たすためだろうね。自分も似たようなものなのであまり責められない。

 

 

「もういい。あれがナギ君なのはわかるけどあれとあれは?」

 

 

 褐色肌の大男と隣にいる眼鏡をかけた堅物そうな男。他にも何人かいるが魔力を感じられないボクでも二人の気が凄まじい事は感知できる。褐色肌の方は何かヤバイ。ホモ的にも。

 

 

「大きい方はジャック・ラカン、眼鏡の方は青山詠春」

 

「ジャック・ラカン? もしかして奴隷剣闘士の英雄?」

 

「もう驚かんぞ。何で知ってるのかも聞かん」

 

「まあ、情報は命だし。魔法世界にいれば自然と耳に入る情報は頭に入ってる。ジャック・ラカンは傭兵としても戦士としても使える男だから尚更ね」

 

 

 金を出せば頼りになる男はいないとまで持て囃されていたからも付け加える。遊びとしか思えない異名を持つからかなりのインパクトもあった。剣が刺さらないんだけどあの男、とかおふざけだろ。

 それに、ジャック・ラカンは伝説の奴隷剣闘士であると共に典型的な成り上がりでもあるので少し気に入っている。こういうのこそ王道主人公なのだと思うんだ。

 

 

「青山詠春は知らないけど京都の青山家に関連しているのかな? 退魔一族の中にそんな名前は聞いた事がある」

 

「詳し過ぎじゃろ」

 

「情報が命とはよく言ったものです。後で弱みとか教えてくれませんか? 誰でもいいので」

 

「情報料ガ発生シマス」

 

 

 やっぱアルビレオは性格が悪い。はっきりわかんだね。

 弱みって出るところで性格の悪さがにじみ出ている。弱みを握るなんて薄い本になってしまうじゃないか……歓喜。今まで何度もやったので今更感があるけど。

 

 

「よし。じゃあ当ててやる……次にナギ君は覚悟しろ、と叫ぶ」

 

 

 ビシッとナギ君を指差す。それを合図にしてか赤髪の子供が地面を蹴って飛び上がってきた。一回飛び上がるだけであそこまでの飛距離を叩き出すのは何というか魔法なんだなと感心してしまう。

 ボクでも軽く蹴り上げるだけでフワッと浮けるがあんなに闘争心を剥き出しにしてがおーはやらんわ。恥ずかしい。

 

 

「覚悟しろー!」

 

「な?」

 

「馬鹿弟子ほど思考が簡単に読める奴はそうおらん」

 

「ですが戦闘となると奇抜な戦い方をするんですよね。天才というか奇才というか」

 

「いるいる。普段はアホでも戦いになると軍師顔負けになる奴が。孔明も真っ青なのが――おっと」

 

 

 パシィンといい音が手から響く。ナギ君のパンチを防ぐとパンチだけでナギ君の腕が上達しているのがよくわかる。魔力の込め方といい、パンチ一つだけで殴り方を知っているだけでこうも変わるのは自分がよく知っている。

 ナギ君の台詞を言い当てた後は防いだ拳を絡め取って肩を極める。腕ひしぎというなまえかわからないが地面に倒れてナギ君の腕を引きちぎるように引っ張ると面白い顔をしてナギ君が暴れ始める。

 フフフ。まだ手加減しているから暴れられるだろうが本当に痛くなるとそんな余裕も消えるだろう。さあ、苦しむがいい。いきなり殴りかかる君が悪いのだと告げてやる。

 

 

「――――!?」

 

「そーれ」

 

 

 ゴキゴキと骨が鳴る音が手を伝って聞こえる。まだ子供だからと手加減はするのは最強の魔法使いを目指すナギ君に失礼だ。かっこわらい。

 

 

「人に挨拶もせずに殴るなんて馬鹿か君は。これは躾だ」

 

「……いいぞもっとやれ」

 

「ゼクト?」

 

「いてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「叫ぶ余裕があるので更に伸ばしてあげよう」

 

 

 グイと引っ張れば言葉のない叫びを放つ。こうするとパンチの距離が少し伸びたりするんじゃないかなと実験してみる。

 ゼクト君が何を言っているか聞こえてしまうのは吸血鬼の卓越した聴力ゆえか。アルビレオはやれやれと言いたいような感じをして肩を竦めている。

 

 

「アルビレオ・イマ。此奴がそうなのか?」

 

「ええ。ご要望通りに連れて参りました」

 

「ん?」

 

 

 ナギ君がタップするのを無視しつつ、声が降り掛かる方へ顔を向ける。女性の声であるのは聞いてわかるが、誰だろうと首を捻る。

 まあ、件のアリカ様なのは丸分かりなのだが聞いていた黄昏のの容姿と異なる事に疑問を覚えずにはいられなかった。王族である事に変わりはないはずだからこの王女様も黄昏の彼女と同じなのかと思ったのに。

 

 

「こんな格好で失礼。君がアリカ様?」

 

「うむ。アリカ、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアじゃ。よろしく頼む」

 

「エンテオフュシア……本家の直系の末裔か」

 

 

 エンテオフュシア家。ウェスペルタティア王家の数ある家系の最もアマテルの血筋に近い一族だと歴史研究家、考察家が考えている。その末裔なのか。

 黄昏のもエンテオフュシア。という事は時代的に姉妹の孫? になるのだろうか。

 

 

「何を言った?」

 

「あ。いえいえ。こっちの話ですこっちの」

 

「ふむ……貴君の名前も聞きたいのだが」

 

「そっちは勘弁してくれ。お尋ね者なんだからできるだけ秘密にしておきたい……と言いたいところだけどこいつが適当に言い触らしたせいで秘密もへったくれもないか」

 

 

 名前……名前。偽名でいいか。契約次第ではすぐに終わる関係になるかもしれないし。

 

 

「好きに呼んでくれ。誰かさん等は悪い魔法使いとか悪の魔法使いとかしか言わないから誰も名前を気にしないでしょ」

 

「耳が痛い話だな」

 

「その誰かさんの一員のくせに他人面するの?」

 

 

 正確にはメガロメセンブリアに支配された地域の住人のくせに。である。クソ野郎共の上層部よかは随分マシだろうけど上が腐っていると下も腐ってるんじゃないかと思うのが性分である。

 やりたい放題してるからね。自分の非を認めるならまだしも正義のためと言うのだけは我慢ならん。

 

 

「それは失礼した。だが、妾はその誰かさんとは違う事はウェスペルタティア王国の王女として断言し、保証しよう」

 

「肩書きで保証するのは誰でもできる」

 

 

 正義の魔法使いだ! と叫ぶのと同じだと思う。知らない王女様に自分の肩書きを名乗られてもハァ? としか思えない。王女様だから皆が偉いってわけじゃないんだ。

 勝手な自論で勝手に失望したけど取り敢えずこの王女様、アリカ様の評価は一番下だ。正義の魔法使いよりかは上に位置するけど容姿をプラスして中の下位かな。美人さんは少しだけ上位補正するのが野郎の悲しい性だ。

 

 

「む。アルビレオ・イマよりも捻くれておらんか」

 

「捻くれ者としても有名らしいからの。この悪い魔法使いは」

 

「ゼクト君、喧嘩を売ってる? 悪い魔法使いだからって捻くれてるわけじゃ……あれ?」

 

 

 よくよく考えてみればボクもエヴァンジェリンも捻くれてるじゃないかと思い付いた。悪い魔法使いだからって皆が皆、捻くれてる持論は正しいのか?

 

 この間、ナギ君の腕を極めたままだ。アリカ様の周りにはまた見ない顔がいる。子供が多いのは気のせいだろうか。

 ジャック・ラカン、青山詠春? アリカ様にナギ君。知っているのはこれだけか。他はよくわからない。別に有名でも知り合いでもないのは明白だ。

 

 

「そろそろナギを離してくれませんか。王族の方と会話するにしてもその態度は好ましくありません」

 

「手綱はきちんと握っててよ。次に殴ってくるのなら本気で腕を引きちぎるよ」

 

 

 吸血鬼の膂力と魔力による筋力強化で人間程度ならブチッと取れると思う。前にドラゴンの翼を取れたから大丈夫だろう。

 

 

「お、おう」

 

 

 その脅しは効いたのかナギ君が吃りながら肩を回しては調子を確かめていた。少し距離を置いて顰めっ面もしているのがよくわかる。何だか恐れ慄いている感じがする。

 服の埃を払いながら立ち上がる。久しぶりにサブミッションを極めたが、絶好調のようだ。見様見真似。被害者の立場を経験した事でどうすれば極められるかわかる。エヴァンジェリンの場合は肉付きがよかったんだよ、プニプニ。

 戦わずして勝つ。その手段の一つを考えるとどうしてもそのサブミッションが必須になる事があったので実体験を含めて練習したわけで。

 

 

「では少し話をしよう。お主が悪の魔法使いだろうと色目で見るつもりはない。契約の話を進めたいのだ――妾達に力を貸してほしい」

 

 

 随分ストレートだ。回りくどい事は嫌いなタイプ、とまではいかないまでも要所要所で攻め方を変えるタイプなのだろうか。

 さっきまでのやりとりでそれを探っていたのだとしたら綺麗な容姿をしてえげつない考え方をする王女様なんだな。所謂、腹黒姫様。

 もしも。と考えればキリがない。考えたらそれだけで考察は無限にできる。考えた事が実際にそうだと言えるわけでもないので悪い癖になりつつあるこの思考を何とか直さないと人間不信になるな。

 

 

「契約次第。会談の人数は最小限で邪魔はなし」

 

 

 チラッと邪魔になりそうなのを見てみる。肩を回している、興味深そうにこっちを見ている、ビクビクしながら見ている。様々な反応だ。

 

 

「わかっておる。誰にも悟られない場所を用意しておいた……アルビレオ・イマ、フィリウス殿。妾と共に」

 

「ワシもか?」

 

「いえ、ゼクトは外させてもらいます。代わりに詠春とガトウを参加させていただきたい。ゼクトにはやってもらう事があるので」

 

 

 いちいち話を遮られたらストレス溜まるもんね。アリカ様もそこをわかっていらっしゃるようで助かる。一応、有能なんだな。王族だから当然だろうな。

 

 積もる話はまだあるものの、一旦切り上げて案内される事になった。軽い雑談は好きなように見えても切羽詰まった状況下になるせいか、早く話をまとめたいという気持ちがありありと見える。

 

 

 

 

 

 

 

 





 空気になってるけど紅き翼フルメンバー勢揃い。だけど転生オリー主はおらぬ。

 あくまでも自分の考えだけど踏み台転生者を用意すれば悪いのは全部踏み台って核爆弾級の地雷が最近広がってると思うんだ。え、前から? あいつは悪い事をしてるから俺は何でもしてもいいんだぜwww とか思うのは自分が捻くれているからだろうか。

 そんなのは嫌なんで踏み台さんは皆無。



 次回は会談。お転婆ロリ皇女も早くも登場。時期的には誘拐される前なんで大丈夫大丈夫。

 ドラマのTOUCHが面白そうなのでTSUTAYAで借りてきます 三┌(^o^)┘ サザーランドの高所恐怖症に萌えた。




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