突然だが、人は何か夢中になれるものがあればそれを学ぶ力は長けていると根拠のない理論を持っている。他人には理解してもらえない趣味、オタク趣味がその内に入っている。特定のアニメ等、二次元の作品の知識を豊富に持つ事が良い例かもしれない。
別にオタクが悪いわけではない。今ではオタク趣味と周りに言われていた事を感謝すらしている自分がいる。少しゲームに夢中になって繰り返しやっていると自ずと覚える事もあり、好きなアニメを録画して何度も見ていれば覚えられる。
生憎、それは周りに認められずに一線を引かれて同じ趣味を持つ人と仲良くなれない事はなかったが自分は真っ当だと勘違いする輩には困らせられたものだ。オタクはカツアゲをしても許されるなんて考えるアホに。
つまり、何が言いたいのか。
「初白星ゲットォォ!!」
「馬鹿なッ、この私が敗れるだと……!?」
信じられないといった様子のエヴァンジェリンを見下ろして叫ぶ自分。もし未来なら一瞬で国家権力の代行者にしょっぴかれるだろう。
ロリ少女を見下して高笑いする光景は犯罪臭どころではない。完全に婦女暴行やポルノに引っ掛かりそうだ。法律には詳しくないので何に当て嵌るかわからないけど。
「ふざけるな! 何だあのデタラメな戦法は! 貴様魔法使いを嘗めているのか!」
「ゴメン。何だか今はエヴァンジェリンの小言も負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだ」
「調子に乗るなー!」
つまりはそのオタク趣味のおかげでエヴァンジェリンやこの時代にいる魔法使いが非常識と非難される魔法を作り出す、もしくは思い出して再現する事ができるのだ。
特にファンタジーゲーム。クソゲーとネットで叩かれようともレビューが散々であろうとも自分の趣味に合うものは何でもやっていて正解だったわけだ。現代の世界観を交えたファンタジーゲームは特に。
身近にあるものが幻想に堕ちる。そんな設定が気に入っていたのかそういった類の魔法や超能力、超次元のパワーを扱う力をうろ覚えする事なくしっかりと記憶の中に留まっていたのだ。
自分でも記憶力がここまであるとは思わなんだ。学校で学んだ知識は忘れるくせにそんなどうでもいい事を覚えているなんて。
「何なんだあの
「百年も寝てたからじゃね。よく寝る子は育つって婆ちゃんが言ってた気がする」
「育つどころか別の生命体になってるぞ!」
酷い言われ様である。バグも何も
「氷は私の血と体液で適性を得られただろうが何で火まで使えるんだ!」
「あー、それはほら。寝たきりの原因となった正義の魔法使いさんだろうと思うよ」
炭になるまで焼かれて灼かれました。耐性ができれば自ずと適正も生まれると何かの二次元作品で読んだ気がする。
ブゴーと炎の化身のようになっている自分を指差して文句を言うエヴァンジェリンは凍えるような冷気を辺りに撒き散らしながら怒鳴っている。
相反する力がぶつかっているからかマグマの中に水を入れて足場を作った時と似た現象が起きている。段々と壁がそびえ立ち始めているからマギア・エレベアを介して発動しているマギア・エレベア最大の特徴である術式兵装というロマン溢れる魔法を解除する。
一瞬で体が凍りついた。
エヴァンジェリンの冷気が熱気という障害を失い、自分の体を凍らせてしまったのだ。氷の中からエヴァンジェリンに怒られ、叱られる声を聞くハメになった。
「急に解除したらそうなるわ馬鹿者がー!」
「……つまりは何か?
「生身だと雑魚だからさ。術式兵装を使えば瞬殺される事はないと思うから何よりもそれを極めてみました」
「極め過ぎだ阿呆!」
氷から解放された後もこっ酷く説教を受けた上にバグだと言われた戦法を認められなかった。
何を言うか。この戦法はスーパーサイヤ人になる前のカカロットさんが周りを驚かせた画期的なものだぞ。ナメック星のギニュー特戦隊すら驚いていたんだぞ。ベジータさんも舌打ちしてたんだぞ。
「そもそも古代呪文をどうやってストックしてたんだお前は。
「手って指が五本あるから凄いと思わない?」
「指にストックしとるか己はー!」
「親指は火、人差し指は雷、中指は氷、薬指は風、小指は水ってイメージで。片手だけでも事足りるし、もう片方は石とか学んだ古代語呪文を瞬時に発動できるようにしといた。マギア・エレベアは闇の系統だから手の甲の文様から発動できるっぽいよ」
「お前は……いや、もういい。弱かったお前は遥か彼方へ消えたのだな……」
失礼な。イメージが豊富で教材が豊富だったからできた事だ。もしエヴァンジェリンが未来のアニメを見れば凡人の自分よりももっと凄い魔法は生み出せると思う。
応用が効く便利な魔法だ。このマギア・エレベアは。魔法を発動する為に必要な魔力の操作を手伝うマギア・エレベアの隠れた特典を含めてイメージが焼き付いている二次元作品の魔法や超能力を再現する事もできるようだ。
マギア・エレベアさんマジチート。それを生み出したエヴァンジェリンさんマジ神。
戯言は置いておいて。眠る前のニキビのあった時の自分と比べればエヴァンジェリンの言うように別の生命体かと見間違うほど格段に強くなっている。
手も足も出なかったエヴァンジェリンに初白星をあげる事もできた事を踏まえれば誰だってその変化はわかると思う。
「はぁ。だが気を付けろ。安定しているとはいえ、使い過ぎは闇に食われる原因になるぞ」
「そう言うと思って短い時間しか使ってないよ」
一秒未満に術式兵装で変身、ぶん殴る事をしているからエヴァンジェリンのように常時発動時と比べれば闇に食われるという事はないと思いたい。
「大概チートだな」
「今は嬉しいその台詞」
できればもう少し極めたい。音速の壁(?)越えを目指して一秒の間に指にストックした魔法を術式兵装として使えるようになれるまでが理想だと思われる。カカロットさんは一瞬で戦闘力を高められるからね。
マギア・エレベアの魔法固定からの掌握、エヴァンジェリンは格好良くスタグネットからコンプレクシオーと言っているが、その過程と方法を俺流というかボク流に変えてエヴァンジェリン曰くバグ戦法に活用している。
時間を越える魔法は何がある? と問われれば幾つか覚えているものがある。越えるのではなく操作できる魔法の幾つかは。
時空魔法とか。行動を早める魔法や攻撃速度を上げる魔法ならすぐにイメージできる。ヘイストさんにはどれだけお世話になった事か。あれも時間に影響する魔法なので研究材料にはもってこいだと思われる。
仕組みがわからないので実現どころか再現すらも難しそうであるという大きな壁があるが広い世界に一つはあると思いたい。切実に。
「散髪の後の誘いだけど一人は寂しいから一緒に行ってもいい? まだマギア・エレベアの使い方をマスターしてないからもう少し教授してもらいたいんだけど」
「そ、そうか……ふ、ふんっ。そこまで頼むなら聞いてやらんでもないぞ」
エヴァンジェリンさんマジツンデレ。だけど可愛いと思うのはエヴァンジェリンの性格ゆえと悪ぶる姿が子供っぽいからだろうか。
本当はボクと一緒に行きたいのに吸血鬼としてのプライドが邪魔しているのか。勘違いかもしれないけど彼女と一緒にいる時間を考えればそんな感じがしてならない。典型的なツンデレさんみたいなヒロインさんである。
マギア・エレベア、闇の魔法のエヴァンジェリンが術と共に考えた戦い方はまだ理論のみ説明を受けていない。本来の戦い方とは違うそれにエヴァンジェリンももやもやしていると思うので聞こうと思っている次第だ。
殆ど根性理論で魔法を無理矢理使っている身としてはマギア・エレベアの影響で普通に魔法が使える事は嬉しかった。エヴァンジェリンと契約して魔力を借りてたものだし。魔法もお粗末そのものだった。
……よく勝てたな、ボク。
「あー、まだ出れんから今からでも教えてくれる?」
「ふははは。構わんぞ! やはりこういう事は私の方が優秀だしな!」
「あんま言いたくないけどその知識を全部覚えたらエヴァンジェリンって用済みじゃねーの? あっ」
機嫌取りに授業の時間を大幅に取られるのであった。
「veniant spiritus aeriales fulgurientes……」
やべっ。舌噛んだ。
「相変わらずだな、お前は。呪文の詠唱くらい噛まずに言えるようになれんのか?」
「すみませんねぇ」
い、イメージだけで魔法が使えるからいいし(震え声)
呆れた様子で隣を並んで歩いているエヴァンジェリンは舌を噛んだ“俺”を見てくる。舌を出しながら謝れば心底呆れ果てたように溜め息を吐いて首を振る。芝居掛かっているので少し腹が立つ。
エヴァンジェリンの“別荘”こと聞いた事はある瓶の中に船のミニチュアを入れるコレクタブルアイテムに酷似したボトルハウス? というのだろうか。時間の経過で出られる別名『持ち歩けるリゾート地』を仕舞いながら開いている片手で呪文の書かれた手帳を読み上げる。
この時代に社会人が使うような手帳があるのかと聞かれたらあれだが、未来から持ち込めた数少ない物品の一つだ。結構、重宝している。
計七冊。商店街のくじ引き大会で貰った文房具店の余り物だが忘れてはならないものを忘れずに覚えるには記憶力よりも大いに使えるひみつ道具だ。どうせならパソコンも持ち込めればよかったのに。電池などはともかくとして。
マル秘手帳の中身は主に家族構成に自分のこと。これだけで丸々一冊は使っているので家族孝行な息子だと思う。
残る六冊の内の三冊は埋まっている。四冊目を使用していてエヴァンジェリンの呪文の発音をルビを振ってしっかりとメモもしているが舌が回らない自分は噛み噛みである。
「無詠唱が得意とはどういう事だ。私の魔法を見ただけで完全にコピーをしおって」
「それはちょっと違う。エヴァンジェリンの魔法に近い魔法のイメージを最も再現できる魔法を選択して発動しているだけだ」
エヴァンジェリン十八番の最強魔法『おわるせかい』の劣化版『こおるせかい』もフリーズやらインブレイズエンドを参考にさせてもらっております。詠唱とか覚えてないけどシリーズを通して何度も見ていればイメージは固まるというものだ。
「うーむ」
「? 何を唸っている」
「それだそれ。演技とはいえ違和感が凄まじいぞ。ヘタレなお前を知っているとどうも慣れんな」
「演技をしろと言ったのはエヴァンジェリンだろう。俺の一人称はあの時に叫んだものがあいつが敗れた光景と共に焼き付かれているはずだ。少しでも存在を隠す為に演技をする必要があると言ったのはどこの誰だ? ……俺っての、威張ってるみたいで嫌いなんだけど」
「威厳あるだろ」
己は威厳があれば何でもいいのか。
「まあ、少しずつ慣れていけばいい。演じ分けができるようになればこの先何かの役には立つだろ」
「うむ。悪の魔法使いたる者、こうではなくてはな」
悪の魔法使いかどうかは置いておいて。密かにいかにも悪く見えるゲス顔を練習しているのでお披露目しておく。
何故かヒィと悪の魔法使いさんが威圧されていた。最早悪の魔法使い(笑)である。
「お、お、お前のその顔は怖すぎるんだ! 二度とするな!」
「……えー」
お気に召してくれるほど好評だったようだ。この調子で顔芸さん並のゲス顔で相手を脅す脅迫術を身に付けるとしよう。
するなと言われればやりたくなるのが人の性。完全にフリであると人は嫌でもわかるものだと改めて思い知らされた。
エヴァンジェリンの理不尽な命令はこれで対抗するとしよう。
泣きそうになるエヴァンジェリンをゲス顔で睨んでは遊ぶ旅の始まりは締まらないものだった。
タイムトラベラー兼いつの間にかチートになる天然野郎。エヴァと会う前はニキビを潰し過ぎてブラマヨのトレンディー担当の方みたいな顔をしてた。今は美人顔でモテそうな顔してる。吸血鬼化の影響。
凡人のオリ主が最強になる矛盾、あるある。