ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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第4話 立ちはだかる壁

「安心していいよ、トウコちゃん。きちんとキミがボクやユウト君を認めさせることが出来たらジムバッジはキミのものだからさ!」

 

 う〜ん、ジムリーダーがああ言ってるから良いの、かな?

 それに“全国チャンピオン”の実力、今までは映像なんかで見るか、傍でバトルしているのを見るだけだったから、面と向かっての対戦は今回が初めてだ。チャンピオンの力の一端を、肌で感じることもできるかもしれない。

 ベルたちの中でわたしはトウヤの持つチャンピオンマスターの座を目標にしているわたしにとって、今はまだ全然歯が立たなくてもいずれは届きたい、追い越したい頂にいるのが彼だ。なにせ彼は“全国チャンピオン”なんだから。

 

「さてトウコちゃん、まずキミが相手をするのはこの子だ」

 

 ユウトさんは持っていたモンスターボールを、掬い上げるように宙に放り投げる。

 放物線を描くような軌道で、その頂点のところで、パカリとボールがその大口を開けた。

 中からは白い光が、泉が溢れ出すかのように現れ、それがフィールドのある一か所に注がれる。ポケモンがボールから出てくる前兆だ。

 そして現れたポケモンは――

 

「チョボ、チョボマー」

 

 オムナイトみたいに巻いた殻を背負っているポケモン。殻の入り口部分は騎士の兜のような形をしていてその口から出ているピンクの部分は(あたか)も、唇を「ム~ッ」っと突き出しているようにも見える。殻の入口下部にあるチョコンとある小さな足がちょっとチャーミングな気もする。

 

『チョボマキ  マイマイポケモン

 敵に襲われると殻の蓋を閉じて防御する。蓋の隙間からベトベトした毒液を飛ばす。

 近年、理由は解明されていないが、カブルモと関係が深いことがわかった。

 カブルモと共に電気的な刺激を受けると進化する。』

 

 カブルモってポケモンがどういうポケモンかはわからないけど、“近年”って単語からまたヒンバスみたいな進化に特殊条件がありそうな気もするポケモンだなぁ、と図鑑からの電子音声を聞きながらも思ったりもした。

 

「ここは虫タイプのジムだからね。コイツも当然虫タイプだ。ついでに、図鑑では毒を吐くと書かれてるみたいだけど、別に飛行タイプとかの複合タイプでもない純粋な虫タイプだな」

 

 なんでも、虫タイプには飛行タイプや毒タイプ、それに鋼タイプを併せ持つものも数多くいるみたいなんだけど、まあ、殻持ちだから堅そうなんてことはありそうだけど、あの見た目で実は俊敏に飛びますとかはないと思う。もしあったら詐欺もいいところよね。

 ついでに殻のせいで素早さもそんなにないと見た。でも、現状こちらに有利と見れるのは、あくまでそれだけ。殻があるということは防御系が高いことを意味する。

 気を引き締めていかないと!

 

 わたしは一番最初の相棒のボールに手を掛けた。そうして腰のボールポケットから取り出したそれをサイドスロー気味にフィールドに投げつける。

 

「わたしの一番手! いくよ! ラルトス!」

 

 ボールからは、ポンッ! という音と共に、

 

「ラルッ、ラルラ~!」

 

ラルトスが元気な姿で躍り出た。虫タイプに効果抜群を取れる技はないけど、虫タイプで弱点を突かれるということもない。毒技で弱点を突かれるかもしれないけど、わたしのラルトスにはちょっとした秘密兵器があるし、あるいはひょっとしたらねんりきではじき返すこともできるかもしれない。さらに付き合いの長さから、一番信じられる相棒。レベルも技も最初のころからはアップしているんだ。

 

「用意はいいかい? では、試合(バトル)開始だ!」

 

 アーティさんの掛け声と共に振り下ろされた手がバトルの開始を告げた。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

「先手行きます! ラルトス、ねんりき!」

「ラル!」

 

 ラルトスの身体を赤紫の淡い光が覆う。

 

「チョボー?」

 

 するとチョボマキの身体が宙に持ち上がった。

 

「そのままフィールドに叩き付けて!」

「ラッ、ル!」

 

 私の指示を受けてラルトスはその通りにしようとするけど、ねんりきのパワー不足なせいか、それともあのチョボマキがイヤイヤと抵抗するせいか、叩き付けるというよりはフィールドに落とすといった具合にねんりきが決まった。

 

「チョボマキ、のろい」

「ラルトス、もう一回!」

 

 ユウトさんも何かをやったみたいだけど、とりあえずわたしは同じことを積み重ねてダメージの蓄積を狙う。チョボマキは虫単タイプだし、あの足の短さから接近しての直接攻撃よりは間接攻撃の方が得意なのではないかと思ったのだ。距離を取っていればあのチョボマキがどういった技を使うのかも見切ることができるかもしれない。

 

「チョボマキ、まとわりつくだ」

 

 チョボマキは口の部分から幾本もの触手を発してそれをラルトスにまとわりつかせようとする。

 

「ラルトス、ねんりき中断! テレポートで一旦距離を取って!」

 

 嫌な予感を覚えたわたしはねんりきをやめさせてテレポートでの回避を選択する。

 これが、わたしのラルトスの秘密兵器だ。テレポートでの技の回避。これでそうそう相手の技が当たることもないだろうし、毒技も回避できるでしょう。

 そして予想通り、テレポートで避けた直後に、チョボマキの触手がラルトスのいた位置を襲った。ラルトスはチョボマキのやや左前方に現れる。

 

「なかなかやるね。なら、これはどうかな? チョボマキ、あくび。触手は出したままだ」

 

 すると、チョボマキが殻口を大きく開けての大欠伸をした。

 

「これがあくびね!」

 

 あくび! これはユウトさんフリークなら知らないなんてことはあってはならない有名な技だ。ていうかたしか五年以上前だったかのシンオウリーグスズラン大会で一気に一般化していった技だったと思う。少し時間をおいてからだけど、相手を百パーセント確実に眠らせる技で、基本的には交代でしか解除できない、とされている技。

 ならば、わたしはトレーナーとしてラルトスのためにその兆候を察知しなければならない。

 

「ようかいえき」

 

 今度はチョボマキの口から紫の液体が吹きかけられる。あんな毒々しい色は間違いなく毒技!

 

「ラルトス、テレポート!」

 

 さっきと同じくテレポートで回避する。

 そして、ラルトスが現れる間際――

 

「触手を薙げ、チョボマキ!」

 

 出しっぱなしだったチョボマキの触手がその指示でフィールドを縦横無尽に走り回り――

 

「くぅ! しまった!」

 

 ラルトスはフィールドに現れた間際に触手の一本に捕まってしまった。そのままどんどんと触手はラルトスに絡みついていく。これじゃあ、ラルトスの交代はできない……!

 

「まとわりつくはダメージの他にポケモンの交代を防ぐ効果もある。そしてもうまもなくあくびが発動する。眠りは避けられないぞ」

 

 『さあ、どうする?』と言外に聞いてくるユウトさんにわたしは一つの決断を迫られた。

 

 あくび対策。

 一番はポケモンの交換だ。これが一番手っ取り早いし、お手軽だからだ。

 ただ、昨夜考えていたことがある。しんぴのまもりという火傷や混乱といった状態異常にならない技をラルトスが使えない中で、あの技を使えば、しんぴのかわりになってそれらを防ぐ手にもなるのではないかと考えたのだ。ただ、当然だけど試したことはない。

 

(でも、あくびも要は眠り状態にするための技なのよね)

 

 一回も試みたことはない不安と、理論的にはそれでいいという自信。二つの感情がせめぎ合う中でわたしは――

 

 

「ラルトス、ミストフィールド!」

 

 

 ――わたしは土壇場でこの技に掛ける!

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「いやはや、すごいねぇ。これはいわゆる大物新人ってやつかな」

 

 ペンキが塗られたボクのアートなフィールドは今や一変している。フィールド全体が淡い桃色の霧に包まれているのだ。これはラルトスがミストフィールドという技を使ったおかげだ。ボクのアーティスティックな作品が見えなくなってしまったのは残念だけど、この光景もまた、それを作り出した彼女も、ボクの純情ハートにビンビンと突き刺さる。なんてったって、バッジをまだ一つも取ってない殻を被った新人トレーナーが、なかなかお目にかかれないこんなぶっ飛んだ技を決めたんだからね。

 

「ミストフィールド。効果は地面にいるすべてのポケモンは状態異常や混乱状態にならず、またドラゴンタイプの技の受けるダメージが半分になるというものです。そしてわたしは考えました。地面にいるポケモンが状態異常にならないということは――」

 

 ――地面にいるラルトスはあくびで眠り状態になることもない。違いますか?――

 

 おわお! まったく今の彼女の顔ときたらなんてビューティフォーなんだ! 彼女の知略と自信も含めて輝きが感じられる。いや、あれは自分の賭けに勝ったという感じか。

 

「いやあ、正直本当に驚きだ。二年前に彼らと戦ったとき以上の衝撃だよ」

 

 それはユウト君にはわからないかもしれないけど、でも彼女の対面に立つユウト君も似たような思いを感じていることだろう!

 

「……あは。あはは。あっはっはっはっは!」

 

 なにがおかしかったのかはわからないけど、彼のお腹を抱えての大笑いなんて初めて見たからね。

 

「いやあ、すごい! 素晴らしいよ、トウコちゃん! まさしくその通りだ! 本当にすごい! これはトウコちゃんが一人で考えたことかい? 誰にも頼らずに?」

「そうです!」

「そうかそうか! いやあ、とにかく素晴らしい!」

 

 ――さあ! つづきといこうか!

 

 ……なぜだろうか。ボクはその言葉とともに口角を釣り上げるユウト君に思わず背筋がピリッと来た感覚を覚えた。

 

「さあ、いくぞ、チョボマキ! がまんだ!」

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「ラ、ル……」

「ああ! ラルトス!」

 

 フィールドに倒れ込むラルトス。

 

「ラルトス、戦闘不能だ!」

 

 アーティさんのジャッジが下され、これでわたしが使えるポケモンはあと一匹となった。

 

「ありがとう、ラルトス。ゆっくり休んでね」

 

 わたしはラルトスをボールに戻してボールポケットの一番目に彼女のボールを仕舞う

 

「今のはがまんという技だ。しばらく攻撃を耐えた後、受けたダメージを二倍にして返すという効果を持つんだ。ミストフィールドの後のチョボマキへのねんりきの連続攻撃のダメージを跳ね返したんだよ」

 

 相手取るユウトさんから告げられる言葉にはさっきまで以上にこのバトルを楽しんでいるという感情が伝わってきた。いや、ひょっとしたらなにかこのバトルの先のことまでも楽しみなことがあったのかもしれないけれど。

 そしてわたしも、悔しさとともにワクワクとした感情もさっきまで以上に沸々と湧いてきている。だって、なんかユウトさんがわたしに仕込んでくれているような気がするからだ。“全国チャンピオン”の薫陶を受けられるなんてこんな嬉しいことはない。わたしはバッジを懸けたジムバトルという意識がこのバトルから失せていくような感覚を覚えた。

 

「さあ、次のポケモンを出してごらん!」

「わかりました! 二番手、いきます!」

 

 次のポケモンはどうするか。残りはモンメンとミロカロス。どっちを出してもいいような気もするけど、ふと、図鑑の説明にあった毒という言葉と、さっきのラルトスへの毒攻撃を思い出した。モンメンは草とフェアリーの複合タイプなので、虫タイプの技は普通の効果しかないけど、毒タイプの技はモンメンには効果抜群なのだ。それもただの効果抜群ではない。四倍の大ダメージを負うのだ。

 だから、次に出すポケモンはもう一択。わたしはススッとラルトスのボールの一つ隣のボールに手を伸ばした。これはわたしがゲットした初めてのポケモンでわたしの二番目のポケモンだ。そうして腰のボールポケットから取り出したそれをサイドスロー気味にフィールドに投げつける。

 

「わたしの二番手! いくよ! ミロカロス!」

 

 ボールからは、ポンッ! というボールの開かれる音。

 

「ロッ、ロォォォース!」

 

 そしてそのモンスターボールに収まるミロカロスが優雅な姿で躍り出た。虫タイプに効果抜群を取れる技はないけど、虫タイプや毒タイプで弱点を突かれるということもない。相性的には可もなく不可もなくといったところだ。

 

「ミロカロスか。いい選択だな」

 

 私の手持ちを知っているユウトさんとしては私の思考を読んだのかしら。

 

「さあ、最終局面と行こうか!」

「いいえ! 勝つのはまだ早いです! ここから逆転していきますよ!」

「いい威勢だ! フェイント!」

「みずでっぽう!」

 

 わたしとユウトさん、お互いの指示がかち合う。だけど、先制で動いたのは相手のチョボマキ! チョボマキがミロカロスに攻撃を加え、ミロカロスがそれに()()らされて軽く吹っ飛ばされるも、すぐさま着地。そのままみずでっぽうを放つ。 そんな技の応酬が繰り広げられた。

 どちらにもダメージが入り、さらにミロカロスのみずでっぽうによって二匹の間に距離も開く。

 

「チョボマキ、ガードシェアだ!」

「ミロカロス! さいみ、ん˝ん! あやしいひか、じゃない! あーあーあー、もう一回みずでぽっぽうよ!」

 

 しまった。危うくさいみんじゅつとかあやしいひかりを指示しそうになったけど、なんとか踏み止まれた。なぜなら、まだミストフィールドの効果が切れていないからだ。地面に足の着いたポケモンは状態異常にかからないということは、地面にいるチョボマキはさいみんじゅつで眠り状態にはならない。また、あやしいひかりで混乱状態にもならない。

 そして、わたしが手間取ってしまったせいか、向こうの光っぽい技はミロカロスにヒットしてしまい、こっちのみずでっぽうは避けられてしまう。

 

「ミロカロス、ゴメン! ここから挽回するわ!」

「頑張れチョボマキ! これで決めるぞ、エナジーボール!」

 

 なんですって!?

 うそでしょ!? ここに来て草タイプの技!?

 

「チョンボマ!」

 

 まさかまさかの草技、エナジーボール。意外性という面で、ギリギリまで有効打を隠すっていう戦法か。

 こういう駆け引きも覚えなければいけないのかという思いは、ひとまず端に寄せて迎え撃つ。放たれたエナジーボールは緑色の球体エネルギーという(てい)でミロカロスに接近している。ならばこれは特殊技で、そうならばこれはわたしたちの十八番!

 

「ミロカロス、ミラーコートよ!」

「ロォォ!」

 

 そうしてミロカロスの前面に白い光と共に薄っすらとした壁が張られた。ミラーコート発動が運よく間に合ったみたい。

 そしてすぐさまエナジーボールが吸い込まれるように、ミロカロスに着弾。緑色の閃光とともに白煙をフィールドに撒き散らした。

 

「ミロカロス、大丈夫!?」

 

 この煙のせいでミラーコートの確認ができない。

 まさか……失敗ッ!?

 でも、ミロカロスは特防が高いってユウトさんは言っていた。たしかにエナジーボールはミロカロスにとっては弱点だけど、間接攻撃だから多分特殊攻撃技。ならばきっと、一発くらいなら耐えてくれるはず!

 

「くっ!」

 

 でも、思った。

 わたしがモンメンではなくミロカロスを選ぶだろうという思考を読む洞察力。さらに最初の一撃ではなく、わたしがここぞとばかりという勝負の決め時にミロカロスの弱点技選択で相手の動揺を誘う揺さぶり。

 これがユウトさんのトレーナーとしての実力ということなんだろうか。

 思わず握り込んだ拳に力が入る。

 

 悔しい。

 

 ユウトさんの読み通りに行動してしまうわたしに悔しい。

 

 ユウトさんの予想を超える動きをできなかったわたしが悔しい。

 

「バカ!」

 

 思わず、握り込んだ拳をこじ開けて両の頬を張り倒す。

 今頭を(よぎ)った思考は隅に追いやらなければならない。今はまだバトル中なんだ。余計なことはあとに考えなきゃ!

 

 一発なら耐えてミラーコートを決めてくれる。ミロカロスならばきっとやってくれるはず!

 そう信じていた私の期待は、今みたいに白煙とミストフィールドが晴れていくかの如く霧散してしまった。

 

「ミ、ミロ~」

 

 そこには目を回してフィールドの倒れ込むミロカロスの姿。

 

「そこまで! ミロカロス戦闘不能! これにより挑戦者トウコのポケモンがすべて失われたため、このバトル、臨時代理ジムリーダー、ユウトくんの勝ち!」

 

 アーティさんの声がフィールド内に響き渡るのを耳に入れつつ、わたしは「いったいなぜ?」という思考に支配されたまま、ミロカロスをボールに戻すことしかできなかった。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

「のろいで上がった攻撃力にフェイントのダメージ、そしてガードシェアによって下がった特防。これらがミロカロスがエナジーボールを耐えられなかったカラクリだよ」

 

 わたしは今のバトルでの総評をユウトさんに聞いていた。なんでも、最初のラルトス戦での初手に放ったのろいというのは素早さが下がる代わりに攻撃と防御を上げる技だそうで、それが先制攻撃技であるフェイントの威力を高めたらしい。ガードシェアというのは自分と相手の防御と特防を足して半分に分けるという効果を持つようで、これで、ユウトさん曰く、ミロカロスの非常に高い特防をチョボマキの特防とで相殺させて強制的に下げたんだとか。

 とりあえず思ったこと。

 

(ユウトさんパネェ! 全国チャンピオンマジパネェ!)

 

 対戦してそして今の話を聞いて思ったのは、まさかここまでもトレーナーとしての差があるのかということだ。知識もそうだけど、戦略と戦術、洞察力他何もかも現状では負けている。

 

(今は無理でも、いつかは絶対に追いつく! いや、追い抜いてみせますよ!)

 

 わたしの中の悔しいという気持ちは、バトルも終わって落ち着いた今もなお燻っている。

 

「はあー、とりあえず、もう一回修行しますか」

 

 今回はアーティさんとは戦っていないけど、でも臨時のジムリーダーに敗北したのだ。それに折角ミストフィールドを決めたものの、わたしのミスで上手く攻撃できない場面もあったりした。こんな未熟なわたしでは、いくら相手がチャンピオンとはいえ、負けたならばバッジは貰えない……。

 

「あー、そのことなんだけど、オレはトウコちゃんにはバッジをあげてもいいと思うんだ」

「……え?」

「というか、オレ的にはトウコちゃんがあくび除けでミストフィールドを決めたでしょ? あれでもうジムバッジはありでしょって思ったんだ。どうですかね、アーティさん?」

「うん、ボクもそう思うよ。いや、もし、ユウト君があげないと言っても、ボクがキミに強制的に渡してたね。何せこれでもジムリーダーなんだからジムバッジに関してはユウト君よりもずっと権限がある」

 

 そうしてアーティさんは真新しいバッジケースを取り出してわたしに渡してきた。開けてみると、このヒウンのジムバッジ、ビートルバッジが収められている。

 

「え、あの、いいんですか、これ? わたし負けちゃいましたけど」

「いいんだよ。ボクはあなたの中にとびっきりの輝きを見たんだ。あなたはポケモントレーナーとして大成功を収める。そう確信させたからボクはあなたにこのバッジを渡すんだ。この輝きは、ユウト君も認めてくれるはずだ。そうだろ、ユウト君?」

「アーティさんの言う通りです。よければ、トウコちゃん、これからもしばらくオレと旅を続けないか? キミにはオレのすべてを授けたい」

「おわお! 彼にここまで言わせるなんてあなたはすごいね!」

 

 

 ……なんか話がスゲェ方向に転がっていってるような気もするんだけど、わたしはしばらく呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

「いやぁ~、ここんところ超有望なポケモントレーナーが千客万来だねぇ。まるで二年前を思い出すよ」

 

 ボクはジムを去っていくトレーナーの後ろ姿を見送る。

 カノコタウン出身だというトウコちゃんというトレーナーをユウト君が連れてきてから、強さも愛情の深さも申し分ないトレーナーが連日表れている。今日はポカブを連れたポケモントレーナーだ。いや、“だった”というべきか。彼のポカブはボクとのバトル中にチャオブーに進化して、そして見事ビートルバッジを手にして見せた。

 昨日はジャノビーを連れた女の子、そしてその前はフタチマルを連れた男の子。

 聞いてみれば、彼らはなんと同じヒオウギシティ出身なのだそうだ。

 

「ああ、本当に二年前にソックリだ」

 

 二年前は同じく有望なトレーナーが三人続けてカノコタウンから現れた。今では著名な博士の助手にイッシュジムリーダーに、極め付けはイッシュチャンピオンマスターさまだ。あのとき彼らと初めて対戦したボクは彼らの秘めるポテンシャルに輝きを見出したが、それを今の三人にも感じる。おっと。いや、四人か。

 そして――

 

「プラズマ団ねぇ」

 

 あのときも大騒動があったのだ。

 今回もまた、同じようなことが起こるかもしれない。

 何せ、さっきも言ったが、今は二年前とソックリな状況なのだから――

 

「ボクらもジムリーダーとして警戒はしておこうかな」

 

 正直自分としてはかなり面倒だなと思うのと同時に、子供が危ない目に遭うのは大人としては反対だという思いがある。なにかあれば彼らを助けられるように。

 

「……いやはや、ボクも少しは変わったかな」

 

 以前はこんなこと思いもしなかっただろうに。これも彼らのおかげかあるいは彼らのせいなのか。

 

 彼らはまだ子供、自分たちは大人だ。

 前のときは伝説のポケモンが彼らを選んだから、外野から少し携わるぐらいだったが、できれば今回はなにかあれば子供たちを助けてあげたい。少なくともすべてを任すようなことは避けたい。

 しかし――

 

「運命の神様はイタズラ好きらしいからなぁ」

 

 たぶんなかなかそううまくもいかないだろうとは思いつつも、

 

「んまあ~、なんとかなるんじゃないかねぇ」

 

そう思いながら、とりあえずボクはジムを閉めてシッポウシティに行くことにした。




ミストフィールドは7世代仕様(状態異常混乱無効)になってます。

ラストのトレーナー三人はBW2の完全版PVを見れば、誰が誰だかわかります。

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