ということで、頑張ってみました。
それから誤字脱字報告を送ってくださった猫シノンさん、kubiwatukiさん、ポチコウさん、ありがとうございます。
この場を借りて、お礼を述べさせていただきます。
ウォーグルからプテラに変更
「さて! 十分休息もとったし、そろそろ行こうか」
「はい! わかりました!」
片付けも済まし、肩掛けのショルダーバックのショルダーストラップを右肩に掛ける。
あっと、釣り竿をかたしてなかった――
「ってユウトさん! 釣り竿! 糸引いてます!」
「おっ! 何か掛かったか! よし!」
ユウトさんは釣り竿を手に取って竿を立てると、そのまま少しずつではあるけどリールを巻いて糸を引いていく。
「よし! トウコちゃん、やってみよう!」
「えっ? わたしですか!?」
「だってまだ一匹もポケモンゲットしてないんでしょ? ならこれがもしかしたら初ゲットになるかもしれないじゃない。だったら、釣り上げるところからやってみるのもいいと思うよ」
「わかりました! やらせてください!」
わたしはユウトさんと竿の間に滑り込み、両手で竿を掴んだ。
「うわっ! お、重いっ!」
「頑張って! 俺も手伝うから! そのまま竿を立ててリールを巻いて!」
「は、ハイ!」
そのまま竿を立ててると、徐々にリールを巻いて釣り糸を巻き取りつつも、たまに急に引っ張られる力が弱まるときがある。そのときにさらに釣り糸を巻き取る。
それを何度も繰り返しているうちに、ついにわたしたちは一匹のポケモンを釣り上げた。
「うおおおおお! トウコちゃんめっさ運がいいじゃん! オレがゲットしたいくらいだよ!」
ユウトさんは相当興奮した面持ちで、今岸でピチピチと跳ねている釣り上げたポケモンを見つめている。
そのポケモンはなんというか、『みすぼらしい』という言葉が似合いそうなポケモンだった。
わたしはとりあえずポケモン図鑑をそのポケモンに向けてみた。
『ヒンバス さかなポケモン
一か所に集まる習性を持ち、水草の多い場所で生息するが、なんでも食べるそのしぶとい生命力で、海でも川でも、また汚いところでも僅かな水しかないところでも生きのびていける。
また、みすぼらしく醜いポケモンで研究者を始め誰にも相手にされないポケモンだったが、近年新たな研究結果が発表されて、俄かに注目を集め始めたポケモンでもある。』
なるほど、ヒンバスってポケモンね。
あれ?
「あの、ユウトさん、なんかこの図鑑のヒンバスとあのヒンバス、色が違ってませんか?」
図鑑に載ってるのはヒレ以外の身体全体が茶色っぽい色をしているのに、目の前のヒンバスはそこが紫だ。
「それはいわゆる“色違い”のポケモンだからだよ。色違いのポケモンはめったにいないんだ」
おお! 色違い、しかもめったにいないですか! これはぜひゲットしておきたい!
身体の左側に来ているバックを勢いよく跳ねのけ、背中側に押しやった。
「ゲットの基本は大丈夫だよね?」
「バトルして、ある程度ポケモンを消耗させてからモンスターボールを投げる、ですよね?」
ポケモンはモンスターボールというボールを使ってゲットするが、ゲットするポケモンが元気なままだと抵抗が激しくてボールから出てしまうことがある。だから、バトルして相手の体力を消耗させるのだ。
「うん、その通り。じゃあ頑張ってみ」
「はい! いくよ、ラルトス!」
「ルー!」
釣り上げられたヒンバスは跳びはねながらこちらを威嚇している。相手も戦意は十分なよう。
一対一で正々堂々行きましょうか!
「よし! ラルトス、行くわよ!」
「ラル!」
ラルトスも気合十分。あのヒンバスは絶対にゲットするわ!
まずは逃げられないように川から離しましょうか!
「ラルトス、ねんりき! あのヒンバスを川から引き離すのよ!」
「ラ、ラルー!」
ラルトスの身体を赤紫の淡い光が覆う。
「バス! バスー!」
一方、ヒンバスの方も何か攻撃をするつもりなのか、ヒンバスの身体が白く光り出し、ヒンバスの前に何か薄っすらとした壁が出来上がっていくのが見える。
「うお!? あのヒンバスマジか!?」
「ラルトス、ヒンバスに攻撃させてはダメよ! GO!」
ポケモンゲットということで観戦モードになっているユウトさんの視線の元、私の指示に反応してか、普段見せないラルトスの目がキッと力強い眼差しを見せる。すると、跳び跳ねていたヒンバスの身体がそのまま宙に浮かび上がった。ラルトスはそのまま川とは正反対の方に向かってサイコパワーの力でもってヒンバスを投げ飛ばす。そのままヒンバスは弧を描くようにして宙を飛び、そのまま地面に叩き付けられた。
水の中とは違い、身動きのうまく取れないヒンバスには確かなダメージが与えられたようだけど、
「バスー!」
ヒンバスの反撃なのか、白い光の奔流がラルトスに向かって発射された。
「ラルトス、避けて!」
「ルラ!」
ラルトスはその場を跳び退いて避けようとしたが、それが地面に着弾したときの衝撃波からは逃れきれず、些かダメージを負ったみたいだった。
「トウコちゃん! あれはミラーコートといって受けた特殊攻撃のダメージを二倍にして相手に返す技だ! さっき言った通り、かなしばりでミラーコートを封じるんだ!」
なるほど、あれはそういう技だったのね。
ちなみに、ユウトさんとはさっきの食事のときにわたしのラルトスの使える技とかも話して、アドバイスとかも聞いていたから、わたしはその通りにラルトスに指示した。
「ンバ?」
ラルトスのかなしばりが決まり、ヒンバスは何か違和感を覚えたような面持ちになったようだ。
「ラルトス、もう一回ねんりき!」
「ルラ!」
さっきと同じようにヒンバスも何かをしようとして――
「ンバ!?」
しかし、今度はミラーコートが使えないことに明らかな驚愕を覚えたようだった。
そのまま自由に動けないヒンバスにまたもねんりきがクリーンヒットする。
「ヒンバ~……」
今度は樹木に強かに叩き付けられたヒンバスは目を回してポテリと木の根元に倒れた。
どうやらダウン寸前のようだ。
「今がチャンスだ、トウコちゃん!」
“なにが”とは言わない。
もうここまでくればユウトさんが何が言いたいのかもわかる!
わたしは既にバックからあるものを取り出していた。それは赤と白のツートンカラーのまるい球体状のボールで、大きさはピンポン玉よりもやや小さい部類のもの。真ん中の部分には白いボタンが付いている。それを押し込むと、大きさが手のひらよりやや大きく、すべてが手のひらには収まらない程度の大きさにまで膨れ上がった。
「いっけぇっ、モンスターボール!!」
サイドスロー気味に、最先端科学技術が詰まったそれを目標に向かって投げつける。
それは自身に回転を加えながら突き進み、そしてダウン寸前のヒンバスについに命中。するとボールが勝手に口を大きく開き、赤いレーザー光のような光とともにヒンバスをその開けた大口の中に取り込んだ。
ボールは地面に落下、小刻みに揺れる。また、その揺れに連動するかのようにボタンの部分も赤く点滅する。
それが五秒、いや十秒くらい続いたのか。
たかが、五秒十秒。
でも、わたしにとってはそれが一時間にも二時間にも感じられたような長さだった。
そして赤の点滅が「ポッオン!」という音と共に消える。それと同時に揺れも収まった。
わたしはただただ呆然としていた。その意味は知っていても、理解出来ていても、実感がわかなかったから。
「ラル!」
ラルトスが嬉しそうにわたしの胸に飛び込んでくる。
「やったな、トウコちゃん! おめでとう!」
「ラルラル」
ユウトさんと彼のラルトスもわたしをお祝いしてくれた。
わたしはラルトスを抱えたまま、ボールの佇む場所へと歩く。
しゃがむ。
拾う。
立ち上がる。
右手には今までとは違うズッシリとした感覚広がった。
いや、モンスターボールの重さ自体は変わらない。そのはずなんだけど、わたしにはとても重く感じた。
するとジワーッと背筋を駆け上がるなにか。
心地よい感触。
それがいつのまにか全身に
「いやったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
よろこびが爆発した。
「ヒンバス、ゲットだね!!」
■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「おめでとう、トウコちゃん。ホント、よくやったよ」
「ありがとうございます!」
ヒンバスゲットの余韻に浸るためにもう少しこの場にいることにしたわたしたち。
なにせわたしの初ゲットなのだ。ちょっとユウトさんの手を借りてしまったのが若干悔やまれるけど、そこはわたし自身がもっともっとラルトスやポケモンたちのことを知って勉強していけばいいことだと思う。
「これからよろしくねー、ヒンバス~」
「ラルラルー」
「ンバ~、ンバス~」
さっきのバトルで汚れてしまったり傷ついてしまった二人をユウトさんに教わりながら処置する。
「ンバ、ンバ~」
ヒンバスの傷も癒して身体の汚れを拭っていると、ヒンバスが身体全体でわたしに擦りすりとすり寄ってきた。
「はいはい、もう、あまえんぼさんねぇ」
「それはたぶんヒンバスがトウコちゃんのことを心から認めたんだろうね」
「え、そうなんですか?」
「うん。世の学会には『ボールに入れればポケモンはその人を主人と認める』っていう説と『一対一でのバトルに勝ってこそポケモンはその人を主人と認める』っていう説があるらしいんだ。オレはポケモンのことを深く知ってポケモンの強さを最大限に引き出すためには、そのポケモンに真に認められる必要があると思ってるから、後者の説を信じてる」
「へえ、いいいですね、それ。わたしもそっちにしようかな」
そっか。ヒンバスはわたしのことを本当に認めてくれたんだ。
うふふ。うん、ちょっと顔のニマニマが抑えられないかも。
あ、そういえば。
「ユウトさん、ちょっと気になっていたんですけど、ヒンバスの図鑑説明で『近年新たな研究結果が発表されて、俄かに注目を集め始めたポケモンでもある』ってありましたけど、あれってどういうことなんですか?」
「ああ、あれはねー」
フフンとちょっとドヤ顔を決めたユウトさん。
「ラルー」
何かを話し出そうとしたところで、それはユウトさんのラルトスの一声で遮られた。
「ん? あれは?」
ユウトさんのラルトスが何かを見つけたらしく、ユウトさんもそこに何かを見つけたらしく、そんな声をあげたので、わたしも其方のほうに視線を向けてみた。
何やら川の流れとは別の水飛沫がバシャバシャと上がり、水色のブロッコリーのような、何か房のようなものが水面に見え隠れする。そしてそれはバシャンと一際大きな水飛沫が跳ね上がると、そにのブロッコリーのようなものを持つ何かが岸に上がってきた。
飛び出してきたのは――
「ヒヤッ、ヒユァ」
水色の、サルみたいなポケモン(ちなみにブロッコリーは頭部についていた)。それがちょうど川から岸辺に這い上がってきた。
「へぇ、こんなところで野生のヒヤップとは珍しいな」
「ヒヤップですか。えーっと?」
なんだかここのところ図鑑を開くことが多い気もするという気持ちは置いておいて。
『ヒヤップ みずかけポケモン
頭の房に貯めた水は栄養たっぷりで、植物にかけると大きく育つ。また乾燥した環境に弱いので、その水を尻尾からまいて周りを湿らせることがある。』
「ということはヒンバスと同じで水タイプなんですかね?」
「そうだな。ついでにいえば、ヒヤップはイッシュ地方ではヤグルマの森に僅かにしか生息していない、珍しいポケモンなんだ」
「そうなんですか! んー」
とりあえず今ヒンバスゲットしちゃったし、でも珍しいのならどうしようかなどとつらつら考えていると――
「ヒヤッ!? ヤッ、ヤップ!?」
あら?
なんだかヒヤップはわたしたちを見て、何やら驚いているように見える。さらにヒヤップは今度は後ろに振り向く。
「ラル?」
「なんだ、いったい?」
ヒヤップの様子がおかしいことで、わたしたちはそのままヒヤップの様子を窺っていたけど、そうこうしているうちに今度はヒヤップの後方とその上空にまた新たなポケモンが現れた。
「あのポケモンたちは?」
わたしはポケモン図鑑をその二匹に向けてみた。
『ナゲキ じゅうどうポケモン
自分よりも体の大きな相手を投げたくなる習性。
蔓草を編んで作った自分の帯は締めるとパワーアップする。
強くなるとまた帯を自分で作り直す。』
『ハトーボー のばとポケモン
世界のどこにいても自分の巣の場所はわかるのでトレーナーともはぐれたりせず、どんなに遠く離れても必ず戻ってくることができる。
ハトーボーの住む森の奥には争いのない平和な国があると信じられている。』
川を自然にできた飛び石を跳び越えてくる柔道着を着た赤いポケモンがナゲキで、純然たる“鳥”をイメージできる、空を羽ばたいているのがハトーボーなわけね。
この二匹はヒヤップを取り囲むように川側をナゲキが、その反対側をハトーボーが押さえた。
「やあやあやあ、もう逃がさないぞ。覚悟したまえ、ヒヤップくん!」
さらに川岸の向こう側に白いスーツで上下を固めたおぼっちゃまと、それに付き従う執事がナゲキが超えてきたのと同じように、飛び石を跳び越えてこちらに渡ってきた。
これはアレかな。あの人はとりあえず、このヒヤップをゲットしたくて追い掛け回してきたのだろうか。
とにかくポケモンをゲットしたいという気持ちはわかる。わかるのだけど――
「では、ヤナップ、行ってきたまえ!」
そしてさらにポケモンを繰り出し、ヒヤップを取り囲む。
これはさすがに――
「ちょっとちょっと。ポケモンをゲットしたいのはわかるけど、ただでさえ一対二でもどうかと思うのに、一対三はいくらなんでもないでしょう」
この状況にユウトさんが思わず口を挟んだ。
「部外者は黙っていてもらおう。これはボクのポケモンバトルだ」
「いいや。確かに部外者だが言わせてもらう。これはやり過ぎだ。だいたいゲットのためのバトルというものは、そのポケモンにこれから自身のトレーナーとなる人間の実力を認めさせるという儀式の意味も兼ねているとオレは思うんだ。一対一で正々堂々とやらないと真にポケモンからは認められないと思うぞ」
すると後ろに控える執事の人がこくりと頷いた。よくよく見てみればあの人は額にその白手袋で覆われた手を額に当て、頭を僅かに振る動作をしていたりもしている。どうやら、この彼の言動に頭を痛めているといったことが窺えた。
「そのようなことは心配いらないさ。捕まえてしまえばどうとでもなる。いけ! 全員で攻撃だ!」
彼の指示で三匹が攻撃の態勢に入る。
とにかく止めないとと走り出そうとしたら、すでに行動に移し終わった人が私の隣にいたのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
ナゲキがきあいだま、ハトーボーがエアカッター、ヤナップがタネマシンガンをヒヤップに向けて放とうとしている。見たところヒヤップは既にダメージを負っていたようだから、ここに来てのあんな波状攻撃を受ければ、明らかにただでは済まない。
「ラルトス!」
「(オッケー! 適当なところに転移させてくるわ。あ、オボンの実を持っていくわね)」
そしてラルトスがテレポートでヒヤップの傍らに移動、更に次はヒヤップを連れて何処かへと転移していった。直後、ヒヤップたちのいたところが三匹の攻撃に晒され、粉塵に包まれる。
「なに!? くぅ〜、オイ、キミたち! ボクのヒヤップを何処へやった!?」
「はぁ〜? ゲットしてないんだから、貴方のポケモンではないでしょ?」
粉塵が晴れた後には何もなかったことに悔しさを覚えたか、おぼっちゃまがオレたちに突っかかってきた。尤もそのあまりの物言いにトウコちゃんは思わずツッコミを入れてしまったようだが。
「いいや、もうアレはボクのポケモンだったんだ! ついてはそこの平民! ボクと一対一でバトルだ! バトルして勝ったらあのヒヤップに見合うようなポケモンをボクに献上せよ!」
……あ? なにこいつ、なにトチ狂ったことほざいているんだ?
「あ、貴方! 自分がどれだけおかしなこと言ってるかわかってるの!?」
「坊っちゃま、最早行き過ぎです! 大概になさってください!」
お付きらしい執事も止めようとはしているが、どうやらそれで思い留まる輩でもないらしい。
(アレ、根性叩き直していいかしら?)
戻ってきたラルトスからのテレパシーが脳内に響き渡る。
(存分にやってよし。ああいうのは自分ルールで意味不明な論理構築してくるから、こっちはそれを何が何でも叩き潰さないとマズイ。とりあえずめいそう積んどけ)
(了解)
さて、傍から見れば理不尽極まりないポケモンバトルの申し出だったが、それを受けることにしたオレ。
「ちょっ!? 何言ってるんですか、ユウトさんも!? こんな、話に聞くロケット団でもやらなそうなことをやろうとしてる相手なんですよ!?」
うん、知ってる。だからだよ。
「ふふ、オレのポケモンに手を出すとかさ。ククッ。自分がだれにケンカ売ってるのか、んん、分からせないとね」
すると、トウコちゃんは「アッハイ」とオレの気持ちをわかってくれたのか、一歩下がってこのバトルを肯定してくれた。
あちらは執事の言葉に耳を貸さずに戦意十分。
いよいよ、
■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「みっ……認めないぞ! こんな……こんな……!」
バトルも終わって、その結果が信じられないのか、ワナワナと震えているおぼっちゃま。
とりあえず即堕ち2コマバロスという状態なので簡潔に説明しておくと、
バトル開始。こっちラルトス、向こうがバオッキー。
↓
向こうが「既に出ているポケモンは数にカウントされない」とかよくわからない謎理論を持ち出してきて、ナゲキ、ハトーボー、ヤナップが参戦。一対四のバトルに。
(ちなみに外野がものすごくうるさかったが、もうどうでもよくなったので、『はいはいワロスワロス』と受け入れ)
↓
いざ四匹での集中攻撃といこうとしたところで、めいそう積んでたラルトスのハイパーボイス&アシストパワー炸裂。
↓
チーン終了
以上、こんな感じ。まあめいそうガン積みのラルトスのハイパーボイスなら、直撃すればシロナさんのガブリアスやレッドさんやゴールドさんたちの伝説ポケモンですら屠れる自信はあるので、アシストパワーまでやっちゃったのは少しオーバーキルっぽかったかもしれないし、バトル始まる前に技使ってたのも悪いとは思ったよ。
うん、でも、オレのポケモンを掻っ攫おうとしたし、姑息な手しか使ってこなかったんだ。だからオレは謝らないよ?
「流石、でございますな。まさかこの目で直にあなた様のバトルを見れるとは、と感激しております」
すると、執事さんがパチパチと拍手を送ってきた。
「あなた、オレが誰だかご存じなので?」
「ええ、もちろん。あなたの公式戦は常にチェックしておりますぞ。これでもわたくしはあなた様のファンですので」
「い、いやぁ~、そ、その、あ、ありがとうございます……」
しまった。町中じゃないからってメタモン被ってなかったことすっかり忘れてたわ。
にしても、こう、面前で「ファンです」だなんて言われるとこそばゆいものがあるなぁ(笑)
「おい! いったいどういうことだ!? 何を言っているんだ、じい!?」
……はぁ。折角頭の端からもいい感じに追いやっていたのに混ぜっ返すなや。
「この方はホウエン地方ハジツゲタウン出身のユウト様と仰る方です。そしてこの方は、これまで旅をしてこられた地方全てにおいてチャンピオンマスターになられた方、世間では“全国チャンピオン”という通り名で通っておられる方です。申し上げておきますが、あなたでは天地がひっくり返っても敵うことのないお方ですよ」
■□■□■□■□■□■□■□■□
「えええええええええぇぇぇぇぇ!?」
「ダニィィィィ!?」
うううううそでしょ!?
ユウトさんがあの“全国チャンピオン”って!?
わたしでも知ってますよ!
ホウエン地方にいたときだって、その全国チャンピオンはこの地方にはいないし、現ホウエンチャンピオンはミクリさんだったけど、どこもかしこも本当にいたるところで全国チャンピオンの話題で持ち切りだったわよ! わたし、彼が載ってる雑誌の特集全部スクラップして取ってあるし、テレビもチェック済み! 彼のおかげでホウエン地方は一番ポケモンバトルやポケモンコンテストが発達しているって聞いたことがある、というかホウエン地方に住んでいたら、もはやみんなその認識で、それがデフォとして刷り込まれるし!
「いや、いやいやいや。ふへへへへ、うわやっべ」
いけね、涎垂れたわ。これは一つサインでも――
「きっ、きたないぞ、きさま!」
――は?
「きさま! きさまきさま! よもやチャンピオンだったとは! きさまわざと隠していたな! この卑怯者!!」
――――はい?
「チャンピオンの立場を隠してバトルに挑むとはトレーナーの風上にも置けん! かくなる上はボクがきさまを成敗してやるぞ!」
――……
――――え、こいつ何言ってるの?
「そして、ボクがきさまのポケモンをうまく使ってやる!」
――なんというか
このバカ、場の空気の変化に気が付かないのか?
ユウトさんもあの執事もさっきまでの和気藹々とした表情が消えて、顔が能面のようになってきてるわ。わたしもたぶんそうなってるだろうけど。
「起きろ、ハトーボー! あいつにさいみんじゅつだ!」
「マジックコート」
ハトーボーはあれほどユウトさんのラルトスにこっ酷くやられたからか、嫌そうに一瞥するも、再度命令された指示に仕方がないといった
しかし、ユウトさんのぜったいれいどのごとくの声色で出された指示でラルトスが彼の前に立ちはだかり、二人の前に淡いピンクの鏡のようなものが形成された。そのままさいみんじゅつははその鏡に反射されてハトーボーとついでにアレに当たる。
そのまま二匹はスヤスヤと夢の中に旅立っていった。片方は悪夢の方で構わないけど。
それにしてもわたしのヒンバスとあのハトーボー。ヒンバスの表情とハトーボーの態度を見て思う。
(さっきユウトさんが言っていた『一対一でのバトルに勝ってこそポケモンはその人を主人と認める』っていう説、やっぱり正しいのかもしれない)
ハトーボーの方は懐いてなかったという可能性も大いにあるけど、それでも最後に見せたアレに対するあの態度、なによりもヒヤップに対して多対一の状況なのに相手をうまく抑え込めなかったことから、彼らのポテンシャルをアレはうまく引き出せていなかったのかもしれない。
ならばわたしは――
(ポケモンのことをもっともっと理解して、ポケモンとの仲をもっともっと深めて、最高の力を、そして彼らとの最高の旅を続けていきたい!)
――強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。トレーナーなら、自分の好きなポケモンで勝てるよう頑張るべき――
ホウエン地方での全国チャンピオンの話題。そこに一番に挙がるのが、このフレーズだ。初めて聞いたときはふーんとも思ったけど、
『ポケモンには相性や得手不得手があって絶対最強のポケモンなど存在しない』
『持っているポケモンやバトルできるポケモンは限られている。その中でトレーナーやコーディネーターやパフォーマーはあれこれと工夫を積み重ねていく必要があり、それがバトルやコンテスト、トライポカロン、とにかくなんであれ、そういうことがポケモンの醍醐味の一つでもあると言えるでしょう』
などといったいろいろな人の話を見たり聞いたりしているうちに「なんて奥が深い言葉だろうか」と感激したほどだ。
ポケモンを知って深く理解し、彼らのポテンシャルを最大限に引き出すこと、それがポケモンバトルの勝利への道でもある。
(ベルたちもきっとそうだったのかしらね)
然るべき地位に立つあの三人も越えてきただろう道。目を閉ざせば、何だか足下から伸びる輝きの道の先の遥か遠くを歩く三人が見える気がした。
「わたしも頑張らないと」
わたしもまた同じく踏破することを誓った。
■□■□■□■□■□■□■□■□
【ちょっとした余談】
トウコが黙々と自分の考えにふけっている間――
「これはやはりお見事ですな」
「ありがとう。でもいい加減、度が過ぎるね。オレだったからこれで済んだけど他の人なら警察沙汰よ?」
「承知しております。此度はコレもただでは済まないでしょうし、わたくし自身が済ませません。プテラ、サザンドラ」
二匹のポケモンを執事の男が取り出すと、彼らは倒れているポケモンたちをまとめ上げた。プテラは更に、この場で誰もが既に見限った男をその口に銜える。
「この度は誠に申し訳ありませんでした。あんなのでも一応は主人でしたので」
「苦労してそうなのはわかったし、試してたんでしょ? 別にいいよ。それよりあなた、相当バトル強いよね?」
「さて、どうでしょうか」
「サザンドラはよっぽど育てなきゃ進化しないからね。野生のサザンドラも一部いるけど、少なくともこのサザンドラはよく育てられていると思う。少なくとも、ポケモンリーグ本戦には余裕で出場できるほどだ」
「昔取った杵柄というものですよ」
「なるほど。なら、いつかあなたとバトルしよう。それがオレに対する謝罪ということで」
「それはそれは。喜んでお受けいたします。しかし、あなた様とですと、フフフ、久しく忘れていた昔のようなワクワクとした思いが沸々と湧いてくるようです。これはわたくしも若返った気持ちで些か特訓する必要がございますな」
「たのしみにしてるよ、場所はどこかのリーグでどうかな?」
「よろこんで」
ヒンバスって単純に言って体長60㎝、重量7.4㎏と女の子が釣り上げるには大きいと思う。
ついでにホエルオー(高さ14.5m、重量398.0kg)とかギャラドス(高さ6.5m、重量235.0kg)とかを、釣り竿一本かつ自分の腕力だけでいとも容易く釣り上げちゃう主人公勢はどんな化け物なのでしょう。実は戸愚呂弟とか(笑)。でも水上で釣ってたら足場にしてる波乗りポケモンの方が引き上げた反動で沈んじまいますぜ?
まあそれを言うとポッポ(高さ0.3m、重量1.8kg)とかヤヤコマ(高さ0.3m、重量1.7kg)でそらをとぶもいろいろな意味でなかなかだと思いますが(笑)
>メタモン被ってなかった
ユウトはヒカリやシロナとのときわたり中にメタモンを使った変装スキルのことを知り、マスターしています。
そちらがちょろっと出てくる外伝はいずれ公開ということで。
>一対一に拘ってるが、じゃあ群れバトルはどうするんだ?
群れバトルはボールを投げるときに「狙いが付けられない」と出ますが、最終的にはタイマンからのボール投擲になります。さらにバトルの心情的解釈の一つとしてですので、作中そう断定的に述べているということでもありません(所謂ゲームで『モンスターボール投げた後はA連打すれば捕まえやすい』に近いものがあります。尤も、これよりももっと事実に近いようなニュアンスですが)
あ、ちなみにモンスターボール投げた後はA連打は今でもやってますw
なんていうかもうクセになっちゃってますね。
ということで一万字突破で過去最高クラスに長いお話でした。読了されました方、お疲れ様でした。ありがとうございました。
即堕ち2コマバロスの部分を詳細に書けば2つに分割してましたが、なんか書こうとしたらイラッとしてきたのでやめました。