ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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みなさま、あけましておめでとうございます。

ちなみに『確率』を『確立』、『再会』を『再開』と表現されたときと同じように、『新年あけましておめでとうございます』なんて表現を見聞きすると「なんだかなぁ」とムズムズする感覚を覚えてしまうのですがそれは。

<追記>
どうやら「新年あけましておめでとう」は許容される表現のようです。
「美しいです」のような表現が一般化していったのと同じようにこれもそうなるのでしょうね。

この話は本編の挿話4と挿話5の間のお話です。またヒカリのときわたりシリーズ後となります。

今までと毛色が違う、ポケモンっぽくない感じになりました。


その4 スノーリゾート

 シンオウ地方北部。そこは寒冷なことで知られるシンオウ地方の中では、特にその傾向が強い。テンガン山という高山からの冷たい空気が山下ろしとなって一気に吹き抜けるためだ。冬、深い雪に閉ざされるのは毎年のことである。

 そしてその雪に目を付けて開発された町があった。名をカザハナタウンという。シンオウ地方は都市の名前を大和言葉を由来とする伝統がある。この町の名前も風花(かざはな)という言葉に(ちな)んで付けられた。ちなみにこの風花という言葉だが、『晴れた日に降る雪のこと』という意味である。この町がつくられたところも、冬に青空なのに純白の雪が舞う現象が見られた。地元の人には『この雪はまるで風に舞う純白の花びらのようだ』ということから、まさにこの名前が適していると愛着を持たれて親しまれている。

 そしてこんな雪が深いところに町がつくられた理由であるが、簡単にいえばレジャー施設の建設が目的である。雪深い土地であるため、スキーやスノーボードなどの冬のレジャーが大いに楽しめるのだ。また、温泉も湧きでているため、日頃の疲れをゆっくりと癒すこともできる。さらにはところによっては万年雪である地区も存在するため、夏でもそれらが楽しめる。

 町興しとして始めた雪に関するお祭りや夏には避暑地やグラススキーとしての需要もあり、港があるキッサキシティからの交通の便も良いため、シーズン問わず、シンオウ地方各地から、そしてなにより、全国からも足を運ぶ観光客が多い。ちなみに観光客にはスノーリゾートという愛称の方が馴染みがあるらしい。

 さて、そんな中訪れた一行がある。今回からはそれのお話である。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「うわぁ! ここがカザハナタウンか~!」

「もう一回来てみたいと思ってたんだけど、また来れて嬉しいなぁ!」

 

 ヒカリちゃんとヒカリちゃんがその一面の銀世界を見て感激の言葉を零す。いや、オレもシロナさんもそれからJも言葉にはしていないだけで呆気にとられている。白に対して人工物とそれから洩れる光が上手く対比して、素晴らしいアクセントとして一面の白い世界を彩っていたのだ。

 

「なんだ、クラルテのところでは、ここはなかったのか?」

「ええ! こんなとこなかったわ! あったらママに頼んで絶対何回も来てるし、旅の途中にも寄ったし!」

 

 サトシの言葉にヒカリちゃんはそう答えた。

 ああ、そうそう。なんでサトシがヒカリちゃんをクラルテと呼び、彼女もそれに応答したかというと、やはり同じ名前で呼ぶのは非常に紛らわしいからだ。そこで、光という言葉をフランス語にすると“clarte”「クラルテ」(意味は光、輝き)という言葉になるので、オレたちの世界の方のヒカリちゃんを、変装しているということも合わさって、クラルテという名前にすることにしたのだ。

 

「よーし! じゃあせっかくここに来たんだ! みんなでスキー場に行くぞ!」

 

 タケシの言葉にオレやシロナさん、J以外の面々が元気よく返事を返した。

 

 さて、ラルースシティに向かっていたオレたちがなぜこのカザハナタウンに来ているのか。

 ラルースシティはシンオウ地方バトルゾーン沖合に浮かぶ島なため、フタバタウンの最寄りのマサゴタウンからの連絡船に乗って向かっていたのだが、途中天候不順と波の時化が予想されたために、近くのキッサキシティに寄港したのだ。そこでしばらくは船が出せないというので、どうするかといった話のときに、サトシたちに勧められて、このカザハナタウン、通称スノーリゾートに訪れたわけだ。数日足止めを食らうなら、ここでその間遊ぼうということである。実にすばらしい提案だった。

 

「ふっふ~ん♪ オレはスキー♪」

 

 やっぱりスキー場といえばスキーでしょ!

 

「え、あれ、ユウトさん、スキーなんですか?」

 

 そういうクラルテ(ヒカリ)ちゃんが手に持つものはスノーボード。

 

「あら、ユウト君はスキーなのね」

「え? え?」

 

 そしてシロナさんも手に持つものはスノーボード。

 周りを見渡せば、サトシ、タケシ、ヒカリちゃん、そしてピカチュウにポッチャマ、そしてなんとラルトスやセレビィまでスノーボードだ。

 

「う……ウソ……?」

 

 え? え? スキーってそんな人気ないの? え?

 

「私もスキー派です。ユウトさん、マイナー同士楽しみましょう」

 

 そっとJが肩に手を置いてくれた。あれ? スキーっていつの間にマイナー派になったん?

 

「あら、Jもユウト君と一緒でスキーなのね」

「ええ。私、一枚の板に足を括りつけられるのってものすごくイヤなんです」

 

 Jがしたシロナさんへの返答やばい! オレとおんなじだ!

 

「同志よ!」

「ユウトさん!」

 

 オレたちは固い握手を交わした。

 

「同志J、共にこの難局を乗り切りろう。スキー教を布教しようではないか!」

「同志ユウト! わかりました! 誠心誠意成し遂げましょう!」

 

 そうしてオレたちは鉄の結束を結んだのだったが、

 

 

「あなたたち、バカやってないで早くいくわよー」

 

 

シロナさんの無情な一言でオレたちは“ぽっち”という非情な現実に戻されたのだった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「「へっ、閉鎖ぁぁぁぁ~~~~~~!?」」

 

 ヒカリちゃんとクラルテ(ヒカリ)ちゃんの声が、新雪が舞う、辺り一帯に木霊した。

 どういうことかというと今、オレたちの目の前のスキー場入口には急ごしらえだったが、立て看板が立てられていた。

 その内容は

 

『現在カザハナ第一スキー場は非常に危険な状態であるため、入場禁止とします。また、他の全スキー場も立ち入り禁止とします。ご理解とご協力をお願いします。 カザハナタウン町長/キッサキシティジムリーダー スズナ/キッサキシティ、カザハナタウン ジュンサー』

 

といったものである。よく見れば周りには警備員も立っていて、客を入場させないように見張っている。また、このことを知らずに来たスキー客は抗議の声を上げながら、彼らに詰め寄っていたのだ。

 

「あ、サトシくん、タケシくん、それにヒカリさんまで!」

 

 矢庭にそんな声が聞こえてきたので思わず振り返る。

 

「あら、スズナちゃんじゃない!」

「ええ!? シロナさん!? ど、どうして!?」

 

 キッサキシティでジムリーダーを務めるスズナがいたのだった。

 

「どうしてってちょっとした寄り道みたいなものよ。それよりも聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかしら?」

 

 今目の前に現れたスズナさんの名前が、ちょうど同じく目の前の立て看板に書かれてもいるのだ。聞いてみたくなるのも当然だろう。オレだって聞きたい。

 

「そうですね。わかりました」

 

 すると、スズナさんは滅多に見せないような真剣な眼差しとなった。オレも違う世界とはいえ、彼女ともバトルしたことがあるが、そのときですら、こんな表情はしていなかったのだ。世界が違うといえど、その辺はそう変わるものでもないだろう。

 

「場所を移しましょう。みなさんもいいですか?」

 

 なんだか厄介事の気配がプンプンと漂ってきた気がした。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 カザハナタウンにあるホテルの一室。そこにオレたちは集まっていた。オレたち一行以外にここにいるのはスズナさんとそれからカザハナタウンのジュンサーさんだ。タケシが「おっ嬢っさ~~~ん!!」と突入していったことからわかった。勿論お約束のグレッグルのどくづきによる制裁も行われた。

 オレたち一行と彼女らがテーブルを挟んで向かい合う形でソファに腰掛ける。そしてオレたちは彼女らの話を聞くことになった。

 そこで聞かされたのが――

 

「きょ、脅迫状ぉ!?」

 

 小説や漫画、ドラマの中でしか聞けないような、現実ではあまりにも耳慣れないフレーズであった。

 それに反応したのはいったい誰の声だったのか。いや、誰の声でもいい。オレたち全員が同じ心境だったのだ。

 

「そう。エアロ団、知ってるわよね?」

 

 エアロ団? いや別にそんなの聞いたことが……。

 

「あいつらか」

「またなのね」

 

 え? なに、サトシたち知ってるの?

 念のため、シロナさんやJの方も見てみたが、軽く首を横に振られた。どうやら彼女らも聞いたことがないようだ。

 

「あのスミマセン。今一度確認をしておきたいので、説明をお願いできますか?」

 

 そんなことを読んでくれてか、タケシが助け船を出してくれた。いや、助かる! さすがのいい男だ!

 

「そうね。みんなの知識のすり合わせも兼ねておさらいしておきましょうか。ジュンサーさん、お願いします」

「わかりました」

 

 説明役がスズナさんからその脇に座っていたジュンサーさんに切り替わった。

 

「エアロ団。元はホウエン地方に蔓延っていた悪の組織、アクア団とマグマ団から分離した一派が一つになって結成された組織です。組織の目標として『空の想いに従うべし』ということを掲げていて、世界各地で活動している環境テロリスト集団です」

 

 そこで聞かされたのはなかなかに衝撃的な話だった。

 エアロ団。アクア団とマグマ団から分離した連中によってつくられた悪の組織。アクア団は『ホウエン地方伝説の古代ポケモン、カイオーガを復活させ、その力で陸を沈ませ、地球の海を広げることで新たな生物が生まれ育つ場所を作る』、マグマ団は同じく『ホウエン地方伝説の古代ポケモン、グラードンを復活させ、その力で海を干上がらせ、地球の陸を広げることで人が住みよい世界を作る』というのを目的に掲げ、それぞれ活動を行ってきた犯罪組織だ。どちらも狂信的で危険な思想であり、どちらも互いを敵と認識して、抗争を行っていた。

 その中で、それぞれ海を、そして陸を増やすことに注視していた彼らだが、そこに疑問を持つ一派がそれぞれ現れた。彼らは各々が敵対する組織の内情を調べ上げ、そして同じような疑問を持った派閥がいることを察知し、接触する。そこで知った互いの内情と自分たちが所属する組織の馬鹿馬鹿しさ。それに嫌気を覚えた彼らがそれぞれの団を離れて、新たに組織を結成した。それがエアロ団。頭目は、派閥の分裂を回避するという名目のために外部から招聘された、スイレンという謎の女が務めている、らしい。

 そして彼女を筆頭として、彼らが抱える『空の想いに従うべし』という目標。これはすべての在り様を自然に任せることが適当であり、人間のような愚かな感情を持つ生物が創り上げてきた文明というものは排除すべしという、また極端に針の振れ幅が偏った思想。アクア団マグマ団に所属したので、その極端から極端へ走る思考回路は似たようなものであるが、危険度的にはアクア団マグマ団なんて比べるまでもない。ひょっとしたら、世界的に見てトップクラスに入るほどの危ない集団なのかもしれない。ジュンサーさんが“テロリスト”なんて単語を使った意味がハッキリとわかった。ちなみにエアロ団はてんくうポケモンのレックウザに特別な意味を見出しているらしいが、はっきり言ってレックウザにはいい迷惑だろう。

 

「恐ろしい集団ですね」

 

 エアロ団についての説明がひと段落ついたところで、Jがそう零した。ふと外を見ると先程より雪が強くなっているように見受けられる。

 

「オレたちもエアロ団については何度か戦ったことはあったけど、そこまでは知らなかったな」

 

 タケシの言葉にヒカリやサトシも頷く。どうやら彼らも詳しいことまではわかっていなかったみたいだ。

 

「なるほど。エアロ団についてはわかったわ。で、話を戻しましょう。その送られてきた脅迫状のことについて聞かせてください」

「もちろんです。チャンピオンのお力添えをいただけるなんて光栄です」

 

 公的地位に就く立場の人間はこのような事態に立ち会ったときには協力を申し出るということになっている。シロナさんは世界が違うとはいえ、シンオウチャンピオンマスターであるため、この事態に対して協力することにしたのだ。そしてオレも何か力になれることがあるのならば力になりたい。見れば、オレだけでなく、ここにいる全員がその思いを共有しているようだった。

 

「脅迫状ですが、これです。これが、ちょうど三日前の早朝、ここの町長宛に送付されてきました」

 

 透明なビニールに入れられた一枚の手紙がオレたちの方に差し出された。

 

「拝見します」

 

 シロナさんがそれを引き寄せる。みんなもしたようにオレもそれを覗き込んだ。

 

『拝啓 カザハナタウン町長殿

 

 お日柄の良い日が続くが、いかがお過ごしかな。

 さて、本題に入ろう。おっと、その前に我々のことを名乗っておこうか。

 知っているかとも思うが、我々はエアロ団だ。詳しいことまでは言うまい。

 ただ、世間では我々のことは環境テロリストなどと称せられているが、多分に誤解が含まれている。

 我々はテロリストなどではない。我々は世界を憂い、そして世界に救いを(もたら)すべく活動している救世主なのだ。

 まあ、諸君らがなんと言おうと、これだけは変わらない。言い争うつもりもない。

 なぜなら、我々は行動で示すだけなのだから。

 おっと、長々とすまなかったな。本題に入ろう。

 我々エアロ団は近々、カサハナタウン、またの名をスノーリゾートを消す予定である。

 そう我々の中での裁定が下された。我々の神もそう思し召しである。

 しかし、我々はそこに住むポケモンたちまで消すつもりはさらさらない。

 だから、これはお願いであるが、ポケモンたちの避難を完了させてほしい。

 尤も、申し訳ないのだが、時間はあまりやれないのだがね。

 では、諸君。よろしく頼むよ。

 

 エアロ団 敬具      』

 

 それが脅迫状の中身だった。

 

「我々はそのまますぐにスキー場を閉鎖して観光客の退避を促しているのですが、表立って言ってしまうとパニックを引き起こしかねないので、退避は遅々として進みません。みなさん、すぐに復旧が出来るだろうという思っているようでして」

 

 ハァ~と長い溜息をつくジュンサーさんの顔には化粧でも誤魔化しきれない疲れの色がにじんでいた。

 

「なるほど。お仕事お疲れ様です。それにしても、この脅迫状にあるお願いとかは随分身勝手なものですね。へそで茶を沸かすわ」

 

 そうバッサリとシロナさんは切って捨てた。

 オレもその意見に賛成だ。こんなのちゃんちゃらおかしい。それにインテリぶってるけど、その中に狂気みたいなものを感じた。おまけにポケモンのことは気に掛けても、人間に関してはこれっぽっちも関心がない、というより、消えてなくなっても構わないというところか。

 ホント、恐ろしいカルト集団だ。他のみんなもこれには諸手を上げて同意を示していた。

 

「で、対策とか何か考えているんですか?」

 

 オレの言葉に目の前の二人は困ったような表情を浮かべる。

 

「一応警備は結構万全よ。それと念のためにポケモンたちの保護も行ってるんだけど、相手が野生だからなかなかうまい具合にはいってないわね」

「この『カサハナタウンを消す』っていう方法も、我々は雪崩を起こすというのも考えてみましたが、この町が消えるというほどのモノではありませんから、現状皆目見当もつかないんですよね」

 

 二人はそう言って、大きな地図を取り出した。

 

「ちなみにこちらがカサハナタウンとその周辺のかなり詳細な地図です。カサハナタウンがこの一帯、今私たちがいるホテルはここですね」

 

 ジュンサーさんがそう言いながら地図上に乗る指を動かしていく。

 

「へぇ、ここってほんとにスキー場が多いのねぇ」

 

 クラルテ(ヒカリ)ちゃんが地図を見ながらそうつぶやいた。確かにあちらこちらスキー場の名前が書かれていたりして、それが存在することを主張している。

 

「ん? この何にも書かれていないけど、なんかやけに広いのはなんですか?」

 

 タケシがいくつか地図上の箇所を指で示した。

 

「ああ、これは今は使われていないスキー場です。あとは、一旦廃業したスキー場が買い取られて改装されている途中のものもあったりもしますね」

 

 へぇ、なるほど。そんなものもあるのか。んでも待てよ?

 

「えっ、でもここはスノーリゾートですよ? 観光客もいっぱいいるし、なぜ潰れるんでしょう?」

 

 タケシもオレと同じ疑問を思ったようである。

 

「スキー場内で雪崩が多かったり、急に地盤が崩れたりする危ない事故が多かったからですよ。改装工事中のところはそれらの対策を行っているところですね」

 

 なるほど。そういった事情があるのか。しかし、それじゃあ初期投資が大きすぎて、開業したって費用を回収しきれるのか疑問な気もする。

 

「ビィ~イィ」

「ポチャ!」

「ピッカ!」

 

 声をした方を見るとセレビィが窓を開けたのを、ポッチャマとピカチュウが注意している姿があった。

 

「セレビィ、みんな寒くなるからやめましょうね」

「ビィ」

 

 シロナさんの優しげな声で、ゴメンと言わんばかりに謝っているように見えるセレビィ。外は雪がしんしんと降っているため、その窓から部屋に入ってくるものもあったが、カーペットに落ちると部屋の気温によってすぐに解けて単なる水滴へと変わっていった。

 

「ポッチャマ、悪いんだけど窓閉めてくれる?」

「ピカチュウも。頼んだ」

「ポッチャ!」

「ピッカ」

 

 その窓の閉まるまでの間も、部屋には時折今みたく降雪が入ってくる。

 

「そういえば、この雪どのくらい降ってるんですか?」

「確かもう一週間降り続いていますね」

 

 クラルテ(ヒカリ)ちゃんの興味本位の疑問に丁寧に答えるジュンサーさん。

 また、降雪以外に気になることとして、ポッチャマやピカチュウが協力して窓を閉めてくれている間、部屋にはドドドドドという音が微かに聞こえていた。

 

「あの、この音ってなんですか?」

「ああ。それはちょうどこのホテルの裏手にある川の音でしょうね。んーと、ああ、これよ」

 

 ジュンサーさんが地図の指差す先に、視線を落とす。なるほど、たしかに川だ。

 

「ちなみにホテルはここね」

 

 ジュンサーさんはそのままツツーと指をずらした――なんだ、ほんとにすぐ近くか。

 なんとなくだが、その川がどういう経路で下っていくのか、そしてどういう経路で流れてきたのかを見てみる。

 ――こういうの好きなんだよね。昔もらった地図帳とかいろんな地図でも必ず同じことをやってたりしたし。

 ツツツーと指で川をなぞる。今回は川が太くなる方とは反対の方、上流側に向かってだ。そのまま地図の端まで動かしていくと、当たり前だが、そこで川は途切れ、指も止まる。

 

「どうかした?」

 

 するとそれにスズナさんが反応した。

 

「どうしたの?」

「いえ、ちょっとした興味本位だけですので」

「そうなの?」

 

 スズナさんは気のせいかどこか期待した視線を送ってくるのだけど、本当に大したことはないと思っていたので、とりあえずは流してもらうためにも、この途切れた部分を指しながら答えることにした。何となくだが、「何でもない」と答えると若干の押し問答が発生しそうな気がしたので。

 

「このホテルの隣を流れている川を地図上で遡っていったら、途中で切れてるじゃないですか。で、この上流になにがあるのかなぁって」

 

 単なる好奇心の一つだった。

 

「ああ、それはですね――」

 

 そして、その疑問に答えてくれたジュンサーのその答え。

 

「このシンオウで五指に入るほど有名な大きなダムがありますね。ご存じありません?」

「……あぁ。そういえばそうでしたね」

 

 とりあえずは今思い出したという振りをしつつ、チラリと隣のシロナさんに視線を走らせると軽く首を振られた。

 

(……にしても、テロリストとダムってあんまりいい組み合わせじゃないよなぁ)

 

 瓢箪から駒じゃないが、それにオレは何か嫌な予感を覚えたのだった。

 




オリジナルの悪の組織を出してしまってスミマセン。ただ、既存の組織に下種な悪を被らせることで原作のイメージを壊したくなくてどうしてもできなかったのです。(オリジナルならいくら汚名を着せたって大丈夫?)ちなみにだいぶ前に活動報告でお伺いしていた『悪役の女性』『悪女』を、ちらっとまだ名前だけですが、ようやく出すことが出来ました。

それから落ちがわかったという方いらっしゃると思いますが、ネタバレはなしでお願いしますm(_ _)m

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