予定では三部構成(ただし第三部が相当長い)で、そのうち完成している二部まで公開します。
ちなみに書き上げて、さらに手直しを加えたのも2年以上前だと思うので、書き方が違っているかとも思われます。ご注意ください。
この話は本編第一部の挿話4と挿話5の間のお話です。またヒカリのときわたりシリーズ後となります。
その1 異世界の迷子御一行様
ときわたり。
それは左から右へ一方通行である時の流れの中を、それにとらわれることなく、自由に行き来できる特殊能力。
ときわたり、漢字に置き換えると“時渡り”。
それが表すはすなわち、タイムスリップ。
そんなとんでもないことを行えるポケモンがいた。
その名をセレビィという。
ただ、中には相当特殊なセレビィもいたりするのだった。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「で、セレビィ」
「ビィー」
「オレたちは今度こそ元の世界に帰れたんだろうな?」
「ビビィービィビィ」
「(大丈夫大丈夫。今度は間違いないって。でも、このセリフ何回聞いたかしらね。一回や二回じゃないわよ)」
期待半分不安半分を抱きつつも、やれやれとため息をついた音がオレ以外の他の三人からも漏れてくるのが聞こえる。なぜ三人かというと、ユクシーの目を見て記憶を失ったJを、その責任としてオレたちが引き取ることにしたためであり、今現在は彼女もこの旅に同行しているからだ(ちなみに日常生活を送るには不自由はないが、自分の名前すらも覚えていない状態であり、あの世界で犯罪者としての生を送るより、やり直しの人生をさせてみたかったというエゴみたいなものである)。
で、さて。いったいどんな状況になっているのかを簡潔に示すと、
1.ハクタイの森でセレビィを助ける
↓
2.セレビィがときわたりをしてくれることになる
↓
3.過去や未来にでも行くのかと思いきや、全然別の世界に飛んでしまう
↓
4.元の世界に戻ろうとするも、また違う世界に飛ぶ
↓
5.元の世界に戻ろうとするも(ry
↓
6.以下4に戻る
とこういう状況なのだ。完全に“時渡り”ではなく“世界渡り”をオレたちは行ってしまっていた。
ただ、今回は何となく植生や周囲に点在する家々が見覚えのあるところな気もするから、なんとなくではあるが、オレたちは元の世界への帰還を果たしたのかもしれない。
なんですか。オレたちは流浪の旅人だったとかなんかかいな。
あてどなく時空を
「ああ! ここって!」
まあ落ち込んでても始まらないので、状況の把握をしようと辺りを窺っていたときに大声で発せられたヒカリちゃんの声。
「ここあたしん家!」
うん? ヒカリちゃんの家? ってことは??
「シンオウ地方フタバタウンってことかしら」
ということになるでしょうね。
「どなた?」
そのヒカリちゃんの家からかわいらしいピンクのチェック柄のエプロンを纏った一人の女性が出てきた。ヒカリちゃんの大声を聞いて外の様子を窺いに来たのだろうか。で、この女性だけど、あのボリュームのありすぎる特徴的な髪型はカンッペキにヒカリちゃんのママさんだと思うんだよね。ゲームやアニメで見覚えがある。
まあ何にせよ、やっと現代に帰って――
「えええ!! な、なんで!?」
――……うん、だいたい把握したよ。
「ヒ、ヒカリが二人ぃぃーー!?」
またか!?
またこのパターンなのか!?
「(……セレビィ、何か言い残したことは? 遺言として取っといてあげるから早くしなさい)」
あ、ラルトスとうとうキレた? 口調というか雰囲気がヤバいよ?
あ、サイコキネシスで拘束された。
「ビィ、ビィビィ!」
助けを呼ぶ声かな? ごめん、オレにはなんのことかサッパリわからんなぁ(棒)。
「(ウフ、覚悟はいい?)」
「ビィ! ビィビィビィ!」
後ろで何かやってるような気もするけど、さっぱりわからないなぁ(棒)。だから、オレたちは一切関知しない、というか関知しようがない(棒)。
「ビィ! ビィビィビィビィーーーーー!」
マジで一回反省しとけよ。
* * * * * * * *
今回もまた事情説明。
というのも、本来であればオレたちに縁ある人たちに接触しなかったら、そのまま黙って立ち去るということをしてきたのだが、それが崩れてしまった場合は説明を行うことにしているのだ。序でにこの世界のこと・時間についても情報を提供してもらっているので、簡易的な等価交換が成り立っている。
それによってわかった情報をまとめると、ここは以前訪れた(Jを連れてきた)アニメ世界とはまた違ったアニメ世界らしい。サトシたちはオレたちとエイチ湖では遭遇していない上、アニメならばサトシのシンオウリーグの成績はベスト4だったのが、ここでは準優勝と一つ勝ち進んで順位を上げている上、ヒカリもグランドフェスティバルで優勝を飾っていた。サトシに関しては理不尽な伝説厨が出てきたわけでもなく、結構な僅差だったらしい。そして時間的にはサトシ・ヒカリ・タケシのシンオウ地方の旅が、シンオウリーグを終えて、このフタバタウンに帰ってきたときということ。
で、オレたちにとっては目的の世界ではないので、すぐにこの世界を後にしたいのだが、セレビィはそう何度も連続してときわたりを使うことは出来ない。どこぞで休息を取る必要があった。
「なら、ここにしばらく泊まっていきなさいよ」
「そうそう! それにもっと聞きたいわ、その時渡りの話!」
とこちらの世界のヒカリ親子の鶴の一声によってオレたちは数日ヒカリの家にお邪魔することになった。
* * * * * * * *
明くる日
「これよりカントー地方マサラタウン出身サトシとホウエン地方ハジツゲタウン出身ユウトのバトルを始めます!」
ヒカリの家の前の拓けた広場の一角でオレとこの世界のサトシが向かい合っていた。というのも昨日、シロナさんが「彼は私より全然強い」と零してしまい、サトシはおろか、タケシやヒカリ親子すら興味津々で、此方が折れたという格好だ。「最強と謳われるチャンピオンマスターをしてこう言ってのけた相手に興味を持つのはムリからぬこと」とかシロナさんに言われたけど、こうなる種を蒔いたシロナさんが言うのはおかしいと思う。
まあそれはさておき、そんな訳で見物人はヒカリちゃん、J、セレビィ、こちらの世界のヒカリ親子、タケシで審判はシロナさんが務める。
「ルールの確認をします! 使用ポケモンは六体のシングルフルバトル! 道具の使用、及び所持は禁止とします!」
ゲームでストーリーを進める際の六対六のトレーナー戦みたいな感じだ。ゲームの野生トレーナーなら道具は使わないし。尤もゲームみたく攻撃技でごり押しなんてこともするつもりもサラサラないが。
「では始め!」
いつもとは違う凛々しい声で始まりの合図が告げられた。
「オーダイル、君に決めた!」
サトシは昨日のうちにメンバーを入れ替えて今日に臨んだ模様。
つか、アレですか? あのオーダイルはジョウト編のワニノコが進化したヤツ?
うん、ホントにオレの知ってるアニメ本編と違う。
まあそれはさておき。
「ニドクイン、キミに決めた!」
「あ、オレと同じ言い方」
セリフが被ってることについて当の本人はそんな認識らしい。正直世界が違うので、「パクんな!」って言われてもシカトするけどね。
「水タイプと地面タイプならこっちの方が相性がいい! 一気にいくぜ!」
「さて、どうかな」
攻撃技で一気に攻めてきそうなので、とりあえず出鼻を挫くということにしよう。
「ニドクイン、おだてるだ」
するとニドクインは手をパチパチと叩いてオーダイルを褒めまくり始めた。
「オーダイル、アクアジェット! って、お、オーダイル?」
するとオーダイルの様子がおかしくなり、
「ちょっ! オーダイル、何やってんだよ! 正気に戻れ!」
混乱して自分で自分を殴ったりしている。ちなみにおだてるは相手の特攻を一段階上げてしまう代わりに、相手を混乱させるという技だ。
さて、このニドクインは特性は“とうそうしん”という『性別が同じ相手に対しては攻撃・特攻が一.二五倍になる代わりに、異なる場合は〇.七五倍になる。ただし、性別のないポケモンの場合は効果がない』というやや珍しい特性。しんちょう(特防↑特攻↓)という性格もあり、ハピナスを主体とした♀キラーな物理アタッカーに育てていたんだけど、サトシのポケモンはたしか♂主体だったはず。
ならばここは攻撃力が下がるので、サポート型戦法でいってみましょうかね。
「ニドクイン、今のうちにどくびしとステルスロックをばら撒け!」
この混乱している隙がもったいないので、ここでステルスロック、それからどくびしを撒く。ステロは一度で十分だが、どくびしは最低二回は撒いておきたい。というのもまず、ステルスロックもどくびしもポケモンが場に出てきたときに効果を持つ技で、ステルスロックは岩タイプの相性によりダメージ量変化する一定ダメージを与えるものに対し、どくびしは相手を毒状態にするものだ。そしてどくびしは二回ばらまけば、毒ではなく猛毒状態にすることが出来る。
そして、そろそろ混乱が解けるというところで、ニドクインは無事にそれらを撒き終えてくれた。
「(特にどくびしについてはきっちり二回撒いてくれたみたいよ)」
うん、たしかに。ホントに優秀ないい子である。
「よし! おかえしだ! オーダイル、たきのぼり!」
混乱が解けたオーダイルがたきのぼりで迫ってきた。
「あまえるだ、ニドクイン」
互いの間には距離があったために、迫ってくる間にあまえるがヒット。その後、ニドクインがたきのぼりを食らった。
オーダイルは元々攻撃が高い上にタイプ一致のたきのぼりでニドクインには効果抜群なのだが、それでもあまえるの効果は大きく、少しよろめく程度でニドクインは持ち堪える。あまえる以外にも元々ニドクインは耐久がそこそこ高いというのもはたらいたか。
「ニドクイン、よくやってくれた。えらいぞ」
その言葉にやや甲高い嘶きでニドクインは嬉しそうに応えてくれた。
「うん、いい返事。戻れ、ニドクイン!」
今回オレの手持ちの中にはラティ兄妹がいるが、なるべくなら使わないような方向でいきたい。伝説のポケモンはそれ自体が非常に強力で、下手をすれば戦法もクソもなくなる可能性を秘めているからだ。なので実質オレは手持ち四体でサトシの六体を撃破しなくてはならない。ニドクインは器用でほぼ何でもできるから、こんな序盤で失うには正直惜しい。だからニドクインはここは一旦引かせたわけだ。
さて、代わりに出す奴なんだが――
――久々にコイツで行こう!
「オレの二体目! ラルトス、キミに決めた!」
「(やった! 了解よ、ユウト!)」
*†*†*†*†*†*†*†*†
「あのニドクイン、けっこういやらしい技使ってくるわね。それに弱点技をもらっているのに全然効いてないっぽいし?」
「いや、僅かだが効いてる。あまえるが効いているということだろう。それにステルスロックか。これがいったいどうバトルに響いてくるか」
すげー、こっちのあたし、というかヒカリは。いくら旅に出て長いとはいえ、あたしがあのままユウトさんに会わずに旅してたとしたら、はたしてここまで知識を蓄えるなんてことが出来たか。
「ステルスロックってたしかポケモンを出すと少しダメージを受けるっていうヤツだっけ?」
「ヒカリ、あなたも旅をしてサトシ君たちのバトルを見てきたはずなんだからそれぐらい覚えなさい。ステルスロックは使われるとポケモンを交換する度に、出したポケモンはダメージを受けるって技よ」
いえいえ、十分だと思いますよ。こっちのママもやっぱり厳しいなぁ。
「そしてフルバトルの場合、ポケモンの交換が頻繁におこり得る場合がある。その場合はサトシの方が不利になる。おまけにどくびしの存在だ。どくびしは使われると、相手はポケモンを交換する度に、出したポケモンが毒状態になるっていう厄介な技だ。この序盤でこれだけのプレッシャーをかけてくるとはシロナさんが言うだけのことはある」
「そうねえ。それにステルスロックと合わさると出ただけでタイプ相性にも依存するけど結構なダメージを食うわね」
「尤も、飛行タイプと特性“ふゆう”のポケモンは効果を受けないし、サトシがベトベトンやフシギダネみたいな毒タイプのポケモンを出せば効果がなくなる。それにこうそくスピンを使えばステルスロックも含めて全部吹き飛ばせる。サトシがどんなポケモンを手持ちに入れてるのか分からないが、アイツは突拍子もないが案外巧い手を考えつく天才だ。それに期待してみよう」
それで、こんな感じでタケシとこの世界のママが今のバトルについての討論を行っているけど、全体的にあたしたちのところより進んでいる気がする。だって、あたしたちの世界は変化技についてそこまで知られていないし。
それはそうと、この世界のママもやっぱり凄腕のトップコーディネーターらしく、この世界のあたしより知識量も豊富である。
「でもステルスロックは一回だけだったけど、なんでどくびしは何回も撒いていたんだろ? 一回でよくない?」
「うーん……」
「そうねぇ……」
ん? どくびしの細かい効果までは知らない?
「どくびしは二回以上撒き散らすと交換で出てきた相手を猛毒状態にするのですよ」
って幾分ハスキーなお声のJさんが答えてくれちゃったけど、アレ、なんでJさんがそんなこと知ってるの?
「ヒカリさんやシロナさんが受けている授業をコッソリ聞いてみました。先程タケシさんとアヤコさんの説明にはその部分が欠けていたようでしたので、その点を補足してみました」
「お姉さぁぁぁん! 素晴らしい! それほどまでの深い知識、是非ともこのタ・ケ・シに手取り足取りご教じ
へあ゛っっ!!」
昨日から見ているに、タケシはどうやら年上のお姉さんに目がないらしい。今、急に豹変してJさんの手を取り、その甲に口づけを行いそうな様は、そこに
「ああ、またか。懲りないわねぇ」
なるほど。今のヒカリの言葉からアレはいつもやっていることと。一種のお約束的な感じなのかしら。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「ラルトス。たしかキルリアやサーナイトの進化前のポケモン、エスパータイプ。……いくしかないか! オーダイル、ハイドロポンプ!」
「ひかりのかべを張った後にいたみわけだ」
ハイドロポンプが発射されるまでの間にひかりのかべを張る。これはおだてるで特攻が一段階上がったこと、さらにひかりのかべは交換してもしばらくの間は留まり続けるので、後続に出すポケモンにつなげるというのが目的だ。さらにハイドロポンプで受けたダメージもいたみわけで回復と。
とってもおいしいです。
「ラルトス、10万ボルトでキッチリおかえししてやれ」
「(当然よ!)」
とりあえず、今のオレのパーティには水が弱点のヤツが二人いるので、水タイプのオーダイルはここで何としても退場させる。オレのラルトスなら、いたみわけ+効果抜群10万ボルトで、
「オーダイル、戦闘不能!」
と持っていけるのだ。
「よし! いったん戻れ、ラルトス!」
「(え、わたしの出番これだけ?)」
オーダイルをダウンさせるためにラルトスに出張ってもらったようなものなので、ここは一度引かせた。
そして、
「出番だぞ! ボスゴドラ、キミに決めた!」
早くもというべきなのか四体中、既にこの序盤で三体目を繰り出した。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「六匹の中でもう三匹目を出すのね」
「相手に自分のポケモンを知らせないというのはフルバトルなら特に重要だけど、そのセオリーからは外れてるわね」
「ですが、それがすべてというわけではありません。彼がいったいどういう考えでバトルをしているのか」
ヒカリやタケシ、ママさんを尻目にあたしが思うのは、戦況はユウトさんが優勢なんじゃないかということだ。現在あたしたちは時渡り中なのだからアイテムの補充やポケモンの入れ替えなどは出来ない状態である。だから、ユウトさんの手持ちはポケモンハンターのときのJさんと対峙したときと変わっていないため、水タイプを苦手とするポケモンが二体いる。ボスゴドラとニドクインだ。旅のトレーナーで、かつ、ポケモンリーグにも出場するようなトレーナーなら、パーティに同じタイプのポケモンを被らすということはしないハズだ。
とすればサトシは貴重な水タイプのポケモンを失ったことになる。
おまけに、
「次はコイツだ! ヘラクロス、君に決めた!」
投げたボールから現れたヘラクロスは
「ヘラッ、クロッ!」
ステルスロックでダメージを受け、
「ああ! あのヘラクロス猛毒状態になっちゃった!」
ということだ。これ以後出てくるポケモンは毒タイプや鋼タイプ、飛行タイプでないかぎり、どくびしで猛毒状態になり、ステロのダメージを受けることになる。
そして今出てきた1ぽんヅノポケモン、ヘラクロス。タイプは虫・格闘タイプ。鋼・岩タイプのボスゴドラに虫・格闘タイプのヘラクロスは格闘技ならタイプ一致弱点四倍で合わせて六倍ものダメージを期待できるけど、ボスゴドラの物理耐久は並じゃない上、時間をかけ過ぎるとヘラクロスが猛毒のダメージで落ちてしまう。
そして何よりユウトさんのボスゴドラには強力無比なアレがある。
『ヘラクロス 現在猛毒状態』
不意に聞こえた電子音声の方に振り向くとこの世界のあたしが図鑑を開いていた。
さらに
『覚えている技:インファイト メガホーン かわらわり つのでつく ビルドアップ ねむる ねごと ……』
とそのポケモンが使える技まで読み上げている。
ていうかこの世界の図鑑ってチートすぎない? マジでほしいわ……。
アニメBWの図鑑は覚えている技がわかるようなので、実装。
う、うらやましいなんて思ってないんだからねっ!
そしてこの世界渡りのおかげでいろいろな世界に赴くユウト御一行様
時渡り中の4人の手持ちは以下の通りです。
ユウト
ラルトス、ラティアス、ラティオス、ボスゴドラ、ゴルダック、ニドクイン
ヒカリ
ポッチャマ、ムクホーク、レアコイル、リザードン、エルレイド、ムウマ
シロナ
ガブリアス、サーナイト、スターミー、バクフーン、トゲキッス、ライボルト
J
ボーマンダ、ドラピオン、アリアドス