また、今回「ん?」と思われるかもしれませんが、一つ温かい目でよろしくお願いします。
「だれ、あなたたちは!?」
胸にRの文字を印字された奇妙な格好をした男女の二人組とニャースにセレビィを捕えられてしまった。当然そんな状況下でサトシとシロナさんのバトルが行われるわけもなく、シロナさんがそんな彼らにその言葉を投げつけたときだった。
「『だれ、あなたたちは!?』と聞かれたら――」
「答えてあげるが世の情け――」
その二人組はなんだかヘンなポーズを決め出した。
「世界の破壊を防ぐため――」
「世界の平和を守るため――」
さらに男の方はいったいどこから取り出したのか、赤いバラを取りだした……。
しかしまあ……
「愛と真実と正義を貫く――」
なんというか……
「ラブリーチャーミーな敵役――!」
「ム 「ねえ、シロナさん」 」
「コ 「なあに、ヒカリちゃん?」 」
「銀河 「これって最後まで聞いてなきゃダメ?」 りには――」
「ホワ 「うーん、別にいいんじゃない? こんなの聞かなくても」 るぜ――!」
戦隊ものとかバトルものの変身シーンや登場シーンはちゃんと聞くモノだけど、ここは現実なんだからそんなもの聞いてあげる必要もないので、半分ワザと被せてみた☆
「ってオミャーら最後までちゃんとニャーたちのカッコイイ決め台詞を聞くニャー!!」
「ソォォォナンス!!」
そうするとなんだかノリのいい反応が返ってくる。
てか、ニャースの他にはソーナンスまで現れたのはいいとして――
「「ニャースが喋ったあッ!?」」
二人組のことよりあたしもシロナさんもそっちの方が気になってしまった。
なんで? どうしてポケモンが人間の言葉を? ていうかなんでユウトさんやサトシたちは平然としてるのよ?
「ニャースの言うとおりよ、まったく!!」
「ああ! まったく、なんて失礼な奴らだ!! お約束はきちんと守らないとダメなんだぞー!!」
「ソォォォナンス!!」
いや、アンタらそんなことを言う資格ないんじゃないかなぁ。
「とにかく! ム・サ・シ!」
「オッホン! コ・ジ・ロ・ウ!」
「銀河を駆けるロケット団の二人には――」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ――!」
「あニャーんてにゃ!」
「ソォォォナンス!」
結局最後までやるわけね、アンタたち。
でも、
「なんだか締まらなかったわね」
シロナさんの言うとおり、なんだか微妙な感じになってしまった。
「うるさいわね! 元々はアンタ達がジャマしたからでしょ!」
「ていうか、なんで同じジャリガールが二人もいるんだ!?」
「あっ! 本当ニャ!」
「ソォォォナンス!」
それに今頃気づくか。やれやれって感じね。
ていうか気になることを言っていたわね。
ロケット団か。
どうやらあいつらロケット団の構成員ということみたい。この世界では壊滅してなかったのね。
「とにかく! ロケット団、セレビィを返せ!」
「へっ! お断りよ! コイツをボスに献上すれば?」
「幹部昇進!」
「支部長就任ニャ!」
「ソォォォナンス!」
「「ちょ~っと待ったー!」」
サトシとロケット団の言葉の応酬が続いている途中に、また知らない男女の声が耳に届く。
「あーもう! 今度はなに!?」
* * * * * * * *
「あっ何だかんだと聞かれたら――」
「答えないのが普通だが――」
「「まあ特別に答えてやろう――!」」
こちらに背を向ける黒いコスチュームの男女二人組。
「地球の破壊を防ぐため――」
「地球の平和を守るため――」
こちらに振り返る。すると、胸にはまたもや赤いRマークが印字されている。しかも、先のムサシとかコジロウとかとは、細かい差異はあれど、白黒が反転しているコスチュームを身に纏っている。
「愛と誠実な悪を貫く――」
「キュートでお茶目な敵役――!」
それにしても、何というか――
「ヤマト――」
「コサブロウ――」
これ、つい今し方聞いたような――
「宇宙を駆けるロケット団の二人には――」
「ショッキングピンク桃色の明日が待ってるぜ――!」
そしてなんか締めっぽいところで、バランスって言う組み体操の技(なんか二人並ぶ内、お互いの外側の手で内側の足を持って、内側の手をつなぎ空に突きさすように上げてる)ポーズを決めた。
「なーんてな!」
「ラッチューノ!」
最後に、女性の声とともにラッタが飛び出てきて、クロスしている膝の上に乗る。
「あ、終わった?」
うわぁ、シロナさん欠片も興味ないのか、本人たちは『決まった!(ドヤァ』してるところにグサリと刺すような一言を浴びせる。
「ああ!」
「ピッカ!」
「おまえたちは!」
「んー、誰だったかしら?」
「ポチャチャア?」
ぷっ。なんというタイミング。そしてギャグのお約束みたいにひっくり返るヤマトとコサブロウ……あれコサンジだっけ?
んー、とりあえず、サトシとピカチュウ、それとタケシは知ってたようだけど、ヒカリは知らないってことから、サトシたちがヒカリに会う前に知り合ったのかしら。サトシたちはずっと旅を続けてるって言ってたし。
「サトシ、とりあえず思ったんだけど、今の口上ってよく聞き慣れてるロケット団のパクリよね?」
「ん? あー、まあな」
初対面らしいヒカルの素直な感想。まあ、あたしも普通にそう思ったけどね。
「そうよそうよ! もっと言ってやんなさいよ、ジャリガール&ジャリボーイ! あのヤマトに!」
「それとコサンジにもな!」
「どぅぁーかーるぁー! オレの名はー! コ・サ・ン・ジだって! 言ってんだろー! ……あれ??」
「んなことどうでもいいわよ! パクリ!? 冗談も休み休み言いなさいよ! ほんっと失礼ね!!」
そんなこんなで復活して、言葉の応酬を繰り広げるサトシたちとロケット団。
そんなさなか――
『ほほう! こいつはなかなか珍しいのがいるな!』
* * * * * * * *
まるでスピーカーから聞こえたような女性の音声が空に響き渡る。見上げてみると、空が何やら歪んで見えた。
……?
「なによ、あれ?」
すると何もなかった空に突如としてゴツゴツとした機械的な飛空挺らしき物体が浮かんでいた。
「あれは!?」
「Jの飛空挺よ!」
「チッ! よりにもよってこんなときに! コジロウ! ニャース! それからヤマトもコサンジもね!」
「オウ!」
「ニャー!」
「仕方ないわね。邪魔者はサカキ様のためにはならないもの」
「だからオレはコサブロウだっての……」
「ジャリボーイ、ここは一時休戦よ!」
「わかった! だけどセレビィはあとで返してもらうからな、ロケット団!」
ロケット団も含め、サトシたちも臨戦態勢を取る。というより、さっきまではお互い敵対していたのに、一時的とはいえタッグを組むなんていったいその“J”とやらは何者?
「ポケモンハンター。依頼されたポケモンはたとえ人のものだろうと強奪して、それを依頼者に高く売りつける。いわば犯罪者だね」
ユウトさんがそう解説してくれた。
「しかしまぁ、随分と危険なのに出くわしたな」
「どういうことなの、ユウト君?」
「あのJの場合、自分の障害になるようならば人に危害を加えることになんら躊躇をしないということです」
そんな!? そんな人がいるの!?
誰しも――たとえサトシたちやロケット団すらも――ユウトさんの発言に驚きを隠せないようだった。
「なるほど。容赦は無用ってわけね。なら、全員出てきなさい!」
一方、シロナさんはまったく動じていない様子で、残り全てのモンスターボールをボールポケットから取り出して放り投げた。出てきたポケモンはバクフーン、ガブリアス、スターミー、トゲキッス、ライボルト。
「ここは幸いにもエイチ湖。シロナさん、スミマセンが、少し時間を稼いでくれませんか?」
「わかったわ、任せて」
「ヒカリちゃんも頼むわね」
「もちろんです」
ユウトさんになにか考えがあるらしい。ここは素直に従うのが賢明だろう。
そうこうしているうちに飛空挺からはボーマンダに乗った顔にフィットするタイプのバイザーとインカムをつけた女が現れた。
「すまないけど、オレとシロナさん以外はJの相手はしないよう努めてくれ」
「でも、ユウトさん、オレ!」
「サトシ君、なにも戦うなとは言っていないよ。キミたちにはあの大軍を相手にしてほしい。もちろんヒカリちゃんたちやロケット団、あなたたちにもね」
ユウトさんの指差す先には飛空挺から大量に放たれるメタングとエアームドの群れ。その数の多さは、黒点によって青空が覆い尽くされるのではないかというほどであった。
「……チッ、気に食わないけどしゃーないわね。コジロウ、それからヤマトもコサンジも、あたしたちの相手はおまけのザコどもよ!」
「わかった!」
「ほんっと、気に食わないわね」
「まあまあ。今回はいいじゃないか。それとオレの名前はコサブロウです」
ロケット団の四人がユウトさんの案に動揺するとサトシたちもそれに同意することになった。
そしてユウトさんはラルトスの他にボスゴドラ、ラティオス、ラティアス、ニドクインを繰り出し、あたしもレアコイル以外のポッチャマ、リザードン、ムクホーク、エルレイド、ムウマと手持ちの全員を外に出した。他の全員も手持ちの全てを繰り出し、もはや総力戦と化したといってもいいほどの様相を呈してきている。
「ユウトさん、気をつけてほしいことがあるんですけど」
「ん? ああ、彼女がポケモンを捕獲するために使う特殊な技術のことかい?」
「えっ? あっ、はい。知ってたんですか?」
「んー、まあ、ね。とりあえず、ご忠告はきちんと受け取っておく。ありがとう」
……釈然としない。
どうしてユウトさんがJのことについてあんなにも詳しく知っていたのか。あたしたちの世界ではJの存在などついぞ聞いたこともない。
「ユウト君、聞きたいことがあるんだけど」
それはシロナさんも同じみたいだった。だけど、あの人の返事は――
「“禁則事項です☆”」
またそれですか。てか前から思っていたんですけど、なんかそれユウトさん、というより男の人には似合わないような気がします。
「おっと、お客さんをもてなす最後の準備をしないとな。ゴルダック、キミに決めた!」
そうしてエイチ湖の湖面に向かって投げたボールからゴルダックが繰り出された。
「ゴルダック、ラルトスからの指示をしっかり聞いてくれ。それからこれも持っていってくれ。失くすなよ」
「グワッパ!」
ユウトさんがゴルダックに向かって何かを投げた。それはきれいな弧を描いて、無事ゴルダックの手元に収まる。
「じゃあ頼んだぞ!」
「グワッパ!」
ゴルダックはラルトスとユウトに向かって大きく声を上げると、反転してエイチ湖に潜っていった。ゴルダックへの指示はきっとユウトさんがラルトスにテレパシーを送って、それをラルトスがゴルダックにまたテレパシーでは送ったのだろう。一応ここには共闘するとはいえ、“敵”に当たるロケット団もいるわけだから。
そうこうしているうちにあのJとかいう女がなにかの飛行機械に乗って、地上二、三メートルの中空まで降りてきた。黒の色合いが強い、灰色っぽいドレスのような、だけど全然柔らかそうな印象のない戦闘服に、左腕の前腕部に何かの発射口のようなものがある機械を装備している。
「依頼のあったサーナイト、しかもチャンピオン様のものとあれば相当レベルも高い。素晴らしい」
「あら、そう簡単にいくかしらね。獲らぬ狸の皮算用とはよく言ったものだわ」
「フフ、お強いことだ。だが、それもいつまで続くかな? それに――」
ツツーと視線が横にずれ、あの女はセレビィを見据える。
「まさか幻のポケモンであるセレビィまでいるとは。あまりに運が良すぎてあとが怖いな」
何気に死亡フラグを立てているような気もするけど、とにかく、あたしたちをそんなに舐めないでほしい。全員が全員、そんなに簡単にやられる、あるいは簡単に屈するような人たちじゃないんだから。
* * * * * * * *
「バクフーンはふんかを、ライボルトはバクフーンの護衛を続けて! リザードンとムクホーク、トゲキッスはねっぷう! ムウマはあやしいかぜ! ヒマがあればわるだくみもしなさい! それ以外は撹乱しつつ、チームワークを組んで各個撃破!」
シロナさんのバクフーン、トゲキッス、ライボルトは一時的にあたしに預けられ、あたしのポケモンたちといっしょに辺りの、それこそ数えるのも億劫ほどの、メタングとエアームドの群れを撃退していく。メタングもエアームドも炎が弱点なので、ふんかやねっぷうといった範囲攻撃でおもしろいように堕ちていっている。それ以外も空を飛べるのはもとより、飛べないのはメタングやエアームド自身を足場にして次から次へ飛び移るようにして迎撃していっていた。
「ピカチュウ、10万ボルト! ヒコザル、ほのおのうず!」
「ポッチャマ、うずしお! パチリス、ほうでん!」
「グレッグル、どくばり攻撃! みんな、絶対に一対一で戦うな! 必ず二人以上でタッグを組んで戦うんだ!」
サトシたちも広範囲をカバーできる技を使えるポケモンたちには指示をし、それ以外はあたしたちと同じくポケモンたちに独自の判断をさせて各個撃破を狙っている。
「ハブネーク、ハヤシガメの後ろのザコ二体にポイズンテール!」
「マスキッパ、ブイゼルとニャースの上にタネマシンガン!」
尤も、タケシの言うことをあのロケット団すらも実践して、しかも即席連携の穴をうまくカバーしている。というより、即席なのにこのチームワークはなんなんだと逆に聞いてみたいほどだった。
「ラッタ、ムサシの頭上にロケットずつき! ヤミラミはシャドーボールよ!」
「パルシェン、同じくコジロウの後ろにとげキャノン! グラエナはアイアンテールだ!」
相手の数が多いので、トレーナーすら狙う個体もいたらしい。
指示された四体は白い方のロケット団に向かっていたメタングたちを迎撃。二人は迎撃による爆発の勢いを利用して、さらに距離をとった。そして相手に隙を曝すのを最小限に抑えるためか、彼らは二人組で背中合わせのペアを作る。
「ふん。礼は言わないわよ」
即席ペアとなったっぽいロケット団女二人組の片方がもう片方へ声を掛ける。
「相っ変わらずね。それよりもっとポケモンいないの?」
「うっさいわね! あたしだってメガヤンマ出してるでしょ!」
「まあまあ。ここは落ち着こうぜ」
「コジロウに同意なのは癪だが、今は相手の数が多い。ヤマト、ここは我慢だ」
……思うに、なんだかんだ言って結構仲いいんじゃないのかな?
さて、一方Jのポケモンたちと対峙するシロナさんやユウトさんの方はといえば――
「スターミー、サーナイトにめざめるパワー!」
すると、Jのあの妙な機械から発射された弾丸によって、石膏に全身を固められたようなサーナイトが解放される。
「チッ! 猪口才な!!」
「同じ手が何度も通用するとは思わないことよ!」
チラリと見ていたが、先程シロナさんのガブリアスが同じように固められたとき、ラルトスのめざめるパワーによって解放されたのを、今シロナさんがスターミーで実践したわけだ。シロナさんはガブリアスをも捕らえようとしたJに怒り心頭なようで、常とは違った迫力を醸し出している。
「くっ! ボーマンダ!」
空で戦闘を繰り広げるボーマンダを見上げるJ。しかし、ボーマンダはユウトさんのラティオスとラティアスによって、完全に翻弄されており、片や地上ではアリアドスはニドクインとサーナイトに、ドラピオンはガブリアスとスターミーによって同じく完全に釘付けされており、Jは身動きを取ろうにも取れないといった状況だった。
ちなみにボスゴドラはラルトスの護衛についていて、ラルトスはさっきからなにやら精神統一して集中しているようで、めざめるパワー以降は微動だにしていない。
「おいッ! 増援をもっとよこせ!!」
左手で左耳を抑えつつ、口元のインカムに向かって怒鳴りつけるJ。
だけど――
「できた! 全員、地上に下りろ!! 巻き添えを食いかねるぞ!!」
ユウトさんの方で何らかの準備が整ったらしく、その叫びによって何かを感じた皆はすぐさま地上に滑空するように下り立つ。
「今だ! ラルトス、レーザービーム発射!」
「ルーーーーーーー!!」
するとなにやら極太の、はかいこうせんよりも大きな橙色の光線が発射される。それはまっすぐ一直線にJの飛空挺に向かって突っ込んでいき、飛空挺の防壁を「何でもない」とでもいうような感じで容易く貫通。
直後、飛空挺は大爆発を遂げた。その衝撃は、地上に生える木々を激しくしならせ、エイチ湖の湖面を激しく波立たせるといった、多大な衝撃波をもたらしていた。
さらに爆発によって飛空挺の残骸が彼方此方に飛散し、その多くが近くの森やエイチ湖に落下している。
「よくやったぞ、ラルトス!」
「ラ~ル~♪」
褒めるユウトさんにエッヘンと胸を張るラルトス。しかし、周りはあたしやシロナさんを含め、あごが外れんばかりといった風に唖然呆然といった有り様だった。
「ああ、あれはでんじはを使ったちょっとした特技だよ。ただ時間がかかる上に、文字通りの“必殺の一撃”になるから、使うことはまずないんだけどね」
ユウトさんが言うには、
簡単に言うと電子レンジの応用で、でんじはを使って空気中の水分子を振動させる。熱は分子の振動によって発生するので、よってそこに高温の熱が発生。同時に熱は電磁波の一種で、熱を持つ物質は、赤外線のような形で電磁波を放出している。 電磁波は言葉通りの『波』であり、位相というものがあって、その位相によって様々な種類に分類されるが、それをサイコキネシスで弄って無理やり揃えたらしい。また高温になると物体は自然発火し、その際生じる『火』というものは『光』を内包する。で、結論として揃えた電磁波の位相を一方向に打ちだしたのだとか。
正直何を言っているのかさっぱりわかりません。
「とりあえずわかりやすいたとえで言うと、『でんじはとサイコキネシスでレーザーを放った。レーザーの射線上の物体は蒸発させる』といえばわかりやすいですか」
その後、霧や煙などを通過するとレーザーの威力が大幅に減衰するだのなんだの言われたけど、そんなものは頭には入ってこなかった。
「おお、ゴルダック! ナイスタイミングだ!」
ゴルダックが岸辺に現れた。
その後ろには――
「ハハ、伝説のポケモン、ユクシーとは! ハハハ、まったくもって……ハハハハ!」
自身の飛空挺が爆散したことに我を忘れて呆然としていたJだが、ユクシーが現れた途端、再起動したかのように動き出す。爆発した飛空挺には彼女の部下が乗っていただろうに、一切それに気にかけていないといのは、確かに残忍な性格なのかもしれない。
左腕に備わっている機械の発射口をユクシーに向けた。
「じゃあユクシー頼んだ。みんな、死にたくなかったら、地面に伏せて目を閉じろ! 人もポケモンも全員だ!」
片やユウトさんの何やら物騒な発言に、先程の飛空挺爆破が脳裏に焼き付き、さらにその威力にまだまだ自分を取り戻すということは出来ていなかったので、あたしたちは反射的に、すぐさまあの人の言うとおりにした。雪面に伏せたので、全身が雪だらけになるが、死ぬよりはマシだった。
「ああっ! あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
直後、Jのもがき苦しむ声が聞こえた――
* * * * * * * *
「ふぇぇ、それはスゴイですね。その後、どうなったんですか?」
これを聞いて“すごい”で済ますアンタも大概だと思いつつも、あたしは図鑑を操作する。
『ユクシー ちしきポケモン
人々に様々な問題を解決するための知恵を授けたといわれるポケモンで、知識の神とも呼ばれている。目を合わせたものの者の記憶を消してしまう力を持つ』
そう図鑑の再生ボタンを押すと、電子音声が開いたページのポケモンの説明をそう読み上げた。
「目を合わせた者の記憶を消すってなんだか怖いですね。で、これ……まさか?」
「そういうこと」
Jはユクシーの目を見てしまい、記憶を消されてしまったのだ。「地面に伏せて目を閉じろ」といったユウトさんの指示は他の人間やポケモンに被害が及ばないようにするためである。
「で、記憶をなくしたJのおかげで問題は解決。このあとはホントはいろいろあったんだけど、なんとかあたしたちは無事この世界に戻ってこれたってわけよ」
ちなみにロケット団はユウトさんの命令に従順に従い、セレビィはアッサリ返されることとなった。で、ユウトさんは彼らには何もせず、その彼らもユウトさんから一目散に逃げ出していったのだった。
それからどうやってユクシーを説得したのかというと、ゴルダックに投げ渡したアイテムによって成功したんだとか。それが、アルセウスを呼び出したときに使った“てんかいのふえ”だと知ったのは、アルセウスと邂逅を果たした後のことだった。創造神を呼び出す笛なんだから、そりゃあユクシーも納得してついてくるわよね。
「と、まあこんな感じかな。さて、休憩はおしまい! 今日中にこの森を抜けちゃいましょうか!」
「はい、センセー!」
あたしとコトネの旅はまだまだつづく――
おまけ
「ジュリーさん、ここの書籍を八番の棚に戻しておいてください」
「わかりました、シロナさん」
その女性はいつだったか、シロナがいきなり連れてきた女性だった。年にしてシロナよりは上の年代。だが、記憶を失っていたらしく、人間としての基本的なこと以外は何もかもがわかっていなかった。
連れてきた責任としてシロナはその女性と一緒に自分の家で同居をさせ始める。はじめはシロナが一つ一つものを教えていったのだが、ある程度になってくると、自らが好奇心を発して自分でシロナの家の書籍やパソコン等で調べ始めるようになった。
さらに家事も覚え始め、私生活がだらしないシロナの助けにもなり始めた。今では、連れてくる前の記憶は一切戻らないが、その新生活にはすっかり慣れ、公私に渡るシロナの個人的な“秘書”のような地位にまで上り詰めていた。
最近シロナはその女性の知識(様々な考古学の本を読み漁っていたようで)を活用させようと自分のコネを使ってハクタイシティの予備学校に講師として赴任させた。生徒には何かと評判らしい。
だが、その女性は今もシロナの下から離れようとはしていない。また、ユウトやヒカリに対しても随分良く接してくれる。
「自分の“恩人”なのだから」
それが口癖だった。ひょっとしたら、その女性は自分の過去に何やら暗いものがあることに薄々気がついていたのかもしれない。
彼女らは自分を太陽の当たらない暗い深淵から引っ張り上げてくれた――
――ポケモンハンターという暗い……――
ロケット団のレギュラー3人とゲスト(?)の2人、ポケモンハンターJもアニメより出張参加。
とりあえずヤマトとコサブロウはもう一回、とは言わず何回でも出てくれないかなという願いから入れちゃいました。調べたらDP65話で出た後は出ていないんですね。知らない方が多いのかもしれませんが、申し訳ありません。
ちなみにJの『人に危害を加えることになんら躊躇をしない性格』というのはアニメの設定ほぼそのままです。『殺す』という表現をよりマイルドなものにしました。
それから大人の都合により死人は出ていませんのであしからず。
また、おまけの内容はあくまで“対外的な”Jの認識です。
ただ、見解を述べるとするならば、Jは一応犯罪者です。しかも超一流のポケモンハンター。ですので、足を洗おうにも色眼鏡で見られ、依頼はひっきりなしに舞いこみ、それをこなさなかったら、捕獲したポケモンを非合法な方法で売却したスジや依頼者から脅されていたこともきっとあるでしょう。あのままではそのしがらみからは抜け出せなかった。そこから助け出してくれて、かつ居場所をくれた三人には感謝の念を抱いているのではないかと思い、こんな感じにしました。
ユクシーの説明文はポケモンダイヤモンドとHG/SSのを参考にしました。
グレッグルが鋼タイプに毒技を使用していますが、アニメではなぜか効いていたような描写があったと思います。
それにしてもロケット団とサトシたちが協力し合う姿は大好きです(そんな場面を想像して今回は書き上げました)。ということで映画2作目はホント素晴らしい。いえ、3作目も彼らはカッコイイんです。でも、エンテイパパさんのせいでどうも……。それからアニメ内で協力し合う回を見てみたいので、某レンタル店で借りようかと思っているのですが、どのシリーズのどの回なのかご存知の方はいらっしゃったら教えてください。