ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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とんぼがえりやボルトチェンジ、バトンタッチなどの交代技は特性『かげふみ』では縛れないので、外伝6前編ではピカチュウがボルトチェンジしていればあのような状況にはならなかったと思い、『なら、ボルトチェンジできない状況ってなんだ?』という思いから、この裏ルートが出来ました。
ただ、正規ルートとだいぶ被っています。申し訳ありません。



外伝6~7(裏ルート) ユウト トリプルマルチバトル

 ナナシマ地方5の島の北方、通称『みずのめいろ』という道路を抜けた先。

 そこにはゴージャスリゾートという、云わばセレブ御用達のリゾート別荘地がある。お金持ちの別荘なので、何から何まで他のところとは違う。例えば、その辺に飾ってある調度品一つ取ってみても、他のそれとはケタが一つ、場合によっては二つ以上異なる金額が掛けられていたりもするのだ。

 さて、そんな別荘が乱立するリゾートの中に一際目立つ、別荘というよりはむしろ屋敷と言い換えてもおかしくはない装いを見せるそれがあった。そして、その“屋敷”のゲートの前に佇む、燕尾服で身を包んだ一人の男性。実は、彼はこの屋敷に訪れることになっている最後の客人を待っていたのだ。

 そうしてしばらくすると晴れ渡っていた空に黒い点がぽつんと一つ現れた。それはだんだんと大きさを増していく。

 彼は確信した。ようやく待ち人が来たのだと。

 

 そして、その最後の一人が、今ようやっと、騎乗していたボーマンダから降り立った。

 待ちわびた客人たちの到着に彼はその名を呼んで出迎えをする。

 

「ようこそ、おいでくださいました、ユウト様。ラルトス様、ボーマンダ様も」

「いえ、遅れてしまってスミマセン、コクランさん」

「ル、ラルラ」

「マン」

 

 男性の名はコクラン。イッシュ地方のとある大富豪の家で執事を勤めている人間である。そしてジョウトバトルフロンティアバトルキャッスルのフロンティアブレーンという顔も併せ持っていた。

 

「皆さんもう来てるんですか?」

「はい。ユウト様以外の皆様は全員お揃いですよ」

「うーん、しまった。また遅刻か。まーた、シロナさんとかシルバーとかになんか言われそうだ」

「主役は常に遅れて来るものですよ。では、参りましょうか」

 

 ユウトはコクランの先導に従い、屋敷の敷地内に姿を消した。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 どーも。主人公なのに外伝にはコトネよりも後に初登場したユウトです。

 さて、今回はイッシュ地方でカトレアちゃん(年下)が四天王への就任が決まったので、そのお祝いのパーティーをしようという“名目”で、このゴージャスリゾートにあるカトレアちゃんの別荘にお呼ばれしました。

 ちなみにカトレアちゃん家って世界的な大富豪らしく、それこそ世界中に別荘があるんだ。

 で、さっき“名目”っていう風に強調したのは――

 

「(ユウト、なんか周りから『今日こそ私がキミのことを負かせてみせるわ!』とか『俺が初勝利をもぎ取ってやる!』って感情がビシバシ伝わってくるんだけど)」

「……まあ、いつものことだし」

 

 そう。ここはオレにとっては旅やバトルを通して知り合った連中しかおらず、そしてそいつらがオレから何とか初勝利をもぎ取ろうとして、大勢(下手すると全員?)オレにバトルを挑んでくるのだ。尤も、カトレアちゃんの別荘には必ずバトルフィールドがあり、かつポケモンの回復設備や交換設備もあるとはいえ、そんなにバトルはできねーよと過度な連戦はお断りしている。(ちなみにそのときにはオレ以外の誰かにバトルを挑んでいる人が多い)

 

 しかし、今日は何やら様子が違っていた。

 

 

「悪いんだけど、今日の一番手は僕とあともう一人でいいかな」

 

 

 明るい茶髪を立てて黒を基調とした服を身に纏う中、胸元には中心に大きな丸い宝石を収めたクロスネックレスがキラリと光る男性。しかし、それは彼を特徴づけるものではない。それならばまさしくこの肩書きの方が良いだろう――カントーリーグ元チャンピオンにして現カントートキワジムにおけるジムリーダー――

 

 

「グリーンさんですか。グリーンさんとは久しぶりのバトルな気がしますね。よろしくお願いします」

 

 

 “最強のジムリーダー”という称号を持つグリーンさんだ。

 しかし、グリーンさんの言っていたもう一人って?

 

「それは僕だ」

 

 その声が聞こえてきたところを見て、思わず呻いてしまった。

 上は赤いジャケットに、正面にモンスターボールをモチーフとした赤い帽子、下はそれとは反対に青いズボンを纏ったグリーンさんと年も背格好も似た男性。

 口数が少ないことが玉に瑕だが、史上最年少でチャンピオンの座を獲得し、“最強のチャンピオンマスター”とも呼ばれた少年。

 

 

「レッドさん、いらしてたんですか!」

 

 

 カントー地方チャンピオンマスター、レッドさんだ。ちなみに、普段はこういう集まりがあってもなにかと欠席しがち(というよりほとんど来ない)なレッドさんがここにいたのはオレ的にはかなりビックリである。

 

「僕たち二人とダブルバトルで――」

 

 しかし、そこでグリーンさんの言葉に待ったがかかった。

 

「ハイハイハイ! そのバトル、ちょっーと待ったー! あたしも参加しまーす!!」

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「で、本当にそれでいいんですね?」

 

 確認の意味で対戦相手の一人であるグリーンさんに問いかける。

 

「まあ、仕方ない。彼女の功績も認めなければね」

「トーゼンよ! うふふ、これでレッドといっしょにバトル出来るわ!」

 

 まあ、オレも認めているから、あちらも断るのも難しいかというところか。

 さて、どういうことなのかというと、まず「待った」を掛けたのはカントーリーグ四天王のリーフさん。そして彼女の要求はこのバトルに自分も参加させろというものだった。

 「いきなりなんだ」とも言いたくもなる話でもあるが、実はレッドさんを連れてきたのが何を隠そうこのリーフさんらしい。普段顔を見せないチャンピオンをこの場に連れてきたことには、「非公式とはいえ、おおっぴらにチャンピオンとバトれる」とのことで周囲もその功績を認めていたらしい。そしてその褒賞としてこれに参加するということが認められたというわけである。ちなみに、レッドさんは不服そうな顔をしているが、レッドさんが普段からこういうところに顔を出していればこんなことにはならなかったのだから、はっきり言って自業自得である。

 

「では、ルールを確認します!」

 

 審判はコクランさんが務めるらしく、その他の連中は観覧席の方で見物をしている。

 

「今回行いますは、変則的なトリプルマルチバトルです! グリーン様、レッド様、リーフ様の使用ポケモンは二体ずつ、一方ユウト様の使用ポケモンは六体全てです!」

 

 つまり、一人対一人ではなく、複数人対複数人で戦うという(尤も、こっちは一人で、向こうは三人なので変則的な)マルチバトル形式と、お互い三体ずつをフィールドに出して戦うというトリプルバトル形式を融合させたバトルである。トリプルバトルはお互いの手持ちが六体なので、オレからしてみたら、フルバトルという形式になる。

 

「ルールはポケモンリーグ公式ルールに則ったものとします! またミラクルシューターの使用は認めません! 以上です!」

 

 ポケモンリーグ公式ルールとは、こういうものだ。

 

 一,ポケモンに持ち物を持たせることが出来る。

 二,ポケモンの交代はあり。

 三,ポケモンや持ち物の重複は認めない。

 四,トレーナーはポケモンに対して如何なるアイテムも使用してはならない。

 五,最後に自爆技(じばく、だいばくはつ、みちづれ、いのちがけ)使うと、自爆技を使った方が負ける。

 六,最後のポケモン同士で相打ちになった場合、先に倒れた方が負け。

 

 オレからすれば至極普通というか当たり前なルールである(ちなみにフロンティアルールというものもあって、そちらは、基本的には上と同じルールだけど、『ポケモンの重複についてはあり』という点が違いとして存在していたりする)。

 そしてミラクルシューター、これは単純にいえば、バトル中、トレーナーがポケモンにアイテムを使うことを許可するというものだ。尤も、これには制限があり、まずそれ専用の装備をトレーナーが身に付けると、バトル開始後の時間経過とともにパワーが溜まっていき、そのパワーによってトレーナーが使用してもよいアイテムを表示させるというものだ。そして使うとそのパワーは消費されて溜め直しとなる。しかも強力なものほどパワーが必要というものだ。つまりは『何でも』、そして『いつでも』使えるものではないのだ。そして、これもやはり、『いつ』『なに』を『どのポケモン』に使うのかというところで、トレーナーの戦略性が試されるものである。

 今回はこっちが一人で向こうが三人ではあきらかに不平等ということで、なしにしてもらった。

 

 さて。オレもトリプルということで、ここに備え付けられた施設を使い、ポケモンの入れ替えも行った。若干不安はあるけどそのときはそのときで臨機応変である。

 

「それでは双方、準備はよろしいですか?」

 

 最初に繰り出す三体が入っているボールを三つ、両手に収めた。すると肩に乗っていたラルトスがピョコンと頭の上に乗っかる。

 

「ん、なにすんだ?」

 

 上を見上げると、ちょうど見下ろしていたらしいラルトスのその赤いクリクリッとした瞳と目と合った。

 

「(わたしが投げたい)」

「あー、まあいいぞ」

「(やった!)」

 

 嬉しそうなラルトスがサイコキネシスでそのままオレの手からモンスターボールを持っていく。ラルトスの周りにそれらがちょうど正三角形をつくるかのようにプカプカと浮かんでいる。

 

「では、バトルスタート!」

 

 コクランさんのかけ声がかかった。

 

「(みんな! 頑張るのよ!)」

 

 ラルトスがジャンプしてオレの頭から飛び上がると、サイコキネシスをうまくコントロールしてそれら三つのモンスターボールを、目の前に横たわるフィールドに投げ入れた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 どよめきが場内に広がる。もしオレのポケモンのせいだったのなら思うと、思わず苦笑いが零れてしまった。

 さて、フィールドの出ているポケモンだが、レッドさんがピカチュウ、グリーンさんがカメックス、リーフさんがフシギバナである。どれも三人のパーティの中ではエース級の実力を誇るポケモンだ。

 

「ちょっとレッド、なんでリザードン出してくれないのよ?」

「……戦略上。それに頼りになるといえばコイツだから」

「あのな~、確かにお前とピカチュウは一番付き合い長いけど、そこはリザードン出そうぜ。そうすれば博士からもらったポケモンで全部揃うじゃん。まったく。空気読もうぜ、そこは」

 

 ……なんだろう。相手の三人は同じマサラタウン出身で家も隣の幼馴染。しかも、同時期にオーキド博士からポケモンをもらって旅に出たとか聞いていたから、てっきり夢のタッグとしてチームワークがいいと思ってたんだけど、大丈夫なんだろうか?

 

「(チャンスじゃない。今の内にさっさと先手をもらうのよ)」

 

 それもそうかもな。

 さて、一方のオレのポケモンは、

 

「バリヤードか。いや、バリヤードはいいとして残りが――」

「……ソーナンス、プリン……」

「プリンっていうのが意外すぎるけど、ソーナンスはヤバいわよね」

 

ということである。見渡せば、他のみんなもプリンの意外性とソーナンスに結構注目が集まっているように感じられる。まあ、リーグでもバトルフロンティアでもプリンでバトルに挑むトレーナーは見たことないし、ソーナンスはその特性の厄介さが知られているからだろう。

 

「たしかソーナンスの特性は『かげふみ』だったか。これでは交代が出来ないぞ」

「……かといって迂闊な攻撃では、相当手痛い反撃を食らってしまう……」

 

 二人の言うとおりで、ソーナンスの特性『かげふみ』の効果はゴーストタイプ以外、ポケモン交代や逃げるが出来なくなるというものだ。そしてレッドさんの言うとおり、ソーナンスはカウンターとミラーコートという反撃技を持っている。カウンターは受けた物理ダメージを、ミラーコートでは受けた特殊ダメージをそれぞれ二倍にして返すという技で、HPの種族値が高いソーナンスは、そのHPの高さと防御と特防の低さも相まって、これら二つの技のダメージ量が他のポケモンのそれよりも格段に多いのだ。下手をすると、一発カウンターやミラーコートを食らっただけでダウンもあり得るくらいである。

 

「でも、とにかくダメージは気にせず、あのソーナンスをみんなで集中攻撃して倒すしかないんじゃない?」

 

 しかし、それにも限界はあって、一度に集中攻撃をされてはさすがのソーナンスも耐えきれない。今リーフさんが挙げた方法が一番ダブルトリプルにおいて使える突破方法だろう。

 しかししかし、『かげふみ』にだけ注目しててもダメなんだよな~。ということでラルトスの進言通りに行こうか。

 

「先手行きます! バリヤードはフシギバナにねこだまし! プリンはほろびのうた! ソーナンスは適宜任せる!」

 

 ズバリ、今回のオレのテーマは俗に言う『滅びパ』である。これはほろびのうたという技を基点として攻める戦法だ。今回、ほろびのうた始動役をプリン、場に縫い付ける役割をソーナンス、補助をバリヤードという風に割り当てた。ちなみにソーナンスは、アニメのムサシのように、指示がなくてもカウンターとミラーコートを使い分けることができる賢いヤツなので、完全にお任せである。

 これは上手く機能したようで、フシギバナはねこだましによる怯み効果で僅かの時間だが行動不能に陥り、ソーナンスの交代を縛る特性がプリンから攻撃の目を逸らす働きをしてくれたおかげで、プリンはほろびのうたを成功させた。

 

「フシギバナ、しっかり!」

「マズイぞ! 早くソーナンスを倒さないと、このままではほろびのうたのおかげでこちらがやられてしまう!」

 

 向こうは交代を縛っているソーナンスを先に倒させようとしていたため、バリヤードとプリンの行動に虚を突かれたようだった。しかし、フシギバナはいくらねこだましの威力が低いとはいえ、ほとんどダメージを受けていないように見える。それにそのダメージも現在進行形で回復しているようだ。とすると、持ち物はくろいヘドロ辺りか。

 

「ピカチュウ、ソーナンスにボルテッカー!」

 

 そして、いち早く復帰したピカチュウが身体に多量の電気を纏いながら、ソーナンスに向かって一目散に迫る。

 

「クソ! リーフ!」

「オッケー! レッド、ちょっとは時間稼ぎなさい!」

 

 その間にグリーンさんが胸元にあるクロスペンダントを握り、リーフさんが左手を掲げる。

 リーフさんの薬指には指輪が嵌めてあった。

 

 ん?

 

 ……ってちょっと待とうか。

 

 あの指輪の台座にある宝石ってもしや?

 

「(あれ、シロナも持ってたわよね)」

 

 やっぱりか!

 

「カメックス!」

「フシギバナ!」

 

――メガシンカ!

 

 やっぱそういうことですかい!

 あの台座の宝石とネックレスの宝石、あれはキーストーンだったのか!

 そしてフシギバナとカメックスはメガシンカにより、メガフシギバナとメガカメックスに変態する。どちらも元の姿の面影を残しつつも、背中の花が巨大化してそれを支える足腰がさらに頑強なものに変わったり、二門の背部キャノン砲が一門に統合された代わりに、その一門が巨大化した上に、両腕に一門ずつキャノン砲が付いて合計三門となるなどの強化が施されている。

 

「ガメーー!」

 

 カメックスはメガシンカを終えて高々と咆哮を上げる。一方、フシギバナは、カメックス同様メガシンカは終えたものの、未だ怯みから回復しきれていない状況だった。

 

「ピカピカピカピカ……ッ!」

 

 そしてピカチュウは全身に電気エネルギーを纏わせ、一層突進の威力を高め上げる。そのスピードたるや、「でんこうせっかの間違いなんじゃないの?」と言いたくなるほどである。運動エネルギーは速さの二乗で強くなっていくので、ソーナンスの受ける衝撃たるや相当なものとなるだろう。

 

「ピカピッカー!」

 

 そうしてボルテッカーがソーナンスに直撃した。

 

「ソーーナンスッ!」

 

 しかし、ソーナンスも何もボルテッカーをマッタリと待っていたわけではない。前傾姿勢に加え、小さいながらもその両足をフィールドに食い込ませていて、ボルテッカーの衝撃によって身体が吹っ飛ばされるのを防ごうとしていた。

 そして事実それは成功する。ソーナンスはピカチュウのボルテッカーによる突進を受け止めたのだ。尤も、やはりあのボルテッカーの威力は凄まじかったようで、ソーナンスの足がフィールドを削った跡がピカチュウの後方に長く深く刻まれていた。

 

「そんな……!」

「えー!? レッドのピカチュウのボルテッカーは伝説のポケモンだって吹っ飛ばすほどの威力があるのよ!?」

 

 さてと。返し技を得意とするポケモンの真骨頂を味わってもらおう!

 

「レッド! ピカチュウを後ろに下げろ! カウンターが来るぞ!」

「ピカチュウ! 跳べ、でんこうせっかだ!」

 

 グリーンさんとレッドさんの声に反応していち早く離脱を試みるピカチュウ。

 

「逃がすな! ソーナンス、カウンター!」

「ソーーナンスッ!」

「カメックス、しおふき!」

「バリヤード、ワイドガード」

 

 ソーナンスのカウンターが発動。それを阻止しようと、シゲルさんのカメックスがしおふきで対抗しようとしたが、こちらもワイドガードでそれを防ぐ(ワイドガードは全体攻撃技を防ぐ効果を持ち、これで全体攻撃のしおふきを防いだ形だ)。

 そして、カウンターによるエネルギーの塊がピカチュウに迫った。しかし、ピカチュウもレッドさんの指示通り、でんこうせっかで宙に跳ぶことでうまく離脱した。かすっただけでは大ダメージはあまり見込めないだろう。

 

「ピカチュウ、大丈夫か?」

「ピッカ!」

 

 ムリがある体勢で離脱と着地をしたためか、頭をぶるぶると振って気付けを行ったピカチュウ。その瞳には力強さが一段と宿っていた。

 

「おかしいわ。でんきだま持ちでかつ、レッドのピカチュウなのよ。ボルテッカーのダメージがあんなもんで済むはずがないわ」

 

 リーフさんの言うことも、それはそうだろうと思う。ソーナンスはまだまだ全然堪えているという様子を見せていない。せいぜい焦げ跡が少し付いたぐらいだ。尤も、こちらもそういう戦略を組み込んでいるのだから、当然だったともいえるのかもしれないが。

 

「ダメージを抑えた秘訣には、勿論ソーナンスの耐久を上げていることもさることながら、実はプリンが関係します」

 

 その一言でプリンに注目が集まった。

 

「オレのプリンの特性は『フレンドガード』。これはダブルトリプル専用の特性で、効果は自分以外の味方ポケモンのダメージを四分の三に抑えるというものです」

「そっかそっか、そういうことね。ほろびのうただけじゃなかったんだ」

「でもどうせ、プリンの持ち物はしんかのきせきで耐久も上げているから、プリンを倒すのも少々厄介。違うか……?」

 

 うん。この夫婦はやっぱり素晴らしい。オレの言いたいことをすぐさま述べてくれる。

 

「でもよ、なにもどっちも倒す必要はないぜ? カメックス!」

「ガメーッ!」

 

 グリーンさんの不敵な笑みを携える。

 はてさて、何を狙うのか。

 

「カメックス、ソーナンスにほえる!」

「ガメ!」

 

 しめた!

 

 カメックスはやや胸を反らし、大きく息を吸い込む。ほえるという技は、いわゆる相手を強制的に交代させる技の一つで、発動までの時間がやや長いという特徴を持つ。

 

 グリーンさんの狙いは普通なら当たりだと思うんだけど、今回はお生憎。

 というかこれこれ! これを待っていたんだ!

 

「いけ、プリン、やつあたりだ! ソーナンス、合わせろ!」

「プリッ!」

「ソーーナンス!」

 

 その合図とともにプリンがソーナンスの頭上に躍り出る。

 

「プリュ!」

「ガー、メーーーッ!」

 

 プリンがやつあたりで以ってソーナンスを弾き飛ばした。いや、正確には、プリンのやつあたりの向かう方向にソーナンスもジャンプしていたことで、威力が低いやつあたりであっても、弾き飛ぶ言えるほどにプリンとの間に距離を取ることが出来たのだ。

 そして、それと同時にカメックスのほえるが発動する。しかし、すでにカメックスが狙いを定めていたところには、ソーナンスはいない。いるのはプリンだけだ。

 そうしてそのままプリンはソーナンスに行くはずだったほえるをもらった。

 

「くっそ! しまった!」

 

 指を弾きながら悔しがるグリーンさんをよそにプリンはボールに戻っていった。

 ゲームなら、技が四つという制限がある以上、交代が封じられている状態においてほろび始動役が戻るには持ち物等も含めた戦略が狭められてしまうが、ここにはそんなものはない。そして交代を封じられているのなら、今ののような強制交代技でソーナンスを交代させてしまえば、それも解除される。強制交代技は『かげふみ』では縛れないからだ。

 フレンドガードの掛かっているソーナンスは相当に硬いので、倒すには時間もかかる。しかし、このほろびのカウントが迫る状況下でそれに掛かりきりでは致命的ミスへとつながる。

 相手が普通のトレーナーだったら、この手は使えなかっただろう。しかし、相手が天才と言わしめても過言ではない、かつ、知識も蓄えてきている彼らならば、きっとそう動いてくれるハズ。そうした読み、いや、半ば確信があったのだ。そして結果は予想通り、ドンピシャだった。

 

「(ユウト、結構悪役みたいな顔になってるわよ、それ)」

 

 おっと。顔に手を当てて確かめてみると、たしかに口元がニヤァといった感じにつり上がっていた。変なキャラ付けがされるのもそれはそれで嫌なので元に戻す。

 

 うん、でもやっぱり読みがハマるとすっごく爽快です!

 

 さて、ほえるは強制交代技なので、食らえばこっちの控えが勝手に出されてしまうのだが、それで出てきたポケモンが――

 

「うっそ!? ドーブルですって!?」

 

 ベレー帽を被った犬のような姿をしたポケモンであるドーブルだ。ドーブルは全体的に種族値が低いという特徴があるが、それを差し置いて、一つ、最も大きな特徴がある。

 

「ねえ、たしかドーブルって、()()()()()()()()()()()()()()()のよね!?」

「ああ。こいつはまずい。何をやってくるかわからないぞ!」

「ピカチュウ……!」

 

 そう。今リーフさんが指摘したことが最もドーブルの恐ろしい点だ。そしてグリーンさんの懸念についても当たっている。ドーブルが予想だにしない技を覚えている可能性があるからだ。

 ただ、ここはシングルではないダブルやトリプルのお話。そこにおいて、かつ、ここでは最も警戒しなければいけないことがある。それは――

 

「ドーブル、ふういん!」

 

 ふういんという技を使われることだ。このふういんという技は、使ったポケモンが覚えている技を相手はすべて封印されて使えなくしてしまう効果を持つ技だ。つまりどういうことかというと――

 

――()()()()()()()()()使()()()()()()

 

ということだ。

 そして結果的には――――

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 あのあと、何が起きたかというと、すべての技を使えなくされてわるあがきしか出来ず、しかも交代もできない状態の三体に勝ち目はなく、時間経過とともにほろびのうたが発動。そしてバリヤードとドーブル以外が戦闘不能となる。ちなみにバリヤードにほろびのうたが効かなかった理由としては、ほろびのうたは音による攻撃なので、特性『ぼうおん(音による技のダメージや効果を受けない)』によって防ぐことが出来るのである。

 次に出てきたポケモンが、レッドさんがファイヤー、リーフさんがフリーザー、グリーンさんがサンダーといったカントー伝説の三鳥だったのだが、容赦なくドーブルのふういんとプリンのほろびのうたコンボで葬り去り、バトルはオレの勝ちとなった。

 ただやっぱり少しは問題もあったようで。

 

「(正直見ててかわいそうだったわ。次からこの戦法は止めておいた方がいいかも)」

 

 ……たしかにラルトスの指摘通り、何もできずにただ一方的に攻撃されるだけの伝説のポケモンには同情を禁じ得なかった。あの三人も後半は涙目というか、リーフさんとかマジ泣きしそうだったし。

 まあ、他にもギャラリーからのいろいろと冷たい視線もあったけど、「こういう戦術だってあるんだ!!」の一言で押し通した。

 

 押し通した。

 

 

 押し通したんだよ。

 

 

 

「(次からこの戦法は封印よ)」

 

「……ハイ……」

 

 

 

 ラルトス先生の指示通り、やっぱりこの戦術は“ふういん”ならぬ、封印することになりました。




マサラ組ゴメン。マジごめん。
つか、メガシンカ涙目……。

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