ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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第9話 シンオウポケモンリーグ開幕

 アカギの野望消滅、そしてギンガ団壊滅よりはや二ヶ月以上が経った。

 あれからはトラブルもなく、順調に図鑑もバッチの数も集まってきた。

 ちなみにいっしょに旅をしているヒカリちゃんはというと。

 これがビックリ。おそろしい才能を秘めている。

 この間、ほぼ負けなしで、順調といった言葉では表せないほどに軽快にジムをクリアしてきていたのだ。既にバッチの数はオレといっしょ。破竹の勢いとういう言葉をまさに実践しているといった印象だ(今のところバトルで負けるのは、オレやシロナさんぐらいである)。さすがは主人公というところか。

 

 ただ、懸念もあった。

 

「はっきり言って最近のヒカリちゃんは順調すぎるのよ」

「そうなんですよね。あのアカギの一件でますます成長したというか」

「うん。それはとっても良いことなんだろうけど、でも私は正直心配。あんまりにも勝ちすぎて『ユウトさんとシロナさん以外はザコ』なんて歪んでもらっても困るし」

「……そこなんですよねぇ。正直、シンオウには初めて来たので知り合いがいなくて。なんとかなりません?」

「そうね。私の伝手でなんとかやってみるわ」

 

 ということで、この前シロナさんがシンオウ四天王の一角を担うキクノさんを連れてきたこともある。当然勝負したらヒカリちゃんのボロ負け。ヒカリちゃんはキクノさんが四天王だということを知らないようで(キクノさん自身も四天王という肩書きは公以外では使わないらしい)、あくまで、シロナさんの知り合いの普通のトレーナーに負けたものと思っている。正直本当に助かった。出来れば定期的に来てほしいぐらいである。

 

 

 さて、そんなこんなで、今オレたちはある大きなイベントに参加するために、シンオウ地方のスズラン島という島に来ている。地理的にはナギサシティの北に存在している島だ。

 ちなみに実はナギサシティとこの島の間には223番水道やチャンピオンロードといった難所が存在している。これらには険しい地形に急流が存在し、さらには他よりも断然手ごわい野生ポケモンが生息しているため、並のトレーナーとポケモンが通り抜けようとすれば、間違いなくそれらが容赦なく彼らに牙をむけることとなる。

 よって、ここをトレーナーとポケモンのみで乗り越えるために、まずは『最低でもシンオウ地方で八つのジムバッチを持ていなければならない』という条件をクリアしていない限り、この難所に挑むことすらさせてもらえずに門前払いを食らってしまう。

 そしてこれらを利用して行われるのが、今回の一大イベントである。

 

 あ、ちなみに現実世界ではシンオウが北海道をモデルにしているため、この場所は、現実では、だいたい国後島のあたりに位置している。

 ……。

 …………はぁ。

 

「どうしたんですか、ユウトさん?」

「いや、なんでもないよ」

 

 内心の憂慮を気取られないようにヒカリちゃんに接する。

 

「(人間の国っていうのは大変ね)」

 

 尤もラルトスには全然隠せてなかったけどね。

 

「ヒカリちゃん! 僕は君と当たっても全力でやるからね!」

「そうだぜ! 全力でやんなかったら罰金一億円だかんな!」

 

 そういえば、ここにはナナカマド博士の助手の子でもあるコウキ君に、罰金ボーイ(byアニメロケット団)こと、ジュン君もいたりする。ちなみに彼らは幼馴染なんだそうだ。

 そしてそんな彼らが全員この場に来ることが出来たことに対する才能には感嘆するし、ちょっと嫉妬もしてしまうかもしれない。なにせ、オレがナナカマド博士のポケモン研究所に伺ったとき、初めてポケモンをもらった子たちが、半年もたたずにこの場にいるのだから。

 

「(わたしたちにはいろいろあって出来なかったことよね。でも、あの頃もなんだかんだ言っても懐かしいわ)」

 

 たしかに。今ではいい思い出だ。

 

「にしても結構な人数がアソコを抜けてきたもんだな」

「そうだね。ユウトさんも出ることだし、とんでもない大会になるかもね」

 

 ちなみにオレのことはこの三人には黙ってもらっている。あんまり騒がれるのもマズイし、面倒なのでね。

 

 さて、現在オレたちがいるのはそのスズラン島内にあるのスタジアム競技場の一つ。周りを見渡せば、たくさんのトレーナーがいる。

 そして彼らの前には簡易だがステージがあり、そこに佇む男性がスタジアム内の大きなスクリーンにはそれいっぱいに表示されている電子時計に目を向けている。見ればその時計は刻一刻とカウントダウンを告げていた。一方スタジアムの入り口から外の方を見れば、まだまだたくさんのトレーナーとポケモンたちがいて、ここに向かって走ってきている。

 

『さあ、残り時間はもうまもなくです! まだこのスタジアムに辿り着いていないトレーナーのみんな! 急げ急げぇ!!』

 

 スタジアム内のスピーカーから流れるその男性実況のマイク音声がうるさいぐらいに響き渡っている。尤も、この放送は島全体にも流すため、ある意味仕方ないということも言えるのわけだが。

 

『タイムアップまで、あと! 5、4、3、2、1、タイムアッ~~~~プ! 終了です! 競技場入り口の扉が閉まりますので近くにいるトレーナーは離れてくださいね! あぶないですよ!』

 

 そうして競技場の入口に鉄格子の扉が上から落とされ、競技場の中と外を完全に遮断した。入れなかったトレーナーたちはガックリとその場で座り込むか、鉄格子の扉にしがみつき、泣き伏している。尤も、彼らは係員に連れ出されて行った。

 男性は一時は彼らに目を向けていたが、今はそれには目もくれない。そして、ステージを見つめる数多のトレーナーの視線を背に受けている状態から、クルッと振り返りを逆に今度は彼らを力強く見下ろす。

 

『ではナギサシティよりこの島まで、ポケモンと力を合わせて、海を渡り、山あり谷あり強い野性ポケモンありの、つらく厳しいチャンピオンロードを抜けて辿り着いた強きトレーナーたちよ、ようこそ! ここがスズラン島だァ!』

 

 ――うおぉぉぉぉ!!

 

 トレーナーやポケモンたちの歓声が上がる。

 

『そしてぇぇぇぇ、ここがシンオウ地方でポケモンリーグが開催される島、スズラン島だァァァァァァァ!!』

 

 ――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 先程よりもさらに大きな歓声が上がった。もはやこれは様式美とすら言ってもいい。ア○リカ横断ウルトラクイズ的なノリだ。

 

『さて、今回このスタジアムに辿り着いた猛者はなんと過去最高の二百人以上! これはかつてないほどの激戦、そして波乱に満ちた大会となることでしょう!!』

 

 そして最後に実況が告げる言葉――

 

 

『これよりシンオウリーグスズラン大会を開催します!』

 

 

 これによりトレーナーたちのボルテージは最高潮に達した。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 リーグ開催期間中に宿泊予定のホテルの一室に戻ってきたオレ。

 で、なにげなく扉を開けると――

 

「やあ、遅かったね。うん? へぇ、キミがヒカリちゃんっていうんだ。ま、とにかく入って」

 

 明るい茶髪の男性や、

 

「ああ、そんなに硬くならなくたっていいよ。聞けばシンオウチャンピオンのシロナとだって普通に接してるんだろ? ボクも一応そんなんだけど気軽な感じでお願いするよ」

 

水色の髪と目をして黒のスーツを纏う男性、

 

「ヒカリちゃん、あとでバトルしましょうよ! ユートに師事されてたってことはバトルの腕は相当なんだよね!?」

 

つばのある白い帽子がトレードマークな女性、

 

「何言ってんだ、俺が先だ! なっ、ヒカリちゃん! こんな悲劇のヒロインなんかより俺と先にやろうぜ!」

 

やや長い上にアホ毛がちょこんと立つ赤髪の男性ら計四人が、なぜかオレの部屋に居座っていたのだった。

 

 ちなみにヒカリちゃんは彼らにそのまま部屋に連れ込まれ、

 

「はじめまして! よろしくお願いします!」

 

なんだかんだで上手くやっているようである。

 まあ、この旅ではギンガ団やらセレビィのときわたりやら結構いろいろあったからなぁ。ワケわかんなくてもいろいろ逞しくやっていけるようになったようだ。

 

 

「ちょっとアナタね! 悲劇のヒロインってなによ!」

「るっせ! だってお前実際そうだろ!」

「あによ~~~!? だいたいあんただって不遇なのには変わらないでしょ!?」

「あんだと!?」

「コラコラ、シルバーもリーフもその辺に。ついでに変な電波も受信しない」

「だってグリーン!」

 

 うん。とりあえずどういうことかよくわかんなかったので、(現実逃避的に)見間違いだろと考えて、思わずドア閉めちゃったんだ☆

 ていうかまぁ、ヒカリちゃんは良い。いっしょに旅してきたし、同じ大会に出場するわけだし。

 

「(久々に見たわね、彼らのこと)」

 

 オレの肩からいっしょに部屋を覗いたラルトスがそう零すのと同時に目の前の扉が開けられる。

 

「おう、なにしてんだ? とっとと入れよ」

 

 シルバーと呼ばれた赤い長髪にフロントボタンがファスナーになっている学ランのような格好を着た男性が顔を出した。

 

「……人の部屋に勝手に入っておいてどういう言い草なんだろうな……」

 

 しかし、その呟きは残念ながら彼らには聞こえていなかったようである。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 さて、この部屋にいてはおかしな人たちを一人ずつ挙げていこうと思う。

 まず一人目。

 

「おい、ホウエン地方チャンピオン様がなんでこんなところにいる?」

「いやだなぁ、いまさらそんな敬称で呼び合う仲じゃないじゃない、ボクたち。ダイゴでいいよ。それに言っとくけど、ボクはキミが勝手に辞めたからチャンピオンの代わりをしてるだけだし」

 

 現ホウエン地方チャンピオンで、デボンコーポレーション社長の息子。石集めが大好きな変態であるダイゴ。

 続いて二人目。

 

「現カントー四天王、ワタルさんに変わり四人目を務めるはずの人間よ、リーグはどうした!?」

「やあね、今リーグはやってないし、ヒマだったし。レッドもどこにいるかわかんないし……」

「だからぁ、アンタの恋人はシロガネ山にいるって言ってるじゃん!?」

 

 カントー四天王序列一位であるリーフ。彼女はFRLGの女主人公だ。そしてレッドとはカントーチャンピオンのことで、FRLGの男主人公、サートシ君のモデルになった人である。ちなみにリーフさんとレッドさんは家がお隣同士の幼馴染で恋人同士なのだが、レッドさんは常日頃はシロガネ山にいて滅多に下山してこない。彼女としても、恋人ということもあってレッドさんに会いに行こうとしているのだが、凄まじいくらいの方向音痴なため、落ち合うことはないらしい。一度、オレも付き添いで一緒に行ったら、オレの後ろを着いてきていたはずが、なぜか彼女だけ下山していたという、摩訶不思議な女性だ。

 さて、三人目。

 

「ジョウトの四天王ってのは随分ヒマなのか? あ?」

「ハッ! ふらつき歩いてるお前に言われたくはないな。それに年上には敬語を使え、敬語を」

 

 さっき、オレを中に招き入れた人物であり、ジョウト四天王序列二位でゴールドさん(HGSSの男主人公)のライバル、シルバー。ロケット団のボス、サカキの息子というのは公然の秘密である。ちなみにゴールドさんもジョウトチャンピオンになったのだが、オレと同じくワタルさんにチャンピオンを任せて旅に出ている。

 いよいよ、ラスト四人目。

 

「グリーンさん、常識人のあなたがこんなところに来ていいんですか? トキワのジムは?」

「ハハハ、心配ないよ。ゴールド君とたまたま会ってね。少しの間、ジムリーダーやれって、センパイ権限で押しつけてきたんだ」

 

 カントー地方トキワジムジムリーダーのグリーンさん。レッドさんやリーフさんのライバルで一度はカントーチャンピオンに輝いたことすらある“最強のジムリーダー”という称号を持つ人だ。

 

 それにしても、ジムリーダー資格もなしにジムを任すとか。そんなんでいいのか、ジムリーダーって? そんな軽いもんなのか?

 

「まあ、ボクたちの本当の目的はさ」

「個人的にはユートのバトルを見るためっていうのもあるんだけどー」

「リーグの公人としての仕事はなぁ」

 

 あれ? なにやら四人が四人ともオレを囲みだした? しかもきちんと逃げ場(後方のドアと前方の窓方向)を遮断してるし。

 

「「「(キミを)(ユートを)(てめぇを)リーグに連れ戻すこと(さ)(よ)(だ)!」」」

 

 ウゲッ! マヂですか……。

 

「まあそういうことさ。それで僕たちが君を【監視】するためにここに来た、というわけだ。ちなみに今はこの四人だけだが、後からさらに何人か派遣されてくるはずだ」

 

 こいつはマズイな。今までもこういうのはあったけど、ここまで人数多くなかったし。

 ああ、はたらきたくない。

 

「絶対に働きたくないでゴザル(リーグの公人として)!」

「「「「いや、働けよ!!」」」」

 

(ユウト、いい加減、年貢の納め時じゃないかしら?)

(言っとくけど、かなり拘束されるし、メンドクサイ仕事たくさん回ってきそうだし、好きに公にバトルもできないぞ? とくにお前。なんせ規格外だし)

(絶対に逃げ切るわよ! ユウト!!)

(おうよ! もちろんだ!)

 

 ちなみに、ヒカリちゃんが、これをすっごい冷めた目で見ていたのは後で知ったこと。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 翌日。

 対戦の組み合わせが発表されるので、それを受け取るために宿を出たオレ。ちなみにヒカリちゃん、ジュン君、コウキ君らは先にスタジアムに向かってます。まぁ、オレが寝坊して置いていかれただけなんだけどね。

 

「ラルトス、起こしてくれてもよかったじゃん」

「(ヒカリもたまには彼らいっしょにいる方がいいでしょ? 幼馴染なんだし)」

「……それもそうか」

 

 スタジアムへ向かう通りは人通りがまばらで、ほとんどオレとラルトスしかいないと言っても言い過ぎとは言えないぐらいだ。

 

「そういえば、お前との二人きりなんて久々だなぁ」

「(そう、うん? ユウト)」

 

 と思ったら、オレたちの歩く先に待ち構える一人の少年。

 

 

「あなたが、ユウトさん、ですね?」

 

 

 関係ない振りをして通り過ぎようとしたら、声を掛けられてしまった。というか、オレの名前を知っているのはなぜ?

 

「まあ、そうなんだけど、君は誰かな?」

 

 尤も、口ではそう言ったものの、オレとしてはどこかで見たことあるような気がして仕方なかった風貌である。

 

「オレの名前はシンジと言います。トバリシティの出身です」

 

 この目つきの悪いシンジと名乗った少年。

 

(ああ、なるほど)

 

 思い出した。たしかアニメのDP編でサートシ君のライバル的な扱いされてたキャラクターだっけ。ネットだとあだ名が廃人だとか。なんでも能力の高いポケモンは捕まえて、そうではないのは逃がすとかしていたらしい。うん、まさにポケモン廃人だ。

 

「そうか。それでシンジ君、オレに何か用かな?」

「オレ、五回戦、つまり、予選リーグ決勝であなたと戦います」

「シンジ君、オレがまだそこまで勝つなんて決まってないよ?」

「それはありえない。ホウエン、ジョウト、ナナシマチャンピオンでカントー準チャンピオンであるあなたなら」

 

 ほぉん、そんなことを知っているということはもしかして?

 

「オレはホウエン、それからジョウトを旅してきました」

 

 やっぱり。ん? 今の言い草だとカントーはまだ旅していないのか。

 

「そこでオレは行く先々である言葉を耳にしました。

 

 

『強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。トレーナーなら、自分の好きなポケモンで勝てるよう努力するべき』

 

 

オレはこれには納得がいかない。好きなポケモン? 違う! 強いポケモンでなければバトルでは勝てないんだ! だから、オレはあなたに勝って、それを証明してみせる!」

 

 あ~、なるほど。この手の手合いとのバトルは今まで何回も経験してきた。

 

「そうか。期待しているよ」

 

 個体値を粘り、性格を粘りで(努力値なんてものは戦略の指針だから)、ゲームだったらむしろそれが正しい。個体値を粘るには育て屋が必須だけど、彼は確か育て屋をやっていた身内がいたはず。

 

「君とバトル出来るのを本当に楽しみにしているよ」

「……フン」

 

 オレはスタジアムへ、シンジ君はオレの元来た道へ、百八十度正反対の方向に歩きだした。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 ポケモンシンオウリーグスズラン大会。

 試合形式はベスト8までは予選リーグという形でブロックごとに分けられるらしい。

 またバトルフィールドが草、水、岩、砂、ノーマル(通常)とあり、ベスト8選出までブロックごとに対戦するフィールドの順番が異なるという話だ(例えばAブロックは岩→草→砂→ノーマル→水となるが、Bブロックは水→砂→岩→草→ノーマルといった具合になる)。

 ルールについては

・1対1のシングルバトル

・使用ポケモンは三体

・ポケモンの入れ替えはあり

・道具の使用はなし

と、ごくごく一般的。 そしてベスト8から決勝リーグとなり、使用ポケモンが六体に増えること以外、予選リーグとルールは変わらない。

 

 ちなみに、この世界はポケモンに道具を持たせるという概念がないらしく、気合いのタスキや拘りスカーフ、オボンの実なんて使ったら、下手したら反則を取られてしまう危険性があるため、なかなか使えなかったりする。

 

 で、試合ルール・形式についてはさておき、コウキ君たちに合流したオレは自分のブロックのトーナメント表を見比べながら、宿に戻る道程を三人で歩いていた。ちなみにヒカリちゃんは一足お先に宿に戻っているらしい。

 

「僕はAブロック、ジュン君はEブロックで別々のブロックになったね」

「ああ。けど……なぁ」

「……そうだねぇ」

 

 一つ問題があった。いや、オレに取って言えば二つか?

 

「なんで、ユウトさんがヒカリと同じBブロックになっちゃうかなぁ」

 

 そう。罰金ボーイ、ジュン君の言うとおり、オレとヒカリちゃんは抽選の結果、同じBブロックになった。順当にいけば予選ブロック決勝でオレと当たることになる。

 

「まあ、こればっかりはしょうがないさ。完全な運だもの」

 

 以前、シロナさんとのバトルにおいて、手を抜いてしまったことがあった。しかし、このことは彼女を大いに傷つけた。この頃にはバトルをしても負けることは一切なく、そしてただ勝つだけでもなんだかなぁ、なんていう心の想いがあった。今思えば驕り高ぶるのも甚だしいという気持ちでいっぱいだ。仮に強くなったとしても、そんなものは、果てしなく続いていく道の単なる通過点でしかなく、ゴールなんてまだまだ全然見えてなんていないことを、このときのオレはすっかり忘れていた。そしてポケモンバトルは最強のコミュニケーションツールであり、いつだって全力でバトルに挑むという人に対しての、この仕打ち。相手に対しても、そして自分に対しても、このことは大いに反省すべきこととしてオレの中で今も位置付けられている。もう一度、『バトルに勝つ』のではなく、『強さを求める心』『最強を知りたい気持ち』を思い出させてくれたからだ。

 さて、長々と語って一体何が言いたいのかというと、教え子だからと手を抜いたら、逆にヒカリちゃんに失礼になる。だからやはり、全力で行く。その辺、この二人は幼馴染だからと「ヒカリに対して手を抜いてくれ」とは言わなかった。

 旅に出る前だったら、ひょっとしたらそういうことも言っていたかもしれない。これも、ポケモンとの旅が彼らを成長させたということだろうか。

 

 そしてシンジ君について。彼は順当にいくと三回戦でヒカリちゃんと当たる。おそらく三回戦は間違いなくヒカリちゃんVSシンジ君のバトルになる。彼の試練はまずヒカリちゃんをクリアすることだろう。

 

 

「そこのラルトスを連れているキミ、キミがユウトという人物で合っているかな?」

 

 

 オレたちの後ろから掛かった声にオレは深くため息をついた。振り返るとえんじ色のポンチョのようなものを羽織り、長い長髪を後ろに流して顔の左半分がその長髪で隠れている男。

 

「やれやれ、今日は千客万来だなぁ、しかも知らない人ばっかり」

 

 ホントに誰だ、アンタ。

 

「ボクの名前はタクト。キミを倒す男さ」

 

 タクト、タクトねぇ。あれ、そういえば何かこの風貌と言い、名前と言い、どこかで……。

 

「キミはダークライ使いの噂を聞いたことはないかい?」

 

 ダークライ使い? いや、聞いたことはないかな。……ん? そういえば、アニメの方では心当たりが一人いるような……?

 

「ダークライ使いってアレですか!? あの、ジム戦とかバトルの全てをダークライ一体で切り抜けたって言う!?」

 

 コウキ君の言葉で完全に一致した。

 そうかこいつが――

 

「そのダークライ使いとはボクのことだ」

「なんだってぇ!?」

「あのダークライ使いがあなた!?」

 

 あの催眠厨にして、伝説厨ね。

 

「ボクはキミの掲げる言葉については異論があるんだ。ポケモンバトルは強いポケモンで戦えば負けない。このボクのようにね。愛情だなんだかんだ言う前に強いポケモンだ」

「それで、伝説のポケモンばかりを手持ちに入れていると?」

「そういうことだ。しかし嬉しいよ。キミが僕のことを知っていてくれてたなんて」

「オレは今すぐ忘れたいな」

「大丈夫だ、絶対忘れられなくなるよ。安心したまえ。では、四回戦で逢おう」

 

 そう言って去っていくタクト。

 

「ああ、言い忘れていた。ひとつ君に忠告をしておこう」

「なんですか?」

 

 

「キミのつれてるラルトスなんかじゃあ、ボクのポケモンには絶対に敵わない。だから、入れ替えをお勧めしとくよ。ではね」

 

 

ピキッ

 

 

 辺りにそんな音が響いた。

 うん、なんだ、その、問題が三つに増えたとか、そんなことはどうでもいい。

 

「(ユウト……)」

「……ああ」

 

 

 オレのラルトスを――

 オレの最高の相棒を侮辱するとは――

 

 

「あ、あの……ユウトさん……?」

「だ……大丈夫ですか……?」

 

 正直、オレは二人の言葉なんか一切聞こえなかった。

 

 いいだろう、そこまで言うのなら見せてやろう。

 この世界に蔓延る派手な技の出し合いではなく、オレの世界での、

 ポケモンバトルの真髄を――

 オレたちの今の本気を――

 

 そして――

 

 

(あのヤロウを――)

「(あのワカメを――)」

 

 

 

 

 ぶっ倒す!!




アニメキャラのシンジとタクトが登場。いろいろフラグが立っています。ただ先に謝っておきます。この2人(特にタクト)のファンの皆さん、ごめんなさいm(_ _)m
ちなみにリーフ、シルバーはアニメ出演履歴はなく、公式での名称もありません。

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