IS〜インフィニット・ストラトス〜 【異世界に飛んだ赤い孤狼】 作:ダラダラ@ジュデッカ
対策会議―――というより、もはや状況確認といってもいいか―――を終え、会議に出席していた面々は、それぞれ己の役割を全うしていた。
教師陣は既に持ち込んでいた十機のISを起動させて先行し、専用機持ち達は自分のISの調整に入っていた。
現場は物々しい雰囲気に包まれ、その中でも大倉研究所からやってきた職員一同は専用機、更には学園の量産型ISの最終チェックに入っていた。
学園にも整備課と呼ばれる者達は存在するが、流石に一学年では専用機の調整はなかなかに難しい。なにより、彼等はプロ中のプロ。慣れた手つきで手を動かし、さっさと調整を終わらせていく。
「すげぇ……」
思わず声を漏らしたのは、このような現場をあまり見たことがない織斑一夏であった。
学園内の和気藹々とした雰囲気とは違い、これがプロの仕事なんだと改めて思う。自身の白式も今現在職員に見て貰っているが、一夏自身では到底不可能な事も彼等はすぐさまやってのける。
これらの光景には目を丸くするしかないが、そんな一夏にプライベート通信が届く。
その人物は鈴音のようで、一夏はすかさず回線を開く。
『どうしたんだ、鈴? いきなりプライベート通信なんて』
『―――それはこっちの台詞よ。ボーっと呆けたようにして、緊張感ってもんがないのよ、アンタは』
開口一番、彼女は一夏に対して悪態をついてくる。
少しだけ鈴音の方に視線を向けると、呆れたと言わんばかりの彼女の姿が瞳に映り込む。
彼女も大倉研究所の職員たちから調整を施されているが、既に最終調整に入っているのか、職員たちのチェックもより厳しいものとなっていた。
『緊張感って……そういわれてもなぁ……』
『それが緊張感がないっていうのよ。そんな事より、アンタは小原さんから言われた超高感度ハイパーセンサーの使い方でも復習しておきなさいよ』
『そうだな……。っていっても、いまいち使い方が分からないんだが……』
言われたものの、それは初めて使用する代物だ。
聞くところによると、初心者にはなかなか慣れるものではないらしく、それなりの訓練を受けてから使用するらしい。
(ぶっつけ本番で使えるものなのか……?)
少し首を傾げる。
かなりの代物らしいが、果たして自分に扱えるものなのか。先の話からすると、作戦の成否は一夏に掛かっている。失敗など、許されたものではないのだ。
(…………)
一夏よりも、技量も実力も高い面々が大勢いる。だが、その中でも自分に託されたのだ。
ここで臆するというのは、男ではない。
『そういえば、鈴はこのハイパーセンサーを使った事があるのか?』
『当然でしょ。といっても、十二時間ほどだけど』
『へぇ。ちなみに、どういう感じなんだ?』
『―――簡単に言えば、使用すると世界がスローモーションに感じるのよ。ま、それは最初だけなんだけど』
『最初だけ? 慣れれば違うのか?』
『そういう他ないわね。理由としては、ハイパーセンサーが操縦者に対して詳細な情報を送るために、感覚を鋭敏化させるみたいよ。だから、逆に世界が遅くなったように感じるって仕組みなの。分かった?』
『まあ、なんとなくは……』
『どうにも信用ならないわね……。まあ、気持ち悪いのは最初だけ。使ってれば自然に慣れるから。以上』
『随分と適当だな、おい……』
『あんまり色々教えても、頭がパンクするだけでしょ。とりあえずやってみるのが一夏、でしょ?』
軽口をたたきながらも、彼女はそっと一夏に微笑んだ。
随分と略したな、と一夏は苦笑に近い笑みを浮かべたと共に、彼女に対して感謝する。
勿論、他にも注意点は幾つもある。高速戦闘状態のブースト残量や射撃武装によるダメージが大きくなるなど―――欠点も多々存在するこの機能。
だが、一夏は一人じゃない。悪態をつけども、頼もしい仲間たちがいる。鈴音も、一夏を気にかけて通信を送ってきてくれたのだろう。
そう思うと、一夏は微かに笑みを浮かべた。それに―――不安なのは、一夏だけではない。皆、同じなのだ。
『―――ありがとな、鈴』
『な、何よ。いきなり気持ち悪いわね』
『そうやって気を紛らわそうとしてくれてるんだろ? だけど―――皆がついてる。この作戦、必ず成功させよう』
『……ふん。一夏のくせに生意気ね。当たり前でしょ。これだけの面子が揃っているんだから』
専用機持ち、実に六名。これだけの布陣で、失敗する方がおかしいと鈴音は鼻で笑った。
が、これだけの大掛かりの作戦だ。軽口をたたきつつも、内心では何処か落ち着かない。
(ああはいったものの、やっぱり緊張するものね。出れば、ちょっとは落ち着くとは思うけど……)
そう思いながら、鈴音の視線は少し離れたところで調整しているキョウスケ達に向けられた。
目を閉じ、腕組みをしながら構えているのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。酷く落ち着いているというより、ほぼ無感情といった方がいいか。
その頭の中では、恐らくこれからの事について考えているのだろう。それもそのはずで、今回の
彼女はドイツ軍の中でも少佐の地位についている人物。
そんな彼女が指揮官に選ばれるのも当然か。どう人を動かすか、どういう行動を持ってして制圧するか―――そんな事を、彼女は考えていた。
それと同じくらい、緊張を全くもって感じさせないのは、キョウスケだった。
ラウラのように腕組みこそしていないものの、目を閉じながら調整完了を待っている彼の姿から、怯えや恐怖というものを全くもって感じ取れない。
それどころか、
隣のセツコが一夏以上にそわそわしているのを比較してしまうから、そういう風にみえてしまうのかもしれないとシャルルは思う。
(今回の件、
考えるまでもない。
不測の事態が起きた場合、
それに、ここで目立つような行動を取る訳にはいかない。ここまで騒ぎが大きくなった以上、
(―――今回の場合、役割は尻拭い。後から追及されたとしても、それは向こう側のミスとして言い訳がつく。……これだけの騒ぎになっている以上、鹵獲したとしてもコアを破壊するのがいいかもしれないね……)
指示が来ない以上、彼女は独断で動くしかない。だが、本部―――ジェフリー・デュノアがシャルルに必要以上の指示を出す事もなければ、彼女もまた、ジェフリーとは話したくもない状態だ。
人質さえいなければ、すぐにでも。それが出来ない事が、すごく悔しかった。
その後は皆口数も少なく、ただ調整が終了するのを待っているような状態だった。
大倉研究所の作業員の指示に従い、彼等は動作を行う事は多少あったものの、考えている事は皆同じ。
今は、
「響介さん! これは一体どういうことですの!?」
そんな時、響介の後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
キョウスケはゆっくりと振り返り、その人物を見る。其処にいたのは、当然というべきか、セシリア・オルコットの姿。
息を荒げ、不安げな瞳でキョウスケを見ている彼女。今回、彼女はこの作戦のメンバーとして入っていない。
というのも、ブルー・ティアーズは調整完了までは絶対に出さないとは大倉の言葉。今現在、彼女のISは未だオーバーホール中であり、明日の稼働試験でようやく動かせるか否かという状態だ。
だが、何処からか噂を聞きつけた彼女がこの場に来るのは必然であっただろう。彼女もまた、専用機持ちなのだから。
「セシリア……」
「響介さん、説明してくださいませんか? わたくしの知らない所で一体、何が起こっているのか……」
不安げに語りかけてくるセシリア。この物々しい雰囲気からして、ただ事ではないのは理解している。
恐らく、聞いてはいけない事なのかもしれない。ただ、それでも―――聞かずにはいられなかった。
どうするべきか、とキョウスケはラウラの方に視線を送る。すると、ラウラはキョウスケに変わってISを着用したままセシリアの前に立ちはだかり、口を開く。
「な、何ですの?」
「お前に話せることは何もない。さっさと自室に戻れ、オルコット」
「貴方に言われる筋合いはありませんわ! わたくしは、響介さんとお話を―――」
「
その言葉に、はっと息を吞んだ。
AAAランク―――最重要機密事項。もはや、国家レベルに等しいその情報をおいそれと口出しできるわけがないというのはセシリアも当然理解している。
「しかし! わたくしとて、貴方と同じ専用機持ちですわ! 例え参加できないとしても、響介さん達の助けになる事は―――」
「くどいぞ。今、お前の手元にその専用機はないはずだ。
「―――っ!」
「もう一度言う。オルコット、さっさとこの場から失せろ」
其処まで言われるのは、流石に心外であったのだろうが。
物凄い形相でラウラを睨みつけるセシリアに対し、ラウラはどこ吹く風であった。言いたいことだけを言うと、彼女は踵を返して彼女の前から立ち去っていく。
下唇を噛みしめ、俯くセシリア。そんな様子にも、ラウラは言い過ぎたという感情は持ち合わせていなかった。
彼女はただ、事実を伝えたまでだ。過酷な環境を生き抜いてきた彼女にとって、足手まといなどもっての外。これは、遊びではない。れっきとした戦場なのだ。
そんな彼女の言葉は、セシリアにとって納得できるものではない。彼女にだってプライドはある。失せろと言われてはいそうですかと言えるような安くはないものが。
(響介さんなら――――!)
―――それは、彼女が一瞬でも考えてしまった
こんな場面を見てしまえば、キョウスケが出てくるであろう。彼ならば、自分が必要だと言ってくれるはずだと。
だが、現実は非情だ。セシリアが少し顔を上げ、キョウスケを見たところで―――彼は腕を組みながら目を閉じているだけだ。
決して、セシリアの方に近付こうとしない彼の姿を見てしまい、彼女の心は更に曇る。彼もまた、ラウラの言葉に肯定しているようで嫌な気分になる。
「―――っ!」
耐え切れなくなったか、そんなキョウスケの姿など見たくはなかったか。
セシリアは微かに自身の目元に涙を貯めながら、その場から逃げるように走り去ってしまう。
「セシリアさん!」
「よせ、小原」
呼び止めたのはセツコだが、それを制したのは他でもない、キョウスケであった。
意外そうに彼を見るセツコ。キョウスケはそれだけ言うと、機体を稼働させたまま歩きだし、ラウラに近づく。
「なんだ、響介。私を責める気か?」
「いや―――そんな気は毛頭ない。お前が言わなければ、俺が言うつもりだった」
「ほう……? お前が、あいつに言えるのか? オルコットを突き放すような辛辣な言葉を」
「―――勿論だ」
その実直な発言にラウラは満足そうに鼻を鳴らす。
「それでこそ、私の嫁だ。だが、私は何を言われようとお前と共に行く。響介が如何に私を力づくで止めようとも。夫婦とは、そういうものなのだろう?」
「―――そうだろうな」
彼女の発言を軽く流しつつ、調整を行っていた職員の方に振り向く。
職員はその意を察し、すぐに頷いた。それを合図と見たか、他の職員たちも一斉に皆のISから離れる。
「準備は完了だ。ラウラ、指示を」
「―――ああ」
ラウラの視線が鋭く変化する。
今までキョウスケの前で自慢げに腕を組んでいた彼女の姿は其処にはなく、
雰囲気すらも変化したことを皆が感じたのだろう。一夏は固くなった唾を音を鳴らして飲み込み、彼女の発言を待つ。
ラウラはすうと息を吸い込む。そして、それを吐き出すと共に勢いよく声を発した。
「これより、我々は
自分が呼ばれ、一夏は頷く。
彼の零落白夜であれば、それこそ
言っては悪いが、彼は素人も同然。更に、高機動下による戦闘は避けられないだろう。
それをフォローする為に、他の五人がいる。ラウラが、シャルルが、鈴が、セツコが、そしてキョウスケが。
「前衛を担当するのは南部響介、及び凰鈴音。小原節子に後衛を任せる。シャルル・デュノアはその中間に位置し、前衛及び後衛のフォローを担当」
「あの、俺は……?」
「織斑は更に後方にて待機し、エネルギーを温存。その護衛に私が入る。投入のタイミングは私が出す。ただ、一言いっておく」
そういってラウラは一夏の方に視線を向ける。
「いいか。
「……あ、ああ」
正直に言えば、それが出来る自信がない。
どうにも頭に血が上る体質ゆえに、もしも仲間たちに何かがあればエネルギーを気にせずに突貫してしまうかもしれない。
そんな一夏の性格なのは、千冬からも助言を受けていたため、ラウラは彼に念押しする。頼りのない返事ではあったが、それでもなにも言わないよりは多少ではあろうが効果はあろう。
「はん。そう簡単にやられるわけないでしょ。一夏、アンタは黙って後ろから見てればいいのよ」
「そうだよ、織斑君。君は、この作戦の
「――――俺だけの、仕事……」
一夏は自分の掌を見つめる。
すべてはその腕に、必殺の一撃に掛かっている。
「出来る限り、自制する。だけど、絶対に無理はしないでくれ……!」
鈴はふんと顔をそむけ、シャルルは彼に対して軽く笑んだ。
セツコも心配ないと彼に声をかけ、キョウスケは何も言わないながらも、彼の肩をポンと叩く。
「―――当たり前だ」
その視線は遥か彼方に向けられていた。
目標は
「では、各自配置に着け。目標は太平洋上、
ラウラの勇ましい指示が飛び、各々が配置へと向かって行く。
そんな時、キョウスケのプライベート通信に通信が飛び込んできた。誰かと思えば、それはセツコであった。
『どうした、小原。何か用か?』
『その……セシリアさんの事です。もっと、他に言い方はなかったのかと思いまして……』
『…………』
その事か、とキョウスケは思う。
彼女を突き放したのは、間違いない。だからといって、自分が間違った選択をしたとは思わなかった。
セツコは、他に言い方がなかったのかとキョウスケに問うが、彼は暫しの沈黙の後、黙ったまま首を縦に動かした。
『そんな……』
『それ以外に―――あいつを、止められるとは思えなかった。それだけの事だ』
『え……?』
『あいつには……セシリアには、無茶をして欲しくない。何故だかは分からんが、そういった感情が出てきた。それだけの事だ』
その言葉に、セツコは暫し呆けた後、なんだか可笑しくなってくすりと笑う。
『何かおかしいか?』
『フフッ。いえ……響介さんは、優しいなって』
『優しい、か。どうなんだろうな』
セシリアの気持ちを考えれば、突き放すという行為は彼女の気持ちを、想いを蔑にすると同義だ。
だが、それ以上にキョウスケとしてはこれ以上彼女に無茶をしてほしくない。また、妙なところで負傷などしてほしくない―――。
『なんだ、私に隠れてこそこそと話をするんじゃないぞ』
『わっ!? ら、ラウラさん!?』
いきなり通信に割り込んできたかと思えば、やや不満げな彼女の表情。
セツコが驚くのも無理はない。本来、プライベート通信というのはそう簡単に割り込みなど出来るものではないし、そもそもそういった事が出来ないように敢えて
それがそう簡単に割り込みされたのだから、それはそれで問題であった。
が、しかし。セツコが問うと思った矢先、彼女の会話の先はキョウスケに向かう。
『まあ、大方先ほどの話だろう。もう一度言うが、私は間違った言葉をあいつに言ったつもりはない。全て、事実だ』
『分かっている。俺も言っただろう。
『それを疑うつもりはない。だが、あんな言葉を掛けられたところで、私がお前から離れるつもりなど毛頭ないがな』
『……それは頼もしい限りだな』
『ふふん、そうだろう。だが、響介―――』
其処まで言ったところで、彼女の唇が少し止まる。
一体なんだとキョウスケは首を傾げたが、その続きの言葉は普段の彼女からはまた違った意外な言葉だった。
『響介―――私も、お前には無茶な事はしてほしくない。
『ああ』
『だが――――今回の件、決して一筋縄ではいかない筈だ。無茶をしないでくれとはいわない。共に、無事に帰還するぞ』
『―――ふ』
『…………わ、笑うな。わ、私だって、こんな臭い台詞をお前に向けて放つなど……少し前では考えられなかった』
『それはこちらも同じだ。頼りにしているぞ、ラウラ』
『―――ふ、ふん』
やや頬を染めながら、ラウラは強引に通信を切った。
強引な奴だとキョウスケは内心で笑う。聞いていたセツコも同じだったようで、くすくすと笑っていた。
『変わりましたね、ラウラさん』
『ああ、そうだな』
彼女の言葉に同意する。
無事に帰還する―――。ラウラの言う通りだろう。だが、危険がないわけではない。
相手は暴走したIS。大倉たちのバックアップがあるとはいえ、どれだけやれるか。
『必ず、やり遂げましょうね。セシリアさんも、きっと待っているでしょうから』
『―――ああ、そうだな』
セツコの言葉に、キョウスケは改めて気を引き締めるのだった。
■
「くっ……! 流石に速すぎるか……!」
海上にて
その後方にはエクセレンが
もっとも、それはツィーネ達も同じか。先の戦闘でエネルギーをかなり消費したのにも関わらず、やっている事は追撃だ。
(何を考えている……?)
撃つのなら、絶好の機会だろうに。
何としてでも手に入れると息巻いた。陽動を担当し、見事にオクトパス小隊を釣り出した。それなのにもかかわらず、結局は自分たちが
(はっ! どいつもこいつも……!)
役立たずばかりだ―――と吐き捨てようとした瞬間、頭の中でアラートが鳴り響く。
今度は何だと確認すると、此方に接近するISが五体ほど。ただ、いずれも量産型の打鉄とリヴァイヴ型である。
(打鉄とリヴァイヴ? ―――ああ、くそ。そうか、此処は……)
ちっとツィーネが舌打ちすると同時に、彼女はその場で機体を止めてしまう。
驚いたスレイは彼女を見るが、恐らく彼女も気付いたのだろう。前方を見て、苦々しい表情を浮かべた。
「ここは……IS学園の勢力下、ということか」
「IS学園だと? だが、奴等は―――」
「大方、今回の件は見過ごせないって事だろうよ。以前、私が襲撃した件もあるしね」
「何だと……?」
スレイ・プレスティも、IS学園襲撃の件は聞き及んでいる。
その報復措置ではないだろうが、あの学園が絡んでくるのは厄介だった。
「どうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、前方はIS学園の機体、更に後方には世界最強のIS使いだ。―――迎え撃つしかないだろうよ」
「しかし、その損傷では……」
改めてツィーネを見る。
期待は、カチーナ・タラスクとの戦闘でもうボロボロだ。ツィーネも損傷警報が出ているのにも関わらず、よく此処まで持った方だと思う。
(さて、万事休すだね。どうしたものか……)
そんな彼女たちの様子を後方で見やっていたエクセレン。
いきなり止まった彼女達に対して訝しむが、レーダーに映り込む機影を見ればその理由もある程度分かった。
識別信号は、IS学園のもの。
(まあ、何はともあれ―――足止めしてくれるのなら)
そう思ったエクセレンは、一応オクスタン・ランチャーを二人に向けながらも、スピードを上げて彼女達を追いぬく。
エクセレンとしても、狙いは
「あの女……!」
「よせ。どうやら、私達は此処までだって事だろうよ」
悠然と機体を駆り、自分たちを追い抜いていくエクセレンの姿に憤りを覚えたスレイ。
ツィーネはそれを諌めると、スレイに向かって手で合図した。彼女はそれが何を意図しているのかを理解しかねたが、遠くから黒い物体が数機飛んできているのを確認し、その時に理解した。
「コルニクス……!」
「どうやら、迎えが来ているようだ。やるね、艦長」
迎え―――とは言わずもかな、彼女達の母艦であるキラーホエール級の潜水艦の事であろう。
IS学園の連中はあの無人機にやらせればいい。
こんなところで退くのは癪であるが、命あっての物種という奴だ。
「退くよ、ついてきな」
「…………ちっ」
スレイの舌打ちもある程度納得するが、それだけではないようにツィーネは思えた。
だが、彼女が何を言おうが、今回はこれまでだ。しかし。
(この借りは、必ず返してあげる。覚えておくんだね……)
迫りくるIS学園のISを見ながら、彼女は思うのだった―――。