IS〜インフィニット・ストラトス〜 【異世界に飛んだ赤い孤狼】   作:ダラダラ@ジュデッカ

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※6月7日 文章を追加


第四十七話 二人の軍人

 ハワイ諸島沿岸部に、一つの施設が存在する。それは、美しいリゾート地とは裏腹に、物々しい施設。

 アメリカ軍、ハワイ・ヒッカム基地。それが、この施設の本来の名前。アメリカ本土に幾つか存在する基地の中で最も離れた施設である。

 そんなヒッカム基地であるが、此処はアメリカ軍においての実験場に使用されることが多い。周りは太平洋という名の海が囲んでおり、人的被害もないとはいえないが、それほど多くない。

 本来であれば色々な団体が口出ししてくる事も多いが、それも半ば公認とされている。一体何を使用したかといえば、それはそれぞれだ。

 アメリカも、領土は広いとはいえ、本土で大々的に演習という名の実験を行う事は中々難しい。更に、一歩間違えればそれこそ大問題になるべき由々しき問題だ。

 だからこそ、アメリカはこの地を選択した。今や、美しいリゾート地が―――などといってはいられない。他国よりもISの研究が一歩先に進んでいるアメリカとはいえ、実験のやり場所には苦労しているのだと言えよう。

 

 閑話休題。話をヒッカム基地の中に移す。

 

 今現在、この場所にはとある軍用のISが組み上げられ、更には稼働実験を迎えようとしていた。

 その名を『銀の福音』。通称、シルバリオ・ゴスペルと呼ばれるこのISは、アメリカとイスラエル、更には日本が技術提供を行って試作されている第三世代型のIS。

 本来、このISはアメリカ単独で開発されるべき機体であった。しかし、何処から嗅ぎつけてきたのかは知らないが、イスラエルが秘密裏に情報を得た事で事態はややこしくなる。

 協議の結果、イスラエルも開発に加える事にはなったものの、技術自体がアメリカに追いついていないので、実質名ばかりのものとなっている。もっとも、イスラエルとしてはアメリカの技術を吸収できるという利点、更に共同開発という名目もまた使用する事が出来る。

 

 そんな理由もあって、今回完成したわけだが――――そんなヒッカム基地に一隻の戦艦が入港していた。

 戦艦と簡単にいうが、それは空母とも巡洋艦とも言い難い、中々に特殊な外装をしている。

 名をアメリカ軍試作型巡洋艦、ヒリュウ級汎用戦闘母艦一番艦・ヒリュウ。アメリカ海軍の第七艦隊に所属している試作艦ともいうべきその艦は、二人のとある軍人を乗せ、遠路遥々この地まで赴いた。

 更に、このヒリュウも先日完成したばかりの代物で、今回は試験的な運用となっている。今後、アメリカ軍の制式採用巡洋艦となるべく期待されている艦であり、何より推進力が従来の戦艦に比べて著しい。

 更に、従来の戦艦にはない特別な機能、“テスラ・ドライブ”を搭載。このテスラ・ドライブというのは、重力質量と慣性質量分離機能を利用して推進剤を加速する高効率反動推進というコンセプトを元にアメリカ中部に存在するテスラ・ライヒ研究所によって開発されたものだ。

 これを利用する事により、世界初の浮遊艦――――つまりは空中戦艦となる事も可能ではあるが、そもそも空中に浮かす必要性などあるのか、ただのいい的になるだけではないのかという意見も多々あったようだが、こうして採用されたという事は、そういう事だ。

 

「で、遠路遥々私たちが参上したってわけなのよ」

 

「……誰に話してんだ、お前」

 

「うふふ、内緒」

 

「はぁ? 相変わらず訳わかんねえ奴だな、お前は」

 

「でも、長い付き合いでしょ、中尉とは」

 

「だからって、全部を把握できるわけねえだろ。確かに長い付き合いではあるけどよ……」

 

 金髪――――いや、両者とも金髪なのだが――――の女が笑みを浮かべながら話せば、もう一人、中尉と呼ばれた方は両手を広げて呆れて返す。

 この二人こそ、今回ヒッカム基地に着任した二人の軍人。元々は第七艦隊所属のISパイロットであり、今回は銀の福音の護衛任務で出向という形になっている。

 着任の挨拶という事で、両者は指令室に向かっているのだが、そんな中で周囲の視線が二人に集まっている。

 なにも、物珍しいという訳ではない。このヒッカム基地は新型等の実験場として扱われているため、来訪者というのは珍しいものではない。それこそ、政府のお偉いさんや重役なども視察に来訪する事もある。

 しかし、今回この基地に着任したのは政府の重役でもなければ、お偉いさんでもない。なのにも関わらず、基地内にいる人間は両者に敬礼をし、その姿が見えなくなるまで見送っている。

 

「私達大人気ねぇ、中尉」

 

「主に“お前の方”だろうが。ったく、何処に行っても変な目で見られやがって。巻き込まれてるこっちとしてはいい迷惑だ」

 

「うーん、確かにあの大会で優勝してから一躍有名人なのよねえ。別に目立ってるつもりなんてないんだけど。うふふ」

 

「とか言って嬉しそうじゃねえか。見られることが好きなのかよ、マゾ野郎」

 

「んもう、中尉も相変わらず口が悪いこと」

 

 などと話しながら、両者は指令室に向かって行く。

 ただ、普通の軍人ならば、わざわざ出て来てまで敬礼などすることはない。この二人のうち、一人が特別な存在なのだ。

 それは、誰もが知っている大会に優勝し、今や世界最強なのでは? と謳われているIS操縦者。

 今となっては代表から引退し、軍人として生きると宣言してしまった以上、もはや大会などに出場することはない。ただ、その姿は何処に行っても目立つものだ。

 

「うるせえぞ、エクセレン! アタシは元々こういう性格なんだよ!」

 

「むふふ、知ってるわよ、カチ―ナ中尉。長い付き合いだもの」

 

 エクセレン・ブロウニングとカチ―ナ・タラスク。アメリカ軍でも名を馳せた両者は、この地にはせ参じているのだった。

 

 

 

 

 ただ、その両者がこの地に赴いたという報を聞き、秀麗は仮面の下で眉を寄せる。

 アメリカ軍の新型IS、『銀の福音』の奪取。沢渡から言い渡された指示を元にこの地に赴いたのは秀麗も同様だ。

 しかし、相手はかつてのモンド・グロッソにて不戦勝とはいえ、優勝した相手。生半可な実力では勝てるような相手ではない。

 

「如何なさいますか、秀麗殿?」

 

「―――計画に変更はない。当初の予定通り、ヒッカム基地に潜入し、『銀の福音』を奪取する」

 

「だがよ、相手は天下無敵のエクセレン・ブロウニングとアメリカ海軍最強と名高い第七艦隊の連中だ。見つかったら最後、お前でも蜂の巣にされかねないぜ?」

 

 懸念を見せるのは、秀麗に同行しているオータム。数週間前に晴れて混沌の№Ⅶに就任した彼女も今回の作戦に参加しているようだ。

 ただ、事前の情報にあの二人がこの地に来るという情報はもたらされていなかった。いや、まさか第七艦隊に所属している彼女達を動かす筈があるまいと高を括っていた混沌の内部に問題があろう。

 それほど、『銀の福音』に関しては、アメリカも本気という事か。ただ、それを相手取るにはこの面子では聊か物足りないと感じる。

 

「アタシに加えて、お前と後は四人の仮面軍団だぜ? たった六人でこの作戦を遂行しようってのか? いくらなんでも無謀としか思えないぜ?」

 

「―――確かに、お前が危惧するのも当然だ。が、今回は陽動役がいる。第七艦隊の機動部隊が釣れれば、御の字だ」

 

「陽動役? なんだよ、アタシ等の他に来てたのか」

 

「ああ。№Ⅳと№Ⅴが、近くに待機している」

 

「№Ⅳと№Ⅴ? №Ⅴは腕がいいって聞くが、Ⅳの方は今まで噂を聞いたことがないんだけどよ、どんな奴なんだ?」

 

 №Ⅴというのは、ツィーネ・エスピオの事である。嘗て、IS学園に現れ、キョウスケ達を苦しめたあの女。そして、セツコが目の仇にしている相手でもある。

 しかし、№Ⅳの噂はそれなりに混沌の内部を調査しているオータムの耳に入ってきていない。噂では、最近までアメリカ軍のとあるプロジェクトに参加していた女だという話しか聞いていないが、一体どういった人物なのか。

 

「№Ⅳか……。小娘ではあるが、腕は確かだ。もっとも、生き急いでいるというのが私的な意見だが」

 

「生き急いでるだぁ? 大丈夫かよ、そんな奴」

 

「うまく釣り出してくれれば、それでいい。戦果など、傍から期待などしていないからな」

 

「そうかよ」

 

 要するに捨て駒か、使い勝手のいい事だとオータムは心の中でせせら笑う。

 しかし、それは自分にも言える事か。レビの後釜に自分が座ったように、混沌は次々に新しい人材にシフトチェンジ出来ると。

 

(死ぬつもりなんて傍からないけどな……)

 

 こんな所で、死に行くつもりなど毛頭ない。“彼女”の事を少しだけ脳内に思い出した後、オータムはいつもの口調で秀麗に問う。

 

「で、作戦決行はいつになるんだよ、隊長殿?」

 

「明日の夜だ。一部とはいえ、第七艦隊が敵な以上、こちらも少しばかり本気でいかなければならない」

 

「故に、今は焦らず様子見だってか? 随分と慎重だな」

 

「ああ、そうだな。血の気盛んな奴が特攻し、逆に撃滅されるパターンなど、取りたくないのでな」

 

「そうかよ」

 

 そういった後、秀麗は傍らにいた仮面の男に何事かを囁く。男は頷き、まるで忍者のようにその場から走り出し、やがては見えなくなった。

 

(薄気味悪い連中だこと)

 

 秀麗も含め、全て混沌の工作員。更には、秀麗と同じように体を弄られたサイボーグたちだ。

 話しかけようが、淡々としか答えない奴等に、オータムといえども薄気味悪さを感じざるを得ない。

 無機質な機械に話しかけたところで意味など成さないのだが、改めて混沌のエグさというものも理解できてしまう。

 人間といえども、そんなものを無視するかのようにサイボーグ等の機械にするなど、こいつ等に倫理など求めても無理なのだと。

 更に、混沌は更なる実験も行っていると聞く。シンクロ等も含め、実験者の命など考えない非道な実験も行われていると聞くが、それほどまでして混沌は一体何を目指しているのか、オータムには理解できなかった。

 

(本当に、組織の名の通りの混沌の世を目指すつもりか、それとも――――。全く、あいつも厄介な任務を与えてくれやがるぜ)

 

 今頃、何処かで茶でも飲んでいるであろう女性の事を少し恨む。

 面倒な仕事を押し付けられることは慣れている。いや、寧ろオータムの方が進んで受けているといった格好か。

 組織の為ならば、何でもするというタイプではない。ただ、彼女の為ならば――――オータムは、死ぬことだって出来る。

 

「ところでよ、その銀の福音とやらのスペックはどうなってるんだ? アタシ等がわざわざ出向いたって事は、それなりの代物なんだろ?」

 

「―――広域殲滅を目的とした、特殊射撃型のISとだけ言っておこう。詳細なスペック等は、私も知らされていない」

 

「はっ、結局は知らないのかよ。聞いて損したぜ」

 

「…………」

 

「ま、決行が明日なら、それまでアタシは自由にさせてもらうぜ。じゃあな」

 

「好きにしろ」

 

 止めはしない。いや、止めたところで無意味か。

 明日の夜まで何もせずに転がっているなど、オータムの性に合わない事は分かっている。すぐにでも突っ込んで行きそうな彼女ではあるが、分を弁えているのだろう。

 オータムはさっさとその場から離れ、見えなくなったところで秀麗は一人の方に目配せする。

 

「……はっ」

 

 秀麗と同じく仮面をつけた工作員は、すぐさまその場から掻き消える。

 いくら幹部となったと言えど、オータムは元々別組織の人間。監視をつけるのは最もな事だ。

 

(第七艦隊、か。新型艦に世界最強と名高い女まで。ふん……アメリカも、今回のISには相当執着心があると見える)

 

 新型艦はともかくとして、厄介な相手はエクセレン・ブロウニングとその傍らにいるであろうカチ―ナ・タラスクか。

 彼女達二人には、混沌の面々が相当数やられている。故に、彼女達が出てくるという事は、アメリカ側も混沌の襲撃があるものとして想定しているのだ。

 その中でも戦果を上げているのが、その二名。まるで対混沌専属部隊ともいうべき位置にいるが、今回は二人だけで正直よかったと思う。

 本当に本気を出しているのならば、第七艦隊の全てをヒッカム基地に入港させるほどだ。あの、恐るべきゲシュペンスト部隊と共に。

 

(さて、うまく誘いに乗ってくれればいいが、後は彼女達次第か――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

「海っ! 見えたぁ!」

 

 薄暗いトンネルを抜け、光に照らされた大地の先に見えたのは、広大な海原であった。

 人間というのは、海が見えるとどうにも興奮するらしい。バスに乗っているクラスの女子生徒が、テンションを上げてわいわいと騒ぎ始める。

 いや、元々バスに乗り込むときから騒がしかったと言えばそれまでだが、今はそれ以上に騒がしくなっていた。

 

 本日、臨海学校初日。待ちに待った臨海学校であり、一年生にとっては初の課外活動。

 本来であれば、ISの新型武装のチェックとテストという名で各企業、国家から様々な物資が送られてくる。

 本来であれば、専属のメカニックや重役などが視察に訪れたいところであるが、今回の臨海学校において、関係者以外は参加できない決まりになっている。

 それを律儀に守っているのも中々であるが、中にはそれを守らずに勝手に侵入し、当然のごとく成敗される輩もいるらしいのだが。

 

「ようやく着いたか……」

 

 長かった、と言わんばかりにキョウスケは窓際で頬杖をつき、外の景色を眺めながら呟く。

 IS学園から此処にいたるまで、約2時間のバス旅。途中でトイレ休憩なども挟んだので、それ以上にかかっただろうか。

 

「あら、響介さんは楽しみではありませんの?」

 

「其処まで騒ぐほどのものではないだろう」

 

「わ、わたくしはとっても楽しみですわよ?」

 

「そうか」

 

 まさに、どうでもいいといった反応であろうか。その面白くない反応にセシリアはムスッとするが、それも今だけだと思う。

 今日こそ、キョウスケのハートをつかむのだと意気込んでいるセシリアは、心の中でグッと拳を握る。そうだ、今日は待ちに待った勝負の日だ。

 普段とはまた違った自分をキョウスケに見せる、良いチャンス。その為に準備もしてきた。絶対に振り向かせるのだ、絶対に。

 

 そんなセシリアの内心とは裏腹に、通路を挟んで向こう側にいるラウラは、何故か挙動不審な行動を取っており、一旦落ち着いたと思えば、すぐに周囲を見渡すなど、非常に落ち着きがない。

 思えば、それは昨日からか。いつもおかしな行動を堂々と取ってくるラウラが、どうにも昨日は普通であった。

 いや、それはキョウスケにとって害がなかったというだけで、それだけでキョウスケの心は穏やかだった。ただ、一時間ばかりシャワー室を占領する事を覗いて。

 

「ら、ラウラさん……? 大丈夫ですか……?」

 

「だ、大丈夫、だ。な、何も、問題は、ない、ぞ」

 

 心配そうにセツコが声を掛けても、この様子だ。どう接していいか分からないし、まるで壊れた人形のよう。

 挙動不審なラウラに続き、セツコまでオドオドしてしまう始末に、隣で見ていたセシリアは少し苦笑してしまう。

 

(恐らく、この間購入された水着の事でしょうけど……ただ、ボーデヴィッヒさんも侮れませんわ。今はあんな様子ですけれど、着てしまえばどうなるか分かったものではありませんから)

 

 先日、買い物を共にしたセシリアにしか分からない、ラウラの挙動不審の理由。

 しかし、ラウラも随分と思い切った物を買ったとセシリアは思う。いや、似合う似合わないで言えば、セシリアも一緒に選んだため、似合うものだと考えている。

 確かにキョウスケを争う上で競い合うライバルであるが、それとこれとは話は別だ。本人は試着した時に恥ずかしそうにしていたが、正直に言えば―――可愛いと思う。セシリアの目から見ても。

 だからこそ、油断できない。ラウラがあんな状態な故にこうしてキョウスケの隣をゲットできたわけだが、彼女が吹っ切ってしまえばそれは大変な事。

 

(ただ、負けるつもりなどありませんわ! なんとしても響介さんのハートを……!)

 

 隣で意気込むセシリアとは裏腹に、何故か悪寒がしたキョウスケは、ブルッと身を震わせる。

 

(風邪でもひいたか……?)

 

 人の気などいざ知らず、そんな事を考えるキョウスケ。

 そんな時、バスの鏡越しに後ろの席に座っている一夏の顔が見える。

 キョウスケと同じく頬杖をついているが、その目は何処か遠くを見ているようだ。その隣にはシャルルがいる筈だが、話しかけ辛いのだろうか、それとも話かけてはいけないという空気を察したのだろうか、今は通路向こう側の女子とお喋りをしている。

 

(あの顔も、無理はないか……)

 

 一夏が考えているのは、篠ノ之箒の事であろう。

 今回、彼女はこの臨海学校に参加していない。いや、参加できるような心理状態ではないのだ。

 本来であれば絶対参加の行事であるが、当の箒が室内から出てこない。目を虚ろにし、何を話しかけても返事が返ってこないという状態。

 一夏は、暇があれば箒の元に行っていた。しかし、それでも彼女は一夏に対しても心を開くことはなかったのだ。

 

(目を覚ました当初は、事件の事を何も覚えていなかったらしいが――――何処かの誰かが、篠ノ之にあの時の映像を見せたらしく、ああなったらしいが……)

 

 その時の傷は、精神が不安定であった箒にとっては深刻なダメージに繋がった。

 何処かの誰かというのは、もはや考えるまでもない。キョウスケの知る限りではそんな非道な事をするのは、“彼”しかいないからだ。

 

(だが、一体何の為に? わざわざ篠ノ之の傷を抉る様な真似をしたところで、奴にとっては何のメリットもないはずだが……?)

 

 それも、今回の臨海学校で分かるだろうか。当然、奴は部外者以外立ち入り禁止という規則を破り、臨海学校先に現れる筈。

 問い詰めたところで、奴は話すだろうか。いや、そもそも一体何の為にそんな事を?

 

(面白がっての行動か? それとも別に何か目的が? ―――理解しがたいが、あいつの事だ……)

 

「響介さん?」

 

「ん、何だ?」

 

「いえ、大丈夫かと思いまして。少し、怖い顔をされていましたから……」

 

「――――そうか、すまない」

 

 セシリアの心配する言葉。表情に出ていたのかとキョウスケは思ったが、致し方のない事か。

 

(大倉利通―――お前なのか?)

 

 訝しむキョウスケの脳裏に、彼の姿が存在する。

 現状のキョウスケとセシリアの雇い主。そして、世界が認める武器開発のスペシャリスト。

 確証はないが、奴が見せたのだという予感はする。

 

(簡単に口を割りそうにはないが、さてな……)

 

 疑問を思い浮かべながらも、バスは真っ直ぐに臨海学校先へと進みゆく。

 其処に待つのは本当にただの臨海学校という名の行事か、それとも―――――死地に繋がる、戦場か。

 

 


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