IS〜インフィニット・ストラトス〜 【異世界に飛んだ赤い孤狼】 作:ダラダラ@ジュデッカ
時間というものは恐ろしいもので、あっという間に過ぎ去って行く。気が付けば約束の一週間後になっていた。
セシリアとの決闘の場所は、キョウスケがこれまでISについての訓練を行ってきた演習場。その中央部分は特に施設がある訳でもなく、此処ならばISで戦闘を行っても研究所自体に支障はない――との事らしい。
それもこの『大倉研究所』所長の大倉利通が言うのだから、まず間違いないだろう。更に、初実戦でいきなり戦車――小型ではあったが――を投入している点からしても明白。
ちなみに何故他のISと戦わせなかったかといえば、この大倉研究所は“ISの武装専門”の研究機関であり、おまけに大倉があのような性格の為、政府からISの所持を許されていないらしい。
本人もIS本体ではなく、武装の方に重点を置いているために問題はないといっていた。
ただ、研究所防衛や開発したIS武装を搭載したIS――それこそ、他国や自国である日本に――に武装を売りつけた後の実戦テストとして、ああして戦車などを組み立てているらしい。
送りつけるのではなく、取りに来させるとは――と思ったが、輸送中にその武装の高性能さやそれぞれの国によって撃墜、あるいは奪取される可能性が高いからとの事。
つまりは、武装を開発してやるから実際に取りに来て性能を試せ、という事だ。それは今から相対するセシリア・オルコットのIS『ブルー・ティアーズ』も同様の理由。
それ以外にも訳があると大倉は言うのだが――生憎、それ以上は何も言わなかった。……聞かれてはまずい事でもあったのだろうか?
とまあ、大倉から聞いた話はその程度であった。別に機密でもなんでもないようなので話してくれたが、そんな説明も正直それだけしか覚えていない。
というのも、それは全て大倉から課された訓練メニューを終えた後に聞かされたのだ。
そんな状態であまり聞けるはずもなく、大倉の言葉を半ば聞き流す形。更に訓練を思い出し、次の一日の糧とするためにしていたのだから。
内容はメニューをこなしたうえでの反省点と次回に生かす事。どうにも癖が強いアルトアイゼンを動かすうえでも必要な事であり、前日の反省を明日に生かすのも大事だ。
考えるよりもまず行動だ――とは思うが、此処の研究所の演習場は夜間の間は使用禁止となる。だからこそ、頭の中で色々とシミュレートを行い、翌日の訓練で試すというのが最近の日課だった。
ただ、一週間は意外と短い。反省点は大いにあるのにも関わらず、それを克服できていないのが現状だ。
しかし――だからといって嘆いている暇もない。今は、やるしかないのだ。
そして、キョウスケの眼前にいるのはIS『ブルー・ティアーズ』を展開したセシリアの姿。
武装は右手に持っている長大な銃――六七口径特殊レーザーライフル“スターライトMk-Ⅲ”。そして。その周囲を飛んでいるビット状の武装――これもまたブルー・ティアーズというらしい。
これは大倉が開発した武装の一環で、通称BT兵器と呼ぶらしい。大倉曰く『空間認識能力が~』と言っていたが、別に自分が使う訳でもないので無視したが。
しかし、これは全方位からのオールレンジ攻撃を可能にしている。あまり回避向きではないアルトアイゼンには分が悪い相手だ。
「逃げずに来ましたのね、ムッツリさん」
「……売られた喧嘩は買わなければならんからな。それに、対IS戦闘にも慣れておけという意向もある」
ブルー・ティアーズを纏ったセシリアは、腰に手を当てながらキョウスケを見下ろすような位置へと飛翔している。さらに、意向とは当然大倉のことで、これから奴はキョウスケをこき扱う事が決定しているようだ。
もっとも、ISという代物は元々宇宙空間の活動を前提に作られているらしく、原則としては空中に浮いている。
キョウスケも二日目の訓練から飛行訓練を開始したが――正直、陸にいた方がやりやすいといえばそうなる。
だが、ISは基本的に空中戦が主だ。陸戦ではどうしても一方的になることが多く、また不利な展開になりやすい。だからこそ、キョウスケも飛行訓練を開始したのだが。
正直、飛ぶという感覚は性に合わないのだがな―――とキョウスケは飛行訓練を行いながら思ったものだが。
「大した自信ですわね。しかし、その自信も終わる頃には完全に消失なさっているでしょうが」
「……さて、どうかな。一週間とはいえ、こちらもそれなりにやってきた。手加減できん。だからこそ、お前も本気で来い」
「それは当然ですわ。では―――」
そういってセシリアの視線がスターライトの方に向けられた瞬間、素早く銃のセーフティが解除され、初弾が装填されるのが確認できる。
その間にもセシリアがスターライトのトリガーに指を当てており、すぐさまキョウスケに向けて銃口を向けた。
「お別れですわね!」
「それは……どうかな!」
セシリアのスターライトの銃口が火を噴き、先日にも聴いた耳をつんざく音が直接キョウスケの耳へと届く。
(初手が速い……。大方予想はしていたが、これほどとは……)
予想よりも速い攻撃に若干驚く。
しかし、臆することなく――また、避けようともしない。ただ、次の行動に向けて予め展開したリボルビング・ステークを使うために右肘を折りたたんでいた。
それに、セシリアが放ったのはエネルギー弾。ならば、此処でアルトアイゼンの特性が生きてくるというものだ。
(避けない?)
初手を手早く発射したにも関わらず、避ける気配が全くない。その様子にセシリアは眉を寄せた。
装甲が厚い故、避ける必要もないということか? しかし、それにしては防御も構える様子もない。
セシリアが疑問に思っている間にも、スターライトから放たれたエネルギー弾は見事に直撃する。が、そのエネルギー弾はアルトアイゼンが瞬時に展開したバリアで防いだ。
バリアのせいで少々目がチカチカするが、さして問題ではない。
ただ、このバリアを展開した事で一番に驚いたのはセシリアの方だったが。
「なっ……!? バリアですって!?」
「………」
そう、バリア――正確には『ビームコート』だが――だ。これはビーム兵器やエネルギー攻撃に対して有効なもので、回避に優れないアルトアイゼンをカバーする為に存在するもの。
ただ、このバリアもシールドエネルギー系統ではなく、稼働エネルギーの方のエネルギーを食うという欠点もあるため、多用は出来ない。
だが、その前に決めれば……問題はない。
「次は此方の番だ…!」
瞬間、キョウスケは爆発的な加速を使用してセシリアと距離を一気に詰める。
相変わらず凄まじい加速力だと内心で感嘆するが、今はセシリアに攻撃を当てる方が先だ。折りたたんだ右ひじを伸ばし、セシリアを貫かんとする。
「……速い!?」
「取ったぞ…!」
得意の加速力により、セシリアの懐に潜ることは成功した。後はステークでこいつを貫けばいい。
すぐさま右ひじを折って、構えを見せる。ただ、セシリアも右のステークを使う事は予測していたのだろう。
危機を察知したのか、セシリアは上空へと飛翔し、追撃をさせないようにスターライトを放ってくる。
「ちっ」
流石は代表候補生なのか、仕掛ける前に反射神経を生かして、回避に転じたようだ。
だが、バリアがある以上は此方も逃さないとばかりに追撃を仕掛ける。
「っ……! しつこい男は嫌われますわよ!」
「知らんな……」
そんな事を言われたとて、動揺する訳でもない。だが、セシリアは的を絞らせないように回避行動を取り続け、一直線上に来ることを避けているような攻撃スタイルへと変更しつつあった。様子見はもう終わりだ、という事だろう。
こちらも何とかしてセシリアと距離を詰めたいが、こればかりは少々厄介だった。見境なしに直進しても意味を成さず、したところで狙い撃ちされ、ビームコートのエネルギーを減らされるのが関の山か。
おまけに、セシリアの射撃はとても精密だ。避けられるものがほとんどなく、おかげで殆どが見事に直撃している。ただ先ほどのビームコートが反応してエネルギー弾を防ぐため、直接ダメージは届くことはない。
(あのバリアが邪魔ですわね。あれをどうにかすれば……)
(まずいな……。近付かなければ、セシリアの思う壺だ。何とかして突破口を……)
これではお互いに詰んでいる状況だが、バリアを作り出している方のエネルギーが尽きればそれこそ集中砲火を浴びて終わりだ。幾ら装甲が厚いとはいえ、向こうも火力はある。
その前にセシリアとの距離を詰めたい。まずは牽制の為に左腕に三連マシンキャノンを展開し、セシリアに対してブースターを噴かせながら放つ。
「その程度の射撃では、わたくしには到底当たりませんわよ!」
「知っているさ、そのぐらいは……!」
マシンキャノンの銃弾を回避しながら、セシリアは再びスターライトの銃弾を放ってくる。
おまけにどういう訳か移動する方向に射撃し、それが見事に当たる。機体が重く、思うように動けないというのもあり、先読みされる可能性は大きいという事か。
無論、ひるんでいる暇はない。もう一度突撃を敢行し、セシリアへと向かう。
「くっ! 接近などさせませんわ! それに、直進なら……」
そう、確かにこの突撃は一直線のみにしか出来ない。ただ、普通の人間には反応出来ないからこそできるものがある。
ただ、こうして訓練を受けているに違いないであろう相手には突撃だけでは無理だ。しかし、この突撃も応用することによっては――避けられた方に行くことも出来る。
(それに、この程度は想定済みだ…!)
そう思った矢先、何を思ったかキョウスケは機体を急停止させたかと思うと、セシリアが回避行動を取った場所へと突撃する。
体にやや防ぎきれないGが襲い掛かるが、歯を食いしばることによってそれを耐え、再び突撃。
この一週間でやってきた訓練の一つで、突撃→急停止→突撃の構築は出来ている。こうでもしなければまず距離を詰めることが出来ないという事もあるからだ。
「なっ……! なんて無茶を……」
「零距離、取ったぞ!」
眼光鋭く、セシリアに対して再びステークを向ける。
が、そんなキョウスケの急接近にもセシリアは少しばかり慌てたのか、向けたステークに対してスターライトをぶつけ、矛先を晒すと同時に、急速離脱していく。
「………チッ」
「危なかったですわね……。しかし、そろそろわたくしも貴方に攻撃を通したいと思っているところでしたから……まずはその面倒なバリアを壊させていただきますわ! お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
セシリアが威勢よく腕を振るった瞬間、今までその周囲に浮かんでいるだけだったビット型の兵器が遂に動き始める。
ただ、動きとしては直線機動だ。しかし、それが四機もあるとなると――中々狙いを絞りにくくなるのも事実。それに――セシリアも本気を出してきた、という事になる。
「さあ、舞い踊ってくださいな! わたくし、セシリア・オルコットの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」
「……!」
瞬間、ビット型の兵器の銃口が開き、其処からレーザーが飛び出す。
直線に向かってくるそのレーザーをキョウスケは何とか紙一重で避けきるが、いつの間にか後ろを取っていたビットがタイミングよくレーザーを放ち、後方にビームコートが発動する。
「ちっ……噂のオールレンジ攻撃か。厄介だな……」
囲まれると一溜まりもない。これが実弾でないのが唯一の救いか。
しかし、止まることはないセシリアからのオールレンジ攻撃。避けたかと思えばいつの間にか後ろにビットが存在する。
更には本体であるセシリアからも援護射撃とばかりにエネルギー弾が放たれ、キョウスケに直撃する。
ただ、先ほどステークの矛先を変えるために無理やり当てたといってよかったので、何かしら故障を起こしているのか、先ほどのような出力はなかった。
だが、それでも脅威には違いない。おまけに先ほどからうるさいほど警告音が頭の中で鳴り響き、思わず切ってしまいたい程にうるさかった。
だが、その攻撃の全てをビームコートが防いでいるが、正直なところは限界寸前だった。これほどまでに苦戦するとは思っておらず、思わず歯噛みする。
(くそっ……なにか、突破する術を見つけなくては……。いや、待て……)
その瞬間、ある考えが思い浮かぶ。いや――セシリアの行動パターンを見ていて、気付いたことがあった。
それこそ、今まで集中的に攻撃を食らっていた中で気付いたことではあるが――試してみて損はない。
「なかなかしぶといですわね……。ですが、これでバリアは終わりの筈ですわ!」
「今だ……!」
セシリアの構えたスターライトの銃口が向けられた瞬間――キョウスケはセシリアに向けて突撃を行い、銃身に正面から体当たりして砲口を逸らす。
無茶苦茶な行動だが、これこそが狙いだ。対するセシリアは少々驚いたような表情を見せているが、だからといって関係ない。
「……お前の弱点は、そういう事か……」
「な、なにを……。それに、幾ら距離を詰めるからと言って、無茶苦茶しますわね」
「さっきのお前と同じ事をやっただけだが」
「けれど、それこそ無駄な足掻きですわっ!」
セシリアが後ろに後退することによって距離を取り、近くにいた一機のビットに指示を送り、キョウスケへと向かわせる。
そのビットはキョウスケとセシリアの間を塞ぐような場所へと現れ、その砲口を開く。
しかし、砲撃に対して構わずに突貫。レーザー砲がアルトアイゼンに当たるが、損傷など構わずに展開しておいたヒートダガーでビットを一閃。真っ二つに割れたビットは爆発四散する。
「本当に無茶な戦い方をいたしますわね……。ですが!」
続けてもう一つのビットが俺に向かってくるが、今度はビットに向けて加速。
一気に距離を詰めたところで、右腕のステークをぶち当てる。
「なんですって!?」
「本体に比べ、ビットは反応がやや遅れている。それに、この兵器は一回ごとにお前が命令を送らなければ動きはしない。更には……」
ステークを炸裂させ、二機目のビットを破壊。残りは二機。
「お前がこの兵器を動かしている間は、他の攻撃をすることができない事だ。それに、ビームコートは先のビットへの突撃で消え去った。今ならば攻撃が通るし、その好機を逃すお前ではない。更にライフルも撃てる筈だ。だが、お前はそれをしなかった。いや――出来なかった、の間違いか」
「……!」
それはどうやら図星のようで、セシリアが若干怯む。
しかし、それは好機であった。すぐさま加速し、セシリアに詰め寄る。
「今度は此方の番だ。逃がしはせん」
「――そうですか。しかし、逆に間合いを詰めてくれた事はわたくしとしても助かりましたわ」
瞬間、セシリアがにやりと笑みを浮かべる。
何をする気だと若干訝しむが――セシリアの腰部に搭載されていたスカート状のアーマーの突起物が外され、キョウスケに対して向けられる。
「何……!? まだある!?」
「お生憎様、ブルー・ティアーズはこうして六機ありますのよ!」
「ならば、こうするまでだ…!」
此処からステークに持ち込んでもいいが、それでは新たに出てきたビット――おまけに先のようなレーザー型ではなく、実弾……いや、ミサイル型だ――に対処は出来ない。
ならば、セシリアにダメージを与えつつ武装までも破壊する―——この手段に掛けるしかない。
誘爆の危険性は高いが、それも承知の上だ。そう思い、両肩のコンテナのセーフティを解除、ガコンという音と共に開く。
「ま、まさか……この距離でその炸裂弾を放つおつもりですか!?」
「それ以外に方法はないからな……。巻き添え覚悟でいかせてもらおう!」
今更回避してもどうせ間に合わない。ならば――攻めるのみだ!
「クレイモア……全弾、持って行けぇ!」
「ぐっ……! ならば、此方も!」
近接炸裂弾――スクエア・クレイモアを放った瞬間、セシリアも一か八かの賭けに出たのか、両腰部に搭載されているビットのミサイルを放つ。
ほぼ零距離からの同時攻撃―――おまけに破壊力も負けておらず、炸裂弾とミサイルが当たった瞬間、キョウスケ達の間で凄まじい爆発が巻き起こる。
その爆発は赤を超えて白く、もはや互いの視界すらも奪うような爆発が彼等を包んだ。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「くぅぅ……!」
セシリアの悲鳴が聞こえ、キョウスケも歯を食いしばって耐えようとするが――爆発の勢いには勝てなかった。
その爆発が起こった瞬間、キョウスケも真っ直ぐに地表へと落ちていく。
それこそセシリアも同様だ。全身のISアーマーが剥がれ落ちており、ハイパーセンサーには戦闘続行不能と書かれていた。
たった一撃でこれだけの威力――いや、近接でのミサイルと指向性地雷でもあるクレイモアだ。それだけの傷を負って当然だろう。
装甲が厚い分もあって何とか動けるが、セシリアの場合は難しいだろう。それに、セシリアも薄らと意識こそあるものの、IS自身が動かないようなものだった。
「……仕方がない、か」
痛む体を気合で抑え込み、俺は生きているブースターを噴かしてセシリアに接近し、彼女を抱え込む。
「な、何を……?」
「黙っていろ。舌をかむぞ」
薄らとした意識の中で、彼女はいきなり妙な行動をしてきたキョウスケを見やる。しかし、キョウスケもそれだけ注意して以降、喋る事はなかった。
元気な状態ならば、暴れていただろうが、状況が状況だ。セシリアもキョウスケに身を委ねるしかない。
もはや姿勢を直すことはほぼ不可能。このまま墜落は不可避であろう。墜落した時、どれだけのダメージが襲い掛かるだろうか。考えるだけでもげんなりするが、致しかたがないか。
果たして、キョウスケ達は大きな音を立てて地に落ちた。その場に中規模くらいのクレーターが出来、まともに叩きつけられたキョウスケの口から若干の血痕が噴き出る。
あれだけの無茶をして、これだけのダメージですんだのが奇跡か。いや、もしかしたら何処かしらの骨が折れている可能性もなくはないのだが。
「……無茶を、し過ぎたか…」
『本当だよ、南部君。あのまま二人とも死んじゃうかと思ったじゃない』
呟くと、通信に割り込んできたのか大倉のウィンドウが映し出されていた。
その表情は別段変わらず、特に心配している様子も見られない。これこそが大倉という人間なのだろう。
……今はそんな事など構う事はないが。
『ま、代表候補生相手にギリギリとはいえ、結構いい勝負をしたんじゃない? 今回は引き分け……でいいのかな?』
「………あまり認めたくはありませんが、それでいいですわ…」
大倉の言葉に反応したのか、キョウスケがその場に寝かせていたが、それでもボロボロの状態のセシリアが少しだけ体を動かし、大倉に返事をする。
確かに彼女からすれば認められることではないだろう。しかし、互いにこの損傷であり、セシリアもこの有様だ。妥当な判断だとは思う。
「……あまり喋るな、オルコット」
「こ、このくらい……平気ですわ。それに、貴方の方こそ……」
「……嘘をつくな。少し、休め」
「………わ、わかり、ましたわ……」
少しばかり不服そうだが、セシリアは大人しく従う。
そんな姿にキョウスケは苦笑するが、すぐに大倉の方に視線を向け直した。
「救護班を頼む……。急ピッチでな」
『準備は抜かりないよ。あと少しで到着するはずだから、それまでは安静に宜しくね。あ、それは君も同じだからね、南部君』
「……了解」
それまで聞くと、キョウスケは大倉との回線を切る。
今更だが、完全によって防ぎ切れていないダメージが届き始めたようだ。痛みはかなりあり、僅かながらに吐き出している血痕も無下には出来ない。
―――なんだろうな、前にも度々こんな事があったような気がするが……気のせいだろうか?
「その……ムッツリさん……」
「……俺の名前は南部響介だ。ムッツリじゃない」
「南部……響介さん、ですか。わたくし、少し誤解していましたわ…」
「……何?」
相変わらず片膝をついたまま、キョウスケはセシリアの方も見ずに尋ね返す。
何を誤解していたのかは知らない。それこそ、興味もない。
しかし、何故かセシリアの言葉に耳を傾けていた。聞かなければならない―———と、心の何処かで何かが訴えているようだったのだ。
「……の……た……い」
「ん? 一体何を……?」
「……フフ、秘密ですわ」
……訳が分からない。おまけに小声で呟くように声を発していたため、聞き取る事すらも出来なかった。ISによって小さい声も聞こえる筈であるが、その部分が故障でもしているのだろうか。
しかし、若干嬉しそうなセシリアの様子。それを見て、呆れたように息を吐く。
それから三分後ほどしてから、大倉の派遣した救護係が到着し、俺とセシリアを医務室へと運び込んでいくのだった。
■
「無茶な戦い方ね……。二人ともだけど」
「引き分けになっただけマシな方でしょ? 何を怒っているのさ、ミス・レヴィ」
「……BT兵器の稼働率がまだまだ低い事よ。あの程度では私が困るわ」
「あっそ」
先の戦闘の映像を見ていたレヴィと大倉。大倉はキョウスケと話した時とは打って変わって面白そうな表情を浮かべていたが、レヴィの方は険しい表情だった。
そんなレヴィがBT兵器の稼働率が低い事に怒りを表すのも大倉は一応分かってはいる。だが、それ以上は何も言わなかった。
いや、言ったところでまたレヴィの逆鱗を買う事になると思うと、正直面倒だという方が大きいか。
「けど、南部君は危険も恐れないよね。僕好きだな、ああいう戦い方」
「私は断固拒否するわ。あんな戦い方……理に反するもの」
「でも、それを現実でやっている子もいるって事だよ。いや、寧ろ女には真似できない戦い方―——そういう意味ではいい戦闘を見れたんじゃない? まあ、誰も真似したがらないだろうケド」
「……そうね」
軽く呟き、レヴィは再びモニターの方に視線を移す。
ただ、その目付きは鋭く、射抜くようにキョウスケの方を見やっていたのだが。