IS〜インフィニット・ストラトス〜 【異世界に飛んだ赤い孤狼】   作:ダラダラ@ジュデッカ

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第十三話 勝負

 部屋に戻った俺は、昨日と同じように寝転んでいた。

 時刻は午後7時。食堂はもうそろそろ閉まる頃であり、各々が自室へと戻って寛いでいる時間。

 だが、俺はそう簡単にくつろぐことは出来ない。何故か? 理由は簡単だ。

 それは、俺と相部屋になった人物――小原節子がいるからだ。こうしてルームメイトになった訳だが、どうにも会話らしい会話というものは俺達の間にない。

 セツコは今日の復習でもしているのか、机に着いて教科書を広げ、ペンで何事かを書いていた。

その様子を俺は横目で見ながらも、どうにも同じように勉強する意欲は沸いてこず、こうしてベッドに寝転んでいる訳だが。

 しかし、IS学園での生活は二日目を終えた。一応学園の流れこそ掴んだが、未だに他の女子たちの好奇の目は収まりそうにない。

 授業中はさほどでもないが、休み時間と昼休み、放課後は女子たちがぞろぞろと付き纏ってくる。珍しいのは分かっているのだが、こればかりは流石に呆れるしかない。

 更に分からないのは織斑の件だ。何かを知っているような口ぶりだったが、話したところで平行線に終わる可能性は高い。

 ――思い出すだけで、どっと疲れが押し寄せてくる。おまけに学園側が取り揃えたのかは定かではないが、俺が今いるのは高級ベッドの上だ。眠気が襲ってくるのも無理はない。

 だが、こんな早い時間に寝るつもりはあまりない。俺はゆっくりした動作で起き上がると、眠気覚ましにコーヒーでも淹れることにした。

 その時、ふとセツコと目が合う。どうやら起き上がったのを感じたのか、此方を見た矢先に目があったのだろう。

 

 セツコはすぐに俺から視線を逸らすが、対して俺は彼女にこう尋ねた。

 

「……コーヒーでも淹れるが、お前も飲むか?」

 

「は、はい。いただきます」

 

 返ってきた返事は意外にも肯定の返事だった。

 だが、俺はそれだけ聞くや予め沸かしてあったお湯を使ってコーヒーを作る準備に入る。

部類はいつものインスタントで、食堂にあるような普通のコーヒーとは大違いの味だ。無論、苦くてまずいという意味合いになるが。

 しかし、部屋にあるコーヒーはこれしかない。俺は別に構わないが、セツコは果たしてどうだろうか。

 その点においては聊か不安があるものの、コーヒーを作り終えた俺は黒い液体が入ったカップを持ってセツコの方へと向かう。

 相変わらず熱心そうに今日の授業内容を復習していたセツコであったが、俺の接近に気付いたのか、手を止めて此方の方を向いてきた。

 

「インスタントだが、構わないか?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 俺の差し出したコーヒーのカップをおずおずとした様子で受け取り、軽く口をつけるセツコ。

 俺も同様にコーヒーを啜るが、少々苦そうにしながらコーヒーを飲んでいるセツコを見て、思わず苦笑を浮かべてしまった。

 

「苦かったか?」

 

「……えっと、その……はい……」

 

「まあ、仕方がないか。待っていろ、砂糖とミルクを取ってくる」

 

「あ、はい……」

 

 指摘され、恥ずかしそうに視線を落とすセツコ。

 俺は変わらずに苦笑を浮かべていたが、こうなることは予測していたので砂糖とミルクを取りに戻る。

 セツコはそれでも頑張ってコーヒーを飲もうとしていたが、俺は先ほど言ったように砂糖とミルクを彼女に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いや、俺の気遣いが足りなかった。すまん」

 

「い、いえ……。南部さんは何も入れないんですか?」

 

「俺はブラック派だ。特に何も入れはしないな」

 

「そうなんですか……」

 

 コーヒーのこだわりを言うや、セツコはコクコクと首を縦に振って納得したような感じであった。

 しかし、早速砂糖とミルクをコーヒーに入れて飲む点は、やはり女子というべきか。苦いのはあまり好みではないらしい。

 

「それにしても、小原は勤勉だな。部屋に戻るなり、いきなり今日の復習とは」

 

「……そのくらいしか、することがありませんから」

 

「……まあな」

 

 セツコの言葉に、俺は苦笑を浮かべながらもその通りだと感じた。

 他の生徒とは違い、セツコの同居人は俺だ。話す内容も本当は何を言っていいのか分からないのだろう。

 俺は改めてインスタントコーヒーを流し込むが、それはいつも飲んでいる筈のコーヒーよりも更に苦く感じた。

 

「……それから、すまないな」

 

「え? 何の事……ですか?」

 

「セシリアの件だ。いきなり決闘などと……お前の都合も考えずに申し込んだようですまない。なってしまったものは仕方がないが、俺から詫びを入れておく」

 

「い、いえ……。その、平気ですから。心配しないで大丈夫です」

 

「…………」

 

 彼女は平気だというが、果たして本心はどうだろうか。

 大丈夫だと、そういっているセツコだが――いや、引き受けるしか方法がないと割り切っているのか、それとも断る気すらないのか。

 それに、セツコの目や表情を見ている限り――どうにも、引っかかる。その表情通り、そして瞳の奥底が暗くなっているような感じが、何故かした。

 それを深く追及するつもりなどは毛頭ない。だが、放ってはおけなかった。

 気が付けば、俺はセツコに対してこのような提案を出していたのだった。

 

「小原」

 

「は、はい?」

 

「明日、第一アリーナに来い。セシリアの戦術は一応知っているつもりだ。少しは教える事も出来るとは思う」

 

「え……?」

 

「まあ、俺は小原よりもIS稼働時間は少ないが、それでも良ければの話だが」

 

 いきなりの提案に、セツコはポカンと口を開けて唖然とする。

 俺としても、なぜこのような提案を持ちかけたのかは分からん。だが、理不尽な決闘に巻き込まれる彼女を、なんとかしたいという気持ちがあったのだろうか。

 

 ――分からんな、どうにも。

 

「で、でも、迷惑じゃ……」

 

「迷惑なら、こんな提案などするものか」

 

「…………」

 

 俺の発言に、セツコは当然のように黙り込んでしまう。

 それも致し方がないかと俺は思い、再びコーヒーを流し込もうと口をつける――が、すでに中身がなくなっていた事に気づく。

 いつの間にか飲み終えていたようだ。いつもより少なかったか? と自問自答するが、それはさておいて、再びセツコの方を見やる。

 セツコは、視線を下に落としていたが――どうするかを考えている様子はあった。

 俺としても、無理やり誘った様な形な為、本当に来るかどうかは疑問なところであったのだが。

 

「では、俺は先に寝る。また明日な、小原」

 

「……あ、はい。おやすみなさい、南部さん」

 

 声を掛けられて顔を上げたセツコに、俺は軽く手を上げることによって答える。

 コーヒーカップを流し台へと置き、歯を磨くために洗面場へ。その際に時間を確認したが、まだ三十分しか経っていなかった。

 だが、体が疲れているのは言うまでもない。先ほどは寝ないといったが、やはり休んだ方がいいだろうと思う。

 そして、俺は今日最後の溜息を吐くと、洗面場へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。第一アリーナにて。

 其処にはISを展開状態にしたキョウスケがおり、彼は腕を組んだままピットの方を見ていた。

 特に動く事はせず、じっとその場で立ち尽くす。何かを待ちわびているかのように。

 しかし、そんな周囲の目線をキョウスケが気にすることはない。と、急にキョウスケが視線を上にあげたかと思うと――フッと口元を吊り上げる。

 

「ようやく来たか」

 

 軽く笑いだしたキョウスケ。相変わらず周囲にとっては疑問符しか思い浮かばないが、キョウスケの目線を追ってピットの方を見やると――その答えはすぐに出た。

 キョウスケの目線の先には――IS『バルゴラ』を展開したセツコの姿があり、彼女はキョウスケの姿を見るや、バーニアを噴かしてキョウスケへと近づいていく。

 ただし、表情はどこか優れない。緊張しているのか、はたまた迷惑を掛けているように思っているのか―――いや、そのどちらもだろう。

 

「遅かったな」

 

「す、すみません」

 

 申し訳なさそうに謝るセツコだが、キョウスケの言い回しを聴く限りでは、必ずセツコは此処に来ると踏んでいたのだろう。

 そうでなければ、一時間も何もせずに待つことは不可能であるのも確かなのだが。

 

「ですが……本当に宜しいのですか? 私なんかの為に、貴重なお時間を……」

 

「その程度、気にすることはない。それより時間は限られている。今のうちにお前の実力を知っておきたいのは、俺も同じだ」

 

「え……?」

 

 言うや、キョウスケは右腕部にステーク、左腕部にマシンキャノンを展開という従来のアルトアイゼンの武装を同時展開する。

 この同時展開も大倉研究所で練習した成果であり、今では何事もなかったかのように展開することができる。もっとも、キョウスケ自身としては最初から展開されている方がやりやすいといえばそうなるのだが。

 

「小原、お前の実力を測る。……遠慮はいらん。来い」

 

「え、えっと……」

 

 いきなりの発言に、セツコは戸惑うしかなかった。

 確かにこの第一アリーナは人が少なく、模擬戦をするにはもってこいという環境。ただ、セツコの方はいきなり言われて困惑するしかない。

 しかし、キョウスケとしてはセツコがどの程度の実力を出せるのかが分からければ、どうセシリアに対抗してもいいのか分からない、というのもある。

 それに、自分でセツコの実力を測っておきたいというのは事実だ。自らで性能やセツコの実力を把握し、対策を練ってみるのも悪くない。

 いや――それこそ、キョウスケがしようとしていることであった。

 

「で、ですが………」

 

「俺に勝てないようでは、セシリアとの決闘など話にもならない。お前が俺に対して手を出しにくいというのは分からないでもないが、いざ実戦になればそうもいかなくなる。

此処に来る決意をしたように、俺に対しても全力でぶつかってこい」

 

「それは、そう……ですけど」

 

 キョウスケの言葉に、セツコは口を紡いだ。

 しかし、キョウスケの言っていることはもっともだった。セツコ自身、一体何の為に此処に来たのかを思い出し、正面を見る。

 下唇を噛んでいたセツコだったが、勇気を振り絞ってキョウスケに対して頭を下げた。

 

「わ、分かりました……。その、宜しくお願いします」

 

「無論だ。では――早速行くぞ」

 

「え、そんな急に……!?」

 

 キョウスケが初めの合図をした瞬間、その持ち前の加速力を使用して一瞬でセツコの前に躍り出る。

 

「あ………」

 

 キョウスケのあまりに速い加速に、セツコは目を丸くするしかない。

 やはりこの加速力、初見では対応するのが難しいという事を改めて思い知らされる。が、所詮はそれだけの事であり、いざ勝負が始まれば小細工も通用しなくなるのだが。

 

「初手、貰ったぞ」

 

「そ、そうは……させません!」

 

 キョウスケが遠慮なしにステークを撃ち込むとするが、セツコは咄嗟――本当に咄嗟の反応で自身の武装であるガナリー・カーバーを自分の前面へとやり、ステークを防ぐための盾とする。

 ガリリッという耳障りな金属音と共にその部分から火花が飛び散る。だが、キョウスケは攻撃をやめることなく、そのままステークを押し出す。

 

「う、うぅ……!」

 

 力ではキョウスケが勝っているため、セツコは自然に押され始める。

 その瞬間を逃さないキョウスケは、更にバーニアスラスターを限界まで噴かす事によって、セツコを押し出す。これはレビ戦でもやってのけた方法で、力任せに壁に打ち付け、逃げ場をなくす手法だ。

 ただ、セツコも簡単にやられるわけにはいかない。どうにかガナリー・カーバーを動かしてキョウスケに反撃をしようとするが――すでに障壁は目と鼻の先であり、すぐさま激突するようなスピード。

 ガナリー・カーバーもステークを抑えるために必死である。ならば――と考え、セツコは左腕にバルゴラに搭載されているもう一つの武装であるレイピストルを展開し、キョウスケに対して頭の中で負い目を感じながらも放とうとする。

 だが、その前に衝撃がセツコを襲う。後方にはアリーナに設置されている障壁に激突したためだった。

 

「……っ!」

 

「次だ……」

 

 衝撃を抑えきれない分が直接セツコへと伝わり、それは痛みに代わる。

 だが、キョウスケは攻撃を止めない。ガシャと鈍い音をさせた後でマシンキャノンをセツコへと向け、発射しようとする。

 しかし、いつまでもやられている訳にもいかない。セツコは歯を食いしばってどうにか左腕をキョウスケに向け、レイピストルを発射。一瞬だがキョウスケの気を逸らす。

 

「ビーム系―――。だが、それならば!」

 

 ただ、レイピストルから放たれるのはビームガン。

 キョウスケのアルトアイゼンの前には無にも等しく、それはあえなくビームコートによって弾かれてしまう。

 

「バリア? でも、それなら……!」

 

 その間にセツコはガナリー・カーバーをキョウスケの方へと向け、実体弾であるストレイターレットを発射する。

 

「実弾装備? くっ……!」

 

 流石に実体弾は分が悪い。だが、キョウスケは下がることはせず、左腕で胴体をかばう事によってストレイターレットを防ぐ。

 当たった瞬間にドンと音が鳴って軽い爆発が起こるが、セツコはすぐにバルゴラを飛翔させ、ガナリー・カーバーの後背面を使う事によって、それをキョウスケへとぶつけるモーションパターンを行使する。

 

「このタイミングで……!」

 

 そのままセツコは急降下。キョウスケに更なる攻撃を浴びせようとする。

 だが、キョウスケもその行動はハイパーセンサーを駆使する事によって把握していたため、それを迎え撃つ――いや、返り討ちにするかのように両肩部のコンテナを開放し、呟く。

 

「容易に接近し過ぎだ。クレイモア!」

 

 近接格闘はキョウスケの十八番であり、セツコの間合いの詰め方はまだまだ甘い。

 それを把握してか、キョウスケは躊躇うことなくクレイモアを射出。降りてくるセツコへと浴びせた。

 

「きゃあああ!!」

 

 これはセツコも予想していなかったのか、チタン製のベアリング弾が何発も直撃し、爆発を起こすや簡単に弾き飛ばされてしまった。

 かなりのシールドエネルギーが減り、これにはセツコも顔をしかめるが――それと同時に、浅はか過ぎたと後悔もしていた―――。

 すでにキョウスケはセツコに接近しており、左腕部のマシンキャノンにてセツコに狙いを定めていた。

 

「零距離ならば……外さん」

 

「こ、これ以上のダメージは……」

 

 向けられたマシンキャノンを前に、セツコはガナリー・カーバーを握りしめるが――それよりも早く、キョウスケのマシンキャノンがセツコに対して放たれる。

 キョウスケの発言通り、零距離での全弾命中。幾ら威力が低いとはいえ、それだけの数を受ければ危ういのは見えている。

 結果、先ほどのクレイモアのダメージと合わさって、バルゴラのシールドエネルギーは更に減っていく。

 

「うぅ……」

 

 まるで追い打ちをかけるような攻撃であったが、セツコはバーニアを噴かして一旦間合いを取るために後退する。

 だが、キョウスケの追撃は止まらない。間合いを取ろうにもあの加速力でセツコを追い詰め、今度はヒートダガーを展開すると、セツコに対して斬りつけてくる。

 

「そ、そうくるなら……」

 

 それを見てか、セツコはいとも簡単にガナリー・カーバーを振り回したかと思いきや、その先端部分から今度は実体剣を出現させる。

 なるほど、大倉が言っていた十徳ナイフとはこのことか、とキョウスケは内心笑みを浮かべるが  ――望むところだと思い、新たに出現させた実体剣と相対する。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「……その程度か」

 

 目先を鋭くさせたキョウスケは、突撃しながら実体剣を向けてくるセツコに対して、そのような事を呟く。

 セツコは下段からの袈裟切りをキョウスケにぶつけようとするが、その程度の袈裟切りなどキョウスケにとって受け止めるのは造作でもない。

 金属音を響かせながらその実体剣を受け止め、弾き飛ばす。その衝撃でセツコがよろめくが、やはりキョウスケは隙というものを絶対に逃さない。

 手早くセツコに接近し、速い動作でセツコを斬る。それも、斬る瞬間に機体を加速させ、より素早く斬ったのだった。

 

「えっ……!?」

 

「機体性能は確かにいい。だが、少々武器に頼りすぎている印象が強い。いい武装が揃っている分、仕方がない点もあるが」

 

 勝負ありだった。セツコのISのシールドエネルギーはその時点でゼロとなり、キョウスケの勝利となる。

 それを確認し、キョウスケはISを解除して地に降り立つ。

 一方のセツコは、キョウスケの方を見るが――指摘された通りだと思い、視線を下に落とした。

 そんなセツコの様子を見てか、キョウスケは彼女の方に近付き、再び声を掛ける。

 

「すまんな。実力を測るためとはいえ、手は抜けなかった」

 

「いえ……当然の事だと思いますから。気にしないでください」

 

「…………そうか」

 

 セツコの返答を聴き、キョウスケはただそれだけの事を呟く。

 だが、キョウスケの内心はどうにも穏やかではない。先ほどの戦闘を思い返しながら、考えを纏めていた。

 

(先ほど見たのは、実体弾と近接格闘のモーションパターン、実体剣にそしてあのビーム兵器か。組み合わせこそ悪くはないが、詰めが甘いのが特徴か。

的確に、そして狙い澄ましたように撃ってくるセシリアに対抗するのは難しいかもしれん……。そして、なにより―——)

 

 ――――なにより、セツコはキョウスケに対して本気を出していたのか?

 戦い方は先ほど思い返した通り。詰めが甘いとは思ったが、本来の実力を出していないのならば話は違ってくる。

 いや、そもそもキョウスケに対してあのように近接戦闘を仕掛けてきた時点で、若干の疑問点が沸く。確かにあのガナリー・カーバーは万能兵器であるに違いないが、それでもだ。

 

(いや……マニュアル通りの戦い方をしたと考えれば、あの戦い方も少しは理解できる)

 

 確かにあのストレイターレットを発射してからの近接格闘に持ち込んだことは評価できるが、所詮はマニュアル通りの戦い方だ。

 もしかすれば、ガナリー・カーバーはまだまだ性能を発揮できるのかもしれないが――やはり、セツコもまだまだガナリー・カーバーを使いこなせていないのが現状か。

 代表候補生とはいえ、ISの稼働時間などは国によって違ってくる。それも、個人差さえあるというのだ。

 さて、セツコはどうだろうか? もっとも、本人に聞かなければどうしようもないか。

 そんな事を思っていると、今度はセツコがキョウスケに近寄り――急に頭を下げる。

 

「その……南部さん、今日はありがとうございました。でも……本当に気にしなくて大丈夫です。私は……」

 

「………関わった以上、無下には出来ん。それに、俺達はルームメイトだ。困ったことはお互い様だと思うが」

 

「あ……」

 

 その言葉を聴き、セツコは意外といった表情を浮かべると共に――その心の中で、嬉しさを感じていた。

 何も関係のない筈の自分に対して、キョウスケは手伝ってくれる――。それが何故なのか、セツコは分からない。

 いや、キョウスケだって実際のところは分からないのかもしれない。だが――放っておけないというのは理由の一つといっていいだろう。

 

(南部さん……ありがとう、ございます)

 

 こんな自分の事を手伝ってくれるキョウスケに内心で感謝しながら、セツコはキョウスケの後姿を見ているのだった―――。

 


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