真剣でKUKIに恋しなさい!   作:chemi

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14話『東西交流戦2』

 

 工場内に轟く爆音。それとともに、粉塵が吹きあげている。これでもう何度目となるか、数えるのも億劫になるほどであった。

 2年同士の対決は、既に始まっている。各所で突撃の号令がかかり、威勢の良い掛け声が木霊していた。

 戦況はやや天神館リードといった様相。しかし、十勇士相手に一歩もひかない川神学園は、その士気の高さゆえであろう。倒れるときは前のめりと言わんばかりに、天神館生徒へと襲いかかっている。

勇敢なる者へ続け。それに後押しされるように、一人一人が負傷を恐れず、さらに前へ進む。

戦場の空気は伝播していく。気圧される天神館の生徒達だが、それでも依然優勢を保つあたり、各々の能力の高さを感じさせる。

 そのとき、一際大きな歓声が響いた。

 

「やるじゃないか、島津岳人」

 

 征士郎は報告を聞いて、岳人の評価を高める。十勇士が一人、大友焔(おおとも・ほむら)の火薬による広範囲の攻撃を自らの体で受け止め、彼の背に隠れていた一子が、次の一撃を受ける前に撃破したという。ファミリーならではの息のあったコンビネーション。

 大友の攻撃により、多数の負傷者が出ていたが、十勇士の一角撃破の報に、川神の気勢がさらに増す。

 百代もファミリーの活躍に満足そうであった。特に、一子が将の一人を討ち取ったのが嬉しいのだろう。

 そして、岳人は未だ戦闘続行を望んでいるようで、一子を先に行かせ、自らの足で立ち上がっているらしい。

 その姿を見た生徒たちは、それを見て、何も感じないだろうか。

 

(否……これで熱くならない者もそういまい)

 

 頑丈な体躯に、強い精神力。無類の女好きはご愛嬌。

 

(本人が望むのなら、従者入りも悪くないな)

 

 征士郎は一人微笑んだ。従者部隊には20を超えている者がほとんどで、その上、美形が揃っていることでも有名である。年上好きの岳人である、最高の環境と言えるだろう。その分、クセの強い者も多いが、そこは相性にもよる。

そこへまたしても報告が入る。椎名京による毛利元親(もうり・もとちか)の撃破。

どうも、大友撃破とほぼ同時のタイミングだったらしい。

 天下五弓同士の戦いは、京へと軍配が上がった。立て続けによる十勇士の脱落。

 ここが勝負所であろう。

 

 食い止めるか、食い破られるか。

 

 大将である石田がどうでるのか、注目されるところであった。彼の実力は、2年の中でもトップクラスと言っても良い。ここでの一手で、彼の考えや性格など見えてくるものもある。

 厳しい目つきで戦場を見渡すマルギッテが呟く。

 

「川神学園が押し返したようですね……」

 

 軍人の嗅覚あるいは勘とも言うべきなのか、戦場の空気を敏感に感じ取っているようだった。

 クリス隊30人撃破、なおも進軍。次に来た知らせである。

クリス率いる部隊は、敵軍の一割強を削り、学内での撃破数もトップを独走中である。最前線を駆け抜ける少女は、既に軍人としての資質を開花させつつあるようだ。

 このままいけば、敵大将に遭遇するのはクリスである。マルギッテは嬉しさを隠しきれないようで、口元が笑っていた。それも百代に指摘されたことで、引き締まってしまったが。

 李が、征士郎に声をかける。

 

「あずみが、十勇士の一人、鉢屋を撃破しました」

 

 鉢屋壱助(はちや・いっすけ)。様々な依頼をこなす忍であった。

 この戦においては、単独で大将の首を狙いに行ったようだが、それをあずみに感づかれ、敗れたらしい。

 続いて、心が宇喜多秀美(うきた・ひでみ)を討ち取ったとの報告。華麗なる投げ技一つで、相手をのした。

 

「不死川もやるじゃないか」

 

 征士郎の前では、よく「にょわにょわ」言っているが、やるときはやるらしい。

 この言葉を聞いていれば、ここぞとばかりに自慢しただろうが、生憎、征士郎の声が戦場に届くこともない。

 十勇士もこれで約半数が落ちた。そのとき、戦場に響く悲痛な叫びが、征士郎らのもとまで聞こえた。神を呪うような声色だ。

 百代が呆れたような声を出す。

 

「あれは……ハゲだな。大方、ロリ絡みでなんかあったんじゃないか?」

 

 その予想通り、井上準(いのうえ・じゅん)が、十勇士の一人である尼子晴(あまご・はる)を女だと間違えて、未だ幼さを残したこんな子すらも、戦場に立つという悲しさを嘆いたらしい。そして、保護しようと抱きしめたところ、これが男であることが判明し、容赦なく気絶させたようだ。

 ちなみに、尼子の率いる隊は屈強で知られていたが、準が全てを片づけていた。

 そこからは、川神学園の快進撃。榊原小雪(さかきばら・こゆき)が長宗我部宗男(ちょうそかべ・むねお)を倒し、羽黒黒子(はぐろ・くろこ)が龍造寺隆正(りゅうぞうじ・たかまさ)を押し倒した。後者はまさに言葉通りである。その後、2人は物陰へと消えて行方知れず。

 加えて、大村ヨシツグも体調不良でそのまま戦線離脱。これで十勇士も残り2人となってしまっていた。

 天神館の生徒たちの間には、動揺が広がっていた。それに引き換え、川神学園の者たちは、ここぞとばかりに攻勢を強めている。その間、残りの石田と副将の島右近(しま・うこん)の名は、どこからも聞こえてはこない。

 

(時間切れを狙っての引き分けか?)

 

 マルギッテも征士郎と同じ事を考えていたようで、そう口にした。

 次の戦いは、武神のいる3年である。相手の人数は1200人、一体どこから連れてきたのかわからないが、百代と大将である征士郎が許可を出したため、200対1200の戦いとなる。

 それでも天神館の苦戦は必至だろう。ならば、この2年の戦いで勝ちをとっておきたいはず。

 

(自身の率いる学年が負けなければ良い……そういうことか)

 

 ここで引き分けても、天神館は1勝1分で優勢。その次に控える3年が勝てばよし。負けても、学校対抗として考えれば、引き分けという形で収まる。しかし、啖呵を切った割には、というのが正直な感想であった。

 しかし、勝負はまだ終わっていなかった。

 直江大和、敵大将と副将に遭遇。援軍で現れた川神一子が、副将島と戦闘状態へ移行。矢継ぎ早に知らせが入る。

 意外な人物の名が出てきたことに、征士郎は興味を惹かれた。マルギッテも同様である。

 唯一、百代だけは、大和の考えがなんとなく分かるらしい。にやりと笑みを見せている。

 大和はどう見ても戦闘タイプではない。征士郎の見たところ、その回避能力だけは一級品だが、相手を打ち倒すだけの武力は皆無である。

 そこに更なる報が飛びこんでくる。

 

 背後より、クリス隊が敵大将を急襲。

 

 それを聞いたマルギッテは相好を崩したが、すぐに悔しげな表情になった。百代が、どうした、と尋ねる。

 

「クリスお嬢様の勇姿をこの目で見ることができないのが、残念でなりません」

 

 見物できる場所は指定されており、ヘリでも使わない限り、全ての戦場を見ることは敵わない。仮に、隠れて見ようとしても、ここを監視しているのが鉄心やルーといった壁越えの者たちである。その目を掻い潜るのは困難であったし、最悪の場合、この勝負そのものに何らかの影響を与えかねない。

 

「副将、川神一子が討ち取ったわぁー!!」

 

 征士郎らの所までその声が届いた。それに続く声があがる。

 

「敵総大将、クリスティアーネ・フリードリヒが討ち取ったッ!!」

 

 クリスのかけた急襲から、間髪入れずして、追撃となる風間翔一(かざま・しょういち)の奇襲。京の弓による援護。とどめが、再度クリスによる至近距離からの刺突。息もつかせぬ猛攻で、石田に何かをする余裕を与えなかったのが勝因であった。

 翔一は捨て身の攻撃であったため、反撃をくらい軽傷とのことだった。

 無類の活躍を見せた一子とクリスが、声を合わせて、勝鬨を上げる。それは他の川神学園の生徒たちにも伝わり、どんどん歓声が大きくなった。

 

 

 □

 

 

 翌日の夜、最後の大一番が始まろうとしていた。

 武器を片手に並んだ生徒たちは、未だ緊張感が足りていない様子で、ざわざわとざわめきたっている。

 そんな彼らの前には、総大将のために用意された背の高い椅子が、壇上の上に鎮座していた。その四方には篝火。椅子の傍らには川神学園の校旗があり、それが風ではためいている。

 そこに、一人の男が姿を見せるなり、そのざわめきは一気に静まった。

 3年の総大将、九鬼征士郎である。彼の姿が篝火で照らされる。その後ろに控えるのは、当然、李である。

 そして壇上の下でも、彼と同じく生徒たちと向かい合う者達がいる。今回の戦で、将として選ばれた者達だ。

 川神百代。マルギッテ・エーベルバッハ。南条・M・虎子。矢場弓子。

 静寂の中、篝火が賑やかに爆ぜ、校旗のはためく音が、皆の耳に届く。

 

 戦が始まる――。

 

 先ほどまでの弛緩した雰囲気は霧散し、肌をうつような緊張感が場を支配する。

 

「戦績は1勝1敗である。1年は今回の敗北で己の未熟さを知り、克服していくだろう。2年は勝利を掴み、自らの歩んできた道を誇るだろう。そして、我ら3年はどうするか……」

 

 征士郎の声が響き渡る。しんと静まる中、生徒たちの何人かが声をあげる。勝ちを、勝利しかないと。追随する者も現れる。求めるは勝利のみ。

 

 勝利。勝利。勝利――。

 

 それはやがて、大きな合唱へとつながる。手に持つ武器で、持たぬ者は自身の足で地を叩き、その言葉を叫ぶ。

 砂煙が足元に広がるのも無視して、地を鳴らし続ける。

 ボルテージが徐々に上がっていく。それを証明するかのように、声はより盛大に、地の揺れはより大きくなっていった。ノリの良い川神学園の生徒達である、熱くなる空気はたちまち川神陣営を覆っていく。

 さらに、征士郎ら3年にとっては、この1年が皆で過ごせる最後の年である。他の学年にはない思い入れがあるからこそ、より一層力が入るというもの。

 百代とマルギッテは獰猛な笑みを見せ、虎子は共に楽しげな声をあげ、弓子は涼しく笑った。

 征士郎が右手をすっと挙げ、それを合図に大合唱が止んだ。そして、天を掴むようにして、握りこぶしをつくる。

 

「その通りだ! 圧倒的勝利をもって、この戦いを終わらせるッ! ねじ伏せろッ! 我が学び舎こそ、最高にして頂点だと、その行動をもって示してやれ!!」

 

 征士郎は挙げた右手を振り払い、間を置かずに、さらに言葉を続ける。

 

「百代、並いる敵を蹴散らせ」

「まかしておけ! ワクワクするなー」

 

 振り返った百代は、征士郎へとウインクを飛ばすと、腕をぐるぐると回す。

 

「マルギッテ、主力部隊はお前に預ける。敵大将の首、あげてみせろ」

「容易いと知りなさい。猟犬の名が、伊達でないことを見せてあげましょう」

 

 踵を返したマルギッテが、征士郎に向けて、力強く頷いた。

 

「虎子、敵のかく乱はお前の役目だ」

「オマカセッ!」

 

 虎子は握った右手を空へと突きあげる。加えて、テンション高く雄たけびをあげた。

 

「弓子、主力の援護はまかせたぞ」

「了解で候!」

 

 弓子は右拳を左の掌にあて、答えた。

 征士郎はそこで一度頷くと、再度、生徒達へと視線を向ける。そして、再度、右拳を天にかざす。

 

 勝利を求めよ、勝利を我が手に――。

 

 征士郎に続き、生徒達が各々の武器を天へと掲げ、同意を示す咆哮をあげる。

 どんな相手が来ようとも、今の自分たちなら負けはしない。隣を見れば、共に吠える仲間の顔。それだけで心が奮い立つ。

 何より楽しいのだ。この一体感、一つのことに一致団結し、立ち向かうこの瞬間が。

 あと何度、この感覚を味わえるのか。そう考えるともったいなく思えてしまうほどに。

 しかし、今は大事な一戦の前である。そんな考えを掻き消すように、さらに声を張り上げる。

 そこに響く将からの号令。それに従って、生徒達が動き出す。

 東西交流戦を締めくくる最後の戦いが、今始まろうとしている。

 

 

 ◇

 

 

 最初に声をあげたのは、百代だった。その声は、待ってましたと言わんばかりの喜色に溢れている。

 

「来たぞ来たぞ。一体、何人こっちに向かってきたんだ? 数えきれないぞ」

 

 征士郎のいる壇上より、はるか先方に百代は立っていた。周りに、他の生徒たちの姿はない。守りを固める彼らは皆、征士郎の壇上近くにいるからだ。その指揮をとるのは、李の役目である。

 天神館の生徒たちも、百代の姿を視認したのだろう。空気が張り詰める。

 天神館の1000人は、ほぼ百代に対しての相手である。そのまま、彼女にぶつけてくる。

 

 そう思われていた――。

 

「狙うは総大将の首一つッ!! 仲間の屍を踏み越えてでも、突破せよッ!!」

 

 天神館の将の一人であろう。そう声をあげ、突撃の号令をかける。そして、掛け声とともに、一斉に攻めてきた彼らは、地鳴りがするほどの数であった。その威圧感たるや、滅多にお目にかかれるものではない。

 砂煙が乱暴に巻き上げられ、百代の眼前は、まるで戦争のワンシーンのようである。しかし、彼女がその程度でひるむこともない。

 百代は鼻で笑って呟く。

 

「楽しませてもらおうか。簡単に通れると思うなよ……」

 

 百代が一歩踏み込んだ。

 先頭を走っていた敵は、さぞや自身の目を疑ったであろう。何せ、姿を消した百代が、瞬きをする間に、目の前にいたのだから。彼の意識はそこで途切れた。

 

「ほらほら! どうした、どうしたぁ!!」

 

 20人を5秒と言わずに倒した百代が声をあげる。と同時に、地面へと掌をくっつけた。

 次の瞬間、辺り一帯を氷漬けにして、景色を一変させてしまう。当然、その範囲にいた人間も同様であった。軽く50体以上もの氷像の完成である。

 氷像の顔は、皆、何が起こったのか理解できていないといった風であった。

しかし、そんな光景を見せられてもなお、天神館の生徒たちは、目標を目指す。命令が徹底されている上、生徒の一人一人の覚悟が並々ならぬものである。

百代が地面から手を離すと、氷も一気に割れ、巻き込まれた人間が膝から崩れ落ちた。だが、その中でも彼女へと食らいつこうとする者が数人いた。

 先へ進む仲間のために、自身が犠牲となろうというのだ。百代を四方から囲もうとする。

 

「その気概、見事だッ!」

 

 百代はそう言い放ち、その者達を地へ沈める。その彼女の視界が、戦いを避け、通り抜けようとする集団を捉えた。それもわざわざ左右を分けてである。少しでも犠牲を減らしながら、より多くの仲間を敵大将である征士郎の元へと送り出すためであった。

 人数が多くなる分だけ、大将を討てる可能性もあがるからだ。

 しかし、それはあっけなく潰される。百代がやったこと、それは両足を交互に振り抜いただけであった。

 天神館に襲いかかったのは、飛ぶ斬撃とでも言えばよいのか、ともかく彼女の足から放たれた闘気だったのだ。もろにその一撃を喰らった者、ガードした者、それら全てを呑みこんで吹き飛ばした。

 その攻撃の一瞬を、天神館の弓兵らが狙う。放たれた矢は空の一部を覆わんとするほどの量である。

 

「万物流転……」

 

 百代の口から、その単語が漏れた。膨大な弓矢は、放った主達向けて、その牙を突きたてようとしていた。要は、反射したのである。

 天神館サイドから悲鳴があがるが、百代は既に次のターゲットへと移っていた。

 

 

 □

 

 

 そんな百代の様子を椅子に腰かけた征士郎が、眺めている。

 

「歩く天災とはよく言ったものだ。あれでも、ヒュームから言わせれば、足りない所が多いというのだから、武の頂きとはかくも高き所にあるのだな」

 

 征士郎にしてみれば、百代に足りないのは、せいぜい精神的なものぐらいである。

 隣で立っている李も、その百代から目を離さない。こんなときでも、吸収できるものはしておきたいらしい。

 

「鍛えれば鍛えるほど、頂きが遠のく気がするほどです。百代も、そのことにいずれ気がつくことでしょう」

 

 どん、という地響きとともに、天神館の生徒たちが空中へと舞い上がる。それも一人や二人ではない、十の単位で起こっているのだ。

 

「究めようとすればするほど、己の未熟さを知るか……」

 

 そこで、李が征士郎へと呼びかける。新手が来ましたと。

 

「ほう。さすがに正面だけなく、別ルートからも人を送って来ていたか……だが、それもばれていては意味がない」

 

 任せる。征士郎はその一言を李へと告げる。

 李はそれに短く答えると、守備についていた生徒たちの配置を変える。それと同時に、守備隊にいた彦一が言霊を発動させた。それを聞いていた皆の雰囲気が変わる。

 

(言霊か……)

 

 征士郎は、昔に彦一より、お前の言葉にもそれが宿っている、と言われたことを思い出していた。もっとも、それはある一定のものに働きかけるだけであって、彦一のように、身体能力を上げたり、痛みを誤魔化したりと応用が利くものではなかったが。

 そして、姿を現した敵に対して、李自ら先制を行った。川神、天神、両生徒の間にふわりと降り立つと、両手を軽く動かす。その仕草は、まるで楽団を操る指揮者のようであった。美しい旋律を奏でる代わりに、無数の糸が敵へと絡みつく。

 李が右薬指で一本の糸を弾いた。5人の生徒が崩れ落ちる。左人差し指で弾く。7人の生徒が上空へと釣りあげられる。中指で同時に弾く。10人の生徒が武器を一斉に失う。

 あとは任せます。李は、守備にあたっていた生徒達に声をかけた。彼女はそのまま戦場から姿を消す。

 

「誰かいたのか?」

 

 10秒にも満たない間であったが、征士郎の傍からも離れていた李に問う。

 

「鉢屋と同じく、影から征士郎様を狙う輩がおりましたので、その始末を」

「何人だ?」

 

 7名です。李は答えた。2年よりも数が多いのは、質を量でカバーしようとしたのであろう。しかし、それにしても相手が悪かった。

 隠密を成し遂げるのは、技術も経験も、あまりに違いすぎたのだ。李にとって、そのような相手は、赤子の手を捻るよりも容易であった。

 それから間を置かずして、守備にあたっていた生徒から、敵の全滅を確認との報告が入る。

 百代の方も、あとは時間の問題であった。

 

「さて、マルギッテ……あとはお前が首をあげて、フィナーレだ」

 

 征士郎は、彼女らが向かった先に視線を向ける。

 

 

 ◇

 

 

 そのマルギッテは、視界に敵本陣を捉えていた。歩兵に加え、弓兵もしっかりと配置されている。敵は、予想以上に守備にも人数を割いていたようだ。

 どうします、とすぐ後ろを走る生徒の一人が、マルギッテへ声をかけた。

 

「皆、私の背だけを追いかけなさい! 本陣を駆け抜け、一気に大将を落としますッ!」

 

 応、と力強い返事のみを返してくる仲間に、マルギッテは笑みをこぼす。軍ほどの統率は図れないが、それでも満足のいくレベルであった。

 敵はすぐさま弓を引き始めた。あと数拍もせずうちに、放たれるであろう矢。しかし、後ろを走る川神の生徒達に怯える様子はない。

 そこへ横撃をしかける隊があった。虎子の率いる隊である。最短ルートを駆け抜けてきたらしい。それも、人数の限られた隊だからこその結果。にもかかわらず、マルギッテの率いる主力も僅差で迫っていたのだから、彼女の行軍スピードは並ではない。

 

「キルゼムオールッ!!」

 

 虎子が、縦横無尽に敵陣を駆け回る。彼女の派手な白い被り物は、遠目でもその位置をはっきりと知らせてくれるのだ。乱された敵弓隊に、迷いが生じていた。

飛び膝蹴り、ひじ打ち、素早い攻撃で手数を増やし、時に飛びはね、時に地に伏せ、虎子の予測不能の動きは、翔一を彷彿とさせる。

 マルギッテは、トンファーを握りしめる。

 

「さぁ、野兎狩りの始まりですッ!」

 

 目の前の相手を同時に3人仕留め、敵陣に風穴をあけた。そこから、板に釘を刺すかのように、一直線。敵大将へと進む、そのスピードが落ちることはない。

 それに合わせて、両サイドから弓が放たれた。敵ではない。

 

「確実に、一人一人狙っていくで候!」

 

 高所へと配置をとった弓子率いる弓隊であった。マルギッテの主力の最後尾から、敵が見えたところで別行動をとっていたのだ。

 降り注ぐ矢の雨が、マルギッテ隊によって、分かたれた左右の敵へと襲いかかる。

 

「貴方達は敵の背後より、展開し包囲しなさい! あとは、私一人で十分です!」

 

 敵陣を貫いたところで、主力部隊とマルギッテが別れた。

 そこで、マルギッテのスピードがさらに上がる。生徒たちの行軍に合わせていたためだ。

 敵大将の後ろには、数人の弓兵を備えていたらしい。マルギッテに向かって、矢が放たれた。しかし、それが彼女に当たることはない。トンファーで弾き、残ったものは紙一重で避ける。

 敵も大将を名乗るだけあり、武にそれなりの自信があるようだ。槍と下段に構え、迎撃するつもりらしい。

 面白い。マルギッテの笑みが深くなった。やれるものなら、やってみろとその表情が語っている。

 先に動いたのは、射程の広い敵大将。

 

「腕は悪くない。それでも――」

 

 マルギッテは、振るわれた槍を受け流すと、懐へもぐりこんだ。

 

「私の敵ではありません」

 

 既に攻撃を終えたマルギッテは、敵大将の背後を軽い足取りで歩いていた。数人の弓兵も、次が打たれる前に、弓子が仕留めたらしい。弓道部部長を背負うだけの実力はある。

 地に伏した敵大将を確認し、マルギッテが声をあげる。

 

「敵大将、マルギッテ・エーベルバッハが狩りました。決着だと知りなさい」

 

 奇しくも、大将を倒すという大金星をあげたのは、新しく加わった仲間であった。

 真っ先に勝鬨をあげたのは、まだまだ元気の有り余っている様子の虎子。それに続いて、川神学園の生徒たちが、喜びの声をあげる。

 有終の美と言って良い完勝。この勝利によって、東西交流戦の勝者は川神学園に決定した。

 

 




原作とは所々変えています。
Sでの3年総大将は百代だったのかな? 今頃になって、疑問が湧いた。
ちなみに、義経とか暴れたい項羽ちゃんとかは、本部で御留守番。

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