リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

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漢二人、選ぶ

「へえ、それにしても以外だね。君がガンプラを始めるだなんて」

「ん……ちょうど暇になったしな」

 

 初っ端から熾烈な挨拶を交わし合った二人だが、別段険悪という訳でもなく、基本的にはとても仲が良い。

 どちらかと言うと女性が多い、というより何故か女性ばかりの職場において、数少ない男子二人であるからだ。アースラの武装局員も男性ばかりだが、彼らと二人とは結構年が離れている。

 クロノにとって親密に付き合える年の近い友人といえば――それでも5歳ほど離れているが――この海鳴にはやはりユーノしかいないのだ。

 

「君がプラモデルを作るなんて、ほんとに想像付かないよ」

「仕事人間で悪かったな。そっちだって、なのはに呼ばれないと書庫の奥から出てこないのかと思ってた」

「クロノが毎日のように無茶を言うからだ! まだ所在確認もされてないような資料を請求するとか、あんまりだよ」

「無限書庫にはなんでもある、って目を輝かせてたのは君だろう?」

 

 こうして憎まれ口を叩き合うのだって、お互いの信頼と友好の度合いを表していることになる。

 もしこの場をクロノと長年コンビを組んでいるエイミィに解説させたなら、「クロノくんって、ああいうこと言うの私とユーノくんくらいなんだよ?」と自慢気に語るだろう。

 ユーノと同じ屋根の下で過ごしたなのはなど、「ユーノくん、私とお話するときとクロノくんとお話する時、ぜんぜん違うよね」とどこか不満気に口走るかもしれない。

 つまりはそれが二人の間にある、気のおけない男同士の関係なのであった。

 

「で、確か、なのはとフェイトもやっているみたいだが、どうなんだ?」

「なのはたち? ああ、それはもう、熱中してるよ。なのはなんか、僕が会う前からやってたみたいだし」

「で、君はその影響を受けた訳か」

「色々手伝ったよ。なのはが戦う度に壊してくるのを直したり、カラーリングも可愛く整えたりさ」

 

 クロノが思い浮かべたのは、毛並み整ったフェレットがミニサイズの筆を持ちながら、自分の半分程度の大きさの人型を丁寧に塗装している所だった。

 実際、ジュエルシード集めの傍らでユーノが従事していたお手伝いは、そういう作業だったのだろう。ユーノは元から手先が器用だし、フェレットになれば大きさの関係上、更に細やかなスケールで動くことが出来る。

 なのはとて誘導弾の精密動作や狙撃の腕前など、そういう器用さは一級品だが、ユーノの持つ学者肌特有の卓越した集中力には敵わないだろう。とクロノは考えていた。

 例えば、読書魔法を使って本の内容を頭に叩き込む場合、並みの人間では一冊で頭痛を催す。ところがユーノは、マルチタスクを使って数冊同時に読んだとしても、けろっとした表情でまたすぐに次の作業に取りかかれるのだ。

 記憶力もさながら、集中力も尋常ではない。きっと、何時間も掛ける作業だって苦にしないだろうな、と目の前の友人の年に似合わぬ有能さを想像し、感心していた。

 ただクロノもクロノで、スタンドアロンでの長時間の作戦行動に適応出来る程の体力と集中力を持っているから、十分並外れているといえるのだが。

 

「そうそう、はやてもやってるよ、というか、大分年季が入ってるみたい」

「それは知らなかったな」

 

 付け加えられた事実だが、クロノには妙に納得できた。今ではリハビリも大分進んでいるが、はやては長い間車椅子に座っていた。それでも両手は動かせて、プラモデルを作ることは出来る、ということだ。

 

「まあ、はやてはどっちかというと、ガンプラよりもガンダムの方が好きみたいだけどね」

「ああ、確かアニメだったか……随分、長続きしてるみたいだな」

 

 自分たちを取り囲む積み上げられたボール紙製のパッケージを見回し、その種類の多さに衝撃を受けながら、クロノは思わず口走った。

 これだけ沢山あるのならば、さぞかしアニメの方も長く続いているのだろうという発想だ。

 

「んー……僕らが生まれるずっと前のアニメだしね。ひょっとすると、新暦が始まる前に始まってるかもしれない」

 

 新暦、というのはミッドチルダを含めた管理世界の暦である。それが65年。対してガンダムが始まったのは、第2次ガンプラブームが謳われるこの時代からもう半世紀以上前の事になる。

 自分たちが所属する時空管理局が出来たのは、新暦が始まったちょうどその頃だ。多くの世界を管轄する巨大組織よりも長く続いているアニメーションがある。

 そう考えて、クロノはなにか妙な気分になった。

 

「なるほど、だからこその人気か」

 

 クロノは振り返って再びバトルスペースを覗いた。先程の対戦は既に終了していて、今度は別のガンプラがバトルフィールドの中で飛び回っている。そしてガンプラを操っているのも、さっきのように子供ではなく、いい年をした大人と青年であった。

 周りの観客も子供と大人が入り乱れていた。親子連れや家族もいるし、一人きりの女性の姿だってちらほら見かけられる。

 こういう風に、様々な人間がたったひとつの遊びに夢中になっている光景なんて、見たことがなかった。

 

「ね、クロノはどう言うの買いたいの?」

「どういうの、と言われてもな……僕は何も知らないんだ」

 

 ユーノに問いかけられ改めてガンプラの山を見渡してみても、何がなんだかさっぱりだ。

 手を積み上げられた箱の途中に滑らせて、とりあえず一つだけ抜き取ってみるものも、なんとなくパッケージの絵や文字を読み流すだけで、すぐに戻してしまう。

 それをただ傍観しているだけしかないユーノはどうにももどかしい。向こうは言わば目隠しをされて未開の砂漠に放り出されたようなもの、だというのは分かっているのだ。

 しかし場数を踏んだり慣れている人間にとって、今クロノがやっているように不器用な仕草はどうしても鼻についてしまうのだ。

 

「……とりあえずさ、なんとなく、でいいと思うよ」

「なんとなく?」

 

 その言葉尻に、クロノはきょとんとした表情で振り返った。

 さらに、だからなんとなく、とそのまま繰り返されたが、いまいち得心が行かない様子だ。

 

「いいのか? なんとなく、で」

「いいの! 大体ガンプラバトルなんて、出来たもののクオリティ次第だから」

 

 見かねたユーノは大声で、ガンプラならばなんでもいい、と語った。

 例えば戦艦とか、ミニチュアの兵士。更に作成できてバトルシステムに認証させられるなら巨大要塞だって構わない。ガンダムをモチーフにしたプラモデルなら、なんだって構わないのだ。

 だが、そう言われてもクロノにはまだ迷いが残っていた。いざ、なんとなく、という言葉を実行しようとしても、まるでフリーズでもしたかのように止まってしまう。

 

「……」

 

 クロノは今まで、なんとなく、を使ったことが無かった。

 幼い頃、まだ物心も付いていなかった時は、行動の全てが意図的でなく本能的だっただろう。

 しかし、少なくとも五歳で父親を亡くしてから、クロノは全てを自分で考え、決断してきた。管理局に入るのだって、士官学校の門を叩くのだって、自分の恩師を疑い取り調べるのだって、全部が全部自分が考えて行ったことだった。

 だから、なんとなく、なんて言われると困ってしまう。何も情報を与えられずに、ただ恣意的に物事を決めるというのは、14歳のクロノにとって全く未知の体験であった。

 

「あー、もう」

 

 ユーノは苛立たしげな目線でクロノを見つめた。普段はなのはたちを執務官として先導し、凛として自分の任務をこなすクロノが、今は只の模型屋で目を泳がせて右往左往している。

 その姿を情けない、とは考えなかったが、不甲斐ないというか、不器用だなこいつは、なんて思ってしまった。エイミィの気持ちが少しは分かるというものだ。

 

「なんだっていいじゃないか、遊びなんだから」

「遊び?」

「そう。ガンダムのこと、知らなくったっていいんだよ。ガンプラを選ぶ時は、あ、これかっこいいな、とか、そんなんでいいの」

 

 勿論、ガンプラを見て、モビルスーツの詳細とかパイロットの経歴とかを瞬時に思い浮かべ、それを鑑みた上での魅力というのはあるし、ユーノも自分のガンプラを選ぶ時は、多分にそれを念頭に置いたりする。

 だが、そんなのが無くたって、別段困ることはない。モビルスーツだのモビルアーマーだの名前は付いているが、それはとどのつまり、巨大なロボットが歩いたり飛んだりするものだ。そして男の子という人種なら、そういう光景を小難しい理屈抜きでも楽しめてしまうのだ。

 ユーノはそれを分かっていて、だから、クロノがどうしてプラモデル屋なんかに入っていったかも、なんとなくだが察していた。

 要するに、クロノ・ハラオウンだって立派な男の子、なのだと。

 

「む……」

 

 さて、困ったのはクロノである。まさか「なんとなくとはどうすればいいのか」なんてアホくさい問いを返すことはしないが、だがしかしどうすればいいか分からなかった。

 それでも、箱を抜き取る数と、速さが段々増していく。何が良くて、何が悪いか、何も知らないなりに手を動かし、義務感に押されてのたどたどしいポーズではなく、本格的に選ぼうとし始めた。

 箱絵と五秒程にらめっこした後、そっと棚に戻すことの繰り返しだった。赤や青、黄色で派手に飾られたロボットもあれば、暗い緑や漆黒、紫でいかにも悪役だったり、時には人型を逸脱しているものもある。

 あれこれ見回している内に、ガンプラを選ぶ自分なりの基準を思いつくことが出来た。

 

(モノアイ……は、ちょっと嫌だな)

 

 頭はモノアイとかバイザーより、ツインアイの方がいい、ということである。それは正しくなんとなく、自分のイメージや先入観ありきで出来た条件だった。

 一応、後々思い直せば、いつかの任務でモノアイを装備した機械と戦ったりしていたから、モノアイ=敵だと思っていた、なんて理由付けられる。しかしこの時のクロノは無我夢中で、正に何の理由も無しに、モノアイ機を候補から弾いたのだ。

 

(次に、なるべくバランスが良さそうで、ある程度汎用性があるのがいい)

 

 これには、クロノの管理局員としての戦闘スタイルや好みが反映されている。スタンドアロンで戦うのだから攻守ともにバランスに優れ、各任務に適応出来る装備がいい、ということだ。

 只、モビルスーツのバランスの良し悪しや汎用性の有無なんて、クロノにはてんで判断がつかない。これも、箱の横に書かれている僅かな紹介文か、イメージで決めるしか方法が無かった。

 デザイン的に各所が尖っていたりするのは、どうもそれっぽくない。製造理由や用途なんかも、そのまんま尖りきっている気がする。モビルアーマーなんかも性に合わない。どうせ動かすなら、腕と足のある人形を、魔導師として戦う自分らしく動かしてみたい。

 

 そんなことを考えながら取っ替え引っ替えしていく内に、クロノは周りのことなど目に入らなくなっていた。

 選ぶ手が止まらないのである。たまにこれだ、と思うものも見つかるのだが、種類が豊富なのだから、もっと自分に似合うもの、かっこいいものが見つかるのではないかと目を走らせてしまう。

 だから、そんな自分を生暖かく見守っているユーノの目線を感じる余裕も無かった。

 まるで氷が溶けていくように、目の前の黒い隣人のたどたどしい動きが段々早く、熱を含み始めたのを見て、ユーノは何か安心のような感情を抱いていた。

 クロノの瞳はいつも任務を行う時みたく、真剣そのものでありながらも、いつもと違ってその中で何かが輝いているように見えた。

 

(あのクロノが、あんな目をするんだなぁ)

 

 あの、という言葉には、今までユーノが見て、共に戦い、からかいあったりして友人になったクロノ・ハラオウンという人間へのイメージ全てが篭っている。

 年の割に、というか凄まじく大人びていて、自分よりずっと年上の人間にも臆さず立ち向かう。今まで出会った中で実直という言葉が一番似合っていて、彼の隣にいたら、時計を合わせるのには困らないだろうな、と思うくらいに規則正しい。

 そんな彼が今、普段の彼なら触れずに通り過ぎるはずのガンプラに、たかだか遊びに全精力を注いでいる。こんな姿は、もしかするとエイミィも、リンディすら見たことがないのかもしれない。そう思うといっそ録画くらいはしてみたいものだ。もしそうしたなら、顔を真赤に染めたクロノに即S2Uを展開され、鼻先に発射寸前の魔力弾を押し当てられるだろうが。

 

 やがて、一つの箱を持った途端、クロノの動きが止まった。今まで手にとったものとは明らかに違う。これだ、という引力が感じられた。箱絵を穴が空くほど見つめ、横に描かれている完成見本やテキストも、目に焼き付けるような勢いだ。

 

「よし、これだ」

 

 これしかない。このおもちゃ屋を隅から隅まで探しても、これほど自分にぴったりなガンプラもないだろう。そう、クロノは確信していた。

 

「やっと決まったんだ。ねえ、見せてよ」

「ああ、ほら」

 

 クロノは両手で箱を持ち、ユーノの前に差し出した。箱に描かれていたのは、V字アンテナとツインアイの、いかにも主役と言った顔をしているが、しかしそのカラーリングは派手なトリコロールではなく、目立つ白色やダークな黒でもない。

 青系でまとめられ、落ち着いたカラーリング。それは主役機というよりも、その脇を固める量産機のように思われてならなかった。

 それもそのはず。クロノが選んだ機体は間違いなくガンダムであったが、それと同時に量産型でもあった。

 『ガンダム』という、予算や時間を度外視して作られた特別な兵器に授けられる称号を持ちながら、『量産型』である理不尽なモビルスーツは多くない。

 

 その中でも恐らく一等有名な機体こそ、クロノの選んだ『量産型νガンダム』だった。

 

「量産型かぁ……やっぱり、クロノらしいや」

「らしいとはなんだ、らしいとは」

 

 ある意味不名誉とも受け取れる解釈に、クロノは反発した。

 弱冠14歳で執務官まで上り詰め、所持するデバイスの片方は技術を結集した特注品というクロノが、量産機らしいというのは偏見以外の何物でもないのである。

 ただ、管理外世界から生まれたエースや電瞬の速さを誇る金髪の少女、そして最後の夜天の主が側にいるユーノからすれば、クロノのような傑物ですら『量産型』に見えてしまうのだろうか。

 

「でも、やっぱりクロノらしくて、それがいいと思うよ」

 

 しかし、そうではなかった。

 ユーノの中で、『ガンダム』という強烈な個性を持ちながら『量産型』という箔をつけられて埋没するその機体が、優秀でありながら自らの功をひけらかすこと無く、あくまで一局員として全力を尽くすクロノのイメージと被ったのだ。

 だからこそユーノはこのチョイスを「クロノらしい」と称していた。

 

「……そうか。じゃあ、これにするか」

 

 そう決めて、箱を抱えてレジへ持っていくクロノの顔は、自分でも気づかない内にほんの少し、綻んでいた。

 

「作り方分かる? 僕が教えてあげよっか」

「そこまで君に世話を焼かれる心配はない。フェイトに教えてもらおう」

「そう。ま、この機会に仲良くしておけばいいんじゃない? いつもあんなにお硬くなってるんだしさ」

「仕事だからだ。家だともう少し柔らかくはしているさ」

「ホントかなぁ? クロノのことだし、寝る時も『今日は2200までに睡眠しろ』なんて言ってるのかと」

「……君な、僕を一体なんだと思ってるんだ」

 

 その後もとりとめない話に花を咲かせながら、間も開かずに行われるガンプラバトルを観戦したり、改造用パーツや武器セットを物色して回ったり。

 おおよそ10年ぶりに訪れたおもちゃ屋での出会いは、クロノにとって非常に有意義な休日の過ごし方であった。

 

 

 

 

 

 一日の街歩きを終えてクロノが帰ってきた時。片手に半透明のレジ袋を持っていたことは、ソファに座って婦人雑誌をのんびり読んでいたリンディに新鮮な驚きを与えた。

 実のところ、一日時間を潰してこいというのはちょっと酷だったかな、と考え直していたのだ。だが、クロノは母親の言いつけを破るような子ではないし、どうせ図書館にひっこもるか、何もせずにぶらぶらするだけで終わってしまう。それならまだ家で気楽にさせてやった方が良かったかもしれない。

 そんな風に、ちょっと反省していたのだから、外でクロノが何やら買ってくることは完全に予想外だった。

 衝動買いなんてしないだろうし、たかが街に出ただけで、お土産を買ってくるような機転は生じないはずだ。ならば、今クロノが持っている品物は正真正銘、彼が彼自身のために買ってきたものということになる。

 一体何を買ってきたのだろう。自分の子供のことなのだが、リンディには皆目検討が付かなかった。

 

「お兄ちゃん、おかえり。何買ってきたの?」

 

 気になるし確かめたいが、今更子供の私物に手を出すのはどうなのだろう、心中で迷うリンディ。その代わりに踏み出したのはフェイトであった。

 年が近いからか、こうやって踏み込むのにも抵抗はない。クロノもクロノで別に見せたくないということは無いらしく、素直にフェイトへ袋を差し出した。

 レジ袋を外したフェイトは、目を見開いて驚いた。そして、クロノの得意そうな顔と中身の品をニ、三度見返した後、呆気にとられたようにこう言った。

 

「お兄ちゃん……ガンプラ買ってきたの!?」

「そうだ。すまないが、プレゼントじゃないぞ? 僕が作るんだからな」

「お兄ちゃんが!?」

 

 フェイトも驚いたが、リンディも婦人雑誌を目線から降ろして思わずクロノを見つめていた。

 クロノ・ハラオウンがガンプラを作る。それは、クロノの周りにいる人間からすれば、天と地がひっくり返るくらいにありえないことだった。

 決して、偏見というわけではない。事実、ガンプラバトルに熱中し始めた頃のフェイトが、楽しいことを分けあいたいという理由で誘ったこともあった。だが、クロノは日々の勤務が忙しいし、趣味に時間を割く余裕は残念だがない、という理由で断ったのだ。

 フェイトはがっかりしたが、それと同時にどこまでも仕事一途な兄の姿を立派だな、と思った。だが今、そのクロノが自分からお金を出して、只のプラスチック製の玩具を買い求めたのである。驚くのは当たり前だった。

 

「……そんなに、意外だったかな?」

 

 母妹共に驚きを隠せず、しいんと静まり返ったリビングを見回して、そこまで反応されると思っていなかったクロノは戸惑うように言った。

 

「う、うん、お兄ちゃん……どうしたの、一体?」

「いや、な。折角の休みだし、時間を潰すような遊びを始めても、良いかもしれないと思ってな」

 

 そう言って穏やかな笑いを見せるクロノが、余りにも唐突かつ意外だったので、フェイトはその真意を察する余り、妙な方向に考えてしまい始めた。

 もしかして、お休みだからって、自分やなのはたちと話題なんかを合わせるために、無理にガンプラを始めたのではないだろうか、というのである。

 

「あの、お兄ちゃん。別に無理なんかしなくたっていいんだよ?」

「何言ってるんだ、無理はしてないさ、僕はただ――」

 

 だが、クロノがガンプラを手に取った理由はそれとは全く違う。

 クロノはそれを、勘違いをしているフェイトに対してそれを伝えようとしたが、どうにも上手く言葉に出来ない。迷って迷って、結局曖昧な表現を使い、話し始めた。

 

「ただ、このガンプラを手にとった時、フェイトと同じように感じたからだと思う。フェイトがいつもガンプラを買ってきて感じるような、そういう気持ちを」

「お兄ちゃん……」

 

 いつもクロノが使うような、明確ではっきりとした言葉ではなかった。しかし、それを聞いたフェイトはまるで黄色い花が開くように笑い、喜んだ。

 フェイトはガンプラが好きだった。そして、ガンプラを使ってなのはやアリサ、すずか、はやてと遊ぶのはもっと好きだった。

 だから、その輪の中に自分の兄が加わってくれるというのは、やっぱり嬉しい事だった。

 

「そこでだが、フェイト、すまないけど、僕に作り方を教えてくれないか」

「うん、うんっ! 一緒にやろう、お兄ちゃん!」

 

 さて、二人が工作器具のあるフェイトの部屋へと登っていって、残されたリンディは驚きっぱなしであると同時に、喜んでもいた。

 クロノ本人が朧げに感じていたように、リンディもまた、自分の息子には遊び心が足りない、と考えていたのだ。それでも別に生きていく上で大したことはないだろうが、仕事だけで余裕のない、という人間にはなって欲しくない。

 義妹との交流も、これを機に更に仲睦まじくなってくれれば喜ばしいものだ。

 と、なれば。クロノがガンプラという遊びを知ったのはいいことだが、問題はそれを継続してくれるかであった。

 いくら始めようとしても、それが5日間の休暇の間だけ、なら余りにも短すぎる。

 無論クロノがそういうやりっ放しを好む人間ではないことは分かっていたが、休暇の後に激務がやってきて、せっかく芽生えたのがそれに押し潰されてしまうなんてこともあり得るだろう。

 

(ちょっとお節介かもしれないけど)

 

 リンディは自分の携帯を取り出し、メールを打ち始めた。

 現代日本に対応し、マンションに住みながら周辺のママさんたちとコミュニケーションを取る上で大いに役立ってきた携帯電話が、今度は今起こった重大情報のリークのために動く。

 そのリーク先は、クロノの周りにいる子供の中で、最も噂好きであり、音頭取りの上手な女の子だ。

 

『……ということではやてさん、うちのクロノ、好きに使っちゃっていいわよ。面白おかしくしてもいいから、あの子の息抜きになるようなこと、お願いね』

『合点 承知。』

 

 

 本人の預り知らぬところで、この休暇の間、年下の仲間たちに散々振り回されることが確定したクロノであった。

 




いやはや、大分間が空いてしまいました。
もう忘れられてしまったのかもしれませんが、続きが書けたので投稿します。
したらしたでこういう、地味なお話になっちゃいましたが。

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