リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

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漢二人、決戦!(Ⅳ)

 バトルフィールドの中央に浮かぶ、隕石を模した宇宙要塞、その外見こそルナツーに似ているものの、大きさとしてはそれほどの物ではない。なにせ、二機だけの戦闘なのだ。余り広い空間を用意しても無駄になる。

 当然、要塞内部もそこまで複雑ではなく、中央に大きいスペースがあり、そこへの進入口として要塞上方と前方のハッチに繋がる細長い通路があるだけだ。少なくとも、クロノの前に表示されているマップにはそう表示されていた。

 

(仕掛けるとしたら)

 

 恐らくは真ん中の大部屋だろう、と言うのは分かりきっていた。兵装の大半を失ったνガンダムにとって閉所での接近戦がいくら有利だろうと、一方通行の通路内で真正面から斬りかかるのは無策に過ぎるというもの。恐らくもうひと押し、いや、ふた押しくらいはしてくるだろうとクロノは睨み、だから予断なく通路の周囲を見渡す。

 通路を進みながら、やはりまず警戒するのは遠隔操作のバズーカトラップだ。これは『逆襲のシャア』本編でアムロ・レイが行ったものだから、ホワイトデビルだなんて偽名を名乗るような人物ならば使ってこないわけがない。弾頭は散弾だろうが、それでも狭いこの場所では十分威力がある。更には食らった所への追撃も考えられるのだから、例え一発でも、当たる訳にはいかない。

 しかし、細い通路の中で、危惧していた面攻撃はついに来なかった。

 

(……やはり、一度に決着を付けたいのか)

 

 本来、散弾の利点を最大限に活かすためには出来るだけ狭い場所で襲撃する必要がある。言ってしまえば、クロノが通路を進む所に直接手持ちのバズーカを撃ちこんでしまっても、それなりにダメージを負わせることが出来るのだ。

 それをせず、ひたすらに待ち構える。その行動には、クロノがこうして要塞内に侵入した時と同じような心理が働いているように思えた。

 

「救われませんね、お互い」

 

 小さな囁きが、コンソールの中、クロノの耳だけに響いた。

 こんなこと、遊びでしかやれない。遊び以外でやったら職務怠慢だ。多分、向こうだってそう思っているのだろう。クロノにはそういう確信があった。

 量産型νA'sは、通路から大部屋に続く入り口付近で立ち止まる。何も起こらない。きっとあの部屋の中で、手ぐすね引いて待っているのだろう。

 暗く見えない室内の内部を想像する。手にワイヤーを握り、もう片手にはビームサーベルを持ったνガンダム。四角い部屋の何処にバズーカを備え付けているのだろうか。横、下、それとも真上。無重力空間なのだから、何処にも仕込みようはある。

 正直、予測しようがない。なら、何処から来てもいいようにするだけだ。愛機の右手にビームサーベルを持たせ、ライフルは腰にマウントする。もう片方のチャクラムをすぐに射出できるよう構えてから、クロノはコンソールを思い切り前に押し出した。

 

 ツインアイからの視界が広がり、モニタに映し出された。目を引くのは、ピンクに光るビームの瞬き。迷わずサーベルを横にすれば、そこに斬撃が来る。

 前方で斬りかかってくるνガンダム、予想通り。

 二機の鍔迫り合いはほぼ互角だ。右手だけの量産型νと同じく、νガンダムも片手持ち。ならば、もう片方、此方側から見て右側に伸びている手が持っているのは。

 

「切り裂けっ! チャクラム・インコム!」

 

 即座にチャクラムを射出。インコムの素早さを以ってビームの刃を自機の右方で振り回した。

 途端、爆風。

 ホワイトデビルが用意した遠隔のバズーカ・トラップが放った弾頭は、クロノの機体に散弾を撒き散らす――その前にチャクラムと衝突し、内部の炸薬を有効距離の遙か手前で炸裂させられた。

 

(防げた!)

 

 狭い室内。爆風に煽られ機体を流されながら、それでもこれで策を封じた。

 本命のバズーカは、鍔迫り合いの最中、互いの機体が完全に止まった時に使われる。クロノの予想通りだった。

 勿論、密着している最中に散弾で攻撃すれば、νガンダムもただでは済まないはずだ。しかし、そうしてでも自分にダメージを与えることが、ホワイトデビルの勝利への僅かな道筋である。恐らく、一度接近して損傷させさえすれば、後はビームサーベル一本だけでどうにかなる、という想定は必ずしも間違いではない。操縦技量では確かに、彼の方が一枚上手なのだから。

 しかし、クロノの量産型νA'sに傷はない。ただ、少しバランスを崩し、よろけただけだ。貴重な近接兵器であるチャクラムを失いはしたが、まだ大型バーニアの内の一つは無事だし、それでこの後全力離脱すれば要塞を出た後、また射撃戦に持ち込める。 

 

――これで、僕の勝ちだ!

 

 しかし、ホワイトデビルの「本命」は、散弾のバズーカなどではなかった。

 

「なにっ!?」

 

 熱源警報。右方から。

 振り向くとそこには、既に起動され、メガ粒子を射出する寸前のフィン・ファンネルが漂っていた。少し前の全力攻撃の中、ホワイトデビルが敢えて、残しておいた最後の一つだ。

 

「でも、そんなもの!」

 

 しかし、クロノはこれもきちんと計算に入れていた。というより、計算に入れるまでも無い。自分の機体の右腕には、ビーム兵器の全てを防ぐIフィールドの発振器があるのだから。

 即座にエネルギーを送り、システムを起動させる。120秒の冷却時間はとっくに過ぎているので、オーバーヒートすることもない。これで、フィン・ファンネルのビームは無力。

 しかし。

 

「ならば行け! フィン・ファンネル!」

「なっ!?」

 

 突然、コの字型から元の平板状に戻ったフィン・ファンネルが、猛スピードでクロノの機体に迫った。その余りにも想像外な攻撃へクロノはとっさに反撃できず、機体の腹部に直撃させられた。

 最も、メガ粒子のチャージを解除したそれ自体は何の変哲もない板なので、ぶつかった所で大したダメージにはならない。しかし、フィン・ファンネルはただのファンネルではなく、それ自体がAMBACユニット、つまり独自の推進力を持ったユニットだ。

 だから、クロノの機体を腹から猛然と押し込み、そのボディを近場の壁に激突させた。

 

 そのまま左右のブロックを折り曲げ、両側から万力のように腹部を押し潰そうとしていても、それはあながち不思議なことではなかった。

 

「馬鹿な、こんなことっ……!」

 

 その推進力、そして量産型νの腹部を挟んで離さない出力。恐らく、フィン・ファンネルの中でもこの一基だけは、この戦法を使う、そのためだけに特別にチューンナップされていたのだろう。そして、ホワイトデビルは最初から、このフィン・ファンネルでクロノのガンプラを真っ二つにブレイクするために、壁のあるここまでおびき寄せたのだ。

 クロノがインコムを全く別の兵器に作り変えたように。ホワイトデビルは、フィン・ファンネルを射撃武器ではなく、更に強烈な必殺技へと変貌させていた。

 その名は。

 

 

「これぞ必殺、フィン・ファンネル・ブリーカー……!」

 

 

 ニヤリとほくそ笑むような声が、スピーカーから響いた。

 

「く、そぉっ……」

 

 クロノの眼前には、幽鬼の如くサーベルを持ち佇む白い人型。そして、愛機の腹部を段々とひしゃげさせていく平板。どうにかしてその拘束から逃れようともがくが、ライフルは腰部の後ろにあって抜き取れず。サーベルで焼き切ろうにもここまで近寄られては、慎重に手を動かさないと自機の腹さえ切り刻んでしまう。そして、悠長に作業をしている暇はなかった。

 

「さぁ、止めだ!」

 

 絶体絶命のクロノ。さらにそこで、確実に決着を付けたいホワイトデビルはビームサーベルを振りかぶり、動けない量産型νA'sをその戒めごと真っ二つにしようと接近した。

 瞬間、クロノの脳裏に閃きが走る。

 

「まだだ! 僕は……勝つっ!」

 

 未だIフィールドを展開している右腕部を前に出し、手を開いてサーベルを待ち構える。Iフィールド・ハンドの名が表すように、フィールドの発振部分は掌だ。

 強力なミノフスキー粒子の力場に、サーベルを象るビームは拡散し。そして――

 

 

 要塞内部で、全てを吹き飛ばすかのような大爆発が巻き起こった。

 

 

「クロノさん!」

「クロノくんっ!」

「クロノ!」

 

 その様子を見ていた観客たちは、男女の別なく叫ぶ。自分たちの良き隣人であり、頼れる兄貴分であるクロノ・ハラオウンのガンプラ、その無事を祈って。アリサやザフィーラは歯を食いしばり、すずかもユーノもホワイトアウトしたモニタから目を離さない。なのはとはやては思わず、首に提げた待機形態のデバイスを握りしめた。

 

「お兄ちゃん……!」

 

 だが、その場の誰よりも痛ましい顔をしていたのはフェイトだ。瞑った目からは僅かな涙が溢れ、胸の前で組んだ両手を赤くなるくらいに握り締めている。それは、まるで目の前の何かに祈りを捧げているようにも見えた。

 クロノがガンプラバトルを初めて、それを一番喜んだのは彼女だ。今までもクロノは優しくよき兄だったが、いかんせんクロノに趣味や遊び心というものが無く、一緒に子供らしく遊んだことは殆ど無かった。それが、ガンプラバトルという一つの遊戯で触れ合い、共に遊べる関係になろうとしているのだ。

 そのガンプラバトルでクロノが戦い、絶体絶命の窮地の中でのこの爆発である。元々涙もろいフェイトが、目を赤くして泣き腫らすのも無理はないはずだ。

 

「ったく! まだ回復しないの!?」

 

 アリサが苛立たしげに叫ぶのは、爆発の光で真っ白に染まった観戦用のモニターが中々回復せず。ようやく戻ったかと思えば黒煙で何も見えなかったからである。それだけの大爆発が、要塞内部で巻き起こったのだ。現に要塞前方のハッチからは、黒い爆風が宙域へと流れ出ている。

 そのヒステリックな声に、抑えて、と引き止める者は誰も居なかった。皆声に出していないだけで、同じようなことを考えているのだろう。

 早く状況を確かめたい。クロノのガンプラはどうなったのか。ホワイトデビルは。

 

 そして、見たい。この、熱く激しいガンプラバトルの決着を。

 

「……あっ! 皆、あれ!」

 

 一番に気付いたのは、なのはだった。彼女が指をさした所は、要塞前部の侵入口。皆揃って、爆風渦巻くその一点へと目を向ける。

 

「量産型ν! 生きてたんだ! やったぁ、クロノ!」

 

 感極まったユーノが叫ぶ通り、爆風から出て来た機体はνガンダムではなく、黒と青に染まった量産型νガンダムであった。

 ただし、機体のあらゆる部分が損傷し、関節一つまともに動かせないまま脱力したように無重力の宙域を漂っている。その右腕は完全に消失し、両足もボロボロになっていた。

 

「なんて、酷い……」

「でも無事よ! クロノさんは勝ったのよ!」

 

 未だ健在なその姿を見たアリサはすずかの手を取り、今直ぐにでも踊りださんとするくらい喜んでいた。

 

「でも、どうしてあの状況から……」

「きっと、右腕を自爆させたんやな。ほら、Iフィールドの発振器があったやん? それでサーベルを受け止めた後、ビームの充満した中で無理やりIフィールドをオーバーロードさせたんや」

 

 なのはの疑問に答えるはやての予測は、その概ねが正しかった。

 あの時とっさにサーベルを掴んだクロノは、そのまま全ての出力をIフィールド・ハンドへと流した。すると、サーベルが負荷に耐え切れず爆発し、νガンダムの挙動に一瞬隙ができる。その時、同時に制御を失ったフィン・ファンネル・ブリーカーをボディから剥がし。お返しとばかりに切り離した右腕部をνのボディへ放り投げる。

 そして、マウントしてあったビームライフルを引き抜き、機能停止しながらも大量のエネルギーが充満している右腕へ全力の射撃を叩き込んだ。その結果がこの爆発と、ボロボロのType-A'sだ。

 

「……見事……!」

 

 ザフィーラはただ一言で、その健闘を讃えた。それしか言えないだろう。僅か5日間しかガンプラに触れていない漢の、この凄まじい戦いぶりには。

 

(……済まないな、僕のガンプラ)

 

 心の中で、クロノは自分の愛機に詫びる。あの時ブリーカーなどというふざけた攻撃手段に、例えばバルカンなどで対応できていれば。ここまで傷つかせずに勝利をもぎ取れたかもしれないからだ。だが、こうなったことに後悔はない。

 自分だけが要塞外に出る。この状況を達成する事こそ、クロノの描いた必勝への軌跡、その最終場面であるからだ。

 

――そう、まだ終わりではない。こんな所で終わるようなら「白い悪魔」らしくないじゃないか。

クロノがそう思った直後。スピーカーから、先程と変わらぬ老獪な笑いが聞こえてきた。

 

「……ふ、ふふ、ふははははは」

「なんやてっ!?」

 

 はやては驚く。いくらあのνガンダムでも。あんなに完成度の高いガンプラでも、あの爆発の中なら一溜まりもないはずなのに。

 いや、一溜まりもないはずであって欲しかった、と言うべきか。それほどまでに、ホワイトデビルの作ったガンプラは強力で――例えそれがプラフスキー粒子での再現であろうとも、クロノの精一杯を凌駕する。

 

「楽しい……いや、楽しませてもらった、だな」

 

 爆風の晴れた後。要塞の入り口付近に仁王立ちしたνガンダムが、灰色のビームライフルを構えて立っていた。

 

「あの爆発を耐えたっていうの……!?」

 

 アリサは衝撃に戦いた。しかしクロノのガンプラが曲がりなりにもまだ生きているのだし、それより完成度の高いホワイトデビルのガンプラが生きていようと、何も不思議ではない。

 それでも。

 傷つき倒れかけた量産型νを前に、同じく傷ついていようと五体満足で立ち、しかも敵方のライフルでもってとどめを刺そうとしているνガンダムを見れば、誰だって運命の非情さと残酷さを感じずにはいられないだろう。

 

「今度こそ、終わりだ……!」

 

 ライフルのチャージが始まる。

 もはやどんな悪あがきも出来ないよう、最大出力を直撃させる腹積もりだ。

 

「そんな……!」

「万事休すか……!」

「駄目ぇ! 逃げて、クロノくんっ!」

「お兄ちゃんっ!!」

 

 絶望的な状況に、観衆の全員が諦め、悲鳴を上げたが。

 

 

「クロノくん、やっちゃえ!!」

 

 

 ただひとつ、会館の入り口から響き渡る熱い声援。

 驚いた全員が振り向くと、そこにいるのは、茶色の短髪に、制服姿の少女。

 

 管制官に向けての実地研修から、超スピードで戻ってきたエイミィ・リミエッタがそこにいた。

 

 

「あんな奴、ふっ飛ばせー!!」

 

 

 そう懸命に叫んでくれるのを、状況も分からぬままの無知だと、誰もが思った。

 しかし、クロノはそう思わない。

 

 何故なら、彼はまだ負けてない。

 それどころか、この現状こそが、勝利への最終工程なのだ。

 いや。例え、そうでなくても。

 親しい女の子に応援されるのだから、無理でもなんでも、意地を通して勝ってやる。

 

 

 ――それが、漢というものだ。

 

 

「……っ! ちぃぃ!」

 

 ホワイトデビルの声に、突如余裕が無くなり、焦りと悔しさに塗れた舌打ちが発せられた。

 身動き取れぬ量産型νA'sに対し、いざ止めを刺さん、とライフルのトリガーを引こうとした、正にその時。ダウン状態から立ち直った量産型νA'sの右手が高く上がり、振り下ろされ。突然その周囲からビームの縄が飛び出し、νガンダムの全身を絡め取ったからだ。

 

「これは、一体……!?」

「ビーム・バリアーです」

 

 それは、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の最終幕。連邦政府中央閣僚会議の開催地であるアデレードを襲撃したRX-105Ξガンダムが巻き込まれ、機能停止に追い込まれた施設防衛用の装置だった。

 しかし、どうしてこんなものが、このバトルに。ホワイトデビルは驚愕を隠せないまま言葉を紡ぎ、クロノに対して問いただした。

 

「馬鹿な……どうして、こんなにもピンポイントな展開を!」

「元々、量産型νガンダムにもファンネルはあったんですよ」

 

 まさか、と気づいたように呟いたのは、ホワイトデビルの経験の賜物だったろう。

 量産型νガンダムの腰部。鈴なりに連なっていた六角形状のパーツが、いつの間にやら姿を消していた。そして、今ビームバリアーの発振器となっているのは、その小型パーツなのだ。

 更にこれは、その一つ一つが遠隔で操作出来る、言わばファンネルと同型の兵器――名付けるならば、バインド・ファンネル――だった。だから、要塞内での戦闘中に今後の展開を予測したクロノは、突入前に切り離したファンネルを要塞手前のハッチに張り付かせ。

 爆風で吹き飛んた自機を追ってくる、νガンダムを捕らえようとして、そして成功した。

 

「お兄ちゃん……これは、お兄ちゃんの!」

 

 言葉もなく、一連の逆転劇を目にしていたフェイトは、はっと気づいた。

 これは、魔導師クロノ・ハラオウンの戦術だ。敵を追い込み、バインドして自由を奪うテクニカルな戦い方は、フェイトを見惚れさせる。

 今まで敵に突っ込み、無謀を物ともしないパワフルな戦闘を見せてきてくれたクロノは、とてもかっこ良かったし、凄くクロノらしかったけれど。

 フェイトの今まで見知っていたクロノ・ハラオウンの後ろ姿は、やっぱり、この周到でクールな戦闘スタイルだった。

 

(結局、こういうやり方しか出来ないのかな、僕は)

 

 本人は内心、こう考えて苦笑いをしていたが。

 フェイトからしてみれば、これだって。

 頼れて、かっこ良くて、そして強い、お兄ちゃんらしさだった。

 

「ふふん、流石はクロノくんだ! ……ね、フェイトちゃん!」

 

 エイミィがフェイトに向かって、サムズアップする。

 

「……はい、エイミィさん!」

 

 それを見て、フェイトは涙を拭い、陰り一つ無い笑顔を見せた。

 

「いよっしゃあ! これで形勢逆転や!」

「行っけぇ、クロノくん!」

 

 彼女たちに続き、沸き立つ観客たち。その声援は数こそ少なくとも、会館全体を揺らすくらいに大きく膨れ上がりつつあった。

 

「……しかし! まだ終わらん!」

 

 しかし、ホワイトデビルも未だ倒れない。

 ビームバリアーに動きを大きく阻まれつつも、懸命にライフルを構え、再びクロノのガンプラへ狙いを付けようとしていた。

 

「今の君に、私を倒すほどの武器はない……!」

「確かに、その通り」

 

 苦しげながらホワイトデビルが述べた事実に、クロノは同意する。今のクロノには手持ち武器が殆ど無い。唯一サーベルこそ残存しているものの、それを持ち、起動させてνへ近づくエネルギーはもはや残っていないだろう。

 

「でも、まだ僕には『切り札』がある!」

「なに!?」

 

 その言葉と同時に、クロノはコンソールに設定した、最後にして最強の武装を呼び出す。EXウェポンとして登録されているそれは、一機のMSが持つには過剰なほどの威力であり、勿論今の量産型νA'sの残存エネルギーではその出力を補えない。

 しかし、それでも構わない。いや、それでも放つことが出来る。

 あれは本来、クロノのものではなく。彼の大切な友から託されたものだから。

 

「来い!」

 

 叫びと同時に、虚空から舞い降りる物体が一つ。以前に量産型νA'sの背部から投棄された、背中の細長い四角柱だ。自立稼働するそれは、プロペラント・タンクなどではなく。ある武装を搭載した、コンテナのようなユニットだったのだ。

 四角柱を愛機の左手に持たせれば、クロノは再びコンソールを操作し、隠し通してきた武装を解放した。角ばった外壁が二つに別れ、バラバラに吹き飛ぶ。

 そこから現れたのは、長い銃身を持つライフル。しかし、その砲口は太く作りなおされており、根本には三角形の白い動力炉――GNドライブが直付されてあった。

 発射の衝撃を抑えるため、機体の腰部にそれをドッキングさせ、圧縮粒子を解放し砲塔を赤く染めながら、叫ぶ名前に一撃必殺の意を込める。

 

 

「GNインパクト・キャノン!」

 

 

 そう。これは、GNスナイパーライフルⅡの出力を増強し、ケルディムのGNドライブを直接接続した大砲であり。ユーノ・スクライアのケルディムから、パーツを受け取って製作したものだった。

 

「じ、GNドライブを直接……!?」

「Holly Shit! ぬぁぁぁんて、インチキよっ!?」

 

 この超弩級のトンデモ兵器に、すずかとアリサは揃って突っ込むが。

 はやてはそれを受け流すように言ってのけた。

 

「インチキやない! ガンプラは自由や! オリジナルのGNドライブをたった一つの兵器に直付しても、なんもおかしくはあらへんて!」

 

 その言葉の意味する通り。正真正銘の必殺砲から放たれるエネルギー量は、νガンダムを消し飛ばした後、背後の要塞を諸共吹き飛ばすのに十分すぎるほどだった。

 

「な、なんと……!」

 

 だから、ホワイトデビルはライフルでの狙撃を諦める。あのエネルギーになけなしのビームを撃ち込んだ所で、今更結果が変わることはない。

 その代わりに、バリアーの干渉を力づくで振り切りながら、両腕を前に出し、開いた手を祈るように組み合わせた。

 

 

「こいつで撃ち抜く……ファイアッ!!」

「ぬおおおおおおおおおおっ!」

 

 

 クロノとホワイトデビル。全力を賭けた両者の叫び。

 そして、紫と黒に染まった粒子砲は撃ち出され。νガンダムと、そして後背の要塞を諸共に巻き込み、全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして。

 

 

 破壊された要塞の破片が、何もなかった宇宙空間に乱れ飛ぶ。

 

 その最中、量産型νガンダムType-A'sは吹き飛ばず、確かに存在していたが。

 

 腰部のキャノンは砲撃諸共消し飛び。

 全身の装甲が熱で融解し。

 

 ――その腹部には、がっちりと組まれたνガンダムの両拳が、深々と撃ち込まれていた。

 

「僕の負け、か……」

 

 力なく点滅する、量産型νのツインアイ。

 操縦不能を示すコンソールを見て、クロノは何処かすっきりとした表情で現状を認識したが。

 

「いや」

 

 一方、両腕を発射したポーズのまま、砲撃で下半身を失い宙に漂うνガンダムは。

 

「君の、勝ちだ……!」

 

 プラフスキー粒子で構成されたボディが戦闘の負担に耐え切れず、段々と白い光に変わり果て。

 やがて、一夜の夢の幻のように、バトルフィールドから消えていった。

 

 

 

 

『Battle Ended』

 

 

 

 

 ――漢の戦い。その勝者は、最後に立っていた者である。

 

 

 

 




次回、「漢たちのガンプラ」、最終回です。
あ、活動報告のZZも良かったら見てつかぁさい

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