リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

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注意:実際にやらないで下さい。


漢二人、特訓!

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 その日の夜。

 海鳴の閑静な住宅街に位置する八神家では、一人の少女の悲鳴が上がっていた。その声の主は八神はやて。とある魔導書や守護騎士と共に平穏な日常を過ごす最後の夜天の主だ。

 そんな彼女の悲鳴とあらば、頼もしい騎士たちが瞬く間に駆けつけて、その元凶を成敗するのが当たり前だが。なぜだか今回は叫ばせるままで、ヴィータもシグナムも、それからリインフォースも、傍観者として渋い顔をしながらただ目の前の状況を見守るしか無かった。

 

「い……いややぁ、そんなん……あかんてぇ……」

 

 少女の小さな体躯は、青と緑のバインドでリビングのど真ん中に吊り下げられている。きつく縛られたバインドはいくらあがいても解かれる事なく、まるでミノムシのような見苦しさを見る人に感じさせてしまう。

 

「……あかんよぉ、そんなの、入らんからぁ……!」

 

 涙目になったはやてが見つめるのは、極太の肉の棒。

 熱く煮えたぎったそれがはやての目の前に突き出されると、その顔は恐怖と絶望に歪み、口は固く閉ざされる。

 

「……強引な口だな。無理矢理開けてやろうか、ユーノくん?」

「う、うん、そうだね、クロノくん……」

 

 彼女を辱めている黒と緑、一人はこれ以上ないほどの怒りで笑い、もう一人は怯えながらも暗い復讐の喜びに笑っていた。

 クロノの右手に、一本の草が握られた、その長い穂はブラシのように独特、その重みが茎を垂れさせている。イネ科エノコログサ属エノコログサ、学名はSetaria viridis。通称猫じゃらしであり、この残酷な拷問における決戦兵器であった。

 

「あ、あかん! それは、それは流石に南極条約違反や!」

「……僕らに星の屑並みのテロを起こした、君が言うセリフかな?」

「見ろ。周りのレフェリーもストップを掛けてない。ノーサイドは……無いとはいわんが、まだ先のことだろう」

「ひっ……! む、むぐぅぅっ! んぅぅ! んぅぅ!」

 

 その緑の穂先を見た途端、必死に口を閉じながら、それだけはよして、とばかりに顔を横に向けて抵抗するはやて。しかし、クロノはもうひとつ魔法を展開し、その首を真っ直ぐ向け直させた。その魔法というのが、設置型の氷結弾頭なのだから、彼の怒りの深さが窺い知れるというものだ。

 

「ん……んっ……」

 

 無理矢理正面を向かされたはやてが思わず涙ぐもうとも、クロノの手は震え一つなしに猫じゃらしをはやての顔へくっつけ――その鼻孔を丁寧にくすぐった。

 

「んぅぅ、ん、んむぅぅぅぅっ! ん! ん!」

 

 はやての喉がひくつき、顎の筋肉がそれを必死で抑える。ここで口を開けてはならない。そうなったら、もうはやての身体は終わりだ。あんな太くて熱いものを突っ込まれたら。

 しかし、顔を赤くしたり青くしたりしながら続いたその健闘も虚しく。

 ぶはあっ、と女の子らしくない吐息とともに口が開かれた、その直後。

 

 

 ぐつぐつ煮えている汁で暖められた、太いウィンナーがはやての口腔に滑り込んだ。

 

「むぐっ……だぁっづ! あづ、あづ、あづぅぅぅぅっ!」

 

 乙女の絶叫響き渡り、一筋の涙が溢れて地面に堕ちた。

 

 ちなみにこのおしおきに使われた激熱『関東だき』は、そのまま八神家の夕食になりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで私まだ、縛られたままなん?」

「当然じゃないか。それよりほら、口を開けろ」

「……今度は、ちゃんと普通の温度なんやな?」

「あぁ。もう『ごめんなさい』は嫌というほど聞いたからな」

 

 八神家の面々とクロノ・ユーノが和気あいあいと『関東だき』の具を取り合っている中。デバイスで脅され涙目になりながら止む無くそれを調理した当の本人は、今だ反省のために吊り下げられたままであった。

 もちろん、一人だけ空腹のまま放っておく訳にも行かない。その内一人が席から離れて、ちゃんと熱すぎない具の数々を食べさせてあげていた。はやて大好きな騎士たちと魔導書の間で、その番を決めるジャンケンが白熱したのは言うまでもない。

 で、今回は適当にパーを出したクロノが全員に勝ち、羨ましそうな目線を受けながら、はやての口へがんもどきを差し出してやる。

 ぱくり、と食いついたはやては、なんとも言えない喜びを噛み締めているかのようだった。

 

「なんで嬉しそうなんだ?」

「いやぁ、状況はどうあれ、年上の美少年にあーんしてもろうてるからなぁ。でれでれやぁ」

「……反省が足りないようだ。ユーノ、最大火力で加熱しろ、今度は大根と卵」

「オーライ」

「あかーんっ!」

 

 と、そういう冗談交じりだが危なっかしいやりとりも含めて、全員がお腹いっぱいになった時はもう夜も八時を過ぎていた。

 

 クロノとユーノが、初のガンプラバトルで突然の乱入者に敗北したのは午後三時頃。それから急いで海鳴に戻り、四時きっかりに二人揃って、事の張本人が立てこもる八神家へと襲撃をかけた。

 はやてもそうなることは承知していて、騎士たちに頼んで迎撃用意を整えていたのだが。クロノによる事前の根回し――という名のタレコミ――により、騎士も魔導書も一斉に寝返り、いよいよ窮地に追い詰められたはやては哀れリビングの蓑虫と化した。というのが、この下らない罰と珍妙な夕食の顛末である。

 無論「熱々関東炊き」といういかにも幼稚な罰以外に、ちゃんと長い長い説教はしたし、それで後はもう許してやろう、というのがクロノの出した結論だった。所詮はガンプラバトル。遊びについてのことである。下手な騒ぎにする必要もあるまい。

 というか、実際心の奥でいいように使われていた憤りを持つユーノや、傍から見ていてやり過ぎだと思っていたというシャマルに乗せられ、これは流石に悪乗りしすぎたな、と反省してもいた。

 

「で、本当なんだろうな? ……『プラフスキー粒子を使ったガンプラの複製、及び遠隔操作でのガンプラバトルの実験』というのは」

「うん、マジもマジ、マジもんや。ほら、リインフォース。あの書類クロノに見せてあげて?」

 

 承知しました、と歩き出したリインフォースが、書類を纏めたバインダーからいそいそと取り出してきた書類には、現在ガンプラバトル事業を一手に引き受けているヤジマ商事のマークが描かれている。見ると、確かに公式で使われている書類のようだ。

 そこには計画に使われる特殊な操作機械の概要と、実験の概要が書かれていた。この世界に存在するどんなバトルシステムでも適用できることを証明するため、この実地テストは無作為に選ばれたバトルシステムにて行われる。その内の一つが、海鳴の小ホテルにぽつんと備え付けてあったバトルシステムである、ということだ。

 世界中の内、海鳴が選ばれたのが無作為である、という点には大いに疑問を抱きたいが。とにかくあのバトルシステムに、幽霊のようなνガンダムが現れたことにはこれで納得がいく。

 だが、それにしてもどうして、クロノのような初心者を相手に選ばなければならなかったのか。これにも、一応の理屈はあった。

 

「このバトルにおいては、突然バトルフィールド上にガンプラが現れた時の対戦者側の反応、それを知るためにも、ガンプラバトルに慣れていない人間を対戦相手として選ぶ事が望まれる……か」

 

 ヤジマ商事と八神家に、どういうコネがあったかはとんと分からない。恐らく、バニングスや月村も一枚噛んでいるのだろう。

 とにかく、ガンプラビルダーとしてもファイターとしても、経験豊富な八神はやてがその協力者に立候補し。丁度、ガンプラバトルやガンプラと一番縁が遠いクロノがガンプラを始めたとリンディに聞かされ、一石二鳥とばかりに被験者として送り出した。

 というのが、この奇妙で不可解な事件の顛末であるようだった。

 

「……なるほどな。だが、どうして僕に……せめて、ユーノに知らせなかったんだ?」

 

 謎めいた態度を取ってこの事実を隠し通したのが、ク衝撃的な出会いを演出したかったからで、それも一応はクロノのためだというのは分かっている。だから、クロノとしてはまず自分に言えと言いたいのをぐっと抑え、妥協案で持って窘めようとしたのだが。

 

「えーと、それはぁ……堪忍して?」

 

 なんて可愛らしい顔を作りながらのたもうたので、クロノはパチン、と指を鳴らした。すると、S2Uの待機形態が命令を受け取り、はやての身体に絡みつく戒めをよりきつく締め付けた。

 

「あだだだっ」

「解ってるんだぞ。僕にホワイトデビルの正体を、どうしても知られたくなかったんだろ?」

「流石執務官、よぉくご存知やぁ……」

 

 すっかり上手を取られて、しゅんと沈み込みながら反省するはやて。その表情の中に、誰かに対して詫びる申し訳無さを読み取ったので、思い切り頭を抱えながら、青いバインドを解いてやる。それを見たシグナムが今後の展開を予期して、ぶら下がるはやての側に近寄り両手を伸ばし。最後にユーノが残りのバインドをかき消して、ようやくはやては自由の身になり、シグナムの両腕へとすん、と落っこちた。

 

「……あれ? 聞かへんの、あの人のこと?」

「まあな。はやて、君としても必死だったんだろう。フェイトを僕から遠ざけ、ユーノにまで知らせず彼処まで誘導した手腕は大したものさ。だが、君は少々やり過ぎた。許可を取っているからいいものの、傍目から見れば、遊びから大分飛び越しかけてる」

「ご、ごめんなさい……」

「だけど、そこに対して深く反省しているなら、僕はもう何も言わない。君の裏にいる誰かのことも、今は聞かないでおいてあげよう」

 

 そう聞かされた瞬間、目の上の暗雲が晴れたようにぱぁっと喜んでいるのだから。それくらい一生懸命になっている娘へ、とどめを刺すのは忍びないというものだ。

 その気遣いこそ、「年上のお兄さん」の役割なのだし。

 なんて、ちょっとだけえばったような感情を心の中で転がしているクロノだが、更に一つ、ホワイトデビルの正体を突き止めない、いや、突き止めたくない大きな理由があった。

 

「それに……どうせなら、勝って聞かせてもらおうじゃないか」

 

 昼間の対戦で呆気無く叩きのめされたクロノは、彼と彼のνガンダムに対するリベンジマッチを強く望んでいたのである。だから、例えはやてが黒幕だったとしても、その更に裏を暴くつもりは最初から無かったのだ。無論、はやて自身への処分は別途行うのが前提だが。

 

「で、私はその仲介を行えと」

「ここまで好き勝手使われてやったんだ。今更そんな無理は効かないとか言うのはナシだぞ」

「分かってます! 大丈夫、ちゃんと最初から、クロノくんの休暇最終日の夕方に再実験の日時をセットアップしとる」

 

 ぺらり、とバインダーの中から新たに取り出された用紙。そこには追加実験の了承を記す報告書と、日時、場所についての細やかな指定が記されてあった。

 全く、やることなすこと隙がない。半ば呆れながら、クロノは内心で感謝もしていた。あれだけ堂々と再戦宣言をしていて、二度と会えませんでした、では尻切れトンボも良いところだ。

 

「で、これは私からのお詫びなんやけど……」

 

 シグナムの腕から降りたはやてに、二階へと誘われる。手のなる方へとついていったクロノは、はやての自室にでん、と鎮座しているバトルシステムを見つけた。

 その他にも、エアブラシや様々な網目の紙やすり、更にニッパーなどが満載されている工具箱。クロノも、この部屋に誘われたことは今までにも何回かあるが、いつみても女子小学生の部屋とは思えない。プロのモデラーが居座っていると聞いても納得しそうな工作室だった。

 

「ここにあるもの全部、好きなだけ使ってええから! バトルシステムもあるし、ガンプラが出来上がったらすぐ特訓も出来る。 どや? ええとこやと思うけど」

 

 確かに、ガンプラの特訓場としては理想的に近い環境だ。いや、だからこそ。

 

「……これも、最初からそのつもりだったんだろう?」

「あはは、お見通しかぁ。まぁでも更に追加して……ザフィーラ!」

 

 はやてが呼ぶと、部屋の周りで待機していた騎士たちの中から、青い狼が進み出る。そして、青白い光をその身に纏い、獣の姿を人の形へと変貌させた。守護獣ザフィーラの、人間形態である。筋骨隆々の偉丈夫が、インドアモデラーの雰囲気漂う部屋にはなんとも不釣り合いだった。

 

「なんなりと」

「クロノくんの特訓相手、お願いできる?」

「畏まりました。では、我が拳と我がガンプラにて、クロノ執務官のお相手をさせて頂きます」

 

 クロノの方へ振り向き、一段高い目線から見つめるザフィーラ。その双眸を、クロノはしっかと見つめ返した。

 

「あぁ、宜しく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメージレベルがBに抑えられていた事、そして、修理の音頭をベテランのはやてが取ったこともあってか、量産型νの修理自体は比較的短時間で終了した。そして今、バトルシステムの上に、再びその勇姿を蘇らせている。

 

「よし、行くぞザフィーラ!」

 

 コンソールを握りつつクロノが叫べば、ザフィーラも真っ向から応じた。今回、ダメージレベルはC。どんなに機体を傷つけようとも、試合後のガンプラ本体には傷一つつかない。だから二人とも、思う存分愛機を戦わせられるのだ。

 

「存分にかかってきてください、執務官」

 

 ヴォルケンリッターの中ではザフィーラが一番、遊びや趣味というイメージからは縁遠い。しかし、はやての言うことには、格闘戦に限ればシグナム・ヴィータを押しのけて、八神家ガンプラバトル番付の上位を誇っているようだ。

 ちなみに、これまた意外なことにバトル中のシグナムは射撃戦を好み、ヴィータは弾幕による制圧戦、シャマルなどは大火力による殲滅戦を嗜むという。ちなみに、まだガンプラの経験浅いリィンフォースはバランス型だが、タッグバトル時のコンビネーション等で群を抜いているらしい。

 彼らが戦闘に使う古代ベルカ魔法の質実剛健な戦闘スタイルと、ガンプラバトルの作法はかなり異なっている。ただザフィーラだけが、魔導でもガンプラでも、純粋な接近戦のスタイルを貫いているようだった。

 量産型νのレーダーに敵影が映る。特徴的な緑色の機体を見つけて、クロノは呆気にとられた。

 

「その機体は!?」

「これが私の愛機です」

 

 ザフィーラが持ち出してきた機体は、MS-06ザクⅡ。しかも、マシンガンやバズーカだけでなくクラッカーやミサイルポッド、マゼラトップ砲、そしてヒートホークすら携行していない裸一貫、丸腰のザクだった。

 その潔さに度肝を抜かれたクロノだったが、慌てて気合を入れ直す。ザクだからって舐めてはいけない。あのザフィーラが、訓練だからといって手を抜いてくるはずはないのだ。

 

「……よし、先手を取る!」

 

 まずはライフルを三連射。当たり前のように回避され、しかもステップ移動で近づかれるが、これは単なる牽制であり、本命はそこからの連携だ。

 ザクとはいえ、丸腰だからか流石に機動性は高く、両機の間の距離は瞬く間に詰められていく。ついにクロスレンジの間合いまで辿り着いたザクが、思い切り拳を振りかぶったその時。

 上空から降り注いだ二つのビームが、その動きを鈍らせた。

 

「もらった!」

 

 その隙を逃さないように、サーベルを大上段から振りかぶって、下ろす。当然、ザクの身体は真っ二つに切り裂かれる――はずだったのだが。

 

「たぁぁっ!」

「何……ビームを素手で!?」

 

 その刹那、ザクⅡの両手がピタリとサーベルを抑え、振り下ろす力に対し押し返していた。所謂真剣白刃取りであるが、この場合取る刃がビームである。ただのザクⅡにIフィールドでも搭載されているのか。

 いや、違う。クロノがそれに気づいたのは、白刃取っている両手が、微かに眩く光っているのを見つけたからだ。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し……そう、心頭滅却すれば、ビームもまた! 涼し!」

 

 冷静に考えれば意味の分からない言葉だが、その叫びの轟きからは、理屈を超えたどうしようもない説得力が滲みでて、常識を侵食していくようだ。両手に光る黄金の輝きが増し、それに押されてビームの刃は段々と薄れて、そして完全に霧消した。

 

「なっ!」

「さあ、執務官。これぞ、我が『魂の拳』なり……いざ!」

 

 獣の咆哮に似た掛け声とともに、ザクの手に輝く金色が、全身へと伝播していく。本来、エネルギーマルチプライヤーなどの機能を持っていないザクには起こり得ないはずの現象。しかしプラフスキー粒子は、それをさも当然のように具現化し、ガンプラに力を与えていく。

 

――かつて、民草を殺した罪に耐えられず、戦争から逃げ出した男。人殺しの罰を、たった一人の背中に背負い、後に残った子供たちを命に代えて守り続けてきた男。

 

――この機体は、そんな彼が守るために使った力であり、血の匂いに塗れた『戦争』そのもの。しかしそのモノアイには濁り一つ無く、武器を持たぬ手には不思議と強靭な力が宿っていた。

 

――戦争の匂いが敵を引きつける。その言葉によって海に沈められた『ザク』は。暗い暗い海の底で、それでも己が乗り手と、共に暮らす子供たちの未来を祈っているに違いない――

 

「モビルスーツの格闘技というものを……ご覧頂こう! だぁぁぁっ!」

 

 金色に輝くザクⅡ。いや、守るための『魂の拳』に目覚めたザクⅡ・スーパーモードは、バトルフィールドの大地すら震わせる程の闘気を纏い、改めて、眼前に立ちはだかるガンダムに対して戦闘態勢を取った。

 まるでデタラメだ、と思う。あれほど気迫の篭った敵へ、果たして自分の格闘戦が通じるのか? 答えはNOだ。だからと言って、この間合から逃させてくれるかというと――

 

「む、させん!」

「ちぃっ!」

 

 その答えも、やはりNOだった。バーニアで思い切り飛び上がり、携行していたバズーカを構えて発射した所。何処からともなく取り出された大石によって、その弾頭が撃ち落とされたのだ。

 続いて二回三回と、猛スピードで迫る岩。冗談のような光景だが、迫り来る大質量を回避しなければ、逆にこちらがぺしゃんこに潰され、撃ち落とされてしまう。

 結局クロノに出来ることは、これ以上の連投を阻止するため、こちらも向こうの間合いに入って、格闘戦を決意することだけだった。

 

「……ふ」

 

 これは、負けかな。と判断できる。恐らく、ああなる前にザクを破壊することこそが最善手だった。狙撃などを行わずに正々堂々と接近戦で挑んだのは、横から見ればあるいは阿呆らしいことだったかもしれない。

 だが、むしろ今は、これでいい。あのνガンダムは、きっとこのザクと同じくらい、いやそれ以上に強いのだから。接近戦でも、そして射撃戦でも。だから今は何も考えずに挑み、負けて、倒れて、また立ち上がればいい。

 そういう休まぬ鍛錬の繰り返しこそが、強さへの一番の近道なのだ。

 

「行くぞっ!」

「応っ!」

 

 

 

 結局、その日クロノがハラオウン家に帰り着いたのは、日付が変わる直前だった。

 

 

 




さてさて、クロノくん猛特訓の始まりです。

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