リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

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漢二人、接敵!

「よし、一先ず着地成功だ」

 

 大地に立つ、クロノのガンプラ。途中で高度を下げすぎて木に引っかかることもなく、危なげない機動で平地に着地する事ができた。

 続いてユーノのガンプラも大地に立つ、ことはなく、クロノの後ろで宙に浮いていた。GNドライブの大出力による空中飛行だ。

 

「操作は昨日、予習してきたんだっけ」

「あぁ。マニュアルにはきっちり目を通すのが基本だろう」

 

 心配するな、と言わんばかりにクロノはコンソールを動かし、量産型νを前後左右に歩かせた。ガンプラバトルシステムの操作系統は既存のガンダム作品やこれまでに出たガンダムゲームを参考に、シンプルかつ分かりやすく組み立てられている。とは言えある程度の習熟は必要なようで、昨日クロノが通ったホビーショップにパンフレット式の説明書があった。

 それを予め読み込んでいるのは、真面目なクロノのらしさというべきだろう。

 

「そっか、じゃあバーニアも吹かせるし、武器も展開できる……ってことでいい?」

「問題ないさ」

「オーケー。それじゃあ行ってみようか」

 

 ユーノが不敵に笑うと、バトルフィールドの奥から突然、緑色の機体が現れた。その反応を敵機と判断したクロノのインターフェイスが警告を発し、視覚情報から拡大してその全容を見せる。

 

「……なんだ? この不細工なずんぐりむっくりは?」

「シミュレーション用の敵機、ハイモックさ。いかにも雑魚っぽくて、いいでしょ」

 

 その言葉にクロノも同意する。これでリ・ガズィやジェガン辺りが出て来たらなんとも同軍戦のようで戦いにくいが、ああいう機体なら敵として相手取ることだけに集中できる。これを考えだした人は、ガンダムファンの心理を良く分かっているのだろう。

 

「まずはアレを撃墜して!」

「了解!」

 

 明瞭な返事の後、クロノは覚えた動作を一つ一つ確認するようにコンソールを動かし、自分の愛機を操っていく。先ず、姿勢を整え、膝を曲げて跳躍の態勢。そこからバーニアを一気にフルスロットルさせて、脚部のジャンプ力と一緒に推力を働かせて空高く飛び立った。

 ちら、と横目でバーニアの制限を表すブーストゲージを見れば、流石に高ランクなMSだからか大分余裕があるように見える。この分ならあえて空中戦を挑んでも不利にはならないだろう。

 バーニアを傾けさせ、推力で一気に空中を駆け抜ける。すると当然敵機との距離も近づき、互いの射程圏内へと入ることになる。

 ハイモックが手持ちのビームライフルを構え、機械的な正確さで照準を定める。クロノの目の前に被ロックオン警告が見え、警告音がなり始めた。

 

(だが)

 

 クロノは慌てない。むしろ確信を持ったように迷わず、機体を直進させて敵に近づき続けた。

 いくらCPUの放つ弾丸といえど、近づけば近づくほど命中率も威力も上がる。限界まで近づけばそれこそ一発食らっただけで戦闘不能になってしまうのだが、それでもクロノは進み続ける。そして、CPUの思考がその無謀を咎めることはない。むしろ命中率が上がったことを計算して、近接攻撃よりも効果の高いビームを遠慮無く撃ち出した。

 

「来たか!」

 

 その全てが、ビームの弾速でさえ、クロノの予想通りだ。だから、クロノは敵がトリガーを引く前に機体の上体をねじり、まるで戦闘機がロールを行うように動かした。真っ直ぐコックピットを狙って突き進んでいたビームが、虚しく空を切る。

 ハイモックからしてみれば、愚直に突き進んできたはずの敵がいきなり視界から姿を消したように見える。CPUの思考は索敵に移行し、空中で止まりながら頭部を左右にきょろきょろ動かし、赤い単眼で攻撃目標を捜索した。

 しかし、それは当然、遅きに失した。真下から発射されたピンク色のビームが、ハイモックの図体を一直線に貫き、爆発させたのだ。

 

「上手いじゃん、クロノ」

「まあ、当然さ」

 

 撃ったのは勿論、量産型νだった。ロールすると同時に最大戦速でハイモックの真下に飛び込み、すれ違いざまのビームライフルで撃破したのだ。

 初心者らしからぬ動きだが、これはクロノの豊富な戦闘経験の面目躍如といったところである。相手がCPUで単純な行動しか取らないという見切り、動かしながら機体の限界性能を確認する周到さ、そして元来高い射撃への習熟。それらが重なって、曲芸地味た撃破が可能になったのだが――決して、それだけではない。

 クロノの身体に染み付いた戦闘法は、本来極めて合理的なものだ。それで考えるなら、態々近寄るという危険を犯して撃破するより遠距離から狙撃して撃破したほうが効率が良いし危険度も少ない。ハイモックの持つビームライフルの射程には限界があるし、その外から撃てるニュー・ハイパー・バズーカを持っているのだから。

 しかし今、クロノはあえてそれをせず、接近しての射撃に拘った。何故か。

 それはただ、そうしたかったからだ。自分の量産型νに、そういう動きをさせたかったからだ。

 

「そろそろ次が来るよ。用意はいい?」

「いつでも!」

 

 と、宣言した途端にまたアラート。見れば、クロノが着地した丘の下から複数のハイモックが迫り来る。今度はバーニアで空を飛ばずに、地面を歩いて近づく機影は三機。武装は両端の機体がバズーカで、中央の機体はマシンガンの二挺持ちだ。

 

「それなら……こうだ!」

 

 クロノは再び量産型νをジャンプさせる。今度はバーニアの出力を絞り、あくまで最初の勢いに任せたまま、敵の上を取って狙いを付ける。

 勿論ハイモックもそのロックオンを感知し、まずは対空能力の高いマシンガンを持つ中央の機体が射撃体勢に入った。

 

(凄い……僕の作ったガンプラが、僕の思い通りに動く……!)

 

 またも量産型νのビームライフルが先に放たれ、今度は脳天から敵機を貫く。爆風が巻き起こるが、クロノはそれを恐れずスラスターを切り、重力の働くままに機体を降下させた。

 当然、左右に残っているハイモックはその着地の隙を狙うためバズーカを向けるが。そこで深刻な事態が起こり、二機とも引き金を引く事なくその場で停止した。撃てば、確かに敵を仕留められるが、爆風でその機影は見えず必中は期せられない。そして回避されたら、まず間違いなく対角線上の味方を撃墜する同士討ちになってしまうのだ。

 それこそ、クロノの狙いであった。

 

「落ちろっ!」

 

 両手を左右に広げ、まずは右手に持つビームライフルで片方を撃破。その後、両腕にある固定兵装のビーム・スプレーガンを使い、もう片方のハイモックも打ち倒した。

 

「やるなぁ……」

 

 その情景を、ケルディムの狙撃用高感度センサーやカメラアイでつぶさに見ていたユーノは、ただ感嘆するばかりだった。しかしだからこそあることに気づき、急いで機体の一部を分離する。

 

(……いいな)

 

 一方、クロノは自分が今行った操作と、それによる機体の一連の動き、そしてそこから産み出された“かっこよさ"に感動していた。極端な表現をするなら、酔いしれていた、と言ってもいい。

 クロノが戦いを行う時、そんな自分をかっこいいだなんて思うことは毛頭なかった。当たり前だ。模擬戦ならともかく、実戦では下手をすると自分の命まで失いかねないし、更には共に戦う仲間のこと、自分の後ろにある守るべき人のことまで考えなければならない。そういう極限の状況下において、自分のかっこよさなんて気にしている暇はないのだ。

 だけど、今動かしているガンプラの、かっこよさといえばどうだろう。敵のビームを紙一重で交して撃破し、その次は先手先手を取って翻弄する。クロノとしては自分の今まで培ってきた空中での戦術機動や、射撃の技量をガンプラに反映させているだけでしかないが。それがどうにもかっこよく、見えてくるのだ。

 

(……凄い……やっぱり、かっこいいな、ガンダムは……)

 

 しかし、そういう臭い感情や、目を瞑ってまで感慨にふけることは、戦闘者としてのクロノの感覚をやはり鈍らせてしまう。

 操作されずに両手を広げた射撃ポーズのまま止まっている量産型νの左で、倒れているハイモックはしかし、まだ生きていた。ビーム・スプレーガンの低出力は、ハイモックの正面装甲を貫くまでには及ばなかったのである。

 とはいえビームの直撃は、AIに気絶判定を出させるには十分な威力だった。しかし、止めを刺されていないので、すぐに復活し、バズーカを構える。そして今度こそ敵を破壊しようと引き金を引いた、その直後。

 

 緑色の小さい板のようなパーツが二者の間に飛び込み、バズーカの弾頭を防いだ。

 

「っ!?」

 

 流石にクロノも気付き、慌てて機体を横へ向かせ、改めてビームライフルで撃墜しようとしたのだが。その前に、収束率の高いビームが遠方から迫り来て、ハイモックの頭部を貫いた。

 

「ふぅ……危なかった」

 

 放ったのはユーノのケルディムガンダムである。倒したはずのハイモックがまだ生きていたことにいち早く気づき、シールドビットを射出してフォロー。それと同時にGNスナイパーライフルⅡで遠距離狙撃を試みたのだ。結果として頭部に直撃し、撃破時の爆風で僚機の量産型νを転倒させないことにも成功した。

 その端緒が少々間抜けとはいえ、完璧な支援行動であった。それを事も無げに成し遂げて、しかもその後ミスをした張本人をからかう余裕を見せるのだから、ユーノ・スクライアの肝は太い。

 

「全く。クロノらしくないなぁ、止めを刺し忘れるなんて……ぷ、くく」

「っ……!」

 

 折角かっこ良く決めたのに。本来はクロノ自身のミスが原因なので何も言えないが、それでもユーノに向かって言い返す顔は、赤い怒り顔であった。

 

「た、たまたま装甲に弾かれただけだ! 本当ならあれで倒れてたんだぞ!」

「だとしてさぁ、本当に撃破したか確認し忘れるってのは無いでしょ。それなのにぱしーっとポーズ決めちゃってさ」

「っ……ぅぅぅ」

 

 思わずケルディムの方へビームライフルを向けそうになったが、さすがに踏みとどまる。どんなにからかわれようが、危ない所を助けてもらったのは確かなのだ。

 それに。

 

「あははは……まぁ、無事でよかったよ」

 

 そういう軽口は本気ではなく、こうしてぼそっと出す一言こそユーノの本心だと、クロノには分かっていた。

 どうやらさっきまでの二波で一段落らしく、次の敵はやってこない。クロノは無傷の機体を動かして再びケルディムの側へと向かった。

 

「じゃあ、今度は二人同時に戦ってみようか。敵の数も増やして難度も上げるけど、いいかい?」

「あぁ。後衛は任せるよ」

「こちらこそ、しっかり敵を引きつけてね」

 

 一旦コンソールから手を離して、ユーノが弄くるのはシミュレーションモードの設定だ。ヤジマ商事のバトルシステムには、初心者から上級者まで幅広く訓練できるように様々な難度、様々な状況を想定したシミュレーションプログラムが組まれている。今まではB~Cの難易度だったが、ここからは集団戦を想定した大規模なモック軍団が、高難易度のAIによって動くことになる。

 だが、クロノも、そしてユーノも心配していない。初心者とはいえ、これだけ動けるならば。あれだけのフォローをしてくれるのならば。

 たかが無人機の集団なんてどうということはない。そう、確信していた。

 

「どうした、ユーノ? 早く始めないのか?」

 

 だから、クロノが気の急いているようなことを言うのもごく当然だったが。

 

「ユーノ? ……おい、ユーノ」

 

 ユーノの手は、後はいざ開始ボタンを押すのみ、と言った所でピタリと止まっていた。その顔は、目の前で起こっていることが信じられない、という驚愕に満ちている。

 

「ど、どうした?」

「分からない……システムへの外部介入が拒否されてるんだ」

「故障か?」

「かもしれないけど……念のため、バトルを終了させよう!」

 

 尋常ではない驚きように、クロノも落ち着きを取り戻して首肯する。しかし、同時にその表情を少しだけ、おかしいとも思った。ただトラブルが起こっただけなら、偶然起こった故障だとも解釈できるはずなのに。

 どうしてユーノは、悪い予感が当たったような顔をしているんだ?

 そんなことを考えながらも、二人同時にコンソールを操作し、バトル状態からの解除ボタンを押したが――しかし、バトルは終了しなかった。

 それどころか、バトルルールまで勝手に書き換えられていく。ダメージレベルがCからBへと上がり、モードもシミュレーションから人と人とが戦うバーサスモードへと切り替わった。

 

「そんな!」

「ユーノ、そんなに驚くな。ただの故障さ。ホテルの従業員に連絡を」

「いや、ただの故障じゃない……これは多分、事前に仕組まれていたことなんだ」

 

 焦りに、後悔も含んだ表情でユーノは断言する。

 

「どうしてそう断言できる!」

「だって、ここははやてに紹介してもら……」

 

「なんだと?」

 

 ユーノの背筋に電流が流れ、ぎくり、と驚き恐れる。それくらい、クロノの声は重かった。

 

「ユーノ、まさかとは思ったが、はやての仕込みだったのか……信じていたのに……」

「ち、違うよ! 僕も騙されたんだって!」

 

 地の底から響くような恨み節を発するクロノに。ユーノは慌てて弁解した。

 実際この事態において、ユーノは何らの責任も持っていない。クロノがガンプラを始めた、とはやてに伝えたら、あくまで練習用の『穴場』としてこの場所を教えられただけなのだ。但し

 

――そこ以外の何処にも、行かせたらあかんよ?

 

 とも言われたが。それにだって、全国的な連休での大混雑からクロノを逃がし。更には実戦で、いきなりなのはたちと戦わせる事を避けるという、最もと言えば最もな理由がきちんとあるのだ。

 

「大体、僕が噛んでいたとするよ? だったらどうして僕一人、君と一緒にトラブルへ巻き込まれなくちゃならないのさ!」

「……それも、そうだが……ん?」

 

 ユーノの言い分に一応は納得したクロノだが、そのことからまた別の疑問にぶち当たっていた。

 

「どうしたの?」

「バーサスモードということは誰かと戦わなきゃいけないんだろう? それは君じゃないのか?」

 

 このバトルシステムには今、クロノとユーノの二人しかいない。ならばクロノが言うとおり、バトルするべきはクロノの量産型νガンダムと、ユーノのケルディムガンダムということになろう。しかし、クロノのレーダーはケルディムを未だに友軍機だと示しているし。ユーノも同様だ。同士討ちをしようとしても、アラートがなってしまうだけ。

 

「言われてみると……本当に故障なのかな? あ、いや、待って!」

 

 疑惑を肯定し、ようやく操縦場所から離れ助けを呼ぼうとしたユーノ。しかし、フィールドのある一点できらきらと集う粒子を見て、慌ててコンソールを握り直した。

 

「どうした!」

「あの粒子……おかしい、あの集まり方は、何かを具現化するときの物だ!」

「なんだって!? じゃあ、やはり無人機が相手なのか!?」

「そんな、バーサスモードなのに……!?」

 

 プラフスキーの輝きは、二人の立つすぐ側の地面へ積り重なるように集まり。それは段々と凝縮され、一つの虚像を創りだした。クロノの量産型νガンダムとほぼ同じ体躯。しかも全く同型のライフルやシールド、バズーカまで手に持っていた。

 そして、靄の掛かった虚像に色が付き、次第に実像へと変わりゆく。

 その色は、白と黒。右肩やシールドに記されたのは、赤いユニコーンのマーク。

 

(まさか)

 

 その機体に、クロノは見覚えがあった。それどころか、つい昨日の夜モニタの中で目にしたその勇姿を脳裏にはっきりと焼き付かせている。

 

 RX-93νガンダム。クロノが操っているRX-94量産型νガンダムの、原型となった機体だ。

 

「どうしてハイモック以外の機体が……データがあるのか? それとも……」

 

 その威容、いや、異様とも言うべきか。それを見て訳が分からなくなるユーノだったが、謎の機体はその戸惑いを見逃してはくれなかった。

 

「ユーノ、避けろっ!」

 

 言葉と同時にクロノが機体を飛ばす。慌ててユーノもすぐに機体を動かした、その一瞬後に大出力のビームが空を切った。いきなりの先制攻撃。突然現れた機体は、明らかにクロノとユーノへ敵意を向けている。

 

『……ワタシ、ハ』

 

 本来、バトル中のインフォメーションにのみ使われるバトルシステムのスピーカーが、ノイズ混じりの耳障りな声を流し始めた。ボイスチェンジャーで変換されているようで、その声が男か女かすら判別できない。ただ、その言葉に応じてνガンダムが銃を下ろした所を見ると、何らかの関係はあるらしい。

 

『ワタシハ、ホワイトデビル……』

 

 その呼び名へ、真っ先に反応したのはユーノだった。

 

「白い悪魔!?」

「なに、知っているのか?」

「一年戦争時のアムロ・レイの異名……というより、ガンダムの異名かな? 他にも白い流星って呼び名があるけど、言い回しとしてはこっちの方が有名になってる」

「じゃあ、アレは本物の……!?」

「そんなわけないだろ!? でも、じゃあ一体誰が……」

 

 二人の言い争いに構わず、νガンダムは再びライフルとバズーカを掲げ、二人に狙いを付ける。

 

『オシエテアゲヨウ……』

 

 その声は、おどろおどろしく、そして明確な攻撃の意思を二人に伝えた。

 

『ホントウノ、ガンプラト、イウモノヲ』




さて、ここまで書いた所でプロットの半分程度。つまり最後まで書けば他の話の2倍近い容量になるということで……
シュテル+レヴィちゃん=クロノくんとかこれでいいのでしょうか。書いてて楽しいことは楽しいんですが、なんというかこう、キャラ人気的に。
もっと言えば、短編にしては長すぎて、だらけちゃったりしないでしょうか……うーむ、気になる。

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