リリカルビルドファイターズ   作:凍結する人

1 / 21
久しぶりの投稿ですが、短編どころか掌編です。
それでもよろしければ御覧ください。


シュテるんビルド
ようこそ、イオリ模型店


その日、イオリ模型店は珍しく閑散としていた。店番を任されていたセイも、あまりに客が来ないので、自分のガンプラを弄り回しながら暇を持て余していた。

 世界大会出場と優勝の効果で、ここ一年はひっきりなしにお客が来て、セイもリン子だけでなく、たまにひょっこりと異世界からやってくるレイジとアイラ、おまけに応援で来てくれたラルさんまで、馬車馬の如く働かなければならなかった。

 しかし今日は、何故だかそれがピタリと止まってしまったようだ。ブームというのはあくまで一過性ということなのだろうか、それとも他に何か理由があるのか。

 とにかく、忙しくないというのはいいことだ。模型店という場所で、ガンプラの箱に囲まれながら、ガンプラを作る事が出来る。ガンプラビルダーとして、これほど理想的な環境はそうそうないだろう。

 鼻歌を歌いながら、箱を開き、いざニッパーを手にして取り掛かろうとするその時。自動ドアの開く音がした。カウンターに向かって後ろ側を向いていたので、振り向きながらいらっしゃいませ、と声をかけてみる。

 入ってきたのは茶色い髪を短くまとめた女の子。セイよりも少し幼そうで、何かクールな雰囲気を漂わせていた。セイの見慣れていないお客である。

 女の子はしばらく、様々なコーナーを行き来していた。そして、色々なスケールのガンプラや工具、塗料などを手にとってはしげしげと見つめて、元へ戻すことを繰り返していた。

 カウンターから見ているセイは、その女の子が戸惑っていることに気づいた。まるで、テストの問題の選択肢から、どれを選べばいいか迷っているようにも見える。

 店全体を見回し、他のお客がいないことを確認して。これから暫く、新しいお客は来ないだろうなと踏んだセイは、カウンターから出て、女の子の元へと向かった。

 

「えーと……君、大丈夫?」

「いえ、お構いなく」

 

 声を掛けられた女の子は、逃げたりすることはなく、落ち着いてセイの方に振り向いて、丁寧な物腰で応じた。

 お構いなく、と言われたセイだが、だからと言って避けられているわけではないらしい。そう分かると、めげずに話を続けようとすることにした。

 

「もしかして、お使いで来たのかな? それで、何を買えばいいか分からないとか。良ければ、案内するけど」

「いえ、そうではありません。ここに来たのは、私自身の買い物のためです」

「じゃあ、君、ガンプラを作るんだね!」

「ガンプラ……はい、私は、自分の作るガンプラを選びに、ここまで来たのです」

 

 女の子がそう言った時、セイの胸は嬉しさでいっぱいになった。ガンプラの楽しさ、素晴らしさを感じて、一人の人間がビルダーへの道を踏みだそうとしている。そういう時、ビルダーという人種は喜びの余り、ガンプラの魅力を熱く語り、先達として初心者を導きたくなるものだ。

 そして今、女の子は迷っている。恐らく、ガンプラの種類の多さに戸惑い、自分がどのガンプラを作ればいいのか分からなくなっているのだろう。なら、セイのやることは一つしか無い。

 

「そうなんだ! じゃあ、もしかして、どのガンプラを選んでいいか分からないんじゃないかな?」

「その通りです。私は初めて、この手でガンプラというものに触れたのですが……これほど多種多様なものとは、予想外でした」

「うんうん、ガンプラって、凄い数があるから……作品とか、スケールとか、バージョン違いとか……迷うのだって当たり前だよ!」

 

 いざガンプラを始めよう、という人ほど、まずはその豊富さに驚くものだ。何しろ、今や30年以上の歴史を誇り、今なお毎月十数種類が新たにリリースされるのだから。

 だからセイにとって、こうして目が眩むように戸惑う人を見るのは初めてではなかった。事実、セイの大切なガールフレンドであるコウサカ・チナだって、仲良くなるきっかけはガンプラの紹介だったのだから。

 

「もし良かったら、君の作るガンプラ探し、僕に手伝わせてよ!」

「……ありがとうございます。ですが、本当にいいのですか?」

「いいのいいの! しばらく君以外のお客さんは来ないみたいだし、もし来ても、もうすぐレイジが帰ってくるし……それに」

「それに?」

「楽しみなんだ。君が、どんなガンプラを選んでくれるのか。どんな機体を気に入って、どういう風に作るのか。それを見てみたいんだ!」

 

 女の子はそれを聞いて、それから、セイの瞳が星空のようにキラキラ光っているのを見て、彼と同じように青い髪をした自分の同胞を思い出し、苦笑しながらも少し明るくなって答えを返した。

 

「ええ、お願いします。そこまで情熱のある目をしている貴方……ガンプラに対して、熱くなれる貴方となら、良きガンプラ選びが出来そうですから」

「え……あ、ははは、ちょっと熱くなりすぎてたかな、ごめん……迷惑だった?」

 

 笑われながら指摘されて、慌てて照れながら謝るセイに対し、気にしないでください、と女の子――シュテル・ザ・デストラクターは言った。

 

 紫天の書の「理」のマテリアルとして生まれ、砕け得ぬ闇を得るため、世に混沌と破壊をもたらす――はずが、何故か地球で平穏に暮らしているシュテル。そんな彼女がどうしてガンプラを始めようとしたかといえば、ガンプラバトルの映像をちらりと見た、それだけが理由である。

 確かに平和な暮らしは素晴らしく、同胞のレヴィや王のディアーチェ、盟主のユーリ、そして自らのオリジナル、高町なのはら現地住民と共に暮らす日常は何者にも代えがたい。

 しかし、戦いこそがマテリアルの、ひいてはシュテルの本質である。なのはたちとの模擬戦もたまには行うが、それだけでは到底満たされない戦闘への情熱が、シュテルの心を炙っていた。

 つまり、シュテルは戦闘への欲求不満だったのである。そこに、ガンプラバトルの激しく、熱い映像を見つけて、ガンプラこそ欲求の行き先として適当であると判断したのだ。

 また、手先が器用で工作好きなシュテルの気性にも、ガンプラはピタリと合致した。自由にカスタマイズ出来て、完成度を追求することが出来る模型。シュテルにはこれ以上ない、興味の対象であった。

 

 そこへ、ガンプラへの情熱に満ちたセイが現れたのである。シュテルにとって、正に渡りに船であった。

 

「それでは、お願いします。私のことはシュテル、と呼んでください」

「うん、よろしく、シュテル! 僕はイオリ・セイって言うんだ。セイって呼んで」

「はい、セイ……ガンプラの先輩として、色々聞かせて頂きます」

「任せてよ! それじゃあ、まずガンプラの種類から……」

 

 シュテルは知らない。このイオリ・セイという少年が、ガンプラバトル世界大会の出場者であることを。

 そして、彼と、彼の友人達と共に入っていくガンプラの世界が、シュテルが予想する以上に奥深く、楽しいものであることを……。

 

 

 

 

 




どこかでシュテルがガンプラ作ってる=シュテルンビルトというネタを見て作りました。
続くかどうかはわかりません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。